転生TS天使ちゃんは怠けたい   作:テチス

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終戦

 

 

 光線魔法、爆裂魔法。氷に雷に炎風土の属性群。さらには剣と槌と弓、はては大量の銃火器まで持ち出して。

 様々な武器と魔法が交差する戦場をサラフィエルは駆け抜ける。

 

 雑兵に興味はなかった。

 低級悪魔では女神が施した、神の防護を抜けるはずもない。爵位持ちの悪魔ですら苦労する。

 

 ここは歴史上初めて、神が天使に味方した戦場だ。

 

 故に、この戦争に"敗北"はありえない。問題は、どれだけパーフェクトゲームに近づけるかということだけ。

 天使から死者が出れば、それは事実上の大敗北。僅かな怪我だって許されない。そのためには大物を大物で受け持つのが最適解。

 

 女神様をこれ以上、悲しませる訳にはいかないと。

 サラフィエルは、アルマロスとガブリエルの二人を引き連れて、森の上空を猛スピードで飛び回る。

 

「このままだと東側が少し押されそう。あれは私の部下達だから、私が入る」

 

 敵探しのついでに戦況を把握していたガブリエルがそう言った。

 

「魔力の残滓を見る限り、ここには『色欲』と『嫉妬』だけみたいですね。ならサラフィエルさんと私が大物担当、ガブリエルさんは戦線のカバー。いいんじゃないですか?」

「中央と西側はどうだ。そちらに応援は必要か?」

「要らない。東の全戦力を他に振る……東は、私一人で十分だから」

 

 ガブリエルはそういうと、編隊から抜けて東の戦線に飛び込んだ。

 

「――聞きなさい、天啓を授けます」

 

 悪魔の群れに"天罰"を落しながら参戦。

 幾条もの瞬くような光線が空を裂いて降り注ぎ、着弾した大地が割れる。悪魔の絶叫が木霊した。

 

「……殺してないだろうな?」

「さあー? でも、ガブリエルさんも乗ってきたみたいですねぇ。いいことなのです」

 

 ガブリエルの参戦により、東の戦線で天使の大移動が起きる。

 多くの天使たちは、全ての身体機能を戦闘能力に振り切っているため無表情となっているが、心なしか怯えているようだった。

 チラチラと後方を見ながら――参戦したガブリエルの様子を見ながら――戦線の再構築。それはまるで、ガブリエルから逃げる様な動きに見えた。

 

「ま……まあ、歴戦の熾天使の参戦だからな。あいつにこの戦場は狭すぎるし、同士討ちの警戒も必要だな、うむ」

「いえあれは皆、単純にガブリエルを怖がってるだけなのです。いうなれば、いままで優しかった上司が突然、殺人鬼に変貌したような……」

「変な事を言うんじゃない! アイツも女神様の命令を分かっているから、悪魔だろうと殺してない……はずだ! たぶん!」

 

 東から、中央へ。西へと流れ込んだ大量の天使は、時間を経るごとに戦線を押し上げていく。

 

 時折、爵位級の中でも上位の悪魔に攻撃を貰って負傷する天使が出たが、それはすぐに仲間が抱えて下がらせていった。

 

 思ったよりも良い連携だ。きちんとスリーマンセル以上のチームを組んで孤立することなく戦っている。まるで非常事態を――戦闘行為を想定していたような動き。

 少なくとも事務仕事ばかりやっていた天使の働きではない。

 

「……アイツもちゃんと考えていたという事か。最後の女神を失わない様に、いざという時の対応を想定してた」

 

 天軍が無くなって、戦う天使がいなくなり。自分だけが最後の砦だと勝手に思ってた。だけど違ったのだ。

 

『サラフィエルは何時まで戦争気分なの? いい加減、認識を改めたら? 天軍はもう解散。みんな別の仕事を始めたよ』

 

 そんな事を言って、袂を分かつことになった最後の同僚――ガブリエルはとっくに前を向いて生きていた。現実を見据えて、生きていた。

 昔であれば、そんな彼女を羨ましく思っただろうが。不思議と今のサラフィエルには不快に思えなかった。

 

「救護チームにラファエルが到着したようです。また、他の大罪悪魔への牽制も兼ねて、魔界にはミカエルが単身突入しました。……勝ちましたね」

「ドリームチームだな。こんな局所戦に、天界のほぼ全戦力が参戦したのか」

「そりゃ女神無き天界なんて、存在する価値も無し。いま我等が全力で護るは、女神様が居られるこの戦場――この山脈ただ一つなのですから、そうもなりますよ」

 

 ならこの周辺が戦後も残ってるといいな。

 サラフィエルは周囲で連発する大規模魔法を見て、でも無理だろうなと確信した。

 

 もともと、現代の人間界は天使の統治下にあり、悪魔には住みづらい環境だ。滞在するだけでも力を浪費するのに、今はこの戦場に女神が更なる結界を敷いている。

 

 天地を覆う蒼い魔法式は、願いの結晶。

 みんなが無事でありますようにと。悪魔の力を削いで、天使に力を与える神の奇跡。もはやここで戦死するのは、生まれたての新兵だろうと困難だ。

 

「これが神の力か……なんだか、安心、するな……」

「ええ、そうですよねぇ! サラフィエルさんも分かりますか!? 全身を女神様に包み込まれる感覚、スゴイいのです! 興奮するのです!」

「はは、なんだその言い方は。あまり滾るなよ。戦況を見誤るぞ」

 

 戦いに興奮して来たというアルマロスを窘めながら、サラフィエルは上空から周囲を見回した。

 その時――1人の小さな悪魔が直下から奇襲を仕掛けてきた。

 

「熾天使ぃ!! アンタさっきは、良くもやってくれたわね! 今度は私が殺してやるわァ!」

「……ふん『嫉妬』か。何だお前、まだ彼我の戦力差を分かって無かったのか」

 

 長く伸びた爪で突き刺そうとしてくる貫手を、余裕をもって回避。

 隙だらけの足が目の前に来たので、掴んで地面に投げ返す。

 

「アルマロス、どうやら私の相手はこのガキになりそうだ。『色欲』の相手は口惜しいがくれてやる。……負けるなよ」

「はいはーい。智天使さんを舐めるな、ですよ~。アイツには馬鹿な事した落とし前、しっかり付けてもらうのです」

 

 意気揚々と嬉しそうな表情で飛び去って行くアルマロス。

 それを見送ってからサラフィエルは、やっと『嫉妬』の方を向く。彼女は地面で受け身を取った状態で憎々し気に睨みつけていた。

 

「ふざけやがって、ふざけやがって……! どいつもこいつも、私を見下して! 何よ! そんなに余裕ぶって! すぐにぶち殺してやるんだから!」

「お前、見苦しいな。本当に『嫉妬』か? 憤怒の間違いだろう」

「黙れェええ!!」

 

 小さな赤い影と、大きな影が交差する。

 

 小さな影が二つに別たれて、崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

「あーやっと見つけた、こんな所に居たのですかアスモデウス。また逃げる準備ですか?」

 

 私が巨木の麓で、魔界への逃走経路を開く準備をしていた時。アルマロスがやってきた。

 胡散臭いを笑みを携えて、一歩ずつ、ゆっくりと歩み寄ってくる。

 

「なんてことを仕出かしてくれるのですか。全然、聞いてた話と違う。ふざけてるのですか? それとも私を騙してくれましたか、アスモデウスの分際で?」

 

「く、来るんじゃないわ! それ以上近寄ったら、死ぬわよ! ――私が!」

「うわ、なんて意味不明な脅し文句。でも、やられたら地味に困るので止めて欲しいのですよ……」

 

 自分の喉元にナイフを突き立てて、アルマロスに交渉を持ち掛ける。

 

 これは命を掛けた報復だ。

 私が死ぬという事は、私の技能(フィート)――『呪われし体躯』が本領を発揮するという事。

 身命の全てを代償にアルマロスに呪いを掛けてやる。そして、私は魔界で復活。どうだ、逃亡と報復を兼ねた完璧な理論じゃないか! 

 それを自信満々にアルマロスに言ってやると、彼女はつまらなそうに息を吐いた。

 

「あー……なんだ、そっちかぁ。そんなちゃちな呪いなんてどうでもいいのですよ」

「どうでもいい!? 私の左腕だけで、完封された奴の言うこととは思えないわねぇ! この首は死の呪い! どうせ私が死ぬなら、アンタだって道連れよ!」

 

「ふむ? ふむふむ、アスモデウスはまだ"世界の理"を知らぬと見えますね。まあ、時代遅れの魔界じゃあ、無知でも仕方ないか」

「っ、なによ。……何が言いたいのよ!」

 

 優越に浸った顔のアルマロスが腹立たしい。

 こんな完封負けみたいな戦争が勃発して、私のストレスは限界ギリギリだ。失って回復しない左腕が疼く気がした。

 

「世界とは釣り合いを求めるもの。定められた運命を超えて何かを得るには、何かを犠牲にしなくてはならない。さて、ではそんな世界が与えた貴方の技能(フィート)は、有利しかない等価交換なんて認めてくれるのですか?」

 

「……っ」

 

「貴方は命を対価にする? いいや、それは対価になっていない。むしろ魔界で再誕するなら、逃亡ができて左腕だって回復するでしょう。貴方には利しかない。等価交換の呪いが発動すればいいですね?」

「……ダメね。そこまで読まれてちゃ、脅しはできないわね」

 

 自分の能力だ。

 人に説明されるでもなく理解していた。ただあわよくばと言ってみたのだが、やはりコイツには通じない。

 だけど首元からナイフは離さない。自殺することには変わりないのだ。

 

「なら私は、ここで逃げさせてもらう事にするわ。もうこんな壊滅間近の戦場に用はない。さよならよ」

「うーん……それが一番困る。私は女神様に褒められたいのですよ。アスモデウスを捕縛して、よくやったって。頭を撫でて欲しいのです。だから……取引しましょう? ()()()()()

 

 本当の名前を呼ばれて、思わず手が止まった。

 その隙をついて、こいつは急接近。私の右手を掴むと、捻り上げて地面に押し倒してきた。

 

「っく! しまった、卑怯者!」

「おやおや~、()()()使()()()()()()()()に、負けちゃいましたねぇ。アスモデウスさん、弱~い」

 

「アンタ、さては根に持つタイプね……! なにが、魔法も使えない、よ! めちゃめちゃ身体機能上がってるじゃない! 強化魔法でしょ卑怯者!」

「いいえ、これは女神様の御力なのですよ。今もこうして身体中に女神様の魔力が巡る。私の全てを彼女色に染め上げる。ああ――満たされるぅ!」

 

 光輪をぎゅんぎゅん回して、周辺の魔力――女神の加護――を吸い上げるアスモデウスは恍惚としていた。

 しかし大気中の魔力を無差別に吸うということは、戦場にいる見も知れぬ悪魔や天使が放った魔法の残滓――残留魔力――も同時に取り入れることであり、人間的に表現すれば大乱交さながらの異常行為になるのだが……この変態には言っても仕方ない。

 

 私は冷めた表情で聞いてみる。

 

「それで、アンタはどうするのよ。私を捕らえて……なに、記憶でも消して本物のアスモデウスとして処分する気? それとも口もきけない状態にして、天界に捕虜として連れていく?」

「だから言ってるじゃないですか、取引しましょうよ――()()()()()

 

 にんまりと笑みを浮かべるアルマロスの顔をみて、私は背筋が凍り付いた。

 

「っ……イヤよ! アンタなんかとは、二度と取引しないわ! そうやって私の身体を奪い取った時のように、また騙す気なんでしょう!?」

 

 今から数百年前の事。

 堕天が始まって怯える私に、突然現れた悪魔のコイツは言ったのだ。

 

『その羽、白いままでいさせてあげましょうか? アルマロスさんの体の堕天を止めてあげましょう。天界に居させてあげるのです。――ただし、私が欲しいモノを先に一つだけ頂きます』

 

 今思い出してもはらわたが煮えくり返る。

 あんな甘言には二度と惑わされない!

 

「アンタ怒ってるんでしょう! 私がこんなに騒ぎを大きくして! 戦争を起こして……私は、なにも悪くないのに!」

「いえいえ、これでも私は感謝してるのですよ。私の有能さを女神様にアピールできた。なんとなく用意してみた日本政府の傀儡も、便利に使えて気分がいい。だからこれは双方win-winの取引です」

 

「嘘!」

 

「ほんとうですよぅ。私はこれでも、昔に比べて丸くなったのです。あの時のように女神様と触れ合えずにピリピリしていた私じゃない。次は、本当に貴方もwinなのです」

 

「嘘よ!」

 

「死なずに済みますよ。なんなら、天界に戻れるように便宜だって図ってあげましょう。貴方の堕天は中途半端で、心が悪魔に染まり切ったわけでもない。天界が恋しかったのでしょう? だから和平を望んだ、そうでしょう? ええ、ええ。手伝いますとも」

 

「嘘嘘! 全部、嘘!」

 

 もう何も聞きたくないと、首を振って抵抗。

 だけど、アルマロスは私の頬を抑えつけて、上から瞳を覗き込んできた。

 

「じゃあ、このまま戦争を再開しますか? 天界と魔界の全面戦争は、貴方だって嫌でしょう? 一生逃げ続ける生活。安寧なんて二度と訪れない。辛いですよぉ? だけど貴方が頷けば、これはただの悲しい()()()()による武力衝突で終われます。他でもない。私がそうさせます」

「……っ」

 

 アルマロスの欲望でどろどろに澱んだ瞳に吸い込まれる様で、恐怖と諦観に支配される。

 これまでずっとコイツに支配されてきた私では耐えられない。

 もう無理だった。私は力なく、頷くしかなかった。

 

「ごめ、ん、なさい……助けて、ください……」

「いやー、よかったよかった! じゃあちょっと演技する必要があるので、ひとつ魔法を掛けますよ。抵抗しないでくださいね」

 

 再び、コイツと契約を結ぶ。

 

 対価は私の身の安全と、天界への帰還の援助。

 代償は、私が今だけ抵抗しない事。それも女神たちを騙すのに必要だから、()()()使()()()()()()()()をひとつ掛けるという内容。

 

 そんな契約を結んだ後。

 コイツは私の首を何度も撫でると、呟いた。

 

「神専魔法――魂縛呪殺の陣」

「……は?」

 

 ちょ、ちょっと待ってよ。オカシイじゃない!! なんで神専魔法を使うのよ!? それも絶対の隷属魔法!

 

 神の魔法は、普通の魔法とは一線を画す存在だ。

 この戦場を覆う女神の加護のように。数多の上位悪魔が束になっても叶わない圧倒的な武。庇護がその証明。

 どうせ魔法の一つくらい大丈夫――たとえ騙されていたとしても、()()()使()()()()()()()()なら後からどうとでもなる。そう思っていた私の頭が真っ白になった。

 

「はい終わり。これで、貴方は名実ともに私の奴隷です」

「あ……あはっは……アハハ!」

 

「いやぁ、簡単簡単。だって、誰だって"本"を読めれば使えちゃいますからね、すごーい簡単! はい。今後とも、末永くよろしくお願いしますね~」

「アハハハハハッ――!!」

 

 もう、お終いだ。

 私はまた騙されちゃったんだ……。

 

「いや、騙してないですって。貴方を含めたハッピーエンドには、本当にこれが必要なんですって。それに約束もちゃんと守りますよ……? なにも、そんな悲しまなくてもいいじゃないですか……どんだけ私は信用無いんですか」

 

 なんかアルマロスが言っていた。

 信用なんかある訳ないだろ、ばーか! ばーか!

 

 

 

 

 

 

「こちら、フランス産フォアグラのテリーヌトリュフとブッフサレリ・ド・ヴォとレンズ豆のガトー仕立てになります」

 

 うまい、うまい。

 

「オマールブルーのグリエ、野菜添え。刺激的なアイオリ・ソース和えをご賞味ください」

 

 うまい、うまい。

 

「そして、こちら――」

 

 醜悪なゴブリンのような見た目の悪魔。ウコバクと名乗った彼は、次々と部下の悪魔に料理を運ばせて持って来た。

 

 最初は悪魔の作ったものなんか食えるかと拒否したが、美味しそうな匂いに負けて一度味わったら、病みつきだ。

 訳の分からん料理名を言われても、理解できんが、とにかくうまい。

 

 もっと、もっと、と。

 俺はウコバクに更なる追加を要求する。彼は苦笑いを浮かべて応じてくれた。

 

 思えば、こんなに美味しい料理を食べるなんて天使になって初めてだった。

 天界に料理はないし、仕事で人間界に降りた時も金が無かった――なんと天使には給料が無い!――から何も食べれなかった。

 ショーウィンドウごしに涎を垂らして、食品サンプルを見てるのがせいぜいだった。道行く子供に「なにあれー」と指さされた時だってあった。

 

 それが今。本物の美食が俺の目の前に並んでる!

 人間時代にも食べた事ない料理の数々。俺はうるうると目元に涙を堪えながら、感動を味わった。

 

「ねえねえ、ボクもー! ボクも食べたいー!」

 

 クロが反復横跳びしながらアピールしてくるが、ダメダメ。

 これは俺のだからねー! なぜかアスモデウスが、俺にくれたんだからねー! 分けてあげなーい!

 きっと、薬が過剰に効きすぎたお詫びだろう。うーん……許した!

 

「うっわ……強欲、だなぁ主。そんなに一杯食べたら暴食もついてくるんじゃない? 天使失格だよ……ほら羽、少しずつ黒くなってるし」

 

 クロがドン引きして、ぼそぼそと何か言ったが聞こえません。

 というか――爆音が外から連続して轟き出したから、まじで全然聞こえなくなった。地震のような大きな揺れも生じる。

 

「なに? なにごと……? あ……あー私のご飯が……ひっくり返った……かなしみ」

「ふんっ、知らないよ! それもどうせ、ボクには関係ないもんね!」

「拗ねないでよ。ごめんね、私、お腹空いてたから」

「ボクだってお腹空いてるんだよ!? 一人で満喫するな! 主はさっさと飼い主の責務を果たせよー! 血を寄越せー!」

 

 うーん……そう言われても。なに、クロも今すぐ食べたいの?

 いや、そうか。最近はずっと女神様たちと一緒だから、この機会を逃すと、クロにご飯を上げるタイミングが無くなるのか。

 

 ……しかたない。じゃあ"アレ"するしかないか。

 ポケットから軍用ナイフを取り出して、サッと手首を斬ってクロに差し出した。

 

「うわーい。ゴハンだぁ!」

 

 美少女のリストカット手首をペロペロと舐める黒猫。絵面は最悪だ。

 こんなの絶対、女神様に見せられないよ!

 

「戦いでしょうか……少し、あっしは様子を確認して参りやす。ここが一番安全ですのでお客様は暫くここで待機をお願いしやす」

 

 断続する地鳴りのような揺れと轟音。

 ウコバクさんは、鳴り止まぬ爆音に業を煮やしたのか、外の様子を見てくると言って小屋を出た。

 その際に、零れた料理や食器を指パッチンでアッというまに消し去って。俺の食べカスで汚れていた口元も、謎魔法で綺麗にしてくれるというサービス付き。なんという料理人の鑑。

 

 ……さて、じゃあ俺たちはどうしよう。

 

 チラッと山小屋の窓から外を見る。

 うーん、遠くで凄い数の天使が空を飛んでいる。んで、滅茶苦茶、この辺を爆撃していた。え……なんでぇ!?

 

 

 

「……音、止んだね」

「止んだねー」

 

「揺れ、収まったね」

「収まったねー」

 

 結局、状況が分からな過ぎて俺は動くに動けなかった。

 理由も分からぬ闘争の真っただ中に割って入るのは難しい。敵にも味方にも邪魔者扱いされかねないし、味方の作戦を妨害しかねない。

 

 かと言って避難も……する必要を感じなかった。この程度の爆撃、今の俺なら耐えられる。

 なぜか感じる女神様の力。俺を包み込む様に守ってくれているこの感覚。ここに居れば大丈夫。むしろ、ここを動く方が不味いと思ったのだ。

 

 そして小屋で待機しろと言われて、どれほど程待っただろうか。

 

 戦場を思わせる爆音は鳴り止んで辺りを静寂が支配する。

 あ、いや、クロがペロペロと俺の手首を舐め続ける水音だけ聞こえるか。

 

 こいつ、三回も四回もお代わり要求しやがって……おかげで俺の手首はもうボロボロです。傷跡が酷いから、女神様に見つかる前に治癒しないとなぁ。

 

 なんて思っていたら、突然、山小屋の扉が開け放たれた。

 

「ザラキエル! 大丈夫!?」

 

 女神様が心配そうな表情で駆けこんできた。

 そして俺の手首を見て、固まった。

 

 あ……やばいっ、クロのエサやり見られた!

 

 




あと2話で第二章終了と、一旦の完結予定
本日中に投稿します。次回は18時です
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