あさおんへの道は接着剤で舗装されている*
朝起きたら女の子になっていた。
「――ン"ッ? ンー。んームムムッ。……むぅ」
困った。何かそれっぽいことを言おうとしたけど、まともな言葉が出てこない。
喉から響いてくるのは透明感のあるソプラノボイス。
今日初めて耳にしたはずなのに、妙に聞き慣れているような声だった。
「
オレは今、落ち着いている。とても冷静。動揺なんて微塵もしてない。本当だ。
「あばばばば……」
というのは古典小説の名称である。ので、改めて冷静に、確認をしよう。
全身に即席の診断プログラムを走らせても、AIの診断と同様に異常は検知されない。じっさい体のどこにも不調は感じられない。
むしろ肉体の基本性能は、軒並み向上しているようだ。軽く握った手鏡の柄を危うく握りつぶしかけた。恐るべし女子力……。
「顔は、見事にアバターと瓜二つ。髪は真紅の癖っ毛ロングヘアーで、瞳は水銀色。肌は傷日焼け無しのしっとり肌。血は赤、
シイと歯を強めに噛みしめたら、犬歯がニュッと伸びた。
「歯? がえ。なんでえぇ……?」
最長で5cmまで伸縮自在。流石にこれには困惑した。なにこの謎のギミック?
鏡の向こう側には、口を開けて歯を覗かせた低身長なちびっ娘が1名。歯は伸びる一方で、最近ようやく160cm近くまで成長した身長は縮んでしまっていた。
美少女、ではあるのだろう。無意識の視線を引き寄せる吸引力がある。ただ人形のように整った顔に反して、水銀色の瞳は人を
「こっわ……目合わせんとこ」
過去どんな改造動物を前にした時でも、ここまでの怖さは感じなかった。『あ、こいつオレを殺しきれるな』という確信が、生存本能を刺激しているのかもしれない。
「見れば見るほど、よくわからんいきもの」
全体を見て、手で触れて、なお実在が信じきれない。知らない間に視覚をジャックされて、女の子の幻像を見せられている方が……正気を疑うけど、まだ信じられる。
「……!」
いや、そもそも女の子でない可能性がまだ残っていた。
大事な部分の確認を疎かにしてはいけない。間違った情報は、正さなければ。
「きっとある。お願いだからあってくれぇ……ぁっ……ぁー……あれま」
はい、知ってた。ありません。我ちんちん消失せり。
まぁこんな姿で付いてたら、それはそれで対応に困るけども。
「……ん。なるほどなるほど、そういうことか」
何はともあれ理解した。オレは完全に理解した。
――女の子、確定!
統星暦610年10月9日土曜日、早朝。
十分過ぎるほどに科学技術が発達した現実世界の地球はしかし、いつの間にかファンタジーの世界に突入していたらしい。
そして。そんな風に、自身の変化に衝撃を受けていたせいだろう。
【(……ふぅん?)】
漠然と感じていた数々の違和感の
【(なるほど。そういう、こと……)】
すべてが後の祭りだった。
ODOに足を踏み入れた時点で、全身どころか精神まで捕らわれていた。
小さな悪党が大地に根を降ろして、養分を
【(血。半分、同じね? もう、片方も――正妃様に近い暴力的な良い香り。何者、かしら?)】
その正体とは、元ミルクロワ王国第7王女ピーチトゥナ・ミルクロワ。
王家の一員と認められた【血】の大魔法使いにして、残忍な死刑執行官。
【(私は、面倒が、嫌いなの)】
いったい誰が予想できようか。
【(がんばって、働いて。
仮想世界とはいえ、一大国家の王女が――。
【(貴女が、築くのよ。私が、夢見た……)】
"吸血姫"と畏怖され、自国の民にすら恐れられた人物が――。
【(
まさか。完全ニート化して、己の裏側にべったり住み着くなんて。