雷神兄妹 作:ララン
鹿紫雲一とタマモクロスの雷神兄妹の幻覚を見たから書いた。
感想とか貰えたら喜びます。
鹿紫雲さんの二次創作増えろ〜!
最初に光を感じた。次に産声が耳に入り、それをあげているのが自分自身であると気が付いた。
徐々に知覚が広がり始め、周囲を見渡せるようになると、頭に獣の耳を生やした灰色の髪の女が目に入った。白衣を着た女が数人立っており、俺はその内の一人に抱えられていた。
「双子とも無事にご出産されました!おめでとうございます!」
目の前では、灰色の女と同じく頭に獣の耳が生えた赤子が生まれていた。
室内には赤子の鳴き声が響き渡っていた。
ここはどこだ? なぜ、俺は赤子になっている? 新宿の戦いはどうなった?
五条悟の戦いを見届けた後、俺は新宿で宿儺に挑み、奴の斬撃を浴びて死んだ筈だ。しかし、俺は今こうして赤子となって生きている。甦りという単語と共に、額に縫い目のある胡散臭い男の面が脳裏に浮かんだ。だが、この状況は以前受肉した時とは大分様子が異なっている。呪物による受肉は赤子の肉体に精神が宿るようなものでは無かった。
俺はたった今目の前で生まれた赤子とともに、灰色の髪の女に抱き抱えられていた。
…双子、のようだ。
目の前の女を観察するが、獣の耳こそあるが、特段呪力は感じられない。
室内を見渡すが、呪術に関するようなものは見当たらず、以前受肉した時に得た知識に照らし合わせれば、ここは現代の病院の一室のようだった。
周囲を観察していたら俺を抱えた女が俺達を見て口を開いた。
「無事に生まれてくれて良かった。元気に育ってね」
…この言葉と状況から察するに、この肉体の母親で間違いないだろう。おそらく赤子の肉体に俺の精神が入っているとは気付いていない。
恐らく俺は受肉とは別の要因で二度目の甦りをしたか、もしくは絹索が何も知らせずこの女に何かしたのだろうとアタリをつける。
高専の奴らに聞いた呪胎九相図の話を思い出すが、この体では会話を試み情報を得ることもできない。
……ひとまずは、父親の額に縫い目が無いか確認しないとな。
※※※
俺が生まれ変わってから数ヶ月が経過した。この数ヶ月で、俺はこの状況が少なくとも絹索の手によるものではないと確信した。
この世界には、呪力が存在しなかった。あれから何人も人間を目にしたが、尽く呪力を持ち合わせていなかった。高専の女のように天与呪縛でその恩恵を受けている訳でもない。
そして、俺はこれまで一度も呪霊を目にしていない。病院内にすら雑魚呪霊の一匹もいやしなかった。
俺には微弱だが呪霊が見える程度の呪力があったので、俺が見えてねぇって訳じゃないだろう。
呪力の無い人間達。病院という負の感情が渦巻くだろう環境に呪霊が全くいないこと。そして、非術師である医者達が当たり前に受け入れている、俺の母親に生えている耳と尾。
ここは呪力のあった世界とは異なるようだ。
周りの連中の話をまとめるに、母親と妹はウマ娘という種族らしい。
テレビ越しに、秤に教わった競馬のように走るウマ娘の姿をよく見る。母親と妹以外にも実際に何度か目にした。
ガキの体ですることもないので、最近は専ら暇潰しに妹とテレビでレース中継を見ている。
ウマ娘のレースはこの世界の人間にとって人気の興行のようで、テレビでは殆んど毎日のようにレースが放送されていた。
泣きわめく妹もレースを見るとは泣き止み笑うので、家のテレビではレースの映像が毎日のように流れていた。
ウマ娘の名が示す通り、この種族は女しか存在せず、人間との間に生まれた男は人間になるそうだ。現に俺は妹と違って獣の特徴は無い。
そして妹の名前はタマモクロスといった。外人か?
ウマ娘の名前は基本的に横文字で表されている。今まで聞いたウマ娘の名前は全て片仮名な上に、俺は普通に日本人の名前だから、ウマ娘という種族自体がそういうルールなんだろう。
少なくとも400年前にはこんな種族はいなかったし、受肉で得た現代知識にも無い。
これらの相違点から、この世界が呪力のあった俺の前世とは法則や社会が異なっている現代日本だと完全に確信した。
…ああ、父親の額に縫い目は無かった。流石にこの予想があたっていたら気色が悪かったので安心した。
つかウマ娘のウマって馬のことだよな。耳と尾も馬の形してるじゃねぇか。俺の周りに普通に犬猫はいるが、馬については不自然なまでに見ねぇし聞かない。前の世界における馬の位置をウマ娘が占めているのだろう。現代はともかく戦国なんかはどうしてたんだ?
…ともあれ、今の俺にできることは髪を引っ張ってくる妹をあやすか寝ている妹の横で天井のシミを数えるくらいしかない。……おい母、俺が泣かねぇからってタマモのお守りを俺に任せすぎだ。
俺は宿儺と戦る為に絹索の誘いに乗り、受肉して二度目の生を得、その目的は果たせた。戦いには破れたが、一度目の人生ではついぞ出会えなかった、心沸き立つ強者との戦いが得られた。
この三度目の生を得たとき、俺は再び強者との戦いの機会を得たのかもしれないと思ったが、呪力が存在しないこの世界には強者がいない可能性が高い。
ウマ娘は人間を超えた身体能力を持つが、テレビなどから得られた情報から察するに、この種族の身体能力は大体馬の馬力に準じている。呪力無しでこの身体能力はまあ悪くはないが、それだけだ。おそらく上澄みでも宿儺の指を食う前の虎杖悠仁と同等程度の身体能力だろう。
もちろん、この世界を全て見ていない以上、俺のように呪力を正確に扱える者のみが生まれていて、そのため呪霊が発生しないだけで呪力を持った奴が存在する可能性はある。
今の肉体ではあまり移動はできないが、いずれ呪術師や強者を探すのもいいかもしれん。
…そういや、あの後宿儺と戦る予定の高専の連中はどうなったんだろうな。宿儺は俺の期待を遥かに飛び超えて最強だったが、あの弁護士の術式で有利を取れれば、まあ高専にもワンチャンあるかもな。
※※※
俺が生まれて数年の歳月が経ったが、何度かの引っ越しを経たくらいで、呪霊との遭遇もなく大きな変化は無かった。
生後半年くらいで立ち歩けるようになり、呪力強化も多少はできるようになったが、呪力量が雀の涙程しか無かったのでカス程の倍率の強化しかできなかった。
階級換算で三級程度の呪霊ならこの状態でもギリ祓えるだろうが、この様子では、肉体が完成しても恐らく全盛期の強さは取り戻せない。
まあ今世じゃ一度も呪霊は目にしてねぇし、呪術師もいないから戦う相手そのものがいないのだが。
ウマ娘は呪術師には及ばないが非術師を超えた身体能力を持っており、目を輝かせてレースに見入る妹とその走りを見ることは良い退屈凌ぎになった。
ウマ娘は走ることが本能であり、貪欲に勝利を追い求める闘争本能がある。必死に走る姿を見て期待のできる奴、根性のある奴を探すのは俺としても暇潰しになった。
馬券は買わないがどいつが勝つか予想するかで十分楽しめる。丁度秤が話していた競馬の楽しみ方もこんな感じだったか。
俺の隣で目を輝かせてレースを見ているタマモもウマ娘らしく同年代のガキを威嚇したり俺に噛みついてきたり、中々威勢が良い。
それに、俺の見立てではこいつの潜在能力は他のウマ娘と比べても高い。こいつはやれるやつだ。気性もそうだが心臓や肉体がかなり強い。
「おにいちゃん、かけっこしよ!」
映像のウマ娘の走る姿に刺激を受けたのか、こいつは俺を巻き込んでそこら中を駆け回るようになった。
「おい、車道出んなよ」
「今日こそウチがおにいちゃん追い抜いてみせるからな!」
妹に手を引かれながら、遥か過去や受肉した現代で出会った奴らのことを思い出す。
──俺たちは強いというだけで愛され、愛に応えている
ガキの体とはいえ流石に俺が体の動かし方もわかってない子供に負けることはない。だが単純な身体能力だけなら今の俺とこいつは良い勝負をしている。
周りの連中に言わせれば同年代のウマ娘に比肩する俺の身体能力の方が異常らしいが。
俺に勝てた試しは一度も無いのに、こいつは何度も俺に挑んでくる。
──弱さを知らずに、どうやって他人と関わる。どう他者を慈しむ
妹の手を振りほどき、その小さい背を追い抜いて走り出す。
「追い付かせるわけねぇだろ。俺はお前のお兄ちゃんだからな」
「オイ、お前が宿儺の兄か?」
「…何をどう聞いたのかは知らんが、俺は悠二のお兄ちゃんだ」
タマちゃんの幼少期、実際どれくらい貧困だったんでしょう。テレビとかは見れたと思うんですが…。
鹿紫雲さんはこんなこと言わないし、こんなの書いてるけど鹿紫雲さんまだ生きてると信じてる。
・鹿紫雲一
新宿での決戦後、ウマ娘世界で芦毛のウマ娘の子供に転生する。
うっかり妹にビリビリしないようにしている。
この小説では決戦前に高専メンバーとある程度コミュニケーションを取っていたという設定。
見た目は芦毛の子紫雲で、成長すれば死滅回游時の若紫雲になる。
呪力と呪力特性は引き継いでいる。