超高校級の幸運に内定していた少女は、高度育成高等学校に入学する。 作:杏仁豆腐
まだ相棒枠については決めかねていますが、今回のお話は森下藍ちゃんメインです。
他にも一之瀬や神崎、坂柳とも関わります。
評価やコメント、是非お待ちしております。
自己紹介を終えて、まだ40分ほど自由時間が余っている事に気付いた。
教室内の生徒達は近くの席に座っている生徒や、趣味や特技が似ている生徒、同じ部活動をしていた生徒と会話をし、既に友人作りを始めている。さて、私も誰かに話しかけてみよう。一人で席に着いている生徒をターゲットに選び、私は廊下側の席に座って机に突っ伏している女子生徒を見つけた。確か彼女は森下藍と名乗っていたはずだ。
じーっと見つめていると、彼女が目を開けたタイミングで目と目が合った。私はハッとして、笑顔を作り彼女に声を掛けた。
「森下さん、もうすぐ入学式が始まるよ。昨日寝足りなかったの?」
彼女は状態を起こし、私に向き直ってから返事を返した。
「別に、そういうわけではありません。睡眠は十分取れています。」
彼女の言う通り、顔色は悪くないし隈も出来ていない。睡眠不足では無さそうだ。
「じゃあどうして机に突っ伏していたの?大丈夫?」
「特に問題はありません。少し目を閉じていただけです。」
日中に意識を失うナルコレプシー等の睡眠障害の可能性はあるが、彼女は深刻そうな顔はしていないので、これも見当違いのようだ。
「そっか。なら邪魔しちゃってごめんね。」
「いいえ、問題ありません。」
彼女の事が少し気にはなったが、もう話す話題は見つからない。私は彼女に背を向け席に戻る事にした。
「待ってください。」
しかし彼女は私を呼び止めた。私は振り返り、彼女をじっと見つめながら口を開く。
「ん?何かな。」
「先ほどの自己紹介で、貴方の特技はババ抜きでババ…ジョーカーを引かない事だと話していましたが、それは本当ですか?」
彼女の冷たい眼差しが私の体に突き刺さる。どうやら信じていない様子だが、全て事実なのだから私は臆する事なく話す。
「そうだよ。我ながらおかしな特技だと思うし、誇れるようなものでも無いけど、私はババ抜きで一度もジョーカーを手にした事が無いんだよね。」
彼女は私の事をじっと見つめている。彼女の吸い込まれそうなほど綺麗な瞳を見ていると、まるで心の奥底まで見透かされているようだった。そして少しの沈黙の後、彼女は口を開いた。
「手にした事が無いと言う事は、始めに配られたカードの中にもジョーカーが入っていた事が無い、という解釈で間違いありませんか?」
「その通りだよ。」
私はババ抜きで1度もババを引いた事が無い。それは相手の手札からカードを1枚選ぶ時の事だけでなく、始めに配られたカードの中にもババが入っていた事は無いという意味だ。私はババ抜きの醍醐味であるババをこのゲーム中に見た事は無い。そして相手のカードから1枚選ぶ時、必ず自分の手札の中でペアになるカードを引く事が出来る。これを幸運と言わずしてなんと言うのか。私は確かに、幸運という才能に恵まれていた。
森下はまだ疑っているようだ。私はスマホを取り出し、とあるアプリを起動し、そのアプリのホーム画面を彼女に向かって向ける。
「…そんなに疑うんなら、ババ抜きしない?ちょうどこのスマホには、トランプゲームのアプリが入ってる事だしさ。」
彼女は少し考える素振りを見せると、自分に支給されたスマホを取り出し、電源を入れた。
「ゲーム名は『トランプ・パーティー』ですか。聞いた事が無いアプリですね。」
彼女は不思議そうな顔で画面を見つめる。
「私もこのアプリ名は初めて知ったよ。さぁ、時間が無いし、2試合で良いかな?」
私が彼女に問えば、すぐに首を縦に振った。その後、互いのフレンド情報を登録し、私達はゲームを始めた。私と森下、プレイヤー3はNPCが担当し、3人での戦いとなる。まず配られたカードを確認するとババは入っていなかった。つまり、この時点でババはNPCか森下の元にあるという事になる。
その後、ペアのカードが自動的に抜かれ、ゲームが始まる。順番にカードを引いてカードを抜かれていく。私は順当にペアのカードを引き、私は一抜けし1番で勝利した。その後、森下がNPCに勝利し、2位になった。もう1戦を試合を行うが、同じ結果となった。勿論、このゲーム中私はババを1度も見ていない。たった2回で私の運の良さを証明する事にはならないが、2回行って一度もババに触れていないという点から、なんの証拠もない状態よりも信用して貰えたはずだ。
「どう?少しは信じて貰えたかな?」
私が森下に尋ねると、彼女は小さく頷き口を開いた。
「たかが2回の勝負です。証明には至りません。しかし、貴方が運の良い人間だという事は分かりました。貴方のターンで、全てペアとなるカードを引いていた。それは紛れもない事実です。」
「ありがとう少しでも信じてくれたのなら嬉しいよ。良かったら仲良くしない?連絡先交換しようよ。」
私がそう提案すると、森下はすぐに頷きスマホを操作して電話帳とチャットアプリに友達登録をしてくれた。それからと森下は、互いの趣味や特技について語り合い、あっという間に時間が過ぎていった。
やがて入学式の時間が近付き、私と彼女は体育館に向かって歩き始めた。この学校はかなり広い為、体育館に移動するのにも少し時間がかかる。特に私達は一年生で、3階の教室で授業を受けている為、早めに行動する必要があった。
体育館に到着すると、クラス分けでバラバラになった生徒達は皆体育館に設置された椅子に座っており、静かで厳かな空間が出来上がっていた。私達も自分の座席に座り、その空間に溶け込んだ。その後入学式が始まり、校長の話、理事長の話、来賓から入学祝い品の贈呈が行われ、国家を斉唱したりと、スムーズに式は進んで行った。
そして、ようやく在校生代表の挨拶が行われた。選ばれた代表者は、この学校の歴代最高と誉高い生徒会長、堀北学だった。彼は現在高校三年生の受験生であり、そこに存在しているだけでとてもつない威圧感を放つような男だ。元未来機関副会長の宗方京助を彷彿とさせる様な、鋭い眼差しを私たちに向けている。
「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。私は生徒会長の堀北学です。このめでたい日を新一年生全員が揃って迎えられた事、喜ばしく思っております。この学校は実力主義を謳っています。実力主義とは、高い能力を持ち高成績を収める事を表していますが、皆さんには今一度この言葉の真意を考えて頂きたいと思っています。物事には幾つもの側面が存在するように、実力主義にも他の側面が存在します。皆さんが有意義な三年間を過ごせる様祈っています。在校生代表、堀北学。」
在校生代表の挨拶を済ませ、堀北会長は降壇した。その後入学式は終了し、新入生は教室に戻って帰りのホームルームを行い、放課後になった。午前中で学校は終了なので、今から多くの生徒は生活必需品や食料の調達に向かうのだろう。
私は、森下をランチと買い物に誘ってみる事にした。
「森下さん、良かったら一緒にお昼ご飯食べながら買い物に行かない?色々日用雑貨を買いたいと思ってたんだけど、この学校のマップも頭に入ってないし、一人だと少し不安なんだよね。」
「良いですね。丁度私もお腹が空いてきた頃です。」
森下は迷わず頷いたので、私は森下が荷物を纏めるのを待ってから学校を出た。
「それで?森下さんはお昼ご飯何か食べたい物はある?この学校、和食もイタリアンも中華もフランス料理も何でもあるみたいだよ。」
私はスマホに表示された学内の施設情報を見ながら森下に尋ねる。彼女は少し考えてから返事を返した。
「…入学初日ですから、価格の安いお店ならどこでも構いません。」
価格の安い店を探すと、近くに全国チェーンのハンバーガーショップがある事に気付く。ここから歩いてすぐの様なので、そこを提案する事にした。
「それなら、チェーン店のハンバーガーショップに行こう。ここからだと5分くらいで着くみたいだし。」
私が森下に提案すると、彼女は少し悩んだ末に頷き了承してくれた。
「分かりました。そこに行きましょう。」
ハンバーガーショップに着くと、同じクラスの坂柳有栖と出会した。
「あれ、坂柳さんもここでランチ?」
私がそう尋ねると、彼女は振り返り今私達の存在に気付いたようだ。
「ええ。突然後ろから声を掛けられて驚きました。宜しければ、御一緒しませんか?」
彼女の提案に私は頷きそうになって、何とか踏みとどまった。今は私一人で行動している訳では無い為、まずは森下の意見を確認する必要がある。私は森下に向き直り彼女に目配せをする。数秒の間の後、彼女は静かに首を縦に振った。
「決まりだね。じゃあ一緒に食べようか。」
私達はランチを一緒に食べる事になった。店内に入り、私はチーズバーガーのセットを、森下はトマトチキンバーガーのセットを、坂柳はホットドッグのセットを注文した。空いている席に座り待つこと5分、頼んだ商品が席に届いた。
「わあっ、美味しそうだね。」
「ええ、そうですね。流石は人気チェーン店なだけあります。しかし、このような高カロリーな物を食べ過ぎないように注意しなければなりません。」
どうやら坂柳はこの店に来る事が初めてらしく、普段は栄養バランスの取れた料理しか口にしないらしい。初めてのジャンクフードに少し緊張しているようだが、私からすれば微笑ましさすら感じる。
とろぉっとしたチーズがたっぷりとかけられたハンバーガーを見て、おもわず涎が垂れそうになる。
「じゃあ早速食べようか。いただきます!」
私の声に釣られて、坂柳と森下も「「いただきます」」と食前の挨拶を行い、ハンバーガーとホットドッグにかぶりついた。
ジューシーな肉の旨味とトマトの酸味が口の中で弾ける。安い店ではあるけれど、その美味しさに嘘は無かった。
「美味しいね。」
私がハンバーガーを食べながら感想を言うと、坂柳と森下も頷き同意してくれた。
「そうですね。少々味付けが濃い目ですが、これはこれで美味しいと思います。」
「太りそうですが美味しいです。」
森下はあまり表情は変わっていないが、先程より声が明るくなっている為、その言葉に偽りはなさそうである。そんな話をしながら食べ進めていくと、あっという間に完食した。その後少しだけ談笑し私達は席を離れた。
その後私と森下は坂柳と連絡先を交換し、近くのスーパーで日用品を買い揃えた。
それにしても、スーパーには無料コーナーと書かれた棚があり、個数限定で無料で貰える商品が置かれていた。ポイントを使い切ってしまった人に対する救済措置の様だが、救済措置が必要なほど困窮する人間がいるという事になる。そしてこのコーナーが示す事は、この学校ではポイントがそう簡単に手に入る事は無いという事だ。
「無料コーナーねぇ…トイレットペーパーやティッシュを無料で貰えるのは有難いけど、やっぱりこの学校ちょっと怪しいなぁ。」
「そうですね。貧しい暮らしを強いられるような事もある、という事になりますから。やはり、節約に関する呼び掛けを今日行えた事は僥倖でしたね。」
「そうだね。坂柳さんと葛城君のおかげで、Aクラスはとても助かってると思う。改めて、注意喚起をしてくれてありがとう、坂柳さん。」
彼女に礼を述べると、坂柳は満更でもないといった顔で微笑んだ。
「大した事では有りません。気にしないで下さい。」
坂柳や葛城が自己紹介時に行った注意喚起のおかげで、Aクラスの生徒のほとんどは無駄遣いをせず、計画的にポイントを使うはずだ。
この行動を初日から取れる事により、ポイントに困る生徒は他のクラスと比べて少ないはず。もしかしたら、貧困に苦しめられるなんてただの妄想に過ぎないのかもしれないが、それはそれで笑い話になる。何より社会に出た時、金銭管理が重要だという事は誰もが理解している為、その勉強にもなる。だから彼女や葛城の注意喚起はとても助かっている。
「正直この学校、クラス間に大きな差があると思うんだよね。」
「ふふふ、面白い意見ですね。」
私の発言に坂柳が僅かに口角を上げ、楽しそうに笑った。森下は無表情なのは相変わらずだが、少し気を引き締めたような声で私に聞き返す。
「理由を教えて下さい。」
私は森下の発言に頷き話し始める。
「理由は、今日朝のホームルームが始まる前、各クラスの様子を見ながらAクラスの教室に向かったんだけど、Dクラスは教室内でネイルやゲームをする生徒が多くて、皆大きな声で話してて騒がしかった。次にCクラスは殴り合いの喧嘩をしていて、まるで絵に描いた不良校のようなクラスだった。Bクラスはとても美しい女子生徒が中心となって、ホームルーム前から自己紹介を行い、既に統率が取れていた。Aクラスは逆に真面目な生徒が多いからか、静かで治安の良い落ち着いた雰囲気のクラスだった。」
それぞれのクラスによって、雰囲気が全く異なる。Aクラスに向かう程統率が取れている、あるいは取ろうしており、Dクラスに行くほど纏まりが無く治安が悪くなっている。
「私はね、このクラス間の差をこう考えているよ。Aクラスから順に優秀な、あるいは真面目な生徒が割り振られているんじゃないか、って。」
堀北会長は新入生代表の挨拶で『実力主義の意味を考えて欲しい』と話しており、その意味通りであれば実力順にクラス分けがされている可能性は充分に有り得る。しかし、Dクラスには天才と名高い高円寺コンツェルンの跡取りである高円寺六助もいると噂に聞いている。つまり、ある程度平等になるような調整はされている可能性が高い。しかし、それを加味しても優秀な生徒の数がDクラスに行くにつれて減っているように感じた。
私の話を聞いて森下は思う事があるのか、黙り込んでいた。坂柳は私の考えに感心している様子だ。
「…私も神島さんの意見に賛同します。Aクラスに行くほど優秀な生徒が多くなっている。そして逆も然り、Dクラスに行くほど素行の悪い生徒の数が多くなっている、という意見には賛同致します。」
「やっぱりそうだよね。」
私は坂柳の反応を見て、やはり自分の考えが的を射ていると確信した。
「今の話を踏まえて考えると、Dクラスから素行の宜しくない生徒や暴力行為を行う生徒が出てきたのは、必然なのかもしれません。クラス間にも実力の差があると思います。」
私や坂柳の意見を聞き終えて、森下も同意を示した。彼女の考察も私たちが導き出したものとほぼ同じで、信憑性が高いと直感的に感じることが出来た。その後学校に関する意見交換をしながら私達は帰路に着いた。
それから数日後、4月だが水泳の授業が始まった。この学校には温水プールの施設があり、生徒はそこで水泳の授業を行う事になっている。風の噂では、Dクラスが水泳の授業をした時は、男子生徒が女子生徒の水着をガン見してきたらしく、次の授業からは大半の女子生徒が授業を見学したそうだ。Aクラスの男子にはそんな低俗な考えで、授業妨害をするような奴はいなさそうだが、もし居たら女性安全組合でも作って訴えるとしよう。そんな事を考えながら紺色のスクール水着に着替える。
「水泳の授業やりたくないなぁ。」
「おや、神島さんは泳ぐのが苦手なのですか?」
「そういうわけじゃないけど、水着になるのは恥ずかしいじゃない?」
私はスタイルが良いタイプでは無いので、贅肉が目立ってしまう。二度目の人生では、前世の青年期に人類史上最大最悪の絶望的事件が起き、まともに食べられたのは未来機関に保護されてからだった。だからか、今世では食への執着が強く、よく食べよく寝ている。そのせいで、少し同年代の女子よりも肉付きの良い体型になってしまっているのだ。これでも家でストレッチをしたり、筋トレをしたりと運動はしているが、一向に脂肪が減らない。まさに地獄である。
「女性としての悩みですね。神島さんの体型はとても健康的で良いと思いますけどね。」
そう言って私の腕やお腹周りを、撫で回すように触られた。
「きゃあっ!」
私は悲鳴をあげ、慌てて距離を取ると坂柳をキッと睨み付けた。
「…ちょっと触らないでよ!」
「ふふ、すみません。つい手が伸びてしまいました。」
悪びれた様子も無く彼女は微笑み謝罪する。全く反省していなさそうだが、そろそろプールサイドに向かわなければならない。私は足早に更衣室を出てプールサイドに向かった。
プールサイドには既にAクラスの殆どの生徒が集まっており、見当たらない生徒は見学席に座っているようだ。私は目立たないようにする為、急いで女子の群れに入った。Aクラスはスレンダーな体型の女子生徒が多いので、私のようなぽっちゃり体型は目立ってしまう。
「よーし、お前ら集合しろ!」
数分後、体育会系の文字を背負った様なマッチョ体型の男性が集合を掛け、授業が始まった。
「見学者は5人か…」
男性はバインダーのようなものに名簿を挟み、欠席者を記録していく。
「よし、早速だが準備体操をしたら実力が見たい。直ぐに泳いでもらうぞ。俺が担当するからには、必ず夏までに泳げるようにしてやる。」
見た目通りの熱血教師っぷりに少し引いてしまう。朝日奈もこんな感じの熱血コーチが着いていたのだろうか。彼女の才能は本物であり、水泳以外のスポーツも万能な彼女であれば、厳しいコーチに指示を受けている姿も容易に想像出来る。ふわふわした性格だが、彼女はとても芯のある女性だったから。
「安心しろ。泳げるようになっておけば、必ず後で役に立つ。頑張って着いてこい。」
『必ず後で役に立つ』という発言が引っかかる。もしかしたら、泳ぎを披露するような行事があるのかもしれない。しかし、その行事があったとしてテストくらいしか想像がつかない。まあ今考えても無駄だろう。授業に集中しよう。
全員で準備体操を行う。Aクラスの男子生徒は女子生徒に目もくれず、黙々と体操を行っている。Dクラスと違って真面目な生徒が多いからだろう。私も視線を気にせず準備体操に集中する事にした。
その後、体育教師は50メートルほど流して泳ぐよう指示を出した。泳げない生徒は底に足をつけても良いそうだ。プールにゆっくり入ると、温度は適切に調整されている為、すぐに体に馴染んだ。
「結構速いね、森下さん。」
「速いと言われるほどではありません。」
彼女は無表情で謙遜しているが、泳いだ事で息が上がっているからかその表情はいつもよりセクシーに感じる。
私の前を泳いでいた森下は泳ぐ事が得意なのか、スイスイと魚のように50メートルを泳ぎ切り、他の女子生徒を抜かして一足先にプールサイドに上がっていた。彼女のフォームはとても綺麗で、まるで朝日奈を見ているような気分になった。懐かしい友を思いながら、私はプールの中で泳ぐ生徒をぼんやりと眺めつつ息を整える。
全員がプールサイドに上がると、体育教師が集合の合図を掛けた。私達は滑らないように気をつけながら、早歩きで教師の元へ向かう。
「どうやらほとんどの者が泳げるようだな。次は、お前達に競争をしてもらう。男女別、50メートル自由形だ。1位になった生徒には、俺から特別ボーナス、5000プライベートポイントを支給しよう。逆に一番遅かった奴には補習を受けさせるから覚悟しろよ。」
泳ぎに自信のある者からは歓声が上がるが、逆に泳ぎに自信が無い者や女子生徒は面倒くさそうな顔をしている。ちなみに私は後者だ。元々運動神経が良い方では無いので、他人に見られながらのスポーツは嫌いだ。
「まずは女子からだ。一番目の五人はすぐにプールに入って準備してくれ。」
そう言うと、森下を含める女子五人がプールの中に入り、スタートの位置に着く。そして笛が鳴り、一斉に壁を蹴って泳ぎ始めた。
「すげぇ、神室速いな。」
男子生徒が感心したように神室の速さを讃える。森下は二番目にゴールしており、運動神経の良い神室が居なければ一番を取れていただろう。
「じゃあ次、二番目の五人。スタート準備をしてくれ。」
私は笛が鳴った瞬間、強く壁を蹴って泳ぎ始める。5メートルくらいのところまでスーッと進み、必死に手足を動かして前に進もうとする。最下位は補習を受けなければいけないので、死ぬ気で手足を動かした。だが、中学の水泳の授業から全くタイムが伸びていない。私は何とか四番目のゴールとなった。
補習は回避したが、こんな事を毎回行っていればいつか補習を受ける羽目になるかもしれない。少し筋力をつけた方が良いかもしれない。健康の為にも、授業成績の為にも。
「よーし、じゃあ結果発表するぞ。」
そう言って体育教師が各々のタイムを言い、三番目の競争がスタートした。その後、タイムの速い三人の女子生徒が競争し、一番を勝ち取ったのは神室真澄だった。彼女はAクラスの女子生徒の中で頭一つ抜けて運動神経が良い。体育祭ではきっと素晴らしい活躍を見せてくれるに違いない。
「じゃあ次は男子、やるぞー!」
女子と同じように男子の競争がスタートした。決勝に勝ち進んだのは、鬼頭隼、橋本正義、司城大河、清水直樹の四人だ。
鬼頭隼は恐らくこのクラスで一番運動神経が良い。発表されたタイムはこの四人の中で最も速かった。橋本正義はテニス部に所属しており、高い運動能力を保有している。清水直樹はバスケ経験者で身体能力が高い為生徒だ。司城大河は学年内で有名な容姿端麗な生徒で、女子生徒に人気がある陽キャだ。陽キャらしくスポーツ万能で、見た目通りの爽やかな生徒である。
「よーい、ピーッ!」
笛が鳴り、全員が飛び込んで猛スピードで泳いで行く。最初にゴールしたのは予想通り鬼頭だ。その次は僅差で清水、橋本と続き、司城が最下位となったが、その差は本の数秒であり、全員の身体能力の高さを見せつけられた。
「はぁ、疲れたぜ。鬼頭速すぎだろ。」
橋本が鬼頭を褒めると、鬼頭は照れているのか、橋本から目を逸らして橋本の泳ぎを褒めた。
「そういうお前こそ、なかなか速いな。」
男子四人はそれぞれを褒め合いながらプールサイドに上がる。
その後、一番になった神室と鬼頭に5000プライベートポイントが贈呈され、授業終了の10分前に解散となった。
その日の放課後、私は帰り道Bクラスに寄っていた。教室前の扉から顔を覗かせると、入学初日にクラスの中心となって自己紹介を行っていた少女と目が合った。彼女は不思議そうな顔をして私の方へ近づいて来て、声を掛けてきた。
「どうかした?誰か呼ぼうか?」
人のよさそうな笑みを携えて彼女は私を見つめる。私は親切そうな彼女に頼む事にした。
「実は、神崎隆二君に用があってね。もし良ければ、呼んでもらえないかな?」
「神崎君だね。ちょっと待ってて。」
彼女は教室の中に戻って行き、神崎に声を掛けてくれた。
神崎とは入学初日以降話していない。形式的なものだとしても、一応後で連絡先を交換しようと約束している。早い段階で約束を果たしておきたいので、彼と連絡先を交換する為にBクラスの教室にやって来たのだ。
「俺を呼んでいたのはお前か、神島。」
「うん。入学初日に連絡先を交換しようって話したでしょ?結構日数が経っちゃったけど、覚えてる内に交換しておきたいと思ってこうしてやってきたんだ。」
「そういう事か。少し待ってくれ。」
神崎はズボンの右ポケットに手を突っ込み、中からスマホを取りだした。そしてチャットアプリを起動する。
「チャットアプリに追加する。それで良いか?」
「うん、大丈夫だよ。」
私は彼をフレンドに追加し、互いに連絡先を交換した。
「じゃあ、私そろそろ帰るね。目的は達成したし。」
私がそう言い、教室を出ようとした時、後ろから先程神崎を呼んでくれた少女に声を掛けられた。
「私達も今から丁度帰るところだったんだ。良かったら、一緒に帰らない?」
「ああ、丁度帰るところだったんだ。神島さえ良ければ一緒に帰らないか?」
神崎は少女の言葉に頷き、彼女と同じように私に提案する。この提案を断る理由は無い為、私は二つ返事で了承した。二人が荷物を纏めるのを待って、私達は三人で帰路に着いた。
「先に自己紹介させて貰うね。私の名前は一之瀬帆波だよ。特に部活には所属してないけど、生徒会に所属出来たら良いなって思ってるよ。宜しくね。」
彼女の自己紹介を聞いて、私達は互いの名前を知らない事にようやく気付いた。私はすぐに彼女に自己紹介を返す。
「私は神島美香だよ。特技はババ抜きでババを引かない事。中学ではボードゲーム部に所属してたよ。高校では特に部活動をしようとは思ってないかな。宜しくね、一之瀬さん。」
彼女に手を差し出すと、彼女は私の手を優しく握り返してくれた。
「ババ抜きでババを引かないなんて、凄い特技だね。運が良いのかな?それとも観察眼が鋭いのかな?」
「あはは、地味な特技で申し訳なくなっちゃうな。」
そう言うと、一之瀬はそんな事ないと否定した。彼女はどんな小さな事でも認めてくれる。まるで天使のような、善を体現した人だ。彼女の明るい声は決して大きい訳では無いが、よく響く。とても聞きやすい綺麗な声だ。
「そういえば、神崎君と神島さんは知り合いみたいだけど、どういう関係なのかな?」
「私と神崎君は中学時代の同級生だよ。」
彼と私の関係はなんなのだろうか。友達というほど仲良くもしていないし、知り合いと呼べるほど希薄な関係でもない。
「ああ、そうだ。中学時代の元クラスメイトだ。」
「そうなんだ!だから仲が良さそうに見えたんだね。」
別に仲が良いわけではないが、一之瀬には仲の良い友人に見えたらしい。不仲なわけではないので、彼女の考えを否定はしないが、本当に彼と関わった事は事務的な要件を除いてほとんどない。友達とは呼べない関係である。
「そういえば、神島さんはこの学校のシステムについてどう思う?」
システムというのはこの学校のポイント支給に関する事についてだろう。
「どうって、毎月全校生徒にお小遣いが支給されてるんだから、物凄い予算が掛けられてる事になるよね。正直何か裏があると思っちゃうな。」
Aクラス内で共有した情報をオブラートに五重くらいにして包み、自分の考えを述べる。
「やはりか。俺達も少し怪しいと思っていたんだ。」
「うんうん。年間で億単位のお金が動く事になるし、それ以外にも学校運営にはお金がかかる。やっぱりおかしいよね。国から支払われる額だとしても、常軌を逸していると思うな。」
一之瀬は神崎に同意するように頷くと、真剣な表情で疑問を口にした。坂柳や葛城以外にも、こうして疑問を抱く人間はいる。そしてそんな人間がBクラスの生徒だったという事実に、私は自分が立てたAクラスに行くほど優秀という仮説に強い確信を持った。Bクラスはそれなりに優秀な生徒がいるクラスのようだ。
やはり私の仮説は間違っていないみたいだね。
「この学校色々不自然な点が多いよね。何時になったら教えてくれるんだろう?」
一之瀬がそう言うと神崎が少し考え込んでから話し始めた。
「恐らく来月になれば分かるだろう。来月何ポイントが支給されるのか、もし額が減れば何らかの説明がされるはずだ。その日まで、ポイントを節約しながら生活した方が良さそうだな。」
何故ポイントが減るのか、という理由には言及していないが、節約して様子を見るべきだ、という意見が出るあたり神崎は頭の回転が速い男だ。中学時代も優秀な生徒として有名だったが、彼の能力の高さはこの学校でも健在らしい。
もし、クラス間で争う様な事があれば彼については警戒が必要だ。彼はリーダーには向いていないが、参謀としては十分過ぎるほど優秀な男だ。元クラスメイトである私がそう認識しているのだから、間違いない。
その後寮に着くまで学校の話をした。一之瀬帆波は確かに優秀だが、その優秀さは周囲に人がいてこそ意味のあるものだ。彼女一人では何も成せない。私はそう結論付けた。
どこかで未来機関に入って苗木と初めて会った時の話を入れたいと思っています。
他にも狛枝と苗木と一緒にゲームをする話や、十神、朝日奈、霧切との関わりも書けたらいいなと思っています。
無印で好きなのは推論三人組とセレスちゃん、スーダンで好きなのは日向と七海と狛枝です。
神島美香の設定には、前世でとある超高校級の天才と同じ中学校だったという設定があるので、それも追追書きたいですね。
当分は物語を進行させる為に前世番外編について書く予定はありません。
主人公の相棒(親友ポジ)は誰が良い?
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森下藍(ビジュ良すぎて泣いた)
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山村美紀(寡黙で大人しい子が好き)
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神室真澄(万引きっ子可愛いね)
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橋本正義(原作で小物臭しすぎ!)
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戸塚弥彦(戸塚退学フラグ折れるかな?)