魔都精兵のペット 〜山城恋の弟くん〜   作:ハトル

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副組長として

 

 

 

 時間は少し遡る。

 神村鳴海との戦闘から約二十四時間前。

 

『ハァ……ハァ……』

『ん?もう終わりかな?』

『まだまだ……ハァ…もう一本、お願いします!』

 

 六番組の寮の中庭にて、山城蓮と出雲天花による組手が行われていた。

 そしてそんな二人を二階の窓から眺める者が一人。

 

「(この一週間でかなり『蹴り』の精度が上がっておるのう)……生意気じゃな」

 

 六番組副組長──東八千穂だ。

 窓際に肘を乗せ、出雲組長と共に鍛錬を行っている少年の一挙手一投足に目を向ける。

 八千穂から言わせれば技はまだまだ稚拙の一言。脚の角度や打ち込む前の踏み込みも甘く、腰も入っていない。相手をしている出雲天花の動きが流麗過ぎるが故に、余計にそう見えてしまう。

 

 しかし──それはあくまでも八千穂から見たらの話。幼少の頃から『東家』の英才教育を受け、長く魔防隊員として戦ってきた戦いのプロの意見。

 

 一週間前とは、自分と模擬戦を行った時とは明らかに動きが違う。

 あの時は武術どころか、ケンカのケの字も知らない勢いだけの幼稚な動きであった。

 だが今は、まるで武術を学んで()()()()()()()()()()()()()()

 

 明らかに『戦闘』という行為に慣れ始めた者。

 初心者の世界を抜け出し、中級者の領域に足を踏み入れ始めた人間の動き。

 

 

(昔、私様も海桐花様と母様から一通り武術を学んだが……武術を始めて一週間であのレベルの動きが私様に出来たか?)

「やっち~、何してるの~~??」

「………サハラ」

 

 二人の組手を眺めていると、背後から何時ものように眠そうな表情でサハラが隣へとやってきた。

 隣に並ぶと八千穂が蓮と天花の鍛錬を眺めていると気づいたのか、彼女は同じように両肘を窓際について、同じようにその光景を眺める。

 

「あぁ、蓮君の事みてたんだ~。今日も頑張ってるよね~」

「サハラ、お前は犬っころの事どう思う?」

「可愛いくていい子だよね~。頑張り屋さんだし、作るご飯も美味しいし~。あと~、あのモフモフした尻尾と獣耳(みみ)触ってみたいよねぇ~。ちょっと前からどうやったら触らせてもらえるか出雲組長と一緒に考えてるんだ~」

 

 さっきから何の話をしているんだコイツは? 

 というよりも、自分の知らない所で何くだらない作戦会議しているんだコイツらは?

 

 八千穂が聞きたかったのは魔防隊員としてどうかという意味。誰も顔や性格、ましてや尻尾と獣耳(みみ)の話なんてしていない。部下の天然っぷりに頭を抱えながら再度質問を投げかける。

 

「ん~、魔防隊員としてかぁ~。多分、私なんてすぐ追い越して、すっごぉ~く強くなると思うなぁ~」

「………」

 

 否定も肯定もせず、彼女の言葉を黙って聞く。

 

「やっちも知ってると思うけど、蓮君とは5回模擬戦やったんだ。勝ったけど、一回ごとに目に見えて強くなってくるんだよね~。多分、次は『4』じゃないと()()()()()()()()

 

 彼女の質問に応えた後、サハラはゆっくりとその場を離れていく。

 

「何処へ行くのじゃ?」

「蓮君のところ~。先に行ってるからやっちもおいでよ~」

 

 どうやらサハラはあの少年の事が心底気に入った様子。東海桐花と同じように。

 あんな男のどこが良いのかわからず、再び窓際から中庭へと視界を向ける。

 

『それより……なんかアドバイスとかないんですか?戦闘に関して』

『う~ん……アドバイスねぇ。常に冷静を保つこと、かな』

『冷静……ですか』

『あと──自分の想像する一歩先のイメージを持つこと』

『一歩先のイメージ??』

『うん。必殺技を完成させたいなら、今君が想像している技の一歩先のイメージをした方がいいよ。そうすれば完成させた時、自身が想像する以上に強くなれる』

 

 再び視線を向け、耳をすましていると彼女にとって懐かしい言葉が聞こえてきた。

 

“想像の一歩先”……か(懐かしい言葉じゃ。私様とサハラもよく言われたのう)

 

 自分が彼女の部下になった時も。サハラが魔防隊に入隊してきた時も、あの組長は同じ言葉を贈っていた。

 この一週間、ほぼ付きっきり面倒を見ている事や、今のように積極的にアドバイスする様子から、サハラと同じく出雲天花も彼を気に入っていることが窺える。

 

 天花もサハラも、あの少年に対してしっかりとした教育を施している。組長として、先輩として、責任や勤めをしっかり果たしていると言える。

 それに比べて自分はどうだ? 副組長として何かしたか? 自分も何かするべきではないのか?

 

 そんな考えが頭をよぎり、八千穂は深いため息をつく。

 

「はぁ~~(仕方ない。アイツも一応……一応は私様の部下じゃ。出雲組長の様にアドバイスぐらいしてやるかのう)」

 

 八千穂は先に向かったサハラの後を追うように中庭へと向かう。

 

「(かっかっか! 優雅で器もデカく面倒見もよい! 流石は私様じゃあ!)おい、犬っころ」

「……げっ」

 

 

 

 

 

 前言撤回。

 話しかけただけで『げっ』などとぬかすような無礼な奴にかける言葉などない。

 そんなことより腹が減ったので、無礼なクソガキに朝食を作らせる事にした八千穂であった。

 

 

 

 


 

 

 

 

「明日、緊急で組長会議が開かれるじゃと?」

「うん、急遽招集がかかってね。だから明日、私がいない間の留守はお願いね」

「……随分と急な話じゃな」

 

 羽前京香と共に蓮が寮を出て行った直後、急遽『組長会議』が行われることを天花から伝えられた。

 あまりにも突然であったために、八千穂にほんの少しばかりの動揺が広がる。

 

「それで犬っころはどうするのじゃ? 当然連れてゆくのであろう?」

「ううん。ペット君は連れて行かない」

「………は? な、何故じゃ? 護衛である出雲組長がアイツと離れてどうする」

「私もそう思ったんだけどね、総組長からの命令なんだ。『あの子は連れてこないで』って」

 

 理解ができなかった。

 八千穂が疑問に思うのも当然である。天花はこの一週間、蓮を一度たりとも寮を守る結界の外に一人で出していない。

 蓮はそれを自分が逃げないようにする為の措置だと思い込んでいるが、実際にはそうではない。

 

 全ては蓮を守るための措置。過保護とも言えるこの措置から、天花がいかに蓮を想い守ろうとしてきたかが伝わるだろう。

 

 それなのに、今更なぜわざわざ二人を引き離すのか。総組長の考えが八千穂には分からなかった。

 

「う~ん、多分なんだけど……」

「?? 心当たりでもあるのか」

蝦夷夜雲(えぞやくも)組長……彼女が居るからじゃないかな?」

「あ、なるほどのう。理解したわ」

 

 『蝦夷夜雲(えぞやくも)が居るから』それを聞いた瞬間、八千穂の胸から疑問という二文字は完全に消え去った。

 ある意味、醜鬼よりも何千倍も危険と呼べる相手の近くに保護対象を連れていくバカは居ない。

 

「では明日のパトロールは私様とサハラで行おう。犬っころは寮で大人しくさせておくのじゃ」

 

 天花が護衛に付けないとなると蓮を外に出すのは危険。一人にするのもまずいが、寮を護る結界は鉄壁。外に出すよりかは幾分か安全。そう考えた八千穂はそう提案する。

 

「適当に煽ればキレるか不貞腐れて部屋に籠るであろう。……いや、あの犬っころめんどくさがり屋のクセして妙に真面目ぶるところあるから厳しいかのう」

「………普通に『心配だから寮に居て』って言う選択肢は無いんだね」

「ぜっっったいに嫌じゃ! まず大前提に私様はあんな奴の心配なんぞしておらぬ!! なぜ私様があんな奴を心配なんぞせねばならんのじゃ!!」

「普段、仲良く喧嘩してるよね?」

「仲良くなどないのじゃ!! 矛盾しておるぞその日本語! あんな男、どうでもよいわ。断じて心配なんぞしておらぬ!」

(まずペット君を寮に待機させるって考えてる時点で、十分心配してると思うけど)

 

 本人は否定するだろうが、なんやかんや言って八千穂も面倒見がいいのである。

 傍から見たら滅茶苦茶心配してるじゃん、と言いたくなるような発言が先ほどからいくつか出ているが彼女にそんな自覚はない。

 

 そんな自分の副組長(みぎうで)を見て、相変わらず感情の表現方法がイビツだなと再認識し、やれやれと首を振る天花であった。

 

「でも、最近魔都も安定してるし、サハラも連れて3人で行って来たら?」

「本気か?」

「うん。ペット君は私とばっかり組んでパトロールに出てたからね。そろそろ二人と組んでの戦闘も経験したほうがいい思うし」

 

 正論である。八千穂とサハラは模擬戦で蓮と戦ったことはあるが、蓮と共に醜鬼と戦ったことはない。

 出雲天花、東八千穂、若狭サハラ、……そして山城蓮。

 この4人は同じ六番組(チーム)に所属する者達。4人で力を合わせて戦わなければならない時がいつかきっと来る。

 

「まぁ、気が向いたら連れていってもよい。ただし、魔都の様子がおかしい、もしくは足を引っ張りそうであれば迷わず置いてゆくからのう!」

「うん。そのへんは八千穂に任せるよ」

「フンッ……これで話は終わりじゃな。私様はトレーニングに戻る」

 

 話が終わったと判断した八千穂は天花に背中を向け部屋を後にしようとする。

 

 

「──…八千穂」

 

 

 ──しかし、そんな八千穂を天花が引き留めた。

 声を掛けられ、反射的に再び天花の方へと顔を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペット君を──……()()とサハラをお願いね。

──……“副組長”

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ──時計の針は戻り現在。

 血に染まる友の姿が視界に映り、鈍っていた頭が覚醒していく。

 八千穂の頭の中で、うつ伏せで地面に倒れるサハラの姿と、同じく満身創痍の状態であった先程の山城蓮の姿が重なる。

 

「さてと、パワー馬鹿は片付けたし……マヌケ、ようやく邪魔が入らずにアンタを殺せるわ」

 

 指をポキポキと鳴らしながら八千穂へと近づいていく神村。

 

「何回も私の邪魔をした上に、頭に銃弾ぶっ放してくれたわよね? アンタには結構ムカついてるからあの女みたいに一撃で楽に逝けると思わないでね」

 

 こちらに迫りながら神村鳴海が何か言っているが、八千穂の頭には噓のようにまるで入ってこない。

 彼女の頭の中には、傷だらけで地に倒れるサハラと蓮の姿。そして、自身が尊敬してやまない組長、出雲天花の言葉が占めていた。

 

 ──蓮君とサハラをお願いね──……“副組長”

 

 何度も。

 

 ──蓮君とサハラをお願いね──……“副組長”

 

 何度も。何度も。

 

 ──蓮君とサハラをお願いね──……“副組長”

 

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 彼女の言葉と、倒れる二人の姿が、頭の中に呪いのように繰り返し流れ込んでくる。

 

 組長から頼まれたはずだ。信頼されて託されたはずだ。

 それなのに、護れなかった。

 

 考えれば考えるほど。時間が経てば経つほど。怒りと殺意が沸々と込み上げてくる。

 サハラと蓮。二人をあんな目に合わせた元凶である神村鳴海に対して。

 そして──……自分自身に対して。

 

 燃え上がる怒りに身を焦がし、八千穂は銃を握りしめて再び立ち上がる。

 

「ん?」

「貴様はッ!……貴様だけはッ!!」

 

 誇り高き『東家』の者として。

 何よりも──六番組の副組長として。

 

「貴様の息の根(じかん)は、私様が必ず止めるッ!!」

 

 

 

 






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