有機栽培茶様より
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あーーーー!!
すごい! すごい可愛いですよ、こいつぁ!
はい。
このファンアートを紹介したいがために、急いでもう1話おまけ作りました。
更新再開ではありません。ごめんなさい
イライラ、イライライラ。
最近のクロの気持ちを表現するならその言葉がふさわしい。
天界の要注意天使ザラキエルを主に据えた、魔界の孤高たるクロネコ悪魔(自称)それがクロだ。
思わず撫でくりまわしたくなるような毛並み、凛とした体躯は美術品のように美しい(自称)。
悪魔殺しを趣味にする主も思わず一目惚れしてペットにするほどの美猫(自称)それがクロ――のはずなのに。
最近の主はどこかがおかしい。
ぜんぜんクロに構ってくれない。
「働きたくないよぅ」とか、「植物の心のような人生を……」とか訳の分からないことをボヤいていた過去の主は良かった。
暇さえあればクロのお腹に顔を埋めて深呼吸していた。それを気色悪く感じつつも、求められるのは悪い気分ではなかった。
それがどうだ。最近の主は、忙しそうに仕事の準備ばかりしている。
「ねー、ねー。そんなのはいいからさぁ、ボクは散歩に行きたいんだけどー?」
「んー……行ってらっしゃい」
ザラキエルはクロの方も見ないで、そう言った。
なにやら手元の宝石――ネックレスのようなアクセサリーをガチャガチャと弄っている。それがまたクロの神経を逆撫でる。
「ボクは! 散歩に、行きたいの!!」
「ああ、私の秘密兵器とらないで」
怒り爆発。クロはザラキエルの手元からネックレスを奪い取った。口で咥えて放り投げようとして――できなかった。
肌で触れて感じた。宝石の禍々しさ。
まるで何百もの怨念が閉じ込められているような醜悪な気配にクロの口が震える。
宝石から見えない手が何本も飛び出して、クロの首に絡みついた。
「ひゃあ!? なにこれ、ナニコレー!? 取ってよ、主、これ取ってー!」
いますぐ放り捨てたい。なのに呪われた装備のように、ネックレスの鎖が体に巻き付いて離れない。思わず暴れまわるが余計に締め付けが強まった。
「もう、勝手に人の武器を触るから」
「こんなの武器じゃないよ!? ただの呪物じゃないかー!」
ザラキエルの手によって宝石がぺしっと叩かれた。そして大人しくなった宝石が回収されていく。
クロは恐怖により全身の毛が逆立ったまま、ぜぇぜぇと息を吐く。
「な、何だったんだよ今の……魔界の悪魔よりどす黒い気配を感じたぞぅ……」
「まだまだコイツは調教中。ダメだよクロ。呪われちゃうよ」
「天界にそんな厄いの持ち込まないでよ。主の家だけなんか空気も澱んでるし……はぁ~久しぶりに女神の部屋から出たと思ったら、こんな理由か。で、それはなんなの?」
「だから、武器」
「そうじゃなくて。宝石の中には、一体ナニが入ってるの!?」
「んー……過去に私が殺した中でも良さげな悪魔の魂とか? あのほら、でもご……でもごんごん……ああ、デモゴルゴンとか」
「とか?」
「あとはダンジョンで狩ったモンスターとか。あ、そうだ。この前はアルマロスさんに許可取って、図書館の本の残留思念も入れてみたよ」
「……宝石の中が混沌の坩堝になってそうだね。そりゃ厄い気配がする筈だ」
たぶん宝石の中は蟲毒状態。多数の害獣たちがひしめき合っている。
少なくとも、普通の武器じゃない。そんなばっちいもの、二度と触りたくないなぁとクロはぺろぺろ毛づくろい。
ちなみにアルマロスは
ザラキエルは指折り宝石の中身を教えてくれようとしたが、クロは聞きたくないとばかりに首を振る。
「いいや、そんな事は良いんだ。どうだっていいんだよ」
なにやらザラキエルが人間界で大騒ぎを起こしてから早数日。ザラキエルの忙しさは増してきた。
そのせいでクロに構ってくれなくなったのもあるが、クロがイライラしているのは、もう一つ理由がある。
「活躍した"ペット"ってなにさ。誰なんだよ。なにやら主はボク以外にもペットが居るらしいね」
「?」
「違うよ。そいつ等じゃない」
ザラキエルが不思議そうに宝石を指さしたが、ちゃうちゃう。
というかお前はそんなキモい物体と中身をペットとして扱うのか。美猫のボクと同列にするのか! そうクロは怒り出す。
「人間界で"ペット"を呼んだらしいじゃんか。それで、人間どもにザラキエルのペットで共通認識ができたとか?」
クロは怠けてばかりの駄猫だがプライドは人一倍高かった。
舐められるならサラフィエルという熾天使相手だろうがケンカするし、女神相手に
常にあるがままの自分でいる。やりたい事だけをやる。なにより主のことはまあ……キライじゃない。
ザラキエルの第一ペットであることにも自負がある。ぽっと出のペットを名乗る新キャラにこの立場は渡さない。主からの注目だって自分が一番に浴びていたい。
他の天使の話を聞きかじり、ザラキエルに新しいペットができたと知った時はそいつがどこのどいつだか知らないが色々な思いが浮かんだものだ。
ボクが先だ。先輩なのに。その新しいペットと呼ばれる輩は挨拶にも来やがらない。
そんな独占欲とも嫉妬ともつかない感情を抱いて、クロはここ数日もやもやしていたのだった。
「主はボクの主でしょ。最近は他の奴等にうつつをぬかし過ぎじゃない? 女神とか、サラフィエルとか……まあ、二人をどうでもいいとはいわないけどさ。さらに新しいペット? それはボクを蔑ろにしてるんじゃない!?」
「クロ……さびしかったの? へー……ふーん。かわいいなぁー」
「へ? わっぷ! こら! 抱きしめるんじゃない! はーなーせー!」
何故か嬉しそうなザラキエルに撫でくり撫でくり。頭と首下をわちゃわちゃされて、ふにゃんと声が出る。
「大丈夫。私の一番のペットはクロだよ。最近はずっと構ってあげられなかったし、ご飯も節制してたもんね。ごめんね、久しぶりに沢山あげるね」
「え、わーい!」
お腹が膨らめば怒りだって静まるもの。
クロは満足するまで血を貰うと、ここ数日のストレスなど無かったかのように、暢気な顔で寝ころんだ。
「クロは他のペットが気になるんだ?」
「そりゃね。これでもボクが一番なんだ。偉いんだ。なのに、みんな挨拶すら無しとか礼儀がなってないでしょ!」
「……たしかに。じゃあ他の奴等にクロ顔合わせする? 準備しようか?」
「当然! どっちの立場が上なのか、分からせてやるからね! 序列が大事なんだよ、こういうの!」
新人ペットなど相手ではない。
クロは半年以上ザラキエルの血液を飲んで育った猫悪魔。今ではかなりの力を持っている。新人には劣らない自負がある。
「じゃあ、うーん……直接は会うの大変だから、ちょっと幻術空間にクロと他のペットの精神を送るね」
「へ?」
「気を付けてね。もしかしたら殺されるかもしれないけど、死んでも大丈夫にしとくから」
「へあ!!? ちょっと待って。殺されるって、何!? どういう――」
クロの制止より早く、世界が変わる。
ザラキエルの持つボロ家から薄暗い荒野へ。そして空に浮かぶ、巨大な人面月。
『お、オ――お前を喰う』
なんか月がすごい目でこっちを見てくるんだけど??
『なんだ猫だ』
『猫だ猫だ』
『あいつが俺達の頭なのか? 美味そうだ』
しかも、次いで荒野を埋め尽くす大悪魔やモンスターの群れが現れた。空には伝聞で知る本当の堕天使が飛んでいた。
「……」
そいつ等全員から一心に注意を向けられるクロ。たぶん、一番弱い。
もうボクの序列は一番下でいいかなー。
お腹を見せてごろごろにゃんと、媚びを売る。
とりあえず主にはもう二度と他のペットの話を振らない。クロは一生分の後悔をしながら決意した。