トレセン学園の謎〜ウマ娘達が消費する食料は何処から来ているのか?〜 作:筆先文十郎
「……ふ、困ったものだな」
激しく降る雨空を見ながら
「……ふぅ。……健康のために今日は歩いて帰ろうと思ったのだが……仕方がない、今日はタクシーで──」
利根澤がスマートフォンを取り出しタクシー会社に電話をしようとした時だった。
「利根澤先生! お困りでしたら……これを!」
利根澤が振り返るとそこには直属の部下である黒服、
「おぉ……すまんな、武田!」
受け取る利根澤だが、一瞬止まる。
「……待て。ワシに傘を渡したらお前はどうやって帰るつもりだ? ……まさかこの雨の中ずぶ濡れで帰るつもりか!? だったら──」
傘を返そうとする利根澤に
「あ、大丈夫です。……私、傘を二本持っているので」
そう言って武田は鞄から折り畳み傘を取り出す。
「そうか……ん?」
ホッとする利根澤に再び疑念が起こる。
「ちょっと待て。……何故お前は二本も傘を持っているんだ?」
「あぁ、実は……」
武田は照れくさそうに頬を搔きながら答える。
「昨日トレセン学園の前を通りましてね。そこで占いをしているマチカネフクキタルに占ってもらったんですよ。そうしたら『明日のラッキーアイテムは傘! 二本持っておくとさらに吉!』と言われまして。……本当に良かったです!」
ハハハッ、と笑う部下に利根澤は「……あぁ。そうか」と複雑そうな顔で傘を広げた。
翌日。
喫煙ルームでタバコを吸おうとした利根澤だったが。
「……ん? いかん……タバコが切れておったか……それにライターも」
舌打ちをしながら空箱とジッポライターをポケットに入れて部屋を出ようとした、その時だった。
「利根澤先生。……よろしければ」
直属の部下の一人、
「お! すまんな、長生」
煙草に火をつけ煙草に口をつけようとした時、利根澤の手が止まる。
「ん? 長生……お前は普段この銘柄のやつを吸っていないよな? ……変えたのか?」
「いえいえ……変えてませんよ」
ただ……、そう言って長生は言葉を続ける。
「実はちょっと前にトレセン学園の前を通りまして。そこで占いをしているマチカネフクキタルに占ってもらったんですよ。そしたら『いつもと違う煙草とライターを切らさず持っておくと仕事運の上昇の
嬉しそうに笑う部下に対し、煙草を吸う利根澤の苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべていた。
その後も利根澤が不機嫌になる出来事は続いた。
咳をすればマチカネフクキタルに「ラッキーアイテムです!」と言われて所持していたとのど飴を渡され、また書類で指を切った時は「マチカネフクキタル先生に
遂には
「今日はどこでランチにするべきか……フクキタル先生に占ってもらわないと……」
「このA案とB案……どっちがいいんだ!? ……よし! マチカネフクキタル先生に占ってもらおう!」
「明日のデート、好みの女じゃないし断るべきか否かフクキタル先生に相談してみよう」
と普段ならすぐに決めることや社外の人間に相談するべきではないことまでマチカネフクキタルの占いに頼ろうとする事態になっていた。
「バカか!」
そんな部下達に利根澤は
「さっきからなんだお前らは!? 口を開けば「マチカネフクキタル」だの「占い」だの……恥ずかしいと思わんのか!
「でも……」、「……しかし、利根澤先生……」、「フクキタル先生の占いは当たっているわけですし……」
それでも反論しようとする部下達に、利根澤は言い放つ。
「だったらワシが証明してやる! 本当に頼らなければならないのは占いではなく、自分で考え判断する自分の心だということをな!」
翌日。
トレセン学園の前にある小屋、『表はあっても占い』の前に利根澤は足を運んでいた。
「すみません、予約などしていないのですが……占ってもらうことは出来ますか?」
薄暗い室内に入ると、そこには飾り包丁を入れた
「あ、大丈夫ですよ。どうぞどうぞ!」
マチカネフクキタルはハンカチを綺麗に折り畳むとポケットに入れ、利根澤を正面に座らせる。
「はい! では今日はどんな事を占いましょうか?」
「そうですね……」
利根澤は顎に手を置く。
「では。私の今後について占ってもらえないでしょうか?」
「わかりました。それでは……!」
マチカネフクキタルは「ふんぎゃらふんぎゃら……」と呪文を唱えながら水晶玉に念を送る。しばらくして水晶玉が赤黒く光ると元の周りの薄暗い光を反射する水晶玉へと戻った。
「何かわかりましたか?」
「……いえ、何というか……」
暗い表情でマチカネフクキタルは口を開く。
「その……数年後に……大きな事が起こります…………」
「数年後に大きな事が? ……そうですか」
(クク……やはりな)
マチカネフクキタルに気づかれないように利根澤は笑う。
(こいつも所詮そこら辺の占い師と変わらん……。「数年後に何かが起こる」とか「人生の転機が訪れる」とか抽象的な言葉ばかりを使ってその具体性は何もない……仮に起こったとしてもそれはたまたま起きた出来事を無意識のうちに当てはめているにすぎん……)
「……と、とりあえず『お体ご自愛下さい』とだけ……」
「わかりました。本日はありがとうございました」
そう言って利根澤は軽く一礼してマチカネフクキタルの前から姿を消した。
一時間後。
「お帰りなさいませ、利根澤先生……」、「……どうでしたか?」、「……何を言われたんですか?」
心配そうに尋ねる部下達に利根澤は笑い飛ばす。
「ククク……下らん! 実に下らん! ……占いなど所詮気休め! 具体的に何が起こるかも言わずに最後は『お体ご自愛下さい』というアドバイス……あんなのに頼るようでは人間……ん? どうした、お前ら?」
上機嫌で椅子に座る利根澤に部下達は小さく悲鳴を上げる。部下達の視線の先、そこには
……トネザワ、私ハ
巨大な鎌を持った死神が笑いながら、背後から鎌の刃を利根澤の首元に置いていた。
部下達が死神を見た同時刻。
トレセン学園廊下。
「どうしたの、フクキタル? 顔色悪いわよ。何かあるなら話を聞くわよ?」
廊下の壁にぐったりとした様子で寄りかかるマチカネフクキタルに、サイレンススズカが声をかけていた。
「……い、いえ……大丈夫ですよ、スズカさん…………」
(……いえ、あの光景は……誰にも言うわけには…………)
青ざめた表情で答えるマチカネフクキタルの脳裏には
『ぐ……! ぐ……! ぐ……! が……! が……! が……!』
と