トレセン学園の謎〜ウマ娘達が消費する食料は何処から来ているのか?〜 作:筆先文十郎
生徒会長室。
「会長、これはどういうことですか!?」
エアグルーヴは手にした新聞、ウマ娘のものまねをする劇団に混じってシンボリルドルフのそっくりさんとして出演した記事を机に置くと椅子に座るシンボリルドルフに問い詰めていた。
「あぁ……そのことか」
シンボリルドルフは申し訳なさそうな面持ちで口を開く。
「実はその公演が行われる一ヶ月前にテイオーのそっくりさん、トウ
最初は私も断ったのだが『それなら一度私たちの公演を見て下さい』と言われてね。断る理由もなかったし彼女の公演を見に行ったんだ。
……そこで見せた彼女たちの熱意と演技にレースやライブでは与えることの出来ない感動を感じてね。私も彼女たちのような感情を見る人に伝えたいと思って出演を承諾してしまったんだ」
そう言うとシンボリルドルフは椅子から立ち上がる。
「会長として模範になる行動をしなければならない以上、何も相談をせずに勝手に決めてしまったのは申し訳ないと思っている。出演を承諾する前にまず相談するべきだった。……どうか許してほしい」
頭を下げるシンボリルドルフに「ま、待ってください!」とエアグルーヴは慌てる。
「わかって頂けたのならいいです。頭を上げてください!」
そう言って頭を上げさせると、エアグルーヴは「そうだ、私……用事を思い出したので……失礼します」と急ぐかのように生徒会長室を後にした。
「私は何をしているんだ?」
廊下を歩きながらエアグルーヴは先ほどまでの自分の行動を振り返る。
本来ならば「頭を上げてください!」と許すどころか、「そのようなことをすれば会長の威厳が!」、「他の生徒への示しが!」と怒るところだった。しかしレースやライブだけでなく自分を応援し支えてくれる人々に感動を与えたいというのは理解できた。
その理解がエアグルーヴを苦しめていた。レースやライブの範囲に留まらず多くの人を幸せにしようとする会長に対して自分は何をしているのだろうか、と。
エアグルーヴ自身、自分が多くの人の応援と支えによって今の自分があると自覚し、それに応えたいと努力してきた。
副会長という役割を全うし、頂点を目指すウマ娘として、他のウマ娘の模範となるよう努力し、レースやライブに尽力してきた。
今までしたことが間違いだったとは思わない。それでも
会長と比べて自分は何もしていないのでは?
その後ろめたさがエアグルーヴを苦しめた。
「しかし私は会長のようにものまねで皆の前に立ち感動を与えるなんて出来るとは思えない……それ以外の方法で元気づける方法は…………ッ!? イカン! 何を考えているのだ、私は!!」
道徳上よろしくない方法で人々を元気づける案を、エアグルーヴは頭をブンブンと振って無理やり霧散させた。
その後もエアグルーヴは授業や生徒会の仕事を行うものの、
「どうした、エアグルーヴ? 何か悩みでもあるのか?」
渡されたタオルで汗を
「…………」
聞こえなかったもののエアトレは彼女の気持ちを察してそれ以上追及せず、脇に置いていた鞄に手を入れる。
「そうだ、エアグルーヴ。授業に生徒会の仕事……そしてトレーニングと色々疲れているだろう? これでも食べて元気を出してくれ」
エアトレは鞄から取り出した箱を開けてエアグルーヴに差し出す。そこには菱形やバラなど様々な形の、指で摘まめるほど小さなチョコが並べれていた。
「ほぉ、これは美味しそうだ」
差し出されたウェットティッシュで手を拭くと、エアグルーヴは香りを漂わせるチョコを一つ口へと運ぶ。
「うん、美味しいな。美しく可愛らしい見た目、上品な香り……そして舌に乗せた途端にスゥ~と溶ける舌触りに甘すぎず苦すぎないチョコの味……素晴らしい以外の言葉が見つからないな」
「ほ、良かった……一ヶ月前から準備した甲斐があったよ」
「え?」
エアトレの言葉にもう一つチョコを取ろうとしていたエアグルーヴの手が止まる。
「……一ヶ月前だと?」
エアグルーヴは思い返す。一ヶ月前。それはつい先日行われたレースに向けて二人が準備をし始めた時期だった。
エアグルーヴがレースに向けて最高のコンディションで臨めるように、エアトレは生徒会の仕事やトレーニングなど多岐に渡ってエアグルーヴを陰から支えた。
天気予報やレース場を欠かさず確認し、出場する他のウマ娘の状態と動向を観察、どのような状態と作戦でレースに臨むのかを徹底的に調べ上げた上でエアグルーヴの能力を最大限に生かしかつ他のウマ娘の実力を出させないレースにする作戦を組み立てた。
これ以上ない仕上がりでかつあらゆる事態を想定した作戦によって、エアグルーヴは他の強豪ウマ娘に競り勝ち、勝利を手にすることが出来た。
これ以上ないほどの指導と作戦で勝利させたほど時間と労力を費やして誰よりも疲れているはずにも関わらずそのような素振りを
「私は……何をしているんだ?」
と「どうしたんだ、エアグルーヴ!?」と心配するエアトレをよそに、エアグルーヴはその場に打ちひしがれた。