転生TS天使ちゃんは怠けたい   作:テチス

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堕天の欲望

 

 

 女神様の部屋で、女神様が使ってる枕を抱きしめるなんてイケナイことをやっていたら丁度、本人が帰ってきた。

 

 その時の天使(おれ)の心境、なーんだ?

 どう言い逃れするべきか、最適解、なーんだ?

 

 答えは、沈黙。

 

「ふんっ!」

 

 ああっとぉ! 手が滑ったぁ!

 女神様の枕を投げ捨てたのは事故だなぁ! 間違いないなぁ!

 

 いや、枕投げだね! 女神様が部屋の備品を自由に使って良いって言ったんだもんね! だからこれは枕投げ!

 

「ザラキエル! 貴方、一体何をしていたのですか!?」

「……」

 

 答えは――沈黙。

 

「こっちを見なさい! ザラキエル!」

「……うぅ」

 

 ひえ! だめだった! 誤魔化せなかった!

 

 チラリと、女神様の顔を窺う。

 

 わぁ……なんて怖い顔。

 そ、そんなに怒らなくてもいいじゃない。

 ただ俺は、好きな人の枕を抱きしめていただけで……そこに他意なんか無くて……。

 

「ザラキエル……お願い。戻ってきて……私はまだ、何も出来てない……っ」

「ごめん、ね」

 

 あーうー……。

 はい。もう駄目ですね。罪悪感が凄まじいですね。

 

 俺が悪かったです。

 悲しそうな女神様を見てたら、イヤらしい気持ちなんか全部吹き飛んだ。今の俺は無我の境地。

 

 そりゃ嫌だよね。

 自分の枕を、同性とは言え他人に抱きしめられるとか。気持ち悪かったかな……。

 

 投げ捨てた枕を拾い上げて、いそいそと女神様に手渡す。そしたら感極まったように枕ごと抱きしめられた。

 

【挿絵表示】

 

 むぎゅ。

 

「っ良かった。戻ってきてくれたっ……ありがとう」

 

 なんか女神様が、すごい嬉しそうに言っている。

 

 なに? 枕が戻ってきたの、そんな嬉しいの? これ愛用枕?

 ごめんね、そりゃ投げ捨てたら怒るよね。

 

「な、何もしてない。まだ私は悪いこと何もしてないよ?」

 

 枕には手を出してないよ、まだ! 

 ほ、ホントだよっ!

 

「分かってますよ。ザラキエルはただ独りで待ってたら、我慢できなくなっちゃったんですよね。自分の欲に抑えが利かなくて、イケナイ事を考えちゃって、せめてと枕に手を出した。それだけですよね」

 

「っ……!? な、なんで分かるの?」

「ふふっ、分かりますよ。それくらい。だって私は貴方の家族なんだから」

 

 マジかよ。家族って俺の性癖まで把握してるのかよ。家族って怖いのな。まあホントか嘘か、家族いたことないから知らんけど。

 

 でも女神様のこの感じ、とりあえず嫌われずに済んだかな……?

 

 というか家族って、マ?

 女神様は俺のママ??

 

 あれ? じゃあ俺が女神様を傾慕するって事は、禁断の近親相姦になる……ッてことぉ?

 

「ふみゅっ」

「そこまでです」

 

 なんて、アブないことを考えてたら女神様に頬を抓られた。痛くはない。

 まるで余計なことは考えないで、こっちを見てと言わんばかりに。俺と女神様の目と目が合う。

 

「今の貴方に余計なストレスは与えたくなかったから、あえて教えてこなかったけど……気付いてますか? 自分の翼の色が変わり始めてる事」

「……?」

 

「今はゆっくり戻っているけど、ほら。翼の先が少し黒くなってる。貴方はこれがどういうことか知ってますか?」

「……??」

 

 女神様が優しく撫でつける俺の羽。

 手櫛で整えてくれるのが気持ちよくて全身の力が抜ける。ふにゃっと、気の抜ける様な声を漏らして、ベッドの上で女神様にもたれ掛かって力を抜いた。

 

「ザラキエル、私の話聞いてる?」

「んー……聞いてる、よ」

 

 なんだっけ。俺の羽の話?

 

 女神様の温もりに包まれて。手櫛で頭と羽を撫でられて。気持ちよくてこのまま寝ちゃいたい。

 

 でも女神様の話は聞かなくちゃ。

 気だるげに眼を開いて自分の羽を見る。

 

 ……うわ、なんか毛先が黒くなってるな。汚れ? いつの間に。ぺっぺっ。

 

「ふふ、そんなに拭っても取れませんよ。これは貴方と私の罪の証。天使が堕天する前兆なんですから」

「堕天?」

 

「ええ。天使が欲望に負けて、その本懐を忘れて、決して満たされることの無い欲に支配された存在に堕ちるという事です」

「あー……」

 

 ルシファー、だっけ?

 天使だったのに堕天して、魔王になった存在、的な?

 前世の神話かなにかでそんな話を聞いた気がする。

 

 …………え!? 俺、堕天するの!? 魔王様になっちゃうの!?

 

「なんで!?」

 

 眠気が一気に吹っ飛んだ。

 飛び起きて、羽の毛先を凝視。ごしごしと拭ったり、黒くなった羽毛を抜いてみる。慌てた女神様に止められた。

 

「だ、ダメですよ。毛を抜いても変わりません。貴方の綺麗な羽がハゲちゃうだけですよ! それにほら、今はゆっくり戻ってるでしょう? 今はまだ大丈夫。貴方は私が堕天なんてさせないから。絶対に」

「……う、ん」

 

 安心させるように、俺の頭をぽんぽんと優しく撫でてくれる女神様。

 不思議とそれだけで俺の心は落ち着いた。

 

「ザラキエルは自分が堕天しかけている理由が分かる? どんな欲で天使としての在り方を否定しているか、気が付ける?」

「んー……」

 

 えー、なんだろう。

 最近は働きながらも、休暇の事ばっかり考えてたからその所為かな。不真面目だなこの天使って、世界に怒られちゃったかな?

 

「働きが足りなかった……。私が、もっと頑張って女神様に、悪魔を献上しなきゃだった」

「違う違う。そうじゃないよ」

 

 女神様は、悲し気に首を振る。

 えー。じゃあなに?

 

「ごめんね、答えは教えてあげられないの。これは貴方自身で気付かなきゃいけない問題だから」

「むっ……」

 

「ヒントは、そうだなぁ。天使の羽と光輪が傷ついてしまったら、天使はその存在が揺らぎやすくなる。だから、その時にザラキエルが抱いた感情は?」

「羽と光輪が傷ついたのは……え、っと。悪魔と戦い終わる時だから……もう疲れたから、帰って寝たい?」

 

「違う違う。そうじゃないよ! その程度で堕天してたら、天使はもうみんな堕天してるよ!」

「むぅ……」

 

 難しいなこの問題。

 

「わ、わかった。最後のヒントね! この前、貴方は大怪我して帰還したでしょ? その時、貴方は何を欲しがった? 私が何でもしてあげるって言った時、ザラキエルは私に一体何を思ったの?」

「……んー」

 

 思い出すのは、俺が女神様の胸に抱かれて、女神様の胸って意外と大きいなって思ったこと。

 いつもゆったりしたローブのような服を着ているから分からなかったが。女神様は着やせするという新事実。……じゃなくて!

 

「あっ」

 

 分かった。

 

 俺が堕天する原因、煩悩かぁ!

 

 そう考えれば先ほど羽先が黒くなりかけてた理由もよく分かる。

 女神様の枕を抱きしめて、はぁはぁ言ってれば、そりゃ一発アウト。レッドカードで天界退場ですわぁ!

 

「分かった。確かに私の嗜好は、あまり良くなかったかもしれない」

「……っほ。よかった。ザラキエルも理解してくれたみたいね」

 

 俺の欲望に塗れた目を向けるのが、ただの天使相手なら問題無かったかもね。

 

 だけど俺が好きな人は崇高なる世界の頂。女神『サーヴィトリー・サラニュ・サティヤヴァット』様だ。俺の恋慕は天使という立場を弁えない不信心極まりない行為となる。

 

「私が女神様を狙うなんて、不敬……なのは、分かってるけど……」

 

 俺は貴方がいいのだ。

 貴方じゃなきゃダメなのだ。

 

 前世でも今生でも、貴方だけが俺のことを見てくれた。優しく包みこんで褒めてくれた。

 それが嬉しくて、どうしようもなくて、この"好き"という気持ちが抑えきれない。

 

「でもザラキエルは今も、こうやって頑張ってくれている。いつでも私の寝込みを襲える場所に居ても、決して手を出さなかった。自分の欲を抑えてくれた。そうでしょう?」

 

「……女神様の部屋への引っ越しは、罠だったかぁ」

 

 良かったぁ、寝ぼけてベッド間違えたふりして女神様に抱き着かなくて。

 もしも夜這いしてたらどうなったんですか? 堕天ですね。はい。

 

 ……あれ? え、なに? じゃあ女神様は俺を堕天させたかったの? どゆこと?

 

「違うよ。そうやって自分の欲望に打ち勝つことが、堕天を止める一番の薬になる。欲に呑まれれば、そこまでだけど……ごめんね、危険な賭けだったけど、貴方を助けるためにやらなきゃいけなかったんだ」

「……??」

 

 なるほど……?

 つまり俺が女神様に欲を抱く。それを我慢する。はいっ天使として合格ぅ! ……ってこと?

 

「あれ?」

 

 じゃあ、俺はずっと生殺し!?

 女神様に手を出せば堕天! 出さなければ悶々! なんだこれ新手の拷問か!?

 

 いや……というか、俺はいつから堕天しはじめてたんだ……?

 

 鏡を見るのが嫌いだからぜんぜん気付かなかったが、もしかして、翼が黒くなりつつあっても俺はそのまま外を出歩いてた可能性がある……?

 

 うわっ、あの子、欲望まみれだーとか。

 なんでも女神様を狙ってるらしいよーとか。

 

 影でそんな噂話をされてたかもしれない、ってことぉ!? 最悪だ!

 

「め、女神様も前から知ってたの? 私が堕天しかけてること」

「……はい」

 

 うっわ、最悪だ!!

 

 よりにもよって本人に俺の気持ちが知られてんじゃん!

 もう駄目だー! 死ぬしかないんだー!

 

「だ、大丈夫ですよ! 私を襲いたくなる気持ちは、ザラキエルも抑えられるでしょう?」

「え? たぶん、頑張れば、抑え……られるけど……」

 

「なら大丈夫。そういう気持ちを持ってしまっても、貴方の中でしまい込んで外に出さなければいいんです」

「……ん」

 

「私に対して、そういう気持ちを持ってしまう事は決して悪くありません。……いえ、ホントは駄目なんだけど……それでも、貴方が実行しなければ、まだ大丈夫」

「うん……んん?」

 

 あれ、それっていま俺、実質的に女神様から振られたって意味?

 

 告白する前にその気持ちを知られて、でも本人から「それ絶対表に出すんじゃねぇぞ、ワレェ!」って。

 え、俺もしかして女神様から釘さされた? ……え!?

 

「だけど、これじゃあ本質的な解決には至らない。ザラキエル。貴方にはもう一つ、重大な欲があるのが分かりますか?」

「えっ!? ま……まだ、あるの……??」

 

 俺ってば、どんだけ欲望まみれモンスターなんですか!?

 

 女神様を狙う天使失格の愛欲オバケとか、それだけで死罪に値するというのに。

 これ以上俺に一体なにが有るっていうんですかぁ!?

 

「ザラキエルは他の天使と違って、悪魔との戦いを頑張ってるね……たくさん怪我して笑っているね。そういうことですよ」

「ん……? あっ、まさか!?」

 

 みんなは「年中無休、働けますか」してるのに、俺だけサボろうとしてるのが悪かったのか!!?

 

 い……いいじゃないかっ! 合法だぞ、こちとら! 

 怪我すれば女神様から休んで良いよって言われてるんだぞ!!

 

「む、無理……むりむり! ムリだよっ! みんなと同じなんて、私、もう耐えられない……! 悪魔と戦う仕事以外なんて選べない!」

 

「ザラキエル! お願い! 少しの間でいいんです! せめて羽と光輪が完治するまで! それまで危ないことをしないでください! お願いだから!」

 

 真剣な目つきでお願いしてくる女神様。だけどこっちも必死。

 

 抑制していた感情の鍵を外して、涙を流して必死に抵抗。いまは戦闘能力よりも俺の休日がどうなるかの方が大切だ!

 男のプライドを捨てた泣き落としを喰らえ女神様!

 

「やだ、やだ……やだよ……私から楽しみを奪わないでよ、女神様」

「ザラキエル……」

 

「女神様がくれたんだよ。つまんない仕事しか知らなかった私に、貴方が素敵な時間をくれたんだ。その時だけは色んなしがらみから解放されて、私は自由になれる。なのに……それなのに、また奪うんだ……!」

「……ザラキエル」

 

 女神様の服を掴んで、必殺の上目使いで泣き落とす。

 ダメか? これでダメだったら、もうどうしようもない。

 

「……いや」

 

 よくよく考えれば、これも俺が悪いだけのこと。

 

 俺が仕事をサボろうとしてるから堕天する訳で、女神様に文句を言うのはお門違い。

 天使はみんな率先して働く労働ジャンキー共で、おかしいのは俺一人。それ、たぶん前世を覚えてる影響。

 

 考えれば考える程、自分が異端で間違っている事実に気付かされる。

 それに、あまり無理を言い過ぎれば、俺は女神様に()()()()()

 

 俺はゆっくりと女神様の服を離して、項垂れた。

 

「女神様ごめんね。取り乱した……悪いのは私。間違ってるのは、私……だから」

「……いいえ。いきなり全て失くすのは、時期尚早なんでしょう。貴方がこれ程まで感情を発露するとは……問題は根深そうです」

 

「それじゃあ、私はどうすればいい? 首輪でもつけて、ずっと他の天使とおんなじ仕事をすればいい? そうすれば堕天は治る?」

 

 にへっと笑って言ってみる。

 

 恋は破れて、仕事は増える。もう気分は何でもこいだ。

 少し卑屈になってしまったが、でも決して女神様を困らせたいがためじゃない。

 

 純粋に、普通の天使の仕事をやりたくないんです。

 あれずっとやってると俺が精神的に追い込まれるから。

 

 もうやだよ、生活困窮者から愚痴聞かされるの。

 寒いから布団代わりに俺の羽くれって毟られるのは勘弁です。次やったら天罰落してやるぞ、なあ。くそジジイ。

 

 犯罪者予備軍を四六時中監視するのは大変です。

 なんか男二人でホテルに入るじゃんと思ったら、濃厚なホモおせっせ始めやがって。

 

 見せられるこちらの身にもなってくれ。しかもおせっせ中に違法薬物使いやがるから目を離せないんだぞ。笑えねぇから俺は終始真顔でおせっせ見てたわ。

 

 裸男二人の前に姿を現して、説教するのは俺だって辛いんだ。

 

 まじで他の天使どうやって働いてるんだよ……。

 俺、友達いないから基本的な働き方が分からんよ……。先輩天使は俺に何も言ってはくれない。ただ仕事だけを押し付ける。

 

 でも、がんばる。

 例え女神様から暗に振られたとしても、堕天して女神様に会えなくなる方がイヤだから。

 彼女の()()()()()はまだ分からないけど、この優しさとぬくもりだけは、嘘じゃないと思うから。

 

「仕事、がんばるぅ……っ」

 

 ぐっと両手を握りしめて女神様に猛烈アピール。

 なあに、まだ直接的に振られた訳じゃない。俺の頑張りを見せれば、きっと女神様も振り向いてくれるさ!

 

 あ……そうだ悪魔をもっと狩ろう! 今度は俺の怪我とか関係なく、もう少しだけ頑張ろう!

 そうすれば天使としての面目跳躍! 悪魔が減って女神様も笑顔爛漫! 人生、前向きだ!

 

 俺はやる気を出して、ふんすと息を吐く。

 なのに女神様は困ったように笑って首を振る。

 

「いいえ。無理に押さえつければ、欲望とは反発するモノです。我慢させ続ければ、先ほどのように悪い影響が現れる。だから適度に発散させつつ、一緒にザラキエルがより夢中になれるものを探していきましょう? 戦闘によらない欲望のはけ口を作るんです!」

 

「……?」

 

「えっと、つまりですねザラキエル、明日は私と共に人間界に下りますよ! そこで私と一緒に遊ぶんです!」

「???」

 

 なんかよく分からんが、俺は更なる休暇を手に入れたらしい。

 それも女神様と一緒に旅行に出るらしい。……え?

 

 いや……え!? どういうこと!?

 

 





他の天使A「人間の性行為? 虫のそれ見てるのと変わらんだろ」
他の天使B「人生相談? ないから。あれは私が言いたいこと言って帰るだけ」

TS天使「天使のお仕事辛いお(;﹏;)」

価値観の相違!

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