ラノベ廻戦   作:悲しいなぁ@silvie

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行き過ぎればギャグとなり控え目過ぎればタイトル詐欺となる、そう無双モノとはクソラノベに似ている

少年の戦杖が、拳足が、削るように真人の肉体を消し飛ばしていく。

電気と同質の呪力を持つ少年の攻撃は防御(受け)を許さぬ破壊の嵐、その攻撃性能のみで評価するならば三人しか居ない特級術師に並びうる逸材。

更には幼少期より鹿紫雲一による容赦の無い鍛錬により、呪力の介在しない純粋な戦闘技術のみで見るならば、かの五条悟をも超える。

いかに術式の鍛錬を積んだとはいえ、実戦経験の浅い真人が見切れる程に甘い攻撃など一瞬たりとも有り得はしない。

 

しかし、現実は非情である。

 

「ゼェ…ゼェ……ヒュッ……」

 

呪霊である真人には、疲労という概念がない。

しかし、人間である少年は既に大粒の汗を垂れ流しながら息を荒げていた。

そも、格闘技において攻め側は防御を固めた相手よりも運動量が圧倒的に多い為に疲労の蓄積が多くなる…故に、防御を固め逆転を狙うという戦術がとられるのだ。

 

一撃…どころかワンタッチが致命となる真人と頭を潰そうが胸を抉ろうがなんの痛痒も与えられない少年との圧倒的格差。

攻めに転じさせない為に息もつかせぬ乱打を続ける少年…

少年と真人との交戦から実に4分53秒もの時間が経過していた。

 

(もうそろそろかな…?)

 

少年の乱打を受けながらも、真人は笑みを崩さない。

確かに肉体の修復で呪力は削られてはいるものの…削られるスピードは自然回復する量をほんの少し上回る程度。

このままでも一晩中攻撃されようと呪力切れは起こり得ないだろう…そして、最初に比べ明らかに精彩を欠き始めた少年の動きを見るにこの乱打はもって後数分だ。

 

(無駄な足掻きご苦労様っと)

 

真人は尚も手を止めぬ少年を見てほくそ笑む。

後数分で乱打は止まる────しかし、真人はそれすら待たずに少年の動きを止めた。

 

「悠仁…?それに真人さんも……なんで…」

 

突如として現れた闖入者に、少年の手が…否、少年の思考すらもが──停止する。

 

「順…平…?」

 

呆けたような呟きが漏れるように口から出る。

何故こんな所に?何故このタイミングで?何故吉野順平が来る?クソ映画鑑賞会で疲れて寝た筈なのに…

何故、何故、なんで……どうして…?

無数の疑問に、少年の手が止まる。

 

『や、順平』

 

真人は乱打が止んだ瞬間に身体を修復するとにこやかに順平へ手を振る。

まるで旧知の仲だとでも言うように。

 

「真人さん…!なんで此処に悠仁が……じゃなくて!その人は僕の知り合いで──」

「順平!!頼む、何も聞かずに俺の後ろに居てくれ!!」

 

順平が何かを言うよりも早く、状況の危険性に気付いた少年が順平の腕を引き自分の背後へ庇うように移動させる。

 

(原作…漫画では吉野君は真人と下水道で会っていた

偶々、偶々此処がそうだったんだ……いや、偶々と言うよりも当然か…七海さんが真人の根城を見付けたんだから、真人(コイツ)はそもそも動いちゃいないんだ

そして、吉野君は何時も通りに真人に会いに来て…今なんだ)

 

腹部に力を入れながら無理矢理に大きく息を吐く、特殊な呼吸法により無理矢理に息を整えながら少年は現状を整理していく。

 

(どういう訳か知らないが、真人(コイツ)…明らかに漫画より強くなってやがる……いや、どういう訳もクソも十中八九羂索のせいだろう

舐めやがって……吉野君は、俺が絶対に守り抜く)

 

時間にして僅か数秒で、少年は息を整え構え直す。

疲労こそ残るが、打ち合った真人の実力を鑑みるに吉野少年を庇いながらでも十分に逃げ切れるだろう。

 

(本当なら…俺が倒せるのが最善だったんだがな…)

 

七海建人の撤退から、優に5分は経過している。

帳が貼られている気配は無く、相手が使える真人以外の強力な駒は今現在極少数…まず間違いなく、援軍が来る。

撤退した七海が補助監督へ連絡し、『1級術師二人でも持て余す任務』として後詰めを寄越す筈だ。

そして、その後詰めは…この任務を七海に任せた張本人、特級術師五条悟以外に居ない。

 

現代最強の呪術師、かの最強の領域展開ならば真人であろうと問題無く始末できるだろう。

少年としてはここで自身が真人を始末できれば良し、それが無理でも七海が撤退する時間を稼げればそれで良かった。

注意すべきは両手のみ…しかも、初見ならばいざ知らず相手の術式の詳細を知った状態ならば時間稼ぎもさして難しい話ではない。

 

リスクとリターンを天秤にかけるまでもない、賭けとも呼ばぬ程の安定策……その筈だった。

 

 

どうして気付かなかったのだろう、一人でも撤退を許せば五条悟が来ることなど相手にとっても自明だというのに。

どうして気付かなかったのだろう、時間が掛かれば掛かる程に不利になる筈の真人が何時までも遊んでいたというのに。

どうして気づかなかったのだろう、自身と同じく結界術を得意とする羂索が帳の一つも降ろさずに下水道で真人を待機させていたというのに。

 

パン、と眼の前で真人が手を叩く。

 

『無為転変』

 

呟くように紡ぐその言葉は、死を振り撒く術式の名前。

 

どうして今、ソレを呟く?

 

「何を──」

 

疑問を投げかける少年の言葉は最後まで紡がれなかった。

激しい殴打音と共に少年が紙屑のように吹き飛ばされたから。

勿論、少年は真人から視線を切るような真似はしておらず…真人が改造人間や自身の分身を使った訳でもない。

少年は、真後ろから後頭部を殴られて吹っ飛んだ。

 

後ろには、誰が…?

 

頭の皮膚が裂け、血を流しながら…しかし少年は振り向けなかった。

無為転変を持つ真人から視線を切るのは危険だから?否

ただ、胸がざわめくような…胃液が喉のすぐ下までせり上がりチリチリと腹の奥底から胸までを焼くような不快感が強烈に少年の視線を固定する。

寝ても覚めても鍛錬漬けだった少年の持つ、攻撃した相手を探し出そうとする条件反射すらをも捻じ伏せる…第六感。

半ば確信染みた未来予想図は、けれど決して認めてはならず…到底認めたくはないもので───

 

『ゆう…じ……』

 

未だ地に這いつくばりながらも…研ぎ澄まされてきた少年の鋭敏な聴覚が、独り言に近い声量のソレを拾う。

 

何処かで…間違いなく何処かで、それも最近聞いた声。

 

答えはまだ───出せない。

 

『夏油に教えてもらったんだよね〜、術式の遠隔発動ってヤツ!

でも、これがあんまり便利なもんじゃなくてさぁ…先に俺の呪力でマーキングしとかないと使えないし遠くに居すぎてもダメだしで、正直使えないと思ってたんだけど……』

 

なんだ……コイツは、何を言って……

 

『ぶっつけにしては、中々のモンじゃない?』

 

ガン、と少年の頭が上から踏み付けられる。

何度も、何度も、何度も……額が割れて血が飛び散る。

それでも───見たくない見れない。

 

ソレを見てしまったら…少年は、ユグドラシル悠仁は終わってしまうから。

 

『なん…で……』

 

首元を掴まれ、吊り上げられた少年の視線の先には──

 

変わり果てた、吉野順平だったモノが居た

 

「あぇ……?」

 

なんで…俺はちゃんと修行して強くなって…

そういえばシャークネードを観てない

吉野君は俺が助ける筈で…

俺が、クソラノベに……

 

『アッハッハ!!あぇ…だってさ!!ひ〜!!』

 

ゲラゲラと真人が地に寝転がり足をばたつかせて、文字通り笑い転げる。

心底面白いと、思い通りにいったと、その顔が面白いと…

 

「……せよ

 

『ん〜?』

 

真人は目元に浮かんだ涙を指で拭いながら、僅かに声のした方へ顔を向ける。

その先では、今しがた改造人間になった吉野順平に投げ捨てられ地に這いつくばる少年がフラフラと立ち上がろうとしていた。

 

「治せ…治せよ…!今すぐに!!順平を治せ!真人ォォ!!」

 

未だに顔から複数種類の体液を流し、みっともなく吠える。

まるで癇癪を起こした子供のように。

しかし、それを見て真人は───

 

『オッケー、今直すよ!』

 

あっさりとそう頷いた。

 

「……は…?」

 

真人は少年の横を通り過ぎ、改造人間に触れる。

たったそれだけで、カバの化け物のような姿から元の吉野少年へとビデオの巻き戻しのように復元される。

 

「順…平……?」

 

少年が、オアシスを見付けた遭難者のように…吸い寄せられるように吉野少年のもとへ向かう。

良かった、これでまだ…俺は俺でいられる。

まだ誰も死んでない、だから…俺はまだ、俺でいても良いと自分に言える。

真人は危険だから、此処から順平を連れ出さないと…今度こそ、取り返しのつかないことに───

 

「順平!行こう…此処から逃げて」

 

考えもなく、眼の前に垂らされた糸に縋りついた少年に与えられるは───特大の、罰。

 

『ゆう…じ、どう……し、て…』

 

パンッ、と空気を入れた袋を叩き潰したような音が響く。

手榴弾のように歯や骨や肉が直ぐ側に居た少年の肉体を抉る。

血が、脳漿が、髄液が、体液が撒き散らされる。

 

「よし、の…くん……」

 

痛みでもなく、絶望でもない。

少年の肉体を硬直させたのは、現実逃避…眼の前の事態から目を逸らすその場しのぎ。

 

カツン、カツン、と音をたて呆然と立ちすくむ少年に真人が近付く。

 

「小沢優子、だったっけ?」

 

「なに……言って……」

 

わけもわからず涙が流れ、胃がひっくり返ったように気持ち悪い。

少年は吐き気を堪えながら、反射的に口を開いた。

 

「おいおい、忘れてやんなよ…」

 

そんな少年に真人はやれやれと肩をすくめ、少年の顔を覗き込むように──嗤った。

 

「自分が初めて殺したヤツの名前ぐらい」

 

 






今年もこんな感じでクソラノベらしくいきたいですね
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