魔都精兵のペット 〜山城恋の弟くん〜   作:ハトル

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魔都精兵の六番組

 

 

初めての実戦を終え、青い炎に焼かれて朽ちる醜鬼を眺めながら、僕は自身の両手をまじまじと見つめる。

 

僕の能力は本当に『桃』による恩恵なのだろうか?

いや、こんな力、誰がどう見ても桃によって恩恵を得たと答えるだろう。でも、僕は『桃』を食ってない。いや、正確に言えば『桃』を食った記憶が無いと言った方が正しいか。

数年前の話をしよう……

 

 

 

 

それは、学校を終えて家に帰宅している途中に起こった事だった。

 

 

 

「Looking!♪The blitz loop this planet to search way♪Only my RAILGUN can shoot it.今すぐ♪」

 

下校途中、アニソンの中で一番好きな歌をノリノリに口ずさみ、背中に背負ったランドセルを揺らしながらスキップで帰る。お伽話の様にドキドキワクワクの刺激的展開などは無かったが、この何気ない平和な日常が好きだった。

だが───

 

「身体中を♪光の速さで駆け巡った──ん?」

 

──その日常は簡単に壊された。

 

「何だ……??」

 

気分良く帰宅していると、突然、前触れなく僕の周りをもくもくとした霧が立ち込める。一寸先も見えない程の濃い霧に囲まれ僕は足を止めた。

数秒後、その場に突風が通り過ぎ周りの霧が吹き飛ばされた。そして、僕が目にした光景はさっきまでいた現世とはまったく違う世界だった。

 

「──ッ!? えっ!?何!ここ何処!?」

 

先ほどまで自分がいた場所と異なる空間に飛ばされた。そのことで一瞬パニックに陥ったが、すぐに冷静さを取り戻し自身の身に何が起こったのか理解する。

 

「まさか……魔都災害か!!」

 

自分が魔都災害の遭難者だと理解し、すぐに携帯を開きマニュアルを確認する。これからどうすればいいのか、どんな行動をとればいいのか確認するために。

 

『魔都災害についてお答えします。魔都とは、日本各地に突如出現した『ゲート』。通称・『門』と繋がる異空間の事を指します。醜鬼が現世へ出てしまったり、一般人が魔都に迷い込んでしまったりする被害を魔都災害と言います。魔都に迷い込んでしまった場合、むやみに動かず、魔防隊の救援を待ちましょう』

 

携帯から流れた機械的な音声マニュアルを聞き終え携帯を閉じる。とりあえず今やることは決まった。隠れてやり過ごす。それだけ、というかそれしか出来ない。

 

「はぁ~、ツイてないな。今日夕方から好きなアニメがあったのに、リアタイで見れないじゃん」

 

死ぬかもしれないというのに、吞気な事を口にする。自分でもこんな状況にも関わらず冷静でいられるのが不思議だった。焦ったところでどうにもならないと割り切っているのか。それとも、諦めからくるものなのか。僕自身でも分からない。

 

「さてと、その辺の岩場にでも身を隠して───」

 

 

 

 

──見つけました……ようやく

 

 

 

 

 

「………ん?誰だ───」

 

 

 

 

 

後ろから突然誰かに話しかけられた様な気がして、反射的に後ろに振り返った。

 

僕が覚えてるのはここまでだ。振り返った瞬間から、僕の記憶は途切れている。

記憶が途切れる前、最後に見たものは()()()()()()。人間だったのか、無機物だったのか、それとも危機的状況で見た幻覚だったのか。それは分からない。ただ、銀色という事だけしか分からなかった。

 

 

気が付いた時には、僕は陰陽寮のベッドの上で眠っていた。病室の様に整理整頓された部屋。静かで誰も居ない空間で僕は目を覚ました。

 

「あ、れ?僕……何が、どうなって……」

 

まだ頭が完全には覚醒してないのか、今の自分の状況が分からない。段々と頭が回り始め、自分の身に何が起こったのか思い出す。

 

「そうだ!僕、魔都に迷い込んで……あれ?あの後どうなったんだっけ?いまいち記憶が曖昧なんだけど」

 

確か……魔都災害の被害にあって、救援が来るまで隠れようとした時に……あ!誰かに話しかられたんだ!あれ?でもそっからの記憶が無い。夢?いや、あの時間違いなく誰かの声がした。

 

自身の記憶を一つ一つ思い出していくが、どうしてもあの()()()()()()の姿形やあの後の事を思い出すことは出来なかった。

思い出せないもどかしさに悶えていると──突然、脳内に機械的な音声が流れて来た

 

 

 

 

 

《確認しました───飼い主登録に必要な条件(プロセス)が全て達成されました。

『山城恋』の飼い主登録を開始………成功しました。

これにより《黒狼(コクロウ)》への変身が可能となりました。肉体の再構築を開始します》

 

 

 

 

 

「は……? 何今の『転スラ』の大賢者みたいな声───ガッ!!?」

 

脳内に流れて来た訳の分からない音声に疑問を抱いていると、身体中が引き裂かれるような痛みに襲われる。

 

「ガァあアアア゛ァァァ……ッッ!!痛いイダイいだイ!!」

 

今まで感じた事のない痛みだった。全身の血が沸騰し、骨が溶かされ、内臓が焼かれるような感覚。痛みに悶え、今まで出したことないような聞くに堪えない声を上げる。そうでもしないと狂ってしまいそうなほどの苦しみ。

 

……

……

 

どれくらい時間が経っただろうか?

もしかしたら、10秒に満たない短い苦しみだったかもしれないし、一時間以上のものだったかもしれない。それは分からないが、徐々に痛みが治まり始める。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……ゲホッ、ゴホッ」

 

永遠にも感じられた地獄の様な苦しみ。それが過ぎ去り、僕は呼吸を荒げながらベットに倒れる。鏡を見なくても分かる。今、きっと僕は見るに堪えないほどひどい顔をしているだろう。

 

「はぁ……はぁ……な、なんだ今の?」

 

困惑しながらすぐに身体の状態を手で触り確認する。

大丈夫、四肢はある。腕や足はちゃんと動く。身体に目立った外傷は見られない。

頭も異常は───

 

──モフっ

 

ん?モフっ?

頭部に怪我は無いか確認しようと手で触れると何故かモフモフとした感触に包まれた。まるで動物の毛並みの様な感触。そういえば、さっきから妙に感覚が研ぎ澄まされてないか?目はめっちゃ見やすいし、身体もめちゃくちゃ軽い。力が溢れ出てくる。いや、今はそんな事どうでもいい!このモフモフとした()()は何!?

 

すぐにベッドから起き上がり近くにあった鏡の前に移動し姿を確認する。

 

「な……なななな!なんじゃこりゃー!!!」

 

姿見に映ったのは、頭から狼の様な黒い獣耳と腰から尻尾を生やした異形の姿であった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

って訳なんですよ。それから色々検査して、僕が世界で初めての男性能力者だということが分かって、政府のお偉いさんに陰陽寮へぶち込まれたんだよね。唯一、『桃』の恩恵を受けられた男性として。

 

「でもなぁ~、桃食った記憶が無いんだよなぁ。いや、もしかしたら食ったのかもしれない」

 

当時の魔防隊の人に話を聞いたところ、僕は気を失った状態で発見されたそうだ。そして魔都災害が発生してから魔防隊員が駆け付けるまでおよそ十分間のタイムラグがあったそうだ。でも、僕はその十分間の事を覚えていない。単に気を失っていただけかもしれないけど。政府の人間達は僕がその時に『桃』を食べたのだと考えているらしい。

 

「まぁいいや。いまさら考えてもしょうがない。ってかめんどい」

 

今はとにかく六番組の寮を目指して進もう。三体の醜鬼に勝てたからって油断は禁物。大量の醜鬼に遭遇して囲まれでもしたらどうなるか分からん。とにかく、あの臭い匂い注意しながら慎重に進もう。

 

 

 

 

先ほどの醜鬼の戦闘から30分。あれから慎重に六番組を目指していたが、醜鬼共と遭遇することは一度も無かった。いや、良い事なんだけどね。

 

「《黒狼(コクロウ)》の能力は恋姉が言うには『身体能力強化』だったよな。さっきの戦闘で分かったけど、特に脚力が強化されてるな。スピードを駆使して蹴りでの攻撃。これが基本スタイルになりそうだな」

 

初めての実戦を終え、自分の能力。出来ることと出来ない事を分析していく。さっきは何となく戦って運よく勝てたけど、これからはそんな上手く事は運ばないだろう。今のうちに戦い方を模索しといたほうがいいな。

 

「身体能力強化……か。はぁ~~」

 

初めてこの能力を聞いた時、僕は思った。

『えっ?それだけ?』ってね!いや、一見強そうに聞こえるかもしれないけど、そこまで強くないと思う。だって前に肉弾戦で恋姉と戦ってみたけど、見事にボコボコにされたわ。いや比べる相手が悪いだけかもしれないけど。

例えば『身体能力において彼の右に出る者はいない』とかなら良かったよ!でもさ、中途半端なんだよな。魔防隊には僕より(パワー)が強い人はいるだろうし、僕より速い人もいるだろう。そのいい例が山城恋だ。まじで中途半端。

 

正直、世界でただ一人の男性能力者になったって聞いた時、嬉しかった。ワクワクしたよ!心が震えたよ!恋姉みたいにチート貰って『俺tueee』出来ると思ったよ!でも貰ったのは誰かのペットになるとかいうよくわからん能力。で、実際与えられたのは中途半端な『身体能力強化』

 

こういう時の主人公ってさ、普通チート与えられたりするもんだよね?

無下限呪術(むかげんじゅじゅつ)』とか『一方通行(アクセラレータ)』とか『暴食之王(ベルゼビュート)』とか『全反撃(フルカウンター)』とか色々あったじゃん。

 

 

「あ~あ、(サンダー)駆使して『超電磁砲(レールガン)』撃ちたかったなぁ~。『only my railgun』したかったよ~」

 

まぁ、《黒狼(コクロウ)》はいわば恋姉がくれた力だ。今更文句言うのはやめよう。逆に考えよう!フィジカルが強いキャラだっていっぱいいる!

だから、目指すのは『禪院甚爾(ぜんいんとうじ)』!フィジカルギフテッドだ!さっきも甚爾君の真似して縦横無尽に動いてかく乱する戦法は上手くいったし。

 

「ほんじゃ、チート目指して頑張りますか」

 

え~っと、現在位置は……。

端末で自身の位置を確認する。どうやら、さっきの地点から2㎞ほど進んだようだ。つまりあと約8㎞。うわっ、考えただけでため息が出そうだわ。まだ半分も進んでないなんて

 

「はぁ~~、まぁいい。とにかく進むしかない。なんか今日ため息ばっかついてるような気がする」

 

 

肩をず~んっとさせながら移動を再開する。もちろん匂いセンサーを張り巡らせながら。当たり前だけど、どこまで行っても荒れた大地が続いていて代り映えしないな。そんなことを考えていると、広々とした平地の場所に出た。周りに大きな岩は無く、平坦な地形が広がっている。

平地(ここ)だと戦いにくいな。さっきみたいに岩山を使って立体的な動きが出来ない。さっさと抜けよう。

 

急いでその場を離れようとする蓮。しかし、その瞬間、目の前の空間が歪みブラックホールの様な黒い穴が出現した。

 

「これ……まさか『(クナド)』か!?」

 

(クナド)』は大きく分けて二種類存在する。

1.常に魔都と現世を繋ぎ、消えることのないタイプ

2.突発的に出現し、一時間ほど魔都と現世を繋ぎ、その後消滅するタイプ

 

後者の方の『(クナド)』が出現し、魔都(こちら)から現世(あちら)側に醜鬼が流れる場合がある。それも魔都災害の一つだ。

 

「どうする?とにか───この匂い!?!」

 

最悪だ!最悪のタイミングだ!この()()()()()()()()()()。さっきと同じだ!!奴らが来る!

思った通り、蓮と門を囲うようにして周りの地面を割って醜鬼共が這い出てきた。それもさっきと違い大量に。パッと見たところ30体以上はいる、醜鬼の群れだ。

 

「うへぇ~、団体様のお着きだぁ~。できればご遠慮願いたいんだけど?」

 

なんて冗談言ってる場合じゃないな。どうしよう?数体なら戦うことも考えたけど、この数だしな。しかも今いる場所(シチュエーション)が最悪すぎる。醜鬼に囲まれて、周りに立体物の無い広々とした地形。さっきみたいに上手く戦えないな。

ってか、なんでこんなに醜鬼が出るの?ここ鬼門でも裏鬼門でもないだろ。とことんツイてないな。

 

もし、醜鬼共(コイツら)がこの門を通って現世へ出て行ったら、とんでもない数の一般人が被害にあうことになるだろう。これが何処と繋がってるか知らないけど、場所によっては百人近くの犠牲者が出るかもしれない。

 

そんなこと……

 

 

 

 

 

「……()()()()()()()()()。顔も名前も知らない人間の事なんて」

 

僕は……お伽話のヒーローとか英雄にはなれない人間だな。僕の中には優先順位というものがある。別に珍しい事でもないだろうけど、僕の場合は極端だと思う。

一番が『山城恋』、二番目に『僕の友人』、最後に『僕自身の命』だ。それ以外の人間は正直どうでもいい。どこで誰が死のうが、その人が僕の知人でもない限り心が痛むことは無いだろう。

 

最低な事言ってるのは分かってる。でも……

僕は自分の限界を知っている。自分は"特別"なんかじゃないと知っている。世界でただ一人の男性能力者ってだけで、僕は選ばれた側の人間じゃない。

 

 

僕は……『山城恋』じゃないんだから。

 

 

「逃げよう。今の僕じゃ戦っても勝ち目は薄い。正直、ここから逃げることも難しいくらいだ」

 

 

蓮が状況を鑑みて選んだ選択は退避。人によっては『臆病者』『卑怯者』『最低』などの言葉で罵る行動だろう。それは蓮自身が一番よく分かっている。だが、顔も名前も知らない誰かの為に命を捨てるほど、山城蓮は善人では無かった。

 

 

「とにかく、この場を全速力で離脱して───」

 

 

 

 

 

 

 

───『月山大井沢事件』知っているか?私はそれの生き残りだ。"一本角"という醜鬼によって私の故郷は滅ぼされた。もう二度と…ッ!!私の様な人間を増やしはしない!!

 

 

───最後に一つだけ言っておくわ…………

 

 

 

 

 

 

 

「ああ……クソっ!!そういう意味か恋姉!!」

 

生き残るために逃げようとする蓮の足を止めたのは、2人の女性の言葉だった。一人は最愛の姉。小さい頃からずっと自分を守ってくれた人。

もう一人は、能力が似ているという理由で面識を持った女性。現在、七番組組長を務めている人間。大切な人を、育った故郷を醜鬼に奪われ、心を奮い立たせて戦う強い人。

そんな2人の言葉を思い出し、蓮は覚悟を決めて戦闘態勢に入る。

 

「能力解放……!!」

 

 

分かったよ、恋姉。飼い主様の言いつけだもん。

守らなきゃ(ここで逃げちゃ)ダメだ。

 

それに───

 

 

 

 

───貴方はもう……

 

───僕はもう……ッ!!

 

 

 

 

『「“魔防隊員”なんだから……ッ!」』

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「《黒狼(コクロウ)》。さぁ、醜鬼共……鬼喰(オニゴロシ)の時間だ」

 

とか盛大にカッコつけて見たけど、実際どうしよう?360度全方位を醜鬼に囲まれている。しかも、ただ戦うだけじゃダメだ。コイツらを『門』から遠ざけて現世(あちら)側に行かないようにしないといけない。

うわっ、難易度ベリーハードの鬼レベMAXじゃん。

 

「ま、やるだけやってみますか……」

 

身を低く構え、脚に力を込め地面を蹴り、前方にいた醜鬼へと突っ込んだ。突然眼前まで迫られ困惑する醜鬼の顔面に一撃を入れる。頭がつぶれた醜鬼はよろよろとよろめきながらその場に倒れこむ。

 

「さぁ……かかってきなよ醜鬼共」

 

醜鬼の死体を燃やす青い炎を背景にして、両手を広げ不敵な笑みを浮かべる蓮。

 

 

確か醜鬼共(コイツら)に知能は無い筈。戦い方は単純だし、ものを考えるなんて事は出来ない。だけど、生物としての本能はあるように感じる。目の前に危険なモノが現れれば、それを排除しようと動くだろう。現世に行くことよりも優先して。

 

蓮の狙いは正しかった。醜鬼の群れは目の前に現れた脅威(山城蓮)を排除するべく、咆哮を上げながら蓮に向かって突進していく。

 

「……思った通り!!このまま門から離れてくれれば戦いやすくなる」

 

向かってくる醜鬼の振り上げられた拳を蓮は横にスライドして回避。その勢いを殺さずそのまま攻撃を繰り出した。首であれば一撃で飛ばせる。先刻の戦いで蓮が気づいたことだ。

休む暇なくまた一体、蓮めがけて拳を振るう。今度は避けずに蹴りで応戦。衝突する蓮の蹴りと醜鬼の拳。押し勝ったのは蓮。醜鬼は腕がぐちゃぐちゃになり後方へと吹っ飛ぶ。その時後ろにいた何体か巻き込んで死んだ。

 

「おっ!ラッキー♪」

 

指をパチンと鳴らして喜ぶ蓮の左右から二体の醜鬼が迫る。左右から同時に迫り来る拳を蓮はしゃがんで回避。直前で避けたため加速しきった拳を止めることが出来ず、醜鬼同士が打ち合って自滅した。

 

「バカなの?いやまぁ、そう仕向けたんだけどさ」

 

それからも襲ってくる醜鬼を蹴り殺し続けた。囲まれないように周りに意識を向けつつ、僕を無視して『門』に近づく奴は排除し続けた。

しかし、キリがないな。さっきから上手く立ち回ってなんとかやってるけど、このままじゃまずい。先にこっちが体力切れで発情する。

 

「はぁ……はぁ……さて、どうしよう?いよいよ限界に近いな」

 

体力の限界が見え始め、この先どうするか考えていた時、醜鬼の群れが突然蓮に襲い掛かるのを辞めて一ヶ所に集まり始めた。

 

なんだ?いきなり僕から離れていく?何をするつもりだ。『門』に向かおうとするわけでもなく、かと言って逃げようという感じでもない。

何をしようとしているのか観察していると、醜鬼同士が身を寄せ合って合体を始めた。二体が一体に。その醜鬼がまた違う醜鬼と合体する。それを繰り返し、さっきまで数十匹の醜鬼が一体となって巨大な醜鬼へと姿を変えた。

 

「うっそ~、合体とかアリですか?ってかデカッ!?30……いや、40メートルはあるぞ。頼むから見かけ倒しであってくれ」

 

その願いは叶わず、自身に向かって振り上げられた巨大醜鬼の拳を見て蓮は驚愕する。

 

「………速ッ!?」

 

一瞬で眼前まで迫る拳を蓮は咄嗟に後ろに全力で飛ぶことで回避した。蓮が二秒前まで居た場所にはクレーターができ、もし避けなかったらぺちゃんこになっていただろう。その事実が蓮の心を震えさせる。

 

「冗談キッツ……バケモンかよ、コイツ」

 

冷や汗をかく蓮に向けて巨大醜鬼は追撃を開始する。振り落とされる拳を持ち前のスピードで回避しつつ距離を詰める。奴の足の傍までたどり着き、回し蹴りを繰り出した。

 

「……かっった!?」

 

多少効いた様子を見せるだけで醜鬼は倒せなかった。すぐに切り替えその場を離脱し体制を立て直す。

 

「う~~ん、ちょっとは効いたのか?いやでも、さっきの攻撃をいくらぶち込んだ所でアイツの命には届きそうにないな」

 

巨大化し強化された醜鬼を見上げて頭をかく蓮。どうやったら倒せるのか顎に手を当てて頭を回す。

 

腹とか足を蹴っても有効打にはならないな。なら、狙うは頭!渾身の一撃、それを奴の頭に喰らわせる。それしか勝つ方法は思いつかない。とは言っても、どうやって奴の頭にヒットさせる?()()に踏み込んでジャンプしたところで届かないと思うし。かと言って奴の腕や足を登るのは危険すぎる。

ならば…………

 

()()()()()()()()()()をするしかない!!」

 

作戦が決まり、蓮は巨大醜鬼の足元を縦横無尽に駆け回る。巨大だが、その分小回りは利かない。それを利用しかく乱する。ちょろちょろ動き回る蓮に醜鬼は拳を振り下ろす。振り落とされる拳の連打を紙一重に躱しながら背後へと回った蓮。

醜鬼が幾度も振り下ろした拳の影響で土煙が立ち込める。そのせいで醜鬼は蓮を見失った。

 

 

「ここだ……ッ!!」

 

自分を見失った醜鬼の背後で、蓮はしっかりと両脚を踏み込み跳躍するような構えを見せる。

 

 

 

───力を脚だけに溜めろ!!

 

───限界まで溜めて一息に爆発させる。

 

大地を蹴り砕き、空気を切り裂き、何もかも置き去りにするような神速の一閃ッ!!

そんな蹴り技を今ここで完成させろ!!

 

 

 

ようやく蓮に気づいた巨大醜鬼は咆哮を上げながら拳を振り下ろした。その拳からは今度こそ当てるという強い殺気を感じる

 

「もう遅い………。行くぞッ!!」

 

極限まで集中力を高め、体内を巡るエネルギーを脚に溜めた。その力を一息に爆発させて地面を蹴り、技を繰り出そうとした瞬間───

 

 

 

 

"カミ────なッ!?」

 

 

 

───隠れ潜んでいた一匹の醜鬼が蓮の片足を掴んだ。

 

 

(もう一体醜鬼がいたのか!?しまった!力を溜めるのに集中しすぎた……ッ!)

 

 

敵を倒す。練習すらしたことが無い技を完成させる。その二つの事に意識を集中しすぎて、周りの警戒を解いてしまった。瞬時に脚にこびりつく醜鬼を殺そうとしたが、巨大醜鬼の拳はすぐそこまで迫っていた。今の蓮には回避が不可能な距離まで。

 

 

 

 

 

あ……終わった。僕、死んだわ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───"天御鳥命(アメノミトリ)"───」

 

 

 

自身の死を確信し、目を閉じようとした瞬間。眼前まで迫っていた巨大な拳はバラバラに切り裂かれ、巨大醜鬼の身体は見るも無残に引き裂かれた。まるで、空間ごと何かに切り裂かれたかのように。

 

「は……??」

 

助かった事よりも、何が起こったのか分からず困惑する蓮。あの巨大な醜鬼が一瞬で殺されたのだから無理はない。命が助かった事への喜びか?それとも安心からくるものか?それは分からないが、蓮はその場に尻餅をつく。

 

 

「何が……起こった?」

 

……今、二秒前まで視界は醜鬼の拳で埋め尽くされていた。それなのに、目の前にはバラバラに切り裂かれた醜鬼が青い炎に焼かれてくたばっている。今の状況に困惑していると、後ろからカツカツと音を鳴らし誰かが近づいてきた。

 

「大丈夫?怪我はない?ごめんね、ギリギリだったね」

 

声に反応し後ろを振り返る。そこには魔防隊の制服に身を包み、綺麗な金髪をなびかせる女性が立っていた。

 

「だ……誰、ですか?」

「魔防隊六番組組長──出雲天花(いずもてんか)

 

胸に手を当ててそう名乗る金髪の女性。出雲天花(いずもてんか)という人物は知らないが、彼女が口にした肩書を聞き蓮は目を見開かせる。

 

六番組……六番組の組長さん!?この人が!?

今の攻撃……攻撃だよな?この人がやったのか?何にも見えなかったんだけど、何したんだ?

ってかこの状況でこんなこと考えるのもなんだけど、魔防隊って顔で選ばれてたりしないよね?恋姉は当然だけど、京香さんもベルさんも。そしてこの人も、みんな顔だけで食べていけそうだよな。寧ちゃんだって可愛いし、将来絶対美人さんになるだろうな。

 

数秒前に死にかけていたというのに呑気な事を考える蓮。そんな彼に、出雲天花はそっと近づく。座り込んでいる蓮に目線を合わせ頬に手を添えた。

 

「君が……山城総組長の(ペット)君?」

 

───パシンッ!!

 

「…………ん?」

 

蓮は不快感MAXとでも言いたげに顔を歪ませ、自身の頬に添えられている出雲天花の手をはたく。

 

「あの……ごめんなさい。さっき助けてくれたの貴女ですよね?そんな人にこんなこと言うの失礼ですけど。僕の身体(恋姉のモノ)に勝手に触らないでください」

 

自分という存在は山城恋のモノ。心も、身体も、命も、全てが山城恋のモノ。失礼なのは百も承知。それでも、命の恩人とは言え初対面の人に触られるのは気分が悪い。

 

(…………へぇ~)

 

目の前の少年の反応を見て、出雲天花は興味深いものを見るような笑みを浮かべる。出雲天花にとって今の反応は新鮮であった。自分の容姿が整っている事は自覚しているし、今までその容姿に惹かれて寄ってくる男は多くいた。それ故に、こんなにもあからさまに嫌悪感をむき出しにされるとは思っていなかった。

 

(山城総組長の言う通り、仲良くなるにはちょっと時間がかかりそうだね。フフッ♪なんだかワンちゃんみたい)

 

「ごめんね。嫌だった?軽いスキンシップのつもりだったんだけど、不快にさせたのなら謝るよ」

「……いえ。こっちこそごめんなさい。助けてもらったのに」

 

………最低だ僕。いつもの悪い癖が出た。初対面の人に嚙みつく癖直さなきゃ。恋姉からも直しなさいって言われてたのに。いきなり触られたからって、命の恩人……しかもこれから上司になる人にあの態度は無いだろ。

 

「それで……大丈夫?立てる?」

「…………はい」

 

差し出された手を取り立ち上がる。流石に今度は不快感を出さないようにした。

 

「一人でよく頑張ったね。君のお陰で醜鬼も片付いたし、お手柄だったね」

「いや、僕ほとんど何もしてませんよ……」

「フフッ、それじゃあ改めて。私は六番組組長の出雲天花。君の護衛兼監視役を任されてる」

「え~っと、僕は山城蓮です。これからよろしくお願いします」

 

……ん?護衛兼監視役?なんだそれ?監視役ってのは分かるけど、"護衛"

 

「うん、よろしくね。六番組の寮に案内するよ」

「ま、待ってください!『門』は放っておいていいんですか?」

「ん?ああ、それなら大丈夫。『門』はもう消滅してるよ。ほらっ」

 

彼女が指差す方向に視線を向ける。彼女の言う通り既に門は閉じて消滅していた。どうやら戦いに集中しすぎて門が閉じた事に気づかなかったようだ。なんだ、じゃああのデカブツと無理に戦う事無かったじゃん。

 

「それじゃあ、行こうか」

「はい……。あの、手を離していただけませんか?」

 

さっきからずっと手を握られている事に若干不快な気持ちになり、再び顔を歪ませる。

なんか、さっきもこんなコトあったな。何なの?銀奈ちゃんといいこの人といい。そんなに僕って手を繋いどかないと心配な子だと思われてんの?

 

「フフッ、ごめんね。少しだけ我慢してくれる?私の()()、他人は触れてないと"テレポート"できないから」

「えっ?テレ───」

 

 

 

 


 

 

 

 

「……うわっ!しゅ、瞬間移動?」

 

手を離してほしく、出雲天花と目を合わせていた蓮。すると突然、一瞬で周りの景色が一変した。その瞳に映るものは先程まで立っていた荒れた大地ではなく、まるで旅館の様な建物だった。

ビックリした。いきなり違う場所に移動するのは何度やっても慣れないな。魔都災害の時のがトラウマになってるのかも。

 

「う~ん、似てるけどちょっと違うかな。また今度説明するね。それより……さ、入って。此処が君の新しい職場だよ」

「これが魔防隊の寮……。なんだか旅館みたいですね。魔防隊本部とは全然作りが違う」

「魔都陰陽道に基づいて作られてるんだって。強力な結界も張られてるから、安心してね」

 

寮内に入っていく出雲さん……じゃなくて出雲組長の後に続いて僕も中に入っていく。寮の門をくぐり、中に入るとそこには二人の女性が立っていた。

 

「ただいま。八千穂(やちほ)、サハラ。連れてきたよ~」

「そやつが海桐花様の言っておった男か。男でただ一人能力が使えると聞いてどんな奴かと思うたら……ただの犬っころではないか」

「ふわぁ~。ん~?あぁ~、可愛い男の子だぁ~♡」

 

………何この人達?個性強すぎない?

一人はなんか海桐花さんみたいに時代錯誤な喋り方をするツインテール。一人はあくびしながら眠たそうにウトウトしている女の人。この人達、本当に強いのか?

ってか僕を『犬っころ』呼ばわりしたあのツインテールは後でシバく。

 

「はいはい、2人共自己紹介してくれる」

「六番組副組長の(あずま)八千穂(やちほ)じゃ」

「六番組の若狭(わかさ)サハラだよ……ぐぅ~」

 

えっ?ツッコミどころ満載なんだけど?あのツインテールが副組長?ってか一人立ったまま寝てるし。めちゃ器用な事しますね。とりあえず僕も自己紹介した方がいいよな……

 

「……今日から一ヶ月お世話になります。山城蓮です、よろしくお願いします」

「……ふん」

「よろしくぅ~」

「出張組で今は居ない子達もいるんだけど、それはまた今度紹介するね。さっきも言ったけど、ここは君の新しい家でもあり、職場でもある。これから一ヶ月、君は私達と一緒に生活し、魔防隊員として醜鬼と戦ってもらう。大丈夫?」

「………はい!」

 

蓮の返事を聞き、天花はニコッと微笑む。そして先ほどと同じように蓮に手を差出した。それは手をつなぐためのモノではない。目の前にいる人間を歓迎するという最大限の意思表示である。

 

「そう。なら歓迎するよ山城蓮君。ようこそ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───"魔都精兵の六番組へ"

 

 

 

 

 

 





読んでいただきありがとうございます。
評価・感想いただけると幸いです。

次回『六番組の力』

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