白兎千恋   作:鶏むね三太郎

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第10話

 打ち上げられる生徒たち。振りかぶるゴライアス。──誰もが見ているしかない絶望的な状況。

 

 しかし、その中でも動きを止めない人物がいた。

 【英雄願望(アルゴノゥト)】発動。右足へ数秒間の畜力(チャージ)により地面を爆砕して飛び上がり、その勢いのまま生徒たちを突き飛ばす。Lv5の身ならば致命傷にはならないと判断したベルは腕を交差(クロス)させ、防御の姿勢を取る。そこへ、

 

 「【追奏解放(カノン)】ッ、【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

 ベルによって射線の開いたレフィーヤが、極寒の吹雪を放ちゴライアスを凍結させる。

 

 庇ったベルが地上に降り立つ頃にはニイナが詠唱を終わらせ回復魔法を行使していた。

 

 そしてハンマーと大剣を持ったドワーフと小人族(パルゥム)の渾身の一撃がゴライアスの体を大きくよろめかせる。

 

 黒妖精(ダークエルフ)、エルフ、狼人(ウェアウルフ)達も迷わず自身のすべきことを見極め動いていた。

 Lv3の少女は歌を紡ぎ、少年は剣を手に前進する。

 

 冒険に身を投じた者にのみ許された決断と実行。絶望に身を委ねる道理は無かった。

 

 「はああっ!!」

 

 最前線に飛び出したルークは速度を落とさず一閃。銀の煌めきはゴライアスの左足を斬断する。

 モンスターと言えども人型であるゴライアスには人間と共通する点もある。筋肉を断てば力が入らないのは道理だ。

 

 「「うりゃあああ!!」」

 

 倒れまいと凍った腕を無理やり動かし支える。四つん這いになり、顔が地面に近付いたタイミングを見計らい、ゴライアスの顔面をクリスとイグリンが下からかち上げる。

 

 「【ザルガ・アマルダ】ァァァッ!!」

 

 無防備になった胸部へ激しい雷鳴と共に特大の雷が直撃し、黒く炭化させた。

 

 「うおおおおおおおおっ!!」

 

 そして、長剣を上段に構えたルークがゴライアスの胸部へ全力で振り下ろす。ナノの魔法によって脆くなった皮膚にはルークの渾身を受け止めることなどできず、魔石ごと切り裂かれた。

 魔石を破壊されたゴライアスの巨体が灰と化し、崩れ去る。

 

 一瞬の硬直の後、思い出したように再起動して、

 

 「ちょっ、固まってないでこっち手伝ってくださいまし! まだモンスターが残ってますのよ!」

 

 ミリーの必死な叫びで生徒たちも残ったモンスターの掃討に取り掛かる。

 今度こそ全てのモンスターを殲滅した生徒たちは一斉に喝采をあげた。

 

 「よっしゃああああ!!」

 「やった······やったあああ!!」

 

 思い思いに喜ぶ生徒たち、冒険者であれば油断するなここは迷宮(ダンジョン)だ。と諌めるところなのだろう。ここの意識が冒険者とそうでない者との違いだ。それでも一部の生徒たちは感情に身を任せず警戒を手放さない。

 

 「嬉しいのはわかるが油断するな! これから18階層のキャンプへ帰還する、喜ぶのはそれからにしておけ!」

 

 そんな中でもルークは指揮官だった。空気が弛緩しきる前に号令をかけて隊列を直す。生徒たちも指示に従い、喜びもそこそこに18階層へ戻っていく。

 

 

 「今日もこのまま18階層に滞在し、明日地上へ向けて出発する。幸い、重体者はいないが負傷者は念の為安静にするように。今日は見張りも先生が代わってくれるそうだ、みんなも早めに休んでくれ」

 

 解散した後本営のテントに入っていくルーク。レフィーヤもその後に続くように中に入ると、小さくガッツポーズをするルークと目が合った。

 

 「あっ······、すみません、出直してきましょうか」

 「い、いや、問題ない······です 」

 

 少しきまりが悪そうにしたルークだったが、一つ咳払いをしてレフィーヤに向き直る。

 

 「ルーク、お疲れ様でした。見事な指揮でしたよ」

 「ありがとうございます。でも、自分でもわかってる。今日のゴライアス戦、レフィーヤ先輩に何度も助けられてしまった。俺にはまだ足りないものが多すぎる。だからもっと······強くなりたい!」

 

 現状に満足せず、高みに目を向ける姿、そして彼のセリフが『純白の少年』と重なり思わず笑みが零れる。

 

 「なにかおかしなこと言ったかな······」

 「ふふ、いいえ、私も同じ気持ちです。もっともっと強くなる」

 

 そこに『先輩』はなく、上でも下でもない対等な笑みを受けた少年はいつかのように顔を赤らめていた。

 

 「そっ、そういえば······あいつ、何者なんだ?」

 

 『哀れな童貞野郎』は見惚れる視線を無理やり逸らし、頭の隅に追いやっていた疑問を口にする。

 戦闘中だけに考えないようにはしていたが、レフィーヤ以外にも生徒たちを陰から支えていた存在にルークは気付いていた。──というか最後に大きく飛び上がって生徒たちを庇ったことでハッキリしたというのが正しいのだが。

 

 「あぁ、ラピのことですね」

 「ラピ······港町(メレン)に到着してから学区に正式に入学した兎人(ヒュームバニー)だったはずだが、さすがに今日の姿を見て『偽りの設定』だと気付いたよ」

 「レオン先生から何も聞いていないのですか?」

 「······レフィーヤ以外にも助けてくれる者がいる、とは聞いていたがまさかあいつとは思わなかった」

 「そうですか······。彼の素性を先生が言っていないのなら私が勝手に教えるわけにもいきません。ごめんなさい」

 「あぁ、わかった······。でも、そう言うってことはレフィーヤ先輩は知ってる相手ってことか」

 「ま、まぁそうですね。詳しくは言えないですけど、悪い人じゃないですよ」

 「············」

 「······? ルーク、どうかしましたか?」

 「いや、なんでもない、です」

 

 ルークは聡い。十中八九(ベル)がオラリオの冒険者ということには察しがついているのだろう。その後の沈黙は分からないが。

 

 「とにかく、今日はお疲れ様でした。あなたもゆっくり休んでください」

 「ありがとう、ございます」

 

 テントから出た後はナノ達にも声をかけ労っておく。彼女たちが諦めずに戦ったおかげで勝てたことは間違いない事実だ。

 長居するのも申し訳ないので少し話す程度に止めて離れる。

 

 そのまましばらく周りを歩いていると、第七小隊以外で唯一動き続けた生徒たち、ベルも含めた第三小隊の五人が円を組んで座っていた。

 

 それぞれが達成感を帯びた表情で語り合っていて、ベルも嬉しそうに彼らを眺めていた。

 レフィーヤは彼らの冒険を知らない。それでも、あの時彼らがゴライアスに立ち向かった姿は目に焼き付いていた。

 心の中で賞賛を送りその場を後にする。

 

 

 きっとこの戦いは『冒険』とは言えないのかもしれない。第一級冒険者の援護がある上にその後ろにはLv7も控えていた。間違いなど起こるはずのない安全な戦闘。というのが飾らずに表した実習の実態だ。

 それでも生徒たちは慢心せずにかつてない強敵に本気で挑んだ。

 学区で学んでいる以上、彼らにはいつか本当に冒険をしなければならない時が来るだろう。だからこそ、今日の戦いは必ず彼らを支える支柱になると思う。

 己より強大なものに持ち得る全てを注ぎ込まずして勝つことは叶わない。それをその身に刻んだ彼らならきっと、折れずに立ち向かえるだろう。

 

 

 そうして彼らの実習(たたかい)は幕を下ろした。

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