魔都精兵のペット 〜山城恋の弟くん〜   作:ハトル

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【山城恋】の名を背負う者

 

 

 

「──《東の大辰刻(プライムタイム)》──“十秒”止まれ!」

 

 

───10秒止まる。

 

 

 

 操れる時間が5秒から10秒へと覚醒し、射程範囲は爆発的に拡張。本来は届かなかった今の状況でも、銃弾を届かせることが可能となった。

 しかし──その代償は大きい。

 

 止まった時間(セカイ)の中で、銃弾を一発撃つごとに、身体中から血潮が舞う。

 

「う゛っ……ま、まだじゃ……もっと、一発でも多く撃て!!」

 

 神村に散々痛めつけられ重体の身体。そこに能力使用回数の限界を超えての能力発動。しかも体力の消耗はさらに激しい覚醒技。もはや彼女の身体は限界など既に逸脱している。

 それでも、東八千穂は戦い続ける。

 

(犬っころに……()()()に託せ。希望を紡ぐのじゃ!

 六番組副組長──……東八千穂!!)

 

 

 10秒経ち、世界は再び動き出す。

 神村の手に握られていた錫杖は、銃弾に撃ち抜かれ……()()()()()()

 その影響で蓮へと放たれた“雷戟(スサノオ)”も空中で霧のように霧散し消滅してゆく。

 副組長の援護射撃(アシスト)により、黒狼の牙は──……届いた。

 

 『心臓を撃ち抜かれても』

 自身の死をも覚悟した一撃。それほどの覚悟を持って放たれて一撃が生半可なはずもない。

 その牙には稚拙さも、杜撰さも、粗雑さも、微塵も感じられなかった。

 完璧な踏み込み、完璧な脚の角度、完璧な間合いとタイミング。

 文句など付けようもない。間違いなくその一撃は、()()()()()()()であった。

 

(ハッ、生意気な……見事じゃ!)

 

 美しい軌跡を描くその脚技に、八千穂も山城蓮の姿に、出雲天花の面影を重ねる。

 

 傷を負いながらも、独りになって尚戦い続けた副組長。

 流石に限界が来たのか。友である(サハラ)と同じく、最後まで手の掛かる(レン)の無事を見届けた後、東八千穂は静かに倒れ、意識を手放した。

 

 この領域に脚を踏み入れる以前でさえ、神村鳴海にダメージを与える程の力があったのだ。そこに繊細さが加われば、当然威力は格段に跳ね上がる。

 空間をヒビ割る程の衝撃を受け、神村の身体はまき散らす血潮で周囲の地面を赤く染め上げながら吹き飛んでいく。

 

「ハァ…ハァ…ダメだ、まだ終わってない!(打ち込まれる直前に後ろへ飛んでダメージを逃がしやがった!)」

 

 蓮は脚に伝わる感触で、手応えの浅さを感じ取る。

 吹き飛んでいった神村の身体を追いかけるため、両足を踏み込み加速する。その影響で周囲に土煙が高く舞い上がった。

 走る最中、神村の元へ向かう途中に自身の後方で倒れている八千穂とサハラを一瞥する。

 

(助けてくれてありがとう、二人とも! 本当にッ、ありがとう!!)

 

 2人の『命の音』を聞く限り、重症ではあるがその音色が消える兆候は感じられない。その事に安堵し、視線を前へと向け直して進んでいく。

 もう、後ろは振り返らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方そのころ、神村の身体は未だに宙を飛んでいた。

 蓮が攻撃した地点から約3㎞程離れた場所にて、ようやく勢いが相殺され地面へと転がる。

 

「がッ、ボエぇ……ゲホッゲホッ……ク、ソがぁ!」

 

 体内に溜まった血を吐き出し、呼吸を整えようと必死に肺へ空気を送り込む。

 地に伏しながら、腹の底から沸き立つ怒りが上限を超えたことを、彼女の表情が物語っていた。

 

(クソッ、クソクソクソクソクソ女ァ!! 最後の最後まで邪魔しやがってあの間抜け! 完全に射程外だったはずなのに、あの土壇場で進化しやがった!)

 

 止まらない血反吐を吐きながら、八千穂への怨み言を心の中で何度も叫ぶ。

 みっともなく悪態をつく彼女の元へと、迫りよる黒い影が一つ。

 

「ハァ…ハァ…やっぱまだ生きてたか。タフ過ぎるだろ(あの一撃ですらダメなのか。やっぱりこいつを倒す為には、()()()をぶつけるしか無い!)」

「ゲホッ……アンタ達がそれを言うな」

 

 血が混ざった唾をプッと吐いた後、ゆったりと立ち上がる神村。

 ハッタリか、見栄か、それともプライドか。それは分からないが、とにかく相対するこの男に弱みを見せたくない神村は、薄い笑みを浮かべながら余裕の表情を向ける。

 

「正直驚いたわよ。まさかアンタにここまで追いつめられるとは思っていなかったわ」

「………は? “僕に”追い詰められた? 今アンタが追い詰められている原因は僕じゃない。脳みそに(ウジ)でも沸いてんのか?」

 

 神村はその言葉に顔をしかめる。

 あの女に一杯食わされた事を認めたくない。そんな浅はかな考えは目の前の少年に筒抜けであった。

 

「意識の無い暗闇の中でも聞こえてたぞ? さっき散々ツインテールの事馬鹿にしてたよな? どうだ? そんな奴にしてやられた気分は?」

「クッ……フッ、ハハハハハっ!! えぇそうね、認めるわ。確かに私が間違ってた。今追い詰められているのはアイツのせいよ。で? だから何だってのよッ!」

 

 ダメージで不安定な精神が情緒を崩し、神村から冷静さを奪ってゆく。

 

「まだ私は負けてない! 頼みの綱の東八千穂もあのザマ! アンタ独りで……弱者(オトコ)独りで何が出来るッ!?」

 

 対して、蓮は先程までの焦りが嘘のように冷めていく。神村の言葉にも、何一つ心揺さぶられることなく自身の心を落ち着かせる。

 

 

──……常に冷静さを保つ事。

 

 

(落ち着け、挑発に乗るな。さっきみたいに勝ちを焦って突っ込むな。常に冷静でいること……出雲組長に教わったはずだ)

 

 

──……自信を持て。そうすれば、お前の(スピード)には誰も追いつけなくなる。

 

 

(自信を持て。信じろ……自分の力を。あの人の言葉を。友の言葉を)

 

 

──……()みつきなさい、敵の喉元に。

 

 

(この脚で、この牙で……噛みつけ!!)

 

 組長達の言葉を、英雄達の助言を再び心に灯す。

 

(思い出せ……山城蓮。お前は誰の弟だ? お前は誰と同じ名前を背負っている!!)

 

 世界で最も偉大な御人の名前を貰った者として。己の名前に、姉の名前に泥を塗らない為に。

 少年は己を鼓舞し、我が身に宿る能力を吠える。

 

 

鳳雛の首輪(ペット)──能力全解放 《黒狼(コクロウ)》」

「───瞬目厳禁(アクセルスター)─── 全速力(フルスロットル)!!」

 

 それ以上言葉は紡がれず、両名共に姿勢を低くし構えをとる。

 両者が奏でる“命の音”がその場に響き渡り、この戦いが間も無く終幕を迎えることを予感させた。

 

(僕は、『地球の答え』の……山城恋の弟だ!!)

 

 山城蓮と神村鳴海。『山城恋の弟』と『神奉者』。

 どちらが(つよ)いか、最後の加速合戦が始まった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 蓮が『全開放』を使用する少し前……。

 『暗幕』により気配を消した()()()()がこの戦いを観戦していた。

 

「……押され気味だな。どうするつもりだ紫黒(しこく)? このまま黙って見ているのか?」

 

──カシャカシャカシャカシャ。

 

「………紫黒? 先ほどからお前は何をやっているんだ?」

「ごめんね壌竜(じょうりゅう)、ちょっと今集中してるから話しかけないで。あの子の雄姿をかめらで撮ってるんだよ!」

 

──カシャカシャカシャカシャ。

 

「………そうか。それはすまなかった」

 

 一柱(ひとり)は腕を組み込みながら真面目に戦闘を眺める褐色の竜。

 もう一柱(ひとり)はスマホのカメラ機能を連写する漆黒の蛇。その黒蛇の瞳とレンズが見つめる先には、常に一人の少年の姿があった。

 傍らでは、今もなお命がけの激しい戦闘が行われているというのに、まるで娯楽や余興を眺めるような緩さ。

 

「ふぅ~、いいねいいね~♪ イイ感じのが撮れた。あ、壌竜も見てみなよ! ほらほら、イイ感じでしょ♪」

「……後でな。……満足したか? なら先ほどの質問を繰り返すようで悪いが、どうするつもりだ? このまま行けばおそらく負けるぞ。そうなったら参戦するのか?」

「まさか。言ったでしょ、まだ八雷神(ボクら)は動くときじゃない。今回あの神奉者を仕向けたのも、あの子の力を見るためと、実験の結果確認のためだしね」

「………いいのか? 攫うには絶好の機会だぞ」

「うん。大丈夫だよ壌竜、あの子はいずれ必ず“八雷神(ボクら)”の()()()になる。それまでは人間達に預けておくよ」

 

 黒蛇の意味深な言葉に反応するように、山城蓮が神村と相対し、能力の全てを開放する。

 彼の身体から立ち昇る漆黒のエネルギーは、更に勢いを増した。

 

「紫黒。どうやら……顕現するようだぞ」

「うん、みたいだね。見せてもらうよ()

 君の───……“全力形態”を」

 

 

 






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次回『月の答え』
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