インフルエンザ流行ってるので皆さん気を付けてください。
自分は見事にかかりました。
恋姉のサプライズスカウトから一夜明け、僕はいつも通り陰陽寮にある自室で目を覚ます。窓は無く、壁も、天井も、床も、すべてが白い部屋。外観は神社によく似ている作りなんだけど僕の部屋だけは異質。白すぎて気味が悪く、居心地も悪い。
まるで、
「さてと……準備するか」
まぁ、もうここに来て数年経ってるし……今更どうこう言うつもりは無いけどね。
寝起きでだるい身体を起こし、部屋に完備されている洗面台へと向かう。この部屋にはトイレも風呂も完備されている。わざわざ部屋に用意されてるのは僕を出来るだけこの部屋から出ないようにする為だろう。まるで牢獄だ。そんなことしなくても逃げないっての。
───コンコン
洗面台で顔を洗い終えサッパリ眠気を取ると、部屋の扉がノックされた。
「誰だ……?」
『おはようございます、蓮様』
「…………………何の用?」
『お食事をお持ちいたしました。お部屋にご用意を──』
「──部屋に入るな。そこに置いといて、後で食べるから」
『……………かしこまりました』
そう言うと、扉の向こうで食器を置いた音と、立ち去っていく人間の足音が聞こえてきた。なんで部屋に入って準備しようとするの?そんなことしなくていいと何度も言ってるのに、鬱陶しい。これは遠慮とか配慮の気持ちでは無い。実験や検査の時以外で奴らの顔など見たくもないだけだ。
完全に足音が消え、近くに人の気配を感じなくなったら素早く扉を開け、用意された食事を持って素早く扉を閉めた。なんか……引きこもりの少年みたいな行動だな。まぁ、ある意味間違ってないか。
「いただきます」
両手を合わせ、姿勢よく、用意された食事に手を付け始める。朝食を食べ進めながら昨日の一件の事を思い出す。
───“蓮……明日から魔防隊に入りなさい”
魔防隊に入ることになった。
文にすればこんなに短くまとまるというのに、僕の心と頭は一夜明けてもこんがらがってぐちゃぐちゃだ。まぁ、今更言ってもどうにもならないし、恋姉の命令だから『従う』それ以外に選択肢は無いんだけどね。
それに
正直、僕にとっては最後のが一番魅力的なメリットだ。
「ごちそうさまでした」
用意された食事を食べを終え、空になった容器を先程と同じように素早く扉を開け外に置き、素早く扉を閉めた。マジで引きこもり野郎みたいだな、僕。
「さてと……着替えますか」
時間を確認すると、現在は朝の6時50分。7時に迎えが来るって昨日恋姉言ってたからそろそろ準備しないとな。昨日、陰陽寮に送ってもらった時渡された僕の魔防隊の制服。その制服に袖を通し、姿見の前で自分の姿を確認する。
「なんか……
本来、魔防隊の制服とは黒をベースにした軍服のような作りになっている。だけど僕が受け取った制服、下は黒なんだけど……上着は何故か白なんだよなぁ。僕の髪、真っ黒だからマジで乙骨君みたいなんだけど。いや、乙骨君めちゃ好きだからこれはこれでアリなんだけど。でもなぁ~……
「どうせなら、恋姉とおそろい着たかったなぁ~」
ペアルックみたいで楽しそう。それに多少なりとも魔防隊の制服には憧れていた。だってカッコいいじゃんあの制服!僕も健全な15歳の男児。黒い軍服とか着てみたいお年頃なのだ。
───コンコン
姿見の前でクルクルと回り、変な所が無いか確認していると、再び部屋の扉がノックされる。また陰陽寮の人間が来たと思い、顔を歪ませ、低い声で応答する。
「……誰だ??」
『師匠!私です!
「あ!銀奈ちゃんか!ごめんごめん、すぐ開けるよ」
嫌な感じの声質で返事しちゃった事に若干罪悪感を感じながら、僕は扉を開けて部屋に招き入れる
「マジでごめんね、なんか態度悪い返事しちゃって。てっきり
「いえまさか!師匠の深い声での『……誰だ?』。痺れました!激感動です!」
「あ……あっそう。それは良かったね……」
ア、アハハ……相変わらずテンション高ぇ~。
彼女の名前は
恋姉が組長をしている十番組の隊員だ。自分も魔防隊員でありながら、何故か魔防隊の大ファンでサイン集めが趣味のちょっと変わった人だ。男には興味が薄いらしく、視界に映っただけで白けるほどだ。以前は僕に対してもそんな感じだったんだけど、僕が恋姉について色々教えてあげたら、めちゃくちゃ懐かれて、その時から『師匠』と呼ばれるようになった。
あと……『激』が口癖だ。コレに関しては意味わからん。ナニコレ?キャラ付け?
ちなみに能力は───『
銀奈ちゃんが地面に引いた線を境として結界が発動。その結界内には銀奈ちゃんの巻物に署名した者だけが入れ、署名したもの同士の戦闘は結界内であればどんな傷も治せる。訓練とかには持って来いの能力だ。昔、能力テストで恋姉と戦った時も、銀奈ちゃんにはお世話になったんだよなぁ。
「それで……銀奈ちゃんがお迎えって事でいいのかな?」
「はい!恋サマのご命令で、師匠を連れて来いとのことです!それはそうと師匠、隊服とてもよく似合っております!写真撮っていいですか?」
「あはは、ありがとう。写真はこんなトコじゃなくて外で一緒に撮ろ」
「はい!それでは激参りましょう!荷物は……それだけですか?」
「うん……本当はこの部屋もこんながらんとはしてないんだよ。漫画とか、ラノベとか、ゲームとか置いてあるんだけど、昨日のうちに恋姉が新しい部屋に運んじゃったらしい。だから荷物はほとんど無いんだよねぇ~」
ビックリしたよ。昨日帰ってきたら部屋の中がすっからかんになってたんだから。一瞬『えっ、泥棒入った?』って勘違いしたわ。やっぱり、どう転んでも魔防隊に入ることになっていたんだろう。そう思って、一つため息をついた後、銀奈ちゃんに手を引かれて陰陽寮を出て行った。
「見送りはいいって言わなかったっけ?」
陰陽寮の出入り口までやってくると、見送るためか、それとも別の目的があるのか。それは分からないが、ここで働いているであろう人間達が正座しながら待っていた。こんなにいたのか?ざっと30人はいるぞ?
「蓮様……」
「…………………何?」
「お気をつけて、いってらっしゃいませ」
『『『『『『いってらっしゃいませ』』』』』』
ここのリーダー的存在のしわくちゃおばさんがそう言って深々と頭を下げる。その後に続き、後ろにいた全員が同時に頭を下げて来た。
───お気をつけて……か。
心にもない事を。
能力に目覚めて数年、僕はずっとここで過ごしてきた。決して短いとは言えない時間、数年の時を
寝て、起きて、食事、検査、実験、そしてまた寝て。ただ毎日それを繰り返した、あの真っ白な部屋で。ただ『生きるだけ』の生活。そんな動物みたいな生活をここで数年過ごした。そんな場所に、思い入れを残せというのが無理な話だ。
……ってか、いつまで土下座の体勢でいるつもりなの?隣にいる銀奈ちゃんが滅茶苦茶居心地悪そうなんだけど。なんかごめんね。
「………お世話になりました」
一向に頭を上げようとしない彼女達を見て、僕の口から出てきたのはお世話になった事に対する礼の言葉だった。この場所や人達に感謝の気持ちなど一切ない。それでも、数年世話になったのは事実。形だけでも感謝の姿勢を見せるべきだろう。そう考え、陰陽寮と今もなお頭を下げ続ける彼女達に向けてお辞儀をする。
「…………銀奈ちゃん、行こっか!」
「はい、行きましょう!魔都防衛隊へ!」
最低限の礼儀は通した。これで後腐れなくここを出て行ける。再び、銀奈ちゃんに手を引かれてこの場を去って行く。陰陽寮が見えなくなるまで、後ろには振り返らなかった。
───魔防隊本部(十番組拠点)
「そういえば銀奈ちゃん」
「はい?なんですか?」
「銀奈ちゃんってさ……もしかして、僕の事子供だと思ってる?」
「へっ!?お、思ってませんよ!!?師匠を子供だなんて」
本当にそうだろうか?だってさぁ───
「───陰陽寮出る時も、今もずっと手繋いでるじゃん。これ何故に?」
今もなおガッチリ握られている右手に、左手の人差し指をビシッ!と指す。
「えっ?あっ!!す、すみません!つい師匠の手がすべすべで気持ちよくて……」
「そうかな?自分じゃ普通だと思ってるんだけど」
「いえ!師匠の手はふわふわすべすべのシルクのような手です!!女である自分が思わず嫉妬してしまうほどの!!」
「……へぇ~」
「きめ細やかで、張りがあって!肌荒れとは無縁のすべすべ肌!」
「……もう分かったから」
「さすが恋サマの弟!山城家のDNAは凄まじいです!!」
「うん、わかった。分かったからさ、手離してくれる?」
話を全く聞かず、ガッツポーズをしながら僕の手の感触の素晴らしさを熱弁する銀奈ちゃん。
こんなに褒めてくれるのは嬉しいけどさ……、マジでいい加減離してほしい。まるで迷子にならないように手を繋がれてる子供みたいでなんかヤダ。
「す、すみません。そうですよね、離した方がいいですよね。こんな所、恋サマに見つかったら……絶対お仕置きされる」
「ん?なんか言った?」
「い、いえ!なんでもないですよ~!」
銀奈ちゃんに魔防隊本部の中を案内され、何とも
「失礼します、恋サマ!師匠を連れてきました!」
『入りずらい』などと考えていたというのに、隣にいた銀奈ちゃんは我関せずと言った感じに扉を開ける。っていうか、その呼び方やめて欲しい。なんか気恥ずかしいし。まぁ、どうせ言っても聞かないだろうから言わないけどさ。
「ご苦労様、銀奈」
扉を開けて部屋の中に入ると、ふわふわ宙に浮いてる椅子に恋姉が足を組んで座っていた。
えっ……なんで椅子が浮いてんの?どういう原理?
「いえ!これくらいお安い御用です!」
「蓮……その制服、よく似合ってるわよ」
「恋姉、なんでその椅子さっき浮いてたの?」
「その制服、本当によく似合ってるわ♪」
さっき聞いたよソレ。答える気無いのか知らないけど、ゴリ押ししようとすな!ってかもういいわ。言うてそこまで気になるようなことでもないし。それよりも断然気になってる事について聞こう
「ありがと。で、聞きたいんだけどさ……何故に僕だけ白い制服なの?恋姉とか銀奈ちゃんと同じで、普通に黒の制服が良かったんだけど?」
「特に深い理由はないわ。強いて言うなら、貴方が魔防隊唯一の男性隊員だからよ。特別感があってイイでしょ?」
「いらねぇよそんな特別感。普通のくれよ」
「あら、蓮は
「はい!自分も恋サマに同意です!!」
『カッコいい』『好き』。そんな言葉に少々照れた様子を見せ、頬が緩みついニヤけそうになる蓮。
しかし、そんなニヤけ顔を2人に見られるのは恥ずかしい。そう思い、蓮は咄嗟に手で口元を隠す。
「ふ、ふ~ん。そ、そうなんだ……じゃあ、
((……可愛い))
嬉しさで緩んだ顔を必死に隠そうとしている姿に、恋と銀奈は胸キュンする。
(……相変わらずチョロいわね)
(師匠、さすがにチョロすぎます。でもそんな所も素敵です♡)
「と、とにかく!制服の事はもういいよ、これでいくから!それじゃあ改めて──山城蓮、これから魔防隊『十番組』にお世話になります。よろしくお願いします!」
『総組長』であり、自分のトップとなる恋姉。魔防隊の先輩という立場の銀奈ちゃん。これからお世話になる2人の先輩に対してお辞儀をする。
「こちらこそ、よろしくお願いします!師匠!」
「うん、これから十番組にお世話になるから色々教えてね、銀奈先輩♪」
「了解しました!」
「2人共、盛り上がってるところ悪いんだけど──」
「「………ん??」」
「───蓮が配属されるのは“六番組”よ?」
…………………………………は??
「……once more」
「蓮が配属されるのは“六番組”よ?」
聞き間違いじゃない。ハッキリ言ってる、六番組と。どういうことか説明して欲しく、隣にいる銀奈ちゃんの方に視線を向ける。しかし、彼女も訳が分からないようで目を点にして口をポカンと開けている。
すんごいマヌケ面だ。
「……は?待って恋姉、僕が入るのって十番組じゃないの?」
「ん?私が一度でもそんな事言った?」
………
………
………言ってねぇ!!そういえば魔防隊に入れとは言われたけど、十番組に入れるなんて一言も言ってなかった!!
「………えっ、それって確定事項なわけ?」
「えぇ、もちろん」
「………や」
「「や?」」
「ヤダヤダヤダヤダァ~!!恋姉と一緒の組がイイ!恋姉と一緒にいれる時間が増えると思ったのに、これじゃ意味ないじゃん!!」
数回地団駄を踏み、腕を振り回しながら地面に転がりまわる。きっと、今の僕は駄々をこねる子供みたいに映っているだろう。でも、実際そのとおりだ。こんなの詐欺だよ詐欺。今までもあんまり会えなかったのに、違う組に配属されたら会えるのは多分一ヶ月に一回あるかないかって頻度になるだろう。そんなの絶対イヤだ!!
「ぜっっったい!!六番組なんて行かないから!!」
「……蓮、少し落ち着きなさい」
「落ち着いてられるか!!」
「これはあくまで“仮”の配属よ。正式ではないわ」
「………か、仮?」
「えぇ、昨日も言ったけど蓮は戦闘に関しては素人。だから、試用期間を設けたの。あくまでその期間内は他の組に行って経験を積んでもらうわ。まぁ、言ってしまえば修行ね」
「しゅ、修行? その試用期間ってどれくらい? 一週間ぐらい?」
「今日から四半期よ。つまり三ヶ月ね」
「長ぇわ!!」
あまりの長さに机をバンッ!と叩く。
三ヶ月もあるのか……その間恋姉とは会えないってことだよね?うん、無理。絶対無理。
「修行なら恋姉がつけてよ!実際それが一番強くなれるでしょ?」
「私は現世での仕事も多いから手取り足取り教えるのは現実的に不可能よ。それに……私が教えるなら、ベル以上に厳しくやるわよ♪」
死ぬて。いや銀奈ちゃんが居るからどんな傷でも治るんだろうけど、それでももう一度言うわ、死ぬて。
前に恋姉とベルさんが一緒に修錬した光景を見たことあるけど、あれ以上のモノは絶対僕には耐えられない。ってかあれは修錬とは言わないな。
イジメ?拷問?暴虐?リンチ?まぁ、簡単に言うとそんな感じの光景だったな。
「…………六番組、いきます」
「フフフッ、いい子ね♪」
「あの~、もし
「我慢しなさい」
「鬼か!?!」
アレは我慢とかそう言った次元のモノじゃないんですけど……
「冗談よ。その辺の事はちゃんと考えてあるわ、安心して。折角の機会、一ヶ月間ビシバシ鍛えてもらいなさい」
「?? 一ヶ月?さっき三ヶ月って言ってなかった?」
「最初の一ヶ月は六番組で修行。残り二ヶ月はまた違う組で修行してもらうわ。より多く経験を積んでもらうためよ」
「つまり、三ヶ月で三つの組を転々とするわけね。うへぇ~、めんどくさ」
「フフッ、それと残り二つの組は蓮が決めなさい。自分が行きたいところに行けた方が貴方も楽しいでしょ」
いや……そう言われても、僕あんまり詳しい訳じゃないし。知ってるのは三番組のベルさん。九番組の海桐花さん。七番組の京香さんと寧ちゃんぐらいだ。
でも、正直今あげた三つの組には行きたくない。ベルさんは能力的に修行をつけられるタイプじゃないし、海桐花さんはめんどくさそうだから行きたくない。七番組は確か裏鬼門を担当しているはず。正直、僕が行っても足手まといになる気がする。ま、時と場合によっては行ってもいいかもしれないけど。
「とりあえず分かった。それじゃあ───」
「───蓮」
「ん?何?──!!」
六番組に行く準備をしようと部屋を出ようとすると、恋姉に呼び止められた。まだ何かあるのかと思い後ろに振り返る。振り返った瞬間、ギュッと抱きしめられた。さっきまで椅子に座って筈だが、いつの間にか近づかれたようだ。一瞬ビックリしたが、僕も恋姉の腰に手を回し抱きしめ返す。
「………蓮」
「………何?」
「最後に一つだけ言っておくわ。貴方はもう“魔防隊員”よ。それだけは、忘れないでね」
何を言われるのかと身構えていると、意外な内容に首を傾げる。
何を当たり前の事を?そもそも恋姉が魔防隊員になれと言ったんだからそりゃそうでしょ。その言葉の真意を聞こうとしたが、自分が口を開く前に再び恋姉が口を開いた。
「それでね、蓮。私は思うの……実践に
「えっ?ああ、うん」
「実際に体感した方が速いわ。見てきなさい──
「……えっ?何言っ────」
山城恋はそれだけ言うと、蓮の眉間を人差し指でトンっとつついた。その瞬間、蓮の身体は音もなくこの空間から消え去った。
「さて……銀奈、今日の報告書を頂戴」
「は、はい……。あの、恋サマ……」
「ん?何……?」
「何故、師匠を“転移”で六番組の寮に送ったんですか?車で送れば良かったのでは?」
「寮には飛ばしてないわ」
「えっ?じゃ、じゃあ何処に飛ばしたんですか?」
「フフフッ♪言ったでしょ?
「ここ………どこ??」
二秒前まで綺麗な会議室にいたというのに、姉からおでこをつつかれて景色が一転した。空は薄暗い雲で覆われ、気味の悪いオーロラが出ている。周りに草木は見当たらず、岩山が連なる不毛の荒野が広がっている。
間違いない……魔都だ。
いや、魔都にいるのは当然だ。さっきまでも魔防隊本部に居たんだから。恋姉が転移能力を持っている事は知っている。だから、一瞬でこんな所まで移動できたのも分かる。問題はそこじゃない。
恋姉が転移させる場所をミスった?いやそれは無い。断言できる。あの人がそんなミスをするとは思えない。つまり………
「もしかして……これも“修行”?」
見てきなさい──
やられた!!あれはそう意味だったんだ!!
つまり何!?ここから六番組の寮まで自力で行けって事!?醜鬼が
「あ……頭おかしいでしょ!!!どこの世界に弟を魔都に放り出す姉がいるってんだ!?さっきまで目の前に居たわチクショー!!」
そもそも僕は実戦経験が無い。醜鬼を見たことはあるけど、戦った事は一度も無い。能力テストで恋姉と何回か戦った事はあるけど、戦いのやり方を学んだことも無い。そんなレベル1の超絶初心者を普通こんな危険区域に一人で放り出すか!?どうせ今頃『これも修行の一環よ♪』とかほざいてるんだろうな。
ポケモンとかだと主人公のライバルキャラが最初、バトルの仕方とかポケモンゲットの仕方を丁寧に教えてくれるもんだよ?
それなのに……
「恋姉の……恋姉のバカ~!あほ~!あんぽんたん!おたんこなす!性格破綻のドS女ァァ!!」
魔都の空に向かって腹の底から絞り出すように叫ぶ。
我ながら自分の悪口の低レベルさに反吐が出るわ。最後意外小学生みたいな悪口じゃん。パッと出たものを言っただけとはいえ、もうちょっとなんかあっただろ。
「はぁぁ~~……、進もう。此処に居てもしょうがない。というか危険だ」
とりあえず、向かうべき場所は六番組の拠点。今の自分の位置と六番組の寮の場所を確認するために、昨日制服と一緒に貰った端末を開く。どうやら、僕の現在地は六番組の拠点から十キロほど離れた場所らしい。六番組が担当しているのは魔都の南方面。とにかく、南に向かって歩いていくしかない。
「……歩きずらい」
歩き始めて五分。どこまで行っても岩の道、荒れ果てた荒野が続いている。岩山を上って、下って、また上って、また下って。それの繰り返しだ、めちゃ疲れる。だが、幸運な事に醜鬼とはまだ遭遇していない。でも、それがいつまで続くか分からない。
「全速力で走ればすぐにつく距離だろうけど、途中で
危険だけど、地道にゆっくり行くしかない。ホント……使い勝手の悪い能力だわ。
自身の右手と尻尾を見つめ、一つため息を吐く蓮。
すると、鼻が曲がりそうなほどの悪臭が蓮の鼻に流れ込んでくる。咄嗟に手で鼻を覆い隠し、立ち止まる。
なんだこの匂い?めっちゃ臭い。まるで牛乳を拭いた雑巾を下水で煮込んだ時みたいな匂いだ。いやそんな匂い嗅いだことないんだけど。とにかくそれぐらい臭い。
突然の悪臭に嫌な気配を感じ、周囲を警戒する。数秒後、まるでゾンビの様に地面を割り、3体の異形の生物が湧いて出てきた。3メートルほどの体長。黒い皮膚。ゴツゴツとした身体。ドクロのような顔面。
「……醜鬼。生まれる所は初めて見たな」
悪臭が消えている。どうやら、醜鬼自体が臭いんじゃなくて、出現する時に異様な匂いを放つようだ。これはいい情報だ。醜鬼が出現するタイミングが分かるのはイイな!不意打ちとか絶対喰らわない。
「………なんて考えてる場合じゃないか」
三体の醜鬼は蓮を視界にとらえると、聞くに堪えない咆哮を上げながら襲い掛かっていく。四足歩行で迫ってくる醜鬼を眺めながら蓮は………
「うへぇ~、いきなり三体か。ツイてないな。いや、これでも少ない方か。三体『も』じゃなくて、三体『しか』って考えよう」
冷静、余裕。そう言った表情を浮かべる。
一体の醜鬼が蓮の目前まで迫り拳を振るう。蓮はそれを後ろに飛んで回避。空中で体を回転させて着地する。
「さぁ~ってと、おい
そう言って戦闘態勢のような構えをとる。正直言えば構えは適当なモノだ。戦闘経験皆無の蓮が、隙が無く洗練された自分の構えを持っている訳がない。だから、ただ自分が一番動きやすい体勢を取る。
「能力解放───『“
そうだ!せっかくだから、
めっちゃカッコイイよなこの台詞。
いや、やっぱ丸パクリするのは辞めよう。自分流に少しだけアレンジして……
「さぁ………
山城蓮の能力───"
獣人の力をその身に顕現させる力。ただし、力を行使するには
能力は常時発動型であり、蓮自身にも解除は出来ない。解除し人間の姿に戻るためには、
現在、蓮の飼い主は『山城恋』となっており、彼女を飼い主とした獣人に変身している。
その名も───
「──《
脚に力を込め地面を踏み込む。当然、醜鬼に何も考えず突っ込んでは行かない。周りの立体物、岩を利用して縦横無尽に動き回る。平面ではなく立体的な動きでかく乱。目で追えないのか醜鬼はオロオロとした様子を見せる。
それを見逃さず醜鬼の背後に回り込む蓮。隙だらけの後頭部に蹴りをヒットさせた。蹴りを喰らった醜鬼の頭は吹き飛び、残された身体は青い炎へと変わる。
「まず一匹。さて、次は?」
お粗末、適当、雑、汚い。正直に言ってしまえば蓮の蹴りは見様見真似の粗雑と言った感じのモノであった。洗練とは程遠い蹴り。それは蓮自身も分かっている。だが、そんな技でも瞬殺できてしまうほど、山城蓮と醜鬼には圧倒的な
仲間の一体が無残に殺されてなお、醜鬼は再び蓮に向かって突進していく。今度は二体同時に。醜鬼が繰り出す拳を蓮は半身で躱す。
遅い、のろい、とろい。大丈夫、大丈夫、目で追える。落ち着いて対処すれば大丈夫だ。
正直、表では余裕そうな雰囲気を出しているが、内心かなりビビってる。負けても『負け』で終わる試合とは違う。これは実戦、負けたら『死ぬ』戦いなんだ。初めての実戦、緊張しないわけがなかった。
「だからって……死ぬつもりはないけど」
醜鬼のラッシュを躱し、蓮は片方の醜鬼の懐に飛び込む。腹めがけて蹴りを入れ貫通させた。
「二体目!!」
休むことなくもう一体の醜鬼が背後から拳を振るう。蓮はそれを真上に飛んで回避し、そのままかかと落としで最後の醜鬼を左右に両断した。腹に大穴が開いた醜鬼と身体を左右に両断された醜鬼は、先ほどと同じように青い炎に変化し灰も残らず消えた
「三体目……。ふぅ~~」
初めての実戦を終え、疲労、もしくは緊張の糸が切れたのか、蓮はへなへなとその場に座り込む。
「はぁ……はぁ……。か、勝った。なんとか勝てた」
初めての実戦。初めての醜鬼戦を無傷で生還。これは……我ながら凄い事だと思う!正直、力を使いすぎとか、無駄な動きが多いとか。そういう課題は多く残る戦いだった。それに、相手はたった3体の醜鬼。
「なにはともあれ……醜鬼戦、初勝利だ!!」
──《
能力は身体能力強化。
読んでいただきありがとうございます。
評価・感想いただけると幸いです。
次回『山城蓮:ステイタス』