『血塗られた月のクドラク』〜余命わずかな病を克服するため、闇の王へと堕ちる話〜 作:人見 広介
砲弾のような突進を避けつつ、クドラクは敵の隙を探った。
全身が砕けるように痛い。脂汗が体中に浮かび、呼吸も浅くなっている。
対するセルゲイは人質の首に刃を添えたまま、片手で猛牛の手綱を操っている。
【ひき肉にしてくれるわ!】
再び迫りくる巨牛を、マントをひるがえしながら避ける。
セルゲイは猛牛を大回りに走らせながら、左義手で断続的に砲撃を放ってきた。
(クルースニクがこいつを狙撃するためには、いったん奴の動きを止めてやらなきゃダメだ。鎖で拘束するか、地面に罠でも仕掛けるか……)
火のカーテンで射線を切りながら、砲撃を皮一枚で避ける。後方で土が爆ぜる音が響く。
次弾発射の間隔が短すぎる。霊体の弾ゆえか、弾数に制限もないように見える。
【グルルルッ!】
後方でゆらめく火の陰から、複数のゾンビ犬が飛び出してきた。
背中に飛びかかられるも、赤い光をまとう剣で屍犬達を斬り捨てる。
かと思えば、火のカーテンを裂いて、霊体の矢が四方八方から射かけられる。この戦場に集まっているゾンビ兵士達によるものだろう。
「観客が邪魔するなよ!」
マントで矢を防ぎながら、クドラクは剣を振って光波を放った。
矢を射かけてきた者共の一部が、真っ二つに両断される。
(まずいな、光波は切れ味が鋭すぎる。敵を貫通して人質に当たる恐れがある)
「……【光よ、消えよ】」
剣に凝縮されていた紅いエネルギーが、ふっと霧散した。後は自力でやるしかない。
第二の手を打つ前に、猛牛がうなりながら突進してくる。辛くも横っ飛びに避けることができた。
(ダメだ、やり辛い――ぎっ、が!?)
無理な運動をしたからか、石化した足骨の一部がビシリと割れる。そういう感覚と痛みがあった。
歯を食いしばって、猛牛相手に剣を構える。
(くそ……っ、こんな痛みさえなければ、麻薬さえあれば、余裕で対処できるのに……っ)
クルースニクに狙撃を頼みはしたが、本来のクドラクなら人質を即座に奪還し、この場にいる業魔達を皆殺しにできるはずだった。
集中力を欠いている今、人質を傷つけずに奪還する自信がないため、彼女に助けを求めたのだ。
(ピンポイントで急所を突くにしても、少しずれたら人質を傷つけてしまう。自分で仕舞いをつけられないのは恥ずかしい話だが……っ!)
こみ上げる怒りをこらえて、呪詞を呟く。
「【烟月よ燃えろ。外周に炎の柵を巡らせよ】」
地面から炎が噴き上がり、クドラクとセルゲイを囲む広範な円を形作る。炎の円は拡大していき、外野にいるゾンビ達を牽制した。
今や遮蔽物のない広場の中には、クドラクとセルゲイの二人だけがいる。
【貴様、これは――】
「外野には大人しく観戦してもらいたくてね」
炎の囲いを背にして、セルゲイは嘲笑った。
【俺一人に集中したい気持ちはわかるがな。勝手に芸をするのはいただけんなぁ?】
セルゲイは大斧の刃を走らせ、人質の少女の肌を切り裂いた。
苦しげに叫ぶ少女の傷口から、鮮血がぼたぼたと滴り落ちる。
「うううっ!? た、助けて……!」
【余計なことをするな。次に一歩でも動けば、この子肉の腕を切り落とす!】
「……卑怯者が。いいさ、来なよ」
言われずとも、もう一歩も動く気はなかった。準備はすでに終わっている。
激痛をこらえて立ち止まると、ゾンビの猛牛がいななきながら突っ込んできた。
【四肢を踏み砕いてくれるわ!】
「【
展開したバリアに猛牛が衝突する。
戦車に追突されたかのような衝撃が全身を襲い、石化しかけの内臓を圧迫し、激痛を発生させる。
少量の血を吐きながら、クドラクはバリアを地面に食い込ませ、突進を食い止めようとする。
「ぐっ、くくくっ……!」
【皮肉なものよ。後ろを見るがいい!】
ざりざりとバリアごと押されるクドラクを、後方で火の壁が待ち構えている。
このまま押し出されると、己の作った業火に焼かれるだろう。
【殊勝な贄よな。自ら焼肉になるとは!】
「……【紅き月よ来たれ。壁に杭を生やせ】」
赤いバリアの下方から棘が飛び出て、地面に食い込む。
巨牛の突進もがくんと止まり、騎乗していたセルゲイ達もつんのめりかける。
【なんの、このまま防御壁を破ればよい!】
獣じみた大男は、左手の大砲をこちらに向ける。
その時、遠くの砦にチカッと光がまたたいた。クドラクはバリア越しに亡霊を見つめた。
「この炎の囲いは、夜の闇によく映えるな。この盾もあるからよけいに目立つ」
【なに?】
「今の貴方は、砦からでもよく見えるはずだ」
瞬間、セルゲイの頭が爆発した。砦から放たれたレーザーが頭を射抜いたのだ。
黒い血潮のような瘴気が首から吹き出た後、屍は巨牛から転げ落ちる。
同時に、ドクロ頭の猛牛が押し込もうとするバリアに命じる。
「【一点に力を解放せよ】」
バリアに圧縮されていたエネルギーが爆発し、猛牛の頭を吹き飛ばした。
背に乗っている人質が傷つかないように、局所的に爆発させたのだ。
どうっと前のめりに倒れ伏す巨牛の背から、人質を抱え上げる。これで救出は完了した。
「は……っ、は? 終わったんですか?」
「げほっ――終わりました。雑魚を掃討するので、このまま少し待っていてください。……【紅き月よ来たれ。かの者に星の守護を授けよ】」
周囲にただよう煙に咳き込みながら、人質の周囲に六芒星の結界を張る。
ちょうど火の壁を突っ切ってゾンビ達が現れ、燃えながら彼らに向かってきている。
【おお、セルゲイが!】
【肉を殺せえッ! 今なら弱っているぞ!】
「げほっ、けほっ――【烟月よ鎮まれ。一帯の火を消せ】……後は、【
周囲の火を消してから、指を鳴らして紅い斬撃波を飛ばす。剣を振るわない略式の技だ。
リーチは短くなるが、それでも光波はゾンビ達を吹き飛ばしていった。
(さっき、セルゲイは言っていたな。業魔の軍勢が現世を侵すと。同時に自分達が王となると)
クドラクから見ても、ここだけの戦力ではそんな大それたことはできそうにない。
となれば、他の業魔達に協応する形で、騒動を起こすつもりだったと見るべきだ。
(……狂奔を企てている奴がいるな。あの口ぶりからして間違いないだろう)
もし読みが当たっていれば、間もなく冥府につながるゲートが開き、怪物達が地上にあふれる。
草原の民は戦に長けるから抵抗できたが、楽園国の民は非戦闘員も多い。大勢が死ぬだろう。
(最近、異常なぐらいに業魔が活発だな。裏があるんじゃないか……? ここの連中を無力化して、じっくり尋問してみるか)
クドラクが戦闘する前で、砦から放たれたレーザーに業魔達が射抜かれていく。
かなり距離があるだろうに、百発百中といっていい命中率である。さすがは無双の弓取りだ。
「【暗月よ開け。かの者共を削り取れ】」
負けじと呪いを使うと、敵兵達に重なるようにして無数の暗黒空間が開く。
球状の暗黒が収まると、中にあった部分は消失していた。残った部分も虚空に溶けていく。
もう、周囲にはさほど業魔は残っていない。
せいぜい百名程度がクドラクから距離を取り、怯えたように二の足を踏んでいるだけだ。
(……多すぎるな。痛すぎて動くのが面倒だ。なにか、楽できる方法はないかな――)
その時、脳裏に旅立つ前の光景がよぎる。朝餉をいただいていた時の光景だ。
『吾輩謹製の指輪をお渡ししましょう。内部に込めた死霊を呼び出して、従えることができます。戦闘時の秘密兵器も込めておりますぞ』
Dr.サルトゥイクから贈られた指輪――クドラクは右手の人差し指にある指輪に触る。
(使い方の説明を受けた時、『あの秘密兵器』について聞いたが……『あれ』は出すまでもないな。数の多い死霊だけ呼び出して――)
瞬間、後方で何者かが砲撃してきた。
振り返りながら弾を避けると、胸の一寸先を砲弾がかすめる。
【……温いなあ、小猿。俺の屍が不自然に残っておること、疑問に思わなんだのか?】
首無し死体となったセルゲイがそこにいた。ぎこちない足取りでクドラクに近づいてくる。
左半身に生えた人面腫が、複数の声が混ざったような嘲笑を上げた。そこも思考の中枢だったか。
「誰かと思えば……その死に体でどうするつもりだ? それも人質なしで」
【今までは手を抜いておっただけよ。ここからは冥府で得た我が呪いを見せてやる。――我が血よ湧き立て。贄共を飲み込め】
ぼこぼこと半裸の身体が泡立ち、溶岩のような色合いの血が随所から噴き出す。
酸性の匂いが辺りに立ち込めると、なぜか少しだけ喉がかわく。セルゲイの血が飲みたくなる。
(……精神干渉の一種か。影響力は低いな)
念のために袖で鼻を覆う。魂の鍛錬によって、彼は精神干渉をほぼ無力化できた。
業魔達はふらふらとセルゲイに近づいている。
【貴様は知るまい……冥府に落ちたジュグナイの剣闘士の一部は、互いに融合しあうことで大業魔と化し、過酷な食物連鎖を生き抜いたのだ。一派を率いてきた俺が、主人格の栄誉を賜った】
変容を続けていくセルゲイに、スケルトンやゾンビ達が抱きつく。
体表の熱に溶けるようにして、おぞましい肉と混ざり合っていく。
みるみる亡霊は肥大化していき、溶岩のような血を流す黒岩のような巨人へと変貌した。
冷えた溶岩のような体には、無数のドクロが浮かびあがっている。
どれも眼窩から溶岩の血を流し、口から怨嗟のうなり声を上げている。
唯一、再生した頭部だけは元の面影を留めているが、左半分の皮がべろりと剥がれている。
【これぞ『融解する肉の呪い』――貴様に我らの贄となる栄誉を授けよう】
セルゲイの腹が上下に開き、灼熱の血肉から巨大なドクロが現れた。
大きく口を開いて、燃え盛る骨の塊を砲弾のように飛ばしてくる。
いつもの癖で横っ飛びに避けて、足にほとばしる激痛に顔を歪める。それを我慢して敵を指差す。
「ぐっ……【暗月よ開け。かの者共を削り取れ】」
【その技は見切ったァ!】
がおんと音を立てて暗黒空間が開く、その直前にセルゲイは跳躍していた。
死んだふりをしていた時に、技の発動タイミングを観察していたか。
頭上まで来たセルゲイがストンピングをかましてきたため、さらに回避を強いられる。
【やはり貴様、大怪我を負った直後か? 動きがぎこちない。回避もいつまで続くか見ものよ!】
その時、砦から放たれたレーザーが、セルゲイの左頭部を吹き飛ばした。
しかし、音を立てて肉は回復していき、すぐ元の姿に戻る。
構わず敵が剛拳を繰り出してくる隙に、クドラクは懐に潜り込み、巨人の腹にあるドクロに触れる。
「【
溶岩のようなドクロ頭に弾を撃ち込んだ後、内部でエネルギーを爆発させる。
燃える血が辺りに飛び散るが、既にクドラクは距離を取っていた。
【グオオアアアアッ!?】
(……ん? あれは?)
爆ぜた血肉と一緒に、帳簿を入れられるサイズの鉄の箱が転がっていく。
錠前付きの頑丈そうなそれは、体内に入れておくには不自然なものだ。
【グウウッ、無意味なことよ。我ら全員の生命力をもってすれば、この程度は再生可能!】
セルゲイは気づいていないようだ。湿っぽい音を立てながら、腹に空いた風穴が塞がっていく。
「……きも」
【我が血よ湧き立て。断頭の斧と盾をここに!】
げんなりしながら見ていると、セルゲイの両腕がぼこぼこと泡立つ。
たちまちに巨大な盾と両刃斧へと変形した。
【ブッた斬ってくれるわ!】
溶岩の肉で構成された大楯で、セルゲイは盾撃を仕掛けてくる。
避けきれずに吹き飛ばされたところを、間髪入れずに巨人は追撃してきた。
振るわれた大斧を転がって避け、腹のドクロから放たれた炎をマントで防ぐ。
【これが業魔の力よ! 剣闘士時代より格段に優れた力を得たのだ。生者には及ばぬ力を!】
大斧が地割れを発生させ、空気を切り裂く。皮一枚のところでクドラクは避け続けている。
体中が痛い。もう長くは戦えないだろう。
【貴様の実力もそこそこには高いが、冥府で生き延びてきた我らには敵うまい! みみっちい哀れなドブネズミよ、我が斧の血錆となれい!】
斧を振るいながら、セルゲイがあざ笑う。
三下が使うような安っぽい煽り――しかし、クドラクはぴくっと眉を動かした。
「……
【クハハッ、他に誰がいる!? 生っ白い細腕に、貧弱そうな顔つき。まるで病気持ちのネズミだ!】
「……」
【貴様の血を飲むと、妙な病にかかってしまいそうでいかん。畑の肥やしにするのが上策か!】
「病気」、「ネズミ」。昔を思い出す。
ふっとクドラクは足を止める。下水のように濁った瞳で、『自分を迫害する者』を見る。
【叩き殺してくれるわ!】
大上段に構えられた両刃斧を見て、クドラクはふっとガードを解いた。
振るわれた刃に手を伸ばす。呪詞は口にしない。ただ冥府のエネルギーを手に集中させる。
血潮が周囲に飛び散って――それだけだった。少年は片手だけで大斧を受け止めた。
【………………なに?】
呆けたような声を出すセルゲイを、黒髪の少年はじろりと睨んだ。
「長講釈を垂れた割にこの程度か。気合いをいれてガードしただけで防ぐことができる」
虚勢を張ったが、実際は傷を負っている。
今の一撃だけで腕の骨はイカれ、手のひらには深い切れ込みが入った。
その痛みも、煮えたぎる怒りの前にかき消える。
「冥府でも雑魚狩りしかしてこなかったんだな。弱い業魔を食べて、自分に従う配下を食べて、村に住む一般人を食べてきた。どれも格下ばかりだ」
奴の呪いを見てもわかる。黒い巨体は、ゾンビ風情を寄せ集めた偽りの肉体だ。
皮膚は硬いし筋力はあるが、所詮はその程度だ。
「格上を喰ってきた業魔や呪い師は、こんなもんじゃない。ださいんだよ。口だけ達者なチンピラが」
【ぬうっ……!?】
「【
手に赤いエネルギーをまとわせ、渦のように回転するドリル刃へと変える。
そのまま拳を敵に撃ち込み、螺旋状に体をえぐりながら吹き飛ばした。
【ヌオオオオッ!? だが、これしき――すぐに傷は塞がる! 我が血よ湧き立て、熱の帳を我に!】
横向きに回転するセルゲイが、なんとか地面に膝をついて着地する。
螺旋状に刻まれた傷跡がうごめくと同時に、巨漢の周囲を熱波のバリアが覆った。
【丸焼けになりたければ、近寄るがいい……!】
「……アホか。熱のバリアなんてなんとでもなる」
その隙に、クドラクは指輪をつきつける。
「【死霊の王がここに命ず。『
指輪のドクロから、赤い閃光が放たれる。
前方に照射された閃光の中に、もやのような人型の影がいくつも浮かんだ。
影はすばやく飛び出し、渦状に傷付けられたセルゲイに殺到する。
【なに!? こやつら――】
セルゲイがのけぞった瞬間、熱のバリアで焼かれながら、死霊達が傷口に入り込む。
どんどんセルゲイの体が体積を増し、ぷくーっと風船のように膨張していく。
やがて、奴は轟音とともに弾け飛んだ。
傷口から入り込んだ霊体が爆発し、首から下を風船のように弾けさせたのだ。
爆炎と衝撃波が土埃を上げる中、冷えた溶岩のようなセルゲイの頭部が地面を転がってくる。
【ヌオオアアアッ! おのれ――】
「さて、尋問の時間だ」
足元に転がってきた頭部を踏みつける。
「さっきの口振りだと、なにか大規模な事件を起こそうとしていたみたいだが……誰が主導して、どんな計画を立てている?」
【言うと思うか、増上慢が!】
「なら、しかたない。体に聞くしかないな。【寒月よ輝け。冬の吐息をここに】」
クドラクの足から冷気があふれ、セルゲイの目や口に殺到した。
極寒の息吹が巨人の体内を満たし、溶岩のような血すらも凍らせていく。
血に宿っていた生命力すらも、凍てついて力を失っていく。巨人は苦しげに絶叫した。
【オオオオオオッ! なめるな、俺の体は岩をも溶かすほど高温! この程度では冷やすことも――】
凍った目が眼窩から転げ落ちて、雪風のような冷気を噴かせる。
あまりに冷却が進みすぎたか、周囲の地面までパキパキと氷に覆われていく。
【――冷や ス コト も……!?】
「さっさと吐け」
「……たぶん、これに書いてるんじゃない? 色々とメモが書いてあるよ」
横から言葉をかけられる。いつの間にか、少し離れた所にクルースニクが立っていた。
紙束をぱらぱらとめくっている。足下には錠付きの箱の残骸が捨てられている。
「おや、いつの間に?」
「狙撃が効かなかったから、加勢しに来たんだよ」
クルースニクは心配そうにこちらを見る。
「ごめん、もっと早めに来ればよかったね。動きが痛そうだったし」
「この程度は――問題ない。大丈夫さ。ところで、クルースニク。それは?」
「『狂奔』の打ち合わせ内容かな。どのタイミングでどこを攻めるか、他の連中がどう動くか、大体は書かれてあるね」
「……訂正だ。もう吐かなくていいぞ」
セルゲイを見下ろすと、凍りかけの顔がわずかに引き攣った。言葉を出すこともできないのか。
「無駄に余った生命力ごと踏み砕いてやる。
やがて、巨人の頭部は氷の彫像と化した。
そのまま踏み砕くと、彫像はバラバラに砕け散り、虚空へと溶けていく。
後に残ったのは、煤けた夜風だけだった。
「討滅完了。お疲れ様」
「うん、お疲れ! ……後は、近場の街に被害者を送り届けるだけだね」
「……砦に何人いた?」
「二十三人だね!」
想定される作業量に、思わず空を見上げる。
夜明けで白みつつある空には、まだ星や月が輝いていた。今からでも、もう一眠りしたい心持ちだ。
(……荷馬車でも作って引くか? 確か、ホリフツィっていう小さな城塞都市がこの近辺にあったな。そこで人質達を降ろすか)
そして、気にかかることがもう一つある。
クルースニクの手に握られている紙束に、どんな計画が書かれてあるのだろうか。
「少し休憩しよう。被害者達を落ち着かせる時間もいるし、街への旅の用意もいる。……なにより、今すぐそいつが見たい」
「オッケー、じゃあ先に渡しておくね。私は他の人達に説明してくるよ」
「ありがとう。お願いするよ」
クルースニクから渡された紙束に、ざっと目を通す。不穏な言葉の羅列が目に入った。
他業魔の巣の位置と、彼らとの共同作戦。本格的に人間達への侵攻を考えていたようだ。
紙束に書かれていたある文面が、目についた。
(……『一週間後、タルサデューク公領北部にて「狂奔」が起きる。それに乗じて作戦を行う』……?)
聞き捨てならない、忌まわしい内容だった。
TIPS:『
クドラクに貸与された使い魔達。指輪の内部にはナイトストーカーが六百余ほど詰まっている。
自我も姿も失った哀れな兵士達は、指輪の持ち主に絶対服従する。
その有用性に着目したDr.サルトゥイクは、新たな労働力として実用化しようとしている。
Dr.サルトゥイクは業魔の使役、および魂の解析を研究している。
近頃は、人造業魔の製造も手掛けており、クドラクも戦闘試験に何度も立ち会っている。
指輪の『秘密兵器』は、その成果の一つだ。
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