魔都精兵のペット 〜山城恋の弟くん〜   作:ハトル

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六番組の力

 

 

───午前4時半

 

現世ではまだ日が昇っていないであろう早朝に僕は目を覚ました。まぁ、魔都には太陽何て存在しないから明るさはほぼ変わらないんだけどね。

 

「ふわぁ~~。さてと……」

 

身体をグイ~っと伸ばしながら大きなあくびをした後、部屋に用意されていた机の前に移動する。机の上にはルービックキューブとストップウォッチ。一つ深呼吸をしてからストップウォッチのボタンを押し、バラバラになっているルービックキューブをそろえ始める。

 

「………3秒92。まぁ寝起きだとこんなもんか」

 

そう口にしながら六面全てそろえたキューブを再びバラバラにする。ちなみにこれは僕が小さい頃からやってる朝の日課だ。寝起きで回っていない脳を動かすのにパズルなどは最適だからな。昨日は恋姉が僕の私物全部この部屋に運んでたから出来なかったけど。

 

 

「ふぅ~、そんじゃ……行きますか」

 

白い隊服に着替え、六番組の寮内に用意された部屋から出る。

 

魔防隊二日目。いや、正確には今日が初日か。昨日は疲れただろうって出雲組長が休ませてくれたんだよな。六番組の寮に着いたのは昼前だったけど、それからは部屋の用意だったり六番組の人と交流だったりで魔防隊らしい事は何もしなかったし。

 

「朝食……何にしよう?」

 

台所に着き冷蔵庫の中を見ながらそう呟く。昨日お世話になるということで手料理を振舞ったら、絶賛されてこの一ヶ月は基本的に僕がご飯を作ることになった。正直言ってめんどくさい。いや作りますよ?一ヶ月もお世話になるんだからご飯ぐらい作りますとも。でも、毎回4人分作るのって結構大変なんだよな。

 

若干めんどくささを感じながら食材を手に取り、料理を開始する。ちなみに僕のレパートリーは和食しかない。カレーとかオムライスとか簡単なものなら作れるけど基本的には和食しか作らない。

何故かって?『恋姉が和食好きだから』以上。そもそも僕の料理スキルは恋姉を喜ばせたくて培ったものだし。

 

 

 

「よしっ!我ながら完璧!」

 

一時間後。六番組の皆が起きる前に無事料理を完成させることが出来た。出来た料理を居間に運び、皆が起きてくるまで座って待つ。

ちなみに献立は──

 

・おにぎり

・だし巻き卵

・菜の花と油揚げの煮浸し

・焼き鮭

・わかめと豆腐の味噌汁

・茶碗蒸し

 

───だ!もう一回言うけど、我ながら完璧!自画自賛になってしまうがまるで料亭や旅館で出される様な見事な朝食。恋姉を喜ばせたくて培ってきた料理スキルが火をふいた。恋姉いないんだけどね。

 

「う~~ん。蓮く~ん、おはよ~」

「……おはようございます、若狭(わかさ)さん」

 

眠そうに眼をかきながら居間へとやって来た彼女は若狭(わかさ)サハラさん。おっとりしていて少しマイペースな所がある人。この人が一番最初に起きてくるとは意外だ。この人は寝るのが好きらしくどこでも寝る。ソファーや床、椅子、なんなら立ったままでも寝る。実際、今も机にぐで~んとしてるし。

 

「ぐぅ~」

「もう若狭さん、起きてください。シャキッとできないなら顔洗ってきてください」

「……zzz」

 

……ダメだこりゃ。ってかこの人パジャマのままここに来てるし。いやこれパジャマっていうのか?上は薄い肌着だし、下は下着だけだし。隊服に着替えて欲しい。服が乱れてなんか目のやり場に困る。まぁ、顔を赤らめて照れたりはしないけど。

 

「おはよう、ペットくん」

「おはようございます、出雲組長」

 

次にやって来たのは出雲天花(いずもてんか)さん。若狭さんとは違ってちゃんと隊服に身を包み身なりを整えている。昨日一緒に過ごして分かったけど、この人はすごくしっかりしていて、隙がない。というか無さすぎる。何考えてるか掴みづらいし、腹の底がまったく見えない。あと、何故か僕の事を『ペットくん』と呼んでくる。いや間違いではないんだけどやめて欲しい。

 

「若狭さんなんとかしてください。もうすぐご飯だってのに寝るし、服はきわどいし。風邪ひきますよ?」

「ほっとけばすぐ起きるよ」

「……そうですか。それで、()()()()()()は?寝坊ですか?」

「う~ん、もうすぐ来ると思うけど」

 

そろそろ来て欲しい。ぶっちゃけお腹空いた。

そう考えていると、出雲組長の言う通り六番組の最後の一人が居間へとやって来た。

 

「朝早くからご苦労じゃったのう。犬っころ」

「それが人に飯作らせた態度か。ツインテール」

 

彼女の名前は──(あずま)八千穂(やちほ)。この六番組の副組長だ。話によると彼女はあの海桐花(とべら)さんの孫らしい。うん、マジで似てるわ~。主にイラッてくるところが。口を開けば嫌味ばっかりで、何故か僕に突っかかってくるんだよね。後、僕を犬っころ呼ばわりしてくる。

うん、この人嫌い。

 

「あのさ……何度も言うけど僕の名前は山城蓮だよ。犬っころ呼ばわりはやめてくれるかな?」

「お前こそ私様(わたしさま)の事を髪型で呼んでおるではないか。お互い様じゃ」

「そっちが名前で呼んだら僕も名前で呼ぶよ。そっちから直して」

「断る。犬っころに犬っころと呼んで何が悪いのじゃ?」

 

やっべ、グーで殴りたい。この綺麗な顔ぐっちゃぐちゃにしてしまいたい。流石にやらないけど。

 

「はいはい。2人共、朝から喧嘩しちゃダメだよ」

「「…………」」

 

出雲組長にそう言われ、僕は喧嘩を辞めて着席する。向こうも組長の言うことは聞くらしく、それ以上何も言わず大人しく座る。最後までこちらを見下してる様なムカつく笑みは消えなかったけど。

 

 

 

 

「うん、やっぱりぺットくんの料理は美味しいね」

「蓮くんすご~い」

「ふんっ、まぁ料理の腕前は及第点じゃな」

 

朝食を食べ始めると3人は僕の料理を褒めてくれた。いや、一人だけなんか褒め方がムカつく奴がいるな。おいツインテール、あんた及第点とか言いながら一番ガツガツ食ってるよね?しかもおかわりして今二杯目じゃなかったっけ?素直じゃない人

 

「ありがとうございます」

「これ食べ終わったら昨日言った通り()()()だから。八千穂とサハラ、もちろんペットくんも準備整えておいてね」

「…………はい」

「分かっておる」

「は~~い」

 

出雲組長の言葉に頷く僕。そして、視線を若狭さんとツインテールの方に向ける。若狭さんは僕と目が合うとにっこり微笑んでくれたが、ツインテールの方はほくそ笑んできやがった。いちいちムカつくな。

 

───模擬戦

それは昨日伝えられた今日の訓練。内容は若狭さんとツインテール、2人とのガチ勝負。もちろん一対一で。出雲組長曰く、お互いに実力を確かめるには戦ってみるのが一番早いとのこと。いささか急だと思ったのだが、今の自分の立ち位置を確認するには持って来いの内容なので承諾した。ってか断る権利僕に無いし。

 

「手加減しないよ~」

「安心せい。苦しまぬように秒殺してやるのじゃ」

「………お手柔らかにお願いします」

 

『秒殺』……か。本当にそうなるかもしれないから何も言えないな。

 

それから朝食を食べ終え、若狭さんとツインテールは自室に戻って行った。居間には僕と出雲組長だけしかいない。若干気まずい雰囲気を感じながら、僕は空になった食器を片していく。

 

「この後の模擬戦、緊張してる?」

「いえ……特に。始まる前から()()()()()()()()()に緊張しろなんて言う方が無理でしょう?」

「へぇ~、勝つ自信があるのかな?」

「まさか。()ですよ、逆」

 

正直、素人に毛が生えた程度の力しかない僕が勝てるとは思っていない。経験も、技術も、全てあっちが上だ。どんな能力を持ってるかは知らないけど、魔防隊員であれば戦闘に特化した能力者であることは間違いない。

 

「ま……簡単にやられるつもりは無いですけど」

 

今必要なのは"経験"だ。強くなるにはそれが一番の近道。勝てる可能性が限りなく低くても、本気で勝ちに行かなきゃ勝つための経験は得られない。

 

「お~、いいセリフだね。応援してるから頑張って」

「はい。若狭さんはともかく、ツインテールの方はムカつくのでボコボコにする気でやります!あの綺麗なツインテールボッサボサにしてやりますよ!」

 

 

 

 


 

 

 

 

「審判は十番組の備前銀奈がやらせて頂きます!」

 

部屋で準備を済ませ、気合いを入れて表に出て行くと何故か銀奈ちゃんが居て驚いた。いや、よく考えてみれば当然か。銀奈ちゃんの能力って訓練とかに持って来いの能力だからこういう時に呼び出されるのは当然だよな。

 

「銀奈ちゃんって忙しいんだよね?急に決まった模擬戦なのによく予定開けれたね」

「師匠の戦いを間近で見れるチャンス!この私が逃すわけありません!応援してます!」

「………あはは、ありがとね」

 

夢見る子供の様なキラキラした目で見てくる銀奈ちゃん。僕はそんな彼女の頭を撫でる。こんなにキラキラとした期待の眼差しを向けられたら、少しは応えないとな。

 

「仲が良いね」

「天サマ!」

「そろそろ始めよっか。お願いできる?」

 

銀奈ちゃんの頭を撫でていたら出雲組長がこちらに近づいて来た。ってか恋姉以外にも『サマ』付けするのね?

撫でてる手を止め頭から手を離すと銀奈ちゃんは分かりやすくシュンと落ち込んだ。後でまた撫でてあげるから、はよ試合始めて

 

「それでは六番組模擬戦を開始します──

──《会員制闘技場(ギンナクラブ)》──」

 

銀奈ちゃんが能力を発動すると、ここら一帯がドーム型の結界で覆われた。確か醜鬼が千体きても壊れないんだっけ?改めて考えると凄い能力だな。

 

「ではまず第一試合!師しょ……じゃなくて!

───山城蓮VS東八千穂!」

 

どっちが先にやるかは聞いてなかったけど、どうやら最初はツインテールのようだ。ラッキーだな。

 

「ルールはギブアップもしくは戦闘不能で負け。怪我治るし思いきりやっちゃって!」

 

なるほど、シンプルで分かりやすい。

銀奈ちゃんの説明を聞き終え、視線をツインテールの方に向けお互い睨み合う。

 

「約束通り秒殺してやろう、犬っころ」

「能力解放──《黒狼(コクロウ)》。やってみろよ……ツインテール」

 

そう言ってツインテールは片手銃を手に取る。

おそらく醜鬼用に改造された銃だ。あれがメインウエポンって事は少なくとも僕みたいな『身体強化』では無いな。弾道を操る能力?それとも能力と銃は関係ないのか?なんにせよ近づかれたくないのは分かった。ならば……

 

「それでは……」

 

距離を取るのは愚策になる可能性が高い。

狙うは……開幕速攻の一撃ッ!

作戦が決まり、脚に力を溜め低い姿勢で構える。

 

「はっじめーっ!!」

 

銀奈の合図とともに結界内には轟音が鳴り響く。

蓮は溜めた力を一気に開放し地面を蹴り加速し、凄まじい速度で八千穂めがけて迫る。急に眼前まで迫る蓮に反応出来ず八千穂は蓮の蹴りをもろに喰らった。

 

それを見て出雲天花は静かに微笑み、若狭サハラは驚いた表情を見せ、備前銀奈は目を輝かせる。

 

(いきなり……何してくれるんじゃあ!!)

(行けるッ!このまま反撃はさせないッ!)

 

後方に吹き飛ばされる八千穂にさらに追撃を加えようと蓮は走る。しかし、八千穂はその前に自身のルーティンであるポーズをとり、能力を発動させた。

 

「───《東の辰刻(ゴールデンアワー)》───」

 

 

 

 

────5秒戻る

 

 

 

 

そう言ってツインテールは片手銃を手に取る。

おそらく醜鬼用に改造された銃だ。あれがメインウエポンって事は少なくとも僕みたいな『身体強化』では無いな。弾道を操る能力?それとも能力と銃は関係ないのか?なんにせよ近づかれたくないのは分かった。ならば……

 

「それでは……」

 

距離を取るのは愚策になる可能性が高い。

狙うは……開幕速攻の一撃ッ!

作戦が決まり、脚に力を溜め低い姿勢で構える。

 

「…………ふぅー

「…………ん??」

 

敵を見据える蓮は八千穂の僅かな違和感を見逃さなかった。

 

疲労してる……??何か能力を発動したのか?いや、そんな感じはしない。そもそもこの人は試合開始前にこっそりと能力発動して勝つなんて手を使う人じゃないと思う。じゃあ何だ?

……ま、やってみれば分かるか。

 

「はっじめーっ!!」

 

銀奈の合図とともに結界内には轟音が鳴り響く。

蓮は溜めた力を一気に開放し地面を蹴り加速し、凄まじい速度で八千穂めがけて迫る。

しかし、八千穂は()()()()()()()()()()()()()()()()()()。攻撃を躱され無防備になった蓮の脇腹めがけて銃を発射する。

 

「───ガッ!?!」

 

銃弾を喰らった蓮は痛みで顔を歪め、すぐさま距離を取り離脱する。

 

「痛った……ッ!」

 

蓮は銃弾を受けた箇所を手で押さえながら歯を食いしばる。息を整え終えると、ドヤ顔を浮かべる八千穂を睨み付けた。

 

「ツインテール、何かしたでしょ?」

「フッ……何のことかのう?」

 

しらばっくれて。絶対何かしたぞ。今、完全に僕が攻撃するのが分かっていた様な避け方だった。避けるだけならまだしも、反撃までするのはおかしい。動きからみてやはりあのツインテールの能力は身体能力とは関係ない能力だ。そんな人間が今のを躱して反撃できるわけがない。

 

「悪い事は言わん。降参せい」

「バカ言わないで、まだ負けてないし。そっちこそ僕を秒殺するんじゃなかったの?」

「…………フッ」

 

情報が足りない。能力を見極めないと話にもならないな。

ならば──とにかく攻める!

 

「行くぞ……ッ」

 

距離を詰めようと蓮は八千穂に突撃する。近づかせまいと言わんばかりに八千穂は銃弾の雨を降らす。蓮は無数の銃弾を持ち前の身体能力で回避し、間合いを埋める。

 

(普通の銃弾であればギリギリ躱せるッ!このまま距離を詰めてッ!)

 

蓮と八千穂の距離が15m程まで近づく。この距離であれば一瞬にも満たない時間で攻撃できると考え、蓮は地を蹴りさらに加速。銃を構える八千穂の目の前に間合いを一瞬で詰めた蓮が現れる。

蓮は加速の勢いを殺さずに彼女の頭めがけて蹴りを繰り出す。

 

(今度こそ入るッ!!)

 

攻撃が決まることを確信する蓮。しかし、タイミングを読んでいたのか八千穂は蹴りが当たる直前にポーズを構え終えていた

 

(何だ……そのポーズ!?能力発動の条件!?)

 

圧縮された時間の中、蓮は彼女がとった奇妙なポーズを能力に関係した動きであると看破する。能力を発動する前に攻撃しようとするが、時すでに遅し。

 

(──《東の辰刻(ゴールデンアワー)》── 五秒止まれ!)

 

 

────5秒止まる

 

 

眼前まで迫った蓮の蹴りは八千穂が能力を発動した瞬間、音もなく止まった。完全に止まりきった蓮の身体に八千穂は無数の銃弾を浴びせる。

五秒経ち、再び世界は動きだす。

 

「───グゥッ!!?」

 

発射された銃弾の雨を浴び、全身を自身の血で染める。蓮にとってはいつの間にか銃弾が発射され被弾していた。痛みで今にも落ちそうな意識の中、自身に何が起こったのか分析する。

 

 

何が……起こった?僕の蹴りがヒットする直前、ツインテールがなんか変なポーズ取ったと思ったら、いつの間にか銃弾が発射され、いつの間にか被弾してた。銃を撃つところも見えなかった。

高速移動能力?僕の動体視力じゃ追えない程速く銃を撃ったのか?いやそれだとツインテールの動きは見えなくても銃弾の軌道は見えるはず。火薬の音も聞こえるはずだ。さっきも避けれたんだから。

そうじゃないって事は……試してみるか

 

 

「どうじゃ?降参する気になったか?」

あと一回……()()にはあと一回必要だな

「……は??」

 

 

何かブツブツと呟いた後、蓮は再び八千穂へと迫る。それは先程までのと比べるとスピードもキレも落ちた単調な動きだった。八千穂が余裕で能力を発動できる程に。

 

(隙だらけじゃな。痛みで身体が動かぬのか?それとも罠か?)

 

あまりにも差がある動きに罠かと思い引こうとする八千穂。しかし、そんな様子は無い。あまりにも隙だらけの動きに好機と見て、崇高な構えを取る。

 

(──《東の辰刻(ゴールデンアワー)》── 五秒止まれ!)

 

 

────5秒止まる

 

 

技のおこりである妙なポーズをとり、再び八千穂は能力を発動。完全に止まりきった蓮の身体に向けて数発の弾丸を撃ち込む。

五秒経ち、再び世界は動きだす。再び、蓮はいつの間にか発射された銃弾の雨を浴び、全身を自身の血の色に染める。

 

「ハァ……ハァ……」

「………降参せい、犬っころ。お前では私様に勝てぬ」

(……その出血でなぜ立っておられるのじゃ?魔都用に改造された銃弾を何十発も当てた。身体中に穴が開いておるのだぞ?)

 

能力の代償である疲労を隠すために八千穂は口を開く。

 

「なるほど……大体わかった」

「………ん?」

 

蓮の言葉に疑問を抱く八千穂。しかし、それ以上言葉は口にせず蓮は再び構えを取る。目の前の少年のあきらめの悪さに顔を歪め、八千穂も銃を構えた。

蓮は再び脚に力を込め地面を蹴る。今度は馬鹿正直に突っこんでは行かない。八千穂の周りを縦横無尽に動き回りかく乱する。蓮が昨日、醜鬼相手に使った戦法だ。

 

(速いッ!!)

 

先ほどとは段違いのキレとスピード。縦横無尽、デタラメ、無茶苦茶と言ってもいい動き。八千穂は蓮のスピードに目が追い付かず冷や汗を流す。その一瞬の隙を見逃さず背後へと回り、頭めがけて()()()()()()()を繰り出した。

 

「───カハッ!?!」

 

頭に蹴りを喰らい視界が揺らぐ。落ちそうになる意識の中、なんとか能力を発動させる

 

(ゴ……《東の辰刻(ゴールデンアワー)》 五秒戻れ!)

 

 

 

────5秒戻る

 

 

 

目の前の少年のあきらめの悪さに顔を歪め、八千穂も銃を構えた。

蓮は再び脚に力を込め地面を蹴る。今度は馬鹿正直に突っこんでは行かない。八千穂の周りを縦横無尽に動き回りかく乱する。蓮が昨日、醜鬼相手に使った戦法だ。

 

(速いッ……だが、来るタイミングは分かっておる!躱して先程と同じようにカウンターを決めてやろう!)

 

先程と同じように背後からくる蓮の蹴りを躱すべく、八千穂はタイミングを合わせてしゃがみ込んだ。

しかし──

 

 

 

───蓮から繰り出されたのは()()()()()()()であった

 

「───カハッ!?!」

 

ノーガードの左わき腹を蹴られ、八千穂の身体は吹き飛ばされる。

それを見て出雲天花は静かに微笑み、若狭サハラは驚いた表情を見せ、備前銀奈は目を輝かせる。銀奈は単に追い込まれていた蓮の攻撃が入ったことに興奮している。だが出雲天花と若狭サハラは違う。2人はあの少年が八千穂の能力を見抜き、そして破って見せた事に驚いている。

 

「やっと良いの入った!!」

 

咳き込みながら脇腹を抑える八千穂を眺めながら蓮はそう言う。

 

 

 

 

やはり……そういう事か。今ので確信した。突然見せた謎の疲労。妙なポーズ。未来でも見てるんじゃないかと思うほどの見事な攻撃回避。先ほどのいつの間にか攻撃を喰らった事。()()()()()()()()()()甲斐があったな。

 

推し量るに、この人の能力は時間軸への干渉能力──

時間停止(ストップ)()巻き戻し(リセット)だ。能力を発動したであろう場面から逆算してみたけど、おそらく操れるのは5,6秒って所だろう。

怪我どころか味方の死すら無かった事に出来る。使い手の技量次第では無敵に近い力を発揮するだろう。流石に副組長を任されるだけはある。

 

「………カハッ…ゲホッ」

「…………」

 

よしっ……7秒経った。さっきのダメージはもう戻せないだろ。今の攻撃もリセットされるかと思ったけど、痛みで能力発動出来なかったようだ。

 

「能力は分かった!もう攻撃は喰らわないよ」

「フッ……ラッキーパンチで調子に乗るでないわ!」

 

これだけの能力、そう何度も使えるものではないはず。あの疲労した様子を見れば分かる。だからこの能力の弱点は燃費の悪さ。疲労した様子を見せれば『時を戻す』能力を発動させたと考え、今やろうとしている行動を止めればいい。さっきも攻撃に行く直前に疲労した様子を見せたから『右足の上段蹴り』を止めて『左足の回し蹴り』に変更した。だから決めることが出来た。

 

「「はぁ……はぁ……」」

 

すでに十発以上の銃弾を喰らい、今もなお全身から血を流し続ける蓮。結果的に一発しか攻撃は喰らっていないが、蓮の蹴りをまともに喰らい、数回能力を発動した八千穂。お互い、もう限界は近かった。

 

(まずいな……。めっちゃ痛い、めっちゃ苦しい。呼吸すら激痛が走る。今にも倒れそうだ。正直あと一発耐えられるかどうかだな)

 

(結果的にではあるが、一発……たった一発じゃぞ?あいつの攻撃を喰らった数。それがここまで……)

 

 

蓮は冷静に自分の現状を把握する。少しずつ薄れていく意識の中、蓮は実力差が明白であった事を再び認識し、それを素直に受け止める。

 

自分が与えたのは結果的に一発。それに対して自身が与えられたのは何十発の弾丸。それに彼女の弾丸は的確に急所を外してる。おそらく出雲組長の指示だろう。頭を狙われていたら本当に秒殺で終わっていたかもしれない。

 

八千穂は蓮の蹴りの威力に驚愕する。

雑、適当、素人の見様見真似。そんな粗相極まりないといった蹴りでありながら、あの威力。もしこの男が戦闘訓練を積み、技術を身につけ、洗練された動きから蹴りを放てば一体どれほどの威力になるのだろうか。

 

 

「これで……最後だ」

「ああ、分かっておる」

 

 

次の一撃が最後だ。それ以上はもう戦えないだろう。これで決められなきゃ……僕の負けだッ!

覚悟を決め、蓮は再び構えを取る。しかし、それは今までの構えとは似て非なるものだった。明らかに先ほどよりも隙は少なく、次の動作にも移りやすい構え。

 

(構えを変えた?もしや……この戦闘中に適切な構えを見つけおったのか?)

 

蓮の成長速度に驚く八千穂。そんなことお構いなしと言わんばかりに蓮は大地を蹴り加速する。

 

「行くぞ……ッ!」

 

先程よりも圧倒的に速く、圧倒的に鋭く、蓮は縦横無尽に動き回る。振り絞った力に身を任せ、地面を砕きながら駆け回る。常人であれば痛みで碌に動けない程の傷を負いながら、突然上がったスピードに八千穂は驚愕する。

 

(速いッ!先程とは桁違いじゃ!)

 

八千穂の目にはまるで蓮が分身したかのように映る。それほどのスピード。

 

(しかし……時を止めれば関係あるまい!!)

 

たとえどんなに速くとも、どんなに攻撃力があろうとも、時を止めればそれは無に等しくなる。

 

八千穂は能力発動の為、崇高な構えを取ろうとする。この距離は自分の射程範囲。時を止めた瞬間、何処に居ようと攻撃できる。蓮のスピードでも()()()()()()()()()()()()()()

そう確信し、能力を発動しようとした───

 

───瞬間、蓮は動きを止め、昨日不発に終わった()()()()()()()()()

 

(待ってたぞッ!そのポーズ()をな……ッ!!)

 

東八千穂の能力はノータイムでは使えない。だから『技のおこり』であるポーズを始めたら逃げるか潰すか選ぶ。今の間合いだと『逃げる』の選択が正しい場面。しかしそれは、()()()()()()()()()()()()であればの話だ。確信があった。昨日不発に終わった()()()であれば、この距離でも一瞬で間合いを詰めて攻撃できると。

 

「行くぞ……ッ!!」

 

体内を巡るエネルギーを脚に溜める。その力を一息に爆発させて地面を蹴り、技を繰り出した。

しかし───

 

 

 

 

 

 

 

(…………あれ?()()()()()?)

 

 

 

 

 

 

 

───技はまたもや()()()()()()。いや、正確に言えば()()()()()()()

 

自身が繰り出した技が、想像していたモノとは程遠いモノであったことに困惑する。

昨日はもっと凄い技を繰り出せる感じだった。昨日はもっと脚が爆発しそうなほどに力を溜めれていた。

それなのに、何故……??

 

 

何故スピードが出ない?何故こんなにも遅い?八千穂へと迫る最中、2秒にも満たないごくわずかな間。圧縮された時間の中で困惑し思考を巡らせる蓮。

しかし、答えは案外シンプルなものであった。

 

巨大醜鬼に繰り出そうとしたあの技は……今の蓮には()()()()()()であっただけ。

 

確かに、昨日は醜鬼による邪魔が入らなければ、技を成功させ勝っていたのは蓮の方だっただろう。しかし、あの時のモノは───

 

『やらねば死ぬという状況』

『命がかかってる瀬戸際』

 

──そんな状況が生み出した"奇跡"であった。火事場の馬鹿力とも言う。だが今回、その奇跡は微笑まなかった。

 

つまり、今回技が失敗した原因は……

昨日の様に他者による"妨害"ではなく"蓮自身"にあった。

 

 

「《東の辰刻(ゴールデンアワー)》 五秒止まれ!」

 

 

────5秒止まる

 

不発に終わった技の最中。そんな隙を見逃す東八千穂ではない。邪魔されなく時を止め、蓮の身体めがけて銃弾を発射。今回は今までと違って一発だけ。その()()()()()()()だと、八千穂は判断した

 

 

 

五秒後、世界は再び動き出す。

その世界で立っているものは一人だけだった。一人は血に染まりながら地に伏して、もう一人は冷や汗を流しながら倒れている相手を見下ろしている。

 

 

 

「審判。試合終了の合図を……」

「は、はい!しょ、勝者!──東八千穂!!」

 

 

 

 


 

 

 

 

「うえぇ~~ん!ししょ~~!死なないで~!」

 

気がつくと、僕は泣きわめく銀奈ちゃんの腕に抱きしめられていた。すぐそばで出雲組長と若狭さんが心配そうな表情でこちらを見つめて、離れた場所でツインテールがそっぽ向いている。少しずつ頭が覚醒していき、今の状況を理解していく。

 

ああ、そっか……負けたのか。

 

試合が終わり、傷ついた身体を銀奈ちゃんに治してもらったようだ。傷だらけの僕を見て銀奈ちゃんは子供みたいに泣きじゃくって僕に抱き着いている。君の結界の中だとどんな傷でも治るんだから死なないよ。それ分かってるはずなのに、よっぽど僕の傷ついた姿が痛々しかったのだろう。

 

発情は……してないな。

自身の右手を閉じたり開いたりして確かめる。まぁ、結構短い戦闘だったしね。

そんな事を考えながらコアラみたいに抱き着いている銀奈ちゃんの頭に右手を持っていった。

 

「はいはい。よしよし」

 

泣きじゃくってる彼女の頭を撫でて慰める。それはそうと鼻水つけないで欲しい。あと、どさくさに紛れて尻尾と獣耳触んな。ってか本当にすごいなこの能力。即入院レベルの傷だったのに……あっという間に治っていく。

 

「蓮くん、大丈夫~?」

「………はい。あの、僕どれぐらい気絶してました?」

「ほんの数分だよ」

 

僕の疑問に出雲組長が答えてくれた。結構長い間気絶してたんだな。短いと思うかもしれないけどこれは結構長い方だと思う。傷……というよりも、痛みの方が原因だな。痛みにも慣れないと。

 

「すいません。それじゃ次若狭さんと──ッ!?」

 

立ち上がろうとすると足に力が入らずよろけてしまう。そばにいた若狭さんが支えてくれたから倒れることは無かったけど。

 

「あ……あれ?」

「無理しなくていいよ。傷は治っても体力まではすぐには戻らない筈だから。今日はここまでで、サハラとの模擬戦はまた明日にしよう」

「………はい」

 

……情けない。たった一回、それも10分に満たない戦闘でばてるなんて。改めて己の弱さを実感し歯を食いしばる。

 

すると突然、結界外から大量の醜鬼がこちらに迫ってきた。

 

「──ッ!? 醜鬼か!」

安心してください師匠!私の結界は鉄壁です!こー見えて身持ちは固いので!」

 

いや、絶対ソレ関係ないでしょ?ってか身持ち固いって言うんなら抱き着かないでよ。

 

「八千穂、サハラ」

「は~い」

「分かっておる」

 

迫りくる醜鬼の群れを目の当たりにしても彼女達は余裕の表情を崩さない。余裕、いや絶対的な自信からくるものだろう。にも拘わらず傲りや油断は微塵も感じない。

 

「やっち、大丈夫~?なんなら蓮くんと一緒に休んでたほうがいいと思う」

「余計なお世話じゃ」

「数は多いけど、普通の醜鬼だけだね。瞬殺で行こう」

「えっ?あの……天サマ?私の結界があるので戦わなくても……」

 

銀奈ちゃんの結界は強固なだけじゃなく、大抵の醜鬼は触れただけで死ぬ。それなのに戦おうとする事に疑問を感じる銀奈ちゃん。しかし、出雲組長は彼女の質問に答えず僕を真っすぐ見つめてくる

 

「ペットくん……」

「は、はい」

「よく見ておいてね───六番組の力を」

 

それだけ言うと、3人は結界の外に出て醜鬼の群れへと向かっていった。

 

 

 

 


 

 

 

 

模擬戦から数時間。時は進んで今は夜。

蓮は六番組の屋根に上り、座り込んで空に輝く二つの月を眺めていた。静まり返った夜の魔都で蓮は先程あった六番組の戦闘を思い出す。

 

 

「…………はぁ~」

 

思い出すだけで思わずため息が出る。

 

『圧倒的』それ以外に言葉が出てこない。あの3人の手によって醜鬼の群れが一瞬で滅された。昨日僕が戦った醜鬼の群れよりは少なかったけど、それでも気が付いたら醜鬼共は殺されてた。

戦闘技術とかそれ以上に、銀奈ちゃんが戦闘中に大興奮で実況した3人の能力がヤバすぎる。

 

 

 

東八千穂の能力───"東の辰刻(ゴールデンアワー)"

時間を操作する能力。崇高な構えというポーズをとることで、()()()()()()()()()()()()()ができる。強力である分体力の消費が激しく、使用の際にはポーズを取らなければならないのでノータイムでは使えないなどの弱点が存在する。

 

 

若狭サハラの能力───"怒れる羊(クレイジーシープ)"

あらかじめ定めた分数の間だけ自身の力を強化する能力。最少が1分間で最大が60分間。短く設定すればするほど強くなれるが再使用には3分間のインターバルが必要。

 

 

 

 

あのツインテールに関しては自分が分析した通りの能力だったから驚かなかったけど。でも、改めて考えるとヤッベーな。若狭さんはプロレス技で醜鬼を投げたり千切ったりで、性格に似合わない戦闘スタイルで正直驚いたわ。

 

 

 

 

……それで、一番ヤバかったのが出雲組長だ。

 

 

 

出雲天花の能力───"天御鳥命(アメノミトリ)"

空間を操作する能力。

別の場所にテレポートしたり、空間そのものを捩じり裂くことで相手の防御力を無視して攻撃できる。攻撃する場合の効果範囲はピンポイントのものから一撃で醜鬼の大軍を殲滅できるほどまで幅広い。テレポートは視認できない場所にも移動できる。天花以外の人物をテレポートするには天花自身が対象に触れて一緒にテレポートしなければならない。

 

 

 

「………チートじゃん。主人公(かっこよ)すぎだろ」

 

ようやく合点がいったよ。昨日の巨大醜鬼も空間ごと裂いたって事ね。今日の醜鬼の群れも、大部分はあの人が殲滅したし。

恋姉と海桐花さん、新旧の総組長を除いたら、僕が今まで会った能力者の中で間違いなく"最強"だな

 

「分かってた。分かってたけどさ……」

「何が分かってたの?」

「…………出雲組長!?」

 

空を見上げて月を眺めていたらいつの間にか出雲組長が隣に座っていた。やばい、声かけられるまで気づかないとか緩みすぎだろ僕。

 

「…………なんか用ですか?」

「八千穂に負けて落ち込んでるかと思ってね。だから、お姉さんが慰めようかな~って」

「………別に、落ち込んでません。言ったじゃないですか、今の僕じゃ勝てる確率が低い事は分かってたって」

 

……っていうか、なんなら貴女との実力差の方にショック受けたわ。いや、自分の力を過信してる訳じゃ無いから実力差があったのは分かってたよ?でも遠すぎるだろ、この人との距離。

 

まぁでも、落ち込んでる暇なんてないけどな。

 

「あの……ちょっといいですか?」

「ん?」

「今日の模擬戦、悪かった所全部教えてください。戦いの流れはさっきツインテールから聞きました。貴女も聞いてますよね?」

 

「──!! フフッ、良いよ」

(本当はソレを伝えに来たんだけど、まさかそっちから言われるとは思わなかったなぁ)

 

実はここに来る前、東八千穂にも模擬戦の総括を伝えていた。誰しも負けた後にダメ出しを喰らうのはキツイのだが。天花は彼の自分の弱さを素直に認める姿勢に舌を巻いた。

 

「まず何よりも経験不足。ペース配分とか身体の動かし方とかがまだまだ甘いね。まぁ、これはやる前から分かってたことだね。蹴り技も未熟、自分の能力に頼り過ぎてる節がある。八千穂の能力を見極めたのは偉かったけど、わざと攻撃を喰らうってやり方は危なすぎ。あと最後の一撃、まだ()()()()()を決め技にしたのは見通しが甘かったね」

 

「…………」

 

うん……ダメ出しが多くて結構キチィな。自分から言った事だけど。一言一言がめっちゃ心にグサグサ刺さる

 

「それと………」

 

まだあるんですか!?僕のライフはとっくにゼロよ?

 

「初めての対人戦で魔防隊副組長に善戦。よく頑張ったね」

「えっ? あ……ありがとう、ございます」

 

まさか褒められるとは思わなかったので、若干気恥ずかしさを感じながらお礼を言う。こんな時なんて言えばいいんだろう??

 

「え~っと……明日からもよろしくお願いします」

「うん、こちらこそ。それはそうと、ペットくんはここで何やってたんだい?見た感じ本当に落ち込んでなさそうだけど」

「……能力の特訓です」

「特訓?」

「はい、五感を鍛えてるんです。今は"視覚"です。目に力を集中させて望遠鏡みたいな事が出来れば役に立つかな~っと思って」

 

黒狼(コクロウ)》の能力は『身体能力強化』

聴覚や視覚、嗅覚といった五感も底上げされる。だけど、鍛えれば多分もっと伸びると思う。今までは必要がなかったからそんな事してなかったけど、これからは体力と一緒に五感も鍛えて行かないと。

それに……さっき失敗した技を完成させるのにもこの特訓は役に立つかもしれない。

 

「聴覚はコウモリとかシロイルカみたいにエコーロケーション。嗅覚は醜鬼が生まれるタイミングだけじゃなくて元々出現してる奴も感じ取れるぐらいにはしたいです。今んとこの目標は半径200m。その範囲を目、獣耳、鼻を使って完璧に掌握出来るようになりたいですね」

「……君は偉いね」

「……そうですか?」

「うん、突然魔防隊に入隊する事になったのに、それをすぐ受け止めて自分のやるべきことをしっかりやろうとしてる。誰にでも出来ることじゃないよ」

「別に……そんな大したことじゃありません」

 

 

そっぽ向いてそう言う蓮の顔を隣にいる天花はまじまじと見つめる。今もなお己を高めようと感覚を研ぎ澄ませ、修練に勤しむ彼の姿を見て称賛すると同時に、少しばかり憐れみに近い感情を抱く。

 

(数時間前に、訓練とは言え銃弾を何十発も受けて身体に穴を開けた。普通なら、痛みを恐れてもう戦えなくなってもおかしくない。今まで戦いとは無縁の中で生きていた子のはずなのに、もうその痛みを忘れて研鑽している)

 

今の蓮から感じるのは"執念"。もしくは強くなるという"覚悟"。だがその根底あるのは『負けたくない』とか『死にたくない』とかでは無い。

 

 

"努力"も"覚悟"も全ては姉への献身。

 

 

ただ姉に言われたから、ただ姉の役に立ちたいという気持ち。この少年は姉が自身の死を望めば喜んで捧げるかもしれない。そんな危うさを天花は感じていた。

 

(君はまさしく……飼犬(ペット)なんだねぇ)

 

それと同時に、狂気に近い忠誠心を感じ取った。

 

「ねぇ……ペットくん」

「…………何ですか?」

「もう少しだけ、ここに居てもいいかな?」

「見ててもつまらないと思いますよ?それでもいいなら、どうぞご自由に」

 

蓮から許しを得て、天花も静かに空を見上げ自分達を照らす月を見上げる。

それと同時に、ほんの少し。ほんの少しだけ座る位置をスライドさせ、隣に座る少年に身体を寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな2人を遥か彼方から観察する二つの影があった

 

 

 

「う~~ん、やっぱり普通の醜鬼の群れをぶつけても相手にもならなかったね」

「………無駄足だったか?」

「いや、収穫はあったよ。()()()の戦いも見れたし、組長の強さも分かった。まぁ一割ぐらいの力だと思うけど」

「………そうか。それで、どうするつもりだ?予定通りあの人間を攫うのか?見たところ大した使い手ではない。一人の所を狙えば容易いだろう」

「いや、今はやめておこう。僕達はまだ"八柱"揃っていないからね。それまでは影で動く。()()()()()()()()()()()()()

「そうか。ではそろそろ戻るぞ《紫黒(しこく)》。あまり遅いと《雷煉(らいれん)》に小言を言われる」

「うん、《壌竜(じょうりゅう)》。近いうちに会おう───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────山城蓮」

 

 

 

 





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次回『七番組組長 羽前京香』
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