超高校級の幸運に内定していた少女は、高度育成高等学校に入学する。 作:杏仁豆腐
今回は中間試験と中間試験後のテスト返却についてのお話を書いており、これにて中間試験編は終了です。
次話からは、無人島試験が始まるまでの学校生活…須藤暴力事件編に入りますが、これは2、3話で終わるので、『入学〜中間試験編』を『一学期』と一括りにしてしまおうかと思っています。
皆様、評価や感想本当にありがとうございます。
モチベーションに繋がるので、とても助かっております。
それから、誤字に関する報告をして下さった方もありがとうございます。
深夜投稿が多いので、ミスってしまう事が多々あるかと思いますが、是非気付いた方は教えて頂けると有難いです。
こちらでも気付いたら編集するようにしていますが、全部に気付くのはなかなか難しいもので…
※評価やコメント、是非お待ちしております。
追記→明日の投稿はちょっと遅れてしまいます。ちょっと今日忙しくて、まだ1000文字しか書けていないんです(泣)(2024/01/05 23:33:24)
ついに試験を発表されてから三週間が経ち、中間試験の日がやって来た。
学校に向かう為寮を出ると、珍しい二人組を見付けた。あの二人だけで一緒に居るのは珍しいので、気になって声を掛ける事にした。
「おはよう、坂柳さん、葛城君。二人が一緒に登校しているのは珍しいね。」
私に気づいた二人はすぐに振り返り、口を開いた。
「おはよう、神島。丁度そこで会ってな。」
「おや、おはようございます、神島さん。せっかくですから、貴方も一緒に学校に行きませんか?」
「そうだね、御一緒させて貰おうかな。」
私は坂柳の提案を受け入れ、一緒に学校へ向かう事になった。
「二人とも今日のテストの自信はある?」
そう問掛けると、葛城が先に口を開いた。
「やれる事はやった。復習を繰り返した事で知識も定着しているはずだ。過去問も何度か解き直しているからな、9割は堅いと考えている。」
葛城は高成績が取れると思える程勉強をしてきたらしい。であれば、無様な姿を晒すような事は無さそうだ。流石は葛城派のリーダーである。
「へぇ、葛城君は自信があるみたいだね。坂柳さんはどうかな?」
そう彼女に問掛けると、彼女は不敵な笑みを浮かべて話し始めた。
「ふふふ、私は教科によっては満点も取れると考えています。この学校の学習難易度は高くありませんからね。」
「ま、満点かぁ…流石は坂柳さんだね。凄すぎてちょっとリアクションに困っちゃうかも。」
天才と自負しているだけあり、彼女の予想は私の想像を超えていた。葛城程度の学力の人間が満点を取れると言ったとして、私はそれを信じられないだろう。しかし、坂柳の学力は天才と呼ばれるそれであり、模試で全国一位の成績を取った事のある彼女なら、十分に可能な範疇だと言えてしまう。彼女は超高校級とは違った意味で天才なのだ。
「坂柳、お前は普段どのような方法で勉強をしているんだ?」
葛城が政敵である坂柳に勉強方法を聞くなんて意外だ。敵を参考にするなんて、自分が敵より劣っていると証明する様なものだ。それが出来るというあたり、彼も勝利や成功には貪欲なのかもしれない。
しかし、そのくらいでなければこの学校ではやっていけない。何せ、この学校ではAクラス卒業というたった一クラスしか得られない景品の為に、死に物狂いで戦わなければならないのだから。葛城は確かにこの学校に相応しい男だと言える。
坂柳は葛城の発言に一瞬面食らったような顔をしたが、すぐに挑発的な笑みを浮かべ、自分の勉強方法について語り出した。
「おや、そんな事を貴方が聞いてくるとは思いませんでした。そうですね…私は普段、学校で配られた問題集やプリントの復習を行い、個人的に持っている問題集や参考書を使って発展問題を解いたりしています。」
「へぇ、坂柳さんは勉強に力を入れているんだね。」
私は坂柳の発言にそう感想を述べた。
「なるほど、外部の問題集や参考書を使っているのか。参考にしよう。勉強に関しては、お前の方が上だからな。」
葛城は坂柳の学力や頭脳を認めているようで、本気で参考にしようとしている。そんな葛城を坂柳は挑発し始めた。
「それは敗北を認めたという事でしょうか?遂に私に下る事に決めたのですか?葛城君。」
「いいや、違う。お前達坂柳派に勝つ為ならば、敵にだって教えを乞う…それだけだ。」
「ふふ、そうですか。せいぜい足掻いて見せて下さい、葛城君。そう簡単にくたばられては、つまらないです。少しでも私を楽しませて下さいね。」
二人が少年漫画のような熱い展開を繰り広げている様を、私は一歩引いて見つめていた。この二人がこの先どんな戦いを見せ、どんな結末に導いてくれるのか…それがとても楽しみである。
その後、私達は中間試験に関する話をしながら学校に向かって歩き続けた。
教室に着くと多くの生徒が席でテスト前の勉強を行っていた。
Aクラスは全ての生徒が休むことなく出席しており、体調管理も万全なようで一安心だ。学年内やクラス内順位を競い合うライバルではあるが、私達はそれ以前に他クラスという共通の敵を持つ仲間である。全員が万全な状態で試験に挑めるというのは嬉しい事だ。
その後、ホームルームを終えて試験準備を行い、席に座ってテストが始まるのを待った。予鈴がなる3分ほど前に真嶋がやって来て、問題用紙と解答用紙を配っていく。
「全員揃っているな。では今から、数学の試験を行う。今から問題用紙と解答用紙を配るが、問題用紙はチャイムが鳴るまで開かないように。名前もチャイムが鳴ってから記入するようにしてくれ。」
模擬試験を受ける時は名前は予め書いておくものだが、この学校の試験では"氏名の記入"も試験時間が始まってからでないと行えないようだ。非効率的だがここは素直に従っておくしかない。今度、真嶋や教師陣にそれとなく訴えてみるのもありかもしれない。
キーンコーンカーンコーンと、試験開始のチャイムが鳴り響く。
私は素早くシャープペンシルを掴み、解答用紙に名前を記入していく。そして問題用紙のページを捲り、しっかり問題文を読んでいく。といっても始めの10問はただの計算問題なので、ひと目見るだけですぐに答えを出す事が出来る。その後、少し難解な計算問題を解いてから、文章問題を読み始める。
そういえば、この問題って全部南雲先輩から譲って貰った過去問に出ていたものと一言一句同じだよね。どういう事だろう?
事前に過去問は何度か解き直していた為、今回の試験は簡単に問題を解く事が出来た。おそらく過去問を使った生徒の中には、満点者も多いはずだ。もしかしたら、この学校は毎年同じ問題が試験に出題されているのかもしれない。となると、この試験は過去問を解けば簡単に満点が取れるという事だ。
そんな事を考えているとチャイムが鳴ったので、慌ててシャープペンを置き、解答用紙を素早く裏返して伏せる。
「よし、では後ろから前に解答用紙を回してくれ。問題用紙は各自持ちかえるように。しかし、テスト返却後の授業では問題用紙を見ながら解説授業が行われるので、決して捨てないように。」
真嶋の指示で、後ろの席から解答用紙が送られてくる。それを受け取って自分の解答用紙を上に重ね、私は前にいる葛城に手渡す。解答用紙が一番前まで来ると、各列の先頭の生徒から真嶋は解答用紙を回収し、集めた紙束を綺麗に纏めて教室を去っていった。
その後、全ての科目の試験が終わり放課後になった。ちなみに全ての科目の問題が過去問と同じであり、正直驚いた。
今日はテストだけだったので、お弁当は用意していない。帰りにどこかに寄って昼食を摂るつもりだった。
教室内を見ると森下と山村の姿が目に入る。せっかくなので、私は山村と森下に一緒にランチをしないかと声を掛ける事にした。
「森下さん、一緒にご飯食べに行かない?…あ、山村さんも一緒にどう?美味しい物食べに行かない?」
「構いません。丁度私も美味しい物が食べたいと思っていました。」
森下は私の提案を直ぐに受け入れ、急いで荷物を纏め始めた。
「…私も、行っても良いんですか?」
山村が控えめな声で聞き返してくる。私は「勿論だよ」と答え、森下にも確認をとる。
「森下さんも良いよね?」
「構いませんよ。さあ、一緒に行くのであれば早く準備をして下さい。山村さん。早くしないとお店が混んでしまいますよ。」
森下は山村に向かってそう言い、準備するよう促す。少し不安そうな顔をしていた山村は頷き、荷物を鞄の中に詰め始めた。
そして、私達は少し遅いランチに出掛ける事にした。
「ランチどうしよう?どこで食べる?」
私が二人に問い掛けると、まず口を開いたのは森下だった。彼女ははっきりと自分の意見を述べた。
「テスト勉強を努力した御褒美に美味しい物が食べたいです。少し贅沢をしたい気分ですね。お店のジャンルは何でも構いません。」
何でもと言われると困ってしまうなぁ。
確かに、今日まで私達は必死にテスト勉強を行ってきた。過去問を用いて、問題集を使って、授業プリントやノートを何度も確認して、必死に勉強をしてきた。ようやく試験も終わり、勉強も一段落着いたのだ。今日くらい、贅沢をしたって良いはずだ。
しかし、山村のサイフ事情も考慮しなければならない。私は多額のポイントを持っているし、贅沢をしないかと提案してきた森下は現状ポイントに余裕があると分かるが、山村は無表情で賛否の反応が一切無い。彼女が払っても良い価格帯を知らなければ店を決める事は出来ないのである。
私はそれとなく山村の意見を聞いてみる事にした。
「まあ、プチ贅沢もたまには良いよね。でも、あまりにも高いお店はちょっとねぇ。山村さんは、食べたい物とかある?」
この質問で知る事が出来るのは、食べたい物、そしてどの程度のプライベートポイントを支払えるか、という事の二つだ。
ラーメンであればだいたい1000プライベートポイント程度で済ませる事ができ、寿司であればお店にも寄るが5000プライベートポイントを超える可能性もある。パスタやハンバーグなら、1000ちょっとのプライベートポイントで済ませられる可能性が高い。
「…私は、魚料理が食べたいです。もし出来たら、和食料理が食べたいです。」
山村は少し申し訳なさそうな表情でそう言った。
「魚料理かぁ、美味しいよねぇ。」
魚料理で和食と言えば寿司が挙げられるが、回転寿司はこの時間は混んでいる。なので、食べに行くとしたら高級寿司になってしまう。しかし、入学したばかりで安定した多額のポイントを得られるわけではないため、高級寿司は避けたい。
私がどうすべきか悩んでいると、森下が口を開いた。
「この時間だと回転寿司には入れませんし、うな重を食べに行きませんか?」
「う、うな重?高くない?」
まさかの提案に驚き、森下に聞き返す。
「2600プライベートポイントで食べられるお店を知っています。回転寿司より安い金額で贅沢が出来ますよ。」
確かにその額であれば、寿司屋に行くより安上がりだ。そしてもう夏と言っても良いほど、気温が高くなっている。つまり、鰻の季節と言っても過言じゃない。
ちなみに余談だが、土用の丑の日という言葉のせいか、鰻は夏に食べるものというイメージを持たれている事が多い。しかし、土用の丑の日は年に数回ある為、土用の丑の日=夏という考えは間違いである。
「…鰻、良いですね。」
山村は鰻を食べたいようだ。であれば私が反対する理由は無いし、何より私もうな重が好きだ。返事は一つしかない。
「じゃあ、私も鰻食べたい!行こう!うな重食べに行こっか。」
こうして私達は、美味しい鰻を食べに行く事にした。
「ここですよ。」
森下がそう言って立ち止まったのは、学校から徒歩10分くらいの場所にあるお店だった。入り口には"うなぎ処貴船"と書かれた暖簾が掛けられている。どうやらこのお店で間違いないようだ。
「へえ、こんな所にうな重のお店があったんだねぇ。私全然知らなかったよ!」
私は物珍しさにキョロキョロと周囲を見渡す。それ程大きな店ではないが、外観も綺麗で清潔感がある。
「さあ、入りましょう。」
森下はそう言って暖簾を潜っていくので、私達もそれに続く。そして店内に入るとすぐに店員さんが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ!三名様ですか?」
「はいそうです!」
私がそう答えると、店員さんは人数を確認した後、空いている席へと案内してくれた。私達は四人掛けのテーブル席へ腰を下ろした。
「ご注文が決まりましたらお呼び下さいませ。」
そう言って店員は去って行った。
「全員梅のうな重で良い?」
私がメニュー表を開きながら問掛けると、山村と森下はすぐに頷いた。
しかし、せっかくなので他にどんなメニューがあるのか確認してみようという事になった。
二人にも見えるようにメニュー表を真ん中に置く。うな重以外にも、蒲焼き定食やひつまぶし、きも吸に茶そば、茶碗蒸しと様々なメニューが書かれていた。デザート蘭には抹茶パフェやわらび餅、杏仁豆腐や抹茶アイスの名が書かれており、どれもとても美味しそうだ。
「ここのわらび餅も凄く美味しいですよ。」
「そうなの?気になるなぁ。森下さんはここに来た事があるの?」
「はい。といっても一度だけですが、ここの料理はとても美味しかったです。」
「へえ、そうなんだ。じゃあ私わらび餅も頼もうかな。二人は他に何か頼む?」
私はメニュー表を二人の読みやすい向きに変えて問い掛けた。
すると山村は少し考えた後、口を開いた。
「…私もわらび餅を頼みたいです。」
「了解だよ。森下さんは大丈夫?」
「ええ、このまま注文して大丈夫です。」
結局全員の注文が決まったので、店員さんを呼ぶ事にする。そして待つこと数分、先程の店員さんが人数分のお茶とポット、おしぼりを持ってやって来たので、オーダーを伝える。
「うな重の梅を三人分お願いします。後、デザートのわらび餅を食後に二人分お願いします。」
「御注文を確認させて頂きます。うな重梅を三つ、わらび餅を二つでお間違いないでしょうか?」
「はい。大丈夫です。」
「手間はお時間少しいただきます。ごゆっくりお過ごし下さい。」
店員が去った後、私達はおしぼりで手を拭き、テストについての感想を話し始めた。
「みんなテストの方はどう?自信ある?私は結構自信あるんだよねぇ。」
今回のテストは過去問と同じ問題が出題されており、問題の難易度も易しめなのでもしかしたら満点の科目もあるかもしれない。
私が二人に問い掛けると、まずは森下が口を開いた。
「問題の難易度は低いですし、過去問もやったので9割は超えているでしょうね。」
森下は今回のテストにたいそう自信があるようだ。
「山村さんはどう?」
「…私も、今回の試験には少し自信があります。」
山村は自信があると言いつつ、その表情は不安そうに見える。彼女は少し心配性なのかもしれない。
「今日受けたテスト、過去問と全く同じだったよね。」
私がそう言うと、森下と山村も頷いた。
「確かにそうですね。私も少し驚きました。」
「…うん、私もびっくりしました。」
過去問と同じだっという点から、定期テストで出題される問題は毎年同じという推測を立てる事が出来る。しかし、それではテストの意味が無い。答えを暗記してしまえば、誰でも満点を取ることが出来る。果たしてそれはテストといえるのだろうか。
「もし期末テストも同じ問題だったら、この学校は定期試験で同じ問題が毎年出題されている事になる。」
「そんなうまい話があるとは思えませんが、現状ではその推理が限界です。」
「…そう、ですね。」
山村が森下の考えに同意を示して頷いた。
森下の言う通り、今この疑問について話しても新しい意見は出てこないだろう。
「今回のテストで赤点退学者は出るかなぁ。」
私がそう呟くと、森下はお茶を一口飲んでから口を開いた。
「出ないと思いますけど、Dクラスの生徒に関しては読めませんね。入学して一ヶ月の間に全てのクラスポイントを失ってしまうようなクラスですから、アホの集まりというのは周知の事実でしょう。」
確かにDクラスがこの学年の底辺だという事は周知の事実だ。不良だらけのCクラスも龍園翔という生徒がリーダーになり、恐怖政治を始めた。つまり、手段は非道だが統率が行われているという事だ。
統率が行われていない国は無法地帯と変わりない。今のDクラスには明確なリーダーがおらず、ルールが整備されていない状態なのだ。つまり、クラス内の協力は絶望的であり、皆が一つの目標に向けて頑張るという行動が取れない状況なのである。
故に、Dクラスは今回の中間試験で何か失態を犯すのではないか。そう思われているのだ。
「まあでも、Dクラスにも優秀な生徒はいるし、油断は出来ないよ。」
私がそう言うと、山村は私の言葉に頷き口を開いた。
「…そうですね。やっぱり、高円寺六助や平田洋介等の優秀な生徒がいますし、他の生徒も癖が強いと聞きました。油断していたら足を掬われてしまいそうです。」
山村は慎重な性格なのか、不良品と呼ばれるDクラス全体に強い警戒心を持っているみたいだ。
「それにしても、Aクラスはどうなるんだろうね。」
私の言葉に森下が首を傾げる。私は口を開いて話し始めた。
「坂柳さんと葛城君の抗争…いや、政争と言うべきかな?」
現在Aクラスは葛城派と坂柳派に別れており、葛城が生徒会入りを断られた事で葛城派の勢力が一時弱まったが、私が無償で譲った過去問のおかげで信頼は回復した。そして今回のテストでは、過去問と同じ問題が出題されていた為、彼は中間試験でAクラスを救った救世主として認識される事だろう。
しかし、こんな状況を坂柳が何もせず傍観しているのはおかしい。彼女は冷静で落ち着いた性格の持ち主だが、意外に好戦的な一面を持っており、この状況には違和感を覚える。
そう二人に告げると、彼女達は少し考え込んでから話し始めた。
「確かに、坂柳さんは現状何もしていません。今回の中間試験は傍観に徹しているように思えます。」
森下は私の話を聞いて、私の考えに同意を示した。
「だよね。そう思うよね。何か企んでいるとは思うけど、馬鹿な私にはさっぱり分からないなぁ。」
「馬鹿には見えませんが。」
「うん、神島さんは凄く頭が良い方だと思っています。」
森下は褒めているのか微妙な言い方だが、馬鹿では無いと否定されて悪い気はしない。正直前世の知識と幸運という才能のおかげで、成績が悪くないだけなので、私が馬鹿だというのも間違いでは無いのだ。しかし、ここは素直にお礼を述べておくべきだろう。
「うわ、凄いストレートな物言いだね。お世辞でも嬉しいよ。ありがとう、森下さん、山村さん。」
彼女達に感謝の言葉を述べると、二人は微かに微笑み返してくれた。
暫くすると、先程の店員が料理を運んで来た。
「お待たせ致しました、うな重の梅で御座います。」
私の前に置かれたうな重はふっくらとしていてとても美味しそうだ。それにタレの甘い香りが食欲をそそる。
「わぁ、美味しそう!」
私は思わずそう口に出した。山村と森下も前に置かれたうな重を見て、無表情の二人にしては珍しく瞳をキラキラと輝かせている。
そして私達は手を合わせて食事の挨拶をし、一斉に箸を手に持った。
さて、お味はどうかな?
一口食べると鰻の甘みが口いっぱいに広がりとても美味しい。鰻の身もふっくらとしていて柔らかいし、何よりこのタレが絶品だ。
なんだか、花村の料理を思い出して少し切なくなってしまう。私は彼の料理が恋しいと、そう思った。
「…お、美味しい。」
山村は頬を緩め、僅かに口角が上がっている。瞳は子供のようにキラキラと輝いており、この笑顔を守りたいと心の底から思った。
「美味しい。最高だねぇ。今日のランチはうな重にして正解だったなぁ。ナイスなチョイスだったよ、森下さん。」
私は森下のチョイスに感謝し、彼女を褒める。
「そうですか。それなら良かったです。」
森下は、うな重を食べている時も相変わらず無表情だが、少しだけ声が弾んでいるような気がした。それほど、このうな重が美味しいという事なのだろう。
これはご飯が進むなぁ。
私は一口、また一口と箸を止める事なく食べ進めていく。そして山村も森下も私と同じ様に鰻を口へ運ぶ。山村は無表情で食べているが、美味しいと思っている事が何となく分かった。森下は表情が変わらないので分かりづらいが、食べるペースを見ると満足している事が良く分かる。
「本当に美味しい!次は期末の打ち上げで来ようよ!」
私がそう提案すると、二人は小さく頷き同意してくれた。
「そうですね、また来ましょう。勿論、三人で。」
森下は山村と私を見てからそう言った。彼女の言葉に私は頷く。
「…その、私が御一緒しても良いんでしょうか?」
山村は不安そうな顔で私達に問い掛ける。彼女は少し遠慮し過ぎだ。一緒に出かけて、美味しい物を食べている時点で、同じ釜の飯を食べているも同然。つまり私達は既に友人なのだ。
「当たり前だよ。だって私達は友達でしょ?」
「…友達、ですか。」
山村はそう呟くと、少し嬉しそうに微笑んだ。そしてすぐにいつもの無表情に戻ったが、私には彼女の表情がほんの少しだけ柔らかくなったように見えた。
「友達…そうですね、私達は同じクラスの友人です。」
森下は山村の様子を見た後、私に向かってそう言った。友達という響きが嬉しいのか、彼女は微かに微笑んでいるように見える。
「そうそう!だから遠慮しないでね!」
「ありがとうございます。」
そう言うと、今まで見た事の内容な笑顔を私たちにに向けてくれた。まるで私達に心を許してくれたかのようなだ。その事実に私の胸が熱くなる。
「ねぇ。」
私は二人にとある提案をする事にした。
「良かったら、下の名前で呼び合わない?その方が友達っぽくて良いと思うんだ。どうかな?」
「私は構いませんよ。」
「……私も大丈夫です。」
二人は快く承諾してくれた。山村は表情こそ変わらないが、小さく頷いてくれたし、森下も特に嫌がる様子は無い。
「じゃあ決まりだね。私の事は美香って呼んで。藍ちゃんと美紀ちゃんって呼んでも良いかな?」
「ええ、構いませんよ美香。」
森下がそう言い、私の名前を呼び捨てで呼んだ。青春らしいやり取りについ口角が上がってしまいそうになる。
しかし、美紀はいつまで経っても私達を下の名前で呼ぼうとしない。
「…もしかして、嫌だったりする?」
美紀にそう聞くと、彼女は首を横に振り否定した。そして口を開気話し始めた。
「今まで、友達を下の名前で呼んだ事が無かったので少し緊張してしまって。変ですよね…。」
そう言い彼女は黙り込んでしまった。
「変じゃないと思うよ。4月に会ったばかりの人間を、初めて下の名前で呼ぶのは誰でも緊張すると思う。でも、下の名前で呼んでくれたら嬉しいな。無理はしなくても良いからね。」
私はそう言い、後は美紀に任せる事にした。彼女は少し考えた後、小さく頷いてくれた。どうやら私の気持ちが伝わったようだ。
「分かりました。美香ちゃんと藍ちゃんと呼ばせて頂きます。改めてよろしくお願いしますね。」
美紀はそう言うと私達に微笑んでくれた。その微笑みはまるで天使のようでとても可愛いらしい笑顔だった。
「こちらこそよろしくね!藍ちゃん、美紀ちゃん。」
「ええ、よろしくお願いします。」
私と藍は美紀の改まった挨拶に返事をし、互いに笑い合った。三人のグループチャットを作り、夏休みに何をするかという話をしながらわらび餅を食べた。
中間試験から約一週間が経過し、6月に入った。教室に入り、鞄から教科書やノートを取り出し机の中に仕舞っていく。その後、『パライバトルマリンの涙』の最終章を読みながらホームルームが始まるのを待つ。
数分後、教室に真嶋が紙束を抱えてやって来た。そしてすぐにチャイムが鳴り、私は慌てて本を机の中に仕舞った。その後、すぐにホームルームが始まる。
「おはよう、全員揃っているな。まず今月のクラスポイントについてだ。各クラス50ポイントずつ増えているが、これは君達に対するご褒美のようなものだ。各クラスの差に変化は無い。」
────────
Aクラス→1020
Bクラス→700
Cクラス→540
Dクラス→50
────────
ご褒美と言えば聞こえはいいが、Dクラスに対する情けのようにも感じる。他クラスにも50クラスポイントが増加している点を考えると、特別扱いをしない為のカモフラージュなのだろう。真実は不明だが、私はそう思いDクラスを哀れんだ。
その後、真嶋は連絡事項を話し始める。最終下校時刻が変わった事や衣替え期間に関する情報、今月に行われる模擬試験に関する事について説明した。
その後、一拍置いてから本題に入った。
「さて、気になっている人も多いだろう。今から中間試験のテストを解答用紙を返却する。名前を呼ばれた生徒は前に取りに来てくれ。石田───」
生徒達はそわそわしながら自分の番を待っている。その中でも特に特徴的なのが戸塚で、手を祈りポーズにし目を閉じて何かを念じているようだ。テストの点数をそこまで心配する生徒は見た事が無いが、退学になる可能性もあるので、彼のような反応は別におかしなことではない。
石田、葛城と名前を呼ばれ私の番になる。前に出て解答用紙を受け取り、席に着く。
結果は以下の通りである。
─────────
英語 100点
数学 98点
化学 90点
社会 100点
現代文 100点
─────────
Aクラスの中で、悪くない結果だと胸を張って言える。DクラスやCクラスであれば、クラス内で一位を取れそうなほどの高得点である。
五教科の合計点は488点だった。
この試験の難易度なら、満点者も複数出ているはず。その中でこの結果ならそこまで目立つ事は無いだろう。ちょっと優秀なモブCといった立ち位置に入れるはずだ。
化学については元々文系であり、理科基礎で生物と地学を選んでいた為事前知識を持っていない。そして単純に苦手なのでこの結果になってしまった。
前世の記憶のおかげと言えばその通りだが、私が前世で私が通っていた高校は県内で三番手の進学校だったので、元々勉強は努力してきたので、しっかり知識として定着している。しかし、私は頭の回転が速いタイプでは無く、復習を怠れば記憶は徐々に薄れていくいわゆる凡人だ。この地位を死守するには努力を続けなくてはならない。
「今回各科目のクラス内平均は93点を超えており、非常に優秀な結果を残してくれた。この結果は歴代で最も優秀だと言える。誇ることの出来る結果だ。皆よく頑張ったな。帰りのホームルームではバーゲンダッツのアイスを一人一個用意している。ご褒美にプレゼントするので、日直の生徒はホームルーム前に職員室に来て欲しい。」
バーゲンダッツとはちょっとリッチなカップアイスの事だ。様々なフレーバーが出ており、その中でもキャラメル味と抹茶味、紅茶味が人気で、最近では期間限定のマンゴー味も出ている。根強い人気を持つ歴史の長いアイスクリームだ。
それを生徒を信じてクラス全員分用意している真嶋の気遣いは、非常に素晴らしいものだ。全員が赤点を取らず、このテストを乗り越えると信じてくれた事はとても嬉しい。
担任を含めてこのクラスの一員なのだと、そう思った。
その日の放課後、私は南雲に呼び出されて学校近くのカフェに来ていた。真嶋からバーゲンダッツを受け取り、それを急いで寮に持って帰っていたら、時間ギリギリになってしまったのだ。真嶋には感謝しているが、アイスをすぐに食べれない生徒についても配慮して欲しかった。勿論、そんな事本人に言うつもりは無い。
店内に入り、レジでかき氷とフルーツティーを注文する。会計は退店時に行うタイプの店だ。数分後、かき氷とフルーツティーの乗ったトレイを受け取り、南雲の待つ席に向かった。
「お待たせしました、南雲副会長。遅くなってしまい申し訳ありません。」
「いや、俺も今来たところだ。」
南雲はそう言うが、それは恐らく単なる気遣いだ。何故なら、南雲のグラスはほぼ氷だけの状態になっているからだ。私が来るよりも前にここに来て、アイスコーヒーを飲んで待っていたのだろう。
私は注文した、かき氷と冷たいフルーツティーを持って南雲の向かいの席へ腰を下ろした。そして早速本題に入る事にした。
「それでお話とは一体何についてでしょうか?」
私がそう問うと、南雲は真面目な顔で口を開いた。
「今回の中間試験について、Aクラスの様子をお前の口から聞きたい。それだけだ。」
彼が何を目的にこんな事を知りたがっているのかは不明だが、ここで話さないという選択肢はない。何故なら、私はこの権力者と良い関係を築いておきたいから。
「分かりました。まず、中間試験で退学者を出す事はありませんでした。」
私がそう報告すると、南雲は浅く頷いた。しかし、彼の表情は変わらないままだ。まだ何か私から聞きたい事があるのだろうと推測する。
「それは良かったな。それで?」
何を知りたいのかさっぱり分からないので、私は南雲の知りたい事を尋ねる事にした。
「…他に何が聞きたいのですか?クラス内で一位をとった生徒についてですか?それとも、過去問とテスト問題が同じだった事についてですか?」
「そうだな。後者について聞かせろ。」
「分かりました。南雲副会長に過去問を譲っていただいてから、私はテストの数日前に葛城を介してクラス内に過去問を配布しました。」
「葛城を介して配布しただと?何故自分で過去問を配布しなかったんだ?この行動が今後クラス内での地位を築く上で重要だとは思わなかったのか?」
南雲は呆れ顔で溜息混じりに私を見た。
どうやら、私の行動が意外で、呆れてしまったようだ。確かに普通であれば、過去問を譲って貰った人間が過去問を配布する。何故なら、その方が自分に対するメリットが大きいからだ。時に信頼は利益を超える事だってある。信頼を得ていれば、何か失態を犯したとしても周囲の反応は多少マシになる可能性がある。そのメリットを捨ててまで、手柄を葛城に譲った事が気に食わないのだろう。
「今Aクラス内では派閥争いが行われています。葛城康平を筆頭とする葛城派と、坂柳有栖を筆頭とする坂柳派。この二つの派閥は勢力争いをしていましたが、葛城が生徒会入りを断られた事で葛城の勢力が弱まり、坂柳派に数人の生徒が流れています。」
拮抗していた派閥争いは葛城派が傾いた事で、坂柳に有利な展開へと変わってしまった。
「へぇ?お前は葛城を支持しているという事か?だから過去問を譲ってやったのか?」
「南雲副会長、まだ私のターンは終わっていませんよ。話は最後まで聞いて下さい。」
私は面倒臭いメンヘラ女が言いそうなセリフを述べる。南雲は気持ちのこもっていない「悪ぃな」という謝罪を述べ黙る。私は彼が黙ったのを確認して、話を続けた。
「南雲副会長は、利益や不利益に関係なく面白いと思った事には参加するタイプですよね?」
「ああ。」
「私もね、似たようなものですよ。葛城と坂柳、私はどちらも現状支持していません。所詮中立の立場というやつですね。このままでは、坂柳派が勢力を伸ばし、葛城は負けてしまう。しかし、生徒会入りに断られて失脚というのはつまらないと思いませんか?」
もっと、もっと激しい争いをしてくれなきゃ、傍観者としてはつまらないよ。葛城君と坂柳さんには期待しているんだからさ。かの天才達と同じように、面白い世界を私に見せてよ。
だからこそ、私は葛城に貸し一つで過去問を譲り、信頼を回復させたのだ。葛城が信頼を回復させれば、まだイーブンで戦う事が出来るはずだ。
私がそう言うと、南雲はニヒルな笑みを浮かべ高らかに笑った。そしてこう言った。
「お前、性格悪いな。」
「性格が悪いなんて言われた事、一度しかありませんよ。酷いですね、南雲副会長。」
「ハハッ。その顔、酷いなんて思ってねぇだろ。だがそのくらいの方が女は可愛げがあるってもんだ。」
カランと、フルーツティーの中の氷が涼しげな音を立てた。
「まあ、聞きたい事は聞けたし俺はそろそろ行くぜ。この後は会議があるんだ。そこのレシートを貸せ。今回は俺が呼んだんだ。奢ってやるよ。」
「いや、自分で支払えますよ。お気持だけで十分です。それに来るのが遅くなってしまいましたし、むしろ私が南雲副会長」
私がそう言うと、南雲はこう言った。
「なら、これは投資だと思え。俺はお前に期待しているんだぜ?」
「そうですか。ではお言葉に甘えさせて頂きます。御馳走様です、南雲副会長。」
冷房の効いた涼しい店内で、私は南雲と別れた。
残りのかき氷を食べながら、フルーツティーを飲み、ゆったりと過ごした。
このかき氷はイチゴ味で、凍らせた苺をそのままかき氷機で削っており、苺シロップをかけただけのアイスと比べると、苺の味の濃さに天と地の差がある。その上、上にも苺が沢山乗っており、外から中まで苺尽くしだ。
「あー、美味しい。最近色々食べ過ぎている気がするけど、食欲の夏だから仕方ないよね。」
そう呟き、私は最後の苺をスプーンで掬い口に入れる。苺の甘さと程よい酸味が口の中で広がる。
体内が冷えてきたところで、私は寮に戻る事にした。
店を出る前に、レシートを確認すると下に『当選番号No.1』と書かれており、景品と交換して貰える事が分かった。
レジにレシートを持っていくと、系列店のフレンチのコースチケットを貰った。どうやら、系列店でフレンチのコースが無料で食べられるようだ。
「凄いですね、お客さん。この当選チケットは各店舗で一人しか当たらないんですよ。お客様、運が良いですね。こちらのチケットは、系列店のフランス料理店でご利用頂けます。期限は来年の5月31日までですので、お気を付け下さい。」
「ありがとうございます。」
店員に礼を言い、私は帰路に着いた。
他人のポイントでティータイムを過ごし、フレンチのコースチケットが当たってしまった。やっぱり私は超高校級の幸運である。
「…南雲先輩には内緒にしとこ。」
今回のお話は、主人公の運の良さを示すと共に主人公の快楽主義、享楽主義的な一面を見せる事が目的の一つでした。
一見性格の良い気遣いの出来る女の子に見えますが、普段人前で出ない内面を似た者同士だと感じている南雲に見せる事で、南雲が彼女に期待をするようになる。
葛城に過去問を渡したという事実を知って、南雲は主人公に対して『期待外れ』だと感じますが、主人公の内面の一つを知って『自分に似ている』と思い、期待するようになります。
そして今回の話には、うな重の下りがありましたよね。
あれは今後一緒に行動する仲良し三人組と見る事も出来ますが、アンケート結果で『神島派』に決まった場合、無人島試験にて色々暗躍させられるようにする為の布石みたいなものです。
『坂柳派』や『葛城派』に決まった場合は、どちらかに協力するような形で試験に挑む事になります。
そして、『狛枝以降の幸運がまじもんの超高校級の幸運』という感想を頂いて、『幸運の強さはどうなるのか?』という疑問を抱きました。
幸運という才能については、『生存力』『幸運』『不運』という三つの側面があると考えています。そして私になりに、前世の幸運の強さについて少し考えてみました。
生存力 苗木=神島>狛枝
幸運 狛枝>>>神島>苗木
不運 狛枝>>>苗木>(越えられない壁)>神島(不運無し)
生存力については、神島の危険回避という才能は苗木の生存力と同等という判断をしたのでこの結果になりました。
幸運については、狛枝の幸運とは彼の望む状況を作り出すものであり、幸運の才能の質が苗木や神島とは一線を画していると思います。なので、デフォが不運の苗木と比較して、この順番になりました。
不運についてですが、これは狛枝がぶっちぎりな気がします。狛枝の幸運の大きさと比例して、彼の不運も同じくらい大きいと考えています。そして、神島が危険回避型であり、自分にとって不利な状況にならないというタイプの幸運なので、この順番になります。
賛否両論あるかと思いますが、一応こんな感じで考えています。
今世については、今後の展開のネタバレになる可能性があるので控えさせていただきます。
今後とも、感想欄でこの作品盛り上げていっていただければ幸いです。
無人島試験時で主人公はどの派閥に入る?
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坂柳派(女王様こそ世界一)
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葛城派(葛城さんこそ世界一)
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神島派?(森下と推定山村が加入)