超高校級の幸運に内定していた少女は、高度育成高等学校に入学する。 作:杏仁豆腐
7月に入り、ポイントの供給が一時的に停止したり、橋本と登校したり、仲良し三人組とお弁当食べたり、取引したりします。
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ついに7月がやってきた。
毎月一日の朝は、振り込まれたポイントチェックから始まる。私は充電器を抜いて、スマホを手に取りポイントの画面を表示する。しかし、そこに表示されているポイントを見て私に戦慄が走った。
「…嘘、何これ?どういう事なの。何で、ポイントが振り込まれていないの?」
先月を思い出し振り返ってみるが、クラスポイントを引かれるような出来事は一切無かった。
では個人間で誰かがやらかしたのかと思ったが、個人間でやらかしていたとしても、素行不良で引かれるポイントなんてたかが知れている。ソースは、DクラスやCクラスの生徒だ。
「一体何が起こっているの?」
私は美紀や藍にメッセージを送り、ポイントが振り込まれているかどうか確認をする事にした。数分後、二人から返事が届いた。
『ポイントは一切振り込まれていません。何か問題が起きたのかもしれませんね。』
『ポイントは振り込まれていませんでした。どういう事でしょうか。』
藍は何か問題が起きたのでは無いかと考えており、美紀は現状について疑問を感じてはいるが、特に予想は立てていないらしい。
私は他のクラスのポイントは振り込まれているのか気になり、椎名にメッセージを送った。すると、数分後椎名から返事が届いた。
『おはようございます。今確認したのですが、私もポイントが振り込まれていませんでした。寮のロビーでは、一年生の生徒達が『ポイントが振り込まれていない』と騒いでおり、どのクラスにもポイントは振り込まれていない様ですね。』
どうやら、ポイントの供給自体がストップしてしまっていると考えた方が良さそうだ。きっとこの件については、教員の口から説明があるのだろう。
これ以上考えても仕方ないので、私は一度深呼吸をしてから学校に向かう支度を始めた。着替えて、昨日のあまりのおかずを食べて、おかずを数品作ってからお弁当箱に詰める。そして、荷物を鞄に入れて寮を出た。
「おっ、おはよう神島。」
寮を出ると、同じクラスの橋本正義と遭遇した。彼は坂柳派の生徒で、運動能力が高く学力もそれなりに高いので、坂柳に重宝されている。坂柳派の主要メンバーの一人だ。
「おはよう、橋本君。」
「ポイントが振り込まれていないが、一体どうしたんだろうな。神島は振り込まれていたか?」
やはり橋本も気になっていたようだ。私は頷き、ポイントが振り込まれていない事を伝えた。
「私も振り込まれてなかったよ。他のクラスメイトやCクラスの子にも聞いてみたけど、皆ポイントは振り込まれていなかったって、言ってたよ。」
「そうか。なら、学年全体でポイントの供給が止まってるって事か?」
「そうだと思うよ。」
私は橋本の予想に同意を示し、力強く頷いた。そして彼と一緒に登校する事になった。
私はクラス内では目立つ方では無い為、彼と関わった事はほとんど無い。一部の女子生徒に人気だという事は知っているが、どうも彼のチャラチャラした性格が苦手だった。しかし、この機会に彼と話してみるのも良いかもしれない。そう思った。
「橋本君は、テニス部だっけ?」
「ああ。神島は確か、ウチの姫さんと同じボードゲーム部だったよな?」
橋本が部活を当てたという事に少し驚いた。
私の部活なんて、藍や美紀、坂柳や葛城しか知らない。他に知っているのはCクラスの椎名だが、彼女は橋本と関わるようなタイプでは無い。であれば、彼は坂柳から私の部活について聞いたのだろう。
「うん、そうだよ。よく知っているね?」
「ああ、姫さんから聞いたんだよ。お前がボードゲーム部に所属して、一人勝ちしたってな。」
どうやら坂柳は余計な事まで彼に話しているようだ。私の一人勝ちというのは間違いないが、変に期待されても困ってしまう。ただ運が良いだけなのだから。
「あはは、たまたまだよ。」
そういうと、橋本は「謙遜するな」と言い笑った。
「たまたまだとしても、あの姫さんに勝ったんだろ?誇っていいレベルだぜ。なんなら、銅像でも建てるか?」
橋本は冗談めかしてそういうが、もし私がここで「建てよう」などと言おうものなら、恐くそれは実現してしまうだろう。だって私は超高校級の幸運だから。
ここに居るのが私ではなく、狛枝凪斗であれば、その提案を嬉々として受け入れ、銅像を建てて貰おうとするはずだ。だって彼は、ジャバウォック島の殺し合いで死ぬ前にビデオレターを残していた。その中で、最後に彼はこう言っていた。
『ボクは信じてるよ。ボクの行動が世界の希望の礎になるってね。そして…もし本当にそうなったら…ボクを讃えてくれ。ボクの偉業を伝えてくれ。ボクの銅像を作ってくれ。ボクを敬ってくれ。ボクを…超高校級の希望と呼んでくれ。』
彼は希望に強い執着を持ち、超高校級の天才と呼ばれる、希望ヶ峰学園の生徒という希望の象徴に憧れ、敬い、崇めていた。そして自身の持つ『幸運』という才能を嫌っていた。
そんな彼は幸運という肩書きを捨て、希望と呼ばれる事を望んだ。自分の行動が必ず世界の希望の礎となるのだと信じていた。自分を讃えられて、銅像まで作って欲しいと望んでいた。
しかし、私は超高校級の『幸運』なのだ。彼とは違ってこの才能を愛し、自分が幸運であるという事実を受け入れ、気に入っている。
もしかしたら、橋本にとって私坂柳に勝ったという事実は、この世界で苗木誠が江ノ島盾子に打ち勝つような、歴史的価値を持つ偉業なのかもしれない。しかし、『幸運』という才能によって自動的に勝っただけなので、私は自分の勝利が当たり前のものだと認識している。だから銅像なんて建てられたくないのだ。
私は超高校級の『希望』でも無ければ、狛枝凪斗のように『希望』と呼ばれる事を渇望してもいない。
「あはは、銅像が建ったら面白いかもしれないね。だけど、たまたま運が良かっただけだからさ。そんな大袈裟なこと言わないでよ。」
私がそう返事を返すと、橋本は「それもそうだな」と言い、話題を変えた。
「そういえば、気になっていた事があるんだ。この機会に質問しても良いか?」
「勿論だよ。答えられるものであれば、なんでも答えるよ。」
橋本は、少し言いにくそうに質問してきた。
「神島って、姫さんと仲良かったよな?」
「うん。良くして貰ってるよ。」
坂柳とは仲が良いか悪いかと聞かれれば、間違いなく仲が良いだろう。しかし私は彼女の派閥のメンバーでは無い為、彼女と友達と言えるのかは正直微妙な所だ。それでも私は坂柳を友人として接しており、大切な人だと思っている。
「姫さんも神島を気に入っているし、神島も姫さんを嫌いってわけじゃないだろ。なら、どうしてお前は、坂柳派に付かないんだ?」
「えっと、それは…坂柳さんに誘われていないからってのもあるし、葛城君とも仲良くしてるってのも理由の一つ。私としては、二人が手を取り合えば怖いもの無しだと思ってるんだけど、そういう訳にもいかないでしょ?」
坂柳とは友達だと思っているが、派閥に入るつもりは無いし、そもそも彼女に誘われる事も無いだろう。だから何故と言われれば、誘われていないからと答えるしかないのだ。私の本心はただ派閥争いを傍観者というポジションで楽しみたいというものだ。しかしこれを言ったところで理解される事は無いと分かっているので、橋本にはこう言うしかないのである。
「…そうか。姫さんなら仲良くなった女子を真っ先に誘いそうだと思っていたからな。正直誘われてないってのは意外だったぜ。」
「あはは、確かにそれはそうかもね。」
私は橋本の疑問に納得しつつ、話を別の方向に持っていく事にした。
「でもさ、私も気になってたんだけど、どうして坂柳さんは私を誘ってくれなかったんだろう。仲が良いと思っていたのは実は私だけだった…なんて事もあるのかな?」
私がそう不安を口に出すと、橋本は首を横に振り、私の言葉を否定した。
「それは違うと思うぜ。だって姫さんは、よく神島とのエピソードを話しているし、仲が良くなかったらそんな頻繁に話題にしないだろう?」
「確かにそうだよね。」
確かに橋本の言う通り、嫌いな人間や興味の無い人間であれば、何度も話題に出す事は少ないはず。そして、橋本の言うニュアンスを考えると、出された私の話題というのは悪い話ではなさそうである。
つまり彼の言う事は正しいのだろう。
そんな話をしていると学校が見えて来た。生徒玄関付近には多くの生徒が集まっており、皆靴を履き替えて後者の中に入って行く。
生徒玄関まで後数歩というところで、橋本が突然足を止めた。私も足を止め、振り返って彼の方を向く。
「どうしたの?橋本君。」
「…神島、坂柳派に来る気は無いか?」
「え…坂柳派に?」
橋本からの質問に、私は面食らって一瞬言葉を失った。まさかそんな言葉を投げかけられるとは思っていなかったからだ。
しかしすぐに冷静さを取り戻し、橋本に言葉を返す。
「えっと…とりあえず、どうしてを私を誘ったのか。その理由を教えて貰っても良いかな?」
私がそう問い掛けると彼はすぐに頷き、理由を説明し始めた。
「理由は神島がまぐれだとしても、姫さんに勝ったという実績があるからだ。そして姫さんとも仲が良いのであれば、きっと歓迎されるぜ。葛城と姫さんの実力差はかなり大きいし、姫さんに着いた方が今後有利な地位を得られるはずだ。」
橋本の言いたい事は理解出来るが、私の心を動かす様な魅力を感じなかった為、当然断る。
「あはは、それはそうかもしれないけど…でも、今私は坂柳さんに付くつもりは無いよ。」
私が断ると、橋本は「仕方ないな」と笑い、素直に引き下がった。
「そうか…時間を取らせて悪かったな。まぁ気が向いたらいつでも言ってくれ。その時は歓迎するぜ神島。」
そう言って橋本は私の肩をポンと叩き、先に生徒玄関に入って行った。私もその後に続き、靴を上履きに履き替える為に下駄箱へ向かう。
教室に着くと、多くの生徒が席に座ってポイントについて話していた。イレギュラーが発生しているからか、皆の顔は少し不安そうに見える。
私も席に座り、ホームルームを始まるまでポイントについて考えながら待つ事にした。そして数分後、予鈴が鳴り真嶋が大きなポスターを持って教室にやって来た。
「おはよう。全員揃っているようだな。では今からホームルームを始める。まず最初に君達に伝えなければならない事がある。」
伝えなければならない事って、ポイントが支給されていない事についてかな?
真嶋はそう言いポスターに磁石を付けて黒板に貼り付けた。
────────
Aクラス→1020
Bクラス→700
Cクラス→540
Dクラス→50
────────
「クラスポイントに変動は無いが、現在この学年では学校からのプライベートポイントの支給が停止されている。」
私の読み通り、プライベートポイントが支給されていない事に関する説明の様だ。
「今回の停止理由は、クラス間によるトラブルが発生したからだ。トラブルが解決次第、プライベートポイントは支給されるので安心して欲しい。又、トラブル解決後、一部のクラスのクラスポイントが変動する可能性があるので、それも先に伝えておく。トラブルは数日後に行われる審議会で審議されるので、それまではポイントの支給が行われないと考えて欲しい。」
真嶋の発言から、Aクラスがトラブルの渦中にいるわけではなさそうだが、いつ飛び火してくるか分からないので警戒はしておいた方が良さそうだ。
しかし、クラス間でのトラブルとは、具体的にどのようなものなのだろうか。いじめでも起きたのだろうか。そんな疑問が頭の中をぐるぐると回り始める。
その後、期末テストに関する変更が伝えられ、ホームルームは終了した。
「クラス間のトラブル…ねぇ?一体どんなトラブルなんだろう。」
私がそう呟くと、前の席に座っていた葛城が口を開いた。
「朝、Dクラスの前を通った時、Dクラスの須藤という生徒を中心に、深刻な顔で何かを話していたのを見た。もしかしたら、Dクラスが関わっているのかもしれないな。」
「須藤…Dクラス…深刻そうな顔。」
このキーワードを聞いた時、私は何かを忘れているような、何かを見落としているような、そんな気がしたのである。
「まあ、そうだとしても私達には関係無いでしょう。」
後ろから聞きなれた冷めた声が聞こえたので振り返ると、藍と美紀が化学の教科書を持って立っていた。ちなみに今発言をしたのは藍である。
藍の発言に葛城は「それもそうだな。」と返し、次の授業の準備をし始めた。確か次の授業は化学だったはずだ。
「次は移動教室ですよ。早く行きましょう。」
「あ、そうだったね。少し遠いし、早めに行こうか。」
藍の言葉に頷き、私達は三人で化学室に向かった。
そして、午前中の授業が終了し昼休みになった。今日は手作りのお弁当を持ってきているので、教室で昼食を食べる。近くの席を借りてくっつけ、藍と美紀と三人でお弁当を食べる事にした。
「相変わらず、美香のお弁当は美味しそうですね。全て手作りなんでしょう?」
藍が無表情で私のお弁当を褒めると、美紀も彼女の言葉に小さく頷き同意を示した。
「まあ、サラダ以外は手作りだよ。といっても、前日の夜にだいたい作ってしまうから、大変ではないんだよね。」
今日のメニューは、豚キムチチャーハン、サラダ(スーパーで買った物)、青のりの卵焼き、ウインナー、ベーコンのポテト巻、ミニトマトと冷凍ブロッコリーを添えたものである。彩りも綺麗で、しかも美味しいものばかり。最高の弁当である。
豚キムチチャーハンは昨日の余り、卵焼きとウインナー、ベーコンのポテト巻は朝フライパンで焼いた。ブロッコリーはレンチンして軽くフライパンで炒め、ミニトマトはそのまま弁当に入れた。
未来機関にいた頃は、便利な冷凍食品なんて物は存在しなかった為、弁当を作る場合全て手作りで行わなければならない。その時の癖が抜けておらず、滅多に冷凍食品は使わない。強いて言えば冷凍ブロッコリーくらいである。
「美味しそうですね。私のお弁当は基本的に冷凍食品を使っているので、毎日手作り弁当を食べられるのは少し羨ましいです。特にキムチチャーハン、とても良い匂いがします。」
藍はそう言って豚キムチチャーハンをじっと見つめる。
「…私も藍ちゃんと同じで、冷凍食品ばかりを使っているので、美香ちゃんは凄いと思います。美香ちゃんのお弁当はいつも凄く美味しそうですよね。」
美紀も私の手作り弁当を誉め、美味しそうだと言った。他人から褒められるのは少しむず痒いが、習慣化されているとはいえ、今まで毎日手作りしてきたお弁当を褒められるのは、自分の頑張りを認めて貰えている様な気がして少し嬉しい。
「そう言って貰えると嬉しいよ。良かったら、一口食べる?キムチチャーハン。」
「良いんですか?!」
藍が瞳をキラキラと輝かせて私を見つめる。私は彼女の言葉に頷き、まだ手を付けていないお弁当箱を彼女の方に近付けた。
「まだ手を付けてないし、一口食べてみて。良かったら、美紀ちゃんも一口どう?」
美紀にもキムチチャーハンを勧めると、彼女は黙って数秒考えてから口を開いた。
「…では、お言葉に甘えて一口だけお願いします。」
「うん、是非食べてみて。」
個人的にこのキムチチャーハンは美味しいと思っている。だからこそ他人にも食べて貰って評価が欲しいと思っていた。
藍と美紀が未使用の箸でキムチチャーハンを掴み、口に運ぶ。
「ピリカラで美味しいですね。」
「…うん、凄く美味しいです。」
どうやら二人は満足してくれたみたいだ。
そんなキャッキャウフフな昼食タイムを過ごしていると、中間テストの試験勉強を図書室でしていた時、騒いでいたDクラスの生徒を落ち着かせようとしていた、可愛らしい女子生徒…櫛田桔梗が教室にやって来た。
「失礼します。」
「櫛田さん?どうしたの?」
櫛田と仲の良いAクラスの女子生徒が彼女に尋ねる。
「実は、少しAクラスの皆さんにお話したい事があって。」
そう言い、彼女は教卓の前に立ってクラス内を一瞥してから話し始める。
「突然お邪魔してしまってすみません。実は今朝、各クラスにポイントが支給されていない理由については説明があったと思いますが、DクラスとCクラスの間で少しトラブルが発生してしまっているんです。」
葛城が朝言っていた話は事実だった様だ。
「実は、先月の終わり頃、ウチのクラスの須藤健君が、Cクラスの男子生徒三人…石崎君と小宮君と近藤君と特別棟の階段付近で言い争いになってしまったんです。そして、Cクラスは須藤君に暴力を振るわれたと主張して、Dクラスを訴えたのですが、須藤君の主張とは少し食い違っているみたいで。でも、Cクラスの生徒は軽傷ではあるけど怪我を負っているみたいなんです。特別棟には監視カメラが無かったので、現状証拠はありません。もし何か見ていたり、聞いていたり、知っている事があれば是非教えて欲しいと思っています。」
つまり、彼女は須藤の処分が軽くする為に、あるいは無実を証明する為に目撃情報を募る為にここへ来たという事の様だ。彼女の健気さ、優しさは素直に尊敬するが、特別棟なんて基本無人だ。目撃を募ったところで、得られるものがあるとは思えない。
「お話を聞いてくれてありがとうございました。何かあれば、私やDクラスの生徒に伝えてくれると嬉しいです。では、私はこれで失礼させて頂きます。」
そう言い、櫛田は一礼してから教室を出て行った。それから数秒の沈黙が続くが、一人の生徒が立ち上がり教室から出ていくと、Aクラスは何事も無かったかの様に話し声がし始めた。まるで、櫛田が来た事は無かった事にされたかのようである。
「…目撃情報、ねぇ?」
私がそう言うと、藍が口を開いた。
「確か、特別棟は一部の部活動の部室や資料室、二年次以降の授業で使う特殊教室が並んでいると聞いた事がありますね。部室棟の隣りなので、一部の文化部の生徒が通る事もあるかもしれませんが、それでも目撃情報を集めるのはかなり厳しいと思います。」
この学校は、本校舎、特別棟、部活棟の順番で並んでおり、基本的に多くの生徒は本校舎にしか出入りしない。特別棟に行くのは上級生か、一部の部活動の生徒、部活棟に部室がある生徒しかおらず、文化部では無い生徒はそもそも立ち入る事が無いのだ。
「須藤って文化部なの?」
私がそう尋ねると、美紀が首を横に振り否定した。
「…いいえ。須藤健は確かバスケ部だったはずです。ちなみに、Cクラスの石崎大地は無所属、小宮叶吾、近藤玲音はバスケ部に所属していると聞いた事があります。」
「という事は、バスケ部内でのいざこざに石崎がお節介を焼いたって事かな?だってバスケ部の須藤が騒ぎを起こしているし、無所属の人間が一人混じっているってのもそれなら説明が着く。」
私が自分の考えを二人に話すと、彼女達もこの考えに同意を示してくれた。
その後、お弁当を食べ終わり、何となくスマホを開くとインステグラムにフォローしているユーザーの投稿が行われたと通知が届いた。
インステグラムとは、写真に文字を添えて投稿する事が出来るSNSで、人気店のスイーツや今話題の新商品まで様々な写真が投稿されており、その投稿を見て私達女子高生は買い物をしたり、おしゃれの参考にしたりしている。つまりこのアプリは、世の女性のバイブル的な存在なのである。
「…あ、この壁紙イラスト可愛いなぁ。保存して、ホーム画面に使おうっと。」
私は画像をアルバムに保存し、スマホの本体設定のアプリを開いて、ホーム画面の画像を変更する。しかし、その時一つの録画が目に入った。
これって、確かこの前特別棟で須藤とCクラスの生徒がいい争いをしていた時の映像だよね?
…あれ?あれれれ?
私は気付いてしまったのだ。この映像が、今話題となっているトラブルの証拠映像だという事に。
いや、もしかしたら別の言い争いの映像なのかもしれないが、場所は特別棟の階段の踊り場だし、メンバーは櫛田が話していた生徒が揃っている。高確率でトラブルの証拠映像なのだろう。
「…」
私がこの証拠映像をどうするべきか考えていると、私の頭の中に何故か葛城の姿が浮かび上がってきた。
そういえば、葛城は生徒会入りをしたいと切望していたはず。しかし断られ、その夢はあっけなく散ってしまった。だがこの映像を審議会で提出し、正義感を示す事が出来れば、二つのクラスにダメージを与え、Aクラスのイメージアップにも繋がるのではないか。そして、葛城に更なる貸しを作る事が出来る。それはとても素晴らしい事だ。
私の持つ手札は現状100万プライベートポイントのみ。これだけあれば色々出来るが、ポイントで解決するという事は根本の問題を解決するには至らない。やはり、信頼や信用というものが必要な場面ではほぼ役に立たないと言える。そんな場面で必要なのは、自分を支持してくれる人間だ。それも、葛城や坂柳の様な権力を持つ者の支持が得られれば万々歳である。
「…決めた。」
私がそう呟くと、藍がすぐに尋ねる。
「…何をですか?」
私は彼女の言葉に少し考えてからこう言った。
「世渡り上手な人っているじゃない?彼等が何故世渡りが上手いと言われるのか、その理由はなんだと思う?」
私が質問を質問で返すと、藍は少し考えてから返事を返した。
「人間関係が円満なのは当然として、引き際を弁えていたり、落とし所を考えるのが上手い人ではないでしょうか?」
「確かにその考えは間違っていないと思う。そして、その人間関係の部分が重要だと思っているんだよね。」
人間関係の構築に成功すれば、低い立場であっても蔑ろにされる事は少ない。そして権力者に気に入られていれば、その他の有象無象から反感を買う可能性は限りなく低い。もし、クラス内で退学になりそうになった時、そういう強い味方が入れば退学を退ける事が出来るかもしれない。
私には、私を助けてくれる力のある人間が必要なんだ。
「私は今から、世渡り上手になろうと思うの。」
「…はい?」
藍が気の抜けたような声を零し、意味が分からないという様子でため息をついた。
私は席を立ち、葛城の元へ向かう。
「ねぇ、葛城君。取り引きしない?」
私が葛城の元へ向かい、そう言った時クラス内の温度が少し下がった気がした。
「な、何言っているんだ?神島。葛城さん、こんな意味わからない事相手にする必要は無いですよ。」
以前勉強を教えてあげた私に酷い事を言う戸塚を無視して、私は葛城の返事を待つ。数秒後、葛城はこう言った。
「場所を変えよう。空き教室に行こう。」
「分かったよ。」
私は葛城の提案を受け入れ、彼と共に教室を出て空き教室に向かった。
「さて、ここなら誰もいないだろう。取り引きの内容と目的を教えて貰えるか?」
「うん、分かった。時間もないしサクサク行こうか。須藤の起こした暴力事件に関する証拠を私は持っているけど、私ではこの証拠を上手く活用して何かを得る事は出来ない。CクラスやDクラスと取引をして渡しても良いけど、Dクラスはポイントを持っていないし、Cクラスに渡して、Dクラスからクラスポイントを奪って上に上がってこられてもクラスとしては困るよね。」
私がそう言うと、葛城は鋭い質問を投げ掛けてきた。
「そこでどうして俺の名前が出てくるんだ?他クラスとの取引が嫌ならば、それこそ坂柳にでも渡して、上手く活用して貰えば良いだろう。俺と取り引きをしたいという事なら、お前が俺に求める事だってあるはずだ。それは一体なんなんだ?」
「私が君に求める事は、派閥関係なく私の立場の保証をして欲しい。つまり、クラス内でそれなりの地位を作れるよう協力して欲しいってこと。」
私は幸運なので、危険に陥る事は無いがそれは前世の話だ。今世の幸運のタイプは自分の望みが叶うような、自分が幸せになるようなものだ。不幸に陥る可能性は低いが、前世と比べて100パーセントの保証は無い。
この前の部活では、笹山に追い詰められ、一位を逃しかけてしまった。何とか私の幸運が発動して助かったが、あの時私は自分の幸運を少しだけ信じられなくなっていた。崖っぷちに立たされたような恐怖を感じていた。
あの時、何となく幸運が発動しないんじゃないかって不安を感じていたんだよね。こんな事初めてだったから、正直参ったよ。
幸運が発動しない可能性を考慮して、これからは様々な事をそれなりに努力し、実力をつけなければいけない。
そして万が一の時に助けて貰えるような存在も必要だ。Aクラス内の権力者は葛城と坂柳の二人だ。坂柳は確かに優秀だし、気に入られている自覚はあるが、彼女は容赦なく人を切捨ててしまえる様な冷酷さがある。なので、助けを求めるのであれば真面目で義理堅い葛城の方が適している。
「それに、これを審議会に提出して正義感でも出せば流石に生徒会入り出来るんじゃないかな?一之瀬さんが南雲副会長の推薦を得られたのであれば、葛城君だって推薦を得られるかもしれないよね。」
私がそう言うと、目を見開き驚いていた。
「神島は南雲先輩と知り合いだったのか?一之瀬が生徒会入りした事は有名だが、何故生徒会に入れたのかを知っている者は少ないはずだ。」
「まあ、ちょっとね。私はボードゲーム部に所属しているんだけど、そこの部長と部員が南雲副会長のクラスメイトなんだ。だから部活関係で知り合ったの。」
「そうなのか…しかし、俺は神島に借りがある。」
中間試験前に過去問を渡した時には、彼は何も疑わず私の提案を受け入れていた。しかし、今ではきちんと私の提案の裏に隠されたものを考えている。これは大きな成長だ。
「その借りは別件扱いだからね。まあ、今回の事を気にしているのであれば、ポイントでも支払って私から買ってくれても良いよ。」
私がそう言うと、葛城はすぐに頷き口を開いた。
「分かった。その証拠映像は俺が買い取ろう。そして、何か起きれば出来る範囲で、お前の助けになろう。」
「じゃあ、その言葉絶対に忘れないでね。私は信じているからね、葛城君。」
私達は念の為契約書を作成し、それを真嶋に見せ立会人になって貰った。そして私は葛城に15万プライベートポイントで証拠映像を売り、葛城は私に15万プライベートポイントを支払った。
私は、現在121万8652プライベートポイントを持っている。それに今得たプライベートポイントが足されて、136万8652プライベートポイントとなった。
少しずつポイントは増えており、もしかしたら3年間の間で2000万プライベートポイントを貯めるのも夢じゃないかもしれない。
「じゃあ私は教室に戻るよ。期待しているからね、葛城君。」
「分かった。今回の事については感謝する、神島。」
葛城の感謝の言葉を背に、私は手を振りながらその場を離れて教室に戻った。
◇◇◇
「どういう事ですか?橋本君。」
神島と葛城が去ったAクラスの教室にて、坂柳は橋本に状況報告を受けていた。
「姫さんがいない間、Dクラスの櫛田桔梗がやってきて今起きているトラブルについて説明し、目撃情報を募っていました。そしてその後、神島や山村、森下はそのトラブルについて話しながら昼食を行っていましたが、突然神島が神妙な顔で立ち上がり葛城に『取り引き』を持ち掛けたんです。もしかしたら、今回のトラブルに関係しているのかもしれません。」
「なるほど、そういう事でしたか。」
神島は自分に勝った数少ない存在だが、彼女は少し不気味に感じる。あまりにも運が良すぎるのだ。そんな彼女がもし天に選ばれたような幸運の持ち主であれば、葛城派に入られたらかなり苦しい戦いを強いられる事になってしまう。
坂柳は神島が葛城派に入る事を恐れていたのだ。
だから橋本の報告を受け、坂柳は神島が葛城派に入ったのではないかと不安に思っていた。しさし、橋本から詳しい状況説明を受けると、どうやらその予想は違うという事に気付いた。
坂柳は今回のトラブルについては、鬼頭から報告を受けていたので朝の段階で知っていた。しかし、そのトラブルに神島が関係しているなんて事は知らず、状況を全ては把握出来ていない。だからこそ、彼女が関わっているのであれば知りたいと思っていた。
「…そうですね、橋本君。神島さんについての情報を集めて頂けますか?少し気になる事もありますし、出来ればこの学校に来る前の事についても調べられるだけで構いません。調査をお願いします。」
「分かりました、姫さんの頼みとあれば従いましょう。」
橋本は騎士のように一礼し、坂柳の頼みを了承した。そして彼は「席に戻ります」と言い、その場を離れた。
そんな一部始終を隣で見ていた神室は嫌な予感がして、離れようとする。
「どこに行くつもりですか?神室さん。」
しかし、そんな行動は坂柳にはお見通しだった。彼女は逃がさないと言わんばかりの目で神室を見つめた。
「…どこでも良いでしょ。」
「うふふ、ええ、どこへなりとも行って下さって構いません。しかし、貴方にもお願いがあるのです。聞いてくれますよね?」
神室は坂柳に万引きという弱みを握られており、彼女に仕方なく付き従っていた。そして、橋本に面倒な頼み事をしたのであれば、自分にも同じ様に命令が下されるはず。そう考えてその場を離れようとしたが、無駄な抵抗に終わってしまった。
神室は観念したように、坂柳と向き合い彼女の言葉を待つ。
「神島さんの交友関係を洗ってください。良いですね?神室さん。」
「…分かったわ。やれば良いんでしょう。」
有無を言わさない様な圧に屈し、神室は彼女の命令に従う事になった。そして、不敵に笑う坂柳を見て、神室は溜息をつきながら席に戻った。
「神島さん、あなたは予測不能な人ですね。」
坂柳のそんな呟きは、誰の耳にも入る事なくクラス内の賑やかな雰囲気に消えていった。
皆さん、大変おまたせしてしまって申し訳ありません。
今回の作品は、次話に続く繋ぎではありますが、少し今後の伏線のようなものが入っていたりします。
そして、主人公の幸運の能力に関する疑問についても触れているので、前回の話と読み比べてみても面白いと思います。
個人的に須藤暴力事件に関して、原作でAクラスは関与していない為、出来るだけ主人公の介入は押えたいと思っていました。
なので、龍園やCクラスと取り引きしたり、Dクラスと協力したりという展開は辞めて、あくまで自分のクラスの為に自分のクラスの生徒と協力するという流れを作ってみました。
二次創作の作品では、龍園と契約してポイントを得るものが多いので、今回の話ではAクラス主人公という立場を弁えて、行動させたかったというのもあります。
最後の坂柳派視点の話については、坂柳視点の話とは別に付け加えたものです。
現状、Aクラス主人公の物語なのに、Aクラスの情勢がほとんど出ていないので、坂柳のスタンスについて知って貰えればと思って、今回の話に入れました。
主人公的に、前回笹山に追い詰められたという事実は結構引きずっているので、これが今後どう響いてくるのか。それにも注目していただけたら、と思っています。
神室ちゃんが入学式以降、ようやく喋りましたね。
本当はもっと早く関わらせようと思っていたのですが、良い機会が思い付かずここまで引っ張てしまいました。
こんなところで後書きを終わろうと思います。
明日も少し投稿が遅くなってしまうかと思いますが、どうかご理解頂ければと思います。
無人島試験時で主人公はどの派閥に入る?
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坂柳派(女王様こそ世界一)
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葛城派(葛城さんこそ世界一)
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神島派?(森下と推定山村が加入)