一定の距離を開けて睨み合い、対峙する三名。
最も早く動き出したのは若狭サハラであった。
「はぁああーー!!」
「───ッ!!」
サハラの能力『
蓮との訓練で見せていたモノとはまったく
「───へぇー、やるわね」
(思ってたより、遅い? これなら……!!)
迫りくるサハラの連打を神村は後方へ飛ぶことで回避。“
サハラと八千穂は当然ながら彼女が数年前、魔防隊員を殺した神村鳴海であることに気付いている。過去の資料から彼女の能力がスピードを強化する類の能力だということも。
──しかし、今の彼女からはそんな驚異的な速さは見受けられない。疑問に思う両名であったが、それを好機と見て追撃する。
「成程、凄まじいパワーね。でも───」
発電能力を応用した運動能力強化でサハラの猛攻を何とか躱し続ける神村。そんな彼女は手に持つ錫杖を振りかざし、サハラに向けて電気を放出し攻撃する。
振りかざしたのと同時に、サハラの上空から雷が降り落ちてきた。
「ッ!?───う゛ッ!」
錫杖から放たれたまるで雷の様な攻撃を、咄嗟に横に飛んで回避。しかし、予想すらしていなかった攻撃が放たれ、一瞬反応が遅れてしまいサハラは足に僅か電撃が命中する。
「うわっ! ビ、ビックリしたー」
しかし、攻撃の派手さにしては威力の方はお粗末なものだった。喰らった足は多少傷つき焦げているものの特に問題は無い。
サハラはむしろ、攻撃を喰らった事よりも電気による攻撃が来たことに驚いている。当然と言えば当然。むしろこれが正しい反応。情報とは全く異なる能力を敵が有していたので、驚愕しても無理はない。
(……やっぱり、電力を高める錫杖を使っても威力はこんなモンね。体外に放出すると、どうしても威力が落ちる)
一方、攻撃を決めた神村は電気を喰らって尚、大して効いた様子を見せないサハラを見て、目を細めて首を振っていた。
有効打にならなかったのは“
だが、それ以上に神村鳴海自身が体外に電気を放出するのが極端に苦手であったことが最も起因している。
所詮は与えてもらった借り物の
電力を高める
「サハラ、無事か……!?」
「うん! 平気だよ〜! 戻さなくて大丈夫〜!」
「……そうか(……私様は、何も出来ぬのか……?)」
理由は分からないが、神村鳴海の身体は硬度が高すぎて銃弾が効かない。たとえ時間を止めようと、攻撃と言う点で自分は役に立てない。その事がもどかしく、とても腹立たしい。
しかし、時を止めて再び攻撃に行っても能力を一回分無駄にするだけ。八千穂はそれをちゃんと理解している。
何もできないもどかしさを嚙み殺し、何時でも能力を発動できるように備える。
「はぁー!!」
「……鬱陶しいわね!」
拳、蹴り、とにかく攻撃を繰り出し続けるサハラ。
サハラの戦術は至極単純。
攻めて攻めて攻めまくる。防御などほとんど考えずに。
なぜ敵は電気系の能力を扱えるのか?
なぜ敵はスピードの能力を繰り出してこないのか?
出し惜しみ。自分達をナメてる。使えない何らかの事情がある。どんな理由かは分からない。
が、それらの疑問に対して深く考えるのは無駄。
どんな理由であろうと、今の状況が自分達にとって好機であることは間違いない。
それに、後ろには東八千穂がいる。それならば、たとえ自分がやられても大丈夫。やられたとしても、後ろに居る頼りになる副組長が何とかしてくれる。
だからこそ───攻めまくる!
絶対的な信頼と覚悟。その二つを胸に刻み、若狭サハラは駆け抜ける。
敵が本領を発揮する前に。この状況が続いている内に倒すつもりで。
「はぁーーッ!!」
(コイツ……、防御を考えてないわね!)
躱しても、いなしても、サハラの連続攻撃は止まらない。電撃を出す暇もなく、ただ避けるかいなすだけで精一杯。ほぼ捨て身と言ってもいい突撃が神村を防戦一方に追い込む。
雨の様に何度も降りかかるパンチとキック。止まらぬ連続攻撃を鬱陶しく思い神村は心の中で舌を打つ。
(チッ……仕方ないわね)
再び、迫りくるサハラの右ストレート。
さっきまでであれば避けていたモノであったが、今度は
(放電……!!)
サハラの右拳と神村の錫杖が衝突した瞬間、サハラの身体には強力な電流が流れた。一瞬、サハラの動きが麻痺によって止まる程の。
「───うッ!!」
「ようやく止まったわね!!」
その一瞬の硬直を見逃さず、神村はすぐさま雷を落とす。今度は先程と違い、避けることが出来ずにもろに受けてしまった。
放電による攻撃で痺れて、身体に力が入らず碌な防御が出来なかった故に、今度は大ダメージが入る。
それを確認するや否や、すぐさま八千穂は能力を展開。ルーティンであるポーズを取り、過去へと戻り電撃によるダメージを
「──《
───5秒戻る
「はぁーーッ!!」
(コイツ……、防御を考えてないわね!)
躱しても、いなしても、サハラの連続攻撃は止まらない。電撃を出す暇もなく、ただ避けるかいなすだけで精一杯。ほぼ捨て身と言ってもいい突撃が神村を防戦一方に追い込む。
雨の様に何度も降りかかるパンチとキック。止まらぬ連続攻撃を鬱陶しく思い神村は心の中で舌を打つ。
(チッ……仕方ないわね)
サハラが再び、右拳による攻撃を繰り出そうとした瞬間───
「サハラ、その錫杖に触れるでない! 感電する!!」
「───ッ!!」
───後方に控えていた八千穂から待ったがかかり、サハラは繰り出そうとしていた拳を無理矢理引っ込め後ろに後退する。
「……あらら、せっかくカウンターを決めようと思ったのに」
(ま、この錫杖壊れやすいから、敵が勝手に引いてくれてラッキーだったと考えましょう。それよりも……厄介ね、あのツインテール女)
八千穂に対して鋭い視線を向ける神村。思惑が上手くいかなかった事を腹立つ様子も無く、ただ今の状況を冷静に見極める。
(う~ん、能力的に言えばあのツインテールの方が厄介ね。例えあの馬鹿力の方を先に殺しても、それを
八千穂の能力『
攻撃力で言えば恐れる必要もない。だが、それでもなお警戒しなくてはならない能力者。
攻撃に参加しなくとも、ただその場にいるだけで戦いを支配できる。不都合な結果をリセットし、都合の良い未来へ導ける。後方支援と言う点で、これ程厄介な能力はそうない。
(……ムカつくわね、あのツインテール)
自身から距離を取った2人を鋭い眼光で睨み付ける神村。
その瞳には、八千穂に対する殺気が凝縮されており、見るもの全てを凍てつかせる程の悍ましいものであった。
(………ん?)
そして、彼女の苛立ちが燃え上がるのに対し───彼女の
(ハハっ、戻ったわね)
自身の
「ありがと〜やっち。今結構危なかった〜?」
「あぁ。おそらくじゃがあの錫杖、あやつが放出する電撃とは比べものにならんほどの電流を内に宿しておる。厄介じゃのう」
一度八千穂の元まで引いて体勢を立て直したサハラ。両名は再び神村から距離を取り、呼吸を整えると同時に神村と同じく思考を回していた。
「触れたら感電するってことだね〜。でも、急いで何とかしないと」
「あぁ……分かっておる。色々と不可解な点は多いが、サハラの言う通り急がねばならんようじゃな」
二人が急がないといけない言っている理由は二つ。
一つは言わずもがな蓮の容体。いくら蓮の身体が能力で強化されて頑丈だと言っても、あの傷は尋常ではない。
二つ目はサハラの『
彼女が設定した分数は『2』。能力発動から既に1分以上経った。
時間切れになれば八千穂1人で倒す、もしくは再びサハラが能力を使えるように3分稼がなければならない。
───だが、2人は気づいている。
二つ共、ほぼ
一対一の状況で、相手の耐久力がこちらの火力を圧倒的に上回っている場合、八千穂は後手に回るしかない。
だからこそ目指すは瞬殺。しかし、焦りは禁物。敵の狙いが蓮の身柄ならば、自分達が負ければ蓮を連れ去られてしまう。そうなってしまっては意味が無い。
「とにかく、戦法は今のままでゆくぞ。サハラはガンガン攻めまくればよい。何かあれば、先ほどの様に私様が援護する」
「うん……!! 了解!」
互いに視線を交差させて士気を高める2人。そんな2人に、神村は足音を鳴らしながら近づいてゆく。
「作戦は決まった?……まぁもう意味な──」
「──はーーっ!!!」
彼女の言葉が出終える前に、サハラは拳を握りしめて向かってゆく。
(話は最後まで聞けっての)
(防御態勢に入ってない!! これなら入る!)
拳が迫っているにも関わらず、錫杖も構えず防御態勢に入らない神村。それを見てサハラは奇襲が成功したと思い、全力で拳を振るった。
だが、彼女の拳は──……
「……ぇ?」
身体を少し動かして避けたとかそんな低次元の動きではない。彼女は、一瞬でサハラの視界から消え去ったのだ。
“
背後に回った神村はサハラの頭目掛けて腕を横一閃に振るう。いまだに何が起こったのか理解できていない彼女がそれを避けることは不可能だった。
「──《
吹き飛ばされた仲間の姿を見て、すぐさま能力を発動しようとした八千穂だった。が、技のおこり途中で腹に拳を喰らい、自身も吹き飛ばされてしまう。
「オ゛ェ‶……グッ……(は、速すぎる! 聞いていた話以上じゃ!!)」
身体が後方へと吹き飛んでいく最中、飛びそうになる意識を必死に保ちながら、八千穂はこちらを嘲笑している神村の速度に驚愕した。
──八千穂には神村鳴海に対応できる自信があった。
最近入隊してきたクソ生意気な
幼少の頃から大事な妹を苛めるクソムカつく
山城蓮と
だが、神村と比べると……両名ともに、天秤の対にはなりえない。それ程の
(犬っころは時速500~600㎞程であった! じゃが此奴はッ……恐らく時速
ようやく吹き飛んでいた身体が勢いを失い、地面へと落ちる。すぐさまに態勢を整えようと能力発動を試みるものの……。
「──《
「だから無駄だって言ってるでしょッ!!」
「ガハッ!!」
拳を喰らい血反吐を吐く八千穂に対しても、神村は決して手を緩めない。彼女の身体を甚振り続ける。
「やっぱりね! 時間軸に干渉する能力はその妙なポーズをしなきゃ使えない! 私が相手じゃそれは致命的ねッ!!」
何度も、何度も何度も。《
攻撃を繰り返す神村に、額から血をダラダラと流すサハラが迫る。
「やっちを虐めるなぁ~~!!」
「(あ、そういえばコイツ居たわね)アンタは引っ込んでなさいパワーだけ女ァ!!」
神村は迫りくるサハラに対応すべく八千穂への攻撃を中断。サハラは先程よりも強く、素早く、拳を振るい続ける。
が、目で追うことすら難しい彼女の前に成すすべなく蹂躙される。
「サハラッ!!」
振るう拳は全て躱され、蹴りは全ていなされる。
逆に神村の拳は、的確にサハラの身体に超高速で打ち込まれていく。
「(好機ッ!! サハラに気を取られておる!)
──《
───5秒止まる。
サハラの突撃によって生まれたほんの一瞬の隙を見逃さず、八千穂は痛む身体を必死に動かし能力を発動させることに成功した。
(今の状況で戻しても意味はないのじゃ! ならば、銃弾をありったけ食らわせて動きを止める!)
今すべきは
そう思い、時を止め、サハラと神村の方へと銃を構えた。
──……しかし。
「ッ!!? おらんではないか!?」
銃を向けた先に神村は居なかった。居たのは直前まで攻撃を喰らって、自身の血を周囲にまき散らすサハラのみ。
すぐに周囲に目を向けるものの、神村の姿は見えない。
「ど、何処へ行きよった!?」
5秒経つ直前。すなわち能力が切れて世界が再び動き出す直前。八千穂は視線を地上ではなく空中へと向けた。
そこには、遥か上空から見下ろし、こちらに対して薄気味の悪い笑みを浮かべている神村の姿があった。
(射程外…! 私様の射程範囲、もう完全に見切っておるのか!?)
5秒経ち、世界は再び動き出す。
瞬間、《
「言ったでしょ」
「──は?」
瞬きすらしてない。一瞬たりとも敵から目線を外していない。そもそもさっきまで自分の射程外に居たはず。それなのに神村が今、自分の背後にいるという事実を八千穂の脳は理解できなかった。
「致命的だってねェ!!!」
魔防隊の制服を掴み、そのまま周囲に土煙が上がるほどの勢いで地面へと叩きつけた。
そして地面に伏し、衝撃で意識を失った八千穂の頭をグリグリと踏みつける。
「ハァ…ハァ…。や…やっち…(私が頑張らなきゃ……やっちと蓮君を、守らなきゃ。)」
「……まだ向かってくるの? いい加減倒れなさいよ」
自分の組の副組長を。自分の親友の頭を踏みつけにする神村を睨み、サハラは歯を食いしばって再び拳を握る。
しかし──……最悪な現実が牙をむく。
そう……『
今までサハラの身体を覆っていた金色の
しかし、それでもなお、
「はーーーッ!!」
「うわっ、能力切れてんでしょ? それでも向かってくるって……引くわ(魔防隊員って奴はどいつもこいつも)」
山城蓮。そして以前殺した3人の魔防隊員。サハラの諦めの悪さを見た神村は4名の顔が頭に浮かぶ。
そんなことはつゆ知らず、サハラは本来の身体能力だけで襲い掛かる。
だが、能力を使っても手も足も出なかったのだ。しかも戦闘の最中に負った傷のせいでまともに動くこともかなわない。
そんな状態の彼女が、神村と戦いになるはずがない。
「(鬱陶しい。こんなやつ“
サハラの攻撃を躱しながら神村は右腕を横に伸ばす。
彼女の掌からは青い電気がほとばしっており、まるで彼女の呼びかけに応えるように。まるで磁石が引き合うように。
先ほど手放した錫杖が高速で空を飛翔し、再び彼女の右手に収まった。
(また電撃が来る!? ガードを!)
錫杖を再び手にした神村を見て、サハラは防御態勢を取る。先程と同じ威力の電撃であるならば、防御さえすれば能力なしでも死なない可能性がある。
そう判断し、全身にあらん限りの力を籠める。
しかし、神村が繰り出したものは
神村鳴海は体外に電気を放出するのが極端に苦手としている。電力を高める
だからこそ今度は──限界まで
神村の放出する電気エネルギーが切っ先が鋭い
そして──……
「───《“
「………ぇ」
自身の腹が“
残酷な事に、それから丁度5秒経つと同時に、東八千穂は意識を取り戻す。
朧げな意識の中、霧がかかったようなぼやける視界が少しずつ晴れていく。
最初に、その目がとらえたものは──……腹を貫かれ、血だらけで地に伏す無残な友人の姿であった。
「………………さはら?」
「あ、起きたのねマヌケ? そのまま眠ってたら楽に死ねたのに」
読んでいただきありがとうございます。
評価・感想いただけると幸いです。
次回『副組長として』