時計の針は戻り、山城蓮が目覚めた翌日。
山城恋は自室にて目を覚ます。隣では弟が自分の尻尾を抱きながら静かに眠っている。
眠っていると言っても、昨日までとは意味合いが異なり、言葉通りスヤスヤと眠っているだけ。
そんな彼の頭を数度撫でた後、いつも通り身嗜みを整え始める。
(嚙み跡……消えないわね)
鏡の前に立てば、嫌でも昨日弟に付けられたマーキングの跡が目に入る。ため息をつきながら、昨日と同じく魔都包帯を首に巻いていく。
キスマーク以上にヤバいこんな跡、部下達に見せる訳にはいかない。何より、彼女のプライドがそれを許さない。
「雅、要、こっちへ来て頂戴」
準備を終えると、恋は愛犬の名を呼ぶ。呼ばれた両犬は尻尾を振りながら、彼女の言う通り傍までやってくる。寝ているもう一人の飼い主の眠りを妨げないように、吠える様子を見せない。
「私は今から組長会議に行ってくるから、その間、あの子を護ってあげて頂戴」
主の命を受け、まるで『お任せあれ』『言われるまでも無い』とでも言いたげに、二匹の柴犬は寝ている蓮の両隣に陣取る。
頼もしい限りのその姿を見て、恋は安心した様子で部屋を後にする。
「行ってくるわね……蓮」
一時間後、全ての組長が魔防隊本部へと集結し、三日前中断してしまった組長会議が再開される。
まず最初の議題は三日前に何があったのか。
昨晩、目を覚ました蓮から得た証言をもとに作成した資料を、恋は全ての組長へと回した。
「三日前の騒動の原因が、まさか神村鳴海とはね」
「また、アイツがッ……!」
神村鳴海の名を聞き、一番組組長・冥加りう、そして七番組組長・羽前京香が怒りで顔を歪ませ、とんでもない殺気を身体から放つ。
数年前、神村鳴海が殺したのは一番組の隊員。つまりは冥加りうの部下であり教え子。そして、京香にとっては同じ師に育てられた姉妹の様な者達。
そんな者の名を聞けば、誰だってこうなってしまう。
「2人共、落ち着いて。気持ちは分かるけど話を進められないわ」
恋の言葉に、すぐさま自分自身を諌め、冷静さを取り戻す。数秒であれだけの怒りや殺意を収めたのは、流石としか言いようが無い。
「天花、礼を言うよ。本来はアタシが討たなきゃいけない仇を取ってくれて、感謝するよ」
「私もだ天花! 何と礼を言っていいのか……!」
京香とりう。師弟はすぐさま立ち上がり、大事な者達の無念を晴らしてくれた組長に頭を下げ、感謝の意を示す。
それに続くように、九番組組長・東風舞希も席を立ち、天花に向けて頭を下げる。
「私も改めて礼を言わねばなりません、出雲組長。貴女がいなければ、八千穂は今この世にいませんでした。東の者として、なにより母として、深く感謝申し上げます」
三名の組長から深く頭を下げられた天花は……。
「頭を上げてください。皆さんが礼を言うべき人間は私ではありません。神村鳴海を倒したのは私の部下3人で、八千穂とサハラの命を救ったのはあの子です。お礼ならあの子達に言ってください」
資料に記された内容を指さしながら、今回の一件で讃えられる人間は自分では無いと言ってのけた。
三名もそれは当然分かっている様子で言葉を繋げる。
「あぁ、それは分かっているよ。近い内に直接、礼を届けさせてもらうよ」
「私もです。本当にあの3人には感謝の言葉しかない」
「東は決してこの恩を忘れません。いつか母様と共に……山城蓮、彼には何らかの形で報謝いたします」
天花に礼を伝え、三名は会議を中断させてしまった事に対して謝罪した後、席へと座りなおす。
「それじゃあ会議を再開するわ。まず一通り資料に目を通してもらったけど、これが三日前起きた事よ」
山城恋から提出された資料には、今回の一件が全て記されていた。
蓮、八千穂、サハラ、3名の魔防隊員の活躍。神という存在。情報には載っていない発電能力。神村鳴海の醜鬼化。そして、蓮がいざという時に逃げようとした事も。
当然、最後の最後は逃げずに戦った事も書いてある。ほんの少し強調し、受け取る者が好印象を抱けるように美化した形で。
そこの部分を少し強調して書いてあるのは、組長達の心象があまり悪くならないようにする為もあるが、この後提出する政府の人間達にあまりグチグチ言われない様にする為の措置である。
「総組長、“神”って……何者ナンスカ?」
「それが分かれば苦労しないわ美羅。神村鳴海が適当な事言った可能性もあるし、コードネームの様なものかもしれない。何者であろうとも、何か大きな力を持っている事は確かね」
「それ以上に、不気味な事があるじゃないか」
そう言ったのは冥加りう、彼女の言葉に反応するかの様に、全員の視線が彼女に集まる。
「そもそも何でその神とやらは、山城蓮が魔防隊に入ったことを、それも六番組にいる事を知ってたんだい?」
山城蓮と言う存在は国家機密。当然、一般社会にはその存在は知られていない。知っているのはごく一部の者。魔防隊を除けば、国家の中心に居るような重要人物だけ。
この情報社会。しかも能力者がどこにでも居る様な世界では、デカい組織や国、力を持つ人間達にはいつかはバレるかもしれないが、流石に早過ぎる。
まだ山城蓮が魔防隊に入隊してから約一週間しか経っていないにも関わらず、奴は来た。
しかも、それだけではない。神村鳴海は突然決まった組長会議の存在すら知っていた。
ここまで来れば、嫌でも分かる。
「……居るわね。その神とやらに情報を流している人間が内部に」
「ッ!? 裏切り者ってことッスか?」
「えぇ、ほぼ間違いなくいるわ。蓮の魔防隊入隊を知っていて、尚且つ六番組に配属した事を知っているのは日本政府の中でもほんの一握りの人間だけだもの」
ほとんどの組長が言葉にはしなかったが、その可能性が頭にあったようで、互いに視線を交わらせる。
情報を流したのが政府の人間とは限らない。この場に居る者にもそれは可能なのだ。
「皆、やめて頂戴。少なくともこの中に内通者は居ないと私は考えてるわ」
身内同士で疑いの視線を交差させる部下達を宥めるように、山城恋は言葉を繋げていく。
「恐らく、政府の上層部の人間の仕業。どういう意図でやったのかは知らないけれど、内密に調査を進めていくわ。それに、皆も分かっているはずよ。ここに居るのは魔防隊の代表とも言える存在。裏切る様な人間は居ないわ」
恋の言葉を聞き、取り敢えず冷静さを取り戻す組長達。身内同士で疑い、内部から崩壊などすれば、それこそ敵の思うつぼ。
しかし、考える事を放棄するつもりは無い。恋は顎に手を当て思考を回す。
(私の魔防隊の中に裏切り者がいるとは考えにくい。身内だからとかでは無く、単純に可能性が低いのよね。やるならもっと簡単な方法はあるもの。そもそも、神とやらは本当に今回は蓮を連れ去ろうとしてたのかしら?)
神とやらの存在の考えていることが掴みきれず、どこか気持ち悪い感情を抱く。
(私がもし蓮を連れ去るとしたら、神村鳴海には命令せず自分でやるわ。最低でも近くで観察する。その方が確実だし、下手な考えで殺してしまっては最悪だもの)
六番組の4名が気付かなかっただけで、あの場に神が最初から潜伏していたのなら、天花が来る前に蓮を捕えようとすることも出来たはず。なのにそうしなかった。
全てが中途半端な行動。いくら考えても理解できない不自然さに、恋は頭を悩ませる。
(蓮は魔都災害に巻き込まれて気絶する直前に、“銀色のナニか”を見たと言っていたわ。恐らくそれが蓮を能力者に変えた原因。神がその銀色のナニか? 神村鳴海に発電能力を持たせられるなら有り得ない話では無いわね。………もしくは、その
いくら彼女の聡明な頭脳でも見えない敵の思考を読む事など不可能。考えを止めるわけにはいかないが、分からない物はいくら考えても分からないものだ。
推察はやはり推察の域を出ない。煮え切らない現状に、山城恋は一つ溜息をついた。
そんな総組長の元に、八名の組長達の視線が集まる。
代表する形で、京香が口を開く。
「総組長、教えてください。蓮は……山城蓮とは何なんですか? あいつに、一体何があると言うんですか?」
男性で能力を使えるだけでも十分特別と言える存在。狙われてもなんら不思議ではない。
だが、今回狙われたのはきっとそれだけではない。彼女が三日前に自分達に語りかけた能力が深く関わっている。
それを知ろうと、全ての組長が総組長に顔を向ける。
当然、恋はこの期に及んで隠そうなどとは思っていない。蓮が狙われているとなれば、組長達には余計に知ってもらわねばならない。
三日前と同じく、恋は防音の結界を張った。
「
総組長の命を聞き、全員が頷いたのを確認すると──……山城恋は弟の能力の全てを打ち明けた。
山城蓮の能力───"
八種の獣人の力をその身に顕現させる力。
ただし、力を行使するには飼い主が必要。能力を酷使し過ぎると発情するという弱点がある。能力は常時発動型であり、蓮自身にも解除は出来ない。解除し人間の姿に戻るためには、能力そのものを無効化するしかない。
「これが……蓮の能力の本質よ」
恋の話を聞き終えると、その場に居る全ての組長達は何も言えず、ただ呆然とした表情を浮かべる。
絶句。驚愕を軽く通り越して、何も言えずに黙りこくる。
以前にも似たようなことがあった。
山城恋が桃を口にし、能力に目覚めた時。そして、魔防隊に入隊してきた時。彼女の能力を聞いた者は皆等しく今のような感情を抱く。
何も言えず驚愕している部下達に構わず、恋は言葉を続ける。
「私は何で蓮が能力者になったのかずっと考えていたの。そしてこの能力を知った時、ある仮説が頭をよぎったわ。もしかしたら、世界がバランスを保とうとしているんじゃないかって思う」
魔都が生まれて数十年。女性を能力者へと変える『桃』は世界中に配給され、ほとんどの女性が能力者となった現代社会。この数十年で、女性という生き物は強くなりすぎてしまった。
だからこそ、世界は
世界のバランスなど余りにもスケールの大きい仮説を聞き、まるで時間が止まったかのように啞然とする組長達。
最初に時間が動き出したのは羽前京香であった。
「……『僕は山城恋じゃない』。蓮がよく言っていた言葉です。……蓮は、貴女の様になりたいと強く願っている。その想いが形となった能力ということでしょうか?」
「えぇ、私もそう思うわ」
一説には『桃』の能力は本人の気質や素養で決まるとも言われている。
山城恋に憧れ、彼女の様になりたいという気持ち。そして彼のペットとしての素質が合わさり、この能力が生まれたのかもしれない。
「あ~! 成程。恋さんがなんで試用期間なんて設けたのか分からなかったけど、恋さん以外の魔防隊員と交流を深めて、残り七人の飼い主を見つける為って事ね♪」
「……えぇ、まぁ、そういう事よ」
夜雲の言っている事は正しい。恋が自分の手で蓮を鍛えず、天花の元に送った理由はこの能力の覚醒を促すため。
山城恋の能力とは違い、八つの異能を発現させるためには残り七人の飼い主を登録しなければならない。つまり、大事な弟を別の女とシェアしなければならないという事。正直に言ってあまり好ましくない。
夜雲の言葉に恋は複雑そうな表情で肯定する。
「成程。それで総組長、飼い主登録の条件とは何ですか?」
少々食い気味な様子で質問したのは天花。誰にも見られないように机の下でガッツポーズをしながら総組長に問う。
そして彼女の言葉につられるように、夜雲も興味深々な様子で恋の方へと顔を向けた。
「それが分からないのよね。陰陽寮での実験でも解明出来なかったわ。飼い主登録条件と解除条件は現在調査中よ」
「………そうですか(蓮君を他の女に取られたくないから隠してる? いや、それなら最初から私達に教えたりしないか)」
何か引っ掛かる事があるのか、冥加りうが手を上げる。
「一ついいかい?」
「何かしら?」
「山城蓮の能力を知っているのは、アタシらを除いてどれだけいるんだい?」
「先代の総組長・東海桐花さん。そして陰陽寮寮長の木国和歌子さん。この2人だけよ。総理にも伝えていないわ」
「……そうかい(あの二人……アタシに黙っていたね)」
質問する前から、その両名が知っていた事を何となく察していたのか、りうの反応は小さい。
事情が事情な為、自分には知らせることが出来なかった事は分かる。だが、2人と縁が深い彼女は自分だけが蚊帳の外だった事に対して、少々腹を立てる。
「皆……分かったと思うけど、山城蓮という存在の価値は計り知れないわ。絶対に他国やテロリストに渡すわけにはいかないわ。飼い主の登録条件も解除方法も分からない現状で、蓮が敵の手に墜ちる事だけは避けたいの」
彼が能力の全てを引き出せれば、山城恋の言う通り魔防隊にとって最強の切り札になる。だが同時に、敵の手に堕ちれば最悪の脅威にもなってしまう。そうなれば冗談抜きで国難の可能性すらある。
一番最悪なのは、山城蓮が何者かの手に堕ち、山城恋の飼い主登録を解除され、
神は蓮の能力を知っていた。可能性として決してありえない話ではないと恋は考えている。
組長達も全員それを理解したのか、彼が奪われないように全身全霊を尽くすと誓う。
「以上で組長会議を終了するわ。……天花は少し話があるから残って頂戴。それ以外の者は解散」
恋の号令を聞き、組長達は会議室を後にし、それぞれの組へと戻っていく。
会議室内に残ったのは山城恋、出雲天花……そして何故か蝦夷夜雲の3名。
「悪いわね天花、残ってもらって」
「いえ、私も総組長とお話したいと思っていましたので」
「そう。……それで、何で貴女も残っているの夜雲? 早く自分の組に帰りなさい」
「えぇ~、夜雲さんも話に混ぜてよ。どうせペットちゃんの話でしょ? 夜雲さんも聞きたぁ~い♪」
「……好きにしなさい。口は出さないでね」
恋の言葉に夜雲は『はぁ~い』と応え、少し距離を取る。
「検討はついてると思うのだけれど、天花……貴女には蓮の鍛錬と並行して、あの子の能力の覚醒を促して欲しいの」
それを聞き、待ってましたと言わんばかりに天花は頬を緩ませる。蓮の能力を全て発揮するにはあと七人もの飼い主を見つけねばならない。
つまり……自分がその役目を担えと、まさかの総組長直々に言われたのだ。
「えぇ、分かりました♪」
「??……妙に嬉しそうね? 嫌だったら断ってもいいのよ?」
「いえ、蓮君は大事な部下ですから。私が一肌脱がせていただきます♪」
「……そう」
ここで『飼い主になって欲しい』と言わなかったのは、まだ恋の心にモヤモヤとした気持があるからである。
本当は弟に自分以外の別の
それに、神を名乗るテロリストが蓮を狙っているならなおさら力を付けておかねばならない。
「……そう。お願いするわ(天花とは長い付き合いになるけど、男にあまり興味なさそうだし。蓮を無理矢理襲うなんてしないわよね)」
「総組長、それで具体的に何をすればいいですか?(というより、何処までヤッていいですか?)」
「分からないわ。さっき言ったけど、登録も解除も方法が分からないのよ」
「……蓮君からの好感度でしょうか? でもそれだと京ちんが飼い主登録されていないのはおかしいですよね?」
「えぇ。私もそう思うわ。もしかしたら、それ以外のきっかけが必要なのかもしれないわね」
飼い主登録の条件を模索する2人。今まで黙っていた夜雲が、満を持して二人の合間に爆弾を投下する。
「──う~ん、キスとかじゃない?」
恋と天花は夜雲の言葉に反応し、彼女の方へと視線を向ける。
恋は冷たい目で。天花はまるで『よくぞ言ってくれた』とでも言いたげなキラキラした目で。
「いえ、違うわ。絶対に違うわ」
「えぇ~何で? 結構いい考察じゃない?」
「資料にも載せてたでしょ? あの子が私の飼い主登録を完了させたのは魔都災害に巻き込まれて、目を覚ました直後。能力が覚醒したであろうタイミングの後に私はキスなんてしてないわ」
ただでさえ他の女を飼い主にするなど耐え難い事なのに、他の女とキスさせるなど言語道断。
何より蓮は絶対に嫌がる筈。その推理は間違っていると証明する為に恋は言葉を並べていく。
「能力に目覚めた後にじゃなくてもいいんじゃない? 恋さんもペットちゃんとチューぐらいしたことあるでしょ」
「……それは(確かに常日頃からしてたけれど)」
──キス。
正直、恋もその可能性を考えなかったと言えば噓になる。考察としては悪くない。
実際、陰陽寮でも実験として他者との接吻という内容を進言された事もある。だが、自分が持つ権限で阻止してきた。
何故なら──……嫌だからである!!
「好感度をある程度上げてか~ら~の~キス♡ やっぱこれじゃない?」
「それだよ夜雲!」
「それだよ夜雲じゃないのよ天花。貴女シたらダメよ?」
「それでもダメなら……やっぱエッチな事? 肌と肌を重ねて登録完了♡的な?」
「……成程、一理あるね」
「無いわよ。夜雲ふざけないで頂戴。天花も悪ノリしないで(夜雲はともかく、天花ってこんなキャラだったかしら?)」
最も信頼している部下を人選したつもりだったが、間違えたかもしれないと考えてしまう。
何故か盛り上がっている2人を諌め、恋は頭を抱えながら口を開く。
「……2人共、真面目に聞いて頂戴」
「「……」」
真剣な表情を浮かべる恋に応えるように、2人はおふざけを止めて真剣な顔で向き合う。
「もうこの際だからハッキリ言うわ。私はね、天花だけじゃなく、夜雲にも飼い主になって欲しいと思っているの」
まさかまさかの恋の言葉を聞き、天花は顔をしかめ、夜雲はニヤリと笑みをこぼす。
「"
"
もし、飼い主の実力が影響するのであれば、より強い者を飼い主にする方が合理的である。
最悪なのは飼い主の解除方法など最初から存在せず、下手な人間を選び、なおかつ大して役に立たない能力を出現させてしまった場合である。
その上で恋が候補として選抜したのが───
──出雲天花。そして、蝦夷夜雲の二人である。
山城恋。出雲天花。蝦夷夜雲。
能力や才能だけで判断すれば、魔都防衛隊の最上位に位置する三名は彼女達である。
少なくとも山城恋はそう判断している為に二人を選んだ。天花はともかく夜雲に関しては正直、本気で嫌だが。
「総組長、本気ですか? 夜雲ですよ?」
「えぇ、分かっているわよ。ただ、出現する能力が飼い主の強さに比例するなら、これが一番合理的って天花も分かってるでしょ?」
蝦夷夜雲の強さも、能力の強力さも分かっている。分かってはいるのだが……。
2人は、先程からよだれを垂らしながらクネクネと身体を揺らし、気持ち悪い動きを見せる同僚へと目を向ける。
「飼い主かぁ~♡ まぁ総組長の、恋さんの命令なら仕方ないよね☆ うんうん♪ 仕方ない仕方ない♪」
合理的だと分かっているが大事な弟を、大事な部下を、これのペットにしなくちゃならないのかという気持ちが湧いてくる。
だが、贅沢など言ってられない。狙われているのだから、蓮には一刻も早く力を付けてもらわなければならない。
「……取り敢えず天花、言った通り蓮の能力の覚醒の為に動いて。方法は……取り敢えず、あの子からの好感度を上げるようにして。……キスは最終手段よ。やるならすべての手を尽くした後よ」
「はい、了解しました(まぁ、今はそれでもいいかな)」
「夜雲は帰りなさい。天花はこの後、蓮を六番組に連れて帰ってあげて」
「はい、了解しました」
「えぇ~~、夜雲さんもペットちゃんと会いたい~。ご挨拶したい~」
「……ダメよ(あの子は今、かなり不安定な精神状態なのに、さらに心労を増やす訳にはいかないわ)」
「えぇ~、ご~あ~い~さ~つ~」
まるで子供のように駄々をこねる夜雲に対して、恋と天花は困った表情で溜息をつく。
「……今度、紹介してあげるわ。でも今はダメよ」
「やったぁ☆ 恋さん大好き~~♡」
紹介すると言質を取った夜雲は気分を良くし、恋へと抱き着いた。普段であれば避けるかぶっ飛ばすかするのだが、今の状態でそうすればもっとめんどくさい事になると考え、甘んじて受け入れる。
首元に顔を埋め、彼女の匂いを嗅ごうとする夜雲であったが、一つ違和感に気付く。
恋の隊服は彼女の身持ちの固さを表すかのように、首元までキッチリガードされている。故に昨日つけられたマーキングを隠す包帯は隊服の襟によって遮られ、姿を隠していた。
だが、首元に顔を埋める様な態勢の夜雲は、襟の隙間から魔都包帯の存在に気付く。
「あれ? 恋さん首に包帯巻いてるけど、怪我でもしちゃったの?」
夜雲の言葉に恋は反射的に手で首元を抑える。ソレはまるでキスマークを咄嗟に隠す女の仕草のようであった。
二人の視線を受け恋は……。
「……大型犬に嚙まれたのよ」
恋の言葉に夜雲はただ首を傾げるだけであったが、天花は何があったか何となく察した。
それから恋と天花は眠っている蓮を迎えに。夜雲は鼻歌交じりに能力で空を飛翔し、自身の組へと帰っていった。その道中……。
「"
まさかの総組長からの言葉に、先程から彼女の胸は高鳴りっぱなしだ。いや、彼女だけでなく出雲天花もきっとそうなのだろう。
山城恋から奪い取るしか無いと思っていたペットが、まさか複数人の飼い主を持てる子だったとは。
この事実は彼女達にとって僥倖。これでシェアという形にはなるが、山城蓮を手に入れる可能性がグッと高まった。
「そ・れ・に……ペットちゃんと仲良くなれば恋さんともだって♡」
『魔防隊でのハーレム♡』という願望を抱き、是非ともそのハーレムに加えたいと考えている美人姉弟。それが一気に手に入るかもしれないと考え、夜雲はぐふふっと気色の悪い笑みを浮かべながら超高速で空を駆ける。
「会える日が楽しみ♪ ──……山城蓮ちゃん♡」
身体の周囲に強風を展開し、魔都の空を駆ける風神。
そのスピードは山城蓮よりも圧倒的に速かった。
読んでいただきありがとうございます。
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次回『山城蓮と出雲天花』