二人の想いが結実した夜も時間の流れに従い明るみを帯びていく。
レフィーヤとベルが恋人になって初めての朝を迎えた。当然、夜が明ける前に二人はそれぞれの
レフィーヤもいつも通りの時間に目を覚まし、慣れた動きで支度を整える。
ロキ・ファミリアでは基本
いつも通りの朝。いつも通りの光景。それでも昨日までとは確実に景色が違って見える。
世界そのものが明るく、鮮明になったかのような。
これまでが灰に塗れた世界に見えていた訳ではない。それでも、元々色づいていた世界は更に鮮やかにレフィーヤを迎えてくれていた。
食堂へ着くと既にアイズ達、いつも朝食を共にするメンバーは揃っており、レフィーヤが来たタイミングで顔を上げる。
「お、レフィーヤ来たー、おはようー」
「おはよう、レフィーヤ」
「おはようございます、すみませんお待たせしちゃって」
謝罪と共に席に着く。食事は既に用意してあり、あとは食べるだけなのだが、レフィーヤ以外の全員が驚いたように目を見張る。
「あの、なにか······?」
注目を浴びていることに気付いたレフィーヤ、何故そんなに驚くのか理解できずに戸惑いの色を浮かべる。
「レフィーヤ、なんかあった?」
「っ······、えっと、どういうことでしょう······?」
思わずドキッとしてしまうが、彼女たちが昨夜の逢瀬を知っているはずもない。
「レフィーヤ、ちょっと、明るくなった······? 明るいというか······うぅん······」
「わかるわかる! スッキリしたっていうか······うーん、言葉じゃ難しい!」
(私ってそんなにわかりやすいんでしょうか······)
何かあるとすぐに周りに気付かれてしまう気がする。特に最近は顕著なので早々にバレてしまいやしないかと昨日とは違った意味でドキドキしてしまう。
「悪いことじゃなさそうだし別にいいんだけどねー」
「は、はい、気にしないでいただけると助かります······」
居住まいを正しくながらなんとか誤魔化すことに成功して安堵した。
半ば強引に話題を切り、食器に手を伸ばす。さすがに食事中まで話を引っ張らないと思う。──若干一名食事など気にしない元気な
パンをちぎって口へ運ぶ。静かに食事を進めるも、食堂は活気づいているので絶えずどこかから話し声がする。その中で黙々と食べながら昨夜、ベルと話したことを思い返していた。
『レフィーヤさん。僕たちのことって······ファミリアの人達に言いますか?』
『······いつか言うべきだとは思います。でも、
他派閥と関係を持つとここが複雑になる。互いの所属する
隠しておくのは褒められた行為ではない。それでも及ぼす影響を考えるとおいそれとは話せない。
『そう、ですよね。······それでも、僕はファミリアのみんなにだけは伝えたいんです。今まで僕を助けてくれたみんなには、ちゃんと』
ベルの気持ちはよく分かる。私だって隠したいなんて思わない。しかし、やはりヘスティア・ファミリアでも歓迎される事柄でないのは確かだ。
『なら······私も一緒に行きます』
『えっ?』
『あなたがファミリアに筋を通したいと言うのなら、これはあなた一人の問題じゃありません』
歓迎されない。むしろ追い出されてもおかしくないが、ここでベル一人に全て任せるなどという選択ができるほど利口ではない。
『だからベル······、私にも背負わせてください。二人で認めてもらいましょう』
既に覚悟は決まっている。ベルと一緒ならばどんな道でも歩んでみせる。
『レフィーヤさん······』
そこまで言わせて断ることなどベルにはできない。そしてベル自信もレフィーヤと同じ考えであったため、快く受け入れる。
『分かりました。それじゃあ、明日前に行った崩れた廃教会に来てもらえますか? さすがに堂々と
『わかりました。······ねぇ、ベル』
『はい、なんですか?』
顔を向けたベルに背伸びをして一瞬、そっと口付けをする。触れた瞬間に離れる柔らかい感触。ベルはレフィーヤの不意打ちにあっという間に茹で上がったように赤面する。
『これから、よろしくお願いしますね?』
『あっ······、は、はい······』
悪戯っ子のように笑うレフィーヤも、呆然と答えるベルもその顔だけは共通して朱に染まっていた。
ここまでが昨夜、ベルとの決め事。
つまり、今の段階ではアイズ達にベルとの関係は話さない。そして今日はベルとヘスティア・ファミリアに行く。
でもそれでも終わりじゃない。今日だけでなくその先のことまで考えていかなくてはならない。
ロキ・ファミリアにはいつ明かすのか。初めに話すべきは誰か、しっかりと決めておかなくては。
レフィーヤは自身の問題のみに目を向けず、ファミリアという組織としての存在にも気を回すことを意識していた。そのため当面は関係を明かさず隠しておくという結論を出した。
これが半分本音、半分建前。ならば建前に隠された本音は──
(関係を明かしたところで堂々とベルといられるとは限らない。それなら隠しているうちにもっと······)
以前のレフィーヤと違って些か欲望に忠実になったレフィーヤは恋愛脳まっしぐら。ようするに浮かれまくっていた。
(ダメダメ、まずはヘスティア・ファミリアに私たちの関係を認めさせなきゃ)
緩みそうになった意識を即座に引き締める──が、僅かな時間でそれも崩壊してしまう。
初恋が成就し、幸せの絶頂であるレフィーヤに落ち着けというのも酷ではあるが、これから待ち受けるものを考えるとそうも言っていられない。
「ねえねえーアイズー、昨日ゴブニュ・ファミリアに整備に行ってくるって言ってたよねー、あたしも行っていい?」
「うん、いいよ」
「アイズ、私は団長のお手伝いするから
「らじゃー······」
「レフィーヤは? 一緒に来る?」
「いえ、お誘いは嬉しいんですけど、今日は行くところがあるので······」
気を使ってレフィーヤにも声をかけるテイオナ。粗雑と思われがちな彼女だが意外と気配りを欠かさない。
誘いを丁重に断ったレフィーヤは、席を立って食器を片付ける。そのままアイズ達に挨拶だけして自室へ戻っていった。
________________________
やがて約束の時間が近付いてきたので外へ出る。待ち合わせはかつてヘスティア・ファミリアの
こんな昼間にどう目立たずに行くのか、レフィーヤは詳しい話を聞かされていなかったが、ベルが任せて欲しいと行ったので心配はしていなかった。単純に興味はあったが。
廃教会へ着き、崩れた瓦礫に隠された地下への扉を開ける。中へはいるとランタンの光が漏れていてゆらゆらと揺らいでいた。
階段を降り切ると置いてあった椅子に座るベルが迎える。その手には折り畳まれた大きな布のような物が。
「ベル、お待たせしました」
「いえ、時間通りですし待ってないですよ」
お決まりのやり取り。それだけでも不思議と心が弾んで嬉しくなる。
隣にある椅子に腰かけ、座ったまま少しベルの近くへ移動する。そんなレフィーヤを拒まず受け入れてくれた事実に恋人という関係を再認識して口の端がどうにも持ち上がってしまう。
「その大きな布が?」
「はい、これリバース・ヴェールって言って、透明になれる
透明化のアイテム──まるで
「では、行きましょうか」
そう言って立ち上がったレフィーヤに続いてベルも立ち上がる。ヴェールという名前にしては大きな布を翻し、レフィーヤを包み込む。
マントのように羽織わせたベルはさながら紳士のように妖精の手を取り、エスコートしていく。
そして手を引かれるレフィーヤはいつもと違った雰囲気に充てられ、なすがままついて行くのだった。