『魔都精兵のスレイブ』アニメ放送開始おめでとうございます!
総組長からの命令
───2020年
日本……いや、世界から男女平等という言葉は無くなっていた。
───“魔都”という異空間の出現によって
数十年前──日本各地に謎の『門』が突如として出現した。その門の先には、東京都程の異空間が広がっており人々はここを───
───魔都と名付けた
ちなみに『門』は『クナド』とも呼ばれているらしい。
魔都の事は正直、数十年経った今でも何なのか解明されていない。草木が生えず、岩山が連なる不毛の荒野。空はず~っと雷雲で覆われていて、めちゃくちゃ気落ちするような光景が広がっている。
そして、魔都が出現したことによって人類には
魔都には
そして、さっきも言ったけど今のこの世には、男女平等と言う言葉は無い。その理由は『魔都』にあるのではなく、正確には魔都に存在する
口にした者に異能の力を与える不思議な果実───
───『桃』と呼ばれる物だ。
まぁ、簡単に言うと『ワンピース』に出てくる悪魔の実みたいな物だね。発現する能力は人それぞれだが、基本的に身体能力を強化するものが多い。足がめちゃくちゃ速くなったり、すっげぇ頭がよくなったり。でも稀に『空を飛ぶ能力』『瞬間移動』『千里眼』といったまるで漫画みたいなチート能力を発現させる者もいる。
まさに、天から与えられた
だけど、桃の恩恵を与えられるのは
そんな人類にとって恩恵と脅威を持つ……魔都。
政府は魔都への門を管理下に置き『魔都防衛隊』を組織した。
通称・『
人類を魔都の脅威、すなわち醜鬼から守る為に作られた組織。隊員は全て
当然、この組織に男は入隊できない。そう………出来ない筈なんだ。
前置きが長くなっちゃってごめんね。まぁ何が言いたかったのかというと、今の世界は男がものすご~く弱い立場って事だよ。
そして、僕……
人生ハードモードの『男』に生まれて来た者だ。
そんな僕が………
男である僕が………
弱者である筈の僕が………
「蓮……明日から魔防隊に入隊しなさい」
何故か……魔防隊入隊を言い渡されたんだけど?
───話はほんの数分前に遡る
場所は魔防隊本部──『日本庭園』
「あのさ……
「ん、何……?」
「いや、何はこっちのセリフ。僕達……今何やってんの?」
「膝枕となでなで。可愛い弟を愛でてるのよ」
「うん……それは分かってる。そうじゃなくてさぁ、僕が聞きたいのは──」
「──やめて欲しいの?」
「いや、やめないでください。めちゃ最高です!」
(むしろもっとして欲しい!)
「そう、じゃあ続けるわね」
「うん♡……ってだからそうじゃなくて!」
池を中心にし、庭石や草木が配された日本庭園。魔都の不気味な雰囲気に相応しくない心休まる空間。『和』そのものが体現したかのような美しい景色が広がる場所。
そこに、仲睦まじい様子を見せる2人の男女が居た。
1人は魔防隊の制服に赤いマントを羽織り。翠髪と言う言葉がよく似合う綺麗な黒髪に、花形の紐飾りを付けた美女。
彼女の名は───
魔防隊の十番組組長にして、魔防隊の頂点──
───『“総組長”』の座についている人間。
そして、そんな彼女の膝に頭を乗せ、今も尚よしよしと頭を撫でられているこの少年。上下を黒色の私服で包み、夜空より暗く闇よりも黒い、漆黒と言う言葉が体現したような黒髪をもつ少年。
彼の名は───
先程紹介した山城恋の弟だ。
そんな彼は姉の膝枕を堪能しながら、幸せそうなニコニコ顔を浮かべている姉にジト目を向ける。
「いや、あのさ恋姉……まさか僕をモフるためだけに
「?? そうよ?」
「頭おかしいんじゃないの?」
「髪の毛を全部一気に抜かれる痛み。味わってみる?」
「スンマセン。謝るのでやめてください」
(この年でハゲるのはマジで勘弁、まだ15歳だし。っていうか年齢関係なく嫌だわ)
「頭おかしいだなんて、酷い事言うわね。そんな子に育てた覚えは無いわよ」
「いやだってさぁ、いきなり自室から無理やり連れ出された僕の気持ちは?今さら言うけど」
「本当に今更ね。一時間もスリスリ甘えてたくせに」
「そ、それはソレ。これはコレ!」
「少しだけ時間が空いたから、蓮と話したかったのよ。ダメだった?」
「……………ダメじゃないです」
──ズルい……こんな言い方されたらダメなんて言えなくなる。恋姉との時間が増えるのは僕も嬉しいし、恋姉もそう思ってくれるのは叫びたくなるほど幸せだ。
「モフるなら僕の部屋でよかったじゃん。何でわざわざ……」
「あそこ監視されてるじゃない。せっかくの姉弟水入らずの時間を邪魔されたくないもの」
「それは言えてる」
──確かにあの連中に監視されながら恋姉とイチャイチャするのはイヤだな。僕、
そんなちょっと失礼な事を考えながら、横に向いていた身体を回転させて仰向けの体勢になる。そして、瞳に映る気味の悪い空に向けて片手を伸ばした。
「そういえばさ、ここも結界で守られてるんだっけ?」
「当然よ。鬼門や裏鬼門を担当している七番組と二番組ほど頻繁に出るわけじゃないけど、醜鬼は魔都のあらゆるところから出現するもの」
「醜鬼…………か」
「あら、怖いの?」
魔都は醜鬼が生まれる場所。本来一般人や男は立ち入ってはいけない世界だ。稀に『魔都災害』で自分の意思関係なく一般人が魔都に来てしまうっていうケースもあるけど、それ以外でわざわざ入るバカは居ない。それほど危険な場所なんだ。たとえ結界があると分かっていても普通の人間は不安や恐怖を感じるかもしれない。
…………だけど
「まさか。恋姉と一緒なんだから怖がる必要ないでしょ?」
「…………フフフッ」
『山城恋の隣』現世だろうと魔都だろうと、
(怖がる必要なんて……何処にあるのか分かんないよ)
弟の言葉と気持ちを聞き、恋は嬉しそうに笑みをこぼす。彼女にとって称賛など今まで飽きるほど受けてきた。たとえ大統領や総理の賛美だろうといまさら心が喜ぶことは無いのだが、彼の言葉だけは特別だった。
それから、なでなでを再開しようと手を動かそうとした時、恋の携帯に着信を知らせるコールが鳴り響く。
「「ん?」」
恋は瞬時に端末を手に取り耳に当てる
「はい…………はい…………」
(普通の着信音……確か、ホラ貝の音が鳴った時は魔都に異常を示す合図だったよね?)
「今ですか?…………分かりました」
「どうかした?」
「総理から緊急での護衛依頼よ」
「えぇ~~、また政治家の護衛任務?恋姉その仕事多すぎない?」
「仕方ないわ。蓮、悪いんだけど……ここで待っててね。夜には帰ってこれるから」
「あんな人達誰も狙わないから恋姉が護衛する必要ないよ。万が一どっかの国のテロリストに襲撃されて死んじゃったとしても、どうせ数日で代わりの人間がたてられるんだから」
「………すごい事言うわね」
「だって………僕あいつら嫌いだし」
最初は男って理由で見下した態度を取るくせに、自分が山城恋の弟だと知った途端手のひらを返して、媚びを売るように接してくる『態度』。
今みたいに何度も何度も姉との時間を邪魔してくるウッザイ奴ら。
好きになる要素がどこにあるってんだ。
政治家の全員がそうだとは言わないけど、ほとんどが保身バカだからな。これがいわゆる『腐ったみかんのバーゲンセール』ってやつだな。
「それじゃあ、行ってくるわね」
「えぇ~……ホントに行っちゃうの?」
「すぐに戻ってくるわよ。それまで
「………分かった。じゃあ恋姉の部屋借りるね」
蓮はしぶしぶ頭を膝から離し起き上がる。さっきは色々言っていたが姉と一緒に居る時間は幸せな物だった。ソレをいきなり奪われたのだから、拗ねて頬をぷくっと膨らませる。
「フフッ♪そんな拗ねないの」
「拗ねてません!それより…………
………………
蓮がそう言うと同時に、恋は瞳に宿した仏の能力……『
恋が能力を解除した瞬間、蓮の身体には狼のような漆黒の
「う~~ん、やっぱこっちの方が落ち着くわぁ~!!
「やっぱり、蓮はそっちの姿の方が可愛いわね♡」
「全ッ然嬉しくないけど……一応ありがと」
(どんな気まぐれか知らないけど、
「それじゃ、行ってくるわね」
「はいはい。行ってらっしゃいませ~」
「フフッ。あ、そういえば……一つ、言い忘れてた事があったわね」
「ん?どったの?」
姉の部屋に向かおうとした所、急に待ったをかけられ蓮は再び姉の方に振り返る。
そして………
「蓮……明日から魔防隊に入隊しなさい」
後ろに振り返って、瞳に映ったモノは姉の綺麗な笑顔。
聞いたモノは魔防隊に入隊しろという命令であった。
『蓮……明日から魔防隊に入隊しなさい』
それ以外なんの言葉も説明も口にせず、恋は飛行能力を発動し一瞬で遥か彼方へと飛び去ってしまった。
「…………………」
当然、説明を求めようと蓮は待ったをかけようとした。が、彼女が速すぎて声を出そうとした時には姿が見えない程遠くに行ってしまっていた。
「……耳がおかしくなったかな?」
何の説明もなくいろんな意味で置き去りを喰らった蓮は、とりあえず現状を整理しようとその場をグルグルと回りながら脳みそも回す。
──OK!整理開始だ。まず、恋姉はおそらく違う組の寮にあるクナドに向かったんだろう。確か
「多分……後者だと思うんだけどなぁ~、後で恋姉と答え合わせして正解だったら頭撫でて貰お♪ってそんなこと考えてる場合じゃない!!アホか僕は!?」
──えっ?さっき恋姉なんつった?魔防隊に入隊しなさいとかなんとかって言ったよね?えっ、恋姉本当に頭おかしくなったの?デカイ病院連れてった方がいい?めちゃ怒られそうだからやめよ
「魔防隊に入隊……か。あっ!そういえば──」
──昔……全く同じこと言われたな。何度も何度も、鬱陶しいぐらい頻繫に。
そう思い蓮はその場で足を止め、再び空を見上げる。先程の姉の言葉にふと懐かしさを感じ……数年前の日常の風景を思い出す。
『蓮よ!魔防隊に来い!
『お引き取りください、
『ふはははっ!また振られてしもうたな!相変わらず釣れない坊主よ。それと、
『そうですか。そんじゃあ海桐花さん、この会話これで何回目ですか?いい加減諦めてください。ってか今ゲームやってるんでマジで帰ってください』
『ほほう……面白そうじゃな!此方にもやらせい!』
『いいですよ。じゃあ一緒にスマブラかマリカーでもやりますか。というか、ゲームするのはいいんですけど、最近ほぼ毎日ここに来てますよね?一回聞いてみたかったんですけど、海桐花さんって暇なんですか?』
『暇じゃ』
『噓つけぇい!あなた仮にも
騒がしく、破天荒で、自由奔放な『総組長』。いや、正しくは『元・総組長』か。最近はあんまり誘いが来なくなってたから油断してたけど、今度は恋姉にスカウトされちゃったよ。あの時はどうせいつもの悪ふざけか冗談だと思って相手にしてなかったけど……もしかして、海桐花さん本気で僕を魔防隊員にするつもりだったのか?
何なの??『総組長』って生き物は何で僕を魔防隊に入れたがるの?新旧の『総組長』どっちも声かけてくるとかアリですか?
「はぁぁ~~、もういいや。考えたってしょうがない、後で恋姉が説明してくれるだろ」
いろいろ考えてみたものの、途中で頭を回すのがめんどくなった。クソデカ溜息を吐いた後、考えることをやめて恋姉の部屋に向けて足を動かしはじめる。
『『わん!わん!』』
姉の部屋までやって来た蓮を迎えたのはココで飼われている黒柴の『雅』と白柴『要』であった。この子達は魔都に迷い込んだのを恋が保護し、それからずっとここで飼われている。
「お~!ヨスヨス~、久しぶり
『『わん!』』
2匹を撫でながら畳にごろんと寝転がる。雅と要も撫でられて気持ちよさそうにしながら蓮の隣に座る。
「さてと………」
蓮は持ってきたスマホを取り出し、漫画アプリを開いて先ほど読んでいた漫画の続きを読み始める。スマホより本で読むのが好きなのだが、続きが超絶気になるので仕方なく。
30分程漫画に没頭し、読み終えると謎の疲労感と喪失感に襲われて、なまった身体をグイ~っと伸ばす。
「マジですか~?潔君また負けちゃったよ……でも凜君が潔君を選んだってのは激アツ展開だわ~!」
読んでいたのは最近超人気のイカれたサッカー漫画『ブルーロック』。蓮の好きな漫画ランキングで1、2を争うほどお気に入りの漫画だ。ちなみに今読んでいたのは十巻。
「う~~ん、激アツだけどモヤモヤするぅ~!いや、あの
『『わん??』』
「あははっ、ごめんごめん。分かるわけないよなぁ~……さてと」
キリが良い所まで読み終えると、蓮は自身の
「蓮……蓮……起きて」
「んっ……あぁ……おゕえりぃ」
目を覚ましたのは恋が帰って来てからだった。恋が仕事を終えて帰って来たということは今は夜。仮眠のつもりだったのだがぐっすり眠ってしまったようだ。
「ずっと寝てたの?」
「んん~………ぅん」
「………寝ぼけてるわね。お風呂には入った?」
「ぅぅんん~~」
まだ覚醒しきっていないのか、恋の質問にぼ~っとした声と首を横に振ることで返事する。
「そう、じゃあ一緒に入りましょ。蓮、立てる?」
「………………んっ」
頷くと同時に蓮は姉から差し出された手を取り立ち上がる。風呂場へと向かっている途中、蓮の頭がようやく働き始めた。気づけば自分の手を姉に引かれている状況に一瞬動揺するも、恋が説明しすぐに落ち着きを取り戻した。
「それにしても……珍しいわね。綺麗好きの蓮がお風呂に入らないで眠っちゃうなんて」
「仮眠のつもりだったんだけど……」
「ぐっすり寝ちゃったのね。でも雅と要はあなたと一緒にお昼寝出来て喜んでたわよ」
「ん~、ならいっか」
風呂場に着いた二人は何てことない会話を弾ませながら風呂に入る準備をする。
「ねぇ……蓮」
「何……?」
「脱がせてあげよっか?」
「………ん?意味が分からないんですけど?」
タオルなど一通りの準備を終えた蓮が服を脱ごうと自身の上着に手をかけようとした時、恋からそのような事言われて蓮は頭に疑問符を浮かべる。
「?? 私が服を脱がせてあげよっかって?」
「いや、聞こえてます。恥ずかしいからいいです……」
「はいっ、バンザ~イ♪」
「話聞いてくださいっ!?ってか無言で服を引っ張らないでよ!自分で脱げる、脱げますから!自分もう15ですから!」
上着を脱がされ、男にしては華奢で色白な蓮の裸があらわになる。
「………相変わらず薄いわね」
「言わないで、自覚してるから」
「ちゃんと食べてる?」
「食べてます!っていうか恥ずかしいからまじまじ見ないでくれる!」
「今更だと思うけど?」
「そ、それはそうだけど……今は恥ずかしいの!」
「そう。あ、下は自分で脱いでね」
「分かってるよ!!!!」
まるで自分が脱がせてほしいと頼んだような言い方をする恋に対して若干イライラした気持ちを抱きながら、蓮は残りの衣服を脱いでいった。
僕も恋姉も身体を洗い終え、温泉旅館もビックリするほど立派な露天風呂に浸かる。っていうか何で魔都にこんな立派な露天風呂があるのかって初めて見た時ツッコんだけど、魔防隊員の為に日本政府が作ったそうだ。日本政府さん、ホント感謝感激雨あられです!政治家嫌いだけど、これだけは感謝する!
「ふぅぅ~~、あったか~い」
「気持良いわね」
「そぉ~ですな~」
風呂は良い!すんごく良い!!一日の疲れがふっ飛んでいく。テルマエ・ロマエ万歳!!
※彼は寝起きで頭とテンションがバグってます
「………おじさんみたいよ」
「ひっど~い」
確かにさっきのはおじさんみたいだったけど……いやでも今はおじさんでもいい!!だって気持ちいいんだもん!
「………蓮」
「なぁ~に~??」
「………こっちにきなさい」
「………はぁ~い」
呼びかけに応え、僕は反対側にいた恋姉のすぐ前まで移動し、背中を向けて腰を下ろす。座った瞬間、首周りに手を回され後ろから抱きしめられた。身体が密着している為、背中に二つの柔らかい感触が伝わってくる。
その状態でしばらくしていると、獣耳と尻尾を優しく撫でられる。
「………んっ、」
手を櫛の様にして尻尾を撫でられ、くすぐったさに思わず口から声が漏れ出てしまう。まるで女の子が出すようなふにゃふにゃした声を出してしまい、恥ずかしさで顔を熱くする。
「フフフッ、くすぐったい?」
「……………イジワル」
ほんとイジワルな質問だ。僕が尻尾と獣耳弱いって事知ってるくせに。そう言ってジト目で恋姉を睨むものの、撫でる手を止めてはくれなかった。
「………んっ、……あぁ♡」
「声……出しちゃダメ。我慢しなさい」
「は、い♡ご、ごめん……な、さい♡」
言われた通り口を両手で塞ぐ。声が漏れないように……必死に……。
撫でられるたびに身体をビクビクさせ、漏れ出そうになる声を手で必死に押し殺す。
「……はむっ」
「んんッ…♡あっ…♡」
尻尾はもう満足したのか、今度は獣耳をパクっと口に含み始めた。初めの内は舌を使わずはむはむするだけだったが、次第に耳の中まで舌をねじ込まれる。
──れろ……ちゅ……じゅる
そんな生々しい音が二人だけしかいない風呂場に響き、それが余計に恥ずかしく感じる。
「れろ……ちゅっ………どお?きもひい?」
耳舐めながら喋んないで。いや、本当に。
「うっ……ま、待ってッ♡んっ、……」
僕が静止を促しても、恋姉は止まってくれない。むしろ、僕がやめて欲しそうにするとニコッとした表情を浮かべて更にイジメてくる。
「蓮……声。我慢しなさい」
「ム、……リ…♡」
無茶言わないで欲しい。恋姉に撫でられたり、舐められたり、吸われたりされたら声我慢するなんて出来ない。
「………………蓮」
「ハァ……ハァ……な、何?」
「……ふぅ~~」
「ひぃあッ!?」
耳舐めを止めたかと思いきや、今度はふぅ~っと獣耳に息を吹きかけられる。そのせいで女の子のような喘ぎ声を出してしまい、それを見た恋姉は満足そうにニコッとした笑みを浮かべている。
「可愛い反応ね♡」
普段であれば『可愛い』なんて言われたら何か言い返すのだが、今の僕にそんな余裕はない。それを分かっていながら、恋姉は再び尻尾と獣耳を撫で始める。
口を必死に抑えるものの、恋姉に耳元で囁かれる度、恋姉の匂いを嗅ぐ度、恋姉に撫でられる度に快感が押し寄せてきて声が抑えられない。
くすぐったさと気持ち良さに耐えられず、体の力が抜けてしまい、恋姉に背中を預ける体勢になってしまう。
「ご、ごめん……なさい……」
「いいわよ。フフッ、相変わらず耳と尻尾は敏感ね。特に―――」
「………ん"、んんっ♡」
「――尻尾の付け根」
浴槽の中で付け根の部分を指先で弄られ、手で押さえてた口からまた声が漏れてしまう。触り方はとても優しく、丁寧で、慈愛に満ちていた。まるで大事なものを触る時のように、品定めするかのように。
「れ、恋ねぇ……ソ、コ……ダメ♡」
「ん?何がだめなの?」
(可愛い……♡)
ダメと言いながらも本気で抵抗はしない。もちろん、こんな女の子みたいな声を聞かれるのはすごく恥ずかしいし、撫でられるのはくすぐったい。でも、愛でられるのはイヤじゃないし、なにより恋姉がしたいなら僕はそれを受け入れるだけだ。でも………
「れ、恋ねぇ……んっ♡……タ、タンマ!もう無、理。イ、一旦止め、て♡」
「………はいはい」
さっきと違い僕の静止を素直に聞き入れ、恋姉は獣耳と尻尾から手を離してくれた。変な声が止まらないし、これ以上は本当にダメ。これ以上愛でられたら頭がバカになっちゃう。
「はぁ……ハァ…ハァ…♡」
「大丈夫?」
「う、うん………だ、大丈夫」
火照った身体を冷ますために、風呂から上がり近くの椅子に腰かける。
「ハァ……ハァ……♡はぁ~」
「………落ち着いた?」
「ちょっとね……。あのさ、僕……
「………知ってるわよ?」
「じゃあ何でこんなコトしたの?」
「………嫌だった?」
「い、嫌じゃなかったけどさ……きもちよかったし」
「フフッ♪それは良かったわ。女の子みたいで可愛かったわよ」
「う、うっさいなぁ……!ってか可愛いゆうな!」
『女の子みたい』『可愛い』という言葉に不機嫌になりながらも、クスクスとご満悦そうな笑みを浮かべる姉を見て『恋姉の笑顔可愛い♡』とか思ってしまう自分は、もう末期なんだろうな。自分のシスコン具合にドン引きだわ。
火照った体を落ち着かせ、再び風呂に浸かる。湯につかった瞬間、また恋姉が後ろから抱きしめてきて、髪を優しく撫でてきた。またさっきみたいに愛でられるかと思い一瞬身体がビクッとしたが、抱きしめて頭を撫でるだけで何もしてこない。ただ僕を抱きしめたかっただけのようだ。
「それじゃあ、さっき言った事を説明するわね」
しばらくの間、恋姉に背中を預ける体勢で風呂を堪能していると、突然恋姉がそう口にした。僕は何事かと思い後ろに振り向き、恋姉と視線を合わせる。
「説明??なんの?」
「魔防隊入隊の件よ」
「?? ああ!忘れてた!そうだそうだ!説明プリーズ!」
「……………忘れてたのね」
やっばい、すっかり忘れてた。なんか恋姉が若干呆れたような笑顔を向けてくるけど、仕方ないじゃん!!ブルーロック読んで興奮したのと寝ちゃったことで完全に頭から抜けちゃったんダモン☆
「まぁ、説明も何もそのままの意味よ。あなたが入れば魔防隊はさらに強くなる、だから入って欲しいの……世界でただ一人の
「ふ~ん………いくつか質問いい?」
「えぇ、もちろん」
「魔防隊って女性しか入れない筈だよね?それ以前に僕が魔防隊員なんて政府の人達が許さないでしょ?そこら辺はどぉーすんの?」
「そんなもの私の権限でどうにでもなるわ。実際、総理から許可はもう取ってあるもの」
………職権乱用じゃない?ってか僕の意思関係なく取ったんかい!
「じゃあ次の質問。魔防隊入るってことは僕は
────『陰陽寮』
それは、魔都の研究をしている組織。
能力が発現してから僕は陰陽寮の一室に隔離されて、今もそこで生活している。男がどうやって桃の恩恵を得られるのか調べるために、毎日毎日身体をいじられたり、検査や実験の日々。正直、そんな生活にもうんざりしてたし、あの場所とあそこにいる人間大っ嫌いだから出て行けるのは嬉しい。
陰陽寮の詳しい実態は僕もよく知らないけど、魔防隊員が捕らえた醜鬼を調べたりしているらしい。でも、絶対それだけじゃない。一度だけ、人を人とも思わないような非道な実験を見たことがある。それに比べたら、僕はまだマシな方だ。24時間監視されてて
「えぇ、魔防隊はそれぞれの組に寮があるから、蓮もそこで生活することになるわ。今までみたいな隔離生活とはおさらば。当然いくつか制約はあるけど、自由に
へぇ~、
「……よくそんな事あの人達が認めたね。僕って
もし、男性でも何らかの方法で能力を手に入れられるとしたら?
もし、自分達も桃の恩恵を得られる可能性があると男達が知ったら?
間違いなく、世の中の男達はその方法を探そうと躍起になるだろう。最悪の場合、世界中の国で内乱が勃発するかもしれない。
そして……その『何らかの方法』が解明されてしまえば、今の女尊男卑の社会は崩壊し、女が持っている権利や今の立場が失われる。だから、権力者達は僕を殺したがってる。
「じゃ、最後の質問………」
言葉と同時に恋姉から視線を外し、自身の右手をまじまじと見つめる。
「僕の
そう言いながら恋姉の手をほどいてそばを離れる。
今の言葉は謙遜とかじゃなく本心から出たモノだ。立場上、何人かの魔防隊員と面識があるけど、どいつもこいつもチート能力者ばっかりだ。例えば──
千里眼の能力『“
生命力を操る力『“
形あるものを滅ぼす能力『“
──とか。ね?名前からしてヤバそうでしょ?ジャンプ漫画の主人公みたいな連中がうようよしている環境でどうやって成果を上げろってんだ
「相変わらず自己評価低いわね、まるでベルみたい。そんな悲観する程あなたの能力は弱くないわよ」
「じゃあさ、仮に僕と恋姉が一対一で戦ったとして、僕の勝率ってどんぐらい?」
「ゼロね」
「ウン、ダヨネ、知ってたよ。前にボコボコにされたしね」
「私に僅かでも勝てる可能性がある人間なんて、数えるほどしかいないもの。それにあくまで今の話よ。実戦経験どころか戦闘経験もほぼ皆無、そんな状態じゃ私には勝てないわ」
いやいやいや、50年ぐらい修行しても僕の能力じゃ恋姉には勝てないでしょ?反則過ぎるもん、恋姉の能力。ってか能力とかそれ以前に生物としての格が違いすぎるし。
「ちゃんとした訓練を受けて成長すれば、私の次くらいには強くなれるわ。だって私の弟だもの」
「…………かい被り過ぎだよ」
「それで、蓮……お返事は?」
「えぇ~………絶対入んなきゃダメ?」
「えぇ、絶対に入らなきゃダメよ♪」
理由は分かった。けど……正直向いてないんだよね。能力的にも性格的にも。醜鬼から人を守るとか、国の為に働くとか、性に合ってないし。僕はただ……恋姉のとなりで生きていければそれでいい。だから、前に海桐花さんにスカウトされた時も首を縦に振らなかった。そんな事を考え、恋姉に『NO』という意思を口にしようとしたら、恋姉が何も言わず笑顔でこちらに近寄ってくる。
僕は困惑する。
迫ってくる恋姉の笑顔が少し怖く感じて後退った。しかし、すぐに風呂の壁と背中がぶつかって追い込まれる。
恋姉は目の前まで来ると僕の顎に手を添えてクイッと持ち上げる。いわゆる『顎クイ』と言うやつだ。
「蓮………」
「は、はい……??」
「これは……
『お願い』じゃなくて…………『命令』か。
………なら、仕方ないか。
「もう一度言うわ。蓮……魔防隊に入りなさい。お返事は?」
「はい………
「フフフッ♪いい子ね。さすが私の
こうして、僕の……『山城蓮』の魔防隊入隊が決まった。
──『日本政府』『魔防隊本部』より『魔都防衛隊』全組・全隊員に通達。
一、世界でただ一人の男性能力者・『山城蓮』
彼の『魔都防衛隊』への正式な入隊が決定した。
二、入隊後四半期は試用期間とし、仮ではあるが彼を六番組に配属する。
三、六番組配属に際して六番組組長『
四、なお、彼が逃亡を図った場合──例外なく、速やかに拘束せよ。