魔都精兵のペット 〜山城恋の弟くん〜   作:ハトル

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七番組組長 羽前京香

 

 

「ハァ……ハァ……」

「ん?もう終わりかな?」

「まだまだ……ハァ…もう一本、お願いします!」

 

時が経つのは早いもので、あの模擬戦からもう一週間が経った。

今は出雲組長との訓練中。この一週間はとにかく実践訓練ばかり行っている。主な内容は“蹴り技”の練度を上げること。幸運な事に出雲組長は能力だけで戦うタイプではなく、武術の心得があった。

 

彼女の戦闘スタイルは能力を駆使した徒手空拳。主に蹴りをよく使うらしい。

だから、とにかく蹴りを教わり、とにかく戦い続けている。

 

 

 

だけど……結局、()()()は完成には至っていない。

 

 

 

「うん、いったん休憩挟もうか。お疲れ様」

「ハァ……ハァ……お、お疲れ様です。ありがとうございました」

 

出雲組長、息一つ乱れてない。能力ぶっぱするだけでも十分強力なのに、武術まで極めてるとか滅茶苦茶だろ。隙なさすぎ。敵にしたら悪夢みたいな能力者だけど、味方となったらこれ程頼りになる人はそうそう居ない。

 

「ハァ……ハァ……。今日もダメだったか」

「あの必殺技の事?あれでまだ完成じゃないんだね?十分通用すると思うけど」

「………いや、あんなモノじゃないと思うんです。その証拠に出雲組長には簡単に避けられますし。避けられるのはまだしも、隙ぐらい作れなきゃ話にもなりません」

 

この一週間、醜鬼相手に何度もチャレンジしてみたけど、結局満足いくモノは一度も出せなかった。

そりゃ、相手はただの醜鬼だったし倒せたけど。

 

 

『素早く踏み込んで素早く蹴る』

 

 

結局は()()()()()必殺技とは呼べない。

 

あの時は、もっと脚に力が集約されていた。あの時は、もっと速く加速出来るような気がする。

まぁ、巨大醜鬼の時も邪魔されて発動出来なかったから、気がするってだけなんだけど。

 

「確か、技の名前は《───》だったよね?」

「は、はい。あの……やっぱダサいですかね?」

「フフッ、そんなことないよ。ペットくんらしい感じがして私は好きだなぁ」

 

巨大醜鬼の時に咄嗟に思いついた技名だけど、あの時はアドレナリンが爆発して若干ハイになってたからな。出雲組長はこう言ってくれてるけどやっぱ変えたほうがいいかな?

ま、それは何でもいいや。

 

「それより……なんかアドバイスとかないんですか?戦闘に関して」

「う~ん……アドバイスねぇ。常に冷静を保つこと、かな」

「冷静……ですか」

「あと──自分の想像する一歩先のイメージを持つこと」

「一歩先のイメージ??」

「うん。必殺技を完成させたいなら、今君が想像している技の一歩先のイメージをした方がいいよ。そうすれば完成させた時、自身が想像する以上に強くなれる」

 

 

常に冷静さを保つこと。そして………

“自分の想像する一歩先のイメージ”……か。

言ってることは分かるが、今イメージしてる技も出来ないのにさらにハードル上げるってことだよね?そんなんで完成できるのか?

 

 

「ヤッホ~♪連く~ん」

「あ、若狭さん」

「おい、犬っころ」

「……げっ」

 

出雲組長から渡されたペットボトルの水をガブ飲みしていると、寮の方から若狭さんとツインテールがやって来た。

 

「今、私様を見て『げっ』と言ったな?まぁよい、それよりそろそろ食事の時間じゃ。(はよ)う作れ」

「はいはい、分かりましたよ」

「蓮くん、調子はどう?あの必殺技できた~??」

「いえ、まだまだです。若狭さんもまた訓練の相手お願いします」

「オッケ~♪」

 

若狭さんともよく訓練している。この人も近距離の肉弾戦タイプだから学ぶことは多い。この一週間で5回挑んでみたけど結果は全敗。

ちなみに若狭さんが設定した分数は全戦『5』だった。つまり、若狭さんの強さにはあと4段階上があるということ。ほんと、強い人ばっかりだわ。

 

 

 

 


 

 

 

 

「あ、ペットくん。後で応接室にコーヒー二つ淹れて持ってきてくれる?」

 

パトロールを終え、今日の魔防隊員としての仕事が完了して寮に戻って来た時、出雲組長に突然そう言われ僕は首を傾げる。

 

「?? 別にいいですけど……誰かお客さんでも来るんですか?」

 

少なくとも僕は今日お客さんが来るなんて聞いてない。晩御飯の用意とかに支障が出るから先に言っといて欲しい。なんか母親みたいな悩みだな。

 

「フフッ、大丈夫だよ。ご飯とかは用意しなくて。ちょっとした報告会みたいなものだよ」

「……ナチュラルに心読まないでくださいよ。それで、実際誰が来るんですか?」

「そろそろ来ると思うんだけど───」

 

『天花、入るぞ』

 

「───!!?」 

「ほらっ、噂をすれば。入っていいよ、()()()

 

突然、寮の外から聞こえた声。それは僕にとっても聞き覚えのあるものだった。ガラガラと乾いた音を立てながら扉が開く。そこにいたのは刀を腰にかけ、綺麗な銀色の髪をなびかせる凛々しい女性が立っていた。

 

「京香さん!!」

「久しぶりだな……蓮」

 

彼女の名前は羽前京香(うぜんきょうか)さん。魔防隊七番組の組長だ。誰よりも醜鬼を絶滅させることに力を入れ、誰よりも組長を束ねる総組長になるという意思が強い人。

昔、ちょっとした縁で交流を持って、それから何度か会う機会があった僕の数少ない友人だ。

噂で聞いたけど『鬼の組長』って呼ばれてるらしい。でも、あんまり僕はしっくりこないんだよなぁ~その呼び名。京香さん優しいのに。

 

 

「お久しぶりです!なんで六番組(ここ)に?」

「天花に少し報告したいことがあってな。それに、お前の顔を久しぶりに見ようと思ってな」

「そ、そうですか……」

「天花から聞いている、頑張ってるようだな、蓮」

「あ、ありがとうございます……」

 

柔らかい笑みを浮かべながら京香さんは僕の頭を撫でくれた。彼女の言葉と撫でる手の心地良さに思わず顔が緩む。

子供扱いはちょっと嫌だけど、まぁ……今はいっか!

 

 

 

他者が見れば砂糖吐きそうなほど甘い雰囲気を漂わせる2人。そんな2人を傍で見ていた六番組の面子は目を見開き啞然とする。

 

「ねぇ、やっち?あれホントに蓮くんなの~??」

「…………知らぬ」

「あはは……私達と全然態度違うね」

 

撫でられて気持ちよさそうに顔を緩ませ、ぶんぶんと尻尾を振っている蓮はまさに犬。天花達は自分たちが知っている普段の蓮とはあまりにも違う態度に驚く。この一週間で八千穂はともかく、天花とサハラはそれなりに蓮と仲良くなった。しかし、まだどこか他人行儀な部分があり、信用はしてるけど信頼はされてない。そういう感じだった。

 

普段、蓮は他者から触られる事を嫌っている。

 

特に───獣耳と尻尾。

 

一度、天花が触ろうとした時は『勝手に触んな』とでも言いたげに顔を歪ませギリッと睨まれた。しかし今、京香は頭を撫でている。つまり、多少なりとも獣耳に触れているのだ。そして蓮はそれを受け入れてる。それだけで、京香と自分達との信頼の差が分かる。

 

「では、天花。伝えた通り少し報告することがある」

「うん、いいよ。ペットくん、さっき言った通りコーヒーお願い」

「……はい」

 

 

 


 

 

 

 

「失礼します」

 

出雲組長に言われた通り、2人分のコーヒーを淹れて応接室までやって来た。ノックしたら中から入って良いよと言う声が聞こえたので中に入る。

 

「すいません、お待たせしました……どうぞ」

「ありがとう」

「わざわざすまない、蓮」

「いえ……では、失礼します」

 

組長同士の話し合いを場違いの人間が邪魔してはいけないと思い、僕はコーヒーを置いて出て行こうとした。しかし、それを出雲組長が声を掛けて呼び止めてくる。

 

「せっかくだからペットくんも居ていいよ」

「えっ? で、でも……お邪魔では?」

「お前がコーヒーを持ってくるまでに報告しておきたい事はあらかた伝え終えている。遠慮することはない」

 

えっ?速すぎじゃないですか?僕がコーヒー淹れて持ってくるまで10分ぐらいだったはずなのに。

こんな事考えるのもなんだけど、大したことじゃなかったのか?

 

「そ、そうですか? では……」

 

お言葉に甘えて僕は京香さんの隣に腰を下ろす。

最初は立ったまま話を聞こうと思ったけど、2人の性格上、立ったままだと『座っていいよ』『遠慮するな』とか言われるのは目に見えてるので遠慮なく座る。

 

 

(へぇ~……そっちに座るんだ?)

 

自分のソファーではなく迷わず京香の隣を選んだ蓮を見て、天花は少しモヤっとする。まるで、可愛がってる小動物が他の人に懐いて取られたかのような。そんな気持ちだった。

 

「それで……蓮の訓練の調子はどうなんだ?天花」

「うん、順調だよ。訓練も頑張ってるし、魔防隊の仕事もちゃんとこなしてくれてる。覚えがいいのか私もビックリなくらい成長が早いよ」

「そうか……。確か、天花が蹴り技を教えてるんだったな?モノにできそうなのか?」

「うん。何か一つ教えたら十個覚えてくるみたいな感じの子だから、すぐに覚えられると思うよ。才能(センス)もあるしね。流石あの人の弟くんだよ」

 

 

……なんか、学校の三者面談みたいだな。

 

京香さん(お母さん)(息子)出雲組長(担任の先生)って感じで、我が子の六番組(学校)での様子を聞いてるみたいな。

ヤバい、なんか恥ずかしくなってきた。褒められるのは嬉しいけど、めっちゃ居たたまれない。やっぱ出て行っていいかな?

 

「確か前に六番組の副組長、八千穂と模擬戦して善戦したそうだな。流石だ」

「えっ?あ、はい!でも手加減してもらってましたし、結局負けちゃいましたからね。善戦出来たのも運が良かっただけですよ……」

 

急に話を振られて驚き、少し慌てた様子を見せながら応える。やっべ~、何か口ごもって気持ち悪い喋り方になった。

 

「フッ……相変わらず自己評価が低いな。まるでベルのようだぞ。もう少し自信を持て」

「京香さん……恋姉と同じこと言わないでください。あとベルさんが可哀想なんでマジ止めてあげて」

 

総組長と組長から遠回しに“自信の無い人間”扱いされて……ベルさん可哀想。いやまぁ、間違っちゃいないけどね。今度会った時それとなく慰めてあげよう。

 

「…………」

「ん?どうした天花?」

「いや、本当に京ちんはペットくんと仲が良いんだなぁ~っと思ってね」

「天花は蓮と上手くいってないのか?」

「う~ん、上手くいってないわけじゃないと思うけど、なんか他人行儀って感じかな。ねぇ、ペットくん」

「いや、僕に『ねぇ』と言われましても困りますよ」

 

そんな事ない……って言いたいけど、まぁ事実だし仕方ないか。そりゃ、恋姉とか京香さんとかと比べると六番組の人達とは距離があるだろう。でも、自分からそんな距離を取ろうなんて考えは一切無い。

でも、出雲組長がそう感じるって事は……まぁ、そういう事なんだろう。

 

「安心しろ天花。私も最初はそんな感じだった。因みに蓮が私に向けた開口一番の言葉は『消えろ』だったぞ」

「ちょっ!?!きょ、京香さん!それは内緒だって言ったじゃないですか!!」

「ん?事実だろう?」

「そ、そりゃ……そうですけど。でもあの時の僕は、その、何ていうか……荒れてたんですよ!!」

 

京香さんが今言った事は事実だ。確かに僕は京香さんと会った時、一発目に『消えろ』って言った。

うわぁ~~、今考えるとヤバいな昔の僕。初対面の人、しかも年上の人にいきなり消えろとか。

マジ終わってんな。

 

言い訳だけさせてもらうと、あの時は陰陽寮で()()()があった直後だったんだよな。

何があったかは言わないでおくけど……

 

そのせいで陰陽寮の人間や魔防隊の人。恋姉以外の人間が全員敵に見えていたんだ。

 

だから……正直、めっちゃ人間不信になってた。

 

「あぁ、確か私も最初は手を叩かれて『触んな』って言われちゃったなぁ~」

「蓮……お前……」

 

「捏造捏造捏造!言ってませんから。だからそんな目で見ないで京香さん。違いますから、出雲組長がいきなり僕の頬に手を当ててきたから、それをどけただけです。それに『触らないでください』ってちゃんと敬語使いましたし!」

 

「それは天花が悪いな。初対面の人間に何をやってるんだお前は……?」

「フフッ、軽いスキンシップのつもりだったんだけどね」

 

よかった……分かってくれた。あの時の事はちゃんと謝ったし僕悪くない。ってかいきなり触れてくる出雲組長が100%悪いでしょ?

うん、やっぱり……ボク、ワルクナイ。

 

「それよか、さっきからその『京ちん』って何ですか?もしかして京香さんのあだ名ですか?」

「うん、そうだよ」

「よ、よく京香さん認めましたね?なんかすっげ~嫌がりそうなのに」

「何度言っても直さないからもう諦めてるだけだ」

 

ああ……なるへそ。もう……悟っていらっしゃると。

 

「ペットくんもせっかくだから京ちんの事、あだ名で呼んでみたらどうかな?」

「えっ?ぼ、僕が京香さんを?」

「うん、さっき京ちんがペットくんとは対等な存在で居たいから敬語も敬称も不要って言ってたよ。ねぇ、京ちん」

「ああ、前にも言ったが別に敬語は要らないぞ?」

 

えぇ~~、あだ名はともかく敬語は外せないでしょ?年齢的にも立場的にも。魔防隊で京香さんは組長、僕は入隊したてで下っ端の平隊員だ。

そんな人間が『おはよう京ちん♪』とかぬかしたら

 

…………

…………

 

うわぁ~ダメダメダメダメ。考えただけで吐きそう。

 

「え~っと、あだ名はともかく敬語はちょっと……」

「じゃあ、あだ名で呼んでみようよ。なんて呼ぶ?」

「フッ……そうだな。お前であれば許す。好きなように呼んでみろ」

 

ちょっと……この2人絶対揶揄ってるだろ?なんかニヤニヤしてるし。まぁいいや、さっさとあだ名考えて出て行こう。

若干のめんどくささと諦めの気持ちを抱きながら、僕は思考を巡らせ京香さんのあだ名を考える。

やっぱりあだ名なんだから出雲組長の『京ちん』みたいに名前からもじったほうが良いよな?

 

 

 

 

羽前京香さん……羽前……京香さん……京……きょ……

 

 

 

 

「きょ……『きょんきょん』……とか?」

 

僕が精一杯振り絞って出したあだ名を口にした瞬間、部屋の中にピシッという音が鳴り響き(※そんな気がした)空気が凍った。

そして数秒後、出雲組長はプルプルと肩を揺らしながら笑いを堪え、京香さんはトマトのように顔を真っ赤に変化させた。

 

え……?? そんなにダメだった??

 

「れ……蓮。きょ、きょんきょんは……やめろ」

「えぇ~~、好きに呼べって言ったじゃないですか~?」

「んフッ……そ、そうだよ京ちん、じゃなくてきょんきょん。プフッ……せっかくだから呼んでもらえば?フフッ」

「天花……お前、覚えてろよ」

 

笑いすぎでしょ出雲組長。結構真面目に考えたんだけど、そんなに面白い事言ったか??

 

 

 

 

 

それから、近況報告やお互いの組で起こった事など。他愛もない雑談を交えてその場はお開きとなった。

ちなみに、呼び名はこれまでと同じように『京香さん』で行くことになりました。

京香さんから───

 

『すまない。私が悪かった。土下座でもなんでもするから、きょんきょんは止めてくれ』

 

───って真顔で肩を掴まれながら言われたから止めた。良いあだ名だと思ったんだけど……

どうやら僕にはネーミングセンスが無いらしい。やっぱ必殺技の名前変えたほうがいいかな?

 

敬語の件は僕が対等な立場になったらその時に、ということで話は決着した。

まだ全然先の事だろうけど……そうなれるように頑張ろう。

 

 

そして、今は寮に戻ろうとする京香さんを見送ろうと、出雲組長と一緒に寮の前にいる。

 

「……そうだ蓮。少し時間があるから、私が稽古をつけてやろう」

「えっ?良いんですか? あっ!……あの、すいません。実はもう今日はちょっと訓練とか醜鬼相手に能力を使いすぎて……」

「……例の“発情”か?」

「はい……。多分これ以上使うと……ヤバいと思います」

 

“発情”に関して、僕はよくわかっていない。いや、それを言うなら能力自体よく分かってないけど。

どれくらいで発情するかとかも曖昧だしな。

 

「そうか。なら、私が醜鬼を殲滅する所を見学するといい。何も戦闘だけが稽古とは言わん。“観察”も修行の一環だ」

「──ッ!! はい!それなら、お願いします」

 

(それに……お前なら()()()()()ナニかを得られるだろう)

 

「出雲組長、行っていいですか?」

「うん、もちろん。行っておいで。京ちん……ちゃんと返してね?借りパクしちゃダメだよ?」

「するか、そんなこと」

 

いや、借りパクて言い方よ。そもそも僕は出雲組長のモノじゃないし。恋姉のモノだし~。

そんな事を考えていると、京香さんが鎖で繋がれた一匹の醜鬼を連れてきた。

おそらく京香さんの能力で“奴隷”にしたものだろう。

ああ、成程ね。車も無いからどうやってここまで来たのかと思ったら、醜鬼(アレ)に乗って来たのか。

 

 

羽前京香の能力───"無窮の鎖(スレイブ)"

奴隷にした生命体の力を引き出して使役する能力。

一度奴隷にされた生命体は基本的に死ぬまで京香の奴隷の状態になる。能力の代償として奴隷になった者が潜在的に欲している『褒美』を与えないといけない。

 

 

………本っ当、よく似てるよ。

僕の"鳳雛の首輪(ペット)"と。

 

───奴隷(スレイブ)飼犬(ペット)

───使役する者とされる者。

───飼う者と飼われる者。

───褒美と発情。

 

共通点が多くて似ている。それと同時に、まったく真逆の能力だ。

 

 

 

「蓮、掴まれ」

 

自分と京香さんの能力の相違点を観察していると、京香さんが醜鬼にまたがり手を差し出してくる。

奴隷(醜鬼)の上に乗り、片手で服従の鎖を掴む。

その姿はまさに"主人"と言った感じだ。

 

………相変わらず、カッコイイな。

 

「は、はい……失礼します」

 

差し出された手を掴み、僕も醜鬼の上にまたがる。なんか新鮮だな。今までは倒すべき相手だったのに、今はそれの背に乗ってるだなんて。

 

「少しスピードが出る。しっかり掴まっていろ」

「は、はい」

 

京香さんにそう言われ、彼女の腰に手を回し振り落とされないようにしっかりと掴まる。

 

うわっ……腰細っ!。力入れたら折れちゃいそうなんだけど?

いや止めよう。こんな事考えるなんて失礼にも程がある。

 

「怖いか?」

「えっ?いえ、特に。あっ、でも今は能力が使えないので若干不安ですね」

 

絶対戦えないって事は無いだろうけど。でも今ここに恋姉は居ないから、発情するのはごめんだわ。発情を収める為には()()()()()()()()()()しかないらしいし。

僕もよく知らんけど………

 

「フッ……安心しろ。お前は何があっても私が守ってやる」

 

何そのセリフと自信。やだイケメン♡

惚れてまうやろ。惚れないけど。

 

「では、行くぞ……ッ!!」

「は、はい……!!」

 

京香さんの指示に従い奴隷となった醜鬼は走り出す。その醜鬼は普通の醜鬼と比べると格段に速いスピードを有していた。

 

速い……!!これが"無窮の鎖(スレイブ)"によって力を引き出された醜鬼の力。普通の個体とは別格だな。

 

でも………

 

確かに普通の個体と比べると強い醜鬼だ。

だが、結局は()()()()()

どれだけ強化しようとただの醜鬼であることに変わりはない。

京香さんが乗っていたら話は変わるかもしれないけど、単体であれば僕でも瞬殺できるだろう。そのレベルの力。

 

「あの……京香さん」

「ん?どうした? 舌を嚙むかもしれない、あまり喋らない方がいいぞ」

「はい。あの、貴女はまだ……いえ、なんでもないです。すいません」

「…………??」

 

 

途中で言葉を濁したせいで、京香さんは疑問の表情を浮かべる。

 

『貴女はまだ………総組長を狙ってるんですか?』

 

そう聞こうとしたけど、愚問だろうな。この人は自分の能力がハズレだと分かって尚、あの恋姉を引きずり降ろそうと、茨の道を進むと決めた人なんだから。

 

 

強くて、立派で……そして、()()()()だ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「と、まぁこんな感じだ。どうだ? 蹴り技のヒントになったか?」

「は……はい。とても参考になりました。ありがとうございます」

 

うへぇ~、醜鬼が瞬殺かよ。しかも能力なしで。

あれから、適当な醜鬼を見つけ、京香さんに蹴り技を見せてもらう事になった。正直、圧倒された。だって能力どころか武器もなしで醜鬼と戦ったんだよ? 

僕みたいに身体が強化されてるわけじゃないのに、生身の身体能力で醜鬼を圧倒し蹴り殺した。

あまりの凄さに言葉が出てこない。

 

「流石ですね。まさか能力なしで。もう醜鬼(コイツ)要らないんじゃ?」

「フッ……まぁ、居て損はないからな」

 

………強い。

 

能力解放した状態であれば身体能力(スペック)は僕の方が上だろう。だけど、それ以上に戦闘技術は天と地ほどの差がある。

彼女の強さの根底にあるのは………

 

積み上げてきた幾千もの“経験”

磨き続けた圧倒的な“技巧”

 

その二つが京香さんを魔防隊組長の地位に押し上げたのだろう。本っ当に、追いかけがいのある人ばっかだな、魔防隊(ここ)は。

ってか、よく考えたらハズレの能力で組長になるって凄いな。組長ってこんな人ばっかなのか?

 

 

「あの京香さん。なんかアドバイスとかって無いですか?戦闘に関して」

「アドバイス……か。そうだな、アドバイスかどうかは分からないが、自分の力と自分の積み上げてきたモノを信じることだな」

「信じる……ですか」

「あぁ、自分に自信を持っている者とそうでない者。どちらが強いかなど考えるまでもない。だから、磨き上げろ。自分を叩きあげて自信をつけろ。そうすれば、お前の(スピード)には誰も追いつけなくなる」

 

 

“信じる”……か。

自分の力と自分の積み上げてきたモノを。京香さんらしいな。確かにこの人ほど努力と研鑽を積み上げてきた人はそうそう居ないだろう。

僕も知ってるわけでは無いけど、彼女がどれだけの努力を積み上げてきたかは分かるつもりだし。

 

いや……そんな簡単に分かるなんて言っちゃ失礼か。

 

 

「ありがとうございます」

「あぁ。もう少し見せてやろう、醜鬼を探しに行くぞ」

「はい。よろしくお願いします」

 

再び、僕達は醜鬼の上にまたがり移動を開始する。パトロールの時も思ったけど今日は醜鬼が少ないな。出る日はとことん出てくるくせに、出ない日はとんと出てこないんだよな。

 

「そういえば、次に行く組はもう決まっているのか?」

「えっ? 次って……なんの事ですか?」

「山城総組長が設けた試用期間は三ヶ月。その間、一ヶ月ごとに三つの組を転々とするのだろ? 六番組の次に行く組の事を聞いてるんだ」

 

ああ、そういえばそうだったな。最近は訓練とかで忙しかったからな、すっかり忘れてた。確か僕が行きたいところに行っても良いって恋姉は言ってたっけ?

でもな、正直分からないんだよね。

 

「え~っと……実はあんまり考えてなくて。恋姉から行きたいところに行けって言われましたけど、そんな知ってるわけでもないですしね」

「そうか……。なら、七番組に来る気はないか? お前が来ると知れば寧も喜ぶぞ」

「嫌です」

「……即答か。理由を聞いてもいいか? まぁ、聞かずとも分かるがな。大方めんどくさいというのが理由なのだろう?」

「……否定はしません。でも、それ以上にそんな余裕が無いんですよ。自分を鍛えるのに一杯一杯というか。裏鬼門で大量の醜鬼を相手にするというのはちょっと……。まぁ、それはそれで強くはなれそうですけど」

 

 

でも、今は自分の事に集中出来る環境に身を置きたい。必殺技の事もそうだけど、何より自分の基礎力や戦闘技術、地力を高めることが最優先だ。

多くの実戦で得られる経験値よりも、訓練で得られる技術が欲しい。

裏鬼門とかはその後で行ってみたい。高めた自分の力を確かめる為に。

 

 

「そういう理由で……すみません、少なくとも次に七番組に行くことはないと思います」

「そうか……ちゃんと考えているのだな。なら“一番組”はどうだ?」

「一番組……ですか?? 理由は?」

「一番組の組長を務めているお方は私の師なんだ」

「師……? 京香さんの先生ってことですか!? へぇ~、京香さんにそんな人が。初耳です」

 

京香さんの師。正直、ちょっと興味があるな。京香さんは能力なし、武器無しの素手で醜鬼を倒せる。言葉で言うのは簡単だが実は恐ろしく難しい話だ。

本来、醜鬼は『桃』によって得た能力、もしくは醜鬼用に改造された武器でなければ倒せない。

 

()()()()()()……だ。

 

だけど、この人にそんな常識は通用しない。

能力なしで醜鬼を殺せるなんて……。そんな事出来る人間、魔防隊でも彼女だけかもしれない。

そんな京香さんを育て鍛え上げた人……か。やっぱり興味が湧く。会ってみたいな。

 

「我が師なら良き助言をしてくれるだろう。必ずお前は強くなれる。それに……一番組を進める理由はそれだけではない」

「……ん? まだ何かあると?」

「一番組副組長はお前と能力がよく似ている。私の無窮の鎖(スレイブ)以上にな」

「一番組の……副組長、ですか。どんな人なんですか?」

「そいつもまた、我が師に育てられた者だ。同じ人に育ててもらったので私の妹弟子だな。ちなみに、近いうちに一番組の組長になると師から聞いている」

「……へぇ~、京香さんの先生と交代するんですね。ちなみに名前は?」

多々良木乃実(たたらこのみ)、年はお前とほぼ同じで今は高一だ」

「高一……。高校一年生……ッ!? それで魔防隊次期組長なんですかッ!?」

 

 

高校一年生って……京香さんの言う通り僕と同じ年齢の15。もしくは16歳ってことか。すっげぇな、僕とほとんどタメで京香さんや出雲組長と同じステージで戦ってる人がいるなんて。

 

 

多々良木乃実(たたらこのみ)……か。ちょっと興味出てきました。考えときます」

「…………フッ、そうか」

 

 

京香さんをここまで育てあげた師。

そしてその人に育てられ、京香さんからも一目を置かれている次期一番組組長。

行ってみてもいいかもな。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

───不思議な少年───

 

それが、私が最初に蓮に抱いた印象だ。

数年前、私がまだ七番組の組長になる前の話だ───

 

 

 

「私が……面会ですか? 例の男性能力者『山城蓮』と?」

「…………そうじゃ」

 

私は、魔防隊・現総組長である東海桐花に呼び出され、魔防隊本部へとやってきていた。

ここに呼び出された理由は、陰陽寮にて隔離されている少年。『山城蓮』と対談して欲しいとのことだった。

 

『山城蓮』世界でただ一人の男性能力者。

魔防隊員であればその名前を誰もが知っている。政府の人間達は躍起になってその存在を隠し、消そうと画策していると聞く。

まぁ、話によると山城恋組長の親族で、東海桐花総組長からも気に入られているようで、政府の人間達も簡単には手を出せないようだが。

 

「それで……面会して、私にどうしろと?」

「何か特別な事をしろとはいわん。お前の能力はあいつと似ておる。蓮と直接顔を合わせ、どう思うたか率直な意見が欲しいのじゃ」

「………了解」

 

確か、能力についてもあまりよく分かっていないんだったな。資料を見る限り確かに私の能力と類似している点は多い。同系統の能力者の意見というのは貴重だろう。

そう思い、私は断る理由もないので承諾し、総組長に案内されて魔防隊本部の外へと出て行った。

 

 

 

 

 

「それで……何処にいるのですか?」

「………あそこじゃ」

 

総組長が指差した場所は魔防隊本部の屋根の上だった。今私が立っている場所からでは見えないが、本当に居るとしたら何故あんなところにいるんだ?

 

「あの……何故あのような場所に?」

「さぁのう。世界の……いや、()()()()でも聞いておるのではないか?」

 

 

……魔都の音??

 

 

「まぁ、会ってみればすぐに分かるであろう。山城蓮という少年がどういう人間なのか」

 

そう言って去っていく総組長を見送り、私は魔防隊本部の屋根の上へと登る。

 

そこには、魔都の空に輝く双月を見上げる少年が居た。ただ、普通の人間とは違い、頭から獣耳、腰から尻尾を生やした異形の姿をした者であった。

 

「お前が……山城蓮か?総組長からお前との面会を言い渡された。少し話をさせてもら──」

「────ろ」

「……ん?」

「『消えろ』って言ったんだ。二度も言わせないでくれる? 貴女の『()()()』が雑音(ノイズ)になってるんだ。邪魔だ、消えろ」

「…………」

 

『消えろ』『邪魔』

初対面の人間、それも年上に言っていい言葉ではない。

しかし、その言葉を聞き、怒りの感情が湧いてくることは無かった。

 

 

平穏な生活を送っていたはずの少年が、ある日突然、それらを奪われた。

しかも、今もなお自国のトップに命を狙われ続けている。そんな少年に出会ったばかりの自分にいい感じで接しろと言うのは無理な話だろう。

 

 

少し……似ているな。私と……

 

 

「そうはいかない。こちらも総組長直々の命令を受けた。お前の姉からも言われている。不快かもしれないが受けいれろ」

「…………分かった」

 

 

総組長と姉………いや、姉の言う事なら聞き入れるのだな。

 

 

「それで……僕に何が聞きたいんだ? 言っておくけど、本当に何も知らない。どうやって能力者になったとかは本当に分からないんだ。陰陽寮で何度も言ったけどな」

「分かっている。お前の能力について教えてほしい。資料では読ませてもらったが、お前の口から直接聞きたい」

「………分かった」

 

 

こいつの能力について意見を出すにはまず知らなければならない。この少年に何が出来て何が出来ないのかを。その為には文字で知るのではなく、この少年の口から聞いた方が深く知れるはずだ。

 

山城蓮は私に自分の能力を話してくれた。

"鳳雛の首輪(ペット)"』『黒狼(コクロウ)

『身体能力強化』『代償である発情』

 

自身が知っている全てを話してくれた。

確かによく似ている。私の能力と……

 

 

「………一つ、聞いてもいいか?」

「………何?」

「総組長に言われたんだが、『魔都の音』とは一体何だ? 先程も、私の『命の音』がどうとか、とも言っていたな」

 

私の質問を聞き、山城蓮は自身の右手をまじまじと見つめる。数秒間見つめた後、少年は再び空を見上げた。

 

()()()している時、獣耳をすませば全てが聴こえる。目を凝らせば全部視える。集中すればあらゆるものを肌で感じる。魔都の音っていうのは文字通り、この世界が奏でる音色だよ。僕はそれが聴こえるんだ」

「……………」

 

自信の肩を抱きながら説明する少年。それを私は隣で黙って聞くだけだった。

すると、空に輝く月に向けて右手を伸ばす。

 

「あの月の音色は■■■ あの曇の音色は■■」

「───!!」

 

私は咄嗟に耳を塞いだ。自身の耳がおかしくなったのではと思い。

何だ……今のは? とても人間が出すような音ではない。まるで機械が出すノイズのような。

山城蓮の口から出た音を聞き困惑していると、隣に座る少年は再び口を開く。

 

 

「あぁ、ごめん。()()()()()()()()()()んだ。あと聴き分けることも。言っても分からないし、困るだけだよね」

 

 

人間には……()()()()()()??

 

そうか……っ!! 

 

こいつの能力は身体強化ではなく『身体能力強化』

あらゆる身体能力が底上げされる。

口から音を出す。すなわち『声を出す』という事も人間の一種の能力に該当する。

つまり…………

 

滑舌や発声器官。『発声能力』も底上げされ強化されてるのか!!

 

 

「命の音っていうのは人間が出す音の事。声だけじゃなくて心臓の音とか血液の流れる音。脳の電気信号なんかも聴こえる」

 

 

私が困惑しているのを無視して少年は説明を続ける。

会えば分かる、この少年がどういう人間なのか。確かに、総組長の言っていた通りだ。

資料を見た時はここまで興味をそそられることは無かった。

 

「……もう聞きたいことない? ならもう一人にしてくれ。もうすぐ恋姉が来るはずだし」

「……あぁ。そういえば、名乗っていなかったな。私は羽前京香。魔防隊七番組の隊員だ」

「………あっそ」

「………フッ」

 

興味なしか。これは、すぐに忘れられるだろうな。その証拠に山城蓮は一度たりとも私と目を合わせることは無かったからだ。

そんなことを考えながら私はその場を立ち去った。

 

 

ちなみに、その二週間後に再び蓮との面会を言い渡された。私が再び会いに行くと蓮は死ぬほど嫌そうな顔を向けてきたがな。

蓮は嫌だったろうが、私は蓮に興味があったのでありがたかった。

 

 

───これが私と蓮の出会いだ。

 

 

 

 


 

 

 

 

「……どうかしました? いきなりぼ~っとして」

「……いや、大きくなったなと思ってな」

「……何ですかその親戚のおじさんみたいなセリフは?」

「フッ……すまない。なんでもないんだ、気にしないでくれ。それより、見えてきたぞ」

「あれが……七番組の寮ですか。あんまり六番組の寮と変わんないですね」

 

 

あれから、パトロールがてら何度か京香さんの戦いを見せてもらっていたのだが、気がついたら六番組の寮からかなり離れた場所に来てしまっていた。

七番組の寮の方が近いくらいの場所まで。

 

七番組の寮に来てみるか?っと言われ、せっかくだからそうさせてもらう事にした。正直身体洗いたいし、ちょっと休みたいし。

 

裏鬼門に行くのはちょっと不安だったけど、京香さん曰く、今週は醜鬼が少ないらしい。その言葉通りここに来るまでの道のりで醜鬼は全然発生しなかった。

てっきり裏鬼門は毎日毎日醜鬼がバカみたいに出てくると思ってたけど、どうやらそうじゃないらしい。

 

本当に……分かんねぇな。魔都って……

 

 

「着いたぞ。ここが七番組の寮だ。六番組と同じで特別な結界も張られている」

「………へぇ~」

「………少し待っていてくれ」

「ん?」

 

そう言って京香さんは寮の中に入って行き、僕は言われた通りその場を動かずじっと待つ。しばらくしていると、京香さんがバケツを持って出てきた。

中身は豚肉が大量に詰められていて、それをスレイブ化した醜鬼の前に差し出した。

 

「ほらっ、食え」

 

醜鬼は差し出された豚肉を意地汚く食す。

きったねぇ食べ方。いや、醜鬼にマナーある食べ方をしろと言う方が無理か。逆にそんな食べ方してる醜鬼なんてキモイしな。

それより……

 

「それが『褒美』ですか?」

「………あぁ、能力の代償だ」

「こんなもんで良いんですね? いや、働きだけでいうならこんなもんか。移動だけでしたしね」

「褒美は奴隷が潜在的に欲するものを与える。どんな働きでも醜鬼を奴隷にした際は豚肉を与えるだけで済む」

 

 

“潜在的に欲するもの”か……。

口元に手を当てて醜鬼の食べる姿を観察していると、京香さんがまじまじとこちらを見つめてきた。

うわぁ~、この後何言われるのか分かるわ。

 

「……蓮、お前───」

「───お断りします」

「………まだ何も言ってないぞ?」

「『私の奴隷になる気はないか?』ですよね? 前にも断らせてもらいましたが、その気はないですから」

 

 

京香さんの奴隷になる。

すなわち、それは恋姉と敵対……とまでは言わないけど、恋姉を総組長から引きずり降ろす手伝いをするということだ。

しかも、基本的に一度奴隷になった者は死ぬまで奴隷だそうだし。それはマジで嫌だ。

それ以前に、恋姉以外の誰かに飼われるなんてごめんだしね。

 

 

「………そうか。お前がいれば総組長の座を狙えるのだがな」

 

なんでそんな残念そうなんですか? 僕を強化して使役しても大した戦力にはならないと思うけど。ってか人間も奴隷に出来るんだな?

 

「やっぱりまだ狙ってるんですね、総組長の地位」

「当然だ……」

「そうですか。精々頑張ってくださいね、応援も手伝いもしませんけど」

「フッ……相変わらずだな」

 

そりゃそうだ。京香さんは友達だけど……それとこれとは話が違う。僕の優先順位のトップはいつだって恋姉だ。その恋姉を引きずり降ろそうとしている人に協力なんてしない。

ま、僕が加わった所であの人を越えられるとは思えないけどな。

 

「気が変わったらいつでも言え。では中に入れ、少し休んだ後に六番組の寮まで送ろう」

「………お邪魔しま~す」

 

扉をガラガラと開け、寮の中に入っていく。

やっぱり中も作りはほとんど一緒だな。所々違うトコもあるけど、六番組と大して変わらない構造だ。

 

「あれ? そういえば寧ちゃんは居ないんですか? あと他の七番組の隊員も」

「あぁ、寧は“目”としての報告で今は居ない。他の組員も今はパトロールに出ている」

「そうですか。京香さんの組員、どんな能力者なのかちょっと興味あったんですけどね」

「魔防隊員なんだ、その内会えるだろう……寧には悪い事をしたな

「ん? なんか言いました?」

「いや、何でもない。それより、疲れているだろう? 少し居間で休んでいろ。案内する」

 

そう言われて、僕は京香さんに着いていき居間へと向かった。

正直、風呂に入って汗を流したいけどやっぱやめとこう。風呂入った後に魔都に出て行く方が嫌だ。

 

「ここだ、入れ」

「はい、お邪魔しま───」

 

「──おかえりなさい京香。やっと帰って来たわね。蓮も一緒とは驚いたわ」

 

「「……なぜ七番組(ココ)に居るんですか()()()?」」

 

うわっ、めちゃハモった。

ってか何でホントに恋姉がここにいるんだ? 京香さんが呼んだの? いやこの反応を見るとそんな感じでは無いな。

 

「京香に少し話があって来たのよ。蓮の方こそなんでここにいるの?」

「僕は京香さんの戦いを見学させてもらってて、成り行きでここにきたんだよ」

「そう。天花から聞いてるわ、頑張ってるそうね。偉いわ」

「…………何か僕に言うことない?」

「………何を?」

 

───イラッ

 

恋姉のぽかんっとした表情を見て僕は青筋を立てる。

……この人、僕を魔都に放り出したこと忘れてるんじゃないか?うそでしょ?謝りもしないのか?

 

「総組長……何かしたんですか?」

「何もしてないわよ。何も言わずにいきなり魔都に放り出しただけで」

 

分かってんじゃねぇかコラ。

何が『何もしてないわよ』だ!

恋姉の言葉を聞いて、京香さんも呆れたようで頭を抱えている。

 

「それで何もしてないって言える神経に驚きです」

「それより蓮、聞いたわ。あなたその時に出現した『門』をほったらかしにせず、醜鬼から守ったそうね。弟が立派に育ってくれて私は泣きそうになったわ」

「……ホントに泣かせてあげようか?物理的に」

「フフッ、面白い冗談ね。蓮には絶対無理よ」

「よし泣かす。京香さん、やっちゃってください」

「自分でやれ」

「やですよ。だってボコボコにされたくないですもん。僕がやったら逆に僕が泣かされます」

「悔しいが、私もボコボコにされる。私がぶっ飛ばされてもいいのか?」

「はい……!!」

「怒るぞ?」

「心の底からスンマセン。冗談です」

 

 

 


 

 

 

「蓮……」

「…………」

「こっちむいて。ね? 久しぶりの恋姉よ?」

「…………」

 

あれから京香さんは気を使ったのか、僕と恋姉を二人きりにしてくれた。

普段だったらすごく嬉しい気づかいだけど、今はちょっと微妙。

 

今、僕は怒ってる。すご~く怒ってる。理由は言わずとも分かるだろう。

その証拠に、今 僕は恋姉の隣に座ってるけど、人ひとり分の距離を開けて座っている。普段であれば隙間なく座るところだけど、今はしない。恋姉が謝らないかぎり許すつもりは無い

 

「この一週間、何度も連絡したんだけど? いい加減、既読スルーするのはやめてくれない?」

「…………」

 

 

恋姉の言う通り、僕はこの一週間恋姉からの電話や通知を一切無視している。

ってか、恋姉『既読スルー』って単語知ってるんだ?

なんか『山城恋』が既読スルーって単語口にするの違和感バリバリなんだけど?

 

 

「………蓮、どうしたら許してくれる?」

「うっさいポンコツ姉貴。自分で考えろバカ」

「……う~ん」

 

何でそこで悩むんだよ? 

普通に謝れば許すんだけど? 

まぁ、この人誰かに謝るなんてそうそう無いからな。誰かに頭下げる恋姉なんて想像つかない。むしろ見たくないわ。

 

「……蓮、いったんこっち向いて。ね?」

「………何───んっ」

 

ようやく謝ってくれると思い、恋姉の方に顔を向ける。

 

すると、振り向いた瞬間、唇が柔らかい何かで塞がれ、視界が恋姉の顔で覆いつくされた。

突然のことで頭が追い付かなかったが、少しずつ今の状況を理解していく。

 

 

 

 

 

 

………………キスされてる

 

 

 

 

 

 

「……これで、許してくれる?」

「…………ズルい」

 

本当に、ズルい人だ。こんなの、許さないなんて言えないじゃん。

今に始まった事ではないけど、自分のチョロさに頭を抱える

 

「……もういいよ」

「フフッ、懐かしいわね『仲直りのキス』。最近はしてなかったものね」

「……まぁ、喧嘩なんてそうそうしないしね」

 

 

仲直りのキス。文字通り僕と恋姉が喧嘩して仲直りにする時にするものだ。昔から喧嘩した際はこれで決着をつける。というかつけさせられる。

 

大抵、僕と恋姉が喧嘩するときは恋姉が僕に何かして喧嘩になる。だから僕は悪くないんだけど、自分がキスすれば許してくれると知っている恋姉はこの方法でいつも僕の怒りを収める。

 

ほんっと……チョロいな僕って。

 

「恋姉……」

 

僕はそっと名前を呼びながら恋姉の首に腕をまわし抱き着いた。腕にかかる髪の感触が心地いい。

 

「フフッ、甘えん坊ね」

「うっさい。頭撫でろポンコツ」

「はいはい。よしよし……」

 

恋姉は頭と背中をポンポンっと撫でてくれた。やっぱり、この手が好きだ。

 

「蓮……ちょっと落ち着いて。尻尾振り過ぎよ」

「無理。知ってるでしょ、勝手に動くんだよ。触りたいなら触っていいよ?それとも吸う?」

「止めておくわ。流石に七番組(ココ)では……ね?」

「キスしたくせに……今更では?」

 

いや、恋姉の言う通りか。恋姉に触られたら絶対変な声だす。京香さんが近くにいるってのにそれは絶対ダメだ。

 

「そういえば、銀奈から聞いたわよ。天花のところの副組長に負けたそうね」

「…………失望した?」

 

そう言いながら、僕は恋姉の首筋に鼻先を埋める。

 

「してないわ。最初からなんでも出来るなんて思ってないもの。むしろ頑張ったわねって褒めるつもりだったのよ?」

「そう……かな。自分が弱いって事は分かってるけどね。でも、恋姉言ってくれたじゃん?『私の次くらいには強くなれる』って」

 

 

まぁ、身内贔屓とかお世辞なんだろうけどね。

だって、恋姉の次くらいに強くなるってことは出雲組長や京香さん、あと海桐花さんとかベルさんを超えるってことでしょ。

 

アハハハッ! 無理ゲーすぎて笑いが出るわ。

 

 

「なんか、恋姉の期待を裏切った感じがして……。いや、ごめん。こんな事考えてる方が期待裏切っちゃうよね? 今のは忘れてくれ」

「………分かったわ。頑張りなさい、蓮」

「うん。それでさ、なんかアドバイスとか無い?どうせ恋姉のことだから僕の事は出雲組長から逐一報告受けてるんでしょ?」

 

「そうね……。貴方は《黒狼(コクロウ)》。狼には牙があるものでしょ? その牙で敵の喉元に噛みつきなさい。例えそれがどんな強敵であろうと、どんな状況であろうと。それを忘れないようにしなさい」

 

「えっ? それが……アドバイス??」

「えぇ、そうよ♪」

 

 

ワケワカンナイヨー!!

やっべ、ついトウカイテイオーみたいになっちゃった。

 

 

“嚙みつく” 敵の喉元に……。

 

なんか、出雲組長も京香さんも恋姉も、具体的なアドバイスが無くない?なんか精神論って言うか心意気というか、戦闘に関してのアドバイスが1つも無かった

もっとなんか無いの? 動き方とか蹴りをもっとこうした方がいいとか。

正直、そう言うの求めてたんだけど……

 

 

やっぱボク……ワケワカンナイヨー!!

 

 

3人の組長から貰ったアドバイスについて考えていると───

 

──突然、恋姉にうなじを探るような優しい手つきで触られる。

 

「…………んっ、」

 

指先で首筋の熱を確かめるように弄られ、僕は声を漏らす。

突然の事に驚いてハグを解除し、恋姉の首筋に埋めていた顔を離した。

 

「蓮……もう一回……する?」

「……………………する」

 

“何を”……とは聞かなかった。聞かずとも表情で分かる。

 

 

コクリと頷き、僕の口は再び恋姉の唇で塞がれる。

 

最初は僕の頬に添えていた恋姉の手はいつの間にか僕の手を握っていた。僕もそれに合わせて握り返す。

抵抗せずに細い指同士を絡ませた。いわゆる恋人つなぎってやつだ。

 

「ん……」

 

あまりの気持ちよさにそっと声が漏れ出る。一度顔を離しお互い見つめ合う。

僕の声を聞いて恋姉はニコッとした笑みを浮かべ、僕を押し倒してきた。

力で恋姉に勝てるはずもなく、僕はソファーに組み敷かれる

 

「………あの、ここ七番組だよ?京香さん近くにいるよ?」

「…………いや?」

「…………ううん、嫌じゃない」

 

再び、恋姉の顔が迫ってきて唇が触れ合った。

身体の力が抜けてもう何も考えられない。

ただ気持ちいいという感覚だけが身体を駆け巡る。

 

「ん……れん、ねぇ」

 

少し息苦しくなり僕が恋姉の名前を呼ぶと、恋姉は離れてくれた。

離れたといっても鼻が触れ合う程度の距離なので、少し熱を持った吐息が交差する。

 

「………何?」

「ごめん、ちょっと苦しくなって。ちょっとだけ休憩を」

「…………フフッ♪」

 

それを聞き恋姉は悪い笑みを浮かべる。

あ、ヤバい。変なスイッチ押しちゃった。

 

予想通り、恋姉は僕の言葉を無視して再びキスしてくる。

それもさっきのように優しいキスではなく、貪るような荒々しいキス。呼吸すら出来ない程に。

 

「んぐ……! ちょ…っ、恋、ねぇ……んっ」

「……ちゅっ……ん」

 

苦しい。息が出来ない。鼻で呼吸すればいいだけなのだが、今の僕にそんな余裕はない。

何とか口を離して息を吸おうとしてみるものの、恋姉がそうさせてくれなかった。

離れようとしても唇を押しつけてきて、手をギュッと握ってくる。

 

 

『喰われてる』……そんな気がした。

絶対的な強者による捕食行為。

自分がペットで恋姉が飼い主。キスをするたびに否が応でも分からせられる。

僕は……この人の所有物なんだ。

 

 

ま、それを受け入れて喜んでいる僕も僕だけどな。

 

 

数十秒後、ようやく恋姉は離れてくれた。

 

「はぁ…はぁ…。ひどいよ……恋姉」

 

苦しそうに息を荒げている僕の姿を見て、恋姉は頬を染めてニコッとする。

 

「苦しかった? その表情、素敵よ蓮♡」

「……ドS」

 

 

 

 

子供の頃から、僕と恋姉はよくキスをしていた。寝る前だったり、出かける前だったり。

まぁ、ほとんど僕が恋姉に『チューしよ♡』ってねだってたんだけどね。

恥じらいを覚えてからはあんまりねだらなくなったけど、最近は恋姉の方からくることが多くなった。

 

 

世間一般で考えたら僕たちはおかしいのだろう。

普通、姉弟でこんなことしない。子供同士ならともかく、お互い子供とはいえない年齢。褒められた事ではない。

むしろイケない事なのだろう。

 

でも───

 

 

「恋姉……もう一回……しよ♡」

「うん、いいわよ♡」

 

 

───止めるつもりは無い。今更止められないんだ。

 

 

お互い、自分達が狂っていると認識しながら堕ちていく。それがたまらなく気持ちいい。

ナニかがぞくりと背筋を撫で、全身に快感が伝わる。

 

 

背徳感をゾクゾクと感じながら、再びキスをする。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「蓮、そろそろ戻るが準備はいいか?」

「は、はい……」

「どうした? 何かあったのか?具合でもわる──」

「───何でもないです!!」

「ッ!! そ、そうか……」

 

 

やっべ。僕、何やってんだ……。バカじゃないの?

ここ、僕の部屋でも恋姉の部屋でもないのに。他人様(ひとさま)の寮の居間で、本当に何やってんだ。恋姉から始めた事だけど途中から僕もノリノリになっちゃってた。

もし、寧ちゃんとか七番組の人とかに見られてたら取り返しがつかなくなってたぞ。

 

 

「蓮? 本当に大丈夫か? 少し顔が赤いぞ?」

「だ、大丈夫ですッ!!僕先に寮前で待ってますね!!あと恋姉もバイバイ!また連絡する!!」

 

僕は居たたまれなさと罪悪感、そして羞恥心が爆発しそうになり、脱兎の如くその場を逃げ出した。これ以上ココに居るとボロが出る可能性がある。

 

京香さん……気づいて……ないよな?

 

 

 

その後、約束通り京香さんに六番組の寮まで送ってもらった。

けど、七番組の寮を離れる前に───

 

『お前も大変だな』

 

───みたいな目で見られたんだけど?何で?

 

 

 

 

 

 

 

 

───おまけ

 

 

蓮が居間から出て行った直後……

 

 

「総組長……そういうことはご自分の部屋か蓮の部屋でしてください」

「やっぱりバレるわよね?」

「外まで聞こえてましたよ。それに隠そうとしてませんよね? 蓮も蓮だ。あの顔で誤魔化せると思ってるのか? はぁ…寧が居なくて良かったですよ」

「あらっ、私は寧にならむしろ見せつけたいくらいよ?」

「小学生相手に大人げない牽制しないでください」

 

 

 

 

 

 

 

 





読んでいただきありがとうございます。
評価・感想いただけると幸いです。

次回『神奉者』


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