超高校級の幸運に内定していた少女は、高度育成高等学校に入学する。   作:杏仁豆腐

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皆さん初めまして。
『超高校級の幸運に内定していた少女は、高度育成高等学校に入学する。』をお手に取って頂きありがとうございます。
今作は、ダンガンロンパ無印のアニメの円盤特典の短編小説の内容をもとに書き始めた作品です。
ダンガンロンパ無印をプレイする予定がある方はネタバレに御注意下さい。
評価やコメントも是非お待ちしております。

※1話の最後にアンケートをとるので、良かったら回答お願いします。




入学〜中間試験編
超高校級の幸運に内定していた少女は、高度育成高等学校に入学する。


 

 

「最後に、もう一つご報告があります」

 

 

希望ヶ峰学園長は立ち上がろうとする評議委員会の面々を見つめ、そう言った。

 

 

「…何だね?まだ続くのか。」

 

 

会議が終わったと思っていた希望ヶ峰学園評議委員の四人は面倒臭そうに学園長を見る。

 

 

「…で、報告とは一体なんだ?」

 

 

「第七十八期生の『超高校級の幸運』の選定結果の件についてです。」

 

 

学園長がそう言った途端に、あちらこちらから落胆のため息が上がる。

 

 

「なんだ、外れ枠のことか…」

 

 

超高校級の幸運…それは、希望ヶ峰学園が全国の高校生の中から抽選で選ぶ『超高校級』のことである。抽選で当たった者は無条件で希望ヶ峰学園への入学を許可されるが、評議委員会の四人はそれを外れ枠と揶揄していた。"運など才能とは呼べない"というのが、彼ら共通の考えだった。

 

 

「はぁ。まったく、貴重な枠の浪費だな…」

 

 

ため息混じりに、評議委員の一人がわざとらしく肩を落として面倒臭そうに不満を漏らす。

 

 

「他にもっと研究すべき才能があるんじゃないか?」

 

 

評議委員会の面々は口々に不満を漏らす。

 

 

希望ヶ峰学園評議委員会…彼らは希望ヶ峰学園の実質上の支配者であり、その権限は学園長の任命にまで及んでいる。つまり、学園長であっても下手なことは言えないということだ。たとえ彼らがいかに見当違いな発言をしようとも。

 

 

「お言葉ですが、私は『運』も才能の一つだと考えています。」

 

 

学園長は穏やかな口調で反論した。内心では頭の固い評議委員会の面々にうんざりしていたが、それをまったく感じさせない態度だった。学園長であるこの男には、ある大きな志があった。その志を成し遂げる為にも、評議委員会に睨まれる訳にはいかないのだ。

 

 

とは言え、それを恐れるあまりに、志を曲げてしまっては本末転倒だ。だからこそ、学園長はいつも以上に慎重に説明をした。

 

 

「時に『運』というものは、他の優れた才能やあらゆる努力を超えてしまうことがあります。だからこそ、我々は誰もが『運』を祝福し、畏怖するのではないでしょうか。マグレやラッキーで済ませてしまうのは簡単ですが、私にはどうしてもそれを無視することができないのです。『運』というものはただの不確定要素なのか、それとも才能の一種なのか、それをハッキリさせる為のサンプルとして───」

 

 

「だから言っているだろう。運など才能ではないと。」

 

 

うんざりしたような声が学園長の言葉を遮る。

 

 

「そもそも、運などというものはただの印象だ。確率の低いことが起こった時に、それを運と呼んでいるだけのこと。すべてはその結果を観測した者の印象でしかない。だが、実際は起こるべくして起こったことだ。確率が低かろうと、起こる可能性があることは起こるんだ。」

 

 

学園長はその言葉に小さく頷いた後、ゆっくりと口を開く。

 

 

「ですが、本当にそれだけなのでしょうか?」

 

 

「…なんだと?」

 

 

「たとえば、前回の超高校級の幸運ですが…」

 

 

その言葉に評議委員会たちの顔色が変わる。まるで、触れてはいけない禁忌を話題にされた時のような反応だった。

 

 

「全てが起こるべくして起こったことだと言うなら、どうして、あんなにも彼に都合の良いことばかりが起こるのでしょうか。彼を見ていると、運がただの結果論だとは私にはとても思えません。」

 

 

「だとしても…その結果があれではな。」

 

 

吐き捨てるような声だった。評議委員会たちは誰もが苦虫を噛み潰したような顔になっている。その人物の話題になった途端、ずっとそうだ。

 

 

彼らが話しているのは、前回『超高校級の幸運』として入学した、ある男子生徒のことだった。確かに彼は問題児だった。それも相当な問題児だ。他の生徒たちを引っかき回して問題ばかり起こしている。その上、性質が悪いのは、当の本人にまったく悪気がないということだった。そんな彼の存在は、学園長にとっても悩みの種ではあったが…

 

 

「とは言え、彼の運に関しては我々も認めざるを得ないはずです。あれは才能と呼ぶに相応しい力だとは思いませんか?」

 

 

評議委員会の面々は揃って口を噤んだ。言い返す言葉が見つからなかったのだ。しばらくすると、根負けした評議委員会の一人が背もたれに寄り掛かりながらこう言った。

 

 

「考えを変える気はさらさらないようだな。だったら好きにしたまえ。」

 

 

その言葉を待っていたように、学園長は即座に頭を下げた。

 

 

「ありがとうございます。」

 

 

深いお辞儀の後でゆっくりと頭を上げると、彼は用意してあった一枚のプリントを手に取った。そこには、第七十八期生の『超高校級の幸運』として選ばれた、ある高校生のプロフィールが書かれていた。当の本人でさえ忘れてしまったような詳細な情報までしっかりと書いてある。だが、希望ヶ峰学園はいったいどのようにしてそれを調べたのだろうか。答えは聞くまでもない。

 

 

それができるからこその───希望ヶ峰学園なのだ。

 

 

特別な才能を持つ高校生だけが入学を許され、国の将来を担う『希望』を育て上げることを目的とし、各界の重要ポストに卒業生を揃える政府公認の特権的な学園──そんな途方もない学園を、常人の常識で測ろうとすること自体が無意味というものだ。

学園長はその生徒のプロフィールを手に、報告を再開した。

 

 

「今回、我が希望ヶ峰学園は厳正なる抽選の結果、全国の高校生の中から一人の生徒を『超高校級の幸運』として招き入れることに決定しました。」

 

 

すでに興味を失っている評議委員会を前に、学園長は朗々と言葉を紡いでいく。

 

 

「その生徒の名は───」

 

 

そこで学園長は手にしたプロフィールに視線を落とすと、そこに記されている生徒の名前を口にした。

ある女子高校生の名前を───

 

 

「神島美香です。」

 

 

 

超高校級の幸運内定者、神島美香。それが、この物語の主人公の名だ。

苗木誠でもなければ、日向創でも無い。希望ヶ峰学園に選ばれるはずだった、所詮超高校級の幸運に内定していた少女の、波乱万丈で平和という矛盾した物語を紡ぐことになる。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

この世は平等か否か。それを考えれば、誰しもが不平等だと答えるだろう。

 

 

社会は平等に非ず、人の命は平等には成り得ず。歴史を紐解けば、不平等こそ世界の真実であると誰もが答える。

 

 

この世界の人間は、才能を持つ者とそうでない者…つまり、天才と凡人の2つのタイプに分けられ、才能を持っているかどうかでまず第一のふるいにかけられる。そして次に生まれや育ち、その人の持つ学力で人を区別し、最後の砦として見た目やコミュニケーション能力等本人が持つ長所や能力で判断される。

 

 

この世界では才能を持つ人間が敬われ、持て囃され、神のように崇めたてられる。そしてそんな才能に誰もが憧れを抱き、才能を欲するようになる。そして私も才能を持つ超高校級の天才に憧れた一人であり、彼等のような絶対的な才能が欲しいと願っていた。

 

 

天才に凡人はどう頑張っても抗う事は出来ない。天才は天才同士でしか対等な戦いをする事は出来ない。しかし、そんな常識を破ったのが後に超高校級の希望と呼ばれた、超高校級の幸運の少年だった。私の代わりに希望ヶ峰学園から合格通知が届いた、何処にでも居そうな少年だったのだ。彼は、超高校級の絶望である江ノ島盾子を論破し、世界中に希望を届けた。

 

 

そして、超高校級の希望の妹が塔和シティで2代目江ノ島盾子を自称していた塔和モナカから救い出し、超高校級の絶望と呼ばれていた作られた天才であるカムクライズル───いや、元予備学科の日向創はジャバウォック島での殺し合いで絶望に勝利し、死んだ仲間を生き返らせ、世界は希望に向かって歩き始めた。

日向創に関してはカムクライズルの才能の影響もあるのかもしれないが、凡人が絶望に打ち勝ったという事実に間違いは無い。

 

 

しかし、ただの凡人では無いという時点で、私の立てた『凡人は天才に抗えない』という仮説は間違っていない。苗木には超高校級の希望と言う才能があり、苗木こまるはその血を引いている。日向創はカムクライズルに作り変えられ、カムクライズルの才能が影響を及ぼして、予備学科である日向創の人格が江ノ島盾子のアルターエゴに打ち勝った。確かに彼らは凡人の側面を持っていたが、彼等は絶望と抗う中で新たな才能を開花させていったのだ。やはり、凡人では天才に抗う事は出来ない。この仮説は間違っていない。

 

 

そしてこの仮説を立てた事により、私は凡人に成り下がっているという事になる。何故なら、苗木誠が手違いにより超高校級の幸運に選ばれた。確かに、私の幸運が発動して危険を回避したと考えられなくもないが、逆に言えば私では江ノ島盾子を打倒す希望にはなれなかったという事の証明になる。つまり、私は同じ幸運である苗木誠に負けたのだ。彼の幸運という才能に負けた、ただの凡人に過ぎない。

 

 

いくら苗木誠が不幸な目に遭おうと、凡人である私には彼に勝てない。彼が超高校級の希望という才能を覚醒させる前から、その才能の片鱗はあったのだ。そして、私は彼の持つ幸運と希望という才能により、希望ヶ峰学園に入学する事が出来なかった。

 

 

 

「…あちゃー、また負けちゃったよ。」

 

 

「苗木君って、超高校級の幸運というより不運なんじゃない?もう、5連続でババ引いて負けてるよね?」

 

 

「あはは…神島さんは本当に運が良いね。」

 

 

苗木が頭をかきながら苦笑して私を褒める。彼に便乗して朝日奈がうんうんと頷き、口を開いた。

 

 

「神島ちゃんって、確か元々超高校級の幸運に内定していたんだよね?流石は超高校級の幸運だね!」

 

 

確かに私は苗木の前に超高校級の幸運に内定していたが、合格通知は配達時のミスにより届かなかった。

 

 

「あはは…内定していても合格通知が向こうの不手際で届かないんだから、幸運なんて大それた才能は持ってないと思うよ。」

 

 

苗木と朝日奈が私の言葉を否定するが、私には響かない。

 

 

私は確かに凡人では無いのかもしれないが、苗木と比較した時才能の強さは彼に軍牌が上がる。だから私は、苗木の前ではただの凡人に過ぎないのだ。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

私の名前は神島美香。どこにでも居る、少し運の良い女子高生だ。

 

 

しかし、私には前世の記憶がある。前世の私は世界的権威を持つ、才能溢れる高校生のみが通う希望ヶ峰学園と呼ばれる学校に通うはずだった。

 

 

勿論、私に何か特別な才能があったり、素晴らしい偉業や功績を成した様な経験は一切無い。では何故私がこの学校の生徒に選ばれたのか。それは私が全国の高校生の中から抽選で選ばれたからだ。この学校は運の研究もしており、毎年全国の高校生の中から抽選で1人を選び、選ばれた人は超高校級の幸運という才能で希望ヶ峰学園に入学する事が出来る。

 

 

そして私は抽選により、希望ヶ峰学園から合格通知が届くと学校から希望ヶ峰学園から連絡があった。しかし、何故か合格通知は届かず、学園に連絡を入れたが手違いにより別の高校生が選ばれたと伝えられた。────そう、私はその手違いにより希望ヶ峰学園に入学する事が出来無かったのである。しかし、今では入学出来なくて良かったと思っている。私が入学する予定だった代の女子生徒2名が、人類史上最大最悪の絶望的事件を引き起こし、世界は崩壊した。しかし、そんな絶望の中でも私の幸運という才能は異彩を放っており、絶望に侵される事無く、狂った人々から何とか逃げて生きながらえ、未来機関に所属して懸命に働き、結婚して一人娘を儲けて幸せな気分で死ぬ事が出来た。

 

 

そして次に目が覚めた時には、この平和ボケした世界に居た。前世の記憶が戻ったのは7歳の時で、きっかけは10億円の宝くじが当たった事だった。10億円の宝くじは一人にしか当たらないはずだが、何かの手違いにより私の父ともう一人の客が当選してしまったのだ。これは父ともう一人の客の名を匿名にして、ネットニュースにもなっている。本来であれば有り得ない事が起こっており、確かに私は超高校級の幸運といえる才能を持っていた。

 

 

記憶が戻った時は、私が死んだ後の未来に生まれたのだと思っていたが、この世界には希望ヶ峰学園も、超高校級も、存在しておらず、前世とは全く別の世界にだという事に気付いた。ちなみに、前世と同姓同名なので名前の変化は無い。

 

 

私が幸運だと自覚してからは、私が望めば殆どの欲しい物が手に入った。欲しかった洋服、欲しかった漫画、くじ引きの一等賞、仲の良い子と同じクラスになったりと、私の願いは何でも叶ってきた。そんな生活を続けていれば、当然高校入試も楽勝だ。ノー勉で国立の名門校に合格してしまった。

 

 

私ってば、運が良すぎて困っちゃう。

 

 

しかし、前世の私は超高校級レベルの幸運といえど、危険回避型の幸運だった。希望ヶ峰学園に入学できないおかげで、命の危険に晒される事なく生き延びる事が出来た。幼い頃、海外旅行に行くはずだったが突然の高熱で行けなくなってしまった。しかし、私が乗る予定だった便はハイジャックに遭遇し、1人の少年を除いて全ての乗客乗務員が死亡した。その便に乗っていたら、私達家族は死んでいただろう。他にも、私は幾つかの危険を予め回避し、未来に悪影響を及ぼす事は殆どなく、確かにあの世界において幸運と言える人生だった。

 

 

しかし、今世では幸運のタイプが違うのか、自分の望みが叶うタイプの幸運が発動しているように感じる。勿論、現状危険に晒される様な事が起きていないので、この考えが正しいとは言えないが、私の体感では前世と今世で幸運のタイプが異なっているように感じているのだ。

 

 

「へぇ、ここが東京都高度育成高等学校かぁ。」

 

 

町一つ分程の広大な敷地を持つ高度育成高等学校。この学校は卒業時に希望する進路を保証してくれるらしく、生徒は入学した時点でほぼ勝ち組と言える。

 

 

しかし、怪しい謳い文句である為何か裏があるのかもしれない。まあ、例え何があろうと私の幸運という才能は絶対だ。私はこの才能を心の底から信じ、頼っている。何があっても、良い方に転ぶのだと、そう信じている。だから、不安な気持ちは抱いていない。

 

 

 

門を通り過ぎ、玄関へ向かおうとすると突然後ろから声をかけられた。

 

 

「おい神島、待ってくれ。」

 

 

振り向くと、そこには男の人が一人立っていた。その男の人は鋭い目をしており、人を寄せ付けないようなオーラを発している。

 

 

「…何の用かな?神崎隆二君。」

 

 

彼の名前は神崎隆二。私と同じ中学に通っていた元同級生だ。特別親しかったわけではないが、2年時と3年時に同じクラスになっており、学校行事や日々の授業を通してそれなりの関わりを持っている。

 

 

そんな男が一体私に何の用なのだろうか。

 

 

「用という用は無いが、見知った顔を見つけたから声を掛けたんだ。せっかく同じ学校になった事だし、一緒にクラス表を見に行かないか?」

 

 

確かに、顔見知りはいた方が安心できる。私はその誘いに乗って、2人でクラス表を見に行く事にした。神崎隆二という男は寡黙な性格で、何を考えているか分からない節がある。別に嫌いな訳では無いが、せっかくまた同じ高校に通う事になったのだ、もう少し仲良くなっても良いかもしれない。

 

 

「神崎君はどうしてこの学校を受験したの?」

 

 

「それは卒業後の進路が保証されているからだな。恐らくこの学校を受験した多くの人間は、望む進路の為にこの学校に進学したんじゃないかと思う。神島はどうしてこの学校を選んだんだ?」

 

 

「君と同じだよ。後何となく、この学校の雰囲気が懐かしい感じがするんだよね。」

 

 

私は勉強はそこそこ出来たが、特にやりたい事もなかったのでこの学校を選んだ。それにこの学校の目的はどことなく希望ヶ峰学園に似ている、そんな気がした。そんな事を考えているうちに下駄箱に着いたらしく神崎君が靴から上靴に履き替えるのを見て私もそれに倣って上靴に履き替える。そして彼の後に続いてクラス表が貼り出されている掲示板へと歩いていく。掲示板の周りには数人の生徒がおり、クラス表を確認しているようだ。

 

 

「結構空いてるね。急いで確認しちゃおうか。」

 

 

「ああ、そうしよう。」

 

 

神崎と一緒に掲示板に近づいて行き、クラス表を確認する。この学校はAからDのアルファベットで四クラスに分けられており、掲示板には四枚の紙がはられている。Aクラスから順に確認していくと、葛城康平という名前の下に私の名前が書かれていた。

 

 

「へぇ、私はAクラスなんだ。神崎君はどこのクラスだった?」

 

 

神崎に質問を投げかけると、彼は無言でBクラスの生徒の名前が書かれた紙を指差した。同じクラスでは無かった事が少し残念だが、Aクラスの新たな仲間に出会える事が少しだけ楽しみだ。

 

 

「神島、そろそろ教室に向かおう。少し人が増えてきた。」

 

 

神崎にそう言われて周りを確認すると、確かに先程より下駄箱に人が増えている。このままでは、クラス表を確認する人の邪魔になってしまうだろう。私は彼の言葉に頷き、右手に見える階段に向かった。その後、階段を上がって一年生の教室が並ぶ廊下に出ると、各クラスの雰囲気を見ながら自分達の教室を目指して歩いた。

 

 

「Dクラスは何かと騒がしそうなクラスだなぁ。派手な風貌の人が多い印象だね。」

 

 

「そうだな。Cクラスは、血の気が多そうなクラスだ。入学初日に殴り合いをするなんて、どうかしているぞ。」

 

 

階段を上がってすぐの教室はDクラスだ。Dクラスには派手な風貌の生徒が多く、入学初日でもう教室内でネイルをしたり、ゲームをしている生徒が多く、大きな声で雑談をしており、絵に描いた様な底辺校生の集まりみたいだ。その隣のCクラスは、Dクラスとは違う意味で騒がしいクラスだった。入学初日に、殴り合いの喧嘩を行っており、こっちはまるでヤンキー高校を体現した様なクラスだった。

 

 

「…ここって国立の学校だよね?間違えて底辺高校に入学しちゃったのかな?」

 

 

「…まあ、国立の学校には色々なタイプの人間が集まると中学時代の担任が話していた。これも個性というやつなんだろう。」

 

 

個性というには、あまりにも下品で品性の欠片も無い生徒が多すぎる。この調子でBクラスやAクラスも問題児の多いクラスだったらと考えると、少し不安になってくる。

 

 

Bクラスに到着し、教室内を確認するととても美しい女子生徒が中心となって、自己紹介が行われていた。DクラスやCクラスと比べると天と地の差があり、入学初日にして統率が取れたクラスの様だ。生徒達も明るく真面目そうな者が多い為、青春漫画に出てきそうな理想のクラスと言えるかもしれない。

 

 

「良い雰囲気のクラスだね。」

 

 

「…ああ、そうだな。少しほっとした。」

 

 

神崎は胸を撫で下ろしている様だが、まあ確かにDクラスやCクラスと比べてしまえばその反応も頷ける。

 

 

「じゃあ、またね神崎君。」

 

 

「ああ。確か、入学初日に学校から携帯端末が支給されると聞いた。また連絡先をどこかで交換しよう。」

 

 

「そうだね。」

 

 

私は神崎と別れ、Aクラスの教室へ向かった。Aクラスの教室に着くと、中には騒がしい生徒も、喧嘩をする生徒も、積極的に自己紹介しようとする生徒もおらず、皆静かに席に着いてホームルームが始まるのを待っているようだ。どうやらこのクラスには真面目な優等生タイプが多いようだ。

 

 

黒板に貼られた座席表を確認すると、私の席は窓側の列の前から3番目だ。黒板に遠すぎず近すぎず、丁度良い席で授業にも集中できそうだ。

 

 

私は鞄の中から一冊の本を取り出し、それを読んで時間を潰す事にした。今回私が読んでいるのは有名なミステリー小説で、とある集落の旅館で突然殺人事件が起き、その死体からは心臓が綺麗に抜き取られており、胸にぽっかりと穴が空いていた。その集落にはとある言い伝えがあり、災いが起きると神に祟られて心臓が奪われると言われており、この言い伝えになぞられた見立て殺人の謎を主人公が解明していくというストーリーだ。この作品は映画化が決定しており、今年の7月に全国の映画館で放映されるそうだ。

 

 

それから約20分が経過した頃、教室の前の扉が開き、低い声が室内に響いた。

 

 

「全員揃っているようだな。」

 

 

男性は教室の中に入り教卓の後ろに立つ。室内を一瞥してから黒板に大きく文字を書いていく。

 

 

「皆、入学おめでとう。俺の名前は真嶋智也だ。この学校にはクラス替えが無い為、これから3年間君達のクラスの担任を務める事になった。宜しく頼む。担当教科は国語科だ。分からない事があればいつでも聞きに来てくれ。」

 

 

その後、真嶋はこの学校内の施設やポイントに関する説明を行い、学校から支給された携帯端末を配布した。

 

 

まず私達は今日一人一人に10万プライベートポイントが支給され、これを使って学内の施設を利用する事が出来るそうだ。1ポイント1円の価値があり、このポイントは私達がこの学校で使える通貨であり、プライベートポイントは毎月一日にそれぞれの端末に振り込まれるらしい。この額の大きさに驚かされたが、この額は私達に対する正当な評価で、毎年この学校入学した生徒にはこの額が支給されているそうだ。そしてこの学校では、ポイントで何でも買う事が出来るらしい。もしかしたら、多額のポイントが必要な場面が出てくる可能性もある。無駄遣いはしないように気をつけなければ。

 

 

「この後は一時間後に体育館で入学式を行う事になっている。それまでは自由時間だ。体育館での座席は出席番号順になる。各自確認しておくように。」

 

 

そう言い、ホームルーム終了のチャイムが鳴ると真嶋は教室から去って行った。

入学式まで一時間の自由時間があるが、どう過ごすべきか。そんな事を考えていると、教卓の方から一人の男がこんな提案をクラスにして来た。

 

 

「入学式までの間、互いに自己紹介をしておかないか?この学校について気になる事もあるので、俺の考えを話すついでに皆の事も知れたら良いと思っている。勿論、強制するつもりはない。」

 

 

スキンヘッドの男は私の一つ前の席の葛城康平だ。いかにも真面目そうな顔をしており、この提案を彼が行っても特に違和感は無い。しかし、初対面だからか多くの生徒が彼の提案に戸惑っている。積極的に自己紹介を行っていたBクラスとは違って、Aクラスの生徒は慎重な人が多いのかもしれないな。数秒の間の後、杖を持った女子生徒が立ち上がり凛とした声で話し出した。

 

 

「貴方の意見には賛成致します。私もこの学校には不自然な点が多いと考えているので、皆さんで考えを共有しておきたいです。」

 

 

彼女の発言に少しクラスの空気が変わった。戸惑っていた生徒達も、彼女の『不自然な点が多い』という発言に興味を持ったのか、静かに葛城やこの少女を見つめている。

 

 

「そう言って貰えると助かる。もし、嫌な者がいれば好きに行動して貰って構わない。」

 

 

葛城がそう言うと、教室から出る者はおらず、全員が文句も言わず黙っている。

 

 

 

「…では、自己紹介を始めようと思う。まずは言い出しっぺの俺から行おう。俺の名前は葛城康平だ。中学では生徒会役員を務めており、高校でも生徒会に入ろうと思っている。宜しく頼む。俺がこの学校について気になっている事は、来月も10万プライベートポイントが振り込まれるのか、という点だ。」

 

 

確かに、真嶋はこのポイントが1ポイント1円の価値があると話しており、国から予算が当てられているという事になる。そしてそんな大金を全校生徒に支給している時点で、この学校の予算は希望ヶ峰学園に近い額になっていると考えても過言じゃない。そして真嶋は10万プライベートポイントの支給を私達に対する正当な評価だと話しているが、これを素直に信じる事は難しい。だって、DクラスCクラスには素行不良の生徒が多く、彼等も10万プライベートポイントを貰っているのであれば、真面目な私達と不真面目な彼等の評価が同じという事になり、これは正当な評価では無い。

 

 

「真嶋先生は来月支給されるポイント額は告げず、10万プライベートポイントに関しても俺達に対する正当な評価だと仰っていた。つまり、評価が変われば支給される額も変化するのではないかと考えている。この評価というものが、学校生活の態度なのか、授業やテストの成績なのかは不明なので、皆少し真面目に学校生活を送った方が良いかもしれない。」

 

 

なるほど、評価によって変動するのであればCクラスやDクラスの生徒達ならば最悪の評価をとって、もしかしたら来月のポイント支給額が0になる可能性もありそうだ。葛城の考え通りであれば、この学校に充てられた予算額についてもある程度納得出来る。

 

 

葛城康平という男は天才ではないかもしれないが、なかなかキレ者だ。疑問を持つところまでは誰でも出来るが、そこから考察まで伸ばせる人間は多いようで少ない。私は彼に対して、超高校級の詐欺師のような頼もしさを感じた。

 

 

そして私の番がやってきた。私は椅子を引いて立ち上がり、口を開いた。

 

 

「初めまして。私の名前は神島美香です。中学時代は、図書委員会に入っていました。部活はボードゲーム部に所属してたよ。特技はババ抜きでババを引かない事。1回もババを引いた事が無いんだよね。皆宜しくね。」

 

 

我ながらまともな自己紹介だと思う。可もなく不可もなく、普通の自己紹介だが、特技で印象を持たせるには十分なインパクトを与えているはず。

 

 

「じゃあ次は私よね。私は神室真澄。特技は体育、宜しく。」

 

 

神室真澄は短い自己紹介を終えてすぐに黙った。クラスメイトと仲良くする気がないのか、それとも元々こういう性格なのかは不明だが、随分さっぱりした女子生徒だ。

 

 

その後、後ろの男子生徒が立ち上がり話し始めた。

 

 

「鬼頭隼だ。宜しく頼む。」

 

 

しかし、この男子生徒は神室以上に寡黙だった。必要最低限しか話さず、趣味も特技も何も分からない。ミステリアスな人だ。

 

 

彼の後は、先程葛城の提案に真っ先に賛同を示した杖を持った少女の番だ。彼女は机に手を着いてゆっくりと立ち上がり、教室内を一瞥してから話し始めた。

 

 

「私は坂柳有栖と申します。見ての通り、日常的に杖を使って生活していますので、皆さんのお手を煩わせてしまう事もあるかと思います。ご迷惑をおかけします。」

 

 

そう言い彼女は頭を下げる。身体的問題を持っている限り、それは仕方のない事だ。

 

 

「さて、私が不自然だと感じた点は先程葛城君も話していたプライベートポイントの支給額もそうですが、真嶋先生の仰った『ポイントで何でも買う事が出来る』という発言が気になっています。何でもとは、一般的にお店で売られている商品以外も買う事が出来るという事でしょうが、果たしてそれは何なのか。もしかしたら、クラス替えをする権利やテストの点数等も買う事が出来るのでは無いかと考えています。そして、入学初日にこの発言をしたという事は、ポイントが必要になる場面が来る可能性が高いのでは無いでしょうか。ですので、私はなるべく無駄遣いをしない方が良いと思っています。何故なら、来月支給される額により、この学校の真のシステムが明かされると考えているからです。私からは以上です。ご清聴ありがとうございました。」

 

 

坂柳は感謝の言葉で締め、自己紹介を終えた。確かに彼女の言う通り『ポイントで何でも買う事が出来る』という発言は気になっていた。しかし、テストの点数や権利が買えるという発想は持っていなかったので、彼女のおかげで新たな考えを知る事が出来た。彼女は葛城以上に頭が回る人間のようだ。

 

 

その後、クラス全員が自己紹介を行った。気になった生徒は橋本正義や戸塚弥彦、くらいだ。どちらもコミュニケーション能力が高そうだが、戸塚が真面目なのに対して、橋本はチャラそうな男に見える。

 

 

今後、葛城と坂柳がクラスの中心となるのだろう。

 

 

人生二度目の高校生活、人類史上最大最悪の絶望的事件も起きないし、きっと私は可もなく不可もなく普通の高校生活を送るのだ。

 

 

この世界には超高校級の天才は存在しない。前世で結婚した旦那も、私の娘も存在しない。

 

 

私の新しい青春が今、幕を開けた。






氏名     神島美香

所属     1年Aクラス

学籍番号   S01T004667

誕生日    10月1日

【学力】   A
【知力】   B
【判断能力】 A+
【身体能力】 C
【協調性】  B


【面接官からのコメント】


選択問題に関しては全問正解しており、入試での総合成績は4位とかなりの好成績を残している。中学時代の成績も良好であり、本来推薦入学が決まっていた訳では無いが、入学試験にイレギュラーが発生した為、彼女を合格とし、Aクラス配属とする。

※本来、入学予定だった受験者が試験当日に高熱で欠席した為、合格が決まっていない受験者の中から合格者を補填した事で、彼女の合格が決定した。


【担任からのコメント】

学力が高く、真面目な生徒です。
本来Aクラスに内定していた後藤に会えない事は残念ですが、彼女はAクラスに相応しい生徒です。Aクラスの戦力として、活躍してくれる事を期待します。


────────────────────────
以下ネタバレです。


超高校級の幸運に内定していた女子生徒は、危険回避型の幸運だと思っています。

苗木誠は生存力に全振りした超高校級の幸運で、無印5章のお仕置から生き延びたのも幸運が発動したからだと考えています。それ以外は苗木誠は不運とも呼べるような人物で、幸運とは呼べないですよね。

狛枝凪斗は、自分に降りかかる不運の後に大きな幸運が来るタイプで、不運でもあり、幸運でもある。そしてそれをコントロールしているあたり、抽選で選ばれたと言うより、本物の才能だと思っています。

上二人に共通している事は、不運という側面を持っている事です。ならば、元々苗木の代わりに内定していた少女が不運の側面を持っていないという設定も有りなのではないか…そんな考えを元に生まれたのが神島美香です。

ただただ運が良いだけの幸運が高度育成高等学校に入学し、新たな青春を送る。しかし、彼女はまだ過去に縛られています。超高校級になれなかった、選ばれるはずだったという劣等感を抱えつつ、それに自分自身は気づいていない。そんな彼女が最終的に手にするのは形だけのAクラス卒業なのか、それとももっと大切な何かなのか。

超高校級の才能を持って転生した少女が織り成す物語をお楽しみください。

主人公の相棒(親友ポジ)は誰が良い?

  • 森下藍(ビジュ良すぎて泣いた)
  • 山村美紀(寡黙で大人しい子が好き)
  • 神室真澄(万引きっ子可愛いね)
  • 橋本正義(原作で小物臭しすぎ!)
  • 戸塚弥彦(戸塚退学フラグ折れるかな?)
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