白兎千恋   作:鶏むね三太郎

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第2話

 「私は、あなたを知りたい」

 

 真っ直ぐ向けていた目を逸らし前を見つめる。どこか照れくささのある言い方だとは思ったが、吐いた言葉は飲み込めない。

 まさか、人生でこんなことを言うことになるとはレフィーヤ自身も考えたことがなかった。動揺(はずかしさ)を紛らわすため、こっそりベルの顔を窺うと彼は赤面してあちらこちらに視線を動かしていた。

 

 「······どうしたんですか」

 

 あまりにも不審だったので思わず聞いてしまったが確実に原因は私の発言だろう。でも、確かに恥ずかしいことを言った気はするがそんなに恥ずかしがるほどではないとも思う。

 

 「いやっ、な、なんでもありません!」

 「なんでもなくないでしょう。挙動不審すぎましたよあなた。なんですか、はっきりいってください」

 「で、でも······」

 

 なにをモジモジしているのか、その様子を見ているだけでムカッとする。

 

 「別に何を言っても怒りませんから。言ってみてください」

 「······えと、さ、さっきのレフィーヤさんの言葉が······」

 「私の言葉が?」

 「ちょっと、告白っぽかったな······って」

 「······っ! なっ、ななな、何を言っているんですか! わ、わた、私が告白!? 何をどう受け取ったらそうなるんですか! ······でも確かにちょっと告白っぽかったかも······? い、いえ、それにしたって自意識過剰すぎです! このハレンチ兎!」

 「やっぱり怒ったじゃないですかぁ!」

 

 何を言っているんだこの男は! 私が告白!? そんなの一度もしたこと無いのに、アイズさんならともかくあなたになんてするはずないでしょう! あぁ〜、私そんな告白っぽいこと言ってましたっけ!?

 

 頭の中がいっぱいいっぱい(ヒュゼレイド・ファラーリカ)になったレフィーヤはあらん限りベルに当たり尽くす。ベルはそれに度々ツッコミながらもレフィーヤの癇癪にも似た感情を受け止める。

 

 

 ──レフィーヤには知る由もない、かつてとある街娘とのデートにあたって、ベルが鬼畜メガネ(ヘディン)に改造もとい調教を施されていたことを。

 

 『まず、自分が異性として意識していることを相手に悟らせろ。そうすれば勝手に向こうも意識し出す。経験の薄い者には特にな』

 

 そうして調教し尽くされた末にベルは無意識にでもヘディンの教えをなぞってしまう身体になってしまったのだ。

 

 

 しばらく叫ぶような怒鳴るような声がダンジョン内に響いたあと、残されたのは肩で息をする二人だった。

 

 「「はぁ、はぁ······」」

 

 二人は合わせるかのように息を整え向き直る。かたや怯えるように、かたや目を釣りあげ頬を朱に染めながら。そのまましばらく膠着するように思えたが、それは正面から来た来訪者によって終わりを告げた。

 

 「······おぉっ、白兎の脚(ラビット・フット)じゃねぇか!こんなとこで何してんだ?」

 

 現れたのは粗雑そうな(ヒューマン)だった。彼の顔を見たベルが「モルドさん」と呟いたのでそれが彼の名だろう。

 装備や身のこなしから見てモルド以外の二人もLv2。この中層でなら可もなく不可もなくといったところか。

 

 (随分親しげですが、どういった経緯で知り合ったんだろう······)

 

 一見するとあまりベルとは関わらなそうな風貌だが、彼らは互いに親しそうにしている。

 今までなら気にもしなかった(ベル)のことに興味を持っている自分に少し驚きながらも彼らの会話を見届ける。

 

 やがて少し離れたとこにいる私に気づいたのかこちらにも視線を向ける。

 

 「おっと連れがいたのか。こりゃ邪魔しちまっ······!?」

 

 が、私の顔を見て"モルド"と呼ばれた男は驚きの声を上げた。

 

 「おっ、おい! こいつぁ千の妖精(サウザンド)じゃねぇか! ロキ・ファミリアだぞ!」

 「えっ、あ、はい。色々あって······」

 

 説明しづらかったのかベルはそう濁す。しかし、それが悪手だったのか、モルドは私たちを交互に見て呆れたように溜息を吐いた。

 

 「かぁ〜······、なーんか変な音が響いてると思って警戒してみりゃ、お前らだったのかよ。こんな逢い引き現場にビビってたと思うと泣けてくるぜ」

 「んなっ······誰が逢い引きですか!!」

 

 レフィーヤはレフィーヤらしからぬ言葉遣いにも気付かず激昂する。

 

 「私と! この男とは! そんな関係じゃ! ありません!」

 

 必死に否定をするも目の前の男はさも自分は分かってるから、という反応しか示さない。

 

 「あーはいはい、わかってっからよぅ、痴話喧嘩なら他所でやってくんねぇかなぁ」

 「全っ然分かってないじゃないですか! そもそも私たちはファミリアも異なりますし! そんなことはありえません!」

 「だからバレねぇようにダンジョンで会ってたんだろ?」

 「ち が い ま す!!」

 

 レフィーヤは頬を膨らませて否定の姿勢を崩さない。しかしモルド達はやれやれ······といった表情(かお)で取り付く島もない。

 

 「ま、なんでもいいけどよ、ここは迷宮(ダンジョン)なんだから程々にしとけよー」

 

 そう言って立ち去るモルド達。結局誤解は解けないまま行ってしまった。ありありと不満を掲げるレフィーヤにベルはおずおずと声をかける。

 

 「す、すみません、なんか······」

 「む〜〜〜······、もういいですっ」

 

 未だに不満そうではあったが、深く息を吐いて気持ちを切り替える。このままではレフィーヤが怒りベルが怯えるといういつもと同じ光景になってしまう。

 レフィーヤが落ち着いたのを悟ったのか、ベルは慎重に切り出す。

 

 「あの、ちょっと聞いてもいいですか?」

 「······なんですか」

 「話掘り返しちゃうんですけど······、僕のことを知りたいって」

 「んぐっ、そ、それがどうかしましたか」

 

 直前の出来事のおかげで不本意にも忘れていたセリフを思い出し少し恥じらいながらも必死に平静を装う。

 

 「は、はい。それで······結局僕は、どうすればいいんですか?」

 

 ベルの言葉を聞いてハッとする。そういえば勢いで言ったから細かいことを考えていなかった。

 ベルのことを知りたいといっても別に身長体重を聞きたい訳でも無い。

 どうしようかと悩み、行き着いた結論は。

 

 「貴方の、冒険の話が聞きたいです」

 「えっ?」

 「貴方がオラリオに来て、何をしてきたのか聞かせてくれませんか?」

 

 そう告げて見つめてくる少女にベルは虚をつかれたように固まる。

 

 「今からというのもアレなので······ちょうど一週間後は空いていますか」

 「あ、はい、その日は何も無かったはずですけど······」

 「でしたら正午にバベル入口で会いましょう」

 「わ、わかりました」

 「ではそういうことで」

 「あっ、ちょっ」

 

 必要なことだけ伝えてレフィーヤは一人で地上へのルートを走っていく。今日は柄にもないことをしたり変な勘違いをされたりでレフィーヤは一刻も早くその場──ベルの前──から離れたかった。

 

 (あぁ〜っ! もう無理っ、いろいろ限界です! というか、さりげなく約束なんて取り付けてしまいました! これじゃあアイズさんのこと何も言えないじゃないですかぁ!)

 

 頭の中で気持ちを発露しながら岩窟の迷宮を爆走するレフィーヤ。すれ違う下級冒険者やLv2の冒険者たちの横を視認すら許さず駆け抜けていく。

 

 そして、レフィーヤの走り去った方向を見つめたままベルは一人呟く。

 

 「これって······デート······なわけないか」

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