ベルとライバル宣言をしてから半月が経った。
それが普通だ。同じ
それなのに······頭から離れない。ダンジョンに潜っていても、街中を歩いていても、ベルがいるんじゃないかと探してしまう。
(私······どうしちゃったんでしょう)
別に調子が悪い訳ではない。最近ステイタスも順調に伸びているし、魔法、近接共に技術の向上もしている。しかし晴れない謎の違和感。
(これはもう、誰かに相談した方がいいかもしれません)
もし、全ての事象を把握している者がいたとしたら、それは爆弾投下の宣告でしかない判断も、
思い立ったが吉日──と早速相談相手を探すために自室から出て
やはり相談するならエルフィだろうか。いつも明るい彼女は誰からも好かれていて実は人気者だ。
(部屋にはいませんでしたし、いるとしたら食堂でしょうか)
大抵、食堂には人がいるしもうすぐ夕食時なのでまずは食堂へ向かってみる。
「おっ、レフィーヤ発見ー」
「ロキ?」
向かう途中に
「何か用ですか?」
「んー、用っちゅうかなー、ウチは気乗りせんのやけど、話だけは通しとかなと思ってなー」
「······? 何の話ですか?」
眉を曲げに曲げて心底嫌そうな顔をするロキはそのまま手に持っていた紙をレフィーヤに差し出す。
「これは、手紙?」
「バルドルのやつからレフィーヤに頼み事やって。かぁー、用があるんなら直接出向けやあのアホンダラ」
「それだとバルドル様が
「あっ、ウソやウソウソ。あいつがウチの楽園に入るなんて考えただけでもおぞましいわ」
「······」
相変わらずロキのバルドル様嫌いが激しい。しかも嫌いな理由が酷く自分本位なものなので手の付けようがない。
そんなロキに呆れつつもそのまま受け取った手紙を開く。
「これは······」
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「一ヶ月ぶりですね、レフィーヤ」
『
『こんな短期間で何度もあいつの顔見たないわっ』
との事で、今回はレフィーヤ一人で来ている。と思ったのだが──
「······なんであなたもいるんですか。それにその格好······」
神室にはレフィーヤの他にもう一人冒険者がいた。瞳にかかるほど伸びた茶色い髪。その頭部からは同じく茶色い毛皮の耳が生えている。学区の制服を纏った『
「あはは、なんかバルドル様から手紙が来て······」
「まさかまた学区の生徒に扮して学生に手を出すつもりじゃあ」
「しませんってそんなこと!? ていうか『また』ってなんですか!?」
彼と会う心の準備もできておらず、つい間までのような憎まれ口を叩いてしまう。
「私が呼んだのです。あなた達二人に頼みたいことがありまして。それとレフィーヤ、この姿での彼の名はラピ・フレミッシュです。なので『ラピ』と呼んであげてください」
「は、はい······」
ラピ······。と心の中で復唱する。折角勇気を出して『ベル』と呼べるようになったのに······いやいや、これではまるで彼の名前を呼びたいみたいではないか。
「さて、お二人に頼みたいことなのですか──端的に言うと実習です」
「実習?」
レフィーヤが悶々としている間にも話は進む。慌てて意識を外に戻しバルドルの話に向ける。
「はい、以前やっていた
「つまり······集団戦術の訓練という訳ですか」
「その通りです。生徒たちは世界各地で様々な戦いに身を投じてきました。小隊に留まらない規模の戦いもありましたが、やはりダンジョンでの実習とは別物です」
学区の生徒達は世界中で迫り来るモンスターや紛争に身を投じて戦っている。紛争は言わずもがな、どうしても地上のモンスターと
「実習は教師陣、私も加わり万難を排して行う予定だが、念の為君たちにも手を借りたい」
ずっと黙って見守っていたレオンもバルドルに繋げて説明する。
「レフィーヤには後衛から、ラピには前衛に交ざって生徒たちのアシストをしてもらいたい。ラピはあまり大人数での戦闘は経験が無いんだろう? レフィーヤももはやただの後衛ではない、戦術的な視点も必要になってくる。君たちにとっても有意義なものになるはずだ」
なるほど、何故ロキがまた私を学区へ送ることを許したのか理解した。とどのつまり
都市最大派閥と言えど、気軽に大人数でダンジョン
「わかりました、お引き受けします」
「ぼ、僕もやります!」
バルドルは二人の返答に満足したように微笑むと「この先はレオンに任せます」と言い残して部屋の奥に行ってしまった。
「では詳細に入ろう」
それを見送ったレオンはレフィーヤ達に向き返り、説明を続けた。
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レオンから詳細を聞かされた二人は神室から退室し、廊下を歩いていた。
「『戦技学科』への実習提示は午後イチでやるって言ってましたけど、レフィーヤさんはお昼までどうしますか?」
「そうですね、私が卒業してから学区の街並みも変わっているようなので少し散策してみようかと思ってます」
「そういえばレフィーヤさんも学区の生徒だったんですよね、確か『妖精の優等生』って呼ばれてたとか」
「なっ、なんであなたがそれを知ってるんですか!」
予期せず学生時代の渾名が飛び出たため、つい大きな声になってしまった。
「僕が入れてもらってたパーティの人とロキ・ファミリアの話をした時に聞いたんです」
「その渾名は恥ずかしいのでやめてください······」
ぷいっとそっぽを向きつつ口止めはする。まさかベルに自分の恥ずかしい過去を知られてやしないかと気が気じゃないレフィーヤは慌てて話題を逸らす。
「そっ、そう言うあなたは時間までどうするつもりなんですか!」
「うーん、特に気になることもなくて、どうしようかなって······」
ベルは頬を掻きながら答えた。
確かにベルは学区に精通していないだろうし、最悪迷子になる可能性もあるだろう。下手に動けない現状も彼を縛る要素の一つかもしれない。
「······だ、だっ······たら、わ、私と一緒に回りませんか······?」
ただ誘うだけなのにこれまでに無いほど緊張している自分に戸惑いを感じつつも、ここまで言って引き下がる訳にもいかない。
それにこのまま別れて彼一人で放り出すのも可哀想だし? 彼一人にしたら後輩達に何をするかわからないし? それなら私が見張っていたほうがいい。決して彼ともっと話していたいとか、一緒にいたいとか思ってない。ないったらない。
「えっと、じゃあ僕も「レフィーヤー!」うぇっ······?」
ベルがレフィーヤの誘いに答えようとした瞬間、後ろから聞き覚えのある声がレフィーヤに届く。
「アリサ?」
「レフィーヤが来てるってレオン先生から聞いてね、お昼までなら空いてるだろうって言うから来ちゃった!」
まさかの乱入者にベルは横で呆然としている。レフィーヤ自身もどうしたらいいか即断できず曖昧な返ししかできない。
「えっとー······」
「さぁ、カフェテラスにでも行って······あら?」
そのままレフィーヤを連れ去ろうと腕を抱えようとしたところで隣にいるベルに初めて目を向けた。
「あら、なにか用事でも······んん? んー······あっ、あーはいはいなるほど」
ベルとレフィーヤに交互に視線をやると、アリサは一人納得したように頷く。
「ごめんっ、レフィーヤ! やっぱ急用入っちゃったからまたね!」
「えっ、あ、はい······」
「君も、ごめんね邪魔しちゃって。私もう行くから!」
そう言うとアリサは来た道をそのまま走って行ってしまった。嵐のように過ぎ去っていった旧友を怪しみつつもこのまま突っ立っているわけにもいかない。
「······行きましょうか」
結局、彼女が何をしたかったのか分からないままだったが、おかげで緊張は解けた。
一応心の中で感謝だけしておこう。