超高校級の幸運に内定していた少女は、高度育成高等学校に入学する。   作:杏仁豆腐

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今回の話は、主人公がとある先輩と仲良くなる話です。
部活に入る話がメインで、他にも森下と学食に行く話や学校の真実が明かされる5月1日の話も書いています。
そして主人公の才能についても、部活に入る話にて少し触れています。

お気に入り数が一気に増えていて驚きました。応援して下っている皆様、本当にありがとうございます!

※評価やコメント、是非お待ちしております。


超高校級の幸運に内定していた少女は、先輩と仲良くなる。

 

四月も中頃に差しかかった。

 

 

Aクラス内では、葛城とBクラスの一之瀬帆波が生徒会入りを断られたという噂が流れていた。断られた理由は「時期では無いから」というよく分からないものであり、葛城の支持率が少し下がり、坂柳側に着く生徒が少し増えた。しかし、クラス政治に興味の無い私はそんな事どうでも良かった。

 

 

とある日の放課後、私は部活勧誘が落ち着き始めたこのタイミングを見計らって、部活棟に向かった。

 

 

部活棟には文化系の同好会含む部活用の部室が並んでいる。そして、この中に私のお目当ての部活があったから私は今日ここにやって来たのだ。その部活動名は…ボードゲーム部だ。

 

 

「ここがボードゲーム部かぁ。」

 

 

私は中学時代、ボードゲーム部に所属していた。

 

 

ボードゲーム部とは、ババ抜き、ポーカー、ブラックジャック、七並べの様なカードゲームや、村人の中に紛れ込んだ人狼を処刑する人狼ゲーム、駒を動かすチェスや将棋、囲碁にリバーシ等のアナログゲームで遊ぶ部活だ。週に一度以上部活に顔を出さなければならない決まりがあり、私はほぼ毎日部活動を行っていた。それほどまでに、私はボードゲームが好きだった。

 

 

高校に入ってからは部活動をする気は無かったが、この学校のボードゲーム部はポイントを掛けて遊ぶ事が出来るそうだ。つまり、合法的にギャンブルが出来るのである。こんなチャンス、海外に行かなければもう二度と巡って来ないだろう。だから私はボードゲーム部に所属する為にここにやって来たのだ。

 

 

部室の扉を2回ノックし、断りを入れてから扉を開ける。

 

 

「失礼します。ボードゲーム部ってここですか?」

 

 

「うん、そうだよ!入部希望の新入生かな?ようこそ、ボードゲーム部へ!」

 

 

そう言って私を出迎えてくれたのは黒髪の美青年だった。

 

 

「俺は2年の鶴岡誠司。ここの部長を務めている。君の名前を伺っても?」

 

 

どうやら彼はこの部の部長だったようだ。私は彼に一礼し、自己紹介を始めた。

 

 

「私は1年の神島美香です。特技はババ抜きでババを引かない事です。宜しくお願いします。」

 

 

そう言うと、彼は面白そうな物を見るような目を私に向けた。

 

 

「面白い特技だな。良ければ、今から一緒にゲームをしないか?是非その特技、見せてくれよ。もうすぐ、ウチの部員一人と俺の友人が来る予定なんだ。せっかくだし、ポイントを掛けてゲームしないか?」

 

 

つまり、ギャンブルをしようと彼は誘っているのだ。私の目的はギャンブルをする事だったので、その誘いに二つ返事で了承した。

 

 

「分かりました。」

 

 

その後、男子生徒二人が部室にやってくるまでの間、私と部長はお茶を飲みながら雑談して過ごした。

 

 

それから約15分後、部室の扉が勢いよく開けられ、陽の光の様に眩しい金色の髪の男子生徒がやってきた。彼の後ろには茶髪の男子生徒もおり、どうやらこの二人が部長の約束していた相手らしい。

 

 

「よお、珍しい新入部員ってのはそこの女子生徒か?」

 

 

金色の髪の男子生徒が私を見ながら部長に問掛ける。

 

 

「ああ、そうだ。とりあえず自己紹介を頼めるかい?」

 

 

部長に促され、私は後から来た二人の方を見ながら口を開き、自己紹介を始める。

 

 

「初めまして、私の名前は神島美香です。1年Aクラスに所属しています。特技はババ抜きでババを引かない事です。」

 

 

そう言うと、二人は先程の部長の様な反応をし、面白そうだと言わんばかりの声で笑った。

 

 

「へぇ、お前面白い奴だな。そう思うだろ?雄大。」

 

 

雄大と呼ばれた男子生徒は、金髪の生徒の言葉に頷いた。

 

 

「ならゲームはババ抜きで決まりだな。俺も一応自己紹介しておこうか。俺は松原雄大だ。2年Aクラスの生徒だよ。」

 

 

松原の言葉に金髪の生徒も思い出した様な顔で私を見る。

 

 

「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺は南雲雅だ。ここの部員では無いが、コイツらとは同じクラスなんだ。これでも一応生徒会副会長を務めているぜ。」

 

 

チャラくて軽薄そうな外見とは裏腹に、金髪の生徒は副会長という役職に着いているそうだ。能力が高いのか、見た目と反して真面目な性格なのか、今の段階では判断がつかない。しかし、こんなギャンブルに参加するあたり、前者寄りの人間に見える。

 

 

上級生と関わる機会なんて部活くらいしかない。であれば、生徒会副会長に会えたという幸運に感謝し、彼と親しくなっておいた方が今後の学校生活で役に立つはずだ。

 

 

「ご丁寧にありがとうございます。宜しくお願いします、南雲副会長、松原先輩。」

 

 

私は二人に軽く頭を下げてから、笑みを向ける。これから仲良くしたい、という意味を込めて副会長という役職名で南雲を呼んだ。それを彼が理解していれば、きっとまた縁が出来るはずだ。

 

 

「ハッ、後輩に副会長と呼ばれるのも悪くねぇな。俺が会長になった暁には、是非南雲会長と呼ばれたいもんだぜ。」

 

 

私が副会長呼びした意図に気付いたのか、彼は調子づき始め、こんな事を言い出した。

 

 

「今回の掛けについてだが、神島。お前が一度もジョーカーを引かなければ、特別ボーナスとして、俺が50万プライベートポイントを贈呈してやる。そして、お前が負けた場合、賭けの代償は全て俺が支払ってやろう。俺は今気分が良いからな、そのくらいの事はしてやろう。」

 

 

つまり、ゲームに負けても私がマイナスになる事は無い。そしてジョーカーを引かずに勝てば、賭けの報酬とは別に特別ボーナスまで貰える事になる。どう転んでも私には一切デメリットが発生しない。

 

 

「おいおい、正気かよ?」

 

 

「調子に乗ってると負けるぞ?雅。」

 

 

部長と松原が南雲の発言に待ったをかけた。しかし、南雲何処吹く風といった様子で彼らの言葉を気にも止めない。

 

 

私の特技が嘘だと思っているのかもしれない。しかしそうだとしても、そんな大それた申し出をする事にメリットは存在しない。彼の行動の意味が分からず、黙り込んでいると、彼が楽しそうな声で話し出した。

 

 

「神島、今お前は俺が『お前の特技』が嘘だと考えて、こんな申し出をしたんじゃないかと思っている。違うか?」

 

 

彼の威圧的な声に少したじろいでしまう。

 

 

「…し、正直に言ってしまえば、疑われていると思っていますよ。こんな変な特技、信じる方がおかしいですから。」

 

 

「そう思うのが普通だろう。そして、この提案は俺になんのメリットも無い。どうしてこんな提案をしたのか分からなくて困惑しているんだろう?」

 

 

私は彼の言葉に頷いた。彼の行動の意味が、発言の意味が理解できない。だからこそ、私は何も言えずにいたのだ。

 

 

「正直に言ってしまえば、お前が嘘をついていたとして、お前のそれが特技ではなく、単なる幸運だったとして、俺にはどうでも良い。そんな特技とも言えないようなものを上級生相手に特技だと言ってしまえる思い切りの良さ、度胸を俺は認めるだろう。そして、もしその特技が事実であったのなら、面白い人間と知り会えたという事実こそ、俺を楽しませてくれる。」

 

 

つまり、この人にとってはただのお遊びなのだ。私の特技なんてただの口実で、器の広さを財力を自慢し、ただ一時の娯楽として楽しみたいだけなんだ。

 

 

「つまり、貴方は楽しければそれで良いとお考えなのでしょうか?」

 

 

「それだけが全てでは無いが、お前の予想は否定しねぇ。それも答えの一つだからな。」

 

 

彼は生粋のギャンブラーだ。

 

 

あの殺し合い学園生活でクロという立場は、生きるか死ぬか、生と死の瀬戸際に立たされる事になる。つまり、クロになってしまった瞬間から、命を懸けたギャンブル‪が始まっているのだ。

 

 

超高校級のギャンブラー、セレスティア・ルーデンベルクはギャンブルという才能を用いて殺人を犯した。彼女には確かに殺人動機があったが、結局三回目の学級裁判は大金を得るためのギャンブルだったのだ。彼女はクロでは無く、超高校級のギャンブラーとしてギャンブルに挑み、賭けに失敗した。セレスは最後まで気高いギャンブラーを貫いた。

 

 

南雲は彼女と違って目的なんて無く、ただ享楽に耽りたいだけのようにも見える。彼女と真逆の存在だが、その姿も確かにギャンブラーらしいと言えるものだ。彼を見ていると、あの殺し合いで大きな賭けに出たセレスを思い出してしまう。

 

 

全国に放送されていたあの殺し合いの中で、超高校級らしいと言えたのは彼女だけだろう。私は彼女のギャンブルに敬意を表した。あれは決して、殺人事件なんかでは無い。

 

 

過去の記憶を思い出し、懐かしんでいると部長がトランプをシャッフルし始めた。

 

 

「じゃあ、ゲームは五試合行う。神島は新入生という事だし、賭け金は南雲が肩代わりをする。一抜けした者を勝者とし、最下位は勝者に3万プライベートポイントを支払う。二番目に手札が消えた者には報酬も支払い義務も無い。ババ抜きは、特殊ルールは無しで、この紙に書いてある一般ルールの元行う。ディーラーは俺が務めよう。」

 

 

部長が「質問は無いか?」と確認を取り、私達はすぐに頷いた。

 

 

カードを表にした状態で配られ、全て配り終えると私達はライバルに見えないようにカードを確認し、ペアが出来たカードを捨てていく。今回の手札にもババは入っていないようだ。まあそれも当然の事である。

 

 

何故なら私は超高校級の幸運なんだからね。

 

 

カードを引いてカードを抜かれ、それを繰り返して勝者は私だ。二番手は南雲で、最下位は松原だった。

 

 

「チックショウ、また負けた。」

 

 

「松原、お前は読みやすいんだ。もう少し表情を引きしめた方が良いぜ?」

 

 

南雲が松原を嘲笑い、私に視線を移した。

 

 

「それにしても、運が良いな?ジョーカーは引かなかったようだしな。」

 

 

「…どうして分かったんですか?」

 

 

「それは、お前が一抜けするまでジョーカーは俺の手元にあったからだ。」

 

 

「なるほど。ババを持っていたのは南雲副会長だったんですね。」

 

 

私が一抜けした後、南雲のババはすぐに松原に引かれたらしい。確かあの時の彼は、カードと松原の顔を何度も往復するように見ていた。そして松原はババを引いた。南雲は視線誘導を行い、松原がババを引くように仕向けていたようだ。どうやら、彼は知恵が回るタイプらしい。

 

 

その後四試合を行い、結果は以下のようになった。

 

 

 

──────────────────────

 

 

《試合結果》

 

1試合目 勝者:神島  敗者:松原

 

2試合目 勝者:神島  敗者:松原

 

3試合目 勝者:神島  敗者:南雲

 

4試合目 勝者:神島  敗者:松原

 

5試合目 勝者:神島  敗者:松原

 

 

《報酬》

神島 +15万プライベートポイント

南雲 -3万プライベートポイント

松原 -12万プライベートポイント

 

《特別ボーナス》

神島 +50万プライベートポイント

 

 

──────────────────────

 

 

 

「凄い新入部員が入ったもんだ。まさか、ギャンブル狂と名高い南雲に勝つなんで大したもんだよ。」

 

 

「あはは、少し運が良かっただけですよ。」

 

 

私は全戦全勝し、全てのゲームでババを手にする事無くゲームを終えた。南雲との賭けにも勝ち、合計65万プライベートポイントを手に入れた。

 

 

「ハハハッ、まさか本当に一度もジョーカーに触れず、試合に勝つなんて、流石の俺も驚いたぜ。」

 

 

南雲の声は明るいが、その表情は少し強ばっているように感じる。

 

 

「謙遜するな。お前の特技はどうやら本物らしい。いや違うな、お前はババ抜きが特技だと言い換えるべきなんじゃないか?」

 

 

松原が「参ったよ」と言いながら苦笑し、ポケットからスマホを取り出す。そしてチャットアプリを起動した。

 

 

「連絡先交換しようぜ。そうしないとポイントの譲渡は出来ないんだ。メールでも出来るが、チャットアプリの方が何かと楽だろう。」

 

 

「分かりました。良ければ、南雲副会長と部長とも連絡先を交換させて頂きたいのですが、宜しいですか?」

 

 

「ああ、勿論だ。」

 

 

「元々そのつもりだぜ。少し待ってな。」

 

 

南雲と部長もポケットからスマホを取り出し、チャットアプリを起動する。私達は互いに友達登録を行い、連絡先を交換した。

 

 

その後、南雲から53万プライベートポイントが、松原から12万プライベートポイントが送られ、私のプライベートポイント額は72万1260プライベートポイントに変わった。元々残っていた7万1260プライベートポイントだけでは心許なかったので、とても助かった。

 

 

「ありがとうございます。お陰で美味しいものが食べられそうです。」

 

 

私が感謝を述べると、南雲は機嫌良さそうに「いつでも奢ってやるぜ」と笑った。

 

 

「それにしても、本当に運が良いなぁ。お前、何かイカサマでもしたのか?」

 

 

部長が面白そうに笑い、私の目をジッと見つめる。その視線に少したじろぎながらも、私は笑顔で答えた。

 

 

「いいえ、何もしていませんよ。ただ普通にババ抜きをしていただけですから。」

 

 

「おいおい、普通って何だよ普通って。まあ何にしても、お前は面白い奴だな。こりゃあ今後が楽しみだぜ。ハッハッハ!」

 

 

部長が嬉しそうに笑う。それに釣られて私も自然と笑みが零れた。

 

 

その後、リバーシとUNOでも遊び、彼等と打ち解けていった。そして完全下校時刻の30分前になり、ようやくお開きとなった。

 

 

「じゃあ戸締りはしておくから、気を付けて帰れよ。」

 

 

「はい、ありがとうございます。お疲れ様です。」

 

 

「またね、神島。」

 

 

「はい、次の部活でお会いしましょう。松原先輩。」

 

 

部長は職員室に鍵を戻しに行き、松原も彼と一緒に去っていった。部室前には私と南雲、二人っきりだ。

 

 

「お前はもう寮に戻るだけか?何か用があったりするのか?」

 

 

「特に何もありませんね。」

 

 

そう告げると、彼は「それなら丁度良いな」と言い、私に向き直ってからこんな提案をしてきた。

 

 

「なら途中まで一緒に帰らないか?お前には少し聞きたい事があるんだ。」

 

 

私は少し考えてから、彼の提案を受け入れる事にした。

 

 

「分かりました。一緒に帰りましょう。」

 

 

南雲の言葉に私は頷き、二人で並んで歩き出す。彼の口調は砕けており、とても親しみやすいものだった。

 

 

「さて、雑談はここまでだ。神島美香、お前も生徒会に入らないか?」

 

 

突然の生徒会勧誘に私は驚き目を見開いた。南雲はニヤリと笑っており、私は彼に何か見定められていると感じた。彼の目的は何なのだろうか。恐らくこの勧誘には裏があるのだろう。ここは慎重にいく必要がある。

 

 

「なぜ私を誘うのか、理由を教えて頂けませんか?」

 

 

私が理由を尋ねると、南雲は不敵に笑い、こう答えた。

 

 

「この学校の現生徒会長は歴代最高の生徒会長と誉高い人だ。俺はいつか、本気のあの人に勝ちたいと思っている。そして、お前は今回のゲームで完全勝利を果たした。実力以前に、運が良い。お前の幸運を味方に付ければ…いや、違うな。その運の良さが天才を凌駕するのかどうか、それについて興味があると言う方が正しい。」

 

 

南雲は鋭い視線を私に向ける。

 

 

私は自分が幸運であると自覚しているし、この才能を誇りに思っている。しかし、幸運が天才を凌駕するほど眩い奇跡を起こす事は稀だ。そして私の幸運は自分の為に作用するものであり、南雲の味方をしたとして彼に運が向くとは思えない。であれば返事はもう決まっている。

 

 

「そのお話、お断りさせて頂きます。」

 

 

「…そうか、残念だ。お前とは良い関係を築けると思っていたんだがな。」

 

 

南雲があっさり引き下がった事に面食らったが、すぐに表情を引き締める。折角、この学校の権力者と知り合う事が出来たのだ。この縁をここで終わらせるのは勿体ない。

 

 

「ですが、もし生徒会長と私が戦う姿が見たいという事であれば、場をセッティングして頂ければ応じたいと思います。今はそれで手を打って頂けませんか?私も先輩との縁をここで潰したいとは思っていませんから。」

 

 

私の言葉に南雲はフッと笑みを零した。どうやら納得して貰えたらしい。

 

 

「ああ、そうしよう。楽しみにしているぞ。」

 

 

その後南雲の暮らす寮の前に着いたので彼と別れ、自分の住んでいる寮を目指して歩いた。

 

 

四月が終わり、五月に入った。

 

 

四月の終わりに成績に反映されない小テストを受けたので、その答案用紙が今日返却される。朝学校に着くと、多くのクラスメイトがスマホ片手に訝しげな表情でポイントに関する話をしていた。

 

 

「おはよう、森下さん。」

 

 

朝から机に突っ伏して目を閉じている森下に声を掛けると、彼女はすぐに状態を起こし私を見上げた。こんな事にももう慣れた。彼女は暇さえあれば目を閉じて仮眠を取っているが、話し掛けても怒る事は無いので、私は気にせずに彼女に声を掛けている。

 

 

「おはようございます。ポイントを見ましたか?」

 

 

森下は私が何を言おうとしていたのか理解しているようで、すぐに的確な質問を私よりも先に投げ掛けて来た。

 

 

「もちろんだよ。振り込まれた額は9万7000プライベートポイント。10万プライベートポイントは振り込まれてない。つまり、支給額は変動するって事だよね。」

 

 

私がそう告げると彼女も私の考えに同意を示した。そして彼女独自の考察を話し始めた。

 

 

「Bクラスは6万5000プライベートポイントが振り込まれているそうです。そして、Dクラスの生徒はポイントが振り込まれていないと大騒ぎしていました。これらの事実から、各クラスには明確な優劣が存在する、という事。そして支給されるポイント額が多いクラスほど優秀と見なされるのでは無いかと思います。このポイントという要素から考えると、この学校はクラス間の争いを起こさせようとしているのでは無いでしょうか。」

 

 

「確かに、入学式の日も思ったけど、クラスによって生徒の質が全く異なっている。Aクラスは優秀、Bクラスは準優秀、Cクラスは治安が悪い、Dクラスは無法地帯。アルファベットの早い方から優秀な順に組み分けされて事になるね。この優劣をわざわざつけている事から、学校側はクラス対抗戦を行わせようとしている…森下さんの推理、面白いね。結構的を射ているんじゃないかな。」

 

 

クラス対抗戦を行わせる目的であれば、クラスの優劣関係無く、各クラスにそれなりに優秀な生徒がいるというのも納得が行く。Dクラスの高円寺が最もな例である。

 

 

森下とこの学校について推理をしていると、予鈴がなる1分前になったので、急いで自分の席に戻った。それから数十秒後、真島が大きなポスターと紙束を抱えて教室内に入って来た。近くに座っていた男子生徒が率先して真嶋の荷物を持ち、運ぶ手伝いをしている。

 

 

やっぱりAクラスの生徒は真面目だなぁ。

 

 

その後予鈴が鳴り、朝のホームルームがスタートする。

 

 

「全員揃っているな。今からホームルームを始める。まず君達には、今からこのポスターを見て貰いたい。」

 

 

真嶋はそう言い、ポスターに磁石を付けて黒板に貼り付けた。

 

 

 

────────

Aクラス→970

Bクラス→650

Cクラス→490

Dクラス→0

────────

 

 

 

ポスターには、クラス名と数字が書かれていた。

 

 

私はこのポスターを見た瞬間閃いた。この数字は、今日振り込まれたポイントを100で割った数だ。つまりこの数字を100倍した数がプライベートポイントとして振り込まれる額になるという事である。

 

 

「ここにはクラス名と数字が書かれている。この数字を100倍したものが、君達に振り込まれるプライベートポイントになる。そして右側の数字をクラスポイントと呼ぶ。この学校では君達の望を進路を叶えるという謳い文句があるが、それは半分事実で半分偽りだ。卒業後の進路が保証されるのは、この学校をAクラスで卒業した生徒のみが対象となる。」

 

 

この発言には、真面目で冷静なAクラスの生徒達も驚きと困惑に満ちた表情をしている。しかし、その中でも相変わらず無表情な森下を除き、坂柳や葛城は驚くことなく、真剣な表情で真嶋の話を聞いていた。

 

 

「気付いている者も居るだろうが、この学校にはクラス間に大きな差がある。優秀な者はAクラスへ、そうでない者はDクラスへという様に、個々の能力の高さに応じてクラス分けが行われている。勿論クラス間の争いを公平に行う為、例外も存在するが、基本的にはAクラスからDクラスへ、優秀順に振り分けられているんだ。」

 

 

どうやら私達の考察は正しかったようだ。

 

 

有名な進学校では、学力順にクラス分けを行うところもある為、学校側の組み分けについては特に何も思わない。しかし、学校側の謳い文句については詐欺だとしか思えない。理不尽である。

 

 

「今回、君達は970クラスポイントを残している。これは歴代の中でも最高額だ。素晴らしい結果を残している。この調子で学校生活を続けて欲しい。」

 

 

真嶋が生徒達を褒めると、彼らも少しほっとしたような表情に変わり、形の力が抜けたようだ。

 

 

「では次に、この前の小テストの答案用紙を返却する。名前を呼ばれた者から順に取りに来てくれ。石田───」

 

 

出席番号順に生徒の名前が呼ばれていく。返却された答案用紙を確認すると、全ての教科で90点を超えていた。

 

 

「今回の小テストは成績に反映される事は無いが、中間試験の時もこのような形式で問題が出題される。今後の参考にして欲しい。そして、Aクラスには赤点該当者はいなかったが、この学校では平均点の半分以下を赤点として定めている。赤点を取った者は即刻退学してもらう決まりになっているので、皆しっかり対策を行って欲しい。そして最後に、俺は君達が中間試験を乗り越える事が出来ると信じている。健闘を祈る。」

 

 

彼はそう言い、平均点が書かれたポスターを黒板に貼り付けた。どの科目も平均点が90点を超えており、Aクラスの優秀さを示す結果となった。

 

 

そういえばこの学校ではポイントで何でも買う事が出来ると、真嶋は入学式の日に話していた。であれば、クラス移動をする権利やテストの点数も買う事が出来る可能性がある。

 

 

ホームルームが終了すると、私は次の教科の準備をしてから職員室に向かった。中に入り、真嶋の元へ向かう。

 

 

「真嶋先生、お尋ねしたい事があります。」

 

 

「神島か。どうしたんだ?」

 

 

「この学校ではポイントで何でも買う事が出来ると、先生は仰りましたよね。では、テストの点数やクラス移動の権利も買う事が出来るのでしょう?」

 

 

彼は私の質問に「ほう」と感心したような声を零し、話し始めた。

 

 

「よく分かったな。この学校では何でもポイントで買う事が出来る。クラス移動の権利は2000万プライベートポイントが必要だ。テストの点数に関しては、1点10万プライベートポイントで買う事が出来る。」

 

 

2000万プライベートポイントがあれば、卒業間近の時にAクラスに移動して、Aクラスとして卒業する事が出来る。しかし、そのポイントをAクラス以外の生徒が貯めるには途方のない苦労が必要だろう。つまりほぼ不可能だと言える。

 

 

テストの点数に関しては、もしかしたらテストに出なくても良いのでは無いかと思っていた。しかし、1点10万プライベートポイント必要となると話は変わってくる。きちんとテストに出て、自力で問題を解く必要がある。

 

 

しかし、テストの点数が売り物だという点から考えるに、これが売り物にされている理由は、赤点該当者の救済措置だとしか思えない。いくら貧乏であろうと、クラスメイトに協力して貰えば数点であれ十分支払える額だ。この救済措置も、テスト勉強をしている前提のものなので、やはり人生そう上手い話は無いようだ。

 

 

そしてポイントの使い道について考えていると、新たな疑問を思い付く。私はこの機会にもう一つ質問をしておく事にした。

 

 

「では追加でもう一つ質問をさせて下さい。授業の出席は幾らで買う事が出来ますか?」

 

 

Dクラスのクラスポイントが0になっている時点で、恐らく授業のボイコット…即ち欠席も評価に繋がるという事は明白だ。万が一授業を欠席してしまうような事態が起きた場合も救済措置はあるはず。そう考えた時、真っ先に思い付いたのが授業の出席をポイントで買うというものだった。

 

 

「…こんなに早く出席を買えるかと質問してきた生徒は初めてだ。成績に大きく関わるような授業でない限り、出席を買う事は可能だ。そして病気や怪我等、正当な理由がある場合に限り成績に大きく関わる授業も後日受ける事が出来る。出席については、1度の授業を1000プライベートポイントで買う事が出来る。」

 

 

1000プライベートポイントで授業1回分を欠席出来るというのは安い様に感じる。学生の本分を疎かにしているのに、1000プライベートポイントで50分の授業を買う事が出来るのだ。その程度の犠牲で済むのであればむしろ感謝してしまうくらいだ。

 

 

「分かりました。ありがとうございます、真嶋先生。」

 

 

「構わない。また何か聞きたい事があれば、聞きに来ると良い。」

 

 

「はい!」

 

 

その後職員室を出て教室に戻り、数学Aの授業が始まった。

 

 

昼休みになると、私は森下と一緒に学食へ向かった。

 

 

「私、この学校の学食で食べるの初めてなんだよね。」

 

 

「毎日お弁当を持ってきていますよね。大変ではありませんか?」

 

 

「うーん…作り始めた頃は面倒臭かったし、大変だったけど今ではもう慣れちゃったかな。」

 

 

前世の私は、未来機関の職員として働き始めてから、毎日お弁当を作っていた。理由は、配布される食事のほとんどが携帯食であり、食べやすさを重視して作られた物だったからだ。その為味は二の次で、栄養価の高い味の濃い物が殆どだった。私はそんな食事に嫌気が差して、母親が作っていた様な、ファミレスで食べた様な料理を口にしたくて、お弁当作りを始めたのだ。

 

 

お弁当作りは今世でも習慣となっており、私は毎朝手作り弁当を作っている。しかし今日はたまたま寝坊してしまい、お弁当を作り忘れてしまったのだ。だから仕方なく森下と一緒に学食で食べる事になったのである。

 

 

「ここで食券を買って、あそこの厨房前のカウンターで調理師の女性に渡すと料理を作って貰えるシステムです。」

 

 

「なるほどね。」

 

 

森下の説明を聞き、私は食券機の前に立つ。様々な料理名が書かれたボタンがあり、私はその中に山菜定食と書かれたボタンを見つける。どうやらこの料理には値段が書いておらず、無料の料理だという事が分かる。

 

 

「これにしよ。」

 

 

私は迷わず山菜定食を選びボタンを押した。

振り返って森下に出てきた食券を見せると、彼女は眉を顰めた。

 

 

「色々あるのに、よりによってそれを選ぶなんてどうかしています。」

 

 

「まあ、好奇心には勝てないよ。無料の料理がどれほどの物か、気にならない?」

 

 

そう問掛けると、彼女は何も言わずに私の言葉をスルーしてボタンを押した。彼女はハンバーグ定食を選んだらしい。

 

 

私達は食券を厨房の調理師の女性に渡し、出来上がるのを待つ。数分後、目の前のカウンターに山菜定食とハンバーグ定食が出されたので、それを持って空いている席に座った。

 

 

「結構美味しそうだね。山菜の天ぷら、白米に沢庵、野菜たっぷりのけんちん汁。ミニサラダも付いてる。栄養バランスの取れた美味しそうな定食だね。」

 

 

無料と書いてあったので、どんな貧相な料理が出されるかと思えば、栄養バランスの取れた美味しそうな定食が出てきた。人によっては好き嫌いが別れるだろうが、生憎私はこの手の料理が好きだ。抹茶塩の入った小皿もあるので、ちょっと高い和食屋で出される料理だと言われても、信じてしまうかもしれない。

 

 

「ん〜美味しいねぇ。私天ぷら大好きなんだよね。」

 

 

「…美味しいのであれば良かったです。」

 

 

彼女はそう言いつつも、若干引いているように見える。やはり、無料定食を選んだ事で卑しいと思われてしまったのかもしれない。

 

 

しかし、どれだけ引かれようとも、私は好きな物をこれからも食べていくのだろう。貧困の恐ろしさを、食糧難の辛さを知っている私にとって、これらは全て御馳走なのだから。

 

 

その日の放課後、私はスマホでとある人物に電話を掛けていた。数回のコールが鳴り、スマホから声が聞こえる。

 

 

「もしもし?」

 

 

「南雲副会長、過去問お持ちですよね?幾らで譲って頂けますか?」

 

 

私がそう言うと、電話口の南雲は乾いた笑い声をあげた。

 

 

「…ハハッ、期待以上だ。やっぱりお前は面白い女だな、神島美香。特別価格の2万プライベートポイントで売ってやるよ。」

 

 

「ありがとうございます。流石は心優しい生徒会副会長様ですね。」

 

 

テストの過去問をPDFファイルにして送ってくれると約束してくれた。数分後、五教科分の昨年の過去問が個人チャットに送信された。私はすぐに2万プライベートポイントを南雲に送り、取引は終了した。

 

 

前世で私が通っていた高校では、テスト期間になると過去問を先輩から譲り受けるという文化があった。そしてその過去問を学年内で共有し、テスト勉強に活用するのだ。テスト範囲が昨年のテスト範囲と異なる可能性があるので、そこは注意しなければならないが、過去問さえあればテストで必ず役に立つ。だからこの学校でも私は過去問を譲り受け、それを活用して勉強をすると決めていた。

 

 

譲り受けた過去問を坂柳か葛城のどちらかに渡し、恩を売るのも悪くない。クラス争いが始まった今日、坂柳派と葛城派の対立はさらに激しくなった。クラス争い以前に、Aクラス内ではリーダー争いが行われている。この過去問を配布すれば、配布した人物の評価は上がるはずだ。どちらに渡すかは、今後の状況を見て不利な方に渡せば良い。だってその方が面白くなるに決まっている。

 

 

 

79万9100プライベートポイントから2万プライベートポイントが引かれ、残りは77万9100プライベートポイントになる。南雲達とのギャンブルのおかげで、ポイントに困るような状況では無いが、豪遊はせずに貯めておくべきだ。

 

 

 

 

「これからどうなっていくんだろう。とっても楽しみだなぁ。平和でつまらない世界だと思っていたけど、平和な世界にも面白い事は沢山あるんだね。」

 

 

誰もいない教室で私の独り言が響く。

 

 

前世と全く関係のない世界での生活は穏やかなものだった。誰も私を傷付けたりはしない。私はぬるま湯の中で眠るように成長した。第二の青春は酷く心地良いものだった。

 

 

しかし、私はこの世界に飽きていた。刺激のない生活にうんざりしていた。平和は好きだが、それとは別に心は刺激を欲していた。だから、この学校に来れて本当に良かったと思っている。平和な世界に侍る不良に問題児、高い能力を持つ天才達。

 

 

ようやく、前世の10分の1程度の刺激に触れる事が出来た。この刺激こそが私を人間にしてくれるのだ。

 

 

人類史上最大最悪の事件によって、私の感覚はこの世界の人間とは全く違うものに変えられてしまった。

 

 

「…私って本当に正常な精神状態だと言えるのかな。」

 

 

そんな呟きは誰にも聞かれる事無く、空気中に溶けて消えた。





氏名     鶴岡誠司

所属     2年Aクラス

【学力】   A
【知力】   C+
【判断能力】 B
【身体能力】 C
【協調性】  B

南雲雅の友人で、ボードゲーム部部長を務めている。入学当初から南雲と仲が良い。南雲の友人にしては真面目な性格。


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氏名     松原雄大

所属     2年Aクラス

【学力】   B
【知力】   C
【判断能力】 C
【身体能力】 A
【協調性】  B

南雲雅の友人で、元1年Aクラスの生徒。入学当初から南雲と仲が良く、元1年Bクラスの下克上に協力し、その報酬によって現Aクラスに移動してきた。運動神経の良さは学年内でトップレベル。


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南雲サイドの人間の情報がほとんど無いので、主人公をボードゲーム部に入れるついでに、そこの部長と部員を追加しました。この2人は頻繁に出てくる訳では無いので、参考程度に留めておいて貰えれば大丈夫です。


実は今回の話はこの物語を書き始めた時から決めていたんです。
よう実オリ主ものの大半が、堀北会長におもしれぇ奴認定されて生徒会入りしたり、会長のお気に入りになったりしていますよね。
南雲会長と血縁者以外で仲良くしてる主人公を見た事が無かったので、堀北会長側ではなく、南雲側の主人公として書きたいと思っていました。
主人公は人類史上最大最悪の絶望的事件によって、目に見えない傷を負っているので、前世と比べてこの世界をつまらないと決め付けています。
そんな主人公が、前世の天才達の面影を持つような人間と出会いどんな事を思うのか…
今後の流れで少しずつ人類史上最大最悪の絶望的事件の時の心情も書いて行きたいと思います。

主人公の相棒(親友ポジ)は誰が良い?

  • 森下藍(ビジュ良すぎて泣いた)
  • 山村美紀(寡黙で大人しい子が好き)
  • 神室真澄(万引きっ子可愛いね)
  • 橋本正義(原作で小物臭しすぎ!)
  • 戸塚弥彦(戸塚退学フラグ折れるかな?)
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