▼前世の記憶があるために沙代ちゃんのこと引き摺ってる水木です
pixivより転載
警視庁刑事部参事官室。またの名を「魔窟」。
なぜかここが関わると怪奇事件に当たることで警視庁内では知られていた。
その中でも2人の破壊神がいることで知られている。
片方は謙譲や気遣いなどの美徳を母の腹に置いて来たと言われる、室長兼参事官の薬師寺涼子。彼女の天上天下唯我独尊横紙破りの横暴さは主に警察上層部に知れ渡っている。所謂文武両道の他に追随を及ばない美貌の所謂才女と言っていいはずなのだが、その美点から欠点を差っ引いた結果とんでもないことになっている。
さて――翻って、「彼」は一見ごくまともな刑事だ。
被害者に優しく、加害者に厳しく。特に被害者への寄り添い方はプロのそれと言われている。一方、加害者には――本当に容赦がない。
この、水木警部補は。
「水木くん、またかね」
「はは……またやってしまいました」
丸岡に苦言を呈されながら、水木は椅子に座る。その隣に座した泉田は、年下の同階級の青年に溜息を吐く。涼子が室長室にいるのを良いことに上司を呼び捨てする。
「俺がお涼と絡んで怪奇な事件が起きるのはもう慣れたけどな……水木、それにしたってお前は破壊し過ぎだ」
「結果として被害者が助かったでしょう……」
「それに関してはな、いいことだったんだがな、そういう発言するってことは反省してないな」
「うぐ……」
ぐうの音も出ない様子で水木が作成するのは始末書だ。涼子ではないので「祐筆」はいない。
左目に古傷、左耳に欠けたところのあるこの青年。傷のために少々強面に見られるが、普段は至って普通の青年である。
普通でなくなるのは、事件に際したときだ。
それが最適解だと思えば、躊躇わず器物を損壊する。窓を破ったこともあるし、鍵を拳銃で破壊したこともある。それぐらいならまだ良い方で、泉田らと同様捜査一課にいた頃もそれは許容されていた。問題は涼子に引き抜かれたあとだ。
――泉田は「朱色の絵の具に染まった」と言われる。しかし水木の場合、「地が出た」と言われていた。
顕著なのは、女性が性被害に遭ったときのような事件だ。
場合によっては、容赦なく犯人の股間を踏み潰すのだ。
「ツケは払わないとなぁ!」
と、どこぞのヤクザのような台詞を吐きながら。
「水木、お前本当に容赦なく股間を潰すよな。お涼じゃあるまいし……男なのによくやれるな」
いつか泉田はそう言った事件のあとに水木に尋ねたことがある。その際、水木は何とも言えない顔をしていた。そして答えた。
「俺は自分の性別が嫌いなのかも知れませんね」
それは性同一性障害の類なのだろうか、とも思ったが、泉田はそれを尋ねることは憚られた。
そう言った彼の性質を、涼子は気に入ってるらしい。水木がやらかしても大体のことは涼子は鷹揚に許す。それに関しては、涼子の方がもっとやらかすからだろうと言われている。涼子の行状に比べれば多少の器物破損と性犯罪者への制裁はマシな方、と言うのが上層部の意見である。そういうわけで、水木は今日も涼子ほどではないが器物破損をするのだった。
勿論始末書は毎回書いている。今回もそういうわけだった。
手慣れた様子で始末書を書き終えた水木に、「そう言えば」と丸岡が問うた。
「この前の事件で、お前さんあの犯人のコレクションのサンパチを戸惑うことなく使っていたが、使ったことがあるのか?」
その問いかけに一瞬手を止めた水木だったが、すぐに彼は苦笑した。
「昔取った杵柄……ですかね」
泉田はその言葉に首を傾げた。
そのとき参事官室の扉が開き、「先輩」と呼んできた男――岸本がいたので、泉田と水木が同時に返事をしたので、「今どっちの先輩が返事をしてくれたんです?」と困惑した。泉田と水木、声がそっくりなことでも庁内で知られていた。
「父さん、水木さんが警察やってるって噂が届きましたよ」
「……あの男に警察が務まるのか?」
了