トレセン学園の謎〜ウマ娘達が消費する食料は何処から来ているのか?〜   作:筆先文十郎

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中間管理職トネザワ~トネザワ、ウマ娘を必死に覚える~

 利根澤(とねざわ)幸雄(ゆきお)

 金融業を中心にカジノやホテルなど多角的な経営を行っている日本有数の巨大企業、皇恋(こうれん)グループに身を置く中間管理職である。

「……ふう、では、行くか」

 本社ビルを眺めた後、軽い深呼吸をした利根澤はビルへと入る。そこに

「おはようございます、利根澤先生」

「おはようございます! 利根澤先生!」

 サングラスに黒スーツ、通称黒服と呼ばれる皇恋の社員が右へ左へと移動する中、二人の黒服が利根澤を見つけると近づいて頭を下げる。

「ああ、おはよう。武田(たけだ)長生(ながお)

 直属の部下である武田(たけだ)堅信(けんしん)長生(ながお)晴信(はるのぶ)に挨拶を返す。

 その後利根澤は部下の小田(おだ)将宗(まさむね)毛利(もうり)吉弘(よしひろ)長曾我部(ちょうそかべ)家廉(いえやす)などに挨拶を返しながら自室に入る。

「ふう……」

 背広を壁のハンガーにかけてネクタイを緩ませながら椅子に座る。

「始め。あいつらの上司になった時はどうかと思ったが……覚えようと思えば何とか覚えられるものだな」

 利根澤は自身がリーダーを務めるチームの面々を思い浮かべる。

 部下達はどこかで聞いた名前でかつややこしい名前が多かった。それでいて全員プロ野球観戦が趣味でかつどれも応援する球団が違うという識別に苦労していた。

 サングラスに黒スーツという決められた服装も利根澤の識別に苦戦を強いた。しかし今では部下のフルネームやどこの球団を応援しているのかすらも完全に覚えるまでに至っていた。

「さて、今日の予定は──」

 机の脇に置いたカバンから予定表を取り出した、その時だった。

 

 プルル──

 

「はい、利根澤です!」

 利根澤はワンコールが終わる前に、ダイブするかのように机に置かれた電話を取る。

「利根澤、話がある。すぐに来い!」

 それだけ言うと電話の相手は電話を切った。

 ツーツーツー。その音を絶望した面持ちで利根澤は受話器を元に戻すことも忘れるほど慌てた様子でネクタイを締め、壁の背広に手を取るとすぐさま電話の相手、皇恋グループの会長を務める馬数奇(うますき)孝和(たかかず)の元へ走った。

 

 数分後。

「お待たせして申し訳ございません、会長」

 会長室に入室した利根澤は荒れる呼吸を無理やり整え、椅子に座る上司の馬数寄に頭を下げる。

「…………」

 そんな利根澤に馬数寄は憤怒に満ちた顔で凝視するだけで一言も喋らない。

「……あ、あの……会長──」

 何か気に障ることをしましたか? と聞く前に馬数寄は口を開く。

「お前は昨日の昼食、何をしていた?」

「え?」

 予想にしていなかった言葉に利根澤はただただ困惑する。

「利根澤。お前、昨日はどこで昼食を食べたのかと聞いているんじゃ!!」

 馬数寄は怒る感情のままに持っていた杖を利根澤の肩に振り下ろす。

(ウグッ!)

 唇をグッと締め、利根澤は痛みに耐える。

「……し、失礼いたしました。……き、昨日は『かつ盛』というカツ丼専門店で昼食を取りました……」

「……で?」

「……え? 『……で』とは?」

「貴様ッ!!」

 その言葉が馬数寄の怒りに火を注ぐ。

「そこでウマ娘ちゃんと会っただろうと……そう聞いとるんじゃ!!」

 怒声と共に杖の強烈な一撃が利根澤の肩に振り下ろされる。

「…………!! ……も、申し訳ございません会長!! 会長がお忙しいと思い、連絡を怠りました!!」

 

 ウマ娘が店にいたのに連絡をしなかった。

 

 そのことに怒っているのだと悟った利根澤はその場で土下座をする。

「何が『会長がお忙しいと思い』じゃ!!」

(ウッ!?)

 地面に頭をつける利根澤の頭を踏みつけながら馬数寄は続ける。

「店にはスペシャルウィークちゃん、オグリキャップちゃん、ライスシャワーちゃん、ヒシアケボノちゃんがいたというではないか! ガチャで例えるならば10連ガチャでSSRが四枚出たようなもの……そんな状況を伝えぬとは……本当に悪いと思っているのか!?」

「……は、はい……本当に申し訳ないと……思っております……」

 馬数寄に頭を踏みつけられながらも利根澤は弁明する。

「ほう、そうかそうか……」

 その言葉に馬数寄は踏んでいた足を離す。

(……ほ、許していただけたか……)

 そう安堵した、その時だった。

 

 ゴロゴロゴロッ

 

 重たいものを載せた車輪の音が部屋に響く。そして傍にいないにも関わらず感じる熱気。

「本当に申し訳ない。……そう思っているならばどこでも頭を下げられるはずじゃ……そう、そこが垂らした水が一瞬で蒸発するほどに熱しられた鉄板の上でも!」

 馬数寄の視線をたどり、熱せられた巨大鉄板に利根澤は凍り付く。

 そんな利根澤を前に馬数寄はふと思いつく。

「利根澤、お前はさっき『会長がお忙しいと思い』と言っておったが……実は店に来ていたウマ娘ちゃんがどれほどすごかったか知らなかったから連絡しなかった……ではないよな?」

「ッ!? ……ま、まさか……滅相もない!!」

「そうか、じゃあ明日ウマ娘ちゃんに関するテストをする。知っているなら、答えられるはずじゃ……のう利根澤?」

「も、もちろんです……あ、私、用事を思い出しましたので!!」

 そう言うと利根澤は自室に戻りウマ娘名鑑を読み漁り、後日。馬数寄のクイズに怪しい所はありつつも誤魔化すことで何とか窮地を乗り越えることが出来た。

 

 

「おはようございます、利根澤先生……って顔色悪いですが……大丈夫でしょうか?」

「医務室に行かれた方が……」

「……あ、あぁ……ありがとう…………」

(あれ? ……こいつら、誰だっけ……?)

 今まで苦労して覚えていた部下の情報を数日間忘れるという犠牲を上で。

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