魔都精兵のペット 〜山城恋の弟くん〜   作:ハトル

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魔都精兵のスレイブ 第2期制作決定!?

しかも、山城恋のCVが花澤香菜さん!?
こりゃテンション上がりますわ!!



神に与えられた力と錫杖

 

 

 山城蓮と神村鳴海。両者の距離は20メートル程。常人であれば距離を詰めるのに数秒の時間がかかる。

 が、この2人であれば一足飛びで越えられる距離でしかない。

 

 

鳳雛の首輪(ペット)──能力解放 《黒狼(コクロウ)》」

「───瞬目厳禁(アクセルスター)───」

 

 

 互いに敵を見据えて構えを取る。能力を展開し、両者共ほぼ同時に戦闘準備が完了する。

 

 

 そして次の瞬間───両名の姿が搔き消えた。 

 二人の元居た場所の地面はひび割れ、雷でも落ちたかのような跡と轟音が魔都に鳴り響く。

 

 それほどの力強い踏み込みを持って、両者共に弾丸の如き速さで加速し、敵対者目掛けて攻撃を繰り出す。

 蓮は当然ながら蹴り。神村鳴海は拳を振るう。

 

 衝突する脚と拳。ほぼ互角の威力。脚と拳が交じり合い、その衝撃で周りの空気や地面を震撼させる。互いに威力を殺せず両者吹き飛び距離が生まれた。

 

「やるわね。本気じゃなかったけど、私のスピードについてこれる人間はそうそう居ないわ。誇りなさい」

「上から目線で偉そうな褒め言葉をどうも」

 

 神村の皮肉ともとれる言葉を華麗に躱し、再び蓮は地を蹴り神村へと加速していく。繰り出したの顔面に向けての右足の上段蹴り。

 しかし、その(蹴り)が相手に届くことは無かった。

 

「こっちよ……ッ!!」

「───ッ!?」

 

 蓮の蹴りは躱され、神村は一瞬で背後へと回りガラ空きの背中へと拳を撃ち込む。

 手ごたえの無さに躱されたと一瞬で判断した蓮はすぐさま身体に力を込め、防御を固めていたので大ダメージにはならなかった。

 

 しかし、彼女のパンチの威力は蓮の想像を遥かに超える代物であった。

 

 蓮の防御を楽々打ち砕き、鈍い音を鳴らす。

 背後から殴り飛ばされ身体がボールのように転がり、殴られた痛みと地面を転がる痛みで蓮は悶絶する。

 

「……ぐっ、ハァ…ハァ…」

「……降参してくれない? あの御方からあまりアンタを傷つけないように言われてるんだけど」

「ハァ…ハァ…、いやだ。誰がテロリストの親玉のトコなんかに行くかってんだ」

「あっそ。なら……もう少し痛めつけるわね。抵抗する気力が無くなるくらい」

 

 神村は構え、蓮もそれに合わせて低い姿勢で敵を見据える。

 

 

 

 コイツ……、めちゃくちゃ速い……ッ!!

 それも《黒狼(コクロウ)》以上に……ッ!!

 今の短い攻防でも分かる。アイツの能力はおそらく動きの高速化ってところだろう。『瞬目厳禁』とはよく言ったものだ、マジで瞬目(まばたき)したら奴を見失う。

 それに速いだけじゃなく、動きに無駄がない。おそらく、相当の実戦を積んでいる。

 防御に意識を集中してもHPと体力を削られるだけで無駄に終わるな。なら、今はとにかく攻めまくるしかない。

 

 

 

 守りに入るより、攻めの姿勢で向かった方がまだ勝算があると判断し、蓮は地を蹴って加速し縦横無尽に駆け回る。

 平地である為、立体的な動きはできないが、神村の周りを走りまわる。

 

(むやみやたらに攻撃してもヒットする可能性は少ない。ならば……フェイントを入れてやるッ!!)

 

 攻撃すると見せかけすぐに離れるフェイントを織り交ぜ、ヒットアンドアウェイを繰り返し勝機をうかがう。

 しかし、神村は余裕の表情を崩すことなく蓮を見据える。

 

 

「うんうん。速い速い、将来有望ね。でも……」

 

 神村は脚に力を込めて踏ん張り、大地を強く蹴り加速する。そのスピードは蓮を優に超えており、一瞬で蓮の隣に追いついた。

 

「やっほ♪」

「───ッ!?」

 

 高速で駆け回りながらも一瞬で隣に追いつかれ、何とも気の緩む掛け声とともに蓮は再び殴り飛ばされた。

 凄まじい速度で後方へとぶっ飛ばされ、岩山に激突し陥没する。

 

「……カハッ……ゲホっゲホ」

「全っ然!加速(スピード)が足りないわね!!」

 

 

 地に手をついて倒れこみ、血反吐を吐く蓮。彼に向かって神村は口を動かしながらカツカツと足音を立てて近づいてゆく。

 その顔は嬉しくてしょうがないといった表情。まるで自分の持っているモノを自慢する子供の様であった。

 

 

「分かった? 私の能力は《“瞬目厳禁(アクセルスター)”》 自身の速さを向上させる能力。アンタと同じスピードタイプよ。でも、アンタは私に追いつかれ、そして追い越された。何が言いたいか分かる? 実力差自慢よ! つまりアンタの能力は、私の()()()()()()()()()()()!!」

 

 

 気分を高揚させ声を高らかに上げてそう言う神村に対し、蓮は再び立ち上がって構えを取り、闘う意思を見せる。

  

 

「ハァ…ハァ…。気持ちよくお喋りしてるトコ悪いんだけど、ハァ……、お前の能力が僕の上位互換だとして、それが何? まさかそれだけで勝ったつもりなの?」

 

 

 こっちとら、生まれた時から常に“最強”が隣に居る人生を歩んできたんだ。

 今更……実力差とか、持って生まれた能力(モノ)が違うってだけで打ちひしがれて絶望するかってんだ。

 

 

「……ふ~ん、この状況でもそんなことが言えるなんて、大した度胸ね。それとも実力差も分からないバカなのかしら?」

「単身で魔都に乗り込んでくるアホに言われたくないんだけど。それともアンタの言ってた“神”とやらが愚神なのかな?」

「……アンタ、面白い事言うわね。()()()()()()()()()とはよく言ったものね、この状況にピッタリ。まぁ、すぐにその口も開かなくしてあげるわよ……!!」

 

 

 挑発ともとれる蓮の言葉を聞き、神村は地を蹴り砕き加速する。

 轟音を響かせ、神村は先程の蓮と同じく蓮の周りを縦横無尽に駆け回る。

 

 

「見せてあげるわよ! 本物の強者の戦い方をね!」

 

 

 高速で動き回りながらそう言う神村。彼女の言葉からは、その言葉がハッタリの類ではない事がひしひしと伝わってくる。

 蓮は目に力を集中させなんとか彼女の動きを目で追い続ける。彼女の速さにも少しづつ慣れてきたのか、蓮は徐々に目で追えるようになってくる。

 

(よし……!! 少しづつだけど視えるようになってきた! これなら───)

 

 しかし、次の瞬間───神村は蓮とはまったく次元が違う動きを見せる。

 

「───《空宙走行(エアウォーク)》───」

 

 彼女は地面だけで無く、()()()()()()()()

 

 《空宙走行(エアウォーク)》……まさにその名の通り、彼女はまるで空を飛翔するかのように空中を駆け回る。

 

「マジ!? そんな事も───」

「───だから、遅いって言ってるでしょ?」

「───グッ!?」

 

 空を駆ける。そんなトンデモ技を見せられ、蓮は一瞬気圧されてしまい隙を見せてしまう。それを見逃してくれるはずもなく、神村は蓮の背後へと回り再び拳を打ち込んだ。

 

「ハァ…ハァ…」

 

 再び攻撃を喰らったものの、悶絶などせずにすぐさま体勢を整え敵を見据える。

 

 

 クソっ……!! なんて速さだ。しかも空気そのものを蹴って加速するとかアリかよ?

 どれだけ警戒していても一瞬で距離を詰められて背後に回られる。

 このままじゃまったく勝負にならない……、どうすれば……。

 

 

「考え事してる暇はないわよ───

───《空宙走行(エアウォーク)》───!!」

 

「───!!」

 

 平面では無く、立体的な動き。蓮には出来ない戦法で再び、神村鳴海は加速しかく乱する。

 目で追うことすら困難な速さと動きに翻弄され、蓮は再び一瞬の隙を見せる。

  

 当然、神村鳴海はそれを捉え、再び背後に回り込み拳を撃ち込んだ。

 

 しかし、先程とまったく同じというわけでは無かった。

 背後からの攻撃。同じ攻撃を何度も喰らう蓮ではない。彼は神村が背後に回った瞬間、即座に後ろを振り向き腕をクロスさせガードさせた。

 それにより、喰らったものの今度はダメージを最小限に抑える。

 

「痛っってぇー……でも、今度はなんとか防いだぞ!」

「アハハ! やるわね。完ぺきではないけど、こんなに早く《空宙走行(エアウォーク)》からの攻撃に対応したのはアンタが初めてだよ」

「そりゃどうも。それで、あの《空宙走行(エアウォーク)》って技どうやったの? 能力の応用? それとも恋姉みたいな多重能力者(ハイブリット)なの?」

「……敵に情報を教えると思う?」

「いや、思ってないよ。思ってないけど知りたいから教えて」

「………プフッ!あはははは!アンタ、ホント面白いわね。まぁいいわよ、教えてあげても。あれは能力の応用よ。少々コツが必要なんだけど、空気を足で掴むイメージで蹴る。スピードがズバ抜けている者なら誰にだって出来るわよ。まぁ、私みたいに連続使用して空中を移動することはできないでしょうけど」

 

 

 神村鳴海の説明を聞き終え、蓮は自身の両手をまじまじと見つめる。

 

 

 《空宙走行(エアウォーク)》……か。癪だけどカッケェー技だな。

 正直、その発想は無かった。空気を地面と同じように見立てて加速する為の道具にしてしまうなんて。

 能力的に出来る出来ないかはさておき、発想すらしなければ出来る可能性は皆無だ。原理とイメージ、そして生で見れた事はデカイな

 

 

「ありがとう、教えてくれて」

「いいわよ。それじゃ、戦闘再開……ッ!!」

 

 

 掛け声と共に両者は加速し、脚と拳をぶつけ合う。ぶつかるたびに無数の火花と衝撃波を生んだ。

 

 両者の蹴りと拳が幾度となく交じり合い、周りの岩や地面をえぐりながらも二人は止まらない。暴風雨のように両名の攻撃が繰り出される。

 優勢なのはやはり神村鳴海。元々の速度が蓮を上回っているので、少しずつ押されていく。

 雨の如く何度も振り下ろされた拳を浴び続け、血を吐き、蓮の身体は傷ついていく。

 

 

 ───しかし、攻撃を受け続ける事によって、神村鳴海の速さ。動きのパターンを分析、学習していき、徐々に競り合うようになってゆく。

 

 彼女の拳を上手く腕で受けて、回避して、いなす。この一週間で身に付け学んだ事を全て出し切って神村鳴海の動きに喰らいつく。

 

 

「───《空宙走行(エアウォーク)》───」

 

(それはもう見た……!!)

 

 空中を移動し蓮へと高速で迫る神村。幾つかのフェイントを織り交ぜた後、蓮から見て右方向から弾丸の如く迫り攻撃を繰り出した。

 今まであれば喰らっていた攻撃ではあるが、それを右腕で防ぎ受け流す。さらにカウンターで神村の腹に膝蹴りをヒットさせる。

 

「───!!」

「ハァ…ハァ…。やっと一発入ったッ!」

 

 

 完璧に決まったというわけでは無いが、確実な一撃。今まで防戦一方であった人間が突然、攻撃を防ぐだけではなくカウンターまで決めた。

 

 しかし───攻撃を当てたにも関わらず、蓮の表情は喜びとはかけ離れたモノだった。

 むしろ、奇妙なモノでも目の当たりにしたかのような懐疑的な表情を浮かべる。

 

(なんだ……今の手応えは? 人間、だよな?アイツ……)

 

 人間の肉体を蹴ったにしては妙な手ごたえだった。硬すぎる。修錬によって鍛えられた肉体とか、そんな言葉で片付けていいレベルではない程に。

 

 

 

 一方、攻撃を喰らった神村は、受けた腹の箇所を手で押さえ蓮と同じく僅かに動揺した様子を見せ冷や汗を流していた。

 

(驚いたわね……なんて成長速度。私を喰らって、この闘いの中で進化している。《紫黒》サマの言う通りね)

 

 

 ほんのわずかながら動揺するものの、一瞬で自分を諫めて冷静さを取り戻した。

 目の前の少年の成長速度を目の当たりにした神村は自身が持つ認識を改めて蓮を見据える。

 

 その目は先ほどよりも強く、深く、鋭い闘気を内に宿しているようだった。

 

 

(ま、私がこの戦いの中で追い越されるなんてありえないけど……万が一、いや、億が一と言う事もある。出来るだけ早めに終わらせましょうかね。さっきの2人の事もあるし、手っ取り早く済ますために()()を使いましょう)

 

 

 神村は神奉者となった事で新たに得た能力───

───“発電能力”を展開する。

 

 神村の身体の周囲を蒼い雷がほとばしり、青い髪を逆立たせる。目も青く変わり、まるで雷神の様な風貌へと姿を変える。

 突然発生した謎の電気を目に捉えた蓮は驚愕した表情を浮かべた。

 

 

「───ッ!?!」

 

 なんだあれ……電気? 《瞬目厳禁(アクセルスター)》が能力じゃないのか? また能力の応用技? いや、そんな感じはしない。

 いや、そんなことよりも……明らかにさっきより強いぞ!?

 

 

 彼女から溢れ出る強大なエネルギーと覇気。それを強化した五感で感じ取り、急いで臨戦態勢を整える。

 一度引いて体勢を立て直そうかとも考えたが……今、彼女から一瞬でも目を離すことは危険だと判断し、その考えをすぐに捨てる。

 

 

「…………ふぅー」

 

(───何か来るッ!!)

 

 

 瞬き一つせず、全神経を研ぎ澄ませ敵を見据える蓮に隙は無い。例えどんな攻撃が来ようとも対応してやる。そんな覚悟と気持ちで溢れていた。

 

 ────しかし………

 

 神村鳴海はしっかりと両脚を踏み込み、跳躍するような構えを見せる。

 力を脚に集約させ、一息に爆発させ蓮に向けて一気に加速し突撃してゆく。

 

 先程までとは比べ物にすらならない圧倒的な速度、圧倒的に鋭い加速。

 蒼き雷を身に纏い、正真正銘の轟音を鳴らし加速する神村。

 

 その技は()()にすら届きうる速さを持った一撃だった。

 

 一瞬とも呼べない刹那の間に蓮の眼前へと迫る神村鳴海。

 拳が届く直前、蓮は野生の勘で咄嗟に両腕をクロスさせガードしたものの、防御など関係ないと言わんばかりに、神村鳴海の拳は楽々と防御を打ち砕き殴り飛ばした。

 彼女の拳を受けた両腕はぶっ壊れ、バキバキと骨が粉砕された音が鳴り響く。

 

 

 大地を蹴り砕き……。

 空気を切り裂き……。

 何もかも置き去りにするような……。

 

 まさに……『神速の一閃』と言える一撃。

 

 

 

 それは、蓮が追い求め、理想とする技そのものであった。

 

 

 

 自身の肉体速度を向上させる瞬目厳禁(アクセルスター)

 “発電能力”で生成した電気を利用し、自身の肉体に電気の負荷をかけることで運動能力をさらに向上させる技術。

 

 

 その二つの能力を応用し、掛け合わせて辿り着いた神村鳴海の奥義。

 

 ───その名も……

 

 

「───《“音戟(ソニック)”》───」

 

 

 《“音戟(ソニック)”》を喰らった蓮の身体は超高速で後方へと吹っ飛んでいき、しばらくすると岩に激突し動きが止まった。

 その姿は見るも無残な風貌になっており、白く淡い色だった両腕は《“音戟(ソニック)”》を受けた影響で赤グロく変色し、頭や口からは血を大量に流している。

 

「ガッ……ア゛ァあ、……ッ」

 

 呼吸は荒く、目はうつろになり、痛みに悶えて声にならない音を口からこぼす。今にも力尽きて死にそうな様子だった。

 地面に倒れる蓮に神村はカツカツと足音を鳴らし近づいてゆく。

 

「大したものよ……コレをまともに喰らってまだ意識あるとはね。殺さないようにしたとは言え、その怪我で何で意識落とさないのよ?」

(両腕は壊れて、骨もバキバキ。内臓だって傷ついてる筈よ。それなのにまだ意識を保つとはね。一体どんな()()()してんのよ)

 

 

 痛みに慣れていない者に耐えられるダメージではない。それなのに意識を落とさない蓮に対して神村は懐疑的な視線を向ける。

 しかし──勝負がついたのは明白。

 神村は地に倒れている蓮の傍まで寄り、髪を鷲掴んで顔を上げさせる。

 

「う゛っ……ゲホッ……」

「正直驚いてるわよ。まだ一週間ぽっちの経験しか積んでいないアンタが、これだけやれるとは思ってなかったわ。あと二年早く訓練を積んでおけば善戦ぐらいは出来たかもね」

「…………っ」

 

 落ちそうになる意識の中で、蓮は神村鳴海の言葉を聞いて歯を食いしばる。

 全身に激痛が走り、血を垂れ流し続ける身体。両腕は砕き折れ、他にも骨が折れている箇所はあるだろう。

 

 

 しかし───心は折れてなどいなかった。

 

 

「───なせ……、ッ」

「ん?」

「離、せ……、僕の身体(恋姉のモノ)に、触るな……」

 

 闘気が微塵も衰えていない瞳で神村鳴海を睨み付け、力を振り絞って無理やり口を動かし声を出した。

 

 この状況でも相手に対して戦う姿勢を見せる蓮。

 これだけの実力差があり、すでに勝敗は決したと言ってもいいこの状況でも、何一つ諦めようとしていない意思を神村鳴海はその瞳から感じ取った。

 

 

「この状況でも諦めてないようね。良い目してるわよ。バカと言うか何というか……神に狙われるだけはあるわね。才能もあって、心の強さも申し分ない。でも肝心の“強さ”が足りなければ意味ないわよ」

 

 神村は蓮の髪を掴んでいる手の力を強める。

 

「教えてあげるわ。どれだけ足掻いても、諦めずに心を奮い立たせようと、結局アンタは高速(ノロマ)でしかない。それが現実で、それが全てよ」

 

 髪を掴んで蓮の身体を持ち上げる神村は、反対の腕を後方に振り上げ拳を打つ予備動作(モーション)を取る。

 

 

高速(アンタ)”じゃ“音速(ワタシ)”に追いつけない(勝てないわ)

 

 

 言いたい事だけ言い終えると、神村は拳を蓮の腹に向けて放ち鈍い音を鳴らす。

 拳を喰らった箇所である腹部は醜く凹み、骨や内臓が傷ついた様子を見せる。

 

 ダメ押しの一発を喰らった蓮は血反吐を吐いた後、ゆっくりと意識を手放した。抵抗する力も、闘気も、何もかも今の一撃で沈められた。

 

 

 蓮の意識が失われ、抜け殻のようになった蓮の身体を脇に抱える神村鳴海。少しやってしまったとでも言いたげな表情を浮かべながら頭をかく。

 

 

「任務完了。はぁ~……まずいわね、つい熱くなってやり過ぎた。《紫黒》サマに怒られるかも……。獲物をいたぶる癖、直さないといけないわね。まぁいいわ、とりあえず魔防隊の増援が来る前に去るとしましょう」

 

 

 今日の『組長会議』のタイミングを狙ってやって来た神村は組長達が増援にやってくるのを恐れていた。

 いくら彼女でも魔防隊が誇る組長達を何人も相手にするのは手に余る。

 

 特に───

 

 ───魔防隊・総組長 “山城恋(やましろれん)

 

 ───魔防隊・元総組長 “(あずま)海桐花(とべら)

 

 ───五番組組長 “蝦夷夜雲(えぞやくも)

 

 ───六番組組長 “出雲天花(いずもてんか)

 

 ───九番組組長 “(あずま)風舞希(ふぶき)

 

 

 自分と同じく、神奉者として神に仕える()()()()()()()()()()からの情報を聞き、神村鳴海が特に警戒する上記5名の者。

 桃の能力、戦闘技術、人間としての強さ。

 全てが規格外のバケモノ共。

 

 

下村夢路(しもむらゆめじ)の言ってた事が本当なら、正直この5人とは()りたくないわね。ま、そのために“発電能力”を使って()()()使()()()()()()()()()()。ってこんな話してる場合じゃないわね。さっさとこの場を───!!」

 

 

 他の魔防隊員が来る前に、山城蓮を連れてさっさとこの場を立ち去ろうとする神村鳴海。

 ───しかし、そんな彼女の背後から()()()()()()()()()()

 

 

「──《東の辰刻(ゴールデンアワー)》── 五秒止まれ!」

 

 

───5秒止まる

 

 

 神村の背後から気配を消して迫り、八千穂はポーズを取り能力を発動。

 世界と共に神村鳴海の動きは音も無く完全に止まる。

 

 六体の醜鬼を殲滅し終え、蓮の元へと駆け付けたが、蓮の様子を目で捉え自分達が遅すぎた事を理解し歯を食いしばる。

 

(チッ、遅すぎたようじゃな……!!)

 

 現状に舌を打つ八千穂。それと同時に、ほぼゼロ距離で神村の頭部めがけて銃弾を発射。

 数発の銃弾を撃ち終えると、五秒経ち、世界は再び動き出す。

 

 八千穂の目論見では今の攻撃でチェックメイトと踏んでいたのだが、動き出した世界で見た現実(モノ)は想定していたものとは全く違う結果だった。

 

 

「グッ……!! 痛っったいわねぇ!!」

 

「効かんじゃと!?」

 

 

 ゼロ距離射撃の攻撃ですら、神村鳴海を倒すことは出来なかった。

 撃ち込んだのは魔都用に強化された銃。普通の銃だったとしても、この距離で喰らえばタダでは済まないはず。

 それなのに、『痛い』で済んでいる彼女に対して、八千穂は驚愕した表情を向ける。

 

(どんな肉体しておるのじゃ!? こやつに銃は効かんようじゃな……。ならば───!!)

 

 

 目の前の敵に対して自身では火力不足という現実を冷静に受け止め、八千穂は攻撃力と言う点で自分を大きく上回る友の名を吠える。

 

 

「サハラ……!!」

 

「《怒れる羊(クレイジーシープ)》───『2』!」

 

 八千穂の呼びかけに応えるように、神村の背後から今度は若狭サハラが迫る。

 定めた能力強化時間は『2』。能力を展開した瞬間、金色(こんじき)のオーラが彼女の全身を包む。

 

 湧き上がる力に身を任せ、蓮を抱える神村に対して右拳を打ち込み殴打する。

 

「はぁーッ!!」

「……クっ!!」

 

 突然の奇襲。蓮を抱えながら相手取らなければならない状況。そして、若狭サハラの強烈無比なパワー。

 それらが、神村鳴海の意識を防御に集中させた。その結果、蓮への警戒が薄れ隙が生じた。

 

 その隙を逃さず、サハラは神村から蓮を取り返し、蓮の身体を抱えて一度離れて体勢を立て直す。

 それを見て、八千穂もサハラと同様にその場をすぐさま離れた。

 

「あっ!! しまった……、やっちゃった。はぁ~」

 

 蓮を奪われたことで神村は頭を掻きながらため息をつく。その後に、首を振りながら『まぁいっか』と小さく呟いた。

 蓮を取られて尚、その顔からは余裕の感情が消えはしなかった。

 

 

 

 一方、蓮を取り戻し、神村鳴海から離れて距離を取った八千穂とサハラは……

 

「サハラ! 犬っころは……!?」

「大丈夫、生きてはいる……けど、傷がひどすぎるよ。すぐに病院に運ばないと!」

 

 全身から血を流し、身体のあちこちが赤黒く変色している蓮の状態を見て、八千穂は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。

 

「……クッ!!」

(やはり……組長の居ないこの時に、寮の外に出すべきではなかったの……!!)

 

 

 その表情が表す感情は、自身の弱さや不甲斐なさに対して、苛立つような感情が籠ったものだった。

 それと同時に、もしこの場に居たのが自分ではなく出雲天花だったらという考えが頭の中に湧いて出た。

 

 

(出雲組長であれば、見す見す敵に分断されるような失敗(ヘマ)はせんかったはずじゃ。出雲組長であれば、すぐさま駆け付け守っておったはずじゃ……)

 

 

 神村鳴海はそうしない為にこのタイミングを狙ったのだから、こんな事を考えても意味が無い。

 タラればを言っても仕方がない。そんな事は八千穂も分かっている。

 

 ───しかし……

 

 組長(天花)が居ない間、『山城蓮』を()()()()()()()()を果せなかったという事実が、彼女の心を沈ませた。

 そんな彼女の心境を理解し、若狭サハラは彼女に声をかける。

 

 

「やっち……!!」

「───ッ!!」

「やっちだけじゃなくて私にも責任はある。反省は後で一緒にしよ。今は……目の前の敵に集中だよー」

 

 

 力尽きて横たわる蓮の身体を支えるサハラ。八千穂を落ち着かせる為か、はたまた八千穂を励ます為か。それは分からないが、サハラは八千穂に笑顔を向けながら言葉を送る。

 しかし、サハラの拳は今にも血が流れそうな程に力強く握られていた。

 

 八千穂もそれに気付いて冷静さを取り戻し、こちらに近づいてくる敵を見据える。

 

 

「サハラ……。そうじゃな。犬っころの事もある、時間はかけてられぬな。(みやび)に瞬殺でゆくぞ」

「うん……!!」

 

 

 八千穂は迫ってくる敵を見据え、サハラは抱きかかえていた蓮を優しく横に寝かせる。

 これから起こるであろう戦いの余波に巻き込まないために、2人も神村鳴海の方へと近づいて行き蓮から距離を取る。

 

 一定の間合いまで距離が縮まると三者共に足を止めた。

 一触即発の雰囲気の中、最初に口を開いたのは神村だった。

 

「……私の目的は山城蓮の身柄で、アンタ達に用は無いわ。今すぐ消えたら見逃してあげるけど?」

 

「断る。ウチの組長からあの犬っころの事を任されておるのでな」

 

「右に同じくかな〜」

 

「あっそ……。ま、だと思ってたけどね」

(……驚いたわね。まさか、あの改造醜鬼六体をこの短時間で倒すとは……、もう少し時間がかかると思っていたのだけれど)

 

 

 あの醜鬼で彼女達を倒せるとは思っていなかったけど、想定以上の速さでこの場に駆け付けた二人を見て神村は舌を巻く。

 それと同時にこれからどうするのか頭を回し始める。

 

 

(さてと……どうしましょう。さっき《“音戟(ソニック)”》使っちゃったからしばらく瞬目厳禁(アクセルスター)使()()()()のよね)

 

 

 《“音戟(ソニック)”》とは、瞬目厳禁(アクセルスター)と“発電能力”を掛け合わせて完成させた神村鳴海の奥義。

 しかし、圧倒的な速さと攻撃力。その引き換えに、瞬目厳禁(アクセルスター)燃料不足(オーバーヒート)を起こしてしばらくの間使用不可となる。

 

 二人が来るにはまだかかると踏んでいた神村は自身の判断ミスに頭をかきながらため息をついた。

 

 

「はぁ~、仕方ないわね……。()()を使うとしますか」

 

「「───??」」

 

 『アレ』……その言葉が指すモノを警戒するかの様に八千穂は銃を構え、サハラも臨戦態勢を整えた。

 神村はそんな2人に睨まれながら、右手を前に伸ばし空を見上げる。

 

 

 すると次の瞬間───空から一本の錫杖(しゃくじょう)が降り落ちてきた。

 

 

 その錫杖は神村鳴海の目の前の地面に突き刺さり、神村はそれを右手で引き抜く。

 手に取った瞬間、彼女の発電能力はさらに強まり周囲に電流がほとばしった。

 

「神からもらった武器。アンタ達はこれで倒してあげるわ」

(能力が回復するまではコレでやるしかないわね)

 

「サハラ……」

「うん、分かってる。あの武器は注意しろだよね~? 私が前に出るからやっちは援護お願いね」

「あぁ……、分かっておるわ」

 

 サハラが前衛で八千穂が後衛。能力的に考えてもそれがベストな陣形。2人はセオリー通りの陣形を組んで敵を見据える。

 

「作戦は決まった? なら、行くわよ……」

 

 

 

 神村鳴海の声と共に、3名の闘気、拳、武器、そして能力が交差し交じり合って無数の火花を生んだ。

 ───魔都での神奉者との激闘は、第二ラウンドへと加速してゆく。

 

 


 

 

 ───神村鳴海の発電能力について解説

 

 神村鳴海と発電能力はとても相性が良く、大きな効果を発揮している。

 身体に流して運動能力をあげる事や、特殊な電磁波を周囲に発生させ電波を妨害することも出来る。

 

 しかし、()()()()()()火力が足らず電気そのものを放出して相手にぶつけるなんてことは出来ない。

 

 

 





読んでいただきありがとうございます。
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次回『もう一人の“敗北者”』


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