『血塗られた月のクドラク』〜余命わずかな病を克服するため、闇の王へと堕ちる話〜 作:人見 広介
Dr.サルトゥイクから早めの朝餉をいただく。夜明け時には出立するつもりだった。
羊肉の入った麺料理や、濃厚なミルク粥を前にして、二人は獣のようにがっついた。
喉を鳴らしてミルクを飲んだ後、クルースニクは喜色満面の笑みを浮かべる。
「……おいしい。クドラク君、これおいしいよ!」
「チーズもイケるし、肉も出汁が染みている……さすがは遊牧民族。肉料理がうまい……はむっ」
「クハハハッ! 食が捗るようなら、もう体調は回復したようですな。お気に召したなら幸いだ」
Dr.サルトゥイクはひとしきり笑い、麺料理を口に運んだ。
黄金の覆面が水のように波打って、手元のフォークを口まで透過させる。
食事の最中でも覆面を外さないことは、すでにクドラクは知っていた。
クルースニクは初めて見たようで、物珍しげにDr.サルトゥイクを見つめる。
「……不躾な質問だったら申し訳ないけど、なんでおじさんは食事中でも覆面を外さないの?」
「昔からの癖ですな。今でこそ『サルトゥイク』と名乗ってはいるが、昔は別の名と地位を得ていたものでして。昔の吾輩を知られるのが嫌なのです」
彼は正体不明であることを好む。
素性に関する質問をのらりくらりとかわし、風呂以外の片時も覆面を外そうとしない。
数年来の付き合いであるクドラクも、同部族の者すらも素性を知らない。
(……教授が歴史の表舞台に立ってから、ざっと百数年は経っているはずだが。実年齢はもっと年上ってことなんだろうな)
深入りすべきではない、とは感じていた。
藪蛇になるからではない。相手が触れられたくない以上、余計な詮索は不躾である。
「まあ、長く生きてきたおかげで、実力だけは相応に身についているつもりです。本来ならお二方の旅に同行したいのですが……」
「狂奔の後始末をしなければならないだろう。あまり僕のことは気にしないでほしい」
旅の方針をはっきりさせてくれただけでも、かなりの恩義を感じていた。
この上に同行いただくようなら、クドラクの方から申し出を断るつもりだった。
「面目ない。代わりと言ってはなんですが、吾輩の指輪をお渡ししましょう」
「指輪……?」
「内部に込めた死霊を呼び出して、従えることができます。戦闘時の秘密兵器も込めておりますぞ」
Dr.サルトゥイクは、懐から指輪を取り出す。ドクロの意匠が施された鉄の指輪だ。
「どう使うかは、後でお教えしましょう。六百あまりの死霊を詰めているから、数合わせの雑兵はこれで足りるはずだ」
「……これ、前に話していた『
Dr.サルトゥイクの研究は多岐に渡る。この指輪も研究の産物だ。
死霊の軍勢を操る指輪、と聞いている。
「クククッ、特別ですぞ。戦闘で壊れても構いませんから、好きに使い潰してくだされ」
「……ありがとう。何から何まで」
「お気になさらず。まあ、吾輩の玩具を上回る逸物が、公の邸宅で襲いかかってくるかもしれませんからな。それが役に立つといいのですが」
太古にいた業魔の子を産み出してまで、『何か』を公は求めている。
それが何かは知らないが、実験の副産物が故郷で牙を剥く可能性は充分にあった。
「……もし公が実験をしていたとして、楽園国の法律ではどう裁かれるんだっけ?」
「重罪扱いだ。少なくとも本人の死罪は免れない」
ハリストス楽園国は狩人の国だ。
『業魔から民を守ること』が国是の一つであり、聖林主導で日夜業魔を狩り続けている。
それもあって、業魔を活用する研究は基本的に違法であり、
「マヤコフスキー家は、魔王統治時代の反乱軍に属していた狩人からの系譜……今代の公も、清廉潔白な人物と評判だったはずなんだが」
「確か、四十歳の頃は優秀な狩人でしたぞ。領内に沸いた業魔の群れを、民をかばいながら命からがら討伐した武勇伝があったはずです」
過去や素性については知っているが、人格や素行となると聞いた覚えがなかった。
彼の領内で起きた業魔災害は、基本的に内々で処理される。こちらに依頼が来ることはなかった。
ただ、各地の公が開くパーティに呼ばれた際、ある程度の話は聞いたことがある。
「……彼には二人の娘がいた。どれも二十数年前に業魔災害に遭って、全員が死亡している。他に子供はいなかったはずだ」
「二十数年前……なら、私達の産みの母親は?」
「わからない。他に私生児でもいたのかも。……それにしたって腑に落ちない話だが」
仮に公が人体実験に関与していたとして、被験体が血縁者である必要があったのだろうか?
普通なら、身内を使い潰すのはリスクがある。
「ともかく、行けば全てわかることです。旅立つ前にいくつかのアドバイスを伝えておきましょう」
「お聞きしよう」
「まず、お二方を結ぶ管について。吾輩の見立てによれば、管の有効距離はせいぜい100m程度。それ以上離れると、思念が充分に届かぬ恐れがある」
つまりは、再び体が石化しはじめるのだ。互いに揃って行動する必要があるだろう。
「次に、お二方の呪いについて。お互いに『月』を本質とする呪いを得ておるでしょう」
「……少し珍しいよな。『炎』とかの自然現象がテーマの呪いなら、本質が被る事例は聞いたことがあるけど、『月』は彼女が初めてだ」
呪いの本質とは、その呪いが引き起こせる超常現象の特性を指す。
『炎』が本質の呪いなら炎を操る、と言った具合に、呪いには特性があるのだ。
狙い通りの現象を起こすには、『呪詞』というエネルギーへの命令文を魂から発する必要がある。
例えば、クドラクが得た『紅い月の呪い』は、文字通り『月』が本質の呪いだ。
月にまつわる諸事象を引き起こすことができ、使う呪詞も月に絡んだ物で占められている。
「私が使う『白い月の呪い』は、光を武器に変えたり、レーザーを放つけど……クドラク君は私より多芸だったよね?」
「技の種類は人より豊富だな。狼などの動物に変化したり、水や火を操ったり……他にもできるが」
やけにクドラクが多芸なのは、ひたすら技のレパートリーを増やす訓練をし続けてきたからだ。
影を操って姿を変化させ、月と海の親和性から水を操る――。
種類の豊富さは、彼の努力と試行錯誤の証だ。
「確か、僕達の親は対になっているんだったね」
「左様。古文書を見る限り、同じ性質の呪いを使っていたそうです。であれば……クドラク殿と同じ技をクルースニク殿は使えるのではないですかな」
教授の指摘は一理ある。自分のノウハウが彼女に活かせる可能性はあるだろう。
「少し試してみなされ。管に意識を集中して、イメージや記憶を送り込むのです」
「……わかった」
目を閉じて、精神を研ぎ澄ませる。
クドラク含む全ての呪い師は、『霊体の視覚』とも言うべき第三の視野が発達している。
冥府に適応したことで、霊的な感覚が身につくのだ。
(ああ、こうして集中するとわかりやすいな)
瞼の暗闇の向こうで、赤色と白色の管がそれぞれ浮かび上がっていた。
管の向こうには、白い満月のような魂がある。
その魂に向けて、クドラクは知識を込めた思念を送った。一瞬だけ、赤い管がまばゆく光る。
「おおぅっ!?」
ビビッと来たのか、クルースニクが変な声を上げる。クドラクは目を開けた。
「一個だけ、僕が使っている『呪詞』を送ったけど……どう? 使えそう?」
「んー、ちょっと待ってね。……【月影よ踊れ! 狼王の形を成せ!】」
少女が『呪詞』を口にすると、その体が急速に白い体毛に覆われ、骨格が変形していく。
すぐに湖面のような碧眼を持つ白狼に変化した。
「これ、クドラク君と会った時のやつだ!」
「……すごいな……本当にできるのか」
「お二人の管を活用しながら、旅を進めるのがよいでしょう。……最後に一つだけ忠告を」
変化を解いたクルースニクを見ながら、Dr.サルトゥイクは声をひそめる。
「今、各地で業魔共が活発になっているでしょう。ウチでも小火騒ぎが起きましたが」
「……ああ、そうだね」
「奴ら、草原の動物共も狩ったのですが……一部の業魔達がその魂を蓄え込んで、楽園国の北西方面へと向かっていくのを見まして」
北西方面――今行こうとするタルサデューク公領のある場所だ。
「現在、奴らを泳がせながら、後を尾けさせております。……ルートから見ると、タルサデューク公領が終点になると吾輩は見てましてな」
「……現地で一波乱が起きるかもしれないと?」
「左様。同じことに気づいた勢力は複数おりますな。『聖林』の巫女部隊も、騒ぎを起こした群れの一部をわざと逃すことが多くなった」
『聖林』の巫女部隊となると、最高権力者たる楽園公の指示で動いているのだろうか?
思い当たる節があったため、クドラクは頷いた。
「出奔の数日前、楽園公からそんな手紙が師父に届いたな。師父に業魔達の動向を聞いていた」
「……ほう、知り合いで? 姿も正体も知られぬ、御簾の向こうの最高権力者と」
「師父はあの人の友達だから。たまに僕も茶会に呼ばれて、少し話をする機会があった」
茶会で見た彼女は、淡い翠色の髪をなびかせる、白い絹の衣をまとった聖女だった。
人好きのする能天気な少女で、延々と冗談や世間話を喋っていた。
ただ、彼女は公的な場では姿を隠す。限られた者しか人となりを知らないはずだ。
「へー、すごい人と知り合いなんだね。たしか四百年くらい前から生きている人でしょ?」
「魔王統治時代が終焉する前に生まれたから、そのくらいになるだろうね」
「……くれぐれも、吾輩と親しくしているとは奴に言わないでくだされ。少しばかり因縁がある仲なので、クドラク殿の印象に悪影響があるやも」
Dr.サルトゥイクが口元に指を立てる。心なしか少ししゅんとしているようだ。
「因縁? しかし、あの人は公に姿を露わさないだろう。貴方と絡む機会はないような……」
「ごほん、話を戻しますぞ。……他にも北方森林地帯の者が楽園国北西に向かっております」
「うん? 私の故郷からも現地に行ってるの?」
「極北の永久凍土から、冬の王ジェド・マロースの一人娘が。ご存知ですかな?」
クルースニクがぽんと手の平を打つ。
「ニーナのことだね。私の友達だよ。なんで楽園国まで遊びに来てるんだろうね」
「後は、イドリシチェ尖塔群の狂科学者や、各地の強盗団などが北西部に移動しております」
「……それらの行き先がタルサデューク公領なら、現地で鉢合わせる可能性もあるか」
魂を輸送する業魔達、同時期に集う人間達、うす汚い所業に手を染める公――これらは災厄の前兆なのだろうか?
「……業魔共の動きが特に気がかりだな。何が起きようとしてるんだろう」
「何が起きたとしても、他勢力より先に父君の欠片を確保するのです。巫女共に破壊されたらたまったものではない」
「わかった。後、クルースニクの父親の欠片も、どうにか見つけてくるよ」
そう言うと、横のクルースニクが目を瞬かせる。
「私のお父さんの? 何に使うの?」
「貴女の発電体質をどうにかできないかなって……苦労しているんだろう?」
「あー、それか。……んー、昔はともかく、今は生命の危機はない訳だし……二の次でいいよ」
「これはこれで便利だしね」と言って、クルースニクは電気で空中に文字を描いてみせた。
『ありがとう♡』と書かれてある。
「体質は変えれぬわけだし、体に電流の耐性を付与するかどうかの問題になりますな。……アプローチは同じのはずだ。雷はペルンの領域だから……」
ぶつぶつとDr.サルトゥイクが呟きながら、思考の海に意識を潜らせていく。
「……うむ、わかりました。ペルンの欠片を見つけたら、吾輩に一報くだされ。可能な限り電流のダメージを減らしましょう」
「あっほんと? それはうれしいな。……ただ、余力があったらやる感じで!」
「クククッ、わかっておりますとも」
Dr.サルトゥイクの金の目が、にやりと笑う。飢えた獣がご馳走を夢想する時の目だった。
「しかし、楽しい旅路になりそうですな。きっと多くの血が流れる。忘れられぬ体験となるでしょう」
「……うらやましいかい?」
「ものすごく。吾輩も参加したいくらいだ。何歳になっても戦いは楽しいものですからな。……貴殿らは存分に楽しんでくるといい」
彼は殺し合いが大好きだ。血の沸くような戦闘を大いに好む。
今の発言にしても他意はないはずだ。
(……教授が負った代価は、『殺戮中毒』だったか。代価の中ではポピュラーな部類のものだ。殺しと戦闘が楽しくてたまらなくなる)
彼が率いる黒仏氏族は、『殺戮中毒』を負う確率が非常に高いことで知られる。
全員が呪い師である彼らは、同時に戦闘狂の集まりなのだ。
人間だろうが、業魔だろうが、血を流す敵はなんであれブチ殺す――それだけを誇りとしている。
(大なり小なり、呪い師は精神に異常を来たしている。代価として恐怖症や倒錯癖を獲得したり、感情の一部が欠落したり……よくあることだ)
だから、呪い師は同族の汚点に目をつぶり、友好的かつ紳士的に接しようとする。
自らも、呪いの代価で何かが歪んでいるから。
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簡単な旅道具をまとめた荷袋を背負い、夜明け時の草原に二人は出た。
涼やかな風が草を散らす中、昇りつつある朝日へと馬も連れずに歩く。
今のクドラクは礼服じみた白シャツと黒ズボン、黒いビロードのマントを着ている。
風がマントをめくる度に、赤い裏地が見える。
対する金髪の少女は、首元が花びらのような形をした、純白のマントを着ている。
白いブラウスの上に、丈が短い黒のコルセットワンピースを身につけている。
足には獣皮のロングブーツを履いていた。
白いベレー帽を被った頭には、青白い薔薇の髪飾りをあしらっている。
見慣れない色合いの薔薇を見つめていると、アクアマリンのような碧眼がこちらを見返した。
「いやー、奇妙な話だったねー。情報量がいっぱいで疲れちゃったよ」
「僕もだ。……見知らぬ故郷への旅、か。どうにも先行きが不穏だな」
「ま、何とかなるよ! 何が降りかかってこようが、実力で跳ね返してやればいいんだ」
自信満々な言葉に、クドラクは頷いた。
行く末に怯えても仕方ない。彼らはレールに乗った。終点まで走り切るだけだ。
障害物は蹴散らす他無いのだ。
「それにしても……貴女がいとこか」
「実感ないでしょ?」
「ない。昨日会ったばかりだからかな」
「私もだよ。お互いに、育て親以外に家族はいない状態で育ったじゃん。いきなり言われてもねー」
肩を並べて草原を歩いていると、傾斜の下に広がる丘陵地帯や、地平線の向こうの太陽が見える。
草原に茂るクローバーの葉に陽光が照り映える。
「えへへ、でも二人旅なんて初めてだよ。ちょっとワクワクしちゃうね!」
「……? ずっと一人で旅していたのか」
「うん。故郷を出てからは、ずっと一匹狼だった。人生で初めての旅仲間なんだよ、君は」
楽しげに笑うクルースニクに、目をやる。
「なぜ、一人で?」
「気ままに生きたかったから! 誰に縛られるでもなく、色んな場所を旅したかったんだ」
「……なるほど、貴女らしい」
「でもね、今はそれをちょっと後悔してるんだ。やっぱ、旅の仲間っていうのはいいね」
上機嫌なクルースニクは前へ出て、夜明けをバックにクドラクへ振り向いた。
「なんでだろうね? 故郷の群れにいた頃よりも、今の方が楽しいんだ。……クドラク君はどう? これから二人旅をする訳だけど」
クドラクは目をぱちくりさせた後、心臓の鼓動に耳を澄ませた。
一度は止まった心臓のビートは、いつもより軽やかなリズムを刻んでいる。
旅団在籍時は重苦しい音に思えた。寿命を刻む時計の音のように思えた。
今は、中々悪くない音色のように思える。
「……たぶん、僕も楽しい。少なくとも、旅団にいた頃よりは気が楽だ」
「えへへ、そう? やっぱり気が合うんだよ。お互いに似た者同士なんだ。だから楽しいんだよ」
クルースニクは笑いながら両手を広げた。
「ねえ、おまじないをしない?」
「どんな?」
「昔、お母さんから聞いたおまじないなんだ。お互いに一つの約束事を交わすんだよ。どんな苦難に遭っても、それだけは破らないようにする」
『何が起こっても』――彼女の口調に反して、重い誓いのようだ。
口にしたからには、身命を賭してでも守らねばならないように思える。
「明け方の太陽に誓って。吹き荒ぶ北風に誓って。約束を守ろうとする限り、同胞の心は自分と共にある。色あせない絆とともに」
「へえ、いいね。やろう」
クドラクはほほ笑む。こう言う験担ぎは、あまりやった試しはなかった。
「貴女は何を誓ってくれるのかな」
「そうだなぁ……厳しい旅になるだろうしね」
数瞬だけ考えて、クルースニクはドヤ顔で言う。
「どんな苦難があろうとも、君の隣にいること」
「では、僕は――どんな強敵と戦うとしても、貴女と一緒に勝つことを。験担ぎにはいいだろ?」
腰に佩いた直剣を抜き、夜明けを背に立つ少女へ掲げる。
彼女は懐から骨製の短刀を取り出し、闇を背に立つ少年の刀身にあてた。
「僕からは、明け方の太陽に誓って」
「私からは、吹き荒ぶ北風に誓って」
一陣の風が辺りに吹いた。しばらく刃を合わせた後、互いに剣を降ろす。クドラクが肩をすくめる。
「まあ、これからよろしくね。頼りにすることも多いと思うけど、僕も力を尽くすから」
「うん!」
「さて、遠出になるな。ここからタルサデューク公領は遠い。馬を走らせても一ヶ月はかかる」
クルースニクは首を傾げて問うた。
「そう言えば、移動手段をおじさんにお願いしてなかったね。歩きでのんびり行くの?」
「いや、馬より速い移動手段がある。さっき君に教えた呪詞のことだよ」
「ああ、狼に変わるやつ!」
「そうだ。【月影よ踊れ。狼王の形を成せ】」
クドラクの体は膨らんで、つややかな黒毛を持つ巨狼へと変化した。
慌ててクルースニクも呪詞を唱えて、まばゆい白毛を持つ天狼に変わる。
「この形態、馬より速いっての?」
「おまけに馬以上の持久力を持つ。早く走るならうってつけの形態さ」
黒狼は高く跳ねて、クルースニクの前方に着地した。到底、馬ではなし得ない跳躍だった。
クドラクが尾を振って、白狼を先導する。
「行こう。夜が来ると業魔が湧く。光を忌み嫌っていた連中が、闇の大地を埋めるだろう」
「それまでに、適当な寝ぐらに着かないとね!」
二匹の獣は、夜明けの光に向かって駆け出した。
一陣の風とともに草原を駆け、やがて痕跡も残さずに立ち去っていた。
TIPS:『呪詞』
呪いを行使するにあたり、冥府のエネルギーに命令する技法。出力内容を詳細に規定できる。
詠唱する手間こそかかるが、術者の意思に沿って呪いを使用することができる。
呪詞を発さずにエネルギーを操る場合、ごく簡単な技のみしか使えない。
戦場では、わずかな隙が命取りだ。
呪詞にしても短く簡素なものが求められる。二文以上の呪詞は、大技以外では歓迎されない。
呪詞のワードや組み合わせによって、効力は違ってくるため、この辺は呪い師の試行錯誤が物を言う。
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