超高校級の幸運に内定していた少女は、高度育成高等学校に入学する。   作:杏仁豆腐

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ついに、中間試験前の図書室での勉強イベントが発生し、綾小路清隆と面識を持ちます。
そしてその前後に、山村美紀と椎名ひよりと仲良くなるイベントも発生します。
後、タイトル通り小説を書き始めますが、その経緯は結構不純です。

ダンガンロンパ無印プロローグのネタバレを大きく含みます。御注意ください。

お気に入り登録や高評価をして頂きありがとうございます。
とても喜んでおります。

※評価やコメント、是非お待ちしております。



超高校級の幸運に内定していた少女は、図書室で勉強する。そして小説を書く。

 

中間テストの範囲が発表されてから約2週間が経過した頃、私は今日の放課後も図書室に向かう事にした。理由はテスト勉強を行う為だ。

 

 

荷物を整理し、各教科の問題集とペンケースを鞄に詰めて教室を出る。その時、丁度前の扉から教室を出て行く山村美紀を見つけた。彼女の手には学校図書のバーコードが付いた本があり、図書室に向かうのかもしれない。

 

 

そういえば彼女とはまだ話した事が一度もない。私はこの機会を使って彼女に話し掛けてみる事にした。

 

 

「山村さん、その本って図書室のだよね?」

 

 

「…はい、今から返却しに行こうと思っていたところです。」

 

 

ビンゴだ。彼女も図書室に向かうのであれば、一緒に行こうと誘う事が出来る。

 

 

「そうなんだね。私も今から図書室で勉強をしようと思っていたんだ。良ければ一緒に行かない?」

 

 

彼女は人見知りなのか、クラスメイトと話しているところはほぼ見た事が無い。だから、怖がらせないように、なるべく優しい声で彼女を誘った。

 

 

山村は数秒後、頷いて口を開いた。

 

 

「…分かりました。一緒に行きましょう。」

 

 

了承の言葉を貰ったので、私達は共に図書室に向かう事になった。

 

 

「山村さんが手に持っている本って、去年映画化したのだよね?確かクローズドサークルをテーマにした、ミステリー小説だったかな?」

 

 

「…はい。スキーをしていた男女6人が雪山で遭難し、近くにあった山小屋で一夜を過ごすのですが、翌朝目が覚めるとその中の一人が居ない事に気付きます。吹雪も収まっていたので、彼らは消えた女性を探すのですが、数分後小屋の裏手で女性が遺体となって発見されるんです。」

 

 

山村は楽しそうに小説のあらすじを説明してくれた。

 

 

「へぇ、とっても面白そうな設定だね。」

 

 

よくあるミステリーの設定だが、この作品の面白いところは読者が想像もつかない様な結末だと言われている。気になっていたが、未だに読んだ事は無い。今日の帰りにこの小説を借りていくのもありだ。

 

 

「山村さんは本を読む事が好きなの?」

 

 

「…はい。」

 

 

山村は微笑みながら小さく頷いた。

 

 

「そうなんだね。私も本を読むの好きなんだ。ミステリーやサスペンス、サイコホラー系の小説をよく読むよ。山村さんは好きなジャンルはある?」

 

 

私は彼女に好きなジャンルを尋ねた。どんなジャンルが好きなのかは人それぞれだ。もしミステリーが好きなら、今度おすすめの本を貸すのもありかもしれない。

 

 

山村は少し考えた後口を開いた。

 

 

「…私もミステリー小説はよく読みます。特にクローズドサークルがテーマの小説が好きなんです。」

 

 

なるほど。だから『スノウ・ホワイト』を読んでいたのか。クローズドサークルをテーマにした作品なので、閉鎖空間での殺人が好きな人なら必ず読みたくなるはず。彼女もその中の一人なんだろう。

 

 

「クローズドサークルねぇ、私も嫌いじゃないよ。だけど、あまり読んだ事が無いんだよね。」

 

 

クローズドサークルがテーマの作品を私はあまり知らなかった為、幾らこのジャンルが好きだとしてもそもそも読む本が無かった。

 

 

そう言うと、彼女はスマホを操作し始め、数秒後スマホの画面を私に見えるように向けてきた。

 

 

「この作品は『パライバトルマリンの涙』という推理小説なんですが、豪華客船が舞台なんです。怪しい登場人物に、世間を賑わす大怪盗の噂話、シリアスな展開の中にギャグ要素も入っててとっても面白いですよ。これもクローズドサークルをテーマにした小説で凄くオススメだよ。後は、これも───」

 

 

普段な寡黙な山村からは想像も出来ないほど、饒舌な彼女を見て微笑ましく思う。

 

 

『パライバトルマリンの涙』というタイトルはどこかで聞いた事がある。しかし内容までは知らなかったので、これを機に読んでみたい。

 

 

その後、図書室までの道のりを進みながら、山村は様々なクローズドサークルをテーマとした小説を教えてくれた。思っていた以上にこの手の作品は多く、作者によって舞台や設定が異なっており、飽きる事なく読めるだろう。

 

 

図書室の前にやってきた時、山村が思い出したように「あっ」と声を零した。

 

 

「今紹介したものは全て書籍化されているんですが、最近は『小説家になりたい』というサイトに投稿されている作品も読んでいます。こちらに投稿されている小説も面白いですよ。」

 

 

彼女はそう言い、スマホを操作して『小説家になりたい』というサイトを開き、私に見せた。そこにはランキング7位というタグが着いた小説のあらすじが書かれていた。

 

 

"紅の館…そこでは生死をかけたスリリングな頭脳戦が繰り広げられていた。勝者は大金を手にし、敗者は命を失う。明日から、素晴らしいショーをご堪能下さい。仮面の男は監視カメラに向かってそう言い、耳障りの悪い声で笑った。そして翌日、大広間に向かうと一人の参加者が胸にナイフを刺された状態で死んでいた。しかし、殺人事件が起きてもこの殺人ゲームは終わらない。ゲームとは関係の無い殺人鬼が潜む中、俺達はデスゲームを継続する事になってしまったのだ。"

 

 

どうやらこの小説はデスゲームのようだ。そしてこのタイトルの右上に赤いハートマークがついており、彼女はこの作品を気に入っているという事が分かる。

 

 

「この『紅の館』という作品は閉鎖空間で、賞金の為に殺し合いを行うお話なんですが、心理描写がとても細かく書かれていて、とっても面白いんです。」

 

 

『小説家になりたい』というサイトは、小説家を目指す人が気軽に自分の小説を書いて投稿する事が出来るサイトだ。人気作品はアニメ化や書籍化される事もあり、多くの読書好きの人間に愛されているサイトである。

 

 

最近ではアプリも作られ、小説投稿や読書がより行いやすくなったと聞いた。後でインストールしてみよう。

 

 

山村は小説のことになると饒舌になるようだ。普段無口な彼女からは想像も出来ないほど、楽しそうに話す様子を見て、私は彼女の事を少し知れた気がした。

 

 

図書室に入ると、既に数人の生徒が勉強をしていたり読書をしている姿があった。テスト前だからか、いつもより人が多い気がする。

 

 

「良かったら連絡先を交換しない?また色んなおすすめ小説を教えて欲しいなぁ。」

 

 

手を合わせて彼女頼むと、快く了承し連絡先を交換してくれた。

 

 

「じゃあ、私は本を返却しに行くので。」

 

 

「うん。ここまでありがとね。またお話しようね、山村さん。」

 

 

そう言うと彼女はコクリと小さく頷き、本を返却する為にカウンターへ向かっていった。私も勉強を行う為、空いている席に座り勉強道具を鞄から取り出した。

 

 

勉強を始めてから数十分が経過した時、入口付近のテーブルの方から大きな怒鳴り声が聞こえた。慌てて入口の方に視線を移すと、そこには赤髪の大柄な生徒と黒髪の男子生徒三人が言い争っているのが見えた。

 

 

「テメェ、ふざけた事言ってんじゃねぇぞ!」

 

 

「事実だろ。お前達Dクラスは不良品の集まりだ。」

 

 

どうやら三人組の生徒が、赤髪の生徒やその近くで勉強をしている生徒達を馬鹿にし、煽り散らしている様だ。馬鹿にされている生徒はDクラスの人間で、煽り散らかしている生徒は他クラスの人間だろう。

 

 

怒鳴り声は次第に大きくなっていき、離れた位置で読書をしていた生徒や勉強をしていた生徒も、彼らに注目し始め、人が集まって来る。

 

 

図書室で騒ぎを起こしているあたり、煽っている三人組はCクラスの生徒だと考えるのが自然だな。何故なら、Aクラスは真面目、Bクラスは真面目で性格の良い生徒が多いからだ。他学年であればこの推理は意味を成さないが、Dクラスと思われる生徒の使っている教科書は一年生用のものだ。つまり、煽り散らしている三人も一年生の可能性が高いのである。

 

 

それにしても、このまま言い争いを続けられては、勉強に支障が出てしまう。善は急げと言うし、早めに対処しなければならない。

 

 

そう思い、私が椅子から立ち上がろうとした時、よく見知った凛とした声が耳に入った。

 

 

「はいはいストップ!そこまでだよ。」

 

 

声のした方を見ると、そこにはBクラスの一之瀬帆波が立っていた。

 

 

「一之瀬…わ、悪ぃ。」

 

 

三人組の一人が彼女の名を呼び、罰が悪そうな表情で彼女に謝った。彼女はCクラスの三人組と赤髪の男子生徒を睨みつけながら口を開いた。

 

 

「図書室には、本を読んでいる人や勉強をしている生徒がいるんだ。騒ぎたいなら、外に出てやってくれないかな。」

 

 

一之瀬がそう言うと、三人組の生徒は軽い謝罪を述べそそくさと図書室から去って行った。

 

 

「ありがとう、一之瀬さん。突然Cクラスの人達に絡まれて困っていたんだ。助かったよ、本当にありがとう。」

 

 

可愛らしいボブカットの女子生徒が、一之瀬にお礼を言い頭を下げた。

 

 

「ううん、ただ注意をしただけだから気にしないでね!櫛田さん。」

 

 

一之瀬が櫛田と呼んだ女子生徒は、Dクラスの生徒で、学校でも有名な女子だ。男子からの人気も高く、可愛らしい外見と親しみやすい性格から男女共に人気が高い生徒である。

 

 

「それにしても凄いね!あの三人のCクラスの人達をあっという間に追い返しちゃうなんて!」

 

 

「あはは…私はそんな凄くないよ。毅然とした態度の櫛田さんこそ凄いと思うよ。」

 

 

一之瀬は謙遜しているが、彼女の注意がなければ騒ぎは収まらなかっただろう。少なくとも私には出来なかった事だ。

 

 

「…あれ?」

 

 

一之瀬が元居た席に戻ろうとした時、何かに気づいた様で、注意深くDクラスの生徒が使っていた教科書のページを見ている。

 

 

「どうかしたの?一之瀬さん。」

 

 

櫛田が不思議そうな顔で一之瀬の顔を見つめている。

 

 

「…このページ、テスト範囲から外されたところだよ。フランシス・ベーコンのページは、テスト範囲じゃ無かったと思うな。」

 

 

「え?」

 

 

Dクラスの生徒は驚いた表情で教科書のページを見つめている。一之瀬はそれを見て、確信を得たのかDクラスの生徒に話しかけた。

 

 

「もしかしてだけど…テスト範囲が変更された事、聞いてない?一週間前に変更されてるはずなんだけど。」

 

 

一之瀬がそう言うとDクラスの男子生徒二人が情けない声をあげた。

 

 

「嘘だろぉ?!せっかくここまで勉強してきたってのに、無駄だったって事だろ?!」

 

 

「マジかよ…てか、なんで茶柱先生はなんも言ってねぇんだ?なぁ、言われてねぇよな?」

 

 

「落ち着いて。池君、山内君!」

 

 

櫛田が慌てふためく男子生徒二人を必死に宥めようとするが、二人はブツブツと何かを言いながら頭を抱えている。

 

 

「おい、落ち着けよ!寛治、春樹!」

 

 

先程Cクラスの生徒と言い争っていた赤髪の男子生徒も櫛田に加勢し、二人を必死に落ち着かせようとする。そんな二人を他所に、黒髪の真面目そうな女子生徒が口を開いた。

 

 

「一之瀬さん、その話は事実なのかしら?私にはDクラスを陥れようとしているようにしか聞こえないんだけれど。」

 

 

その女子生徒は一之瀬を疑っているようだ。Aクラスを競い合うライバルという事を考えれば、敵が嘘を着いて他クラスを混乱させようとする事だってあるかもしれない。しかし、担任に確認を取ればすぐ分かる事に普通嘘を吐いたりしない。

 

 

そこまで頭が回らないのか、それとも彼女も動揺しているのか、理由は不明だが彼女の発言は少々浅はかに感じる。

 

 

「え?う、うん。星之宮先生から聞いたから確かな情報だよ。」

 

 

一之瀬は困惑顔で事実だと訴えるが、どうやら相手の女子生徒は全く信じていないようだ。

 

 

フランシス・ベーコンは確かにテスト範囲から外されている。そして一週間前にテスト範囲が変更された事も事実だ。

 

 

友人が目の前で疑われているのに、何もしないわけにはいかないよね。

 

 

私はそう決心し、助け舟を出してあげる事にした。一枚のプリントを手に席を立つ。そして彼女達の元へ向かった。

 

 

「お話中失礼するよ。」

 

 

「あ、神島さん!それって!」

 

 

一之瀬が私の持っているプリントを指さし、パアッと不安そうな顔は一転し、眩しい笑顔を見せてくれた。

 

 

「うん。テスト範囲が変更された時に配られたプリントだよ。あげるわけにはいかないけど、証拠が無いと信用出来ないって言うなら、これでも見なよ。」

 

 

私はそう言い、頑固な女子生徒にプリントを差し出した。彼女は渋々そのプリントを受けとり、内容を確認し始める。

 

 

「…そんな、どういうこと?茶柱先生はテスト範囲変更をなぜ告げなかったの?意味が分からないわ!」

 

 

男子生徒二人が落ち着いてきたタイミングで、今度はこの女子生徒がヒステリックな声をあげた。

 

 

「落ち着け、堀北。」

 

 

そんな彼女を隣にいた無表情の男子生徒が落ち着かせようと声を掛ける。どうやらこの女子生徒は堀北という姓を持っているらしい。

 

 

「悪い、そのプリント俺にも見せて貰えないか?」

 

 

「良いよ。堀北さん、それ返してもらうね…はい、どうぞ。」

 

 

私は堀北の手から強引にプリントを奪い、無表情な男子生徒に手渡す。彼は注意深くプリントに書かれた内容に目を通していき、約30秒後プリントを私に返してきた。

 

 

「どうやら事実のようだ。教えてくれてありがとう、一之瀬と…すまない、君の名前を知らないんだ。教えて貰えないか?」

 

 

彼は物事を冷静に分析し、判断してみせた。彼は分別の着く冷静な男だ。

 

 

しかし、それとは別に礼儀がなっていない。名前を聞きたいのであれば、先ずは自分の名前を先に伝えるべきだ。

 

 

「なら先に君が名乗ってくれる?名前を聞きたいのであれば、先に名乗るのが礼儀ってものでしょう?」

 

 

そう告げると、彼は素直に頷き「分かった」と返事をした。

 

 

「俺は綾小路清隆だ。Dクラスの人間だ。趣味も特技も無いが、宜しく頼む。」

 

 

「私の名前は神島美香。特技はババ抜きでババを引かない事。こちらこそ宜しくね、綾小路君。」

 

 

この男は地味だが、どこか歪に感じる。前世のカムクライズルを見ているような気分に陥る。能ある鷹は爪を隠すというが、彼は本当にただの凡人なのだろうか。

 

 

綾小路の顔をじっと見つめていると、彼が無機質な声で問い掛けた。

 

 

「俺の顔に何か付いているか?」

 

 

私はハッとして、彼の顔を見つめていた事に今気づいた。慌てて謝罪をし、何も付いていないと答える。

 

 

その後、Dクラスの生徒は茶柱先生に確認をすると言って図書室から出て行った。

 

 

私も自分の席に戻り、勉強の続きを行う。問題を解き、丸付けをして間違えた問題には印を付けていき、時間が経ってからまた解き直す。その繰り返しで知識は定着していくのだ。

 

 

正直、私には前世の知識があるので高校生レベルの内容は全て頭に入っている。しかし、この世界とは歴史が違っている箇所もある為、社会科の学習は注意深く行う必要があった。

 

 

『完全下校時刻30分前になりました。』

 

 

放送が鳴ったので、私は荷物を纏め帰る支度を行う。

 

 

支度を終えると、私は山村に勧められたミステリー小説『スノウ・ホワイト』と『パライバトルマリンの涙』の二冊を探す。『スノウ・ホワイト』は昨年映画化した作品なのですぐに見つかったが、『パライバトルマリンの涙』は何年も前の作品だからか、なかなか見つからない。

 

 

仕方ないので、司書の元へ向かい場所を教えて貰う事にした。

 

 

「すみません、『パライバトルマリンの涙』という書籍はどこの棚に置いてありますか?」

 

 

「『パライバトルマリンの涙』ですね。ちょっと待っててください、今出しますから。」

 

 

司書はそう言うと、中央の棚に向かい、棚から一冊の本を取り出した。

 

 

「こちらでお間違いないですか?」

 

 

私は見せられた本のタイトルを確認し、司書に礼を述べた。

 

 

「はい、その本で間違いないです。ありがとうございます。こっちの本と一緒に貸し出しをお願い出来ますか?」

 

 

「分かりました。カウンターで貸し出しを行いますので着いてきてください。」

 

 

「はい、お願いします。」

 

 

カウンターで二冊の本を貸し出して貰い、図書室を出て階段を下り、生徒玄関へ向かった。

 

 

生徒玄関に着き、靴を履き替えて外に出ようとした時、ポツリポツリと地面に黒い水玉模様が出来ていく。どうやら雨が降り出したようだ。

 

 

「このままじゃ帰れないなぁ。今日は本を借りちゃったし、傘を持っていないから、濡れたら大変だよ。」

 

 

雨は少しずつ強くなっていき、当分止みそうにない。私は雨が止むのを本を読みながら待つ事にした。それから約15分が経過した頃、一人の女子生徒が生徒玄関にやって来た。靴を履き替えて帰ろうとした時、私と目が合った。

 

 

数秒の沈黙の後、女子生徒は口を開いた。

 

 

「その本、『パライバトルマリンの涙』ですよね。名作ですよねぇ、私大好きなんです。」

 

 

「そうなんですか。実はこの本、今日友達に勧められて借りたばかりなんです。」

 

 

私がそう言うと、女子生徒は嬉しそうな顔をして私の隣にやって来た。そして鞄から一冊の本を取り出した。それは私が今読んでいた本と同じ、小説『パライバトルマリンの涙』だった。

 

 

「ふふっ…どうやら同じ本を読んでいたみたいですね?」

 

 

彼女はそう言って私に微笑みかけた。

 

 

「私は1年Cクラスの椎名ひよりと申します。お名前を伺っても宜しいですか?」

 

 

彼女の言葉に頷き、私は何度目か分からない自己紹介を始めた。

 

 

「私は1年Aクラスの神島美香。特技はババ抜きでババを引かない事。宜しくね、椎名さん。」

 

 

「変わった特技ですね。しかし、ババ抜きでババを引かないというのは、運が良い気がします。」

 

 

もう何度目か分からない特技に対するリアクションを貰い、私は「そうだよね」と苦笑した。

 

 

「…同じクラスに読書が好きな方が居なくて。もし良ければお友達になって頂けませんか?」

 

 

彼女からの申し出に私はすぐに頷き了承した。彼女は真面目で落ち着いた性格をしており、オマケに読書好きだという。断る理由が全くない。

 

 

「じゃあ、連絡先交換しようか。これから宜しくね?椎名さん。」

 

 

「ええ、こちらこそ宜しくお願いします。」

 

 

私達はチャットアプリを起動し、互いをフレンドに追加して連絡先を交換し合った。

 

 

こうして友達が増えていくのは、とても気分が良い。私は良い高校生活のスタートを切れたと言えるのではないだろうか。

 

 

「そういえば、ここで何をされていたんですか?誰かを待っているのでしょうか?」

 

 

椎名がふと思い出したように、私に尋ねる。私はここに居た経緯を彼女に伝える事にした。

 

 

「あはは。実はね、傘を持っていなくて。今日は図書室で本を借りしてしまったし、本が濡れたら大変だから雨が止むのを待っていたんだよね。」

 

 

そう言うと、彼女は鞄から折り畳み傘を出し、私に向けて差し出した。

 

 

「良ければこれを使って下さい。万が一の為に、折り畳み傘は常に鞄に入れておいたんです。良かったら一緒に帰りませんか?」

 

 

彼女はとても親切な人だ。今日会ったばかりの人間にも、優しく手を差し伸べてくれる。私は彼女の好意に甘える事にした。

 

 

「ありがとう、椎名さん。今度お礼をさせてね。」

 

 

「お礼なんてそんな…私は当たり前の事をしただけですよ?」

 

 

「そっか…じゃあ私の為だと思って、一緒にカフェに行こうよ。甘い物でも食べながら、本について話せたら嬉しいな。」

 

 

そう提案すると、彼女は瞳を輝かせて「是非行きましょう!」と私の提案に賛同してくれた。その反応が可愛すぎるあまり、何故か少し照れてしまった。

 

 

私は椎名と話しながら、寮に続く道を歩く。

 

 

「椎名さんは普段どんなジャンルの本を読むの?」

 

 

「ミステリーを読む事が多いですが、SFや恋愛小説も読みますよ。意外と雑食なんです。」

 

 

「そうなんだ。私も似たようなものかな?まあ、ミステリーやサスペンス、サイコホラー系の本を頻繁に読んではいるけど、恋愛小説も嫌いじゃないしね。」

 

 

好みの本について話していると、すぐに寮に到着した。

 

 

寮に着いてからは、椎名に折り畳み傘を返して私たちはその場で別れ自室に戻った。制服から部屋着に着替え、鞄の中からお弁当箱を取り出しキッチンで洗う。その後、夕飯用のご飯を炊いてから、紅茶を入れて一息ついた。

 

 

「ふぅ、疲れたぁ。」

 

 

ベッドにもたれ掛かりながら、足を伸ばしてリラックスする。

 

 

そう言えば、南雲から買取ったテストの過去問を葛城にも坂柳にも渡していなかった。私はテスト間近になってようやく、この過去問の処遇を考え始めた。

 

 

現在のAクラスでは葛城派の勢力が少し落ちている為、ここは葛城に協力してあげた方が今後が面白くなる。そう直感が告げている気がしたので、私は葛城にチャットを送り、譲り受けた過去問についてのメッセージを送った。

 

 

『先輩から過去問を貰ったんだけど、これを使えばクラスメイトからの信頼を勝ち取れるんじゃないかな?』

 

 

メッセージを送信してから数秒後、葛城から返信が来た。

 

 

『確かに、過去問があれば俺の信頼は回復するだろう。しかし、どちらの派閥にも所属していない神島がタダで過去問を譲ってくれるとは思っていない。望みはなんだ?』

 

 

葛城は坂柳ほどでは無いが、頭が切れる男だ。私のメッセージの真意を理解し、すぐに私の目的を確認して来た。私は彼の優秀さを改めて実感した。だから、ポイントを要求する事を辞めた。

 

 

『望みは特に無いかな。貸し一つって事にしとくよ。とりあえずこれは無料でプレゼントするね。』

 

 

そうメッセージを送り、過去問のPDFファイルを添付した。

 

 

『感謝する。この恩は忘れない。』

 

 

葛城からすぐに返信が来たので、私はそこでチャットを終了した。

 

 

「これでよしっと。」

 

 

貸し一つとは魔法の言葉だ。貸しの重さなんて、私の匙加減で全て決まってしまう。そんな事に気付かない葛城を哀れに思いながら、一人ほくそ笑んだ。

 

 

その後ご飯が炊けるまでの間、『パライバトルマリンの涙』を読んでいた。約30分後、炊飯器から無機質な機械音が鳴り、ご飯が炊けた事が分かった。

 

 

私はキッチンに向かい、冷蔵庫の中から玉ねぎと人参を取りだし、みじん切りにしていく。その後、鶏もも肉を5、6ミリ程の大きさに切り、オリーブオイルをフライパンに入れて中火で熱し、切った物を加えて火が通るまで炒め、この時に塩胡椒を軽く振って味を整える。火を弱めてからケチャップとバター、ウスターソースを加え、バターが溶けてケチャップが全体に馴染むように混ぜ合わせる。最後にご飯を加え、全体を混ぜ合わせる。再度塩胡椒を振って、皿に盛り付ける。

 

 

「チキンライス完成。食欲をそそる匂いがするなぁ。我ながら美味しそうな出来だね。」

 

 

本来であれば卵を焼いてオムライスにする予定だったが、卵が少し高くなってしまったので、節約する為にチキンライスで我慢する事にした。卵が無くとも充分美味しいので特に問題は無い。

 

 

このレシピは花村てるてるが、ズボラ主婦用にアレンジして教えてくれたレシピなので、100%美味しいと胸を張って言える。

 

 

そして今回のレシピは味付けが大事で、バターとウスターソースとケチャップの黄金比を守らなければならない。1(バター):1(ウスターソース):9(ケチャップ)の量を守り、ウスターソースとケチャップはご飯を加える前に具材と一緒に混ぜ合わせる必要がある。たったこれだけで洋食屋で出される味が再現出来るのだから、流石は超高校級の料理人である。

 

 

ちなみに同時並行で付け合せのサラダを用意しており、インスタントのきのこスープの素をカップに入れてお湯を注ぎ、3分待ってから軽く混ぜて完成だ。これでも元主婦なので、最低限の料理スキルはあるのだ。器用では無いが、料理を作る途中で別の工程を一つくらいであればやる事も出来る。

 

 

主婦舐めないでねぇ。

 

 

スプーンとフォークを用意して、食事を始める。チキンライスを口に運ぶと、バターの香りが口の中いっぱいに広がり、鶏肉の旨みがしっかりと感じられる。玉ねぎや人参の優しい甘さがケチャップと相性抜群で、口の中で最高のハーモニーを奏でている。

 

 

つまり美味しいという事だ。流石は花村の考えたレシピなだけある。前世で食べた味を今世でも再現出来る事は非常に嬉しい。花村が本気で作ったレシピには負けるが、花村が考案したというだけの味だ。そんじょそこらの洋食屋にも劣らない味に私は大満足である。

 

 

「…やばい、美味しすぎておかわりしたくなってきた。」

 

 

チキンライスをおかわりしようとキッチンへ向かおうとした時、足についた贅肉が目に入り、何とか食欲を抑える事に成功した。

 

 

危ない危ない、また食べ過ぎちゃうところだったよ。

 

 

食事を終えて、洗い物をし、入浴の支度をする。新しく買ったミントの入浴剤を入れてゆっくりと湯船に浸かり、リラックスする。

 

 

「はぁ……気持ちいい。爽やかな香りで落ち着くなぁ。」

 

 

新しく買ったミントの入浴剤のおかげで、温かいのに涼しいという奇妙な感覚に陥る。流石は2730プライベートポイントもした、夏専用のお高い入浴剤である。高いだけあり、肌もすべすべになった気がする。

 

 

お風呂は一日の疲れを癒してくれる最高の時間だ。私は湯船の中で今日一日を振り返る事にした。

 

 

山村と親しくなり、Dクラスの生徒数人と面識を持ち、椎名と友人になった。そして、過去問を無償で譲った為、葛城派に恩を売ることが出来た。これで葛城派は、間違いなく私に頭が上がらなくなるはずだ。色々と濃い一日だったが、とても充実した一日だったと言えるだろう。

 

 

「それにしても、今日は疲れたなぁ…。やっぱり水泳の授業がある日は、疲れが尋常じゃないね。」

 

 

その後、体と頭を洗い再度湯船に浸かってからバスルームを出た。体を拭き、パジャマに着替えてドライヤーで髪を乾かす。

 

 

髪を乾かし終えると、私はスマホを起動し『小説家になりたい』というアプリをインストールした。インストール後、ユーザー情報を入力し、ようやくアプリを使えるようになった。

 

 

私は山村に勧められた『紅の館』を読んでみる事にした。

 

 

ありきたりなデスゲーム作品だが、ゲームとは関係の無い殺人事件が起きてしまう。しかし主催者はゲームの継続を強要する。主人公達参加者は殺人鬼がいる中でゲームを行う事になり、参加者同士でルールを決め、殺人犯を探す事になる。殺し合いを行いながらも、様々な駆け引きをしつつ殺人事件の犯人も探す。要素てんこ盛りだが、綺麗にまとめられていて続きが気になってしまう。

 

 

私は他のデスゲーム作品も読んでみたが、どの作品も参加者達が利益や目的の為に自主的に参加しており、共感は出来ない。しかし、その異常さこそがこのデスゲームというジャンルの売りなのだろう。

 

 

クローズドサークルといえば、前世で全世界に放送されていた殺し合い学園生活。あれこそ、クローズドサークルの成れの果てなのでは無いだろうか。閉じ込められ、出る為には殺人を犯し、学級裁判で別の人間に最多表を集める必要がある。

 

 

まるでミステリー小説の舞台のような話だが、全て実話である。この惨劇を繰り返さないように…

 

 

いいや、違う。

 

 

私の単なる好奇心を満たす為に、あの殺し合い学園生活の物語を世間に公表したらどんな反応をするのかを知るために、私は殺し合い学園生活を装飾した物語を書く事にした。

 

 

たった一人の少女が撒いた絶望の種は芽を出し、蕾をつけて花開き、朽ち果てていく。そして新たな種がまた同じように成長し朽ち果て、それが延々と繰り返されていく。

 

 

あの惨劇を忘れない為に、好奇心を満たす為に、私はあの悲劇を脚色し、小説にすることを決意した。

 

 

書き始めはこれでいこう。

 

 

 

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その巨大な学園は、都会のど真ん中の一等地にそびえ立っていた。まるで、そこが世界の中心でもあるかのように。

 

 

『私立 希望ヶ峰学園』

 

 

あらゆる分野の超一流高校生を集め、育て上げる事を目的とした、政府公認の超特権的な学園。

この学園を卒業すれば、人生において成功したも同然…とまで言われている。

 

 

何百年という歴史を持ち、各界に有望な人材を送り続けている伝統の学園らしい。国の将来を担う"希望"を育て上げる事を目的とした、まさに"希望の学園"と呼ぶに、相応しい場所だ。

 

 

そんな学園への入学資格は2つ。

 

 

"現役の高校生であること"

"各分野において超一流であること"

 

 

新入生の募集は行っておらず、学園側にスカウトされた生徒のみが入学を許可される。

 

 

そんな超が何個も付くほど、超すごい学園の校門前にボクは立っていた。

 

 

まずはオーソドックスに自己紹介から始めたいと思う。

 

 

ボクの名前は"苗木誠"だ。外見はご覧の通り、どうしようもないほど平均的な普通の高校生。

 

 

中身の方も同じ。性格にも特技にも成績にもこれといった特徴は無い。特別な趣味や趣向がある訳でも無ければ、ミュータントでもないし、スタンドを出せるわけでもない。

 

 

ボクの好きなアイドルや、好きなマンガ、好きな音楽、好きな映画を知りたければランキング番組でも見れば1発だ。その1位になるヤツが大抵そうだから。

 

 

最初に、自己紹介というオーソドックスなところから始めたのも、そのいい例だと思う。

 

 

まあ、強いて言うなら唯一の取り柄は人よりちょっと前向きなところくらい…かな。

 

 

そんな普通のボクは今、希望ヶ峰学園という普通じゃない学園の前に立っていた。

 

 

 

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その後、私は苗木誠が校舎に入ったところで急な目眩に襲われ、気が付いたら校舎の中の空き教室で目が覚めるという展開を書いた。そして眠気に抗いながらなんとかモノクマの登場、学校生活に関する説明の場面を書き、少し大袈裟な表現を使って事実を脚色していった。

 

 

「…こんなところ、かな?この世界の人達は、強制された殺し合い学園生活を、これから起きるトリックのトの字すら感じられないような犯行をどう思うんだろう。とっても気になるなぁ。」

 

 

私は超高校級の作家でも無ければ、文学少女でもない。本を読む事が好きなどこにでもいる普通の女の子だ。こんな私の書いた物語も、誰かにとっては面白いと感じるのかとしれない。そう思いながら、私は書いた作品にあらすじを付けて投稿した。

 

 

タイトルは…

 

 

『ダンガンロンパ』

 

 

幸運の少年が、学級裁判中に多くの意見を論破し、ついには江ノ島の与えた絶望さえも論破で吹き飛ばしてしまう。その様は、まるで大きな弾丸が対象を撃ち抜いていくように爽快感のあるものだった。まさに、この物語にピッタリの名前だ。

 

 

私は1話目の出来に満足し、眠気に抗えずベッドにダイブした。翌朝、目を開けてスマホを手に取ると、多くの通知が入っていた。通知を確認すると、感想が12件も着いていた。

 

 

『見た事のないタイプのデスゲームですね!続きが気になります!』

 

 

『変わった設定ですがとっても面白かったです。更新楽しみにしています。』

 

 

『特殊設定が濃すぎる気もするけど、平凡な主人公って珍しいですね。更新頑張って下さい。』

 

 

この作品を応援してくれるコメントが多く寄せられており、私は朝から最高に気分が良い。まるで大作家にでもなったかの様な気分である。お気に入り数も57と、一晩の間に多くの人がこの作品を気に入ってくれたようだ。とても有難い事である。

 

 

ひとまず数日はテストの為に勉強に集中する必要があるが、テストが終わったら本格的に執筆に力を入れていこう。

 

 

もし人気が出て来たら、読書友達の山村や椎名にも読んで貰って是非とも感想を聞いてみたい。

 

 

そんな事を思いながら、私は学校に行く支度を始めた。





今回の話は突発的に思い付いた部分が大きいです。
特に小説を書こうとする下りに関しては、深夜テンションで思い付きました。
山村と仲良くなる下りに『小説家になりたい』というサイトに関する話を入れる事は決まっていましたが、主人公がそこに小説を投稿するという設定は本当に思い付きです。
もし、多くの読者様から反対があればこの部分は消して投稿し直したいと考えているので、御意見等ありましたら感想で伝えて頂けると助かります。

そして、相棒(仮)は森下藍に決めました。
他の候補キャラとの交流も描いていく予定なので、是非お楽しみに。

無人島試験時で主人公はどの派閥に入る?

  • 坂柳派(女王様こそ世界一)
  • 葛城派(葛城さんこそ世界一)
  • 神島派?(森下と推定山村が加入)
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