ラノベ廻戦   作:悲しいなぁ@silvie

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クソラノベにはクソラノベの楽しみ方ってもんがある、頭を空っぽにしてそんな事ある?という言葉を封印するんだ

「ぐはっ!!」

 

顔面に大きな痣を作ったユグドラシル少年が飛び起きる。

その眼の前には、予備でも有ったのか綺麗な目隠しを着けている五条が居た。

 

「あ、やっと起きた?

全っっ然起きないから硝子呼ぼうか迷ってたんだけど…いや〜良かった良かった!!」

 

「そうか…………負けたか……」

 

「あのねぇ、正直言ってソレ…僕のセリフだよ?

子供相手だって油断して…久々だよ、血なんか流したの」

 

記憶を呼び起こし、何が起こったかをなんとなく理解した少年はがっくりと肩を落としてそのまま寝転がる。

そんな少年に五条は健闘を称えようとしたが……やめた。

 

(勝者からの言葉なんて何を言ってもイヤミなもんか…それに、この子なら慰め(そんなの)なんてなくたって…)

 

「強いな…!!俺が超える壁は高い!!」

 

そう言って、少年は嬉しそうに…笑った。

年相応の笑顔で。

 

(こうやって、モチベーションを保てる

良いね、本当に凄い……この子は強くなる為の全てを持っている)

 

「おいおい、超える壁って…僕に勝つ気マンマンじゃん!」

 

「当たり前だ…超えると決めた、なら後は超えるだけだ

男が一度決めたんだ…後は、そうなるか死ぬかだ」

 

「へぇ……」

 

少年を見て五条もまた笑う。

少年の純粋な笑顔と違う──熱情に浮かされた、妖しい笑顔で。

 

「じゃ、編入手続とかは僕がやっとくよ…

親御さんの許可とかは取れそう?」

 

「問題ない…もう、天涯孤独の身だ」

 

少年の何処か寂し気な表情に、五条が頬を掻く。

 

「そっか……でも、今日からは孤独なんて感じる暇も無いからね!

僕はそんなの一ッッッ切気にせずバッシバシ鍛えて行くから…覚悟しといてよ」

 

バシバシと肩を叩く五条に少年は苦笑しながら、ゆっくりとバッグから一枚の写真を取り出す。

自身と祖父が写った写真…仏頂面のくせに、ぴったりと少年に寄り添った一枚。

少年が一番好きな一枚。

 

(お爺さん、ありがとう……貴方に託された想い(呪い)は、必ず俺が果たします)

 

「連れてってくれ、俺を──呪術高専に」

 

「歓迎するよ、ユグドラ……プッ!!」

 

「やっぱり嫌いだな…アンタの事」

 

再度ツボに入ってケタケタと笑い崩れる五条を絶対零度の視線で見つめる少年。

 

前途多難な呪術師生活が───幕を開ける。

 

 

 


 

 

「………疲れた…」

 

呪術高専の学生寮、自身に用意された一室にて少年は崩れるように寝転がる。

 

少年がこんなゆるキャラばりにとろけているのには理由があった…

五条悟が自身をスカウトすると言ったくせに、夜蛾学長からの面談があったり

自分を含めて三人しか居ない高専の一年生、その最後の一人にして紅一点の釘崎野薔薇から会って早々に自分が賢いと思ってそう…趣味が人間観察とか言わないわよね?とドストレートに突き刺されたり

そう……本当に、色々あったのだ。

 

「……強く、ならないとな……」

 

夜蛾学長や伏黒恵、そして釘崎野薔薇……あと、ついでに五条悟。

創作物として見てきた彼、彼女らを間近で見て…そして話して、より一層そう思った。

 

良い行いには良い結果が待ってるべきで、

良い人には、良い人生が待ってるべきだ。

ご都合主義?夢見過ぎ?

勝手に言ってろ……なんせこちとら、クソラノベやぞ

流行りの鬱展開だのひねりだのが有ると思うなよ…

 

主人公が一番強くて、誰にも負けないで…そんで、みんなと笑って過ごすんだ。

なんせ、クソラノベってやつは…起承転結の転をすっ飛ばすモンだから。

逆転なんてあり得ない…あるのは俺TUEEとさすユグコールだけだ。

そう、だから───

 

「守るんだ、俺が……みんなを」

 

人死なんてありえない。

ご都合主義でも主人公補正でも…なんでも使ってやる。

だから……あの人達は、絶対に──幸せになるべきなんだ。

 

『あんま気負うなよ、悠仁

テメェ一人で何でもかんでも背負える程に、器用じゃねぇだろ』

 

左手の甲に口が浮き出ると、少年にそう話し掛ける。

幼い頃から少年に稽古をつけ、共に生きてきた鹿紫雲は少年にとって家族と言っても過言ではない。

鹿紫雲本人にそう言えば、恐らくは怒りながら否定するだろうが…少なくとも、少年はそう思っている。

 

「鹿紫雲…」

 

『師匠だ、馬鹿弟子』

 

鹿紫雲は、少年が転生している事を知らない。

しかし、少年が一つの可能性の顛末を知っている事を…鹿紫雲は知っている。

少年の身体に受肉した際に、鹿紫雲は知識の共有を意図的に拒否した…理由は一つ。

自身の顛末を、知りたく無かったから。

 

少年に聞けば、死んだ事ぐらいわかる。

答えずとも、心拍や視線のブレで見抜く事ぐらい訳はなかった。

 

顛末など、知らずともよい…死んだ事さえわかったのなら。

死んだのなら、術式を使ったのだろう。

術式を使ったのなら、満足して逝った筈だ。

勝敗など些事、自身の死に様さえ…些事だ。

 

己の全力を賭して戦うべき相手を見付け、戦えた…

それよりも優先すべき事があるか?

だから俺も、そんな相手を見付けたかった。

 

何時からだろうな…その目的が変わったのは

 

なんとなしに過去を振り返り、ひとりごちる鹿紫雲。

 

「なぁ、鹿紫雲──」

 

そんな鹿紫雲に突如として投げられた…

 

『お前、だから師匠だって言って…』

 

「───俺を、殺してくれないか?」

 

『あ゛?……………………はぁ!?』

 

爆弾

 

「うん…それしかないな……頼んだぞ、師匠」

 

わかっている。

少年との付き合いが長い鹿紫雲には、この殺してくれが何らかの比喩かなにかだとわかっている。

昔から言葉足らずで、何があってその結論に達するかの途中式を全て放り出したようなヤツなのだ。

 

『ハァ……殺してくれじゃわかんねぇだろ

話してみろ、これから…何が起きる?』

 

これより41秒後、再びユグドラシル悠仁の言葉足らずな発言が…鹿紫雲の眉間に、皺を刻む。

 

 


 

 

「呪胎が変態を遂げるタイプだった場合…特級に相当する呪霊に成ると予想されます」

 

補助監督、伊地知の報告に釘崎と伏黒が固唾を呑む。

しかし…

 

「問題ない、呪胎がもし変態した場合…俺が対応する」

 

肩を長い戦杖で叩きながら、ユグドラシル少年が断言する。

呪霊の等級…その最高等級である特級は、同じく特級術師が対応するのがベストである。

しかし、現状…呪術界における特級術師は五条悟、乙骨憂太、そして根無し草の九十九由基の三人のみ。

更には、乙骨憂太は現在任務にて日本に居ない為…実質的に五条悟一人のみなのだ。

故に、特級呪霊相手に特級術師が派遣されるのは…そう多くは無かった。

むしろ、最も多く派遣されるのが───1級術師である。

 

1級術師とは、同じく1級の呪霊と同等の力を持つ…のではない。

1級術師とは、1級呪霊を難無く祓除可能な術師へ贈られる称号である。

ユグドラシル悠仁は、特級術師である五条悟から特級術師へ推薦されるも上層部より1級術師として認定された。

その実力は、最強のお墨付きである。

 

三人が少年院内部へと、足を踏み入れる。

 

そう、ユグドラシル悠仁ならば…並の特級は相手にならない

並の……特級ならば

 

 

 

『夏油の言う呪いの器…確かめさせて貰うぞ

貴様が、我等呪いの王となる器かどうか……』

 

変態を遂げた特級呪霊が創り出した生得領域を周囲の空間ごと焼き尽くしながら…その呪霊は歩を進める。

 

大地の呪いが、今……死を振り撒きに現れる。

 

 

 


 

 

記録───2018年7月

西東京市英集少年院、運動場上空

 

特級仮想怨霊(名称未定)

その呪胎を非術師数名の目視で確認。

緊急事態のためユグドラシル悠仁1級術師含む、高専一年生三人が派遣され──

 

内1名、死亡

 

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