白兎千恋   作:鶏むね三太郎

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第13話

 『また、会いましょう』

 

 その言葉で別れたレフィーヤとベル。

 次に会う時はきっと大切な話をする時になる。互いにそう思っていた。レフィーヤとしてもその時を心待ちにするはずだった。

 

 しかし、そんなレフィーヤの背後少し離れた所には先程別れたばかりのベルの姿が。

 第七小隊と第三小隊。奇しくも二つのパーティが同じ酒場を打ち上げの会場に選んでしまったため、非常に気まずい状況に陥っていた。

 

 「前にレフィーヤ先輩が勧めてくれた酒場、一度来てみたかったんだ」

 (······そういえば前にご飯の美味しいお店を聞かれて教えたんでした······)

 

 レフィーヤの親切心がやぶ蛇となる形になってしまい、彼らに勧めた自分ちょっとだけ呪った。

 

 ──前にラピ君が美味しいって言ってたからここにしたんだよ!

 ──いつかラピとみんなで一緒に行こうって話してたんだよ。

 

 向こうからも似たような話し声が聞こえる。

 

 (あなたもですか······っ)

 

 私もこの偶然に驚きはしたが、それに比べてベルの焦りようが凄い。バレないように一瞬だけ目を向けてみると、顔をあちこちに動かし、口も半開きのまま。

 さすがにそこまで取り乱す理由はわからないけど、あまり気にしすぎても怪しまれてしまうので、今は第七小隊(かれら)との席に向き直る。

 

 「うわぁ、このリゾット美味しい〜!」

 「こっちも美味いな」

 

 乾杯をしてレフィーヤとミリーはアルヴの清水を、ルーク、ナノ、コールは果実水を一気に煽る。そして運ばれてくる料理に舌鼓を打つ。

 

 レフィーヤ──というよりロキ・ファミリアのお気に入りの酒場なので味に関してもお墨付きだ。店内(ホール)では若葉色の制服を身にまとった女性達が慌ただしく料理を運んでいる。

 少し前に来た時には無かった顔が多く見えるが、どうやらフレイヤ・ファミリアの満たす煤者達(アンドフリームニル)をまとめて引き入れたらしい。

 店主の女性は見た目からやることまで豪快で話を聞いたロキも笑っていた。

 

 しかし、前は薄緑色の髪をしたエルフの女性もいたはずだが、今日は見当たらない。

 

 (······あれは)

 

 働く女性の中に一人見覚えのある顔を見つけた。長い髪で片目を隠した女性。いつか街を歩いていた時に一人ポツンと立ち尽くして呪詛を吐いていた変な人(ひと)だ。

 制服を着ているので店員なのだろうが、ちょくちょく動きを止めてはどこかを恨めしげに睨みつけている。──というか視線の方向からしてどう見てもベルを睨んでいる。

 

 (ベルは、彼女と知り合いなのでしょうか······)

 

 でもベルは今変装しているし、勘違い?

 しばらくそのまま睨みつけていた女性は通りがかった薄紅色の髪の女性に頭をはたかれ怒られていた。

 

 「レフィーヤ先輩? どうかされましたの?」

 「いえ、このお店はいつも賑やかだなと思いまして」

 「たしかにっ、ご飯美味しいし店員さんみんな可愛いですもんねぇ!」

 「可愛い云々は置いといて、明らかに一般人じゃないよな」

 

 スープを口に運んでいたルークが一度スプーンを置いて言う。

 

 「歩き方からして素人じゃない。取り分け何人かはかなりできるだろ」

 

 前衛ならではの観察眼か、相手の挙動から強さを予測するルーク。

 

 「ねぇ〜、せっかくなんだからそんなこと考えてないで楽しもうよぉ」

 

 気の抜けた声に、キリッとキメていたルークも半目にしてナノを見る。

 

 「いやただの酒場なのにおかしくないか?」

 「ここはオラリオですし、そんな酒場の一つや二つあってもおかしくありませんわよ」

 

 いや、さすがにこんな酒場が他にもあってたまるか。と口から出かけた言葉を飲み込む。正直この『豊穣の女主人』について語るといろいろややこしい話になるので言わぬが吉だ。

 

 ルークもそれ以上深掘りするのは諦めて目の前の料理に向き直る。

 

 そこからは実習での思い出話や、これからの展望の話で盛り上がり、平穏に食事を終えることができた。

 

 

________________________

 

 

 

 翌日、目が覚めたレフィーヤは五日ぶりにアイズ、ティオナらと朝食を共にする。

 

 「ねぇアイズ、なんか久しぶりだよねー、レフィーヤと朝ごはん食べるの」

 「うん、最近レフィーヤ、忙しくしてたから」

 「ねえねえ、学区の子達とダンジョン行ってきたんでしょ? 楽しかった?」

 「馬鹿ティオナ、遊びに行ってたんじゃないのよ?」

 

 ティオナさんじゃないけど、この空気も久しぶりな気がする。賑やかで、暖かくて、すごく落ち着く。

 

 「レフィーヤ······ちょっと、雰囲気変わった、ね?」

 「えっ、そ、そうですか? 自分じゃわからないですけど······」

 「うん、なんだろう······、笑顔が増えたのかな······?」

 

 アイズは天然なのに鋭い──いや、天然だからこそなのか、レフィーヤの変化につぶさに反応する。

 

 「······いろいろありまして、笑っていようって決めたんです。何が待っていても、前を向いて笑おうって」

 「「············?」」

 

 レフィーヤの言葉にアイズとティオネは頭の上に?を浮かべる。

 しかし、一人だけは爛々と目を輝かせていた。

 

 「あたし、それすっごくいいと思う! あたしも昔アルゴノゥトを読んでから、どんなに辛くても笑って吹き飛ばしてやろうって思えたんだよ!」

 「は、はぁ······」

 

 自分で言い出しておきながらティオナの熱意に若干仰け反るレフィーヤ。しかしティオナの熱弁は止まらない。

 

 「やっぱり笑顔じゃなきゃ、運命の女神様も微笑んでくれないっていうセリフが好きでさぁー」

 

 (あーあ、これしばらく終わらないわよ)

 (な、なんかすみません······)

 (ティオネは、アルゴノゥト好きだよね)

 

 長々と熱弁(オタクトーク)を続けるティオナに、ティオネは呆れ、アイズはのほほんと眺めている。

 

 「アルゴノゥトって言えばさー、アルゴノゥト君最近会ってないんだよねー。今何してるんだろ?」

 「······ベル? ベル······ベルは······」

 「どっ、どうしたんですかアイズさんっ」

 

 唐突なベルへの話題振りに過剰に反応するアイズさん、まるで恋人を寝取られたような悲しげな表情。え、一体何があった?

 

 「あー、ちょっと前からベル・クラネルの話題になるとこうなるのよ。ジャガ丸くんでもあげれば治るからほっときなさい」

 

 ティオネのアイズに対する大雑把な扱いに空笑いを浮かべることしかできない。

 

 (ベル······アイズさんになにしたんですか······)

 

 「アイズもだけど、レフィーヤも結構アルゴノゥト君のこと好きだよねー」

 「それ、私も思ってたわ。事ある毎にあの子と張り合ってるしね」

 「そっ、んなこと······ない······です?」

 「いや私たちに聞かれても知らないわよ」

 

 予期せぬ流れ弾につい動揺してしまった。

 というかティオネさんにもそんなこと思われていたことに衝撃というか恥ずかしいというか······。

 

 「レフィーヤも······ベル······? ベルは······エルフキラー······?」

 「アっ、アイズさん? どうしたんですか······?」

 「でも······ベルはベートさんに······やっぱり、時代はベートさん······?」

 「アイズさんっ!? アイズさぁん!?」

 

 がぁーん、と打ちひしがれるアイズはしばらく放心していたという。

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