超高校級の幸運に内定していた少女は、高度育成高等学校に入学する。 作:杏仁豆腐
今回は、食料調達やAクラスの主要メンバー(幹部クラス)との会話がメインです。
後書きも、また明日書き加えたいと思います。
コメント返信についても明日行います。
無人島で一週間を過ごすだけの簡単な試験が始まり、Aクラスは洞窟をベースキャンプに登録した。そしてリーダーは私に決まり、洞窟と近くの川、川の上流に位置する滝のスポット占有を行い、食料調達に移った。
私は何故か分からないが、橋本と一緒に食料調達を行っていた。森の中を歩き続け、木の実や薬草を採集していく。
「結構暑いね。虫もいそうで嫌だなぁ。」
私がそう言うと、橋本も同意し「虫除けスプレーが欲しいぜ」と言い、だるそうに手でパタパタと顔を扇いだ。
前世で未来機関に所属していた私は、77期生の監視という名目でジャバウォック島に滞在していた事がある。そして、そこで自生する植物や近海で生息する生物の調査も行われており、植物や海洋生物について他の人より知識はある方だ。食べられる物と食べられない物に関する知識も勿論持っている。
全ての判断が着く訳では無いが、まあ私の幸運があれば何となく分かるだろという事で食料調達に立候補したのだ。
「お、これってキノコか?」
橋本はそう言ってしゃがみ、キノコをじっと観察する。私も彼に駆け寄り、キノコを確認する。
「これはアカヤマドリだね。」
「へぇ?物知りだな。ちなみにこれは食べられる物なのか?」
私は橋本の言葉にすぐ返事を返す。
「勿論食べられるよ。リゾットやパスタに使われることが多いかな。」
アカヤマドリはイグチ科ヤマイグチ属のキノコで、傘の直径は最大で25㎝以上にもなる、比較的大型のキノコだ。
「こっちの袋に詰めておこう。そんなに量があるわけじゃないけど、料理の風味程度にはなるでしょ。」
「分かった。じゃあ持ってくか。」
私と橋本はアカヤマドリを採取し、ビニール袋に詰めていく。近くにあるアカヤマドリを全て詰め終えると、丁度袋が満タンになった。
「うわ、もういっぱいになっちゃったね。別の袋ってあったっけ?」
「あー、確かポケットに入ってたはずだ。」
そう言って橋本はジャージのポケットからビニール袋を一枚取り出し、それを広げた。
「じゃあ、次からはこっちを使おうか。」
「おう、そうだな。」
その後、私達はさらに奥へと進んで行った。
虫の鳴き声、空高くを舞う鳶、そして蒸し暑い夏の空気に包まれた無人島の中は不快感しか感じない。
「暑すぎる。冷たい物が食べたいなぁ。」
「そうだな。オレも手持ち扇風機が恋しいぜ。」
「そうだね。エアコンの効いた室内でも手持ち扇風機を使うくらいなのに、無人島で手持ち扇風機が無いなんて、無理ゲーだよ。」
橋本と愚痴りながら、手持ち扇風機が欲しいと連呼しながら私達は熱気の濃い森の中をゆっくりと歩いていく。
今すぐ暑さを消す為に川や海に飛び込んでしまいたくなるが、近くには川すらないので、暑さに対する対処方法は水分補給しかない。しかし、水も飲めば減ってしまう。ペース配分を間違えないように注意しながらも、こまめに水分補給を行わなければいけない。
ジャバウォック島の夏もかなり暑かったが、超高校級のメカニックや未来機関所属の天才が開発した冷却機や熱中症対策グッズがあったので、ここまでの不快感を感じる事は無かった。無人島サバイバルと聞いて、かつての経験を生かせるかと思えば、そんな楽なものではなかった。自分の考えの甘さに心の中で溜息をついてしまう。
しばらく歩いていると、突然橋本が立ち止まった。
「どうしたの?」
「この果実って食べれるのか?」
橋本が木の上に成る実を指さしてそう呟く。
「うーん、その果実は…」
私は彼の指差している果実を見てそれを注意深く観察する。
かなり高いところに実がなっている。色は赤く、表面は小さな粒の様なもので覆われており、実もかなり大きい。確かこの植物はヤマモモだったはずだ。甘酸っぱくて美味しい果実だが、かなり高い位置に実が成っている為、採取は難しそうだ。
「あー、これはヤマモモだね。甘酸っぱくて美味しいよ。無人島では『甘味』を含む物は珍しいから、採取しておきたいけど、手が届かないなぁ。」
そう言うと、橋本は近くに落ちていた長い木の枝を取り、それでガサガサと木を揺らし始める。
「これで落ちなかったら諦めるしかない。」
「落ちるかな。」
そう言った瞬間、ゴソッとヤマモモが地面に落ちてきた。
「おお、本当に落ちた。とりあえずこれ持ってこうぜ。」
橋本が驚きながらも、地面に落ちたヤマモモを掴んでビニール袋に入れていく。私も同じ様にヤマモモを集めてビニール袋に入れる。かなりの量のヤマモモを採取する事が出来たので、一度洞窟に戻る事にした。
「そういえば、橋本君はどうして私に着いてきたの?普段あまり話さないじゃない?私達って。」
私は採取したヤマモモが入ったビニール袋を縛りながら橋本に問い掛ける。すると彼は少し驚いた様な顔をしてから「ああー」と声を漏らした。
「いや、何となくだよ。特に深い意味は無いって。」
そう言った彼の顔は相変わらず胡散臭い笑みを浮かべていたが、彼がそう言うのなら意味など無いのだろう。例え意味があったとしても、私にとってはどうでも良い事だ。私に害が及ばない限りは、だが。
洞窟に戻ると他の生徒達も戻ってきており、洞窟の中で休んでいるようだった。私と橋本は調理班の女子生徒の元へ向かい、採れたヤマモモとアカヤマドリの入ったビニール袋を手渡した。
「わあ、凄いね。これはキノコだよね?こっちの赤い実は食べられるものなの?」
「赤いのはヤマモモだよ。甘酸っぱくて美味しいよ。キノコはアカヤマドリ。パスタやリゾットに使われるものだよ。毒は無いから安心してね。虫が入ってる可能性があるから、虫出しだけしてね。」
「虫出しってどうやるの?」
「簡単だよ。ヤマモモはこの袋の中に、塩水を入れて1時間から2時間くらい放置してね。その後は、さっと水洗いしたら虫出しは完了。アカヤマドリは、軸とカサを分けて、ぬるま湯の塩水に10分くらい入れて放置して。そしたら虫が出てくると思うから。」
女子生徒は私に言われた通りにビニール袋に塩水を入れ、漬けて暫く放置していた。そして、次にアカヤマドリのカサと軸を分け、塩水に入れ、10分後に虫を捨て、サッとキノコを洗って下処理を終えた。
私と橋本は、彼女が虫出しを終えたのを見届けて、洞窟を後にした。私達は再度森の中に入り、近くの川に向かう。今度は採集ではなく、魚を釣る為だ。釣り道具はポイントで購入した竿と餌使用しているが、果たしてきちんと魚が釣れるだろうか。
川の最上流に着くと、早速釣りを開始する。しかし全く釣れる気配がない。竿に何か掛かる感覚すら無いのだ。これは困ったと頭を抱えていると、背後から橋本の声がした。
「魚が引っかからないなぁ。」
「うん、そうだね。この調子だと、すぐに日が暮れてしまいそうだよ。」
なんでも良いから魚を釣りたい、沢山の食料を獲得したい。そう強く願った瞬間、竿がピクリと動き、何かが食いついてきた感覚がした。
「く、食い付いた!結構重いね…橋本君、早く手伝って!」
「分かった!」
私は急いで釣り糸を巻き上げようとするが、魚の力が強く中々引き上げられない。橋本と交代し、彼に竿を引き上げて貰う。そして持っていた網で魚を掬い上げ、針を抜いてから川水の入ったバケツに魚を入れる。
「結構大きいな。40センチはあるんじゃないか?」
「そうかも!この調子で沢山釣れると良いね。」
「だな…お、オレの竿もかかったみたいだ。」
そう言い、橋本も釣り糸を巻き、魚を逃がさんと言わんばかりの顔で竿を引っ張る。それから数秒後、彼も見事に魚を釣りあげた。
「よし、まあまあなデカさだな。」
「塩焼きにしたら絶対美味しいよ。」
「そうだな。早く飯が食いたいぜ。」
そう言い、彼はまた餌をつけて竿を遠くに投げた。
今私が釣った魚は、イワナという川魚だ。イワナの身はしっかりしていて、さっぱりとしたクセの少ない上品な味が特徴で、人気な食べ方は塩焼きや揚げ物た。イワナは最上流の冷却水域に生息している事が多い為、今回わざわざ最上流まで足を運んだのはイワナを釣る為だ。その為だけに最上流まで歩いてきたが、目的が達成されたので、ここに来る甲斐はあった。
橋本が釣った魚は、ヤマメという川魚だ。「渓流の女王」といわれるヤマメは、海に下るとサクラマスになる高級魚で、新鮮なヤマメは処理をすれば生でも食べる事が出来る。だが、私は串刺しにして塩焼きにするのが一番好きだ。フライにして食べても美味しい、渓流釣りで人気の高い魚だ。
その後、私と橋本は魚を釣り続け、それぞれ7匹ほどの魚を釣ることが出来た。それから私達はベースキャンプに戻り、調理班の元へ釣った魚を持って行く事にした。
「あ、お帰り!何か釣れた?」
私と橋本が戻って来た事に気付いた谷原真緒が私達の元へ駆け寄る。
私はバケツに入った14匹の魚を見せる。すると谷原は目を輝かせた。
「凄い!こんなに沢山よく釣れたね?」
「だろ?本当に俺達は運が良いな。」
「ヤマメとイワナ、鮎、ニジマス、だよ。塩焼きやフライにして食べようよ!」
「そうだね、そうしよっか!あ、でもまずは下処理しないとね。」
谷原はそう言うと、魚の下処理を始めた。
そして、私達の仕事は終わり、自由行動をしても良いと許可が出たので、私は採取から帰ってきた藍と一緒に近くを散策する事にした。
「藍ちゃんは海釣りに行ってたんだよね?何か釣れたりした?」
私がそう聞くと、彼女は頷き驚くべき事を話し始めた。
「ええ、2匹大物が釣れました。カンパチとキジハタです。」
「…え?カ、カンパチとキジハタ?」
私は耳を疑った。カンパチとキジハタと言えば、高級魚だ。
カンパチは、ブリやヒラマサに比べて脂身にクセが少なく、淡白で食べやすいため、刺身や寿司ネタとして食べられることの多い魚だ。またブリやヒラマサに比べて漁獲高が少ないため、高級魚と言われる事が多い。
キジハタは、日本では珍しく、青森県以南から沖縄までの温暖な沿岸域に分布している魚だ。体色はオレンジに、やや黄を帯びた赤色の斑点が見られ、頭部はすっきりと細いが胴体にかけて太くなり、まるでフットボールのような体系をしている。キジハタの名前の由来は、鳥のキジが持つキジ色とキジハタの目の色が似ていた為と言われている。またキジハタには地方名があり、関西地方ではアコウ、山陰地方でアカミズ等と呼ばれている。
キジハタは生息域が限られる上に絶対数も少なく、狙って釣るのが非常に難しい魚だ。その為、釣り人の間では「幻の魚」と呼ばれている。そんな魚を釣ってしまった藍は、とても幸運な女性だ。
「まあ、生き物を捕まえた回数で言えばもっと多いのですが。」
「どういう事?」
私が首を傾げて聞き返すと、彼女は自身の武勇伝を話し始めた。
「海釣りをしに行ったは良いものの、私は餌を持っていくのを忘れてしまったんです。」
「え?」
私は驚きのあまり、間抜けな声を出してしまった。まさか釣りに行くのに餌を持ってくるのを忘れるなんて事があるのだろうか。…いや、藍なら有り得る話だ。彼女は少し抜けているところがあるから。
しかし、彼女の話には続きがあった。
その話を聞いて私は更に驚いたが、それは彼女が大物を釣った事よりも驚くべき内容だった。なんと彼女は、近くの泥の中から、天然物のゴカイを捕まえ、それを餌にしたらしい。泥を掘り返して、餌を捕まえるという発想を、ただの女子高生が思い付いて行動に起こすとは思えない。彼女の行動力の高さに敬意を評しながらも、心の中で少しだけ引いていた。
「そのゴカイを餌にアジを釣ったのですが、サイズが小さかったのでそのアジを生き餌にして、釣りをする事にしたんです。」
「あ、アジを生き餌にしたの?!え、いや、凄いと思うけど!せっかく釣れた魚を生き餌にちしちゃったの?!わ、わらしべ長者みたい。もうそれは、リアルわらしべ長者としか思えないよ、藍ちゃん。」
私は驚きのあまり、少し声が大きくなってしまい、慌てて口を手で押さえる。藍はそんな私を見てクスッと笑った後、話を続けた。その後、釣り上げたアジを生き餌にして1メートルを超える大きさのカンパチを釣り上げたそうだ。
そして、生き餌に味を占め、同じようにゴカイを探し、小サバを釣り上げた。そして、釣れた小サバを生き餌に、今度はキジハタを釣りあげたらしい。
サバは活きが良く、よく動き回るのでキジハタの生き餌に最適だと言われている。しかし、だからといってキジハタを狙って釣るのは難しい。だからこそ、彼女の偉業は奇跡としか言えない。
「それでキジハタも釣っちゃったんだ。」
「ええ。同じように生き餌でもう1匹大物を釣ったのですが、それは逃がしました。」
藍はコクリと頷き、更なる驚きを私にプレゼントしてくれた。
「ええ?!どうして?なんで大物を逃がしてしまったの?」
大物をわざわざ逃がす理由は無いはず。私達には食料がいくらあっても足りない、そんな状況下にいるのだ。せっかく生き餌を使って釣ったのに逃がしてしまうのは勿体ないと感じてしまう。
「理由は…」
「理由は?」
私は、ゴクリと唾を飲む。すると彼女はゆっくりと口を開いた。そして、彼女口から語られた理由はとんでもないものだった。
「ハンマーヘッドシャーク」
「え、まさか、サメを釣ったの?そうなの?え?」
ハンマーヘッドシャークとは、熱帯から温帯の沿岸域に生息するメジロザメ目シュモクザメ科に属するサメの総称。シュモクザメの英名だ。頭部がトンカチのような形状をしており、他のサメと見間違えることはまずない。
「私は実物のハンマーヘッドシャークを見た事は今日までありませんが、図鑑で確認した事はあります。ですから、間違いなくハンマーヘッドシャークを釣ったと自信を持って言えます。大きさは、だいたい4メートルくらいでしたね。」
「え、本当に釣っちゃったんだ。しかも大きい…」
彼女は淡々と語ったが、私は開いた口が塞がらなかった。そこそこの大きさの魚を、しかもサメを釣ったという事実にただただ驚いた。こんなか弱い女子が凶暴とはいえないが、危険生物であるサメを釣れるとは誰が思うのだろう。それも素人の初心者が。
その後、藍の武勇伝を聞きながら森の中を散策した。しばらく歩くと、紫の可愛らしい花を見つけた。
「あ…この花、可愛らしいですね。」
「この花、なんだったかな。名前が出てこないや。確か、お茶にしたり、シロップにすると美味しいんだよね。」
私は、その花の名前を思い出す事が出来なかった。だが、この花が食べられるという知識だけは覚えていたので、3つの袋がパンパンになるまで詰めて持っていく事にした。
「かなり沢山詰め込みましたね。」
「うん。帰ったらこれを干してお茶にしようと思ってさ。」
しばらく歩くと、川が見えてきた。そしてそこでは戸塚が釣りをしていた。彼は私達に気付くと手招きをした。私達は彼の元へ駆け寄り、彼の隣にしゃがんだ。
すると彼がバケツをこちらに見せながら口を開く。
「さあ、見てくれ!鮎が4匹も釣れたぞ!これなら葛城さんも喜んでくれるはずだ。」
戸塚は自慢げにそう言い、瞳を輝かせ、ニヤニヤとした顔でバケツの中の鮎を見つめる。そんな彼の姿に藍は少し顔を引き攣らせているが、戸塚の葛城信仰は今に始まった事じゃないの、私は彼の発言をスルーした。
「そういえば、お前達も調達班だったよな?森下は海で、神島は森と川の探索に行ったんだろ?食料の確保は出来たか?」
戸塚はじろりと私達を睨みつけるように見ながら、そう聞いてきた。私は彼の威圧に気圧されながらも、頷いて答えた。
「一応、川魚は8匹釣れたよ。森の中では、アカヤマドリというキノコとヤマモモが採れたよ。」
「は、8匹も?!ひ、ひとりでか?」
「うん、そうだよ。一人で8匹釣ってきたよ。」
私の返答に戸塚は驚き、目を見開いた。彼の反応を見て、私は少し得意気になったが、すぐにその考えを改めた。何故なら、私よりも凄い偉業を成し遂げた人物が隣に立っていたのだから。
「ま、まあ、ただ運が良かっただけだろ。そんな事より、さっきからずっと黙ってる森下はどうなんだ?黙ってるって事は、どうせ何も得られなかったんだろう?」
戸塚はそう言って藍を挑発する。しかし、藍は挑発に乗る事なく、淡々と事実を述べた。
「そうですね。私が持ち帰ったのは2匹です。2匹しか釣る事が出来ませんでした。」
藍はそう言い、少し残念そうな顔をする。だが、戸塚はそんな彼女の表情を見て鼻で笑った。
「大きなカンパチとキジハタを釣りました。他に、ハンマーヘッドシャークを釣ったりもしましたが、流石にサメは人を選ぶでしょうから、海に返してきました。サメを食べたいと思う人は少なそうですし。」
しかし、次の瞬間には声すら出せずに固まっていた。カンパチはそう簡単に釣れる魚ではないし、キジハタについては希少な高級魚だ。それだけでなく、サメも釣ったと藍は言ったのだ。
釣り素人であるただの女子高生にそんな事を言われれば、流石の戸塚も何も言えなくなってしまう。数ではなく、釣った魚の質で藍は戸塚を黙らせたのだ。
その後、動かなくなった戸塚を見て埒が明かないと判断し、私達はその場を離れた。そして洞窟に戻り、採取した花を日陰で干した。
「これで良し、っと!」
洞窟に干された大量の花を見て、私は満足気に笑う。
「この花は、どれくらいの間干すんですか?」
藍が干された花を指先でつんと弾きながら私に尋ねる。
「うーん、だいたい3日くらい干さなきゃ行けないんだ。明明後日くらいには、お茶に出来ると思うよ。」
「なるほど、楽しみです。」
「本当ならシロップにして、炭酸と割ると夏は最高なんだけど、生憎炭酸は無いからね。」
私達は顔を見合わせて笑い合った。
その後、全員が集まって調理班が作った料理を食べた。
「うーん、美味しい!特にこの炊き込みご飯!最高じゃない?」
隣に座る美紀と藍に問掛けると、二人は幸せそうな顔で首を縦に振った。特に藍はキジハタを釣った張本人であり、達成感に満ちたような表情で満足気にしている。
「キノコも風味が出ていて、とても美味しいですね。」
「そう言って貰えて嬉しいよ。明日も見つけたら採取してくるね。」
美紀もすんと鼻を鳴らして、アカヤマドリの香りを堪能している。アカヤマドリの優しい風味が、キジハタによく合っており、食欲をそそられる。
今日の献立は、一人1匹の焼き魚、ぶりの照り焼き、キジハタとアカヤマドリの炊き込みご飯だ。魚づくしで、栄養バランスは良くないが、たんぱく質を多く摂取する事が出来る。そして、成長途中の男子のお腹も満たす事が出来る量なので、今回の調達は大成功だと言える。
それにしても、調理班の生徒が魚を捌ける人物で助かった。無人島生活で食べるメインの食材は魚だ。もし調理出来る人間がいなければ、全て塩焼きになっていただろう。そう考えると、魚の下処理をしっかり行える人物がいるというのは、有難い事だ。
私はそんな事を考えながら、調理班の生徒達に感謝しながら食事を続けた。夕食後、私達は明日に備えて早く寝る事にした。
しかし、なかなか寝付けず、洞窟の入り口まで来ていた。するとそこには先客がいた。先客は神室真澄だ。彼女は月を眺めながら、静かに佇んでいた。その横顔はとても美しくて儚いものに感じたが、どこか哀愁も漂っていた。私が来た事に気付いたのか、彼女はこちらを振り向く事なく口を開く。彼女が口を開いた瞬間、夜風が吹くと同時に彼女の声が洞窟に響いた。
「眠れないの?」
「うん。」
私は静かに頷く。すると彼女はこちらに振り返り、優しく微笑むと私の隣に腰を下ろした。そして、彼女も月を眺める。彼女の横顔はとても綺麗で美しくて目が離せなかった。ふと我に返り彼女から視線を逸らすと、先程まで見ていた月明かりに照らされた川が目に入る。その景色は幻想的でとても美しかった。思わず見とれていると、彼女が口を開く。
「ねぇ、神島。神島は葛城と坂柳の派閥争いを…いや、Aクラスを制すると言うべきかしら?最終的に、このクラスのトップになるのは誰だと思う?」
彼女は月を眺めたまま、私にそう問い掛けた。
坂柳は間違いなくAクラスを率いる存在となるだろう。それは彼女の実力やカリスマ性を考えれば当然の事と言える。だが、葛城だって負けてはいないはずだ。彼はこのクラスのリーダーに相応しい人物だと思うし、何より努力家だ。努力をし、能力を高めようとする人間は嫌いじゃない。だが、それでも才能の前では抗う事すら出来ない。
いつかの自問自答で、私は一つの答えを出した。
『凡人は天才に抗えない』
この仮説を盲信している私が神室の質問に答えるのであれば、可能性や想像、そして候補者に対する感情を抜いてこう答える。
「このクラスのトップの座を手にするのは、坂柳さんだと思ってるよ。そうとしか、考えられない。」
私がそう答えると、神室はこちらに視線を向けた。そして、クスリと小さく笑う。私は彼女の笑いの意味が分からずを傾げると、彼女はゆっくりと口を開いた。
「…確信はない。だけど、坂柳は言っていたわ。」
「え?」
神室はそう言うと、静かに立ち上がり私を見下ろした。
「きっと神島の予想通り、坂柳がこのクラスを制するんでしょうね。その後の葛城派や、葛城、坂柳の彼等に対する対応も、貴方の望む通りになるんでしょう?」
神室はそう言うと、ゆっくりと私に手を差し出した。私はその手を優しく握り返し、立ち上がる。そして、彼女の目を見つめた。彼女は私を見透かすような瞳で見つめ返すと、口を開く。
「…坂柳は、アンタの予想が的中するって言っていたわ。この世界がアンタ中心に、回っているように見えたと、あの自己中で、自分の私欲を満たす為だけに行動しているアイツが、世界を自分のものだと勘違いしているアイツが、そう言ったのよ。」
神室は淡々と、私にそう告げた。私はその言葉の意味が理解した。
坂柳は、私と行ったババ抜きから、私の異常性について気にしているらしい。確かに、負け無し、ババ抜きでババを絶対に引かない存在というのは、とても異質で気味が悪い。私が世界の中心に見える、というのも理解出来なくは無い。
「…私は、私の予想が絶対に当たるとは思えないかな。坂柳さんがトップになるって事実は、彼女と葛城君の才能の差を客観的に評価出来る人間であれば、誰でも予想出来るよ。だから、坂柳さんの考えは理解出来ないかな。」
当事者であり、誰よりも自分の才能の恩恵を実感している私は、神室に平気で嘘をついた。理解出来る。しかし、予想出来るものほど、つまらない事はない。
予想が当たる喜びを、願いが叶う幸せを私は知っている。だが、予想を超える超高校級とも呼べるような才能や、超常的な、或いは異常な状況にて感じる事の出来るスリルや刺激には勝てない。その時、その状況でしか得られない貴重な体験は、一度体験しただけで、何度もその状況を恋しく思ってしまうほどの中毒症状を与えてくれる。
私は、人類史上最大最悪の絶望的事件で得た刺激を懐かしく思い、過去を想像してしまう。そしてこの学校でも、誰よりも彼らの面影を追い求めている。そしてこの行為の意味は、思い出に浸る為ではなく、ただ刺激を得る為の利己的な理由を持つものだ。決して褒められるようなものではない。
だからこそ、私は嘘をついたのだ。私の予想を超えるような出来事が起こる可能性を、そんな未来を見てみたいと思ったから。
私の思考ひとつで状況は変わるのだと、信じて疑わずに、自分の為だけに天に願った。
「…そろそろ寝ないと、明日の行動に障るわ。私は先に戻るわよ?」
「分かった。おやすみなさい、神室さん。」
「ん、おやすみ。」
神室はそう言うと、洞窟の中に戻って行った。私は彼女の後ろ姿を見送りながら、月を見上げていた。少し生温い風が吹き、洞窟の中に入ると耳障りな音が響く。まるで悲鳴のようだ。私はそんな音を聞きながら、洞窟をそっと出て、近くの川に向かった。
月の光照らされて、水面には月が浮かんでいる。しばらく川沿いに歩いていると、蛍が飛んでいるのを見つけた。その蛍は、まるで私を誘うように飛んでいた。私は誘われるまま橋を渡り、森の中に入って蛍を追いかけた。そして暫くすると、大きな岩に辿り着く。その岩の上には一人の青年が座っていた。
「おや、こんな時間に何をしているんだい?ガール。」
無人島生活一日目の夜、私は高円寺六助と出会った。
「…貴方こそ、上半身裸でこんなところで何をしているの?Dクラスの高円寺六助君。」
私はそう聞き返すと、彼はふわりと岩から飛び降り、私の目の前に着地した。高円寺六助は、この学校の有名な生徒の一人だ。学力が優れており、身体能力も高い上にユーモアもある、高円寺コンツェルンの御曹司だ。才能溢れる天才である彼が前世に居たのであれば、きっと超高校級の御曹司と呼ばれていたに違いない。何故なら彼は、性格以外完璧な人間と呼ばれているのだから。
「…なんだか、懐かしいなぁ。」
「…?何か言ったかい?ガール。」
「ううん、何でもないよ。」
私の小さな呟きは誰にも知られる事なく、夏の夜に溶けて消えた。
しかし、心は正直だ。彼との出会いにより、私は更に強い刺激に触れたいと願うようになっていた。だから、私は彼にこんな提案をした。
「ねぇ、高円寺君。良かったらなんだけど────」
皆さん、お久しぶりです。
意外と自分で作ったハードルを越えるのは難しく、投稿が遅くなってしまいましたが、なんとか最新話を投稿する事が出来て良かったです。
今回のお話のポイントは、神室と高円寺との会話です。
幸運に関してのお話では、主人公の幸運が作用したのか、橋本、森下が釣りで成功を収めています。
橋本は量で、森下は質で他を圧倒する釣り結果を出しています。
果たしてこの結果は、主人公の幸運がもたらしたものなのか、それとも本人に才能があったからなのか。
そこを考えながら読むと面白いかもしれません。
神島が神室と話したシーンについては、坂柳が神室に神島の異質さを事前に伝え、彼女について調べるように言っていたので、彼女自身の好奇心で神島に話し掛けました。
神島の持つ運という超常的な力、そして坂柳の言っていた神島像にはギャップがあります。
神室は、何故神島が坂柳に異質だと、異常だと評価されているのかを理解出来ていないので、今回坂柳の言葉を伝えながら探りを入れたんです。
その後、神室が何を思ったのか、坂柳に何を報告するのか。
それはきっと無人島試験の結果に左右されるでしょう。
そして、高円寺との会話のシーンについてですが、これは今回の試験において重要なポイントとなります。
今回の話では解説はしませんが、無人島試験が終わったら、簡単な解説を書きたいと思います。
神島美香は、面白さを求める江ノ島盾子、スリルを求めるセレスティア・ルーデンベルク、楽しさと利益の為に行動する南雲を全部纏めて、少し薄めた狂人になりきれない真面目ちゃんとして描いているつもりです。
狂い切る事が出来なかった、という点についてはセレスと似ている気もしますね。
人類史上最大最悪の絶望的事件は所詮言い訳で、真面目な面を持つ神島はその言い訳がなければ、自分の欲を満たそうとする思考を受け入れられないんじゃないか…作者はそう思って書いていましたが、あの事件で狂わなかっただけで、確かに絶望も味わっているのではないかと、書いているうちにそう思い始めました。
では、解説はこの辺にして、また次話でお会いしましょう。
干支試験、主人公はどのグループに入って欲しいですか?(グループ詳細は8話後書きに記載しておきます。)
-
リーダーグループ
-
参謀グループ
-
おバカ(?)グループ
-
仲良し三人組グループ
-
坂柳派グループ
-
葛城派グループ
-
坂柳派、葛城派混合グループ