魔都精兵のペット 〜山城恋の弟くん〜   作:ハトル

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月の答え

 

 

鳳雛の首輪(ペット)──能力全解放 《黒狼(コクロウ)》」

「───瞬目厳禁(アクセルスター)─── 全速力(フルスロットル)!!」

 

 両名の力が、身体から立ち昇るエネルギーが上がってゆく。それにつられるように神村の怒りや憎悪も増幅していく。

 

(どいつもこいつも吹けば飛ぶようなザコ、止めるのなんて容易なノロマの集まり! なのに、何故私がこんなにも押されている!? ただ男のガキ一匹を攫うだけの簡単な仕事だったはずッ!!)

 

 今だに身体に響く鈍痛を嚙み殺し、怒りを糧に神村鳴海は空を掛ける。

 

「《空宙走行(エアウォーク)》!!(所詮は実戦経験ほぼゼロの男! そんな初心者マークぶら下げた能力者(ドライバー)なんて一瞬で潰してやるわよ!)」

 

 これ以上勢いに乗せてはいけない。神村鳴海は本能に従い、先程よりも更にギアを上げ駆け抜けてゆく。

 もはや彼女の頭の中から『あまり蓮を傷つけるな』という神からの命令は消えている。そんなこと考えている余裕は既に無い。

 

(そもそも治るのであれば、無傷であろうと半殺しだろうと大して差は無い!)

 

 そんな気持ちで飛翔した神村の眼に驚きの光景が飛び込んでくる。

 

「───空宙走行(エアウォーク)───」

「………は?」

 

 飛翔する音速を越える為に──……黒狼も飛んだのだ。

 神村鳴海の技である《空宙走行(エアウォーク)》。それを使い、蓮は空を駆ける彼女の横に一瞬で並ぶ。困惑する彼女の心を置いてけぼりにし、地面へと蹴り落とした。

 

 狼に翼をもがれ、高速で地面へと落ちていく神村。困惑の影響で、碌な防御も取れなかった彼女に空中で立て直す余裕などある筈もない。

 地面に激突し、衝撃でクレーターを生み出し土煙を舞い上げる。

 漂う土煙の中、追撃を喰らわすために《空宙走行(エアウォーク)》を使いこちらへと向かってくる蓮を見上げた。

 

「ナ……ダンデ、アンタがソレをッ!?(私が長い年月を掛けてやっと辿り着いた領域(ゴール)。それをなんでこんな奴が!?)

 

 痛みのせいか、それとも目の前に広がる現実を認めたくないのか、呂律が回っていない口を開く。悪い夢でも見ているかのような苦悶の表情で、迫ってくる漆黒の獣を眺めながら。

 

「『空気を足で掴むイメージで蹴る』っていうアンタの言葉を聞いた時、ピーンと来たんだよ。脚の周りを覆っている大気、その『命の音』を聞ける僕にならマネできるんじゃないかって!」

(窒素■■ 酸素■ アルゴン■■■■ 二酸化炭素■ 水蒸気■■■。その他空気中に漂う風やら塵、全て聞き逃すな!)

 

「ッ!?(あの時のテキトーなアドバイスと、たった二度見ただけで!? それだけで、この短時間で……私の《空宙走行(エアウォーク)》を喰いやがったの!?)」

 

 《空宙走行(エアウォーク)》とは神村鳴海が神奉者になる以前に辿り着いた極地。

 彼女の速度(スピード)を持ってしてもそこに行きつくには長い年月を要した。それも果てしない研鑽と数多の実戦を積み重ねて。

 だが──……彼は。

 

()()()()()()()だけは、唯一自信を持てたんでなぁ! 僕にとっちゃあ、数分もあれば十分だァ!!」

 

 空を駆け抜け、迫る少年の蹴りを躱す余地などない。再び激痛と共に吹き飛ばされる浮遊感に見舞われる神村は、自身の考えの誤りに気付く。

 

(私は間違ってた。コイツは……弱者(ザコ)なんかじゃない)

 

 死を感じさせる痛みが、目の前の絶望が、燃え上がる彼女の怒りを鎮めてゆく。

 地面を転がり土で身体を汚す神村。身体が止まると同時に彼女は自分の役割を完璧に理解する。

 

(コイツは……()()()()()()()()()()。私の命と引き換えにしてでも!! コイツに経験(エサ)を与え続けたらいけない。下手すればコイツの牙は、紫黒サマ……いや、もっと上の存在。大極(たいきょく)サマの喉元にも届きうるかもしれない!!)

 

 自身が崇める神の為に、神の命令に背く。

 再び瞬目厳禁(アクセルスター)と発電能力を同時展開。蒼雷を身に纏う姿を見て、《“音戟(ソニック)”》の発動を察知する蓮であったが、先ほどとは様子が違うことを直ぐに察知する。

 

生命維持器官解除(リミットオーバー)……発電能力、全開ッッ!(溜めろ、身体の限界を超えて! 自分の命を引き換えにしてでも、コイツを殺す)」

 

 蓮とサハラに放った過去2回のモノよりも、明らかに身体にほとばしる雷の出力が上がっている。その証拠に、身体中の皮膚は焼け焦げ剥がれ落ちていき、なびく髪は徐々に熱にやられて散っていった。

 

「───空宙走行(エ゛アウ゛ォーク)───」

 

 喉もやられたのか、かすれた声で技名を口にする。もはや顔の判別は不可能な程に肌がただれ落ちた状態で、神村は遥か上空へと昇っていく。

 蓮は先程の様に《空宙走行(エアウォーク)》を使って追う事は無かった。今の蓮の脚を止める程に、蒼雷で焼けた神村の形相は悍ましい物であった。

 

「ア゛ンタ……ヲ、ゴロす!」

 

 その言葉と共に、神村はさらに瞬目厳禁(アクセルスター)と発電能力の出力を上げる。

 その力に共鳴するかのように、魔都の空を覆っていた雷雲は彼女を中心に形を変え、螺旋を描いていく。

 彼女が命を賭した最後の一撃を放つ為のエネルギー。それは余波で、魔都の天候を変え、巨大な竜巻(ハリケーン)を創り出した。

 

「マジかよ……死ぬぞ、確実に(竜巻が発生したのは僕のスピードで大気中の風に大きな乱れを起こした影響もあるだろうけど、完成のトリガーになったのはアイツの膨大なエネルギーだ。そんなモノ人間が耐えられる訳がない。目的をシフトし確実に殺しに来たか!)」

 

 螺旋を描き、無数の雷が迸る竜巻の中心に佇み、こちらを見下ろす神村。

 今までとは比較にならない膨大なエネルギーを推進力にし、全てスピードへと変換する。

 怒りも、痛みも、憎悪も、殺意も……命すらも。

 

「イカれてんなぁ。ま、飼い主の為に命を捨てるって奴の気持ちは分からないでもないけど(1224㎞/h(マッハ)なんて軽く超えてくるだろうな)」

 

 自分が反応することも出来なかった《“音戟(ソニック)”》。そのスピードを自分の命を犠牲にして更に上げてくると確信した蓮は、対抗する為に──……()()()の構えを取る。

 

(あれを止める為には、アイツを倒す為にはやはりコレしかない!)

 

 両足を踏み込んだ瞬間、彼の身体からも同様に漆黒のエネルギーが溢れ出す。まだ踏み込みの段階であるにも関わらず、脚力と立ち昇るエネルギーの影響で、地面を大きく揺るがした。

 

 両者、必殺の一撃を放つための前準備は天と地を大きく乱れさせる。

 

「ごれで終わりダァ、イレギュラー! 一緒に地獄へ墜ぢるわよ」

「嫌だね。アンタみたいな女とあの世までデートだなんて、まっぴらごめんだ!」

「安心じナざい、寂しくは無い! あの御方達がいずれ、アンダの姉も堕とじてくれるわよ!」

「それはこっちのセリフだ。神とやらも、僕がこの牙で冥府に堕としてやるよ!!」

「ほざくなッ! ノロマがァ゛ァぁぁぁ!!」

 

 両者の力が徐々に膨れ上がっていき、その影響か魔都の天候は更に荒れていく。雷轟が周囲に響き、暴風が吹き荒れ周りの岩や地面を削る。

 己の命を捧げる覚悟を胸に神村鳴海は最後の一撃を繰り出した。

 

瞬目厳禁(アクセルスター)─── 全速力(フルスロットル)!!

 ──……《“音戟(ソニック)”》───!!」

 

 竜巻と共に、雷雲が生み出す雷と共に蓮へと加速していく神奉者。

 

 蓮とサハラに使用した音戟(ソニック)の最高速度は時速1300㎞。

 だが、今回は以前までのモノとは別物。蓮がそうであったように、命を賭して行う行為には半端な力は宿らない。

 彼女の決死の覚悟が、音戟(ソニック)の最高時速を1600㎞にまで加速させた。

 周囲の空気を切り裂き、全てをぶっちぎる蒼き流星と成り、山城蓮を殺す為に雷と共に大地へと降り落ちる。

 

 

 

 一方、神村が迫りくる極わずかの間。刹那とも呼べぬ一瞬の時間に、蓮は再び英雄達から贈られた言葉を思い出す。

 

──……想像する一歩先のイメージを。

 

(想像の一歩先……!!)

 

──……信じろ。自信を持て、そうすれば、お前の(スピード)には誰も追いつけなくなる。

 

(疑うな! 迷うな! 信じろ、必ず出来ると!!)

 

──……貴方は《黒狼》。嚙みつきない、敵の喉元に。どんな相手にでも。

 

(噛み付け! 嚙み付けッ!! 嚙み付けッ!!!)

 

 

 組長たちの言葉。英雄たちの助言に背中を押される感覚がその身に走る。その感覚を胸に、山城蓮は大地を強く踏み込んだ。

 

「行くぞッ……!!」

 

 ──極限まで高めた“力”が脚に集約される。

 

「“鳳雛の首輪(ペット)”!!」

 

 ──“空間”を捻じ曲げ。

 

「能力全開放!」

 

 ──“時間”すら止められない一撃。

 

「──《黒狼》──!!」

 

 

 

 

 己を信じ。自身が想像していた技の更に一歩先のイメージを実現した技。

 山城恋の弟として、姉に仇なす神の使者の喉元を食いちぎる牙。山城蓮の圧倒的な『神速(スピード)』と出雲天花の『蹴り技』が掛け合わさった──神喰(シンソク)の一閃。

 

 ──……その名も。

 

 

 

 

「────《“狼月(カミツキ)”》────」

 

 

 天へと昇る黒き満月。大地へと降り落ちる蒼き雷轟。

 漆黒と蒼、音速を超える二つの流星。その二つはやがて衝突し、交じり合った。

 それによって生まれた衝撃波で魔都の空を覆っていた竜巻と雷雲は吹き飛ばされ、輝く双月が顔を見せた。

 

 その月光はまるで、勝者を讃えるスポットライトの様に、一人の人間を照らしていた。

 

「ハァ…ハァ…」

 

 一方は生き物としての『命の音』が完全に消えた屍へと変わり。一方はそんな屍を背に、全身から血を流しながら嵐のように息をはずませている。

 

「オイ、音速(ノロマ)。この勝負……六番組(こっち)の勝ちだッ!」

 

 

 魔都に解き放たれし黒狼は、いまだ自身を照らし続ける双月に向かい、勝利の雄叫びを上げる。

 その猛々しい遠吠えは、まるでこの魔都に生きる全ての生命体に訴えかけているようだった。

 

 これが──……山城恋の弟だ、と。

 

 

 


 

 

《“狼月(カミツキ)”》

 

 山城蓮が持つ『速度(スピード)』と出雲天花の『蹴技(アシワザ)』を融合させ、山城蓮が想像していた音速(スピード)の一歩先を体現した必殺技。

 全ての力を脚へと集約させて踏み込み、その速さは空間を歪ませ、時間すらも止められない。 

 まさに──神喰(シンソク)の一閃。

 

 最高時速は1800㎞。

 

 






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次回『組長会議』
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