魔都精兵のペット 〜山城恋の弟くん〜   作:ハトル

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八雷神の会合

 

 

 

 時計の針は遡り、蓮が目覚める三日前。

 神村鳴海との決着がついた直後、紫黒は仲間のいるアジトへと帰還していた。

 

(いやぁ~驚いたね。まさかあの神奉者があんな変化を。でも死んだ後に、それもコントロールが効かないんじゃ使えないや)

 

 面白く、興味深い結果ではあったが、使い勝手が悪い事は明白な為に首を傾げる。

 もし、出雲天花があと一歩でも遅ければ、間違いなく山城蓮は死んでいた。

 

(やっぱり僕じゃ人間の改造は無理か。でも、それ以上に組長の強さには驚かされたね。あのレベルの醜鬼を一蹴する力。人間にしては傑出している)

 

 恐らくはまだ力の底は見せていないであろう彼女の姿を思い浮かべる。

 だが、時間が経てば神村鳴海の醜鬼化も、出雲天花の強さも、全て頭から離れていく。

 

 正確に言えば神の脳内全て、この深淵の瞳で写した山城蓮の雄姿に侵食されてしまう。

 

(今思い出しても僕の身体が疼く。やはりあの子は、必ず……)

 

 そんな事を考えている内に、彼女達の隠れ蓑である場所に到着。紫黒の帰りを待っていたのか、二柱の神々が彼女を出迎える。

 

「遅かったな、紫黒。何かあったのか?」

 

──……八雷神 《壌竜(じょうりゅう)

 

「やっと帰って来たわね!! それで例の人間はどうだったのだ!?」

 

──……八雷神 《鳴姫(なるひめ)

 

「やぁ2人共、わざわざお出迎えとは有り難いねぇ。遅くなったのはごめん。ちょっと予想外の事があってね」

「予想外?」

「何があったのか詳しく話せ!!」

「皆が集まってからちゃんと話すよ。あと鳴姫はちょっとうるさいね。声量抑えて」

 

 三柱の雷神は並んでアジトの奥へと進んでいく。その道中、内一柱がさっき怒られたというのに、まるで反省せずに声量を大にして質問を今一度繰り返す。

 

「それで紫黒姉、壌竜! さっきも聞いたが、あの人間はどうだったのよ! 我ら八雷神と共にあるべき存在! ()()()()()()となる資格はあったのか!?」

「うん、あったよ。間違いなく。ねぇ壌竜、君もそう思ったよね」

「……まだまだ未熟で荒削り。だが、見事な勇姿だった。能力の全てを引き出せれば、必ず我らに並び立つ存在となる」

「鳴姫も気になるんなら来れば良かったのに。あの子を見ればきっと気に入るよ」

「余は儀式があったのだ!!」

 

 神々の会話の内容は、彼女達から見れば弱く脆弱なたった一人の人間の事ばかり。

 八雷神の為に働き、その命を燃やした神村鳴海の事については、誰も触れることは無かった。

 

 そうこうしていると、広々とした空間の中心に円形の机が置かれ、その周りを複数の椅子で囲んでいる大広間へと出る。

 円卓を囲む玉座のうち一つに、機嫌の悪そうな雷神が一柱、既に座している。

 

「……戻ったのか。遅いぞ紫黒」

 

──……八雷神 《雷煉(らいれん)

 

「ごめんごめん。もうさっき壌竜と鳴姫からも散々言われたから、許して」

「……フンッ」

「それで……大極姉は?」

「すぐに来る。それまで待機と言っていた」

 

 雷煉の言葉を聞き、他の雷神達、紫黒、壌竜、鳴姫も玉座に着く。

 席に着いた後、紫黒はすぐさま懐からスマホを取り出し、先ほど収めた蓮の写真を眺める。幾つも撮った写真を一枚一枚眺めながら、徐々にその頬を緩ませていく。

 

 それを見て、八雷神の一柱である雷煉は表情を強張らせていき、ついには舌を打った。

 

「ねぇ、何で雷煉はそんな機嫌悪いの? 顔が怖いのはいつものことだけど、今日はいつにも増して怖いよ?」

「放っておけ! 我の機嫌が最悪なのは紫黒! 貴様のその態度だ!」

「僕の態度? ねぇ壌竜、鳴姫、なんか僕の態度に変な所あった?」

「いや、特に」

「強いて言うなら、顔が緩んでるわね!! 雷神なら常に威厳を忘れる事なく、常に堂々とすべき!」

 

 鳴姫の言葉に賛同するが如く、雷煉はその拳で机を強く叩く。

 

「神である存在が、廃れ者の小僧に惹かれるなど言語道断だ!」

「……雷煉、前にも言ったけど、あの子を『廃れ者』と呼ばないで。あの子は近い未来、僕ら()()()家族(ペット)になる子だよ」

 

 雷煉の言葉に、黒蛇は鋭い眼光で殺気を放つ。先程までの緩んだ表情は消えさり、仲間である者に対して黒く冷たい殺気と視線をぶつける。

 

「何が家族だ! 我はそもそも認めてはおらん! あのような弱者を神の一柱として迎えるなど断じて認められぬ!!」

「……雷煉、いい加減にして。僕は仲間想いだけど、ちょっとこれ以上は我慢ならないかな」

 

 暗くなっていく紫黒の瞳を見て、壌竜は雷煉に『止めろ雷煉』と声をかけるが、まるで聞く耳を持たない。

 

「事実、貴様が仕向けた神奉者に敗れたのであろう! その様な弱輩な小僧、我ら八雷神に加えるなど到底受け入れられ───」

「───《“影爆雷(かげばくらい)”》───」

 

 幾度となく彼女の地雷を踏み続けた雷煉。その神罰と言わんばかりに、紫黒は創り出したエネルギーを雷煉へとぶつけ、その巨体を壁まで吹き飛ばした。

 

 その影響で強烈な爆風がこの空間を揺らしたが、流石は雷神と言うべきか。壌竜と鳴姫は髪を靡かせるだけで、爆風に晒されてなお、体幹は僅かなブレも見せない。

 

「……ハァ(だから忠告したのだがな)」

「壌竜どうする! 止めるか!?」

「いや、完全に雷煉の自業自得だ。放っておこう」

「それもそうだ!!」

 

 今回は雷煉に非があり、何より止めればこちらにも紫黒の苛立ちが飛んでくるかもしれない。巻き込まれるのがめんどくさい二柱の神は椅子から動かない事を決意。

 

 そんな二柱とは裏腹に、紫黒は席を立ち、吹き飛んでいった雷煉の方へとその脚を進める。蛇の如く、薄気味の悪い瞳で睨みながら。

 

「雷煉、いい加減にしてって言ったよね。いくら僕でも、これ以上は聞き逃せない」

「フンッ! 良い一撃であった! 安心したぞ紫黒、どうやら心までは腑抜けてはいないようだな!」

 

 片方は漆黒の覇気を立ち昇らせ、もう片方は雷を迸らせる。互いに神威を解放させ睨み合う神々。

 それを仲裁するかの様に、神々しい光とオーラを纏い、八雷神最強の神が降臨した。

 

「止めよ……一人の人間の事で神々が争うなど、醜い真似はするな」

 

──……八雷神 《大極(たいきょく)

 

 彼女の登場で、紫黒は動きを止め、身体から漏れ出ていたオーラを引っ込める。紫黒だけでなく、その場に居る全ての神々の視線が彼女へと集まった。

 

「……大極姉」

「紫黒、矛を収めろ。そして雷煉、お前も言葉には気を付けろ。あの人間を我ら八雷神の同士に加える事は私も賛同している」

「……ぬうぅ」

 

 八雷神の長女であり、実質的なボスである彼女に言われては、雷煉も何も言い返せない。

 

「お前達、席につけ。始めるぞ」

 

 大極の命を受け、二柱は大人しく自分達の玉座へと戻っていく。

 大極、紫黒、壌竜、鳴姫、雷煉。

 現在この魔都に顕現している全ての神々が席へと着き、円卓を囲んでいる()()の内、五つの玉座が埋まった。

 

「それでは紫黒、壌竜。報告を聞こう、あの人間はどうだった?」

「うん、良かったよ。僕らのペットに相応しい存在だ。壌竜もそう評価している」

 

 肯定するかの様に、大極へと向けて壌竜は頷く。

 

「……そうか。では計画通りに事を進めるとしよう。お前達もそれでいいな?」

 

 大極の言葉に納得した様子を見せる三柱。だが、雷煉だけはやはり納得できないのか、額には青筋が浮かんでいる。

 

「雷煉、君はあの子の何がそんなに気に入らないんだい?」

「逆に何故貴様らは全員揃いも揃って受け入れられる!? 我らは神! 人とはかけ離れた力を持つ存在だ!」

「だから……あの子も僕らと同じく、人とはかけ離れた力を持っている存在じゃん。そこだけは雷煉も認めてるんでしょ?」

「……………」

 

 紫黒の言葉に何も言い返せない雷煉。それは、彼女の言葉を認めたも同じ事。

 その事に気分を良くしたのか、紫黒は自身の黒髪と両腕を思い切り広げ、恍惚とした表情で天を仰ぐ。

 

「だって考えてもみてよ、あの子の能力の素晴らしさ。まるで八雷神の為に! まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃないか!」

「……確かに、情報通りであるならば、八雷神とあの人間の相性はこの上なく良い」

「そうね!! そこは余も認める!!」

「認めろ雷煉。あの人間は本来、八雷神(こちら)側に居るべき存在だ。もし気に食わんと申すなら、こちら側に来たその時、貴様の手で存分に鍛えてやればいい」

 

 彼女達の言葉に、まだ完全に納得した様子は見せない雷煉。だが、取り敢えずこの場はその案で手を打つことにしたのか、腕を組んで椅子に座りなおす。

 

「それでは紫黒。計画通り、八雷神が八柱揃い次第、あの人間を迎えに行くという事でいいんだな?」

「あぁ、それなんだけどね、ちょっと計画に変更を加えたいんだ」

「変更?」

「うん、何度かあの子の戦いを見て気づいたんだけど、あの子は自分が大切にしている以外の人間を何とも思っていないように見えるんだ」

 

 八千穂との模擬戦や神村鳴海との戦いで、戦闘経験の少ない蓮が何の躊躇も無く人間を蹴る姿を見た紫黒は、彼がどういう価値観を持っているかを理解していた。

 

 八千穂に対しては治ると分かっていても、ほんの僅かな躊躇いも無く頭部を蹴り。命がけだったとはいえ神村相手には、人を殺した経験などある筈もない少年が、躊躇いなくその命を取りに行った。

 普通に考えれば有り得ない所業。狂気とも呼べる感性。

 

「だけど、彼が大切にする存在に対する想いは計り知れない。なら……()()()()()()()()。僕達が彼にとっての『大切』に」

「つまり、あの人間と直接接触し、懐に潜り込むという事か?」

 

 異常なまでの他者への無関心。だがその分、姉や友人に対してはこれまた異常なまでの情を向けている。

 だからこそ、紫黒は考えた。その情を向けられる相手になる事が出来れば、用意した計画をスムーズに進めることが出来ると。

 

「うん、そういう事♪ 僕と壌竜で彼に会いに行ってくるよ。もちろん、魔都では無く現世で。神としてでは無く人間として、彼に接触して『友人』になってくるよ」

 

 紫黒から出された予想外の作戦。人間に扮して、山城蓮に接触するという何とも無茶な作戦。

 それを聞いた全ての神々は、表情に少しばかりの動揺を見せる。

 

「どうかな大極姉?」

「紫黒、それは単にお前があの坊やに会いに行きたいだけではないのか?」

「(あ、バレてる)……う~~ん、まったく無いと言ったら嘘になるけど、ちゃんと考えて出した案だよ?」

「それにしては先程、計画を台無しにしてしまう様な身勝手な行動を犯しかけていたようだな? 陰で動くと決めたのはお前の筈。あれはお前らしく無い行動であったな」

「…………見てたんだ?」

 

 紫黒以外の八雷神は何の事か分からず首を傾げるだけだったが。紫黒は先程の冷静さを欠いた行動を姉に全て見られていた事に気付く。

 

「言ったはずだ。あの人間は我ら八柱揃ってからでなくては、本当の意味で手に入れることは出来ないと」

「うん、ごめん。次はあんな勝手な行動は犯さない。約束するよ」

「………ならばよい。好きにするといい。では、紫黒の進言をもって計画を変更。紫黒と壌竜はあの人間の心の懐に忍び込め。方法はお前達に任せる」

「りょ~かい♡」

「……了解した」

 

 これにて会合は終了。そう言わんばかりに大極はその場を離れ、次に雷煉が奥へと消えていく。

 その場に残ったのは、紫黒、壌竜、そして鳴姫の三柱のみ。

 

「紫黒、あの人間に近づくのはいいが、なぜ私まで?」

「壌竜も本当は僕と同じようにあの子の事、結構気に入ってんでしょ? あの子の戦いを眺めてる時の君の顔、生き生きしてたもん」

「………。それで、現世で接触するのはいいが、隙などあるのか? 魔防隊がアイツを無防備にするとはとても思えないが?」

「うん、全くの無防備という事は無いかもね。でも蓮の性格上、ずっと隣に人間が居るなんて事は我慢できないと思う。必ず一人になる瞬間は来るから、その時を狙い撃つ」

 

 紫黒の言葉を聞き、納得した様子を見せる壌竜。

 そんな中、今まで珍しく黙っていた鳴姫が息を吹き返したかのように大きく口を開いた。

 

「紫黒姉!! その時は余も連れて行け!!」

「……ん? 鳴姫も? 別にいいけど、どうしたの?」

「余もその人間の能力は認めている! しかし、それはあくまで能力のみ!! 本当に我ら雷神の一員になる素質を持つ者か否か! 余のこの神眼で見定めてやる!」

「……あのね鳴姫。神じゃなくて、あくまで人間として。人間のふりして会いに行くんだよ? ちゃんと出来る?」

「無論!! 雷神である余に人間の真似事など容易い事だ!!」

((……不安))

 

 言っている事が少々矛盾している彼女に対して、一抹の不安を抱く蛇と竜。

 しかし、今後の事を考えていると、接触しておいて損は無いと考え、紫黒はそれを了承する。

 

「じゃあ鳴姫、約束だよ。現世では人間として振る舞う事。神威も抑える事。時が来るまで、蓮に『神』ってバレる訳にはいかないからね」

「了解したぞ紫黒姉!! 我ら三柱でその男の器、しかと見定めるぞ!!」

「(声デカ)……いいね♪ 大極姉には僕から言っておくよ。それじゃあ僕ら三柱で、会いに行こうか」

 

 壌竜だけでなく、鳴姫の同行も決まり、紫黒は静かに玉座を離れる。

 向かう先は、本来存在しない筈の九つ目の神の席。うっとりとした表情で、その椅子の座面に顔を乗せ頬擦りする。

 

(予定外だけど、もうすぐ……もうすぐ会える)

 

 頬を擦り合わせ、しまいには独特な模様が先端に浮かんでいる自身の舌で舐め回す。神ともあろう者の所作とはとても思えない行動。

 ドス黒く、しかし純粋な神の愛。深淵の闇がすぐそばに近づいている事を山城蓮はまだ知らない。

 

山城蓮(あの子)は……絶対僕達が手に入れる)

 

 山城蓮と紫黒。黒狼と黒蛇。

 二つの漆黒が出会うまで──……残り十日。

 

 

 






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次回『山城恋になりたかった者』
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