白兎千恋   作:鶏むね三太郎

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第3話

 『黄昏の館(ホーム)』に帰ってきたレフィーヤは早々に自室へ戻りベッドに飛び込む。枕に顔を埋めると足をジタバタさせて呻く。

 

 ちょうど部屋に居た同室(ルームメイト)のエルフィは一連の流れを見て唖然としていた。以前はこんな光景もたまに見ていたが、レフィーヤが変わってからは一度もこんなことは無かったからだ。

 人造迷宮(クノッソス)攻略戦以来、レフィーヤは少し大人びたようであからさまに感情を発露させることが無くなっていた。

 そのためエルフィにとっては驚きつつも昔のレフィーヤが戻ってきたようで少し嬉しかった。

 

 「レフィーヤー、なんかあったのー?」

 「······なんでもありません。えぇ、なんでもありませんとも」

 

 レフィーヤがこんな反応をする『何か』が気になり本人に尋ねるが、返答は素っ気ない。というよりレフィーヤ自身でも消化しきれていないような様子。

 こりゃこれ以上聞いても無駄だなと判断したエルフィは素直に諦める······でもなく、レフィーヤと仲のいいアイズやティオナにも聞いてみようと思い立った。

 

 「あっ、ティオナさーん」

 「んー? あ、エルフィじゃん。どうしたのー?」

 

 試しに食堂へ行くと運良くティオナを見つけることができた。早速ティオナに先程の出来事を説明してみる。

 

 「へー、レフィーヤがねー。んー、アタシもわかんないなー」

 「そうですかぁ······」

 

 期待した答えは得られなかった。残念そうに項垂れるエルフィを見てティオナは少し考えてみる。

 

 「でも、レフィーヤがよく感情的になるのってだいたいアイズの事だよねー。あとはー······そういえばレフィーヤってあんま怒んないけど、アルゴノゥト君にはすぐ怒るんだよねー」

 「へぇー、あ、でも確かにそんなこともあったかも」

 「······エルフィ?」

 

 ティオナとレフィーヤについて話していると背後からよく知る声。おずおずと振り向くと冷たい笑顔をした同僚(レフィーヤ)が立っていた。

 

 「レ、レフィーヤ······」

 「いきなり部屋を出て行ったかと思えば、何をしているんですか?」

 

 絶対零度の(おっかない)笑顔のまま問い詰めてくる同僚にエルフィは震えながら弁明をする。

 

 「あ、あのね? ちょっとレフィーヤの様子がアレだったから······し、心配で······」

 

 本音半分言い訳半分な割合で答えるエルフィ。ジッと見つめていたレフィーヤは「はぁ······」とため息をつく。

 

 「変な勘繰りはやめて欲しいですけど、心配をかけた私にも責任はありますね」

 「ごめんねレフィーヤ······」

 「いいですよ、もう。それに、おかげで少し冷静になれました」

 

 そう言ってレフィーヤは柔らかく微笑む。それを見たエルフィも安心したように息を吐き出し、ティオナに向き直る。

 

 「ごめんなさいティオナさん、というわけで今の話は無かったことにしてくれませんか?」

 「うん、いいよー。でもレフィーヤ、何かあったらアタシも相談に乗るから!」

 「はい、ありがとうございますティオナさん」

 

 そのままティオナは立ち上がり去っていった。そしてレフィーヤとエルフィも自室へと引き返す。

 

 廊下を歩きながらレフィーヤは上手誤魔化せたことに安堵の息を漏らす。

 

 エルフィのおかげで幾分か冷静になった頭で考えた結果、今あれこれ考えても無駄という結論に至ったレフィーヤは一旦棚上げしておくことにした。

 そもそも明日からまた鍛錬をするのに余計な思考は邪魔になる。どうせ彼とまた会うまで一週間後もあるのだ······と、切り替えることにした。

 

 

________________________

 

 

 そして一週間が経ち、約束の日が来た。

 

 いつも通りに支度を済ませ、本拠(ホーム)を出る。この時間なら待ち合わせの15分前には着くはずだ。

 そういえば、人と待ち合わせることなど久しくしていない。基本派閥内(ロキ・ファミリア)の人としか関わらないし、したとしても······いや、これ以上考えるのはやめておこう。少なくとも今ではない。

 

 感傷を切り離し意識を前へ向ける。

 バベルに着くとベルは既に待っていた。

 

 (時間、まだあるのに······)

 

 彼の元へ歩いていると、近付く私に気付き顔を向ける。

 

 「こんにちは、お待たせしました」

 「あっ、こんにちはレフィーヤさん。全然待ってないですよ、僕も今来たところなので」

 

 いつかロキが言っていた。『男連中にええこと教えたるわ〜。女の子と待ち合わせてる時は、どんなに待ってても待ってないって言わなあかんでー?』

 彼も誰かから教わったのだろうか? あまり女性慣れはしていない印象だったが、彼も年頃だしいろいろあるのかもしれない。

 そこまで考えて思い至る。これ、もしかしたら私もその『いろいろ』に含まれているのでは? と。

 

 (いやいや、これはあくまで知り合いとしてですし······へ、変な意味だってありませんし)

 

 「あ、あの、レフィーヤさん······?」

 「ひゃいっ!? 」

 「す、すみません何か考え込んでいたようだったので」

 

 最近どうにも思考に耽ってしまうことが多い。

 

 「な、なんでもありません。行きましょうっ」

 「は、はいっ」

 

 雑念を吹き飛ばして歩き出す。遅れたベルは少し駆け足で追いこうとするが、その勢いはレフィーヤに並ぶ前に止まってしまう。

 

 「······どうしたんですか?」

 

 不意に止まったベルに気付きレフィーヤも歩みを止める。何かあったのかと振り向いた時、二人の耳が拾った冒険者の声。

 

 「あれって【千の妖精(サウザンド・エルフ)】と【白兎の脚(ラビット・フット)】だよな······?」

 「派閥(ファミリア)も違うのになんで一緒にいるんだ?」

 「もしかしてあの二人······」

 

 聞こえないように話しているつもりだろうが、第二級、第一級冒険者の聴覚は鮮明に会話を聞き取ってしまう。

 レフィーヤはそこで自身の迂闊さに気付いた。この一週間、自己鍛錬に集中していたせいか、前にもモルドに勘違いされたことを失念していた。

 

 よく考えたら他派閥の異性と二人きりで会うなんて体裁的に不味い。アイズさんだって人目につかないようベルとは市壁の上で訓練をしていたのに。私はそんなことにも気が回っていなかった。

 

 「ち、ちょっとこっちに来てくださいっ」

 「えっ、は、はい」

 

 現状を理解したレフィーヤは慌ててベルの手を掴み近くの服飾店へ駆け込む。目にも留まらぬ速さで服を選ぶと、「あなたもこれに着替えてください!」とベルにいくつか服を押し付け、呆気にとられている店員に断ってから更衣室で着替える。この間、約10分である。

 

 10分後に店から出た二人は普段の戦闘衣(バトルクロス)とは違った冬物の服に変わっていた。互いに帽子も被りレフィーヤのみ伊達メガネで目元も誤魔化す。

 

 「ふぅ······これならきっと私たちだってバレません」

 「バレないかもですけど······あ、この服いくらでしたか。 お金払います!」

 「別にこれくらい構いませんよ。選んだの私ですし」

 「そ、そういう訳には······」

 「じゃあ、あとでご飯でも奢ってください。それでおあいこです」

 

 頑な······というよりは何かを恐れるように代金を払おうとするベルを不思議に思いつつも、レフィーヤも強引に選んだ手前譲らず、結局折衷案としてベルが食事代を出すことで落ち着いた。

 さりげなく食事をすることが確定していることに気付かない二人は安堵と共に今度こそ当初の目的を果たそうとする。

 

 「それじゃあ、行きましょうか。······と思ったんですけどどうしましょう。どこかカフェにでも入りますか?」

 「うーん、ちょっと考えたんですけど、レフィーヤさんは僕がオラリオで何をしてきたのか知りたいんですよね?」

 「まぁ、そういうことですね」

 「それじゃあ、オラリオを回りませんか?」

 「オラリオを?」

 「はい、流石にダンジョンまでは行けないので、この都市の中で実際に巡ればレフィーヤさんも楽しめるかなって······」

 

 ベルなりに考えていたのだろう。確かに、言葉だけよりもよっぽど伝わりやすい。

 レフィーヤも案を聞いてからそちらの方が話に聞くだけよりも実感が湧くと思い賛同する。

 

 「そうですね、私も実際に見て感じてみたいです」

 「······っ、はい!」

 

 レフィーヤがベルに同意を示すと、パッと晴れたように顔を綻ばせる。

 

 (本当に、感情がわかりやすい。この素直さも彼の美徳なのでしょうね)

 

 今日会ってから今までの時間だけで彼の純粋さがよくわかる。

 

 「では、案内してもらえますか?」

 「はい、行きましょう」

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