一級魔法使いアウラの日常 作:失踪のフリーレン
一級魔法使い試験編が始まりましたが、やっぱり声がつくとまたキャラの魅力が一層増しますね。
聖都シュトラール
断頭台ハウスの一室にて──────
火にかけられた大中小三つの鍋がコトコトと煮え立っている。
コンロの前に立っていたエプロンをしたアウラは大きい鍋の中身を小皿に取って味見をする。
少し薄かったのか顔を上を向いて考えていたが、塩をほんの少し足し味を調える。
そして改めて味見をしたスープは、先ほどよりも美味しいものが出来上がっていた。
うん、いいじゃない、いいじゃない、と思わず笑みを浮かべる。
スープの鍋に蓋をし、中くらいの鍋の方へと視線を移す。
蓋を開けるとそこには白い液体を泳ぐ穀物達の姿があった。
それを小皿に取るとふわりと牛乳の甘い香りが広がる。
一口食べると舌の上でもちもちする麦の食感が楽しい。
噛めば噛む程出てくる甘味がとても心地よい。
これには思わず顔が綻ぶ。
そして最後に残った小さい方の鍋を見る。
開けると湯気と共に香ってくる果実と香辛料が混ざった匂い。
こちらも味見をしてみる。フルーティーな味わいの中にほんのり混じるスパイスのアクセント、
これはこれでまた良いものじゃないと思いながらアウラは満足げに微笑んだ。
最後の仕上げに『お酒からアルコールだけを抜く魔法』を鍋にかけるとすべての鍋の火を消し、料理に使用した道具を洗い始めるのであった
アウラはエプロンを外しながら、キッチンから部屋へと移動する。
部屋のベッドの上にはしおしおの表情をしたエルフの少女が腹を抱えながら苦しそうにしている。
そんな姿を見てアウラは心配そうな表情を浮かべる。
「調子はどう?フリーレン」
「だ め」
「ダメかあ・・・・・・」
この様子だと少なくとも今日一杯はベッドの住人だろう。
とりあえず、部屋の椅子をベッドの前に移動させて腰を下ろした後、フリーレンへ語りかける。
「とりあえず、何か食べれるか分からなかったからスープとお粥とホットワインを作ってきたけど何かお腹の中に入れれそう?」
「固形物は無理ぃ」
「そう・・・じゃあスープだけならどう?」
「それならいけそうだけどもう少し後のほうが嬉しいかな」
「わかったわ、もう少ししたら持ってきてあげるわね」
「ありがとぉ~」
弱々しい声で感謝を述べるフリーレンに笑顔で返すアウラ。
そして彼女は優しい声色のまま話しかける。
「じゃあ、その間どうしてお腹を壊したのか教えてくれるかしら???」
その言葉を聞いた瞬間元々血の気が無かったフリーレンの顔色が青ざめる。
「いや、あの、それは、えっと・・・」
「ほら、ちゃんと言ってくれないと分からないでしょう???」
優しく諭すように言うアウラの言葉を聞きながらもフリーレンは冷や汗を流していた。
「あの、もしかしなくても休みの日の早朝に叩き起こした事怒ってるよね?」
「怒ってないわよ???」
「絶対嘘だ・・・、目が笑ってないし・・・」
「大丈夫よ、ちょっとした仕返しだから」
「全然安心できないんだけど」
「・・・・・・」
「分かった、話すからその笑顔やめて怖いから」
「よろしい」
観念してフリーレンは事の顛末を話し始めた。
◆◆◆
時間は巻き戻り日付が変わって少し経った頃──────
明日が休みであったフリーレンは買ったまま積んでいた魔導書を読んだりと久々に夜更かしを楽しんでいた。
そして1冊目を読み終わり2冊目も半分ほど読んだあたりでフリーレンは顔を上げる。
「お腹すいちゃったな・・・」
彼女のお腹が空腹を訴えてきたのだ。
何か摘まめるものでもないかと棚を漁るが特に何も見つからない。
仕方が無いのでキッチンへ向かい貯蔵庫を見てみると奥のほうに何かあるのを見つけた。
手を伸ばして取り出してみると貝のオイル漬けの瓶だった。
これいつのやつだっけ・・・?と疑問に思いつつ封を開ける。
一応海産物なので慎重に観察をしたが特に変な臭いはしないし、見た目も腐ってるような感じではなかったので火を通せば行けるでしょと思い、フライパンへ1瓶全部入れて炒める。
そして出来上がったものをフライパン毎テーブルへ運んで手を合わせる。
「いただきます」
プリっとした身を口へ放り込む。
噛んだ途端に口の中に広がる海の味、噛めば噛むほど溢れ出る旨味がとても美味しく感じる。
「うひょー、これはお酒が要るね」
と独り言を言いながら持ってきたワインをグラスに注いで呷る。
こうなるともう止まらない、食べては飲んでを繰り返しあっという間にフライパンは空となっていた。
その後、おなかも膨れいい感じに酔いも回ってきた為か、眠くなってきたので後片付けを済ませ寝室へと向かいベッドへと潜り込んだのであった。
~~数時間後~~
「ぬ゛ぅ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」
フリーレンは腹痛と吐き気により目を覚ました。
顔から脂汗をダラダラと流し、腹を押さえながら体を起こす。
酔いと痛みと気持ち悪さにより回らない頭を必死に回し、任務や各々の仕事などで不在にしていることが多い断頭台ハウスの住人の中で自分と同じく本日が休みである人物を思い出すと、使い魔を呼び出しサイドテーブルの上にあった紙を手に取りアウラに助けを求める内容を殴り書いて託す。
使い魔は主人の雰囲気を察したのか大急ぎでアウラの元へ飛んで行った。
その後手で腹と口を押さえ何とかベッドから這いずり出ると芋虫のようにうねうねとしながらトイレへと向かう。
やっとの思いでドアの前にたどり着くとフラつきながらドアノブに手を掛け扉を開きギリギリの所で尊厳を守ったのであった。
◆◆◆
「馬鹿じゃあないの?」
話を聞き終えたアウラはジト目になりながら言った。
「いや、でもさあ・・・」
「デモもストもないわよ、まったく日も登る前に叩き起こされた上にこんな文見せられて本当にびっくりしたじゃない。」
そう言いながらアウラは『ぼすてけぽんぽんの調子がくぁwせdrftgyふじこlp 』*1と汚い字で殴り掛かれた紙をぴらぴらと振る。
「ごめんなさい・・・」
「今回はたまたま私が非番だったから良いけど、昔と違ってヒンメルはもう居ないんだから気をつけなさいね、いい?」
「はい・・・」
「じゃあ、反省できたなら今日一日ゆっくり休みなさい、わかった?」
「うん・・・わかったよアウラママ、あとママが寂しいから今日一日近くに居てくれない?」
「ママ言うな、まったく調子がいいんだから。ま、あんたのコレクション読ませてくれるなら居てやらんでもないわ」
「わ~い、ママ大好き」
「だから、私はあんたのママじゃないじゃない」
そんなやり取りをしながらフリーレンはベッドに横になるとすぐに寝息を立て始めた。
アウラはそんなフリーレンを見てやれやれといった浮かべると、そっと本棚から魔導書を手に取り読み始める。
フリーレンが次に目覚めた時には、既に夜になっており、アウラが隣で本を片手に椅子に座っていた。
「起きたのね、体調の方はどう?」
「ん、だいぶ良くなったみたい」
「そう、それは良かったわ。それで何か食べれそう?」
「まだ固形物はちょっと無理かも」
「分かったわ、スープ温めてくるわね」
「ありがと」
「別に気にしなくていいわよ」
アウラはサイドテーブルを起き上がったフリーレンの胸元の位置になるように移動させると、キッチンへと戻っていく。
戻ってきた彼女の手には小さな器に入った黄金色に輝くスープとスプーンがあった。
それをサイドテーブルの上に置くと再び彼女はベッド横にあった椅子に座る。
「はいこれ、熱いから注意しなさいね」
「んーありがと」
目の前の机に置かれた器を受け取るとフリーレンはスプーンを手に取り口に運ぶ。
その瞬間、濃厚でコクのある味わいが口いっぱいに広がり芳しい薫りが鼻腔を通り抜ける。
具材は細かく刻まれており食べやすくなっており、野菜の旨味が溶け込んだスープが傷んだ胃に優しく染み渡って体の内側がじんわりと温かくなっていくのを感じ、思わずホッと一息ついてしまう。
ゆっくりと噛み締めるようにして飲み干し、満足げな表情を浮かべながら一言
「おかわりあるかな?」
と聞くのであった。
「その調子ならもう大丈夫そうね、今持ってくるから少し待ってて頂戴」
そう言い空の器を受け取ってキッチンへ戻るアウラの顔はどこか嬉しそうな笑顔であった。
フリーレンの看病を終えたアウラは、自分の部屋に戻ると寝支度をしつつ今日を振り返っていた。
早朝から彼女に振り回されて疲れてしまったけれど、何だかんだ言って悪い気はしていない自分に苦笑してしまう。
ふと、目線を動かすと壁に飾られている既に亡くなって久しい
アウラはしばらくそれを見つめると、
(ヒンメルもフリーレンには相当手を焼かされたのでしょうねえ)
と初恋を実らせ幸せな生涯を送った勇者の事を思い出しながらアウラはベッドへと潜り込み眠りにつくのであった。
【断頭台ハウス】
聖都に構えるアウラの家
嘗ては貴族の屋敷だったが部屋数が多く持て余したため各部屋をリノベーションし知り合いに格安で貸している
なお麦粥とホットワインは翌日フリーレンがおいしくいただきました