魔都精兵のペット 〜山城恋の弟くん〜   作:ハトル

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組長会議

 

 

 

 時計の針は同日の数時間前へと巻き戻る。

 現世で日が昇り始める時間帯、出雲天花は布団の中で目を覚ます。

 あくびをしながら身体を伸ばし、部屋の時計に視線を向ける。昨日、急遽決まった組長会議が開かれるまであと二時間ほど。

 もろもろの準備をする時間などを計算すると、もうそろそろ起きなくてはならない。

 

 ベッドから身体を起こし、彼女は身だしなみを()()()()整え部屋を後にする。

 

(……良い香りだ。今日は炊き込みご飯かな♪)

 

 居間の方へと進むにつれて、鼻腔をくすぐる豊かな香りが漂ってくる。

 包丁の音が『トントントン』と静かな廊下に響き。その心地良いリズムと香りは天花の心と足取りを軽やかにする。

 

「ペットく───ッ」

 

 台所を覗くと、蓮が朝早くから朝食作りに勤しんでいた。もはや、六番組では恒例となっている光景。感謝の気持ちを胸に、声をかけようとした天花であったが、寸前でそれを止める。

 理由は、今までとは決定的に違う点がその光景の中に一つだけあったからだ。

 

(……エプロン着けてる)

 

 昨日までは使用していなかった黒いエプロンの着用。それが、出雲天花の口を閉ざした理由である。

 黒い尻尾と獣耳を生やした年端も行かない少年が、黒いエプロンを身に纏い料理に勤しむ。大変アブノーマルな光景ではあるが、それを見た出雲天花の心は脈打った。

 

(……可愛いなぁ♡) 

 

 コレを聞けば(くだん)の少年は怒るだろうが、天花の頭はそれで一杯だった。しかし仕方あるまい。彼女にとっては否応なしに目線が吸い込まれるほどの光景なのだ。

 しばしの間眺めた後、高鳴る鼓動を抑え、熱くなった頬を落ち着かせ、少年の元へ歩み寄り今度こそ声を掛ける。

 

「ペットくん、おはよう。今日も早起きして偉いね」

 

 よほど料理に没頭していたのか、蓮は天花が声を掛けるまで彼女の存在に気付かなかった。背後から急に声を掛けられた事で、尻尾と獣耳がビクンッと反応する。

 

「お…おはようございます出雲組長。すみません、気づけなくて」

「(イイ反応するね♪)ううん。こっちこそごめんね、急に声をかけて」

「いえ、おきになさらず。あっ……お腹すきましたよね? すみません、すぐ用意しますね」

「気にせずゆっくりでいいよ、まだ組長会議まで時間はあるしね。それよりペットくん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」

 

 天花はエプロンについて質問を投げかける。彼女の質問に対し、蓮は料理の手を止めずに応える。

 

「あ、これですか? 昨日七番組の寮に行った時、恋姉に貰ったんです」

「(総組長、ナイスです)そっか。よく似合ってるよ」

「どうも」

 

 彼女の誉め言葉を聞いても、蓮は興味無さげに礼の言葉を告げる。

 お世辞や社交辞令と思ったのか。それは分からないが、どちらにせよ『山城恋』でない彼女の誉め言葉は、山城蓮には響かない。

 

「お待たせしました。どうぞ」

「今日は一段と豪華だね(小食の私を気遣って、量は少なめ。こういう小さな配慮が出来るところが良いんだよね)」

 

 炊き込みご飯を主食に、おかずはどれも朝から作るには手の込んだモノばかり。

 もしや、今日は組長会議だから私の為に手の込んだモノを作ってくれたのでは? そうであってくれたのならこの上なく嬉しい。

 そんな事を考えながら天花は朝食を片していく。

 

「ご馳走様。今日も美味しかったよ」

「お粗末様です」

「ペットくんは本当に食べなくて良かったの?(せっかくなら2人で一緒に食べたかったんだけど)」

「えぇ、僕は後で食べます。まだお腹空いてないんで」

「そっか。じゃあ私は行ってくるから、お留守番はお願いね」

 

 そう言って、天花は彼に手を振った後に《天御鳥命(アメノミトリ)》で瞬間移動を行おうとした。

 だがその瞬間、山城蓮が待ったを掛ける。

 

「あっ、出雲組長! ちょっと待ってください!」

「ん?」

 

 一体何事かと思い、蓮の方へ視線を向けていると、風呂敷に包まれた二つのお弁当をこちらに手渡してきた。

 

「(~~っ!! コレってひょっとして)……お弁当?」

「はい、持って行ってください」

 

 ドクンッ、ドクンッ、と高鳴る鼓動を抑えられない。胸の高鳴りが止まらない。

 ニヤけそうになるのを何とか止めようと必死になる天花であったが、次に蓮の口から飛び出た言葉を聞き、胸の高鳴りは一瞬で止まることになる。

 

「こっちの黒い風呂敷の方が恋姉で……こっちのが()()()()のです」

 

(………………ん??)

 

「量とか味付けとか、あの2人の好みに合わせて作ってあるので間違えないで下さいね」

 

 先程までこれでもかと鼓動が速くなっていたのに、今ではすっかり冷静さを取り戻した天花の事など露知らず。蓮はお弁当の説明を続ける。

 

「そっか、了解したよ。二人に渡しておくね。……ところで、私の分は無いのかな?」

「?? ありませんよ?」

 

 天花の問いに、首を傾げあっけらかんとした態度で答える蓮。悪意や意地悪で言っているわけでは無いと分かるから余計に質が悪い。

 二つ用意渡された時、一つは間違いなく山城総組長の物だと予想は着いていた。だが、もう一つが自分用では無くまさか同僚に用意されていたモノとは夢にも思わなかった。

 

「(今日のご飯が豪華だった理由はコレか)……私も作ってほしかったなぁ」

「……お腹すいたら向こうでなんか食べてください。六番組と違って十番組には管理人が居るので」

「……つれないね(めんどくさかったのかな?)」

「料理のラインナップはさっきの朝食とほぼ変わりませんよ?」

「……そういう事じゃないんだけどねぇ」

 

 表には出さないが、上がったテンションはジェットコースターもビックリな程に急降下。

 彼女も人間だ。上げて下げられたらやる気も落ちる。少し気落ちしたような様子を見せ、今度こそ能力を展開。魔防隊本部へと繋がる桃色金(ピンクゴールド)カラーの穴を空間に開ける。

 

 周囲に羽を舞い踊らせながら、自身が生み出した空間の穴へと飛び込もうとした瞬間、再び天花はその足を止める。

 

「行ってらっしゃいませ。どうかお気を付けて。……言う必要ないかもしれないですけど」

 

 『行ってらっしゃい』

 そう言われた瞬間、足を止めて目を見開き、勢いよく後ろを振り返る。

 この一週間、寮を離れる時は常に一緒だった故に、彼から一度も言われたことの無い言葉。

 傍からすれば何てことない一言なのだろうが、出雲天花にとっては足を止めて再び振り返る程の魔力が込められていた。

 

「…………」

「?? い、出雲組長? ど、どうかしました?(えっ、なんか失礼な事言った?『お前如きが心配すんじゃねぇよ』ってか?……いや、それは無いか)」

 

 突然振り返ったと思ったら、何も言わずに見つめてくるだけ。心なしか顔に熱が籠っているようにも感じる。

 何か失礼な事言ったかと思い、内心オロオロしていると、満を持してようやく閉じていた彼女の口が開く。

 

「ペットくん、もう一回言って欲しいな」

「…………は? え、え~っと……お気を付けて?」

「ううん、そっちじゃない。私が欲しいのはその前だよ」

「………行ってらっしゃいませ」

「(~~っ♡)うん! 行ってきます♪」

 

 さっきまでの気落ちは何処へやら。とびっきりの笑顔を最後に、天花は瞬間移動でその場から姿を消す。

 居間には、色んな意味で置いてけぼりを食らった蓮だけが残った。

 

「……マジで何なんだあの人。意味分かんねぇ」

 

 彼以外誰も居なくなった居間には不気味な程よくその声は響いた。

 一体何がそんなに刺さったのか? 全く訳が分からず疑問の表情で首を傾げる。

 途中で考えるのも面倒くさくなり、爆睡しているであろうお眠り羊を起こす為に彼女の部屋へと向かっていった。

 

 

 

 


 

 

 

 

────魔防隊本部(十番組拠点)

 

 瞬間移動で場所を移した後も、天花の頭の中は先程のやり取りの事ばかりが占めていた。

 『行ってらっしゃいませ』

 

「……フフッ♪」

 

 彼の言葉を頭の中で何度も反芻する。その度に心が脈打ち、胸の高鳴りが激しくなっていくのを感じた。もはや、お弁当を用意してくれなかった事など匙に過ぎない。それ以上のモノを先程贈ってもらえた。

 少なくとも今日、あの言葉は確実に自分にしか送ってもらえない。羽前京香も、山城恋ですらも、あの姿であの見送りの言葉は送ってもらえないのだ。

 あの出来事だけで、今日の組長会議どころか、この先一ヶ月は頑張れると思った天花であった。

 

「いってらっしゃいませ……か。帰った時に『お帰りなさいませ』って言ってくれないかな?(エプロン姿でお玉とか持ってたら最高だね)」

 

 時間は無いので歩みは止めずに、口元に手を当てて真剣に考える天花。これから大事な会議だというのに、彼女はまったく緊張感や集中力を見せない。もはやもう終わった後、帰った時の事を考える始末。

 

 第三者から見れば、真剣な表情で悠然と歩いているように見えるが、脳内では真剣という言葉からはかけ離れた妄想劇が繰り広げられている。

 

『ただいま、ペット君。今帰ったよ』

『お帰りなさいませ。今日もお仕事ご苦労様です。先にお風呂入りますか? それともご飯にしますか? どちらも準備万端ですよ』

『う~ん、そうだね……、三つ目の選択肢は無いのかな?』

『み……三つ目?』

『うん』

 

 ───エプロン姿の狼少年を胸元に抱き寄せる。

 

『君だよ──……蓮君♡』

『ご……ご飯もお風呂も冷めちゃいますよ?』

『今日の組長会議は激務だったんだ。疲れてるからまず先に癒して欲しいんだよ。……ダメかな?』

『……少しだけ、ですよ?』

 

 妄想終了。

 

「……良いね。可愛いすぎる」

 

 この女、ブレーキがすでにぶっ壊れている。

 止める人間は此処にはいない。当然、あの少年は相手が『山城恋』であるならば話は別だが、出雲天花に対してこんな砂糖マシマシの甘ったるい会話など絶対にしない。仮にこんな妄想をしていると本人に伝われば、絶世の美女とも言える出雲天花が相手であれど『キッッモ』と一蹴するだろう。

 

 だが、これは妄想。妄想はあくまで個人の自由であり、罪にはならない。色んな意味で今の彼女を止められる人間は此処には居ない。

 

 そんな妄想にふけっている時、背後から突然、首元に手を回されて抱きしめられた。

 いくら別の事に集中していたとはいえ、彼女の背後を取って抱きしめられる人間などそうは居ない。ましてやこんな事をする人間ともなれば、該当する人間は一人しかいない。

 振り返る前に、天花はその者が誰なのか、おおよそ見当がついていた。

 

「こんちゃす天さん♪ なんだかご機嫌だね~♪ 何かイイことでもあった?」

「久しぶりだね──……夜雲(やくも)

 

──……五番組組長 “蝦夷夜雲(えぞやくも)

 

 羽前京香の七番組と同じく、六番組の隣に位置する地域を担当している組の組長である。

 そんな彼女は天花の肩に顎を置き、彼女の頬と自身の頬をすりすりと摺り寄せる。

 

「天さん相変わらずキレ~♡ でも、前に会った時よりお肌がツルツルだね。何かあった?」

 

 天花は彼女の質問に答えるでもなく、身体を拘束する両腕を気持ち強めに振りほどいた。

 

「相変わらずスキンシップが激しいね。当人の許可なく勝手に頬に触るだなんて、イケない事だよ」

「えぇ~、いつもの事じゃ~ん。女同士なんだし、これぐらい許してよぉ」

 

 この場に山城蓮か羽前京香が居たのならば『お前が言うな!』と言われそうな発言で諭す天花。

 そんな彼女に『ケチ~』とブーイングする夜雲。しばらくすると、前触れなく周りをキョロキョロしだし落ち着かない様子を見せる。

 

「ねぇねぇそれでさぁ~……あの子は来てないの? 噂の恋さんの(ペット)ちゃん。夜雲さんも一目見てご挨拶したいんだけど★」

「(やっぱり彼女も興味を……。連れてこなくて正解だったね)うん、総組長の命令でね。今回は寮でお留守番してもらってるよ」

「えぇ~!! やっと会えると思ったのになぁ。なんで恋さん呼ばなかったんだろう?」

「(多分、君が居るから)さぁ。何か聞かせたくない話でもあるんじゃないのかな? それよりもそろそろ会議室に行こう。もうすぐ時間だ」

 

 その言葉を皮切りに両名は並んで歩みを再開する。

 

「ねぇ天さん、ちなみに聞くけどペットちゃんに変な事とかされてないの?」

「変な事?」

「だ~か~ら~、エッチなこぉ~とぉ~♡」

「……(君じゃないんだから)」

「確か15歳だよね? 思春期真っ只中だし、そういう事に一番興味ある年頃じゃん。お風呂や着替え覗かれたり、寝てる時に胸揉まれちゃったりしてないの~?」

「されてないよ。年頃だけど、そういう事にはあまり興味無いようだね。八千穂とサハラ、もちろん私にもそういう感情や視線を向けられた事はないよ。……残念だけど(性欲が無いというより、山城総組長しか見てないって感じだけど)」

「えぇ~~、こんな綺麗な天さんと一つ屋根の下で暮らしてるのに何もしないなんて、勿体ないなぁ~(天さん、残念って言った?)」

 

 魔都防衛隊の中で、それも組長という枠組みの中でも上位に位置する超特級戦力二名。その二人が道中交わした会話の内容は、一人の少年の話ばかりであった。

 

「あっ! そうだ。ねぇねぇ今度さ、五番組と六番組で合同訓練しようよ♪ 隣の組同士だし、やっぱ親交を深めたり連携を高めるのも大事だと思うんだよね」

「そうだね、仲良くするのはイイことだね。………それで? 本当の目的は?」

「ペットちゃんに会ってみたい! 資料で顔見たけど、チョ~可愛いよね♡ 聞いた話、夜雲さんと同じスピードタイプみたいだし、手取り足取り教えてあげたいなぁ~って思って!!」

 

 よだれを垂らしながらニヤニヤの表情で、両手をワキワキさせる夜雲。天花はそれを見てこの話は絶対に受けない、そして絶対に蓮と接触させない事を誓う。

 

 『あの子にナニを教えるつもりなんだこの女は?』といった感情は表には出さず冷静に口を開く。

 

「う~ん、確かにペット君は君と同じくスピードタイプだけど、似ているのはそこだけだね。蓮君は肉弾戦の近距離特化型、君は風を利用した遠距離攻撃と広範囲攻撃が得意だよね」

「夜雲さんは近距離戦もお手の物だけど?」

「近距離戦は私が手塩にかけて教えていくよ」

「でもスピードなら()()()()()()()だよね。天さんは機動力だと最強だけど、スピードってジャンルなら夜雲さん以上に教えてあげられる組長(ヒト)は居ないよねぇ〜?」

「そうかもね。でも、蓮君は君や総組長みたいに()()()()()()。『走る』彼と、『飛翔』する君とではやっぱりジャンル違いなんじゃないかな」

 

 彼に会わせたくない出雲天花。彼に会いたい蝦夷夜雲。天花は夜雲の提案をことごとく跳ね除けていく。

 先程までは緩い雰囲気が漂っていたというのに、言葉を交わす程、時間が経つほどに周りの空気が針の様にとげとげしいモノへと変わっていく。

 

 表情は変わらず二人とも緩い笑顔。だが心なしか両名の気迫が増していくようにも感じた。

 

「ふ~ん、天さんちょっと雰囲気変わったね~。そんなに夜雲さんに会わせたくない?」

「そんなことは無いよ。ただ、今はまだその時期じゃないと思っているだけだよ。君の言う通り、蓮君はそう遠くないうちに()()()()()()()()()()()()()()。でもそれはまだ今じゃない、そう言っているだけだよ」

 

 天花の言っている事は正しい。事実、そう遠くない未来で『山城蓮』と『蝦夷夜雲』。この両名は出会い、そして()()()()()()()()

 

 だが、今の蓮では彼女の足元にも及ばない。そんな状態で彼女と接触させるのは(色んな意味で)危険だと考えた。

 

「(天さんがこんなに言う男の子かぁ~。俄然興味湧いちゃったなぁ♡ 来月の試用期間、“五番組(夜雲さん)”に()()()()()()って恋さんに直談判しよぉ~っと★)りょーかい♪ じゃあとりあえず今回は引くよ。()()()ね♪」

「(諦めてくれなさそうだね。ま、分かってたことだけど)うん、分かってくれて嬉しいよ」

 

 表面的な納得を見せるが内心まるで諦める様子を見せない夜雲と、それを見抜いている天花。

 二人は独特な雰囲気を周囲に漂わせながら、組長会議の行われる会議室の前まで辿り着く。天花がゆっくりと扉を開くと、もうすでに全ての組の組長達が集結していた。

 

 

「来たかい。随分と遅かったね、二人とも」

 

──……一番組組長 “冥加(みょうが)りう”

 

 

「オイオイ。瞬間移動の使い手の天花と、魔防隊最速の夜雲が遅れるってのはどういう了見ダァ?」

 

──……二番組組長 “上運天美羅(かみうんてんみら)

 

 

「こ……こんにちは(あ、アレ? 蓮君は一緒じゃないのかな? 出雲組長の所にいるって恋ちゃんが言ってたのに)」

 

──……三番組組長 “月夜野(つきよの)ベル”

 

 

「遅かったな二人共。会議の時間ギリギリとは、少したるんでいるのではないか?」

 

──……七番組組長 “羽前京香(うぜんきょうか)

 

 

「………(京香様の奴隷の誘いを不敬にも断り、京香様の尊き目標を()()した男は居ないのね)」

 

──……八番組組長 “ワルワラ・ピリペンコ”

 

 

「出雲組長、お久しぶりです。娘の八千穂がいつもお世話になっております」

 

──……九番組組長 “東風舞希(あずまふぶき)

 

 

 そして………。

 

「天花、夜雲、二人共遅れるんじゃないかと心配してたけど、間に合って良かったわ。それじゃあ、全員集合したことだし『組長会議』をはじめよっか」

 

──……十番組組長(総組長) “山城恋(やましろれん)

 

 この日、魔都防衛隊が誇る最強の9名。

 九つの特級戦力が魔防隊本部に集結した。

 

 

 

「今回は急な呼び出しだったのに、皆集まってくれて感謝するわ。本題に入る前に、それぞれの組で何か報告しておくことはあるかしら?」

「アタシから一ついいかい?」

 

 山城恋の言葉に反応したのは一番組組長 冥加りう。

 

「えぇ、何かしら?」

「アタシはそろそろ一番組組長の座を降りて、木乃実(このみ)に渡そうと考えている」

 

 冥加りうの突然の言葉に、組長達の間に僅かな動揺が広がった。たった一人、事前に知っていた羽前京香だけを除いて。

 

「……ついにですか、師匠」

「あぁ、最近ようやく形になってきたんでね。そろそろ世代交代して老兵は引っ込むつもりさ」

「オイオイ、なんだァ!? 2人だけで勝手に話進めやがって! 俺たちそんな話聞いてねェっすよ、りうさん!!」

 

 他7名の動揺など知らんぷりに会話する2人の間に割って入ったのは二番組組長、上運天美羅。

 

「つーか京香テメェ! 知ってやがったなら俺らにも教えろよコラ!」

「……すまん」

「慌てんじゃないよ美羅。まだ正式に決まったわけじゃない。あの子にもまだまだ至らない部分や足らない所は多い。あくまでまだ先の話さ」

「けどよォ! いきなり過ぎて頭ん中こんがらがっちまって!」

 

 話が脱線、もしくは長くなりそうな予感を感じとったのか、山城恋が3名の話の間に割って入る。

 

「はい、皆ストップ。美羅も慌てる気持ちも分かるけど落ちついて」 

 

 長年にわたって魔防隊の御意見番として支え続けた組長の交代宣言。それにより生まれた組長達の動揺は、山城恋のたった一言で押さえられた。

 

「まず一番組の人事については了解したわ。正式に決まったら教えて頂戴」

「あぁ。と言っても、さっきも言った通りまだ先の話だよ。あの子はまだ組長の器にはなっちゃいないからね(何か()()()()でも与えてやりたいんだがね)」

「そう。そう言えば私はあまり面識が無いのよね。京香の妹弟子だっけ、強いのかしら?」

「「強いね(ですよ)」」

 

 恋の言葉に、りうだけでなく京香も反応し声を揃えて応えた。

 

「そう♪ それは楽しみね」

「楽しみかい?」

「えぇ。貴方と京香がそこまで言う人材だもの。私の魔防隊が更に強くなるのは明白。当然でしょ?」

「あまり悠長な事言ってると足元掬われるよ。あの子はまだ未熟だけど、いずれ総組長だって狙える器だよ」

「あら、それは頼もしいわね。ま、総組長はずっと私でしょうけど」

「いや、次の総組長は私だ」

 

 再び、羽前京香が2人の間に割って入る。総組長を志す彼女にとっては、今の言葉だけは看過できない。

 

「あら、京香はまだ総組長を狙ってるの?」

「当然です。そもそも、狙っているのは自分だけではありません」

 

 京香の言葉を肯定するかの様に、この場にいる数名の組長が山城恋に視線を向ける。

 上運天美羅、蝦夷夜雲、東風舞希。

 羽前京香と同じ志を持っている百戦錬磨の英傑達の視線やプレッシャーを一身に受けてなお、山城恋に怯む様子は全く見られない。

 

「フフッ、皆やる気一杯ね。でも京香、この際ハッキリ言うけれど、貴方の能力で総組長は無理よ。それとも、まだ蓮が貴方の奴隷になる可能性があると思っているの?」

「ッ!……総組長、どういうことですか? ペットくんが京ちんの奴隷に?」

「あら、天花は知らなかったのね。実は京香は前から、私の蓮に自分の奴隷にならないかって声を掛けているのよ。昨日も声を掛けてたみたいだし」

 

 山城恋の言葉に、天花のみならず全ての組長が愕然とした視線を京香へと向ける。

 当然と言えば当然。山城恋が自分の弟を溺愛していることは周知の事実。それを奴隷にしようとしていたなんて、山城姉弟の関係性を知る者達からすれば正気を疑う行為に等しい。

 

 そしてこの場で、より大きな衝撃を受けたのは二名。

 

(ヒィっ!! な、何考えてるの羽前組長!? 恋ちゃんから蓮くんを奪おうとするなんて、絶対タダじゃすまない!!)

 

 一人は、山城恋がどれだけ山城蓮を愛しているか、恐らくそれを一番理解している人間。三番組組長、月夜野ベル。

 彼女は恐ろしくなったのか、自分の気配を消し空気に徹する事にした。

 そしてもう一人……。

 

「ふ~ん。京ちん、昨日しちゃダメって言ったのに、借りパクする気マンマンだったんだね?」

 

 出雲天花だ。心なしかドス黒いオーラを発しながら、同僚にどういうことかと問いただす。

 

「いい人材がいるんだ。スカウトするのは当然だろう?」

「私に何も言わずに?」

「そもそも、蓮はお前のものでも何でもないだろう。それに何か勘違いしている様だが、私は総組長から直々に声を掛けても構わないと言われている。ですよね、総組長?」

 

 京香の言葉を聞き、天花は確認を取るかの様に視線を恋の方へと移動させる。意外に思ったのか、彼女と同様に月夜野ベルと蝦夷夜雲の視線も追うように恋へと向かう。

 

「えぇ、その通りよ。もしあの子が心の底から貴女の元に行きたいと言ったなら、私はそれを尊重するわ。

 ──……まぁ、あの子が私じゃなく別の女を選ぶなんて事、絶対にありえないけどね」

 

 自分が愛されているという絶対的な自信。傲慢とも呼べる程の。

 

 いや──……正妻(あね)の余裕と言うべきか。

 

 一人の男を巡って睨み合い、火花を散らす両名。文章だけだとラブロマンスの様にも聞こえるが、そんな甘ったるいモノでは無い。

 

 殺気と見紛う程の覇気を剝き出しにし睨み合う恋と京香。自分に八つ当たりが飛んでこないかとビクビクするベル。信仰する京香にここまでさせておいて、その誘いを断る男に怒りが湧いてくるワルワラ。あまり興味が無いのか、黙って行く末を見守るりう、美羅、風舞希の三名。

 

 カオスとも言える雰囲気の中、二人の女が顔を下に向け、誰にもバレないように口角を上げていた。

 

((……狙っても良いんだ))

 

 出雲天花と蝦夷夜雲。

 彼女たちにとって一番のネックであった『山城恋』という障害。その彼女から狙ってもいい、アプローチを掛けるのは自由。そして、彼の心を射止めたのなら持って行ってもいい。極論そう言われたのだ。

 

 つまり──……()()()()()()()()()()()()()()()()

 それは彼女達の心を脈打たせるには十分すぎるモノであった。

 

「……話がずれたわね。じゃあ、他の組からは何も無いようだし、本題よ」

 

 脱線しかけていた話がようやく本筋へと戻り、恋の一言で組長会議が再開する。

 恋が指をパチンと鳴らすと、部屋の照明は落ち、組長達が取り囲んでいる長机の中心から山城蓮の姿がホログラム映像の様に浮かび上がる。

 

「皆も知っての通り、一週間前に私の弟『山城蓮』を魔防隊に入隊させたわ。今日はこの子についてより詳しい情報を皆に説明しようと思ったの。とりあえず天花、皆にあの子の現状や能力を説明してあげて」

「はい。では、現在彼を預かっている私から説明させてもらいます」

 

 天花は事前に用意した資料を配り、各々が手元にやってきた資料の内容を確認していく。

 

「……なるほど。能力は京香に似ているね」

「オイオイマジか? 醜鬼の発生を事前に感知できるだァ? ハンパねぇなコイツ」

「にゅ、入隊二日目で、六番組の副組長と善戦……?(や、やっぱりすごいなぁ蓮くん。流石恋ちゃんの弟)」

「“発情”……か♡(やっぱりイイなぁ~♪ 知れば知るほど、夜雲さん欲しくなっちゃう)」

「醜鬼の発生を事前に知れることは私も昨日初めて知った。まぁ、当の本人はこれがどれだけ凄いか理解していない様子だったが」

「……(京香様の能力と相性が良いようにみえるわね)」

「あら、八千穂とも仲が良いのね(母様があれだけ東家に迎え入れようとしていた男の子。もう少し何かあると思っていたのだけど)」

 

 手元に配られた資料と天花の口頭での説明により、組長達は山城蓮という男の事をある程度は理解することが出来た。

 だが、疑問に思う者が一人。配られた資料を読み終えた冥加りうは、静かに一人手を上げる。

 

「……ちょっといいかい?」

「あら、どうしたの?」

「確かにこの資料と天花の説明を聞く限り、この男がそれなりにやれるということは理解したよ。京香や海桐花が気に入るのも頷ける。だけどね、本当にこれだけかい?」

「………」

「今回、この男を魔防隊に入れる為にずいぶん上と揉めたらしいね。いくら身内の人間とは言え、アンタがわざわざ政府の上層部と揉めてまで入隊させた男が、こんな程度とは思えない。総組長……アタシ達に何か隠してやいないかい?」

 

 りうの言葉に共鳴するかの様に、恋を除く全ての組長の視線が山城恋の元へと集約される。

 

「……さっきも言ったでしょ? 今日はあの子についてより詳しい情報を皆に説明する為に組長を集めたのよ。もちろんちゃんと話すわ。でもその前に……」

 

 恋は懐から一枚のお札を取り出し床に叩きつける。その瞬間、会議室全体を覆うように()()の結界が張られた。

 これから話す内容が、間違ってもこの場にいる者以外に漏れぬように。

 

「皆に一つ言っておくわ。これから話す内容は絶対に他の者には流さないで頂戴。自分の組の隊員にもよ。パソコンや資料に情報として残すことも禁止するわ。いいわね?」

 

 わざわざ防音用の結界を張った事。組長以外の魔防隊員に話す事を禁じる事。

 その徹底ぶりに、これから語られる内容はよっぽどの事であることを理解した組長達は、了解したという意を表し、各々が静かに頷いた。

 

「ありがとう、それじゃあ話してあげるわ。私が何故、そこまでして山城蓮を魔防隊に入隊させたのか。

そして、あの子の能力──《“鳳雛の首輪(ペット)”》()()()()について」

 

 

 

 






読んでいただきありがとうございます。
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次回『魔都の異変。動き出す組長達』
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