ラノベ廻戦   作:悲しいなぁ@silvie

1 / 15
タイトルなんて長ければ長い程良いしなんなら本編より長くしていけ

昔から、見えてる地雷を踏みに行くのが好きだった。

音楽はジャケ買い以外したことが無いし、小説はタイトルがあらすじよりも長そうなヤツを好んで買ってたし、ゲームは販売元が潰れたとかそういうのを自然と選んでた。

別に、駄作好きとかそういうのじゃなく……こう…なんだろうか、それを聞くなり読むなり見るなりしたという経験を含めて笑い話になるような作品が俺は好きなんだ。

素人ホームビデオみたいなクソ映画だってクソだとわかってネタにするには笑えるし、コピーバンドかと思ってジャケ買いしたらプログレ演ってて度肝を抜かれたりも楽しめる。

パロディとパクリの境目ギリギリを攻める緩い時代だったからこそ許されたクソゲーだって趣があって俺は好きだ。

 

主人公がテンプレご都合盛り盛りのラノベだって意外に悪くない、だってテンプレってのは王道って事だから。

王道ってのは良い…先人達が切り拓いてきた絶対に熱くなってワクワクさせてくれるお約束ってヤツだからだ。

 

 

ところで、ギャグと鬱ならどっちが良い?

……いやまぁ、唐突で極端な問だとは自覚しているがそれでも腹を立てずに少し考えて欲しい。

 

 

 

これは、俺は前者の方が良い…そう思ったってだけの話だ。

 

 

 


 

俺、虎杖悠仁は転生者である。

死んだときの事はあんまり覚えがないが…前世で()った数々のクソゲーやクソ映画達の事は昨日のように思い出せるし、何よりも───虎杖悠仁を、『呪術廻戦』を俺は知っている。

 

呪術廻戦、クソ好きと言われると遺憾だが…確かに世間一般の好みとはややズレている俺が手を出していた数少ない名作の一つ。

週刊少年ジャンプで連載されている少年漫画で虎杖悠仁は正にその主人公の名前だ。

……しかしながら、呪術廻戦の主人公になった!と声高々に俺が喜ぶ事は無かった。

だって………呪術廻戦は、主人公を虐め抜くタイプの漫画だからだ。

主人公に試練を与え、それを乗り越えさせる事で成長する様を見せる…と言えば俺の大好きな王道展開だしテンプレってやつだ。

それも、ただのテンプレじゃない…ド級のテンプレ、ドテンプレだ。

だが、呪術廻戦の試練は……そうじゃない。

昨今の流行り…?らしいが、乗り越えさせる気が一切無い試練というより苦行染みた数々は読んでいた俺の心ごと虎杖少年の精神を圧し折った。

 

だから、俺は虎杖悠仁に転生して思ったのだ。

そんなにも残酷で救いのない世界なら…俺の大好きなクソラノベにしてやろう、と。

 

そう思ってからは早かった。

俺はすぐさま名前を変えた…改名手続きって案外安いな、二千円ぐらいで名前が変えられるとは思わなかった。

虎杖とは、ある植物の名前だ。

日本原産のその植物は古くは傷薬として使われた事から痛み取り転じてイタドリと呼ばれるようになったとか…

他にも食用にされたりだとか色々あるが…イタドリの有名なところはそこじゃない。

イタドリは非常に生命力の強い植物として知られる…良くも悪くも。

侵略的外来種…それも世界の中でもワースト100に名を連ねるのがイタドリだ。日本のお外では悪魔の植物として忌み嫌われているらしい。

 

勿論、痛み取りとしてのイタドリを否定する気も無ければ生命力に溢れる太陽のような虎杖悠仁を否定する気も俺には更々無い。

でも、これは一つのケジメ…そして俺の覚悟だ。

この世界を……呪術廻戦をクソラノベにしてやるという俺の覚悟。

イタドリを捨て、新たな名をもって生きる。

 

そう───ユグドラシル悠仁として!!!

 

 

 

 


 

 

「なんだこのラグビー場…死体でも埋まってんのか?」

 

呪術高専一年、伏黒恵はあまりにも濃い残穢に眉を顰めながら周囲を注意深く探っていた。

今回、彼が自身の師である五条悟から言い渡された任務は特級呪物【両面宿儺の指】の回収である。

特級呪物…呪術規定によって定められた最高危険物に冠される等級であり、2級術師である伏黒には本来荷が重い任務である。

しかし、呪物達はその多くが自身に不可侵の縛りを科す事で如何なる場合にも破壊されない事で現代まで時を重ねている。

つまり…回収のみであるならば2級術師である伏黒にとってなんら問題ない任務であった。

回収のみであるならば…

 

「面倒だな…本当」

 

五条から受けた情報では、件の呪物はグラウンドの百葉箱に保管されていると聞いていた。

問題は、其処に呪物が無かった事───()()()()

 

問題は、1枚の書き置き。そしてその内容であった。

 

伏黒はなおも周囲へ気を張り巡らせ、自身の式神を使い探索するが…その顔には明確な諦めと苦虫を噛み潰したようなソレが浮かんでいた。

実際、伏黒も呪物がそれで見つからないと理解していた。

理解はしていたが…それでも探さざるを得なかった。

 

書き置きにはただの一文のみ。

 

 

指が欲しくば19時、1-Aにて待つ

 

 

誰が書いていて、なんの為に置いているのか…それはわからないが伏黒にはこの書き置きに乗る以外の選択は無かった。

 

(コイツは呪物を明確に指って書いてる…現物こそ見たことは無いが資料で見た両面宿儺の指は呪符に包まれて中身は見えてなかった

あまりにも強い呪い…呪符が紙切れになってる可能性は高い

剥がれて中身が見えた…?それとも………最初からソレを指と知っていた?だが、だとしたらなんの為に……

いや、そもそもなんでコイツは指を回収しに来ると知っていた?)

 

「……駄目だな、考えようにも情報が少なすぎる

ていうか、呪物が無い時点で五条先生(あの人)の領分だろ」

 

伏黒は天を仰ぐと大きくため息をつく。

昨夜、この書き置きを発見した時点で五条にその内容と共に報告はしてある…が、

 

『マジ?良かったじゃ〜ん!これで行方不明からランクアップだね!

じゃ、後よろしくね〜!』

 

返って来たのは電話越しでもニヤケ面が伝わる返しのみであった。

 

つまり、伏黒には19時まで時間を潰す以外の選択が無くなっていた。

 

「せめて、昨日の昼ぐらいから探せてたらな…今日一日ほとんど無駄になっちまった」

 

もしかすると書き置きの主が百葉箱を確認に来るかと一日中式神と交代で張り込んでいたが、来たのは年配の用務員と温度計を確認しに来た教師だけだった。

それならば仙台くんだりまで来たのだし観光でもしてやるか!とはならないのが伏黒恵という男である。

 

 

 


 

 

夜、人気の無い校舎を歩く影が一つ。

伏黒は夜闇に目を慣らし、廊下や教室を慎重に確認していく…

 

「1-A…ここだな」

 

その全てが、徒労に終わるだろうと感じながら。

誰も居ない…のではない。

1-Aの教室のみ灯りが点もっているのだ…()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(帳…いや、結界術か

扉を開けたら領域でした…なんてのは流石に無いと思いたいが…)

 

伏黒の中で書き置きの主が呪術師であることが確定する。

問題は…どの程度(レベル)の術師であるか。

2級術師である自身より上か下か…

自身が逃げ切る事が出来るか否かである。

 

伏黒は長く細い息を吐いて、教室の扉に手を掛けると一気に開く。

 

「これはこれは…随分な挨拶だな

ファーストインプレッションは大事だぞ?」

 

中に居たのは……

 

(学生!?しかも俺と同い年(タメ)ぐらいか…?)

 

淡いオレンジとも、ピンク色ともとれるような髪をした少年が机に腰掛けて此方を向いていた。

 

「さて、肝試しでも無ければ書き置きを読んだ筈だな?

君は…何処のどちら様かな」

 

(情報が少なすぎる…ここは素直に名乗って同調圧力で向こうにも喋らせる)

「……呪術高専から来た、一年の伏黒恵だ」

 

「呪術高専…成る程ね

俺は杉沢第三高校一年のユグドラシル悠仁だ」

 

(この反応…呪術高専を知ってる?コイツ、マジで何も……)

「………は?」

 

「ん?聞こえなかったか、杉沢第三高校一年のユグドラシル悠仁だ…タメ歳だな伏黒君」

 

「ユグ……偽名か?」

 

「君、マジに第一印象最悪だぞ……

疑うなら学生証でも保険証でも出すぜ?」

 

少年はそう言うと伏黒に手帳を放る。

一瞬罠かと身構えるも、もし罠だとするとタイミングがおかしいと断じて確認する。

渡されたのは…確かにユグドラシル悠仁と記載された学生証と保険証であった。

 

「あー…っと、悪かったな疑って」

 

「まぁ構わんよ、悲しい事に疑われ慣れてるしな」

 

そりゃそうだろ、と喉まで出掛かった言葉を呑み下しながら伏黒は少年を注意深く観察する。

 

「お前…何者だ?なんで指の事を知ってる?」

 

「いきなりだな、もう少し間に挟まないか?普通…

いや、挟んでるのか…そもそも指を回収しに来てるんだもんな」

 

相手から感じる呪力は…甘く見積もっても3級程度。

少なくとも自身が逃げる事すらできない相手ではない。

この時点で、伏黒の思考に威力偵察のカードが入る。

 

「俺は……いや、百聞は一見に如かずだな」

 

少年はそう言うと机から降りる。

 

「これは…ッ!!」

 

それと同時に…少年の身体から禍々しい呪力が溢れ出た。

 

(冗談じゃない…!この圧、3級どころか…コイツ、特級か!?)

 

窓枠が揺れ、ガタガタと音を立てる。

物理的な圧が生じる程の呪力の放出…それを可能とするのは、伏黒が知る限り二人のみ。

特級を冠する規格外のみであった。

 

「お前…まさか……」

 

(想定は幾つかしてた…してたが……!

最悪の万が一、書き置きの主が───)

 

「喰ったのか!?指を!」

 

(──特級呪物、両面宿儺として受肉していた場合!)

 

伏黒は冷や汗と共に叫ぶ。

 

「………初対面だが、俺は既に君が嫌いになってきたな…

こんな危険物を見境なく口に入れる阿呆だと思っています、と言外に言ってるぞソレ」

 

しかし、少年の手元にある真新しい呪符に包まれたソレと少年の冷めた目で一気に張り詰めた空気が弛緩した。

 

「………は?」

 

「は、じゃないが?コレだろ探し物は

特級呪物、両面宿儺の指…ああ、呪符は新しく貼り替えたから問題ないぞ

残穢も貼り替えた時に漏れ出た分だ、じきに無くなるさ」

 

軽くそう言うと呪符に包まれた指を伏黒に投げ渡す少年。

 

「…………お前、マジで何者だ?」

 

「質問が多いな伏黒君、会話とはドッヂボールじゃないんだぜ?

まぁ、強いて言うなら…何処にでも居る一般的男子高校生ってヤツさ」

 

(………ブラフか?渡してきたのは確かに呪物だが、コイツから感じる呪力は明らかに……呪霊のソレだ)

 

逃げるべきか…伏黒がそう考えていた正にその時、彼の肩を気安く叩く手が。

 

「ヤッホ〜!恵、今どういう状況?」

 

「五条先生!?どうして此処に…」

 

振り向いた先には、白髪に黒い布で目を隠す青年…五条悟が立っていた。

 

「来る気無かったんだけどさ〜流石に特級呪物の盗難ってなると上が黙ってなくてね、観光がてら馳せ参じたって訳」

 

五条はそう言いながら伏黒の手元を見る。

 

「っていうか、もう見つけてんじゃん!!

もう〜これじゃ僕喜久福買いに来ただけだよ!」

 

伏黒は五条から自身の()について聞かされている。

つまり、その五条が見つけていると断言した時点でコレは本物の特級呪物。

 

「……あれ?でもこの封印、かなり高度だね…僕、恵にこんなの教えたっけ?」

 

伏黒から呪物を受け取ると目隠しを押し上げながら呟く五条。

伏黒は渋々、件の少年を指差す。

 

「教わってませんよ……これはコイツがしたらしいです」

 

「………………マジ?」

 

「「マジ」」

 

二人の声が重なる。

五条は目隠しを完全に外すと少年の前に立つ。

吸い込まれそうな程に美しい、宝石のような瞳が少年へ向けられる。

 

「………へぇ、君…名前は?」

 

面白いものを見た、と言うように笑う五条。

少年は不敵な笑みと共に答える。

 

「ユグドラシル悠仁だ」

 

「ユグドラ……プッ、アッハッハ!!

君!ナイスギャグセン!!」

 

「………五条先生、マジでコイツはユグドラシル悠仁です」

 

「…………………は?マジで??」

 

「……既に俺は、君達が嫌いだな」

 

信じられないと目を見開く五条と気まずそうな伏黒に少年は大きくため息をつくのだった。

 

 

 


 

 

 

「特異体質、というヤツでな…俺は呪物を経口摂取する事でその呪物が持つ呪力とあるなら術式を得ることが出来る

と言っても大体は消化するまで…長くても呑んでから半日ぐらいの間だけだがな」

 

少年は並べた椅子に三人で向かい合わせに座りながらそう言った。

 

「へぇ~、大体はって事は例外も有る訳だ

その例外が今の君の呪力って事かな?」

 

再び目隠しを着けた五条が喜久福を頬張りながら少年に訊ねる。 

 

「そうだ、等級にして1級以上の呪物は消化後も呪力が(のこ)る…残念ながら術式は無くなるがね」

 

「ふぅん……特級呪物の場合も?」

 

「さぁな…今まで喰ったのは1級呪物まで、特級呪物など見たのもコレが初めてだ」

 

「………ま、そりゃそうだ

滅多にないから特級って言うんだしね」

 

でも…と、背もたれを抱きかかえるようにして座る五条が続ける。

 

「君、えらく呪いに詳しいね…誰に習ったんだい?」

 

「……さて?全てが我流でな…特に師事を乞うた事はない」

 

「ふぅん………君、結構嘘つきだね」

 

ニヤケながら…しかし、息が詰まる程の威圧感と共に五条が呪物を取り出す。

 

「この封印、見覚えあってさ…シン・陰でしょ

でも、シン・陰流は門外不出の縛りがある…僕の知る限りこの練度のシン・陰使いは数人だ、日下部に見習わせたいくらいだよ

で……君、誰から習ったの?」

 

「……門外不出の縛りが科せられるのは簡易領域のみだがな」

 

「認めるんだね」

 

「…15年間、血反吐を吐いて磨き上げた」

 

「………?」

 

少年は椅子から立ち上がると机に載せていた大きなバッグを手に取る。

 

「強くあらねば、叶わぬ夢がある…しかし、自分が今どの程度の領域(レベル)かがいまいちわからなくてな」

 

強い呪力と敵意が、五条悟の全身を打つ。

 

「とびきりの強者と見受ける…一つ、手合わせ願おうか

そちらが勝てば、その問いに答えよう」

 

バッグのジッパーを開ける、その中には…夥しい量の、呪物。

 

「イイね!任せといてよ…僕、最強だから」

 

「なら…その顔を殴り飛ばせば此方の勝ちとしよう」

 

「アッハッハ!!指一本でも触れたら…にしといてあげるよ

あと、僕が勝ったら───君、高専の生徒ね!」

 

「なっ…!本気ですか五条先生!?」

 

「本気も本気…大マジさ

この業界は人手不足…優秀な人材は常に大歓迎だよ!」

 

五条もまた立ち上がるとバキバキと身体をほぐしていく。

 

「別に、此方が勝っても高専には編入しよう…元からそのつもりで書き置きを置いていたしな」

 

「あらら…そうだったんだ」

 

「だが…高い鮨屋を知っていてな

俺が勝ったら、連れて行って貰おうか」

 

その答えに、五条は笑う。

 

「いいね…恵は覚えは良いけど素直過ぎてね

これぐらい生意気な方が……鍛え甲斐がある」

 

「グラウンドへ出よう、教室を壊しては申し訳が立たん」

 

仙台の夜闇に紛れ、最強の呪術師と謎の少年の奇妙なマッチアップが…始まる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。