白兎千恋   作:鶏むね三太郎

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第7話

 「へぇー、レフィーヤさんがいた時にはもうあのジャガ丸くんのお店あったんですか」

 「えぇ、結構美味しくて、たまに友人と食べに来てました」

 

 一通り学園層(アカデミック・レイヤー)を回ったレフィーヤとベルは、話の売店で買ったジャガ丸くんを食べながら近くのベンチで談笑していた。

 

 「オラリオでジャガ丸くんのお店に行った時は学区のとは味も数も全然違くて驚きました」

 「あはは、たしかにオラリオよりも色んな味がありますよね」

 「えぇ、ベ······ラピが選んだのはほうじ茶ペッパー味でしたっけ?」

 

 まだ『ラピ』呼びに慣れていなく、うっかり『ベル』と呼んでしまいそうになるのをすんでのところで留まる。

 楽しい。ただ楽しかった。ベルと学区を見て回りながら、学生時代の思い出を話す。それだけなのについ心が弾むような気分になっていた。

 

 「はい、前に一回食べたんですけど思ったより美味しくて」

 「へぇー、私も見覚えがないので新作なんですかね」

 「そうだったんですか。あ、じゃあ一口食べますか?」

 「えっ」

 「まだ口付けてないのでよかったら」

 

 そう言ってベルはジャガ丸くんを差し出す。わざわざエルフの自分に配慮して口を付けないままでいてくれたのだろうか? それとも考えすぎ?

 

 「それじゃあ······一口貰ってもいい、ですか?」

 「はい、どうぞ」

 

 まさかロキがアイズさんとやりたがっていた『あーん』を彼とやることになろうとは······などと考えつつ、(ベル)の差し出したジャガ丸くんを、髪がかからないように手をやりながら頬張る。

 モグモグとあまり大きくない口で必死に咀嚼し飲み込むと、

 

 「じゃあ、わ、私のも食べてみます、か?」

 

 今度はこちらの番、というふうに手に持つジャガ丸くんを差し出す。

 

 「えっ、で、でも······」

 「わ、私だけ貰うのも不公平ですっ」

 

 そう言って私は受け入れの姿勢を決める。たしかに、エルフはみだりに他者との接触はしない。でも、不思議と嫌じゃなかった。ベルに対して忌避感は感じない。

 

 「なら、い、いただきます······」

 

 おずおずといった様子でベルはレフィーヤの持つジャガ丸くんに口を運ぶ。そして遠慮気味に「あむっ」と齧る。

 

 (『あーん』······ちょっと照れますね······)

 

 ベルが顔を離すと、つい彼の口を付けた部分を凝視してしまう。

 横を見てみるとベルも同じように手元のジャガ丸くんを見つめていた。そしてベルは意を決したように自身のジャガ丸くんを口に運ぶ。

 

 「あむっ、むぐっ」

 

 前髪で顔が隠れているので見えにくいが、少し赤らんでいるようにも見える。自分もだが、純朴そうな彼もこういったことには慣れていなさそうだ。

 照れているのが自分だけじゃないと安心したレフィーヤは同じように手に持つジャガ丸くんを頬張る。

 

 「はむっ、むっ、んむ······」

 

 関節キス······。思わず唇に指を這わせ、ベルの唇を想起してしまう。

 レフィーヤにはキスどころか恋愛経験もない。異性として男の人を意識したこともなかったレフィーヤにはそれだけで一大事件だった。

 

 「お、美味しいですね······」

 「はい、レ、レフィーヤさんのも美味しかったです······」

 「そう、ですか······よかったです······」

 

 傍から見たらただの相思相愛(バカップル)にしか見えない光景、奇しくもその甘ったるい空気を避けるように皆距離を置いていたため、ベルとレフィーヤはそのまま二人っきりの時間を堪能した。

 

 

________________________

 

 

 

 「ではこれより、実習の説明を始める」

 

 すり鉢状の教室ーーかつてベルが概略説明(ガイダンス)に参加した教室の教壇に立ち、レオンは生徒たちに呼びかけるとザワついていた空気も即座に静まる。

 現在、この教室には『戦技学科』の生徒が全員集まっている。これから生徒達にも実習の詳細が語られる。生徒たちの視線は真っ直ぐレオンに注がれていた。

 

 「今回の実習での最終的な目標はーーゴライアスの討伐だ」

 

 レオンの発言に生徒たちは一気にざわめく。その中で一人、生徒は立ち上がり、

 

 「まっ、待ってください! ゴライアスの推定値(ポテンシャル)はLv4ですよ!? 小隊の中にはLv1もいます、危険です!」

 

 当然だった。中層の階層主とはいえ、生半可なパーティでは間違いなく全滅する。17階層にはゴライアスだけではなく中層域のモンスターも移動してくる。

 

 「君らの懸念はもっともだ。しかし君たちなら可能だと判断した。それに、実習には私や彼女も同伴する」

 

 レオンに促され、レフィーヤも壇上に上がる。

 

 「彼女には後衛部隊の一人として加わってもらう。あくまで君たちが主導する形になる」

 

 壇上に立つレフィーヤは生徒たちに視線を向けると、幾分か落ち着きを取り戻しているように見える。彼らは優秀だ、信頼するレオンが言うのなら······と

受け入れたのだろう。

 

 私やベルに求められているのは上級冒険者による牽引ではなく、彼らに間違いが起きないようにする安全装置(ストッパー)だ。

 

 そこからもレオンの説明は続き、やがて部隊編成に移る。

 

 「さて、重要な指揮官だが、これはルークにやってもらいたい」

 

 名前を呼ばれたルークは静かに立ち上がる。その姿は出会った頃よりも逞しく凛々しい、確実に成長を遂げた風格があった。

 反対はない。実際にゴライアスと戦い生き延びたLv3に異論を唱えられる者はいない。

 

 「だがルークは前衛だ。念の為、後衛にも指揮を務める者が欲しい。ミリーリア、頼めるか」

 「わかりました」

 

 続いてミリーも立ち上がる。ルークとミリーは同じ第七小隊のパーティだ。彼女ならルークの意識を汲み取って連携を取れるだろう。

 気になるのは、もし彼らがいない場面に直面した時の対応だが、それはまた別の課題だ。

 

 「さて、これで実習については以上になる。何か質問がある者は?」

 

 レオンが確認するが手を上げる者はいない。そのまま解散し、レオンも教室を出ていった。

 

 それから生徒たちはまず、それぞれの小隊でまとまり話し合いを始める。

 どこの小隊(パーティ)も実習開始日までの備えなど、必要なことを話し合っているようだ。

 大方問題は無さそうに見えるが、一部浮いている小隊(パーティ)があった。そちらに目をやると、その中には変装したベルの姿もある。

 

 (あぁ、たしか『第三小隊』の仲間達には正体がバレてしまったんでしたっけ)

 

 様子を見てみると、対応を決めかねているようで戸惑う姿が見える。

 そんな中でドワーフの青年が意を決してベルに話しかけていた。

 

 「あー、久しぶり、だな······。ラ、ラピも参加するんだな」

 「う、うん、一応基本はサポーターで、前衛で戦闘に参加することもあると思う」

 「そ、そっか······」

 

 やはりどう接すればいいのか分からないようで、あからさまに気まずい雰囲気が漂っている。

 ちょっと手助けをした方がいいかと思い歩を進めるが、唯一反応の違ったハーフエルフの少女が切り出した。

 

 「ラピ君、またよろしくね! イグリン達もラピ君いなくて寂しそうにしてたんだよ? 私もまたラピ君とパーティ組めるなんて嬉しいなっ」

 「なっ、さ、寂しいなんて思っていないさ! ただ五人一組(ファイブマンセル)に慣れていたから少し物足りなく感じていただけだ!」

 

 ハーフエルフの少女の言葉に慌ててドワーフの青年が否定するが、他の仲間たちが暖かい目で見ている。どうやら先程までとは違って空気も和んだようだ。

 それはいいのだが······。

 

 (······な、なんか距離近くないですかあの())

 

 さっきから気になるあの少女ーーたしかニイナと呼ばれていたーーが、ラピ君ラピ君ラピ君! とベルの横にピッタリとついている。今にでも腕を組み始めそうな距離感についつい意識が向いてしまう。

 別に彼が誰と何をしようが関係ないが、あのデレデレとした顔は非常に不快だった。

 

 (ていうかあの娘18階層の時もベルにチラチラ視線送ってましたし······まさかっ)

 

 「······」

 「ひぃっ!?」

 

 何かを感じ取ったのか、ベルが小さく悲鳴をあげる。もしベルのほうから少女に近付こうものなら即座に天誅(アルクス・レイ)を撃ち込む準備はできていたのだが、その後は真面目に話し合いをしているようだったので見逃すことにした。

 

 最後まであのニイナとかいう子はベルの隣から離れなかったが。

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