一級魔法使いアウラの日常 作:失踪のフリーレン
風もなく、草木は寝静まり、虫の声も聞こえないような夜の深夜の平原。
その闇夜を照らす満月の下、二人の少女が対峙していた。
一人は背後に数多の人形を侍らせ手には十字版を持つ氷のような微笑みを浮かべる少女。
そしてもう一人は、月明かりにより黄金の髪を輝かせ、その手に装飾が施された杖を携えた燃えるような瞳の少女だった。
「久しぶりだねヴァーゲ」
「そうねえ、80年ぶりかしらフネラーレ」
二人はお互いを見つめあいながらただ静かに時が流れていく───
先に動いたのはヴァーゲの方だ。手に持つ十字版に魔力を込めると背後に控えていた人形が一斉に襲い掛かる。
しかし、そんな状況でもフネラーレは全く動じず襲い掛かる人形の攻撃を時には回避し、時には防御魔法を発動して受け流していく。
暫く人形達の猛攻を凌いでいたフネラーレだったが、突然防御の手を止めるとそのまま空高く飛び上がり、人形達から距離を置いて地面に着地した。
「どう?フネラーレ。私の人形は強いでしょ?」
得意げに話すヴァーゲだが、対するフネラーレは無言のまま何も答えようとしない。
不思議に思ったヴァーゲが首を傾げると、次の瞬間、先程までフネラーレを攻撃していた全ての人形が突如として崩れ落ちる。
「・・・・・・驚いた。私の傀儡魔法が解除されるなんて、初めてだわ」
目の前で起きた光景を信じられないといった表情で見つめているヴァーゲに対し、ようやく口を開いたフネラーレはこう告げた。
「あれから80年経ったんだ、返し技の1つくらい思いつくさ」
「なるほどねえ、つまり今のは貴女なりの挨拶ってわけね」
ヴァーゲは頭を冷やしつつフネラーレを分析しながら考える。
(見たところ解除魔法は燃費が悪い。そして彼女から漏れ出ている魔力量は私の魔力の2割程・・・。)
そして今度は崩れ落ちた人形へ目を向ける。
(人形も破壊されたわけではない。これなら再契約すれば良さそうなのだけれども、このまま持久戦を仕掛けて大量に解除された人形を1体1体再契約する手間を考えたらさっさと決めたほうが良さそうね。)
「ならそのご挨拶のお礼に私の切り札をお披露目しようかしら!」
手に持つ十字版の魔力を解放すると、十字版はヴァーゲとフネラーレの中間辺りの上空へ移動し透明な魔力の糸を吐き出す。
瞬く間に糸は二人を繋ぎ、魔力の鎖となって繋がり合う。
「これがお前の傀儡化のやり方か」
「冥土の土産に教えてあげるわ、私の十字版は対峙した者同士を糸で繋ぎ合わせ魔力が高い方を主人と認定し、魔力の低い方は主人の操り人形になる。つまり貴女の魔力じゃ私には勝てないってことよ」
「なるほどね、丁寧な解説どうもありがとう」
余裕を見せるフネラーレにヴァーゲは怪訝な顔を浮かべる。
「貴女、自分の状況を理解してないわけ?この勝負もうついてるのよ」
「そうだね、もう勝負はついてるね」
「は?何を言って──────
ヴァーゲが言い終わる前に、ヴァーゲの体に異変が起きる。まるで体が石になったかのように全く動かせなくなったのだ。
「な、これは一体!?」
必死に藻掻こうとするヴァーゲを見てフネラーレは自分の手元へ移動してきた十字版を手に取り笑う。
「簡単な話だよ。私が今までずっと体外へ溢れる魔力を抑えてただけ。そして魔力を解放させたことで十字版は私を主人と認めたんだ」
「そ、そんな・・・」
呆然とした表情をするヴァーゲを見つめフネラーレは楽し気に笑いながら近づいていく。
「君を初めて見てから80年、この80年は1000年を生きた私の中で一番長かった・・・」
先ほどまでヴァーゲに従っていた人形も新たな主人を歓迎するように傀儡と化した彼女まで至る道を開けていく中、ついに彼女の目前にまで近づいたフネラーレは───
「でもこれでやっとお前を手に入れられた」
「え?」
フネラーレはヴァーゲを強引に地面に押し倒すと彼女の唇を乱暴に奪い──────
じゅるっ♡♡♡ぶっぢぃゅるるるるるっ♡♡♡ずぞぞぞっっ♡♡♡♡♡♡♡♡
「いや、おかしいでしょっ!!」
フリーレンから初めて叡智本*1のネームを作ったから見てほしいと言われたアウラは、思わず立ち上がり手をテーブルに叩きつける。
「えぇ・・・、そんなにおかしいかなあ」
「おかしいわよっ!!」
身を乗り出して声を上げるアウラに若干気圧されつつもフリーレンも言い返す。
「おかしいって言われても・・・。具体的にどこら辺なの?」
「そうね、やっぱりキスの下りでしょ。戦闘から傀儡化まであんなに丁寧にやっておいてなんであそこで雑になるのよ。そのせいで一気にギャグみたいな感じになってるじゃない」
「え、これって雑だったの?ヒンメルは私とキスするときはいつもこんな感じだったんだけど」
「・・・・・・知りたくなかったわぁ、その情報。ともかく今のこの描写だと温度差がありすぎて風邪ひくわよ」
親友の生々しい情事の話を耳にしてゲンナリしつつアドバイスを送るアウラであったが、そこに追撃するようにフリーレンが言葉を重ねる。
「それなら逆に聞いていい?アウラなら決着からキスまでの流れをどう描くの?」
「そうねぇ、確か80年越しの恋を拗らせた女の子が遂に欲しいものを手に入れて最初はやさしくするんだけど、次第に欲望に負けて激しくなっていく感じで行きたいんでしょう?私だったらやっぱり―――」
と言いつつアウラは頭の中で繰り広げられる物語をペンを走らせ描写していく――――――
「でもこれでやっとお前を手に入れられた」
「え?」
フネラーレはヴァーゲの顎へ手をかけると上を向かせるとそしてそのまま顔を近づけそっと唇を重ねる。
突然のことに驚いたヴァーゲだったが不思議と嫌な感じはなくむしろ心地よさを感じていた。
しばらく唇が触れ合うだけの優しい口づけが続いたが、やがてフネラーレの舌がヴァーゲの唇をこじ開けて口内へ侵入する。
「んっ・・・ふぅ・・・」
舌同士が絡み合い唾液を交換しあう。
「ちゅる・・・れろぉ・・・んっ・・・」
最初はぎこちなかった動きも徐々にスムーズになり二人はまるで踊っているかのように激しく求め合った。
激しいディープキスを交わしながらフネラーレの手がゆっくりとヴァーゲの体を背中から腰にかけて優しく何度も往復するように撫でまわす。やがてその手がスカート越しにヴァーゲのお尻に触れるとビクッ!と反応し強く抱きしめられる。
「ぷぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
やがて長い時間をかけようやく二人の唇が透明な糸を引きつつ離れるとお互い息がかかるほどの距離のまま顔を見つめあう。
ヴァーゲの顔はすでに赤く染まり目は潤みトロンとしている。そんな表情を見てフネラーレは満足そうに微笑むと
「これからはずっと一緒だからね私のヴァーゲ」
「ふぁ・・・ふぁい」
そう言って再び唇を重ねに行き、ヴァーゲもそれを受け入れるのであった。
「どう?可能な範囲で描写は頑張ったつもりだけど」
アウラのネームを見終わったフリーレンは鼻血を垂らしながら呟く。
「えっちだ・・・」
「そう、なら良かったわ。じゃあこれを参考にしてあとは自分好みで調整して描いて頂戴」
「うん、わかったよ。ありがとうアウラ」
「別にお礼なんていらないわ。じゃあ私は自分の原稿に戻るから」
こうして二人はお互いの原稿を描き始めた。
◆◆◆
それから数時間後、原稿から目を離しして一息つくアウラへフリーレンは尋ねる。
「ねえアウラ、ちょっといいかな?」
「ん、何かわからないことでもあった?」
「ううん、違うんだ。ちょっと二人のキスシーンのポーズを決めるのに手伝って欲しくてさ」
そう言ってフリーレンは少し照れながら顔をそらす。
そんなフリーレンの様子を見てアウラは目が疲れていたのもあり休憩も兼ねて付き合うことにした。
「で、どういう風にしたいってわけ?」
「今考えてる感じだと覆いかぶさるような感じの構図が欲しいと思ってるんだけどどうかな?」
「ふむ、いいんじゃないかしら?でもそのシチュだと互いの指と指を絡ませたりする描写が欲しくなるわねえ」
「んーちょっとよくわからないや。こうかな?」
そう言いながらフリーレンは立ち上がり両手を差し出す。
するとアウラは差し出された手を指が絡むような感じに握り返して顔の横に持ち上げつつ答える。
「まぁ、大体こんな感じかしらね」
「成程、こうやって手の握り具合で行為の強弱とかが表現できるのか」
アウラの手をにぎにぎと揉みながらフリーレンは言う。
「そういう事。後は自分で上手くアレンジしてみて頂戴」
「うん、ありがとうアウラ。なんとか納得いくものが描けそうだよ」
「そう、それはよかったわ。じゃあそろそろ手も疲れてきたしこの辺にしておきましょうか」
「そうだね」
そう言いながら二人は握っていた手を放そうとする。
しかしその時、突然ドアが開かれリーニエとフェルンが部屋の中へ入ってきた。
「アウラ様、フェルンが叡智本の原稿に行き詰ってて気分転換にお茶会しようって誘いに・・・・・・
「リーニエ様、そんなノックも無しに入られては・・・・・・
「「あ」」
そして二人の目にはアウラとフリーレンが手を繋いだまま固まっている姿が映され・・・
次の瞬間、リーニエとフェルンと矢木に電流走る──────!!!!!
「ねえ、二人とも大丈夫・・・?」
固まってしまったフェルンとリーニエにフリーレンが声をかける。
するとようやく我に帰った二人が口を開く。
「ありがとうございますアウラ様、お陰でインスピレーションが湧いてきました」
「アウラ様、フェルンにアドバイスありがとう。後でお礼のお菓子持ってくるね」
そう言い残しリーニエとフェルンは足早に部屋を出て行った。
アウラとフリーレンは部屋を出ていく二人を見送ることしかできなかったが、やがてフリーレンがが口を開いた。
「なんか勘違いしてそうだからフェルンの所に行って誤解解いてくるよ」
と言ってフリーレンはアウラから手を離すと足早に部屋を出ていくのであった。
◆◆◆
部屋に一人残されたアウラは散らばったネームや道具を片付けつつ、改めてフリーレンのネームを見直していた。
(しかし、なんかこのヴァーゲとフネラーレが対峙する場面になんとなく既視感を感じるのよねえ・・・)
そう思いながらもネームを読み進めていくうちにある事に気がついた。
(あれ?そういえばフリーレンって昔は魔力を制御してたって言ってたような?それにこの魔力で相手を支配するなんてまるで私の天秤みたい・・・)
そしてその考えに至った時、アウラの背に冷たい汗が流れる。
もしもヒンメルが魔王様を討伐後に魔族と人類の共存の為に動かずに敵対したままフリーレンと対峙した場合、自分の考えが正しいとすれば、フリーレンの描いている物語の人形遣いのように自分の魔法を返される未来を迎えていただろう。
もしそうなれば、フリーレンは容赦なく私を──────いや、止そう。
アウラはその先を考えるのをやめた。
今のアウラはこうして友人や部下と過ごす穏やかな日々を過ごしているのだから・・・。
(でも・・・)
アウラは顔を上げ壁に飾られいるヒンメルの写真を見つめる。
(偶には墓参りにでも行ってあげるべきかしらね。ついでにあの生臭坊主の墓に酒でも備えに行って・・・、帰りがけにアイゼンの所に顔を出すのも悪くないわね)
その時には