転生TS天使ちゃんは怠けたい   作:テチス

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蛇足編
おまけ 日常回


 

 

「私は、ニートではない」

 

 熾天使さんが仕事に行って、女神様も仕事に行って。

 挙句の果てにはクロまで「散歩行ってくるー」と居なくなった部屋で一人きり。

 俺は、自分自身と向き合っていた。

 

「学校に通わず、働きもせず、職業訓練も受けてない……だけど、私はニートではない」

 

 学校には通っていない――だって天界には学校が無いから。

 働いていない――だって働かなくても怒られないから。

 職業訓練も受けていない――俺の指導員の熾天使さんが、忙しくてそれどころじゃないから。つまり受けれてない。

 

 うーん……役満、かな?

 

「いや、それでも私はニートじゃない……!」

 

 ベッドの上でゴロゴロ転がって、現実逃避。

 布団に衝突。そのまま乗りあげる。あ……女神様のいい匂い。ふへぇ。

 

「ハっ! あぁ、また羽が……!?」

 

 ついつい一人きりになると、俺は変態行為をしてしまう。そして今日も堕天まっしぐら。

 あまり薬に頼り過ぎも良くないだろうから、頭を振って煩悩退散!

 

 チラッと背中を確認。……うーん、効果はいまいち。なかなか羽が真っ白に戻ってくれなかった。何度か心頭滅却してようやく復活。

 最近は欲に忠実な生活を送っているせいか、欲望が強くなりつつある気がする。いや……俺の理性が弱まっているのか? その両方ありそう。

 

 あの戦い以来、俺は女神様の部屋に籠りっぱなしで外に出ていない。何しても許されるし、めちゃめちゃに甘やかされている。

 ……さすがにヤバいかなと感じてきた。少しは外に出ないとキノコでも生えそうだ。精神衛生上にも、堕天的にもよろしくない。

 

 ふと思う。

 そういえば、俺は女神様に貰ってばかりで返せてないな、と。

 

 悪魔狩りでもできれば、皆への恩返しになるのだろうが……。

 俺の力は未だ弱いまま。まずは以前のような力を取り戻すところから必要だ。

 ……うーむ。恩返しか。難しい。

 

「相談、行こうかな。……でも誰に?」

 

 俺の交友関係は凄いぞ。驚くほど、狭い。

 相談しようにも知り合いがいない。

 

 えっと女神様、熾天使さん、智天使さん、アスモデウスさん。そして猫。

 

 以上! 片手で数えて、俺の友人メンバー終わり!

 ……終わってんのは俺の社交性の無さなんよなぁ。

 

 こんなの選択肢有って無いようなもんじゃん。

 図書館いこーっと。

 

 

 

「うわぁああ!! 間に合わない! 間に合わないですよ! アスモデウス! 早くベタを塗るのです! トーンも遅れて……寝てるんじゃないですよー!?」

 

 やって来た図書館では、鬼気迫る顔をした智天使さんが机に齧りついていた。

 

 『女神様LOVE』と書かれたクソダサい鉢巻をして、なんか漫画を描いている。

 その横ではいまだ左腕を失っているアスモデウスさんが、机に突っ伏して爆睡中。

 残った右手に筆ペンが握られていたが、今にも抜け落ちそう。それでも微妙に指を動かし続けている姿が哀愁を誘う。

 ああ……たぶん、夢の中でも働いているなアスモデウスさん。俺はこういうのに詳しいんだ……。

 

 周囲を見れば、没になった原稿があちこちに散乱して、図書館の受け付けがまるで売れない漫画家の部屋のような状態だ。

 

「なにやってるの? 智天使さん……」

「うわぁぁあ……あ? あれ、ザラキエルさんじゃないですか、どうしたのですか?」

「それは、たぶん私のセリフ。なんで図書館で漫画書いてるの……?」

 

「そりゃ決まってるじゃないですか。来週にはコミケがあるんですよ! 出品のためなのです! でも時間がぁ、無いのです!」

「……これを?」

 

 床から一枚、下書き段階で却下されたであろうモノを拾い上げて読んでみる。

 

 女神様が寝ている俺に悪戯をしちゃうようなエロ漫画だった。

 ……そう。エロ漫画である。

 俺に馬乗りになった女神様が、悪い笑みを浮かべて卑猥な言葉を吐いていた。

 思わず、破り捨てる。女神様はそんな事いわない。

 

「ああー! 私の努力の結晶が……って、なんだボツ案のやつですか。どうでもいいのです」

「女神様を汚さないで」

 

 次々、床の漫画を拾い上げては検閲していく。

 俺が女神様に甘えるエロ漫画。女神様が悪魔にヤラれるエロ漫画。逆に女神様が悪魔にエロい尋問する漫画。女神様が堕天して色んな天使とヤる漫画。

 

 おいおいおい。これはふざけてるのか……? エロ漫画ばっかじゃねぇか!

 

「い、いやいや。それ全部ボツ案ですからね。そんな殺気立たないでくださいよ。貧弱な私は死んじゃうのです」

「別に、今の私は弱いけど?」

「うーん。まあ、そうなんですけどねぇ。ザラキエルさんって、その気になったらなんでもやりそうで……私の予感が囁くのです、怒らせたらヤバいって」

 

 そんな事はどうでもいい!

 なぜお前はエロ漫画ばかり描いているんだ!?

 こんなの女神様が見たら、卒倒するぞ! 二度と癒えないトラウマになっちゃうぞ!

 

「だいじょーぶですって。女神様は、今は治療室で堕天抑制剤の開発に尽力中。こんなゴミ溜めには興味無いですって」

「……私の職場をゴミ溜め扱いは止めてよね」

 

 むくりと起き上がった半死人みたいなアスモデウスさんがそう言った。

 

「本は叡智の結晶よ。寿命の長すぎる天使や神では分からないでしょうけどね、後世に語り継ぐには知識を遺すのが一番良いの。ここはそのための場所なのよ」

「はーそうですかぁ。私は興味無いですからねぇ」

「……今はアンタが司書長でしょう。しっかりしなさいよ。本の管理だって、杜撰なモノだったのよ。分かってるの?」

 

 とてもじゃないが悪魔とは思えない知性ある発言のアスモデウスに比べて、クソ不真面目な智天使さん。もうお前、司書やめろ。

 まじで何でこの智天使が司書長やってるのか、天界七不思議に数えられそうだ。

 

 いや、まあ今はそんな事は置いておく。

 本当は女神様への恩返し方法を相談に来たのだが、それも置いておく。たぶんアルマロスのエロ漫画を検閲するのが一番の恩返しになりそうだ。

 

 そう思ってアルマロスの手元を覗き込むが、

 

「……あれ? 本原稿は、思ったよりも普通……?」

 

 俺と女神様の出会いを描いた漫画だった。

 悪魔を狩ることに愉しみを見出して、天使にあるまじき残虐性で堕天しつつある俺を女神様が厚生させようと心を砕く。親子愛を描いたハートフルストーリー。

 読んでいくと女神様の優しさと母性に感動を禁じ得ない。うーむ……良い。

 

 ただし、俺は戦闘狂ではない。

 

「嘘つかないで」

「え? 嘘がありましたか……? まあ、その辺はほら漫画ですから。大筋が合っていれば、後は演出なのですよ」

「私だって、こんな卑猥な服してないわよ。女神を性的に狙った事も無いし……なんで私が悪役なのよ!」

「だから演出演出。それにほら、最後は打ち負かされて女神の軍門に下りますから、ハッピーエンド!」

 

 でもまあエロ漫画よりはいいか。

 これなら良しとGOサインを出す。が、アルマロスは変なことを言い出した。

 

「この続編では、いきなり出てきた黒人キャラに女神様が犯されちゃうんですよ。皆が好きになった女神様を、突然惨めに汚す。良くないですか!? この展開!」

 

「それをやったら本当に殺す。必ず殺す」

「あ、あははは! イッツ、ジョーク! 私が敬愛する女神様に、漫画とは言えそんなことする筈ないじゃないですかー!」

 

 なら俺の目を見ろって。なあ、おい。

 アルマロスは数度、キョロキョロとした後、諦めたようにため息を吐いた。

 

「もー……アスモデウスといいザラキエルといい、私の描きたい内容を描かせてくれないんですから……」

「当たり前じゃない。そんなの発行しようとしたら、統制局の検閲に引っかかって重罪よ。私はまだ死にたくないの」

 

 聞けば、この床に散らばるボツ原稿の大半はアスモデウスさんが却下してくれたモノだという。

 なんだ最高のストッパーがいるじゃないか。さすがは智天使さんの恋人だ。しっかり者と、遊び人でバランスが取れている。

 まあ……悪魔と天使の立場がまるっきり逆な気がするけどね。

 

 

 

 

 

 

「え? 恩返しの方法、ですか……?」

 

 漫画のことはもう良いと俺の本題を聞いてみた。

 二人も休憩にしようとお茶を入れて、しっかり話を相談に乗ってくれるようす。

 原稿の締め切りはいいの? と思ったら休憩後に二人で3徹目に突入するらしい。アスモデウスさんが死んだような目をした。

 

「私はザラキエルが健康にいてくれることが女神への一番の恩返しだと思うけど? あの女神の様子を見る限り、ねぇ。アンタのこと大好きすぎでしょう」

「ううん……それじゃあ足りない気がする」

 

「なによ、それならアンタからも言葉にすればいいわ。『女神様、大好きだよ』って。親ならその一言を貰うだけで嬉しいものよ」

「うーん……」

 

 それはちょっと、恥ずかしい……。

 いや毎日おねだりして添い寝してる俺が言う事じゃないのだろうが……。

 

 アスモデウスが頬杖をついて、にやにやとした表情を向けてくる。若いなぁなんて言って笑う。

 一方のアルマロスは引き出しの中を漁って、謎のアイテムを取り出した。

 

「それなら、これをあげましょう」

 

 コトンとテーブルに置かれた、謎のピンクの液体。

 これまでのアルマロスの行動を見る限り、なんか嫌な予感しかしない。

 

「これは発情薬です」

 

 ほらー! やっぱりー!

 

「注意点は、これは魔法式薬剤なので薬効に発動トリガーが決まっている事ですね。発動条件は飲んだ後で『好きな人の顔を見る』こと。つまり女神様がザラキエルさんを心から好いていなければ、発動しないことになりますが……まあ大丈夫でしょう」

 

 いや……そんなこと説明されんでもいいんだが。

 絶対使わんし。

 

「……アンタをぶん殴る前に聞いてあげるわ。それをどうするつもり?」

「女神様の食事に盛るのです。そうすれば、あの時以来、奥手で手を出せなかった女神様がザラキエルに手を出せる! ザラキエルさんも好きな女神様とイチャイチャできる! そして私は二人の情交を覗き見できてwin-win-win! どうです最高の――!」

 

「――アンタが飲みなさい!!」

「がぼぼぼ!」

 

 怒り心頭のアスモデウスが智天使の口に薬瓶を突っ込んだ。

 アルマロスの顔がほんのり赤くなって、アスモデウスさんの顔から目が離れなくなる。……おや、これは。

 

「ふわぁー……あ、アスモデウスさん、ちょっと布団にいきましょう?」

「……はあ!? なんでよ!?」

 

 おっとっと。

 これ以上の長居はお邪魔になってしまいそう。

 

 俺そっちのけでイチャイチャし始めた二人を横目に、そっと図書館を抜け出す。直後に聞こえたアスモデウスさんの嬌声。

 うんうん。仲よき事は美しき哉。

 

 

 

 結局、日頃の恩返しは言葉になった。

 

 女神様いつもありがとう。大好きだよって。

 俺が赤面しながら伝えたら、女神様は嬉しそうな顔で「私もですよー!」って返してくれた。

 そして、いつもより二倍ぎゅっぎゅっと抱きしめてくれた。……よきかな~。

 

 

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