打ち上げ翌日、僕は庭でリューさんに稽古をしてもらっていた。
今日は
「今日はここまでにしておきましょう」
「ぜぇ······ぜぇ······、あ、ありがとう、ございました······」
Lv6に至ったリューさんの稽古は更に苛烈になり、Lv5になった今でも必死にくらいつくのがやっとというレベル。
対してリューさんはまだまだ余裕がありそうだ。
「あの、リューさん」
「なんですか、ベル?」
息も整いきらない内に切り出す。
今日こそちゃんと答えるために。
「今夜、少し時間をもらえませんか」
「······はい、構いません」
リューさんは僕の表情から要件を察したようで、詳しく聞こうとはしなかった。
「えと、それじゃあ夕飯の後、屋上に来てください」
「わかりました。······ヘスティア様たちにも内密にするべきでしょうか」
「そ、そうですね、できればバレないようにお願いします」
これまで何度かリューさんにちゃんと返事をしようとしたことはあった。でも神様やリリが僕達を二人きりにさせないように毎回乱入してきたおかげで何も言えないままの日々が続いていた。
しかし、それはやはり言い訳だ。自分自身もそれによってリューさんとの関係に変化が訪れるのを恐れていた。だから仕方ないって自分に言い聞かせて逃げていた。
違った。真剣に想いを伝えてくれたリューさんに対して僕がとったのは曖昧な態度。このままじゃ僕は愚者ですらないただの腰抜けになってしまう。
「うぅーん······」
『
「ヘスティア様? 何を唸っておられるのですか?」
「あぁ、サポーター君。······実は──」
「──ベル様のステイタスの伸びが悪い?」
「そうなんだよ。まぁ最近は学区行ったりしてたけど、その前からステイタスの成長が遅くなっているんだ」
「でもベル様のあの成長速度って······」
「そう、
「それは······」
ベル自身は
憧憬への想いが強いほど効果が上昇するスキル。ならばその効果が減衰しているとしたらその理由はわかりきっている。
確実な変化が起こっている現状に二人が思い描いた最悪の未来。
「「うあああああぁぁぁ!!」」
耐え難い可能性に揃って悶絶する
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夕食後、ベルは不審に思われないようゆっくりと席を立ち屋上へ向かう。
覚悟はできている。もう僕の中で答えは決まっているから。
階段を登り最上階の扉を開く。冬の季節もあって少し冷えるが、
そのまま街を眺めていると同じように階段を上がってくる気配。
扉の開く音と同時に振り返る。まだ風呂に入っていないようで部屋着にカーディガンを羽織っていた。
「お待たせしました」
「は、はい······」
リューさんの雰囲気はとても落ち着いていて、月の光に照らされる相貌は綺麗という言葉では表せないほど美しい。
「呼び出した理由は私の告白の件······でいいのでしょうか」
確信を持って核心を突く。やはりリューさんはわかっていた。
「そうです。ごめんなさい、こんなに返事を引き延ばしたりして」
「気にしていない、と言えば嘘になりますが、ベルの状況は理解しています。あなたが何度か切り出そうとしていたことも」
聡明で正しい妖精はここでも清廉であった。ベルを責めるでも庇うでもなく、ただ事実のみを告げるのが彼女の優しさだ。
「ちゃんと······返事をしますから」
「えぇ、聞きましょう」
だからこそ、その優しさに答えるのが僕の『正義』だと思う。
「僕は······リューさんの気持ちには応えられません」
「っ······」
「リューさんはいつも正しくて、誰よりも正義と向き合ってきた凄い人です。そんなリューさんを僕は尊敬してますし、リューさんが僕を好きだって言ってくれて凄く嬉しいです」
「でも、僕······好きな人がいるんです。だからリューさんの気持ちには応えられません」
言った。言ってしまった。もう飲み込むことは出来ない。吐き出した言葉は、確実にこれからの僕たちを変えてしまう決定的な
それでも止まるわけにはいかなかった。僕のため、
リューさんは正面に捉えていた瞳をゆっくり下げる。俯くような状態でしばらく何か考えているようだった。
やがて再び視線を上げたリューさんは核心に迫る問いを投げかける。
「······その好きな人というのは······どのような人なのですか」
『誰か』とは聞かない。それでもベルの心に住まう人物を欠片でも知りたいと思ってしまうのは彼女に許された権利だ。
「その人はとても綺麗で、太陽のように明るくて、怒ったり喜んだり沢山の
好きな人のことを答えようとしていたのに、いつの間にかベル自身の気持ちに変わっていることにベルは気付かない。
そうして必死に伝えようとするベルの表情はとても優しく、リューも見たことがない愛情を孕んだ瞳をしていた。
「本当に、その人のことが好きなのですね」
「はい······」
この答えは何があっても変わらない。それを示すためにも
「······ベル、ありがとう。あなたを好きになれて良かった······」
その声は隠しようがないほどに震えていて、空から一滴の雨が降った。
この時、一人の妖精の初恋は散った。