翌日、地上へ戻るべく上の階層へ向かう一行の中、レフィーヤは昨夜の出来事を思い返していた。
『私は······あなたが好きです』
『こんな気持ち······初めてです。あなたといる一分一秒が愛おしい』
『だから、あなたの進む道を、私も一緒に歩ませてください』
溢れんばかりの想いを詰め込んだ告白。高まる慕情に涙が零れる。
純然たる恋心を伝え、ベルの反応を待つ。
『──レフィーヤさん、ごめんなさい』
『······っ』
拒絶、レフィーヤの気持ちには応えられないという意味の謝罪だと、レフィーヤは受け取ろうとしていた。
『今、この場でそれに答えることが······僕にはできません』
『それは······どういう······』
どういう意味か──と尋ねる前にベルは続ける。
『先に、ケジメをつけなければならない人がいるんです』
『······』
『言い訳をして、遠ざけていたそれにちゃんとケジメをつけたら、絶対にレフィーヤさんの元へ行きますから、そしたら僕の答えを聞いてくれますか?』
下手な言い訳で濁さず、その場の空気にも流されない。それが
『······わかりました、待ってます』
レフィーヤもそれを受け入れる。しかし、レフィーヤはもう待つだけのお姫様にはなれない。
『でも、あんまり遅いと私の方から行っちゃいますから、覚悟しててください』
『あはは、わかりました』
二人は目を合わすと、どちらともなく笑いが溢れる。
どんな答えが待っているのか、レフィーヤにはわからないが、きっと今の自分なら目を逸らさずに向き合える。だからこそ、何が待っていたとしても笑っていようと思うことができた。
回想もそこそこに、ようやく地上へ戻ってくる。
やはり
一方でレフィーヤはというと、ずっと抑え込んでいた感情と向き合うことで胸がすくように軽くなっていた。
「レフィーヤ先輩っ、今日ずっと嬉しそうですよねぇ、何か良いことあったんですかぁ?」
「ナ、ナノっ、私そんな顔してましたか?」
「うぅーん、顔っていうかー、雰囲気? が凄いふわふわしてたのでぇ」
ナノ以上にふわふわしている人を見たことがないので、そんな彼女にそう言われると少し複雑だが、平時のレフィーヤを知っているが故に気付けたようだったので、露骨に自分が浮かれていたわけではないことに安堵する。
「も、もしかして······ルークと関係してたりしますか······!? だっ、ダメですよぅ! ルークはダメですぅ!」
「お、落ち着いてください、ルークは関係ありませんし、その言い方だとルークがダメな人みたいじゃないですか」
「ルークはダメじゃありませんっ! とってもかっこいいんですよー!」
もう
これ以上目立たないためにもどうにかナノを落ち着かせることに注力する。
「ほらナノっ、みんなに見られていますから」
なぜ向こうから絡まれたのに相手を宥めることになってしまったのか、
「こら、ナノっ! レフィーヤ先輩を困らせるんじゃありません!」
「あぅっ!?」
スパァン! と良い音がしてナノが呻く。騒ぎに気付いたミリーリアが両手を腰に当ててナノを叱りつける。
「レフィーヤ先輩、またこの子が暴走したら構わず叩いてしまって大丈夫ですわよ」
「いや、それはちょっと······」
「ミーちゃぁん、なにするのぉ!」
頭を抑えながら不満をぶつけるが、ミリーリアはどこ吹く風と流してしまう。
「みんなを待たせてるじゃありませんの、さっさと帰りますわよ」
見ると周りの生徒たちがこちらに注目している。その中にはベルもいて、つい恥ずかしくなって顔に熱が集まっていく。ナノも同様に顔を赤面させて俯く。
待たせてしまったことを謝罪し、学区への帰路についた。
「さて、これにて実習は終了するわけだが、各自レポートを書いて提出するように。期限は一週間だ」
課題を聞いた生徒たちは一瞬ざわめきを見せるが、一週間と長い期間を設けられたことで直ぐに静まった。
そのまま生徒たちは解散し、教室を出ていく。
レフィーヤも同じように出ようとしたところで、ルークたち第七小隊のメンバーに声をかけられた。
「レフィーヤ先輩、俺たちこの後打ち上げでもしようかって話してるんだが······、よかったら先輩も来ないか?」
代表としてルークが話すが、他の三人も大きく頷いてこちらを見ている。
「すみません、レオン先生に呼ばれているので先にそちらへ行かなければならないんです」
「な、なら終わるまで待ってるからさ。今からだと時間的にも早いし、それくらいがちょうどいいだろ」
「いいんですか?」
「あぁ、もちろんだ」
わざわざ待たせるのはさすがに申し訳ない。そもそもレフィーヤは同伴したとはいえ部外者なので小隊水入らずで楽しんだ方がいいのでは、とも考えるが彼らの顔に無理をしている様子は無い。というかここまでしてもらって断る方が申し訳なくなってしまう。
「では、用事が済んだら直ぐに合流しますので、待っていていただけますか?」
「わかった、
そう言ってルークたちは教室を去っていく。レフィーヤも呼ばれた場所へ向かおうと扉へ足を向ける。その際、五人でまとまっていたグループから断りを入れて抜け出すベルの姿があった。きっと彼も同じ理由だろう。
教員室の横にある『進路相談室』という部屋へ行くと、既にレオン先生は待っていたらしく、窓の外を眺めていた。
「レオン先生、お待たせしました」
「あぁ、レフィーヤ。呼び出してすまない。だが、ラピも来るまで待ってくれないか」
「勿論です」
教室を出る時に彼の姿を見たレフィーヤはそう待つこともないだろうと思い承諾する。予想通りそれから直ぐにベルは入室してきた。
「失礼します。すみませんお待たせして······」
「来たか、ラピ」
レフィーヤもいることは分かっていたのか驚きはない。そのままレオンの正面に立つレフィーヤに並ぶ。
「二人とも、君たちのおかげで生徒たち存分に経験を積むことができた。礼を言う」
感謝と共に礼をするレオンはその所作から、正に騎士のような風格を纏う。窓からの陽光も相まって神々しさすら感じた。
「君たちはどうだろうか、この実習で何か学べることはあったかい?」
「はい、ファミリアの遠征時には無かった視点で戦況を見極めることができましたし、良い経験になりました」
「ぼ、僕も、超大型のモンスターの討伐戦とか、集団戦略で戦う機会が少なかったので、とても勉強になりました!」
二人の答えに満足げに頷くレオン。その後は報酬の話や、今後の学区の活動について軽く話し、『進路相談室』を出ていく。
教室を出る間際、レオンは付け加えるように告げた。
「この船の
「「はい、ありがとうございます」」
頭を下げつつ教室を出る。扉を閉め、姿が隠れるまで二人ともレオンから目を離すことはなかった。
「レオン先生って······本当に良い先生ですね」
「えぇ、私もあの人が先生でよかったと何度考えたかわかりません」
廊下を歩きながら他愛ない話に花を咲かせる。
しかし、その時間にも終わりが来る。校舎から出て学区と
「では、ルーク達が待っているので」
「はい、僕もニイナ達に誘われてて······それじゃあ、また······」
「はい、また会いましょう」
互いに手を振って別れる。楽しい時間の終わりに後ろ髪を引かれながらも、そのまま一緒に行く訳にもいかないので名残惜しいがここでさよならだ。
(それに······答えに来てくれるって言いましたもんね)
必ずまた会える。その約束を胸にレフィーヤは彼に背を向ける。
こうして五日間にわたる実習は幕を下ろした。