トレセン学園の謎〜ウマ娘達が消費する食料は何処から来ているのか?〜 作:筆先文十郎
日曜日 夕方。
「…………」
エアシャカールのトレーナー(以下シャカトレ)が運転する隣で、エアシャカールは時空が
(……これは、俺が誘わなかった方が良かったのでは?)
隣のエアシャカールに万が一の事態も起こさないように細心の注意を払いながら、シャカトレは今に至るまでの経緯を思い返した。
二日前。金曜日 夕方。
「なぁ、エアシャカール。次の土日、一緒にキャンプしないか?」
その日のトレーニングを終えたシャカトレはエアシャカールに提案した。
「あぁ!? 何で俺がお前と? 意味わかんねぇよっ! パスだ!!」
不機嫌さを隠す素振りもなく言い放つエアシャカールに一瞬怯みつつも、シャカトレは続ける。
「……いや、これは思いつきで言っているわけじゃないんだ」
「ほぉ~」
エアシャカールは小馬鹿にした笑みで尋ねる。
「じゃあ俺の貴重な休日を潰してまでそのキャンプとやらに価値があるのか。教えていただけないでしょうか……
ムッとする気持ちを抑えてシャカトレは答える。
「俺から見てエアシャカールはレースやデータに集中し過ぎている。集中しているというと聞こえはいいが、それが過ぎると逆に視野が狭くなっていると言える」
「……」
「ずっと荷物を持ったままだと腕は疲れてどんな軽い荷物でも持つのが難しくなるように、常にレースやデータの事ばかり考えていると脳というパソコンはオーバーヒートを起こす」
「……」
「だから一度レースやデータから一度離れてみる必要があると思うんだ。そうすることでより今まで気がつかなかったことに気づくなど客観的──」
「もういい!」
エアシャカールの怒鳴り声にシャカトレの言葉がさえぎられる。
「……あ、ごめん。出過ぎたことを──」
「そうじゃねぇよ」
気を悪くしたと思い頭を下げようとしたシャカトレを、エアシャカールの言葉が止める。
「……認めたくはねぇが、オメーの言う事も一理ある。確かに今の俺にはひとまずレースやデータから離れてみる、というのは必要かもしれねぇ。一つの木ばかり見て森全体が見えてねぇなんてバカバカしいからな」
「じゃあ!」
「勘違いするなよ、俺は今一度客観的に見る必要があると思ったからお前の案に乗っただけだ。来週とか再来週とかにもう一度「またキャンプに行かないか?」とか言って俺の貴重な時間を潰そうとしたら……ぶっ飛ばすからな!」
土曜日 夕方。
テントなどキャンプに必要なものをレンタル、食材の買い出し終えてシャカトレが運転する車でキャンプ場に来た二人は突然の増水が来ても逃げられる場所に手際よくテントを二つ建てると、燃料となる枯れ枝を集め、手頃な石と持ってきた網で即席のかまどを作る。そして二つの鍋に買ってきたにんじんやジャガイモなどの野菜を炒め、水・カレールーなどを加えていく。
「そういえば……」
シャカトレはふと思ったことを口にする。
「キャンプって大抵カレーというのが定番だけどさ……何でカレーなんだ?」
「あぁ……とりあえずカレーは嫌いなやつは少ないからな。あと大人数で作る際に火を
「あるんだが?」
首を傾げ覗き込むシャカトレに
「……! いいからお前は米を研いでろ!!」
顔を真っ赤にして怒鳴るエアシャカールに、シャカトレは意味もわからず言われるがまま米を持って川へと走っていった。
「……ったく。あの野郎は……」
遠くでシャカトレが米を研ぎ始めたのを確認したエアシャカールは必要な調味料を足して鍋を一通りかき混ぜるとスプーンで味見をする。
(う~ん……二つの内、今作っているバターチキンカレー。悪くはない……悪くはないが、まだ遠い。
エアシャカールの脳内に世界遺産に登録された総大理石の
(う~む。足してみるか……ガラムマサラを少し……)
スパイスを一つまみ鍋に入れてかき混ぜ、味見をする。
(近づいてきた……! さっきよりも本場の味が!)
エアシャカールの脳内で遠くにいたインド人がもう少しという所まで近づいてくる。
(よし。ここで生姜とはちみつ、シナモンをたっぷり入れたアイスチャイを飲めば!)
生姜特有の辛味とはちみつの甘みが加わった程よい冷たさのアイスティーを口に含んだ瞬間、
(決まった!)
脳内のインド人とエアシャカールが熱い抱擁を交わす。
その後シャカトレが研いだ米を炊き、その上に先ほどのバターチキンカレーをかけると二人はあっさり平らげる。そして二人はもう一つのカレーを味見だけすると雑菌が繁殖しないように持ってきたクーラーボックスに鍋を入れて後片付け、歯磨きなどを終わらせる。その後二人は各々のテントに入り夜を明かした。
日曜日 朝。
小鳥のさえずりと共に目を覚ました二人は、川で顔を洗いホットコーヒーで一服。自然の静けさを満喫しながら、バターチキンカレーとは別に作っていたカレーに着手する。
「こいつの出番だな!」
ニヤッとエアシャカールは魔法瓶を取り出すと、二つの皿に用意したサイコロ状牛肉入りカレーに魔法瓶内で出来上がった温泉卵を乗せる。
口に運ぶまでもない。
二人は確信めいた笑みを浮かべ目の前のカレーを口に運ぶ。
「「…………」」
二人は一言も発しない。しかし罠にかかった獲物を見る猟師のような笑みがその美味しさを物語っていた。
「さて、最後に……と」
エアシャカールははちみつやにんにくといった様々な調味料、トマト缶やウスターソースなどを取り出す。
「それは?」
「あぁ。こないだファインと一緒にトレセン学園の正門前に来たラーメン屋の屋台のカレーラーメン食ってさ。めちゃくちゃ美味かったからそこのおっさんに作り方聞いたんだよ。それをカレーライスで再現しようと思ってな」
そう言うとエアシャカールは屋台の主から教えてもらった通りに材料を入れて調理をしていく。
「あとは……」
そう言ってエアシャカールは後ろに置いたクーラーボックスからヨーグルトを取り出す。
『このカレーラーメン美味しいね、シャカール!』
『……あ、あぁ……そう、だな……』
ふと一緒に食べたファインモーションの笑顔に照れる自分を思い出す。その記憶がエアシャカールの気を一瞬だけ……緩ませた。
ツルッ……
傾けた容器からヨーグルトが全て鍋へと落ちる。
「ッッッッッッ!!??」
声にもならない声をあげてヨーグルトをすくい上げるエアシャカール。しかし半分以上がルーに溶け切った後だった。
ピキッ、とファインモーションとカレーラーメンを食べた記憶にヒビが入り、パリーンッ! と砕け散った。
「ノーカン! ……今のヨーグルト、ノーカン!!」
見たこともないエアシャカールの慌てぶりに呆然とするシャカトレの存在を忘れ、エアシャカールは天を仰いだ。
キャンプでカレーと聞いてエアシャカールが慌てたのは
戦後の日本では復興の原動力とするために「男女を一緒に教育して仲を深め、健全な夫婦にする」という国策を取り、その野外体験学習のメニューがカレーでそれが定番化したのが理由。
というのを知っていたから。
(大学で究める学問発見サイト 夢ナビから)