トレセン学園の謎〜ウマ娘達が消費する食料は何処から来ているのか?〜   作:筆先文十郎

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一日外出録ハンチョウ、オツキ!

 皇恋(こうれん)グループ。金融業を中心に、カジノやホテルなど多角的な経営を行っている日本有数の巨大企業がある。

 その皇恋の抱える債務者たちが借金帳消しのために収容される強制労働施設。一度そこに入ると決められた年数が経過するまで外に出ることは不可能、ある特例を除いて。

 

 班長室

「ククク……()まっとる溜まっとる!」

 作業を行う各班でE班の班長を務める大きな団子鼻に糸目、タラコ唇、そしてふくよかな体型が特徴的な中年男性、小槻(おつき)馬太郎(うまたろう)は広げたマニカをニヤニヤと見る。

 班長には特権として「労働者のガス抜きや労働意欲の為の娯楽を決める権利」を持っており、小槻は皇恋と結託して極秘裏に手に入れたウマ娘のグッズや握手券を使ってぼったくり価格で労働者に売りつけマニカを巻き上げていた。

「さて、行くか!」

 持ち運びサイズの金庫に必要な分以外のマニカを収めると、小槻は部屋を後にした。

 

 強制労働施設 労働者寮

「はぁ~、いいよな……」

 強制労働施設の農場で、壁に書かれた強制労働施設内でのみ使用可能な貨幣、マニカの引き換え一覧(勤労奨励オプション)を見てため息を落とす。

「サービスランチが50000マニカ、フルコースディナー(和洋中の三種類から選択)が100000マニカ、一日個室券(冷房、ビデオ、浴室付き)が150000マニカ……一ヶ月90000マニカの薄給じゃおいそれと手は出せないよなぁ」

「無理ですよ、俺らには……ましてや」

「あぁ……」

 二人は一覧表の一番上を見る。

 

 一日外出券……500000マニカ

 

 欠勤や重大な過失なく働いて満額もらえる90000マニカ。娯楽や治療費などの出費を出さず半年間働いてようやく届く大金に、二人は「自分らには到底無理だ」とため息をつく。

 その時だった。

 ピーッ! 

『なんだ?』

 二人は振り返る。そこにはスピーカーに向かって話しかけている小槻がいた。

「一日外出券を…………1枚……!」

「えっ……!?」

 自分たちが喉から手が伸びるほど欲しくてたまらない、一日外出券を申請する男の言葉に二人は動揺する。二人だけではない。周囲もざわ……ざわ……とざわめく。

「え、うそ……また……!?」、「何度目だよ、これで……!」、「すげぇっ……!」

 周囲からの切望、嫉妬にニヤニヤとしながら男、小槻は一日外出券を手配する旨を伝えたスピーカーに向かって頭を下げる。

 スピーカーが切れたのを確認すると小槻は「これから忙しくなるぞ!」とどこかへ歩いて行った。

 その様子を労働者たちは無言で見ることしか出来なかった。

 

 某公園 

 もう日が暮れる夕方に私服に着替えされていた小槻はベンチから立ち上がり伸びをする。

 ピピピピピッ!! 

「フフ……始まったか……24時間のカウントダウン……」

 腕につけられた残り時間を知らせるタイマー兼逃走防止用のGPSを見ながらクククッと笑うと小槻はどこかへ電話。その後服の毛玉取りを始めた。

 そんな小槻を黒スーツに黒いサングラスをかけた男が二人、外出者の逃亡防止と監視を兼ねた黒服と呼ばれる皇恋の社員が離れて見ていた。

「落ち着いてますね、あいつ……」

「ん? ……落ち着いてるって?」

 後輩の言葉に先輩黒服が聞き返す。

「いえ……普通あのアラームが鳴ったら……あんな風にのんびりしていられないというか……たいていはわずかな時間も無駄に出来ないと慌てて飲食店や綺麗なお姉さんのいる店に行って豪遊、そして時間が迫れば子供のように暴れる……今まで見てきた債務者(クズ)はそんなのばかりだったので……」

「慣れているんだよ」

 先輩黒服は小槻に視線を外さず煙草に火をつけて(くわ)える。

「あいつはウマ娘のライブやらグッズで他の債務者(やつら)から巻き上げているからな」

 その後暗くなり始めたことを確認した小槻は近くのチェーン店で簡単な夕食を済ませ、近くの格安ビジネスホテルに就寝した。

 

 翌日。

 ビジネスホテルから出た小槻を、二人の黒服は何か問題を起こせばすぐに取り押さえられる距離で尾行していた。

 店に入ったのは小さなラーメン屋。

「ここで飯をすませるんでしょうか?」

「……わからん」

 電柱で様子を見ること数分後。

「なんで……?」

「あ……!?」

 店から出た小槻に二人は動揺する。店から出た小槻が店の服を着て屋台を引っ張ってきたからだ。

「いやいやなんのために!? 意味不明!? 何がしたいんですか!? あいつ……」

「……可能性の話だが。稼ぐ、か?」

「え?」

「皇恋の強制労働施設は借金を返し終えれば施設から解放される。……わざわざラーメン屋から屋台を引っ張るんだ。どんなラーメンを売るか楽しみだ……!」

 二人は屋台を引く小槻を追って、止まる。そこはトレセン学園だった。

「なるほど。中央のトレセン学園のウマ娘はそれなりに裕福な家が多い。それなら多少高くても──」

 小槻が立てかけた、値段が書かれた看板を見た先輩黒服は言葉を失う。書かれた値段、それらは普通の学生でも気兼ねなく払えるほど、原価ギリギリと思われる価格設定だったからだ。

「……マジで、マジで意味わからないですけど……」

 後輩のつぶやきに先輩黒服は小さくうなずく。

 そうしていく内に下校するウマ娘や一般客が屋台に並び、屋台の前に用意された複数のテーブル席に座ってラーメンをすする。

「う~ん、美味いぜ。ここのラーメン!」、「金も安いし!」、「不定期営業なのが玉にキズだけどな!」

 お客が舌鼓を打ちながらラーメンを評価する。その時だった。

「あぁ! おじさん、久しぶりだね!」

 可憐な声に先ほどまで談笑、ラーメンを食べていた音が止まる。スーツを着た大人のウマ娘たちを連れたウマ娘、ファインモーションの声に。

「いやぁ~、ファインちゃん。……また来てくれたんだね……!」

 ファインモーションに気を使ってか、屋台で食べていた客たちが急いで会計を済ませて席を立つ。そんな客たちに軽く会釈をしたファインモーションが小槻と向かい合うように席に座る。

「おじさん。今日はどんなラーメンがオススメ?」

「いやぁ~……それは言わないでよ、ファインちゃん。そんなこと言ってファインちゃんの期待値下回ったら……おじさん、一ヶ月……いや、残りの人生に尾を引いちゃうよ……!」

「ま、おじさんたらっ! 本当は私に食べてもらいたいラーメンがあるって顔に書いてあるよ!」

「いやぁ~……ファインちゃんには(かな)わないなぁ……実は──」

 こうして小槻はファインモーションとの会話を楽しみながら食べてもらいたいラーメンの調理に取り掛かる。

「……ふぁ、ファインモーションとあんなに親しく話しているなんて……ハッ!」

 先輩黒服は気づく。(うらや)ましく、そして怒りに満ちた目で小槻を見るファンの姿に。

(さかな)にしているんだっ……! ファインモーションを独占し……話したくても話せない……ファンへの優越感を……!」

(つまりあの原価ギリギリの価格設定も……ファインモーションのファンに見せつけるための……()()……!)

 多くのファンを魅了するファインモーションの意識が一人の中年男に注がれる光景に、多くの者が歯ぎしりや身体を震わすことしか出来なかった。たまらず間に入ろうとするファンもいたが、SPによってそれは敵わない。

「わぁ、この新作ラーメン美味しいよ!」

「いやぁ~、ファインちゃんにそう言ってもらえて……おじさん、鼻が高いよ!」

 美味しそうにラーメンを食べるファインモーションに、照れくさそうに頭をかく小槻。その光景をただ黙ってみるしか出来ないファン。

 その光景に先輩黒服は見た。

 

「……もはや……奴はラーメン屋の屋台の店主じゃない……! ファインモーションに接待される……王だ……!」

 

 悔しそうにラーメンを食べるファンたちの前で、(きら)びやかな衣装に身を包んだファインモーションにお酌をされる、王様のように着飾り玉座に座る小槻の姿を。

 

 ~後日談~

 強制労働施設

「小槻」

「は、はい……何でしょう?」

 黒服に声をかけられた小槻は畑を耕していた手を止める。

「う~ん、あのなぁ……」

 言っていいのか悪いのか、悩むこと数秒。黒服は口を開いた。

「ファインモーションのSPの方から『次に営業されるのはいつか?』と聞かれたのだが……いつになる?」

「……」

 




いい加減福本先生に怒られても不思議じゃないレベルにまでパロっているな、筆先文十郎(;^_^A

1月10日 後日談追加
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