白兎千恋   作:鶏むね三太郎

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第9話

 ダンジョンに潜ってから二日経ち、三度目の昼を迎えた。

 明日はゴライアスの攻略が控えているため、今日の訓練は早めに撤収してしっかり休むようにと教師達からのお達しがあった。

 そのため既に18階層のキャンプへ戻ってきており、各々が自由に時間を過ごしている。

 あるドワーフは武具の手入れを入念に、とある小人族(パルゥム)黒妖精(ダークエルフ)の少女と談笑に興じている。そして、とあるハーフエルフはと言うと──

 

 「ラピ君! 雲菓子(ハニークラウド)って食べたことある? ダンジョンで取れる食べ物なんだよね! よかったら一緒に探さない?」

 

 イラッ

 

 「ねえねえラピ君! あっちに面白い形の水晶(クリスタル)があったよ!」

 

 イライラッ

 

 「ラピ君ラピ君!」

 

 イライライライラッ

 

 あのニイナとかいう少女、偽装した犬人(シアンスロープ)なんじゃないかというくらいベルにくっついて見えない尻尾を振り回している。

 そしてベルもずっと彼女に構い続けるのでますます少女は嬉しそうに目を輝かせる。

 

 正直面白くない。

 この二日間挨拶以外でベルと話せていないレフィーヤは、ベルと平常心で話せるようになると決意したのも束の間、横から攫われた気分だった。

 ただ冷静になって考えると、自分が頻繁に生徒(ベル)と一緒にいたとしたら酷く目立ったであろう。それこそ今の彼女(ニイナ)よりも。

 

 『ニイナってさ、もしかして──』

 『えっ、そうだよね! あんな顔初めて見たもん!』

 

 という声が聞こえる始末。

 

 変に誤解を生むわけにもいかないレフィーヤに打てる手は無く、結局夕方になってベルが解放されるまでレフィーヤは眺めているしかなかった。

 

 「おかえりなさい、随分と楽しそうでしたねぇラピ君(……)?」

 「な、なんか怒ってますか······?」

 「別に······怒ってないです」

 「で、でも」

 「怒ってないです」

 「······はい」

 

 帰ってきて早々、不機嫌なレフィーヤに絡まれたベルはそのまま通り過ぎるわけにもいかず途方に暮れている。レフィーヤ自身も理不尽を押し付けている自覚はあるので罪悪感にも苛まれながら口を噤む。

 しばらく沈黙が続くと、レフィーヤが遠慮がちに切り出す。

 

 「あなたは······あのニイナとかいう子をどう思ってるんですか」

 「ど、どうしてニイナのことを······?」

 「······別に、少し気になっただけです」

 「うーん、ニイナは今は目標を見つけられて頑張ってるんですけど、ずっと抱えてる悩みがあって······ずっと悩んで苦しんできたから、僕はニイナにもっと笑ってほしいんです。笑って、前向きでいてほしい」

 

 前髪の隙間から見えるベルの瞳は優しく、遠くの彼女を見つめている。愛する者へ向けているようなセリフを並べる彼の表情は穏やかで、まるで家族──妹に向けるような慈しみを帯びていた。

 初めて見る彼の表情(かお)、知らないはずなのに······知っている。知らないわたしを見つめていて、締め付けるように胸が苦しくなる。

 

 「あなたは、優しい人ですね」

 「そう······でしょうか······」

 

 彼は優しい。優しくて残酷なのかもしれない。きっとあの少女が望んでいるのはそんな優しさじゃない。わかっていて尚、それでも(ベル)は優しいのだ。だから、

 

 (いや······違うっ。私はこんなこと······)

 

 (ひび)割れた殻はもう戻らない。

 

________________________

 

 

 

 ゴライアス討伐戦当日。

 決められた時刻に目が覚め、いつも通りに支度を終える。冒険者としての習慣が怠惰に溺れることを許さない。

 

 朝食を済ませた教師を含める全員が本営前に集合していた。

 

 「これからゴライアス討伐に向かう。敵は強大だが、俺たちなら倒せる! 力を示して勝利を掴め!」

 

 ルークの鼓舞を受けて『うおおおおっ!!』と奮い立つ生徒たちの表情は冒険者と遜色ない意思を宿している。

 直前まで緊張していた者も既に覚悟が据わっていた。

 

 指揮官とは指揮の能力や常に冷静であることが重要だが、付随して求められるのは先導する力。強き意志を示さない者の後には誰も続かない。ルークにはその力があった。

 

 (もう立派に指揮官ですね)

 

 レフィーヤには無い旗頭の才能を素直に賞賛する。

 そしてレフィーヤも、誰も死なせることのないように彼らの冒険の一助となるべく杖を構える。

 

 「ゴライアスは既に復活している。俺たちが17階層に突入すれば直ぐにモンスターを呼び寄せるだろう。一班と二班は雑兵を片付けろ。間違っても孤立はするなよ。残りは作戦通りゴライアスの相手だ」

 

 連絡路前に到着し、最終確認を済ませたルークは長剣を掲げ、

 

 「突撃!」

 

 号令をかける。

 17階層への連絡路を一気に駆け上がると巨人(ゴライアス)は全てを阻む門番の如く鎮座していた。

 

 ルーク達に気が付いたゴライアスは敵を正面に捉え、雄叫びをあげる。

 

 『ォォオオオオオオッ!!』

 

 それは柔い覚悟を一鳴りで砕く覇者の咆声。しかし、彼らは立ち止まらない。神に見初められた彼らを打ち砕くには足りない。

 

 「前衛(ウォール)展開しろ! 正面から受け止めずに力を受け流せ!」

 

 ルークは前衛に出ず、指揮に徹する。ゴライアスの皮膚は硬く、物理攻撃は通りにくい。だからまずは魔法である程度ダメージを与える作戦だ。

 

 「来るぞ! 魔道士詠唱始め!」

 

 ゴライアスは右手を振りかぶり、手前の大盾を構える障害物に向けて振り下ろす。

 

 「おっも······っ!!」

 「ぐぬぅっ!」

 

 ルークの指示通り横に逸れるように拳を受け流す。結果、ゴライアスは体勢を崩し即座に起き上がれない。

 

 「撃てっ!!」

 

 雷、炎、風の三種の魔法がゴライアスに直撃し、その身を切り裂き、焦がしていく。煩わしそうに腕を振るう巨人は明らかに魔法を嫌がっている。

 

 「踏みつけくるぞ! 分断されるな!」

 

 ゴライアスはその巨大さ故に予備動作が大きい、そのため次の動きが予想しやすく対応しやすい。

 

 「前衛は二陣と交代、下がって回復を受けろ!」

 

 ルークの指示に従い大盾を持った数人が列を入れ替える。

 しかし、その入れ替えの隙をゴライアスは見逃さなかった。足を踏み込んだ勢いのまま両腕を振り下ろす。

 

 「······っ!?」

 

 踏みつけによる砂煙で視認が遅れたルークは慌てて指示を飛ばすが、前衛はまだ煙に阻まれゴライアスの攻撃に気付けない。

 

 「避けろぉぉぉぉっ!!」

 

 詠唱を終えたまま待機させていたナノの魔法でも今からでは間に合わない。アレを止めるのは不可能だと、ルークの直感がそう判断を下していた。だが、その両腕が振り下ろされることは無かった。

 

 「【燃え尽きろ、外法の業】」

 

 どこかから炎雷が放たれゴライアスの顔に直撃する。その威力にゴライアスは勢いを殺され、停止に追い込まれる。

 

 予期せぬ援護に驚きながらも、直ぐに思考を切り替え停止状態の好機を逃さない。

 

 「ナノ!やれぇっ!!」

 「【ザルガ・アマルダ】!!」

 

 一条の大雷がゴライアスに迫り、左肩を大きく抉り抜く。

 

 『ウオオオオオオオッ!!!』

 

 致命──にはならなくとも明確にダメージを与えられたゴライアスは激昂し、再び大きく叫ぶ。

 その叫びに引き寄せられ、新たにモンスターがこちらへ向かってくる。しかしモンスターを相手取っていた二つのパーティには確かな疲労を抱えていた。

 

 「ミリー、新手が来る。一班と二班が回復する時間を稼げ!」

 「っ! わかりました、レギ、あなたも手伝いなさい!」

 「······片方は私の魔法で抑える。もう片方はそっちでやって」

 

 レギはモンスターが来るであろう位置(ポイント)へ移動し、地面に手を押し当てる。

 

 「【ダーク・マイン】!」

 「弓構え!」

 

 広間の中心にいるゴライアスを避けてモンスターは二手に別れる。そして横を通り過ぎると──

 

 「【黒爆(どーん)】!」

 「撃てっ!」

 

 レギの魔法も数体のモンスターを倒すに留まるが、足止めには成功する。反対側でもミリーの合図で放たれた矢は的確にモンスターを捉える。時間稼ぎとしては十分な戦果だった。

 ここで回復を済ませた二班が復帰する。

 

 

 

 ここまでの戦況を見守っていたレフィーヤは少し危なげながらもこのままいけば倒せるだろうと判断していた。危険があってもその時は(ベル)が手を出すだろう。

 

 しかし、それでも頭から離れない懸念。迷宮(ダンジョン)は狡猾だ。どれだけ対策を重ねたとしても絶対というのはありえない。

 

 そんな時だった。不意にゴライアスが腕を振り上げた瞬間、そばにいたライガーファングがその手に掬われ投げ飛ばされる。

 飛んでいく方向は当然こちら側、前衛も中衛も飛び越えて後ろに並ぶ魔道士たち目掛けて飛んでくる。

 

 「【解き放つ一条の光、聖木の弓幹。汝、弓の名手なり。狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢 アルクス・レイ】!!」

 

 即座に高速詠唱を敢行し、目前に迫るライガーファングへ撃ち放つ。思いもよらぬ事態に後衛の魔道士は戦き、紙一重で防いだレフィーヤ、そしてベルの意識すらそちらに向かざるを得なかった。

 

 

 

 邪魔者の意識を逸らすことに成功したゴライアスの放った一際大きい咆哮(ハウル)は、防御に専念していた生徒たちを無慈悲に打ち上げていた。




バトル難しいけど、楽しいですね
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