白兎千恋   作:鶏むね三太郎

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番外編2

 『豊穣の女主人』、僕の知る限りオラリオで一番美味しくて、人気の酒場。だからニイナやイグリンに良い店がないか聞かれた時にここを教えた。みんなにもここのご飯を食べて欲しかったから。

 でも──

 

 (こんなタイミングで来ることになるなんて······)

 

 運命の神のイタズラか、現在『豊穣の女主人』には学区の小隊(パーティ)が二つ、存在している。

 一つはベルの所属する第三小隊。もう一つは学区で『エリート小隊』と呼ばれているらしい第七小隊。そしてその第七小隊には教導者(インストラクター)として小隊に参加していたレフィーヤの姿。

 

 ついさっきいい感じにお別れしたばかりで非常に気まずい。

 

 「さぁラピ君! 乾杯しよっ」

 「う、うんっ」

 

 いけないいけない、せっかくの打ち上げなんだからちゃんと楽しまなければ、と意識を切り替える。

 

 「それでは、無事に実習を終了したことを祝して!」

 「「「「「かんぱーい!」」」」」

 

 小隊長のニイナが音頭を取り、果実水の注がれた杯を掲げて乾杯する。

 

 (久しぶりだなぁ、こういうの)

 

 冒険者は得てして騒ぐのが好きな人が多い。しかしヘスティア・ファミリアは膨大な借金を抱えていることもあり普段から酒場で楽しく······といったことはしない。

 まぁ、竈火の館(ホーム)でみんなでご飯食べるだけでも十分だから何も文句はないが。

 

 それでもやっぱりみんなが賑やかで楽しそうにしているのを見るのは楽しい。とりわけ今回の実習では、以前は逃げるしか無かったゴライアスに挑んで勝利したのだ。

 

 今もイグリンやクリスが戦闘時の己の武勇伝で盛り上がっている。ニイナも嬉しそうにそれを眺めているし、レギは黙々とご飯を食べているように見えてちょっと口角が上がっている。

 

 「そういえばみんな、これからどうするの?」

 「ん? これからって?」

 

 そろそろ落ち着いてきたところで気になっていたことを聞いてみる。

 

 「特別(ダンジョン)実習はこれで終わりってレオン先生は言ってたけど、『改修(メンテナンス)』はまだ続くんでしょ? これからは何をするのかなって······」

 「あー、先生が言ってたのは一定の単位を納めていれば一ヶ月間自由な時間が与えられるらしいよ」

 

 ニイナによると、規定の単位を取っていればその期間、届出さえ出せばダンジョンに行くも自由、オラリオを探索するも自由ということだ。

 中にはこの期間内に『派閥体験(インターン)』に行く人もいるとか。

 

 「へぇ、みんなはその間何するの?」

 「私はこれから鍛治に専念するつもりだよ。せっかくオラリオに来たんだ、椿・コルブランドの作品も見てみたいしね」

 「僕はレギとダンジョン探索でもしようかと思ってるよ! さすがに二人じゃスーパーな僕でもほんのちょびっとだけきついから他にも誘おうと思ってるけどね!」

 「ん······、中層くらいは、余裕になりたい」

 「そっか、えと、ニイナは······」

 「わ、私はね······できたらなんだけど······ヘスティア・ファミリアに派閥体験(インターン)できたらなぁ······なんて······」

 

 ニイナの言葉に空気が凍る。

 

 「ニ、ニイナ······それはつまり、ヘスティア・ファミリアに入団したいってことかい?」

 「えーいいなー、僕も派閥体験(インターン)は気になってるんだよね!」

 「アオハルー☆」

 

 若干一名おかしなことを言っているが全員共通で驚いているようだった。

 それはかく言う(ベル)も──

 

 「ヘ、ヘスティア・ファミリアに派閥体験(インターン)って······」

 「うん、それが私の今の目標だから! 受け入れてくれるかはわかんないけど何もしないよりはいいと思うの」

 

 リリも回復(ヒーラー)は欲しいって言ってたしみんな歓迎してくれそうだけど······ヘスティア・ファミリア(うち)に来てニイナがびっくりしてしまわないかが心配だった。

 特に最近は落ち着いてきたとはいえ春姫さんを狙う人攫いとか、リューさんを狙う暗殺者とかがまだいなくなったわけじゃない。師匠(マスター)達が警備している以上無いとは思うが、ニイナが狙われたりしたらエイナさんに合わせる顔がない。

 

 「イ、派閥体験(インターン)はあそこは難しいんじゃないかなぁ······」

 

 なんとか諦めさせたりできないものかと試みるが。

 

 「私じゃ······迷惑かな······?」

 

 やめてっ、そんなウルウルさせた目で見られるとこっちまで辛くなってくるから!

 

 「め、迷惑じゃ······ないと思い、ます······」

 「やったー! それじゃあ明日にでもアポ取らなきゃ!」

 

 嵌められた。

 

 こちらの罪悪感を煽って要求を呑ませやすくする戦術(テクニック)。一体どこでこんなこと覚えてきたんだろう······。ひとまずエイナさんには話を通しておこう。

 

 「それよりさ······ラピ君」

 「ん、な、なに?」

 「あの人さ、さっきからラピ君のこと睨んでる気がするんだけど······」

 「あっ······」

 

 なるべく自然に、ニイナが視線で誘導した先には今にも人を呪い殺しそうなほどの眼差しを向けるヘルンさん。

 

 「ひぇっ······」

 「ラ、ラピ君? 知り合いなの?」

 「う、うーん······、知り合いというかなんというか······」

 

 まさか変装している僕に気付いている? この変装道具認識阻害(カース)がかかってるけど、そんなに強くないって言ってたしありえない話じゃないかも······。

 

 「······いくらなんでも酷い態度だよ! 私言ってこようか!」

 

 執拗に僕を睨み続けるヘルンさんに我慢の限界とばかりにニイナが立ち上がろうとするが、慌ててニイナの手を引き座らせる。

 

 「だっ、大丈夫だから! あんま関わらないほうがいいよ!」

 

 (あれ? 今すごく失礼な言い方したかな······)

 

 止めることしか考えてなくて勢いで言っちゃったけど聞こえてたら後が怖い。

 

 「そ、そろそろ学区に戻らないと門限じゃないっ?」

 「あっ、ほんとだ急いで戻らなきゃ!」

 

 いつの間にか第七小隊の人たちもいなくなっていたし、これ以上いると更に厄介な状況になりそうだから早めに退散しよう。······うん、今日はリューさんが酒場の手伝いに来てなくてよかった。

 

 支払いを終えて外に出る。ニイナ達に続いて僕も出ようとすると、気配を消したまま僕の背後に迫っていたヘルンさんが小さく呟く。

 

 「······とうとう本物の淫獣に成り果てましたか。発情期になる前に去勢したらどうですか?」

 「しませんよ!? ていうか、これ(ウィッグ)ですし! 」

 「ふん、少し見ない間に変装してまで学生に手を出したくなりましたか」

 

 もはや傾ける耳などないとばかりにひたすら毒舌を吐くヘルン。今日に限っては怒らせるような心当たりの無いベルには戸惑いを浮かべる以外の選択肢がない。

 

 「あーヘルンはですねー、ベルが最近来てくれなかったから寂しかったんですよー」

 「へっ?」

 「ちょっ、何を言って······!」

 「もーいつもいつも店先見つめて仕事にも身が入ってないんですよー、だからたまにはお店に来てあげてくださいねーベル」

 「〜〜〜っ!」

 

 あ、やばい、これは激情(ヒートアップ)する流れだ······。

 

 「じゃあ僕もう行きますね! ご馳走様でした!」

 「あっ、待ちなさ」

 

 バタンッ、と扉を閉めて外へ出る。ヘルンさんが何か言いかけてたけどもう怖いので逃げるに如かずだ。

 

 「あっ、ラピ君、中で何か話してたみたいだけど大丈夫だった?」

 

 外へ出ると四人ともベルを待っていたようで、少しニイナに心配されてしまった。

 

 「う、うん、大丈夫! ごめん待たせて」

 「ううん、いいよ! じゃあ私たちはこっちだから」

 「あ、うん。またね」

 

 帰っていくみんなを手を振りながら見送る。するとニイナだけ小走りで戻ってくると、

 

 「派閥体験(インターン)のこと······私本気だから。近いうちに行くね」

 

 と耳打ちする。そしてまた小走りでイグリンたちの元へ戻っていく。

 

 どうやらこれからも僕の前途は多難が続くようだ。

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